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http://www.tanakanews.com/121203japan.htm
円をドルと無理心中させる
2012年12月3日 田中 宇
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12月3日、三菱東京UFJ銀行の平野頭取が日本国債の破綻を懸念していると、FT紙が報じた。40兆円の日本国債を保有する三菱は、国債が破綻に向かうと大惨事になるので保有を減らしたいが、市場への影響を考えると大量売却できず、長期債を短期債に変えてリスクを減らすぐらいしか対応策がないという。三菱以外の日本の銀行や生保も多額の日本国債を保有している。国債が破綻に向かうと、日本人の預金や保険は戻ってこない金になる。(Japan bank chief warns on bond exposure)
日本国債の9割は、日本国内の金融機関が保有している。金融機関は政府の厳しい監督下にあり、国債を自由に売却できない。米国債の場合、半分を外国人が保有しているので、国債に対する信用が落ちると、外国勢が国債を売り放って相場が下がり(金利が上がり)破綻に近づく。だが日本国債は、ある程度までなら信用が落ちても売り放ちが起こらず、相場も下落しない。FTに対し、三菱の頭取は国債が破綻しそうだと発言したが、三菱の広報担当者は「国債の9割を国内機関が持っているので、破綻すると思えない」とコメントしている。
平野頭取の発言の真意は、経済面でなく政治面だろう。最近、次期首相と目される自民党の安倍晋三総裁が、国債の大量発行を継続して日銀に買い支えさせる量的緩和策(円増刷)の拡大をやると、繰り返し宣言している。安倍はこれを「デフレ対策」と称しているが、日本でデフレと言われている現象は実のところ、国内製品を中国などからの輸入品で代替したことによる値下がり(価格破壊)であり、金融緩和によって流れが転換するものでない。(世界の運命を握る「影の銀行システム」)
安倍が国債と円の増刷を過激にやろうとしている理由は、米国で米国債とドルの過剰発行(QE3)が行われ、米国債とドルが崩壊しそうなので、それを防ぐため日本の国債と円を過剰発行し、資金がドルから円に流れるのを防ぎ、米国を助けたいからだ。日本の国債と通貨を米国並みに弱くして、米国を助け、日本の対米従属を維持しようとしている。政府が日銀に圧力をかけて円を過剰発行に誘導しようとする策は、民主党政権でも、対米従属派の旗頭だった前原誠司がさかんにやってきた。最近では、欧米のヘッジファンドが、米国より先に日本の国債が破綻すると予測し、先物売りを増やしている。(Hedge funds say shorting Japan will work)
ドルと米国債の過剰発行に合わせて、円と日本国債を過剰発行する日本政府の策は、日本の対米従属を維持する「利点」があるが、その半面、日本を財政破綻や超インフレに導き、日本の金融機関を破綻させ、日本人の生活や預金を破壊する。円をドルと無理心中させようとする安倍や前原は、本来なら、自国より米国の国益を優先する「売国奴」と呼ばれるべきだが、現代日本語の「売国奴」は、韓国や中国に親しみを持つ人のことだけを指し、米国のために日本を犠牲にする人を含まない。
日本ではマスコミや学界でも、日銀に「デフレ対策」を強めさせるべきだという意見が強い。日本の権力機構である官僚組織が、政界(国会)に権力を渡したくないので「お上」として米国を必要とし、対米従属の持続に固執している。マスコミも学界も、官界の影響下にある。だから平野頭取は、自分の主張を、日本のマスコミでなく、外国のFT紙に表明したのだろう。日本のマスコミに表明しても、意図的に要点を外して記事にする懸念が大きい。
マスコミだけでなく、金融界も官界の影響下にあるのだが、このまま円と日本国債の過剰発行が拡大すると、いずれ金融界が日本国債を買い切れなくなり、外国勢が買う分が増えて日本国債の破綻が現実のものとなり、日本の金融界が潰れてしまう。それを懸念する金融界を代表するかたちで、三菱UFJの頭取が日本国債のあり方に警告を発したのだろう。(米国を真似て財政破綻したがる日本)
平野発言と前後して、経団連からも、日銀に圧力をかけ続ける安倍を批判する声が出て、安倍は、首相になったら個別の金融政策に対するコメントをしないと譲歩する発言を行い、日銀に介入しない姿勢をとってみせた。だがこの譲歩は、投票日までのそぶりにすぎないだろう。野田政権は、米国の財政金融危機の潜在的な拡大に合わせて円と日本国債を意図的に危機にさらしてきたが、今後米国の危機が拡大しそうな中、安倍政権はこの傾向をさらに進めるだろう。(Japan's Abe in U-turn on BoJ attack)
▼日本だけ米覇権喪失の悪影響を回避したがらない
