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解散衆院総選挙での自民党圧勝を受け26日に発足する安倍晋三新政権を前に、早くも市場は、株高・円安へと反応している。
◆朧なアベノミクス◆
安倍氏は18日、経団連幹部との意見交換で「『金融政策、財政政策、成長戦略が三本の矢だ』と訴えてきた。三本の矢で経済を成長させたい」と述べ、経済再生に意欲を示した。
安倍氏の経済財政政策は、マスコミ命名で、いわゆる「アベノミクス」と言われているが、今回の衆院選の政権公約( http://special.jimin.jp/political_promise/ )を見ても、党内意見を取りあえず寄せ集めただけで、重複する事項も多く体系性が薄い。
具体的な詰めは、復活する「経済財政諮問会議」と内閣に新設する「日本経済再生本部」が司令塔として行うとの事だが、概ね次の事項の実行により、GDP名目3%(実質1%)以上の成長を図るシナリオだ。
●金融政策
2%インフレターゲット導入・日銀法改正で、民間消費・投資を誘導、円安で輸出増
●財政政策
「国土強靭化計画」による公共事業で、官需による景気下支え
●成長戦略
規制緩和、経済連携協定、成長分野への投資等で、日本経済を成長体質へ改造
◆消費税増税凍結◆
8月に自公民によって可決された消費税増税法案により、2014年4月に8%、2015年10月に10%への消費税増税が予定されている。
2014年4月に予定される8%への消費税率の引き上げは、実施半年前に公表される13年4〜6月期の景気状況を基に政権が決めるとされている。
自民党の甘利政調会長によれば、安倍氏は13年4〜6月期の実質国内総生産(GDP)の成長率の数字が良くても、その後が悪くなれば(引き上げの)緊急停止をするかもしれない、という話を財務省にしているそうだ。
そもそも3ヶ月間の景気状況で増税を判断するのに無理があるが、たとえ最大1年間に延ばそうが瞬間風速である事は五十歩百歩である。
そんなヒョロヒョロした景気状況で危ない橋を渡るのは、増税したくて堪らない財務省の自己満足以上の意味はない。
諸説あるが、「消費税を10%へ引き上げれば、GDPは1.9%低下する」という民間シンクタンクの推計がある。(三菱総研の推計 日経BP 2006年9月15日号)
安倍氏は、石破氏と争った9月の自民党総裁選で「デフレ脱却しない限り消費税増税はしない」と名言していた通りに、先ずは経済再生に集中し、最低でもGDP名目4%、実質2%以上の成長を2年連続達成し日本経済を成長体質に変えてから、初めて足りない分を段階的に増税するよう変更し、直ちに消費税増税凍結を宣言すべきだ。
◆公共事業の差別化◆
公共事業の経済に対する有効性を示す指標に「B/C(費用便益)分析」と「乗数効果」がある。
「B/C(費用便益)分析」の方は、日本では例えば道路建設で言えば「走行時間の短縮」、「走行費用の減少」、「交通事故の減少」を便益としてカウントしている。
この内、「交通事故の減少」は回避される人命や物の被害額であるが、GDPに反映される項目ではない。
一方、「乗数効果」の方は、支出額から用地費を除いて建設会社等に支払われる分が従業員の給与を通してどれくらい繰り返して社会に回るかをカウントしたものであり、上記の便益によって増加するGDPをカウントしていない。
例えば、政府が建設国債を発行し公共事業に10兆円支出した場合、仮にB/C(費用便益)費1.0、この内、交通事故の減少分0.5、乗数効果1.0とし、法人税、消費税、地方税により、GDP増加分が国庫および地方財政にリターンする割合を50%とすると、
GDP増加額 =10兆円×(1.0−0.5+1.0)=15兆円
国庫等へリターン=15兆円×50% = 7.5兆円
建設国債最終残高=10兆円−7.5兆円 = 2.5兆円
となり、GDPは増えても借金が積み上がる事になる。
このため、堤防等の防災・減災系及び補修の公共事業は、必要経費と割り切ってデフレ脱却のために迅速に集中的に行う一方、リニア新幹線、新幹線、高速道路、港湾等の交通系・産業基盤系の公共事業は、便益が高く確実で、国庫等へのリターンが多いものを、より精査して「成長戦略」の中に位置付けて行うべきである。
この両者の差別化と透明化が、公共事業の善玉・悪玉論の不毛な論争を減らすだろう。
◆その他◆
この他、アベノミクスのリスク要因として以下のものが想定される。
●物価上昇後、賃金上昇遅延のタイムラグで、消費者の生活圧迫
●円安によるエネルギー・食糧等の輸入価格増
●金利上昇による、既存の変動金利住宅ローンの負担額増
●国債下落、金融機関危機
●原発停止によるエネルギー安保、コスト問題
これらについては、前述の公共事業の差別化によって財政政策を迅速に行い、速やかに成長戦略へ繋いで行くのが、第一の処方箋である。
また、給付付き税額控除、同一労働同一賃金、雇用減税の導入等の雇用政策で、民間消費活性化を平行して行うべきだろう。
なお、原発再稼動については、安倍氏は原子力規制委の安全判断が出た原発については順次再稼動の判断をして行くとしているが、稼動に際しては対象全原発を国有化した上で、合理的な機能的、組織・法的、人的安全対策を主体的に取って行くべきだろう。
●投資すべき成長分野をどのように見極めるか
●民間投資が出てくるのか
●規制緩和によるデフレ効果
●TPP等の経済連携協定による弊害
投資すべき成長分野の見極めには、国家プロジェクトとして国家の育成意志と民間の目利き能力が止揚される必要がある。
官民ファンドを作り、プロジェクト毎の出資額に応じた責任明確化の下に運営されるべきだろう。
民間投資の誘導については、単なる法人課税減税では企業の内部留保を引き出すには余り効果はなく、あくまでも投資減税とすべきだ。
更に言えば、国内投資には減税を割り増しするのが望ましい。
規制緩和によるデフレ効果については、かつてのタクシーのような供給飽和分野については総量規制緩和を行わず、新需要や新規ビジネスが見込める分野で行うべきである。
TPP等の経済連携協定による弊害については、政府は基礎的食糧生産や健康保険制度、雇用等の守るべきものと開放すべきものについての哲学を明確にして臨むべきである。
●財務省、日銀の抵抗工作
●公務員改革
これらについては、幹部公務員人事の官邸一元化等で生殺与奪の権利をいち早く握るべきである。
またこれにより、任命制で幹部公務員の終身雇用を外して差別化し、一般公務員は民間水準に合わせ人件費水準2〜3割りカット(必要なら増員も検討)により財政赤字を圧縮するべきだ。
以上、「アベノミクス」で今後問題となりそうな点について考察してみた。
財務省を筆頭にした官僚組織、日銀、経団連、労組、党内、マスコミ、諸外国、及びこれらの取り巻きの学者等、敵は各方面に居るが、安倍新政権には想定と対策を万全にして何とかこの国難を乗り切って頂きたい。
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