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(回答先: 日本経済のボトルネックはデフレではない 構造改革とインフレ目標政策は両立する 所得格差と税制 投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 28 日 00:02:13)
ニコ生中継のディベートで経済評論家の池田信夫氏が、マネータリーベース増加論者の高橋洋一氏に惨敗したようだ(橋下さんがまさかのリフレ覚醒→池田氏とバトル - Togetter)。
通貨供給量をとにかく増やせばいいと言う単純主張をディベートで打ち破るのは難しいが、過去の統計データは高橋氏を支持していない以上、池田氏の理論的な説明が明快でなかった可能性が高い。
例のノーベル賞経済学者のクルッグマンのIt's ba+k!論文を使って、再戦のために手助けをしたいと思う。池田氏は読まないだろうけど。
1. 流動性の罠を描画する
It's ba+k!論文では当時存在した色々なディスカッションがされているのだが、ポイントは将来の通貨供給量が固定されている限り、現在の通貨供給量を幾ら増やしても無駄と言う所だ。
まずは二期間の効用関数U(c1,c2)を定義しよう。効用は人生の満足度のようなものだ。論文では無限期間で定義されているが、問題なのは1期と2期の部分だから、簡素化して考える。
c1は1期の消費、c2は2期の消費、ρはリスク回避度、Dは割引率になる。1/1-ρの部分は計算テクニックで、微分した後の式が簡素になる効果がある。
次に微分して、1期の消費の限界効用と、2期の消費の限界効用を計算しよう。
次に物価Pと通貨供給量Mと産出量yの関係を確認しよう。分かると思うが、添字の1と2が1期と2期を表す。
名目金利をiとしよう。1単位の貯蓄を行うと1+iに増える。1期に1単位の貯蓄を行うには1/P1の費用がかかる一方で、2期に(1+i)/P2だけ予算が増えることになる。均衡状態では、貯蓄による1期の効用減少と、消費増による2期の効用増加の量一致する。
1期と2期の消費の代替の弾力性が一致すると言ってもよい。
式を変形していくと、消費と金利の関係が分かる。
It's ba+k!論文では、これでも流動性の罠を論じているのだが、省略。投資が無い世界だから消費c=生産yと言う関係になる事を思い出し、生産と金利の関係にしてしまおう。なお、暗に需給ギャップが想定されており、生産量の限界は無い。
1期の産出量を説明する式にしてみる。後の図のCC曲線を表す式になる。
1期の産出量と通貨供給量の関係も整理しておこう。これはMM曲線として描画される。
ここで、将来の見通しがある程度ありy2が一定、将来の通貨供給量M2も一定だと信じられているとしよう。するとP2も一定になる。
変化するのは、i、M1、P1、y1になるが、上の二つの式による均衡条件によりM1とy1の関係に整理できる。図を描くと、以下のようになる。
M1を増減すると、MM曲線が左右に動く。金融政策、つまるM1の増加で産出量y1は増えるが、金利の非負制約があるので、ゼロ金利状態まで来たら限界になる。もっと増やした状態が完全雇用、もしくはインフレ非加速的失業率(NAIRU)だとしても、金融政策では達成できない。
2. 流動性の罠から脱出する
ここで、M2を増やせばいいと思った人は賢い。そう、M2を増やせば、P2が増加し、y1も増える。ただし今は1期なので、M2は人々の予測、つまり期待値でしかない。なお、MとPの関係から、M2の増減は期待インフレ率の変化と同じことを意味する。また、モデルからすると1期で増えるのは生産量で、実際にインフレになるのは2期になる。
さて、どうやってM2を増やすか、正確にはM2の予測値を引き上げるかだ。確実な方法は無いのだが、Bernanke and Reinhart(2004)を見ると、(1)インフレ目標を宣言することや、(2)中央銀行の資産構成を変える事や、(3)量的緩和を行う事を示唆している。あれ、量的緩和?
3. 量的緩和で流動性の罠から逃げられるか? ─ 無理だった
量的緩和、つまりM1の増加が無駄なのに、量的緩和が選択肢にあるのに疑問に思うであろう。当時は、量的緩和は国債以外の金融資産への投資を増やしたり、中央銀行がゼロ金利を維持する保証に見えたり、財政赤字をシニョリッジでファイナンスすると言う危惧が現れたりすると考えられていたのだ。
その後、実際に行われた量的緩和で分かったことは、どうも効果が無さそうだと言う事(関連記事:何だか怪しい量的緩和の計量分析)。僅かなインフレ率の上昇でゼロ金利を解除した白川日銀総裁への信任かも知れないが、バーナンキ率いる米国FRBもマネタリーベースの増加が、マネーサプライやGDPとは無相関に見える(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図)。
It's ba+k!論文が理論的に説明するように、量的緩和は効果が無い。池田信夫氏は高橋洋一氏にそう言えば良いはずだ。もちろんインフレ目標の宣言は、有効である可能性は残っている。
4. 白川総裁流ではないバーナンキ流の量的緩和
クルッグマンへのインタビューを引用しよう(ポール・クルーグマン インタビュー by 大野和基)。
経済が回復しはじめたとき、お金をものすごい勢いで印刷し続ける、と約束するのです。そこには将来への期待が大いに関係してきます。
ただし、クルッグマンはインフレ目標を宣言した後に、バーナンキ流の量的緩和を行うべきとも主張している。
まず、インフレターゲットを公表します。それから、バーナンキ・スタイルの量的緩和を行なわなければなりません。日銀の量的緩和は控えめすぎて、まったく足りない。非伝統的な資産も買い足りません。
「足りない」の意図する所は不明瞭だが、FRBよりも日銀の方が量的緩和の規模(マネタリーベース対GDP比)が大きい事から考えて、もっとアナウンスメント効果をよく狙った量的緩和を行うべきと言う事であろう。
だから池田信夫氏は、高橋洋一氏の量的緩和は単純すぎるので、将来のマネータリーベースを約束するように思えないと言ってやればいい。現在の量的緩和の延長は、効果があるとは言えないわけだ。
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高橋氏は、期待インフレ率の引き上げを主張する所までは良いのですが、その手段が非現実的。理論的にも実証的にも効果は無さそうです。
POM_DE_POM さんのコメント...