米国では、議会と大統領府の間で財政再建策の議論が平行線のまま妥結しそうもない。時間切れが迫る中、来年1月から支出削減と増税が自動発動される「財政の崖」が起きる可能性が増している。財政の崖が起きると米経済が減速する。債券格付け機関は、米国債を格下げすると言っている。ドルと米国債の崩壊が進んでいる。米国は市町村の財政難もひどい。かつて自動車産業の都と言われたデトロイトは、数年前から財政破綻の状態で、警察の機能が停止して犯罪の巣窟になっている。デトロイト市は、裁判所に破産申請しても効果が低いので、このまま市を解散し、周辺の郡に吸収合併してもらう「デトロイトの消滅」を検討している。(Cities to Dissolve? - Detroit and Surrounding Cities Bankrupt)
米国の同盟諸国の中でも、カナダやオーストラリアは、豊富な天然資源を、高度成長を維持しそうな中国など新興市場諸国に売って、米国の覇権が崩れても繁栄を維持する方向を模索している。IMFは、カナダとオーストラリアのドルを、これまでドル、ユーロ、英ポンド、円、スイスフランの5通貨だった国際備蓄通貨の中に加えることにした。豪州は最近、今後中国との関係を強化していく外交白書も出している。(Aussie, Canada dollars termed reserve currencies)(尖閣問題と日中米の利害)
カナダや豪州はアングロサクソン諸国で、米英の身内なだけに覇権動向に敏感で、米国とともに衰退していく道を選ばないようにしている。一方、中国などBRICS諸国は、ドルでなく相互の自国通貨を貿易決済に使う傾向を強めている。各国とも、ドルが使えなくなり、米国の覇権が崩壊する事態に備えている。対照的に日本では、そのような事態についての分析や懸念が、政府やマスコミからほとんど出てこず、むしろ米国とともに衰退する道が積極的に採られている。(The Giant Currency Superstorm That Is Coming To The Shores Of America When The dollar Dies)
日本ではTPPが選挙の大きな争点になっている。だが、先日カンボジアで開かれたアジアサミットでは、オバマ大統領が売り込んだTPPよりも、中国やASEANが主導して進められる米国抜きの東アジアFTA(RCEP、ASEAN+6)の方がずっと重視された。米政府は実績を作るため、タイに頼んでTPPの交渉に参加してもらうことにしたが、タイは国内の反対運動が強く、TPP加盟の可能性は低い。日本にとっても長期的に、TPPより、日中韓やASEAN+6の東アジアFTAの方が重要なのだが、そのような事実は国民の目から隠されている。(Post-US world born in Phnom Penh)(アジアFTAの時代へ)
▼米国が潰れる前にぶら下がっている国々が潰れる
今の世界では、米国の覇権衰退を見越して米国に頼らない世界体制の中に自国を置こうとする国々が繁栄を維持する半面、米国の覇権にぶら下がり続ける国々が窮地に陥る傾向を強めている。後者の代表的な例が、日本と英国とイスラエルだ。敗戦国の日本は完全に受動的な対米従属(日本の官僚が国内向けに米国の意志を「解釈」する権限を持つことで、対米従属が支配の道具に使われいる)だが、英国とイスラエルは米国に影響を与えて自国好みの世界戦略を採らせる能動的な対米関係だ。(日本の権力構造と在日米軍)
日本は、政府が日銀に円の過剰発行を拡大させて通貨的に米国と心中しようとしているのに加え、尖閣諸島を国有化して中国を意図的に怒らせることで日米同盟を強化する策が裏目に出て経済難につながっている。(日中韓協調策に乗れない日本)
英国は、1990年代から2008年のリーマン危機まで、米英一体の債券金融システムの中でロンドンの金融界に大儲けさせ、60−70年代に破綻していた財政を立て直した。繁栄はリーマン危機後に崩れているが、英国は、過剰な金融緩和策で自滅を強める米国よりずっと上手に延命を試みてきた。私は数年前から英国の金融財政破綻を予測し続けているが、実現していない。(イギリスの崩壊)(イギリスの凋落)
だが最近、英国の延命が終わりになりそうな感じが再び強まっている。英政府が予定通り財政緊縮できない場合、格付け機関が英国債を最上格から格下げすると言っている。格付けだけなら、英国はこれまで何度も窮地を乗り越えて最上格を維持してきた。債券格付けは英国が考案したシステムで、英国が「胴元」だ。だが今回は、EUがユーロ危機対策として政治・行政の統合を進め、国家的な自立を剥奪されたくない英国は、EUを離脱せざるを得なくなっており、これまでより問題が深刻だ。(Sterling faces up to risk of downgrade)
英国のロンドンは最近まで、世界一金融マンが多い都市だった。だが2015年までにロンドンはニューヨークと香港に抜かされ、香港が世界一の金融都市になりそうだ。(London loses top spot as world financial centre)
