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若者の失業長期化
「1年以上」20年で7倍、年金制度維持に影
失業期間が1年以上に及ぶ長期失業者の低年齢化が進んでいる。25〜34歳の長期失業者数は2011年時点で28万人となり、20年前の7倍、01年と比べても3割増えた。学卒時に就職氷河期を迎えた人が定職に就けない傾向が目立つ。失業率の一時的な持ち直しも、働く意欲を失った若者の広がりが一因だ。若者の失業の定着は年金制度の維持などに影を落とす。
若者の雇用拡大や年金の不信解消は12月の衆院選で重要な争点となる。まずは生活に必要な資金を手当てしながら職業訓練をする制度の充実が求められる見通しだ。本格的な仕事に就く前に、軽作業の場を設ける「中間的就労」で経験を積む仕組みを促す声もある。
総務省がまとめた7〜9月の労働力調査(詳細集計)で25〜34歳の長期失業者は28万人となり、11年と同じ水準だった。今年4〜6月にいったん23万人まで減ったものの増加基調に転じた。7〜9月の長期失業者全体に占める割合は27%強で過去最高水準となった。
正規・非正規を問わず1年以上、職業に就いていない長期失業者は10年に100万人を超え、11年には117万人に増えた。かつて多かった55〜64歳の長期失業の割合は1991年の27%から11年に21%まで低下。代わって25〜34歳の割合が最大となった。35〜54歳の長期失業者も加えると全体の6割を占める。
バブル崩壊後の90年代前半から00年代半ばに企業は採用を絞り、08年の金融危機(リーマン・ショック)が就職難に拍車をかけた。この間は現在の25〜34歳が就職活動をしていた時期と重なる。若者の自立を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)「育て上げ」ネット理事長の工藤啓氏は「若者は就職で失敗を続けると動かなくなる。日本の若者の失業期間は長い」と分析する。
最近1カ月に求職活動をしなかった人の割合は失業者全体の平均23%に対して、長期失業者は38%に高まるという10年のデータもある。首都大学東京の村田啓子教授は「若いうちに失業期間が長くなると、再就職がしにくくなる」と指摘する。
長期の失業は生活保護につながりやすい。保護を受ける世帯数は増加傾向にあるが、中でも若者が分類される「その他世帯」は01年度の6万2千世帯から今年8月に28万5千世帯まで増えた。
若者の就職難が長引くと、月々の給料から保険料を納められず、将来の低年金や無年金の恐れが強まる。90年代前半に15%程度だった国民年金保険料の未納率は、11年度に41%と過去最高だった。中高年層が経済的に自立できなければ、生活保護費の膨張で国民負担が増す循環も予想される。
慶応義塾大学の太田聰一教授は「年金も医療も現在のシステムは、若い人がきちんと働いて保険料を納めることで成り立っている。そこが弱体化すると、社会保障財政の面からみても望ましくない」と語る。
[日経新聞11月26日夕刊P.1]
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「非正規」の低年金、深刻に
高山憲之 年金シニアプラン総合研究機構 白石浩介 三菱総合研究所
国は正規転職、支援を 職業訓練は雇用の現場で
<ポイント>
○初職が非正規の女性の多くは正規異動なし
○公的機関の職業訓練は正規雇用に寄与せず
○年金制度での非正規の老後保障対応に限界
初職が非正規雇用だった人は、その後の職業遍歴や収入なども総じて劣後する結果、年金受給見込み額も低い傾向がある。これは「バッドスタート・バッドフィニッシュ(Bad Start, Bad Finish)問題」と呼ばれ、近年イタリアをはじめ欧州各国で関心が高まりつつある。
その実態を解明するには通常、同一の個人について、就業状況や給与額などを長期間調査し続けるパネルデータが必要となるが、従来日本にはほとんどなかった。ただ、行政データとしては個人別の就業状況や賃金月額などを継続的に記録したものが日本にも例外的にある。旧社会保険庁(現日本年金機構)が個人単位で年金制度への加入実績を記録したもので、年金受給資格を確認したり年金給付額を加入者ごとに算定したりするために収集・管理していた。
2007年、5千万件に及ぶ宙に浮いた年金記録の存在が明らかとなった。その結果、政府は旧社会保険庁が管理していた個人単位の年金記録を厚生年金保険・国民年金の全加入者・全受給者に通知し、オンライン記録が正しいか確認してもらうことになった。09年度送付の「ねんきん定期便」の第1回通知には、15歳以降直近に至るまでの賃金履歴や加入年金制度、勤め先会社などがすべて記載された。
筆者の一人(高山)が主宰する世代間問題研究プロジェクトでは、この第1回ねんきん定期便に着目した。記載内容を転記してもらうとともに、過去や現在の生活状況および将来の計画・見通しを尋ねる「くらしと仕事に関する調査」を昨年11月に実施した。この調査により、長期間にわたる膨大なパネルデータを一挙に蓄積することができた。
本稿では、調査時点で30〜49歳だった男女(約4千人)のデータを利用し、(1)初職の違い(正規か非正規か)が、その後の就業状況にどのような差異をもたらしたのか(2)初職の違いを決定した主な要因は何か(3)初職が非正規だった人が正規雇用に変わった主な要因は何か(4)初職の違いにより年金受給見込み額はどの程度異なるのか――などを分析した主要な結果を紹介する。