「将来の」コミットメントについても理解していないか、”分かりにくい”から主張から外している?恐らく後者な気がしますが。
どうもクルーグマンの主張の核心である「将来の緩和」にコミットメントする、という部分が高橋氏を含むリフレ派には、ポッカリと抜け落ちているように見えます。
一方、池田氏については、時間軸政策(長期金利の引き下げ)とインタゲ論(期待インフレ率の引き上げ)を混同しているように思います。確かにどちらも期待に働きかける政策ではありますけど。
>FRBもマネタリーベースの増加が、マネーサプライやGDPとは無相関に見える
本来、マネタリーベースの増加そのものに意味がある訳ではなく、金融緩和(買いオペ)を行うと
当座預金残高増加=マネタリーベース増加=中銀のバランスシート拡大
→ 短期金利低下
→ 中長期金利への波及、実体経済(マネーサプライやGDP)への波及
を通じて同時に観察されるに過ぎない、というのが妥当な所だと思います。
ゼロ金利制約、当座預金への付利などを行うと、マネタリーベースをいくら増やしても、それ以下には金利は下がりません。従って、過去に見られたようなマネタリーベースとマネーストックの関連性は失われます。
FRBやECBの膨張したバランスシートやベースマネーが表しているのは、金融緩和の度合いではなく、金融システム不安を押さえ込む為に費やした膨大な労力ではないでしょうか。BLOGSのmagunajio氏との議論で気になった事があったので、いくつか。
uncorrelated さんのコメント...
(あっちにはコメントできない><;)
>日本の紙幣の対GDP比率が高い理由
低金利下では預金のインセンティブが低下し、現金を保有しようとするインセンティブが高まります。休日のATM利用はシャレにならないし。
純粋に金融緩和の度合いを測りたければ、現金/預金比率の上昇を反映した分を除いて考える必要があると思います。
この点(だけ?)はmagunajio氏に分があるかと。
もっとも、これは一般論であって、現状ではあまり意味はないのですが。
>マネタリーベースは日銀の場合、欧米中銀に比べ、殆ど増やしていません。
マネタリー政策(総需要刺激策)とプルーデンス政策(金融安定化政策)を区別していない為に、間違った解釈が広まっているようです。
例えば引用されていた↓記事の準備預金の対GDP比が分かりやすいのですが
http://stockbondcurrency.blog.fc2.com/blog-entry-20.html
日銀が準備預金を最も急増させているのは震災直後(恐らく円の急騰時)です。
ECB(まだゼロ金利にも達していない)の場合は、債務危機の進行に従って急増しています。
BOEも同様ですし、金融危機が欧州に飛び火した直撃にも同様のパターンが見られます。
各国ではすでに当座預金の付利が行われていて、マネタリーベースの増減と短期金利の増減は切り離されています。
これは単純なマネタリーベース比や準備預金の比較が金融緩和の度合いを測る指標としては信頼できる物では無くなったことを示唆しています。
プルーデンス政策の影響を除いた(そんな物はまだ見た事がありませんが)数値を比較するか、原点にかえって金利(の変化)で比較するかしかないかと。
以上、長々と、直接記事には関係ないコメント、失礼しました^^;>>POM_DE_POM さん
POM_DE_POM さんのコメント...
FRBは6%から17.8%までGDP比マネタリーベースを拡大し、日銀は9%から24.8%に拡大しています。
現金需要の差によるマネタリーベースのかさ上げがあったとしても、3%程度ではないでしょうか。
すると、日銀のマネタリーベースの水準は、やはりFRBより大きいと言うことになります。こちらの記事中の図を見ると、名目GDPが停滞するなか現金が増加している様子が分かります。
uncorrelated さんのコメント...
http://agora-web.jp/archives/1448601.html
正確な数値は見つからなかったのですが、上記の図を大雑把に見ても対GDP比で8%~10%程度上昇しているように見えます。
(ただ、現金は現金需要に応じて受動的に発行するため、これを金融緩和と結びつける記事の主張には賛成できません)
それと繰り返しになりますが、マネタリーベースの水準は問題ではないかと。
ついでに。池尾氏の(たぶん)高橋氏批判。
http://agora-web.jp/archives/1473485.html
クルーグマンを議論の出発点にしていることもあって、ほぼこの記事と同じ内容ですね。
アゴラの記事なのに・・・(--
池田氏は何をやってるんだと小一時間説教したい。
ついでに、高橋氏もすっ呆けた話ばかりしてないで、真っ当な議論をしてもらいたいものです。
すっ呆けるのが仕事のような方ですから、それはできないのでしょうけど。>>POM_DE_POM さん
以下のようになるので、日本銀行券発行高は決済のための現金需要だけを現すものではないです。
マネタリーベース=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金
量的緩和以後は、市中銀行の金庫にいっぱいあると言う事になるのでしょうね。
マネタリーベースのGDP比を緩和水準として取るのが妥当か否かは別として、日米の違いで現金決済の影響が大きいと言う高橋洋一氏の主張は、数字としてはあわないと言う事です。この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
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