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【第258回】 2012年11月28日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
就活生が「今、入るべき会社」を考える
就職偏差値が高くても数年先は闇
特集「就活親子の大誤算」を読み解く
2014年卒業生(現在の大学3年生)の「就活」が始まる時期に合わせて、『週刊ダイヤモンド』(12月1日号)が「今、入るべき会社 就活親子の大誤解」という特集を組んでいる。特集タイトルにある通り、就活に臨む学生自身も、その親御さんも、どの会社に入ったらいいのかということに大いに関心を持っているはずだ。
一方、どん底だった2年前よりも少しはマシだとはいえ、大学生の就職事情は厳しい。かつてよりも大学卒業生は増えたが、経済は低成長で、企業側は採用に慎重だ。就職戦線たけなわともなると、「どの会社に入ったらいいか」というよりも、「どの会社に入れるか」が事実上就職先を決定するような状況が、多くの就活生に訪れる。
この時期は、目先の就職偏差値に囚われて「せっかくこの会社の内定を取ることができるのだから、入らないともったいない」という気分で就職先を決めたくなるのが人情だが、ここが「堪えどころ」であり、少しでも「自分にとってよい会社」を選ぶべきだ。
そうは言っても、会社選びは難しい。失敗したら株を売ればいい株式投資ならともかく、転職に大きなコストと手間がかかる“就職先選び”は難しい。
難しさを実感するには、『週刊ダイヤモンド』の特集記事32ページ「勝ち組学生がはまるワナ 人気業界の大誤解」を見てみよう。特に「“地獄”の家電と“天国”の重電」のパートだ。
これはたとえば、現在大赤字に苦しむシャープ、ソニー、パナソニックの大手家電3社と、インフラ関連・ファクトリーオートメーションなどの事業が好調でそれなり黒字を確保する日立、東芝、三菱電機の重電3社について、対照的に状況を説明した記事だ。
先般、格付け会社のフィッチレーティングスは、長期債務の格付けとして、ソニーをBB−、パナソニックをBBに叩き落とした(ここまで、やるのか)。一般には格付けBBB−が、まともな条件で資金調達ができる、資金提供者側から見て「投資適格」の最低線とされる。
両社は、今回の引き下げ前にはこの水準だったが、ここから大きく滑り落ちた。また傍目に見て、シャープはこれら2社よりもさらに苦しそうだ。
山一の廃業は格付けがBBB−のとき
すでにその水準にある家電各社の未来
ちなみに、かつて山一證券がムーディーズ社の格付けでBBB−を滑り落ちたのは、日経新聞が「山一証券自主廃業」と朝刊で報じた土曜日の前の日となる金曜日の夕方のことだった。
ソニーとパナソニックが、かつての山一のように直ちに潰れるとは思わないが、5年後に必ず存続しているかと言われると、「わからない」と答えざるを得ない。大復活を遂げて過去最高益を更新しているかも知れないし、倒産したり、吸収合併されたり、部門ごとに売却されて姿が変わったりしているかもしれない。どちらもあり得る。
ちなみに、「苦難」の状況にある会社として、かつて就職人気上位の常連だった日本IBMの話も載っている(P39)。
しかし、思い起こしてみよう。5年前には、あるいはもっと手前で3年前くらいでも、ソニーとパナソニックは人気企業だったし、就職先企業としての一般的評価は高かったはずだ。
技術はそれなりに評価されていたし、雑誌の特集で強調される国際性の点でも両社は「進んだ」企業とされていたはずだ。今回の『週刊ダイヤモンド』の特集でも、「海外駐在」のパート(P44)を見ると、ソニーは海外駐在員数でトップを占めている。
特集の別の場所(P52「4人のプロが明かす10年後生き残る企業の条件」)で、京都大学准教授の瀧本哲史氏が「日本の家電メーカーが負けているのは、製品が悪くなったのではなくて、他社がよくなったからだ」と述べているように、ビジネス環境、特に競争状況の変化が持つ威力はすさまじいものがある。
ちなみに、今週号の『週刊ダイヤモンド』には、企業レポートのページに(P98〜)、目下、元気なエレクトロニクス企業である台湾のASUS(「エイスース」と読む!)が載っているので、これも読んでおこう。
率直に言って、「10年後に成長しているだろう」「10年後も必ず生き残っているだろう」といった理由で就職先企業を選ぶアプローチは機能しない。
一般向けの雑誌は、しばしばこの観点一本で「お勧めの就職先」をリストアップする特集をよく組むが(筆者にも取材が来ることがあるが、このテーマからは逃げることにしている)、これは役に立たないアプローチだ。
まだ「10年先の有力企業」型の企業選択のフレームワークが頭にある就活生は、企業研究と企業選びの考え方を変えるべきだ。
ちなみに、本特集では、就活に満足していない社会人がその理由を挙げた「元学生の後悔」がランキングされており(P30)、「企業業界研究が不十分だった」が44.1%と圧倒的なトップにある。彼らの多くは、労力を惜しんだのではなく、研究の「方向」を間違えたのだろうと筆者は考える。
週刊ダイヤ式あれこれランキング
注目は「勝ち組先輩が薦めない企業」
『週刊ダイヤモンド』と言えば、何がテーマでも十八番はランキングだ。今回の就活特集号にも、多くのランキングを駆使している。
たとえば、「年収1000万円強の勝ち組先輩の教え」として載っている「就活生に薦める企業ランキング」(P31)のトップに挙げられているのは、三菱商事だ。実は、筆者が最初に勤めた会社は三菱商事だった。こんないい会社を早々に(入社4年で)辞めてしまったのだから、全くもったいないことをしたものだ!