第一に、日本で初職が正規雇用であった人の割合は近年、世代が若くなるにつれて低下している。その割合は、調査時点で40歳代後半に位置していた世代では男性74%、女性64%だったのに対し、30歳代前半層では男性52%、女性54%にとどまった。代わりに初職で割合が増えたのは非正規雇用で、30歳代前半層では男性32%、女性40%だった。初職非正規の割合は女性の方が男性より高い。
若年世代ほど初職正規の割合が低いという世代効果は、学歴に示される個人の資質、親の愛情あるいは両親の夫婦仲といった家庭環境を加味してもほとんど変わらない。このほか、中学時代に他人と付き合いたくなかったという人は、初職非正規の割合が高かった。また、母親が専業主婦の場合には、男性では初職非正規の割合が低くなったのに対し、女性では逆にその割合が高くなった。
第二に、加齢に伴う就業状況の変化は、男女間で大きな差がある。男性からみてみよう。初職が正規であった男性は、その後も正規として就業し続ける比率が極めて高い。非正規への異動と転職者の合計の割合は40歳代後半に至っても15%程度にとどまる。
これに対し、初職が非正規であった男性の場合、30歳ぐらいまでは加齢とともに正規への転職者割合が総じて漸増する(図参照)。ただし30歳以上になると、その伸びは小さくなり、35歳前後から正規転職派は一転して減少し始める。また、直近で40歳代後半の世代は正規転職を果たした人の割合が約80%に上るが、30歳代前半の世代は正規雇用に転じるまでの年数が長くなり、正規転職者割合もせいぜい50%程度に低下している。
次に、女性のケースをみる。初職が正規雇用であった女性の場合、加齢とともに正規残存者が減る。専業主婦への転身者が増え、30歳過ぎまでに正規残存者と逆転する。非正規への転職者も加齢とともに増え、その数は40歳までには正規残存者数を上回る。
一方、初職が非正規雇用であった女性の場合、年をとっても非正規のまま残存するケースが多い。正規雇用への転職は通常、23歳までに生じるが、転職率はせいぜい40%前後にとどまり、30歳代前半の世代では30%にすぎない(図参照)。その後、正規転職者割合は30歳前から加齢とともに低下し、30歳を超えると専業主婦への転身者割合が高くなる。
第三に、初職非正規のグループだけを抜き出し、正規雇用への転職経験(男性35歳まで、女性23歳まで)の有無を分析したところ、男女とも、初職に雇用期限の定めがなかった場合、あるいは勤続2年以上の勤務経験が1回以上あった場合、正規転職比率がそれぞれ高くなった。一方、公的機関で職業訓練を受けた場合、その後、正規雇用に結びつく比率は逆に低くなるという驚きの結果も得られた。
第四に、初職が非正規であり、調査時点で30歳代前半層だった人に着目し、60歳になるまでの厚生年金加入年数を推計した。加入年数が25年未満となって低年金になる比率を求めたところ、男性は50%、女性は90%程度になった。ちなみに、厚生年金加入25年未満の場合、老齢年金月額は平均で男性が9万円強、女性が8万円強にとどまったのに対し、25年以上の年金月額は平均で男性が18万円、女性が14万円であった(いずれも個人ベース)。日本でもバッドスタートはバッドフィニッシュとなる公算がかなり大きい。
では、日本のバッドスタート・バッドフィニッシュ問題にどう対応すればよいのだろうか。非正規の低年金問題には年金制度の見直しで対応すればよいとの意見もあるが、それにはおのずと限界がある。拠出に応じた給付という年金原則を崩すわけにはいかないからだ。むしろ、雇用への入り口戦略を抜本的に強化することが求められる。
分析結果からもわかるように、公立機関の職業訓練は融通が利かず、時代の変化に対応できていないので、大幅に縮小してはどうだろうか。
代わりに職業訓練は原則、雇用の現場で実施する。特に30歳までの正規転職促進が急務だ。転職希望の若者を正規雇用し、有用な職務能力を身につけさせる企業には、手厚い訓練助成金を出すべきである。さらに、若者を中途採用者として2年以上雇用する場合、例えば事業主負担の社会保険料に相当する雇用助成金を支給し、若者支援企業として表彰するのも一案だ。
初職非正規であっても、比較的長い勤続経験があれば、正規転職の可能性が高まることも明らかになった。そこで政策面では、正規雇用への昇格・転職機会を拡大するため、非正規から正規への昇格規定を設ける事業所を増やし、職場内訓練・能力開発への補助金を拡大する必要がある。
当然、個人資質の向上が不可欠であり、奨学金などを拡充し、IT(情報技術)リテラシーやコミュニケーション能力を高める必要がある。加えて、学業から職場への円滑な移行を支援するためには、教育大改革も避けられない。キャリア教育・職業教育を徹底し、在学中に職業意識を育成することが大切だ。ジョブサポーターを常駐させ、相談機能を強化する必要もある。
若者の働く場を確保し、働きながら成長する機会を与えることは大人の責務である。
たかやま・のりゆき 年金シニアプラン総合研究機構研究主幹。46年生まれ。東京大経済学博士
しらいし・こうすけ 三菱総合研究所主席研究員。65年生まれ。ロンドン大経済学修士
[日経新聞10月26日朝刊P.27]
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