米国はブッシュ政権から現在まで、英国との関係を希薄化する姿勢をとっている。戦後一貫して米国にとりつくことで国力を維持してきた英国は、米国に疎外されまいとして、ブッシュの03年のイラク侵攻に乗り、逆に大量破壊兵器のウソの犯人扱いされ、国際信用を失った。今の英国は、米国だけでなく、独仏主導で政治統合を進めるEUからも疎外され、繁栄できる国家戦略を失いかけている。(Blair warns UK against leaving EU2)
イスラエルは、先日パレスチナ自治政府(PA)が国連総会で国家として承認されたことを契機に、国際的に「悪者」にされる傾向が一気に増した。PAは以前、国連に加盟しようと申請したが、加盟には安全保障理事会の承認が必要で、イスラエルの言いなりになる米国が拒否権を発動したため、加盟できなかった。PAは今回、加盟申請でなく「国連非加盟の国家」として承認してもらおうと申請した。これなら安保理でなく国連総会での多数決で承認でき、11月30日にPAは国家として承認された。
国家として承認されると、国連関連機関に加盟できる。パレスチナは国際刑事裁判所に加盟し、イスラエルを人権侵害などの罪で提訴しようとしている。パレスチナではちょうど、フランスやスイスの当局が、04年にパリの病院で死亡したPAのアラファト前議長が毒殺された疑いがあるとして、11月27日に西岸にあるアラファトの墓を掘り返し、遺品を収集して捜査を開始した。毒殺と判断された場合、イスラエルの国家犯罪である疑いが出てくるので、PAはこの件でイスラエルを提訴できる。また先日のガザ戦争などで、イスラエルがガザの無実の市民を殺したことも、提訴できる案件だ。(PA says will take Israel to ICC if tests prove Arafat assassinated)
国家承認を受けたパレスチナに対する報復として、イスラエルは東エルサレムの郊外に新たなユダヤ人入植地住宅を建設する計画を開始した。東エルサレムはパレスチナ国家の首都になる予定の場所で、イスラエルとパレスチナが和解した場合、東エルサレムがパレスチナの首都で、西エルサレムがイスラエルの首都になることが第二次大戦直後から決まっている。(イスラエルの戦争と和平)
エルサレムを神聖視するイスラエルは、パレスチナとの首都共有に反対している。東エルサレムと、その周辺の西岸地域を分断するかたちで入植地を作り、パレスチナ人が東エルサレムに入ってこれないようにする計画だ。これは60年前に国連が決めたパレスチナ和平案を阻止する動きであるため、特にEUが怒り、英国とフランスは、イスラエルが東エルサレムを取り囲む入植地(E1)の建設をやめない場合、英仏の駐イスラエル大使を本国に召還すると言い出した。米国もE1入植地の建設に反対している。(For first time, Britain, France may recall ambassadors in protest at Israel's settlement construction)
オバマ政権は、米議会が決議したイランへの追加制裁にも反対で、2期目に入って中東への関与を弱めそうな流れになっている。米国は表向き親イスラエルの態度を続けているが、しだいに頼りにならなくなっている。加えて、これまでイスラエルに甘かったEUが、英仏大使召還など、画期的にイスラエルに厳しい政策をとり始めている。(US: Israeli settlement plan 'counterproductive')
中東では、対米従属のサウジアラビアの高齢の国王が危篤で植物人間状態に陥っていると報じられている。今後、国王の死を機に、王室内部の紛争が高まり、東部の大油田地帯でのシーア派の反政府運動と相まって、サウジは混乱するかもしれない。ペルシャ湾岸ではクウェートも、国王が議会の権限を弱める選挙制度の変更を強行したため、リベラル派からイスラム主義者までが異例の結束をして反政府運動を強め「アラブの春」の状況になっている。バーレーンでも反政府運動が強まっており、親米色の強い湾岸産油諸国の間に混乱が広がっている。(Saudi King Abdullah clinically dead')(Kuwait election boycott shifts drama to streets)
このように日本、英国、イスラエル、サウジなど、これまで米国の覇権にぶら下がる傾向が強かった国々が、いずれも凋落ないし不安定化する傾向を強めている。米国自身が潰れる前に、米国にぶら下がってきた国々が潰れ出している。これは国際社会で、中露、BRICSや発展途上諸国の発言権が強まっているのと対照的な動きで、ここ10年ほどの国際情勢の根本にある流れだ。全体として国際社会は、米国(米英イスラエル)の単独覇権から、多極型の体制に転換しているとみて間違いない。
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