冗談はさておき、読者が最も見るべきランキングは、このランキングの隣のページ(P30)に載っている「勝ち組先輩」が「入社を薦めない業界」のランキングだ。
1位は雑誌を見てのお楽しみとして、2位に生保・損保(33%)、4位に銀行(33%)がランクインしているが、学生の就職人気ランキングの上位業界を見ると、1位が銀行で、2位が生保・損保なのだ。
これらの業界は、それなりに高給だし、社会的なステータスもまあまあだが(だから、捨てにくいのだろうが)、一言で言えば「人の使い方が気持ちよくない」ことが多い(注:ただし、心がけと運次第では、この業界の会社にも利用価値がある)。
銀行で言うなら、我慢比べを競わせつつ若手時代に行員を自行の価値観に染め上げ、働き盛りに高いストレスをかけて酷使した後に、50代に入ると大半の行員が「あなたは第一線から外れたのだ」とばかりに半ばポイ捨てされる(子会社出向&収入大幅ダウンなど)。
経済的な条件だけなら悪くないが、人間の扱い方としてこれはどうか。銀行にストレスを上回るプライドを持つことができる「プライド人間」以外には薦めにくい。
ちなみに、学生の人気第3位の業界はマスコミだが、売上高の5年増減率で見た「将来性なし業界ランキング」では、「新聞 −14.6%、第6位」「出版 −13.4%、第8位」と、こちらも「将来先細り」するダメな方に挙げられている(ダイヤモンド社も出版業界であるのだが)。
これら以外にも、「モテる企業ランキング」や「業界平均年収」「“働楽”企業ランキング」(有給取得率など5項目で、楽な職場をランキングしている)など、話の種になるデータが載っている。
どうやって就職先を選ぶべき?
正しい就活の考え方「3条件」
さて、それでは就活生は、どのように考えて就職先を選んだらいいのだろうか。手がかりは、今回の特集で言うならP53とP43にある。
先に発言を引用した瀧本哲史氏は、「最初に入るべき企業」の条件(P53)として、「多くの企業と関係を持つ業界のハブとなるB to B企業」「スキルが身に付くブートキャンプ(新兵訓練施設)のような企業」「各会でOBが活躍して人脈を拡げられる企業」の3条件を挙げておられる。
こられの条件を筆者流に読むと、企業の将来性などはわからないし、将来順調な企業だからと言ってアテにもできないので、就活生が注目すべきは自分の「人材価値」であり、最初に入る企業選びは、企業が自分の人材価値にどうプラスに働くかという観点から行なうべきだ、ということになる。
瀧本氏は、人脈や企業との関係を強調されているが、ビジネスパーソンが持っている人間関係はビジネスの世界では一種の能力として機能する。もちろん、仕事のスキルが身に付くことも価値になる。
優秀な人、忙しさ、お金がポイント
就活生諸君に贈る「筆者流3条件」
もう少し具体的に考えたい向きは、特集のP43あたりを読もう。「どの職も極めれば勝ち残りにつながる」という真面目な小見出しが載っているが、確かにその通りだ。具体的には、何らかの「専門性」を持つことが有効だ。
筆者流の3条件としては、「優秀な人が多い会社で、忙しい会社で、お金をたくさんくれる会社が、就職するにはいい会社だ」と申し上げておく。
尊敬でき、目標となる人が仕事を教えてくれるような指導者がいる会社は、拝んででも入るべきだが、これは稀だ。せめて、自分から見て優秀だと思えるようなライバルが多い環境に身を置くことが、自分の能力を高める上では役に立つ。「ボクでも楽勝だ!」と思うような会社は、規模の大小、業界の別を問わず、ダメな会社である。
また、仕事を身に付ける上では、実際のケースに多く当たることが必須だ(たとえば、外科医の手術スキルを想起されたい)。暇な会社よりも、忙しい会社の方が、後のことを考えると断然いい。仕事の習得にあたって、量を伴わない質はあり得ない(ちなみに昔の三菱商事は、この点でイマイチだったと思う。今は知らないが)。
最後の条件は付け足しだ。お金は、あっても邪魔にならない。
もう1つ付け加えよう。しょせん学生の研究では、自分に適した職場を完全に見極めることなどできない。「職場選びは、3回に1回は失敗するものだ」というくらいに考えておこう。
失敗したら、転職すればいい。就職はゴールではなくて、「とりあえずのスタート」にすぎない。先は長いのだ。
就活生諸君のご多幸を祈る!
