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韓国を襲ったIMF危機から15年
経済強国に急浮上も選挙の争点は経済民主化と福祉国家
2012年11月27日(Tue) 玉置 直司
「朝鮮戦争以来の国難」――。1997年12月の大統領選挙で当選した金大中(キム・デジュン)氏は、韓国を直撃した通貨経済危機(IMF危機)をのちにこう評した。
あれから15年。韓国の経済社会は様変わりした。大胆な改革で「超競争社会」に生まれ変わり、経済強国に浮上した。
大改革への疲労感とバブル経済の後遺症
だが、12月の大統領選挙で有力な候補者が掲げる経済政策は「経済民主化」と「福祉国家」。猛烈な改革への疲労感とバブル経済の後遺症も出てきて、成長拡大一辺倒の政策からの転換を迫る声が強くなっている。
サムスン電子