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2012年12月19日 東洋経済オンライン
傾向的な円安が始まったときに恐ろしいのは、キャピタルフライト(日本からの資金流出)が生じ、円安を増幅させることだ。同時に国債価格が暴落し、金利が高騰する。これが、過度の金融緩和がもたらす第1段階だ。この過程がさらに進めば、輸入価格の高騰により、国内でインフレが起こり、それがさらに円安を進める。これが第2段階だ。
第1段階は、イタリアやスペインなどの南欧諸国でいま起こっている現象だ。ユーロの動向やアメリカの金融政策のいかんで、現在日本に流入している資金が逆流すると、日本でも第1段階が生じうる。
なお、イタリアの場合は、ユーロという共通通貨に入っているので、資金流出の影響は緩和されている。それでも、ユーロはかなり減価した。日本は単独通貨なので、影響はもっと大きくなる。イタリアは、国債利回りの高騰だけで済んでいる(それも大きな問題だが)が、日本の場合には円安が輸入インフレをもたらして、第2段階に進む可能性がある。
金融緩和の手段として日銀引受けを行えば、ほぼ確実に第2段階まで進む。インフレ的な政策が将来取られるという予想だけで、キャピタルフライトが生じる可能性もある。
前回述べた1940年代の傾斜生産方式のときには、海外との資金移動は制限されていたので、以上で述べたメカニズムは働かなかった。それでも消費者物価指数が3年間で6倍になったのだ。いま類似の政策を行えば、キャピタルフライトによって、40年代のそれより激しいインフレが生じるだろう。
■短期資金を原資にする投資は不安定
以上で述べたことが起きるのは、国際間の資本移動が自由化され、実需原則が外されたからだ。しかし、それだけではなく、投資資金が短期化しているという事情がある。
これは、投資者が自己資金の何倍もの短期の借り入れを行い、投資総額を増やして投資しているからだ(こうした投資を、「レバレッジのかかった投資」という)。
金融緩和を行えば、短期金融市場での資金調達が容易になる。しかも、低コストで調達できるようになるため、投資の収益率が高くなる。こうして、金融緩和は、金融資産への投機的な取引を促す。そのためバブルが生じる。それが破たんして、実体経済を混乱させる。
金融危機前のアメリカでは、こうしたことが、典型的な形で生じた。投資対象は、住宅ローンを証券化した商品(MBS、CDOなど)である(これらの説明は、後の回で行う)。投資主体は、ヘッジファンドなどだ。また、銀行などの金融機関が投資専門の子会社を設立して、上記のような投資を行った。これらは、「シャドーバンク」(影の銀行)と呼ばれた(なお、実物投資が増えないわけではない。証券化商品への投資が行われれば、住宅ローンが増えて住宅建設が促進される)。
こうした投資は、不安定なものだ。なぜなら、経済条件が変化して投資対象の市場価値が下落すると、借り入れの際の担保条件を満たせなくなり、損を被るとわかっていても、投げ売りせざるを得なくなるからだ。これが一斉に起こるために証券化商品などの投資対象資産の価格が暴落し、それが連鎖的、副次的影響を生む。証券化商品の場合、格付け会社が格付けを急激に引き下げたために、このメカニズムで価格が暴落した。ユーロ圏での国債の暴落も、同じメカニズムで生じていると考えられる。
国債の市場は、もともとは安定的な市場だった。とくに日本の場合は、銀行や保険会社が預金や保険料を原資として長期的な運用を行う。仮に国債の市場価格が下落しても、国債を償還期限まで保有し続ければ額面通りの償還を受けることができるので、売却する必要はないため、不安定な相場崩壊は起こらない。
日本の国債市場はこうした投資家に支えられていたので、これまで欧米のヘッジファンドなどが何回か売り投機を仕掛けたが、ことごとく失敗に終わっていた。
多くの人が、日本の国債市場はいまだにこのようなものであると考えている。しかし、現実は急速に変化しているのである。
■資金が流出すると金利が暴騰する
日本の国債市場の変化は、下図に明瞭に表れている。短期国債の購入に占める外国人の比率は、2007年ごろまでは5〜10%程度であったが、08年ごろから上昇を始め、11年には30%程度になっている。長期利付債での外国人比率が8%程度に留まっているのと対照的だ。これは、海外から流入する資金が短期国債に投資されているからだ(国債全体の購入に占める外国人の比率は、15%程度。また、短期債の売却での外国人の比率は5%程度)。
いま日本には資金の流入が続いている。国際収支統計によると、11年において、イギリスから実に40兆円という巨額の対内短期証券投資の流入があった。これは、ユーロ危機の影響と考えられる。株式市場では、すでに売買の約6割が外国人によるものとなっている。
日本が長期的に有望な投資対象とみられているわけではなく、資金の一時的な逃避先(セイフヘイブン)として利用されている。利益を得ようとして投資をしているのではないので、他に有利な投資先が現れれば、容易に流出する。1年間で40兆円の短期資金が流入したということは、短期間で同額だけ流出する可能性もあるということだ。
金融取引は瞬時にできるし、レバレッジをかけられる。そして思惑で動く。だから、流出が始まると、円安がさらに進む。それがさらに資金流出を加速させる。財政状況はイタリアより悪いので、国債市場への影響は大きいだろう。
だから、経済にとって致命的なことが生じる可能性がある。実は、ユーロ危機におけるイタリアの場合がそうだった。それまで比較的安定的に推移していたイタリア国債の利回りが突如暴騰したが、この間にイタリアの実体経済に大きな変化が生じたわけではなかった。何が引き金だったか、いまだにはっきりしない。ただ、97年まで2割程度だった外国人保有比率がその後高まり、11年には4割程度まで上昇して不安定性を増大させたことは事実だ。
日本のメガバンクは、すでにこのリスクに対応して、保有国債の期間を短期化している。一方、地方銀行保有の国債は期間が長いものが多く、金利上昇に対して脆弱だ。外国人投資家が一斉に売りに走った場合、日銀がいくら買い上げても追いつかない可能性がある。これまでは、日本国債に対する売り投機はすべて失敗したが、今後は分からない。
また第2段階に入った円安は、インフレの反射である側面が強いので、円の実質価値が下落するわけではなく、輸出は増えない。
日銀引受けが行われると、政府への信頼が崩壊して金利が高騰すると言われることもある。しかし、金利高騰も、インフレの反映である名目金利の上昇にすぎず、外国から資金を流入させることにはならない。
いまの日本経済は、薄氷の上を歩いているようなものだ。きわめて慎重な運営が求められている。
(週刊東洋経済2012年12月22日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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