http://diamond.jp/articles/print/28543
【12/12/01号】 2012年11月26日 週刊ダイヤモンド編集部
人気のソーシャルゲーム業界も一寸先は闇?
「今、入るべき会社」就活親子の大誤解
新卒に“破格”の高額年収も
「一寸先は闇」の苛烈な業界事情
日本で唯一といってもいい驚異的な伸びを続けるソーシャルゲーム業界。異例の高額年収が話題になっており、12月1日から就職戦線に挑む2014年卒の就活生からも熱視線を浴びている。
AKB48にEXILE、吉高由里子と、人気タレントが目白押し。今や、ソーシャルゲーム大手2社、グリーとディー・エヌ・エー(DeNA)のテレビCMを見ない日はまずないだろう。DeNAがプロ球団を買収したこともあり、ゲームに興味のない中高年層にも名は響いているに違いない。
何しろ、今年こそ落ち着いたものの、ここ数年倍々ペースで売り上げを伸ばし、現在も3割を超える営業利益率をたたき出しているのだから、「電機が衰退し、自動車も陰りが見える中、日本が唯一世界で戦える産業」(業界幹部)と胸を張るのは無理もない。
破竹の勢いを受け、2社は就職先としても人気企業の一角を占めるようになった。特に、両社が昨年から打ち出した新たな採用策が話題をさらった。
DeNAが優秀なアプリ開発エンジニアに最高年収1000万円を支払うと発表すると、グリーも負けじと1500万円を打ち出したのだ。実際に、グリーでは「1400万円程度で内定を決めた学生がいた」(関係者)ほか、DeNAでも「額は言えないが、特別枠採用は数人実施した」(三原一晃・人材開発部部長)という。
中途採用市場でも話題の中心は両社だ。20代のネット企業の幹部は「メディアに自分の名前が出ると、すぐに引き抜きの電話が来る」。ゲーム機メーカーのエンジニアには片方の社長から呼び出しがかかった。深夜に説得を受けたが、「真夜中まで働いている社員が多過ぎる」という理由で競合他社に入社したという話もある。
広がる社内“格差”
引き抜き合戦も苛烈
なぜ、そこまでエンジニアが大事なのか。グリー関係者の1人は「ソーシャルゲームには在庫もなく、よいゲームを作るエンジニアが競争力の源泉。何に代えても確保したい」と説明する。サーチファーム・ジャパンの篠原光太郎常務は「エンジニアの報酬はしばらく高止まりする。米国と比べるとまだ低く、優秀な人材に関してはまだ伸びるだろう」と予測する。
となると、学生がエンジニアとして入社するのは魅力的だ。
しかし、である。高額報酬は社員全体のものかというと決してそうではない。
「入社1年目に年収で負けちゃいました……」
グリーの管理部門で働く30代の女性は自嘲気味に話す。平均年齢の低さに比べて平均年収の高さが魅力だが、「これは高額のエンジニア採用が引き上げたもの」(業界関係者)なのが実態。別のグリー社員は「40代のエリート課長の年収が800万円と聞いて驚いた」と明かす。
新しく採用したエンジニアや一部の経営コンサルタントに魅力的な高額年収が提示される一方、文系の既存社員には頭打ちの給料への不満が噴出しだしている。
しかも、優秀な人材に限ってあっさり別の会社へ移籍する。昨年、グリーに転職した元ウェブ企業のCTOは今秋にはすでに独立。DeNAでも幹部が米アマゾンの日本法人へと移ったという。
何しろ「よいエンジニアとそうでない人材では40倍は生産性が違う」(ネット企業幹部)ともいわれ、優秀な人材はどの会社にも入れてしまうのが実情なのだ。金を積んでも辞めてしまうなら、忠誠心を持って「でっち奉公」する社員が面白くないのは当然かもしれない。
こうした“格差問題”を背景にしてか、グリーに続き、DeNAは今年、2014年度採用から文系新卒にも最高1000万円を提示する制度を設けた。
ではこの勢いはいつまで続くのか。今年5月、電子くじ形式のゲーム「コンプガチャ」が射幸性が高いとして消費者庁の指示で、規制対象となった。利用者が月額10万円近くお金をつぎ込む場合もあり、両社の高利益率の源泉となっていた。現在は、業界団体が自主規制に乗り出したが、規制がビジネスに影響を与える可能性は今後も否定できない。
両社のビジネスモデルにも差が出始めた。もともと、「文化系サークル的」とされるグリーはゲームキャラクターのコンテンツ利用などを進め、エンタメ企業としての道を猛進する。より「ビジネス的」なDeNAは人気のメッセージアプリ「LINE」と同様の独自サービスを展開し、「総合的なネット企業」としての道を模索している。
直近の業績を見る限り、2四半期連続で売上増を記録したDeNAに軍配が上がっている。「これを機に両社の差が開くのでは」(ネット企業幹部)との見方もある。
だが、「数年後どうなるのか誰にもわからない」(DeNA関係者)のがこの業界。「ゲームに興味がなければ給料が低くても(ヤフーや楽天、クックパッドなど)メディア系のネット企業を選ぶ」(高野秀敏・キープレイヤーズ社長)という選択肢もある。
ただ、1ついえるのは、破竹の勢いも経験できる代わりにビジネスの淘汰も早い。「幹部候補のみが採用される」(DeNAの三原部長)という新卒から業界を生き残れば、次のチャンスをつかめる可能性が高いということだ。
就職活動ほど理想と現実が
懸け離れた世界はない──。
12月1日、いよいよ2014年卒の就職戦線が本格スタートします。それに合わせて、『週刊ダイヤモンド』12月1日号の特集は就職活動がテーマです。ただ、就活のノウハウはまったくといっていいほど書かれていません。ここにあるのは、今、入るべき会社・業界はどこか、この一点に集約されます。
それはひとえに、就活生たちが、本来ならば最も重視すべき会社選びについて、勝手な思い込みと大いなる誤解を抱いたまま就職戦線に挑み、結果として多くの学生たちが就活に失敗している現実があるからにほかなりません。
次の図1は主要な4つの就職人気ランキング上位10社の業界をまとめたグラフです。これを年収1000万円強の勝ち組会社員が入社を薦める業界トップ5(図2参照)と比較すると、商社以外はまったく異なる業界でした。
それだけではありません。学生の就職人気では、銀行、生損保の金融業界が断トツとなりましたが、いずれの業界も勝ち組会社員が薦めない業界トップ5にランクインしていたというのだから、笑うに笑えません。
勝ち組会社員はイメージではなく、成長性や安定性、社員教育の充実度などから企業を評価しており、その差がこのギャップにつながったのでしょう。
このほかに学生人気の高い業界で名前の出たマスコミやテーマパークも、イメージのよさとは裏腹に評価は高くない。マスコミは市場縮小が激しくて再編、淘汰は避けられません。テーマパークも離職率が非常に高いことが厚労省の調べでわかりました。
就活生の思い込みと現実のギャップの大きさはまさに目を覆わんばかりです。
本誌が社会人1000人を対象に行った就活のアンケートでも、多くの回答者が「企業・業界研究が不十分だった」と後悔しており、こうした思い込みは学生だけでなく、その親にも共通している可能性が十分あります。
さらに厄介なのが電機などの人気業界の業績が軒並み悪化し、業界全体が地盤沈下している点。会社選びはますます難しくなっており、まさに五里霧中です。
本誌はそこで、これまで誰も書けなかった就活の“虎の巻” を悩める就活親子にお届けします。
会社選びで必須といえる人気業界、有望職種の内情や未来を徹底解説した上で、学生やその親が抱きがちな思い込みを解きながら、10年後に得する会社選びの極意を伝授します。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 山口圭介)
http://diamond.jp/articles/print/28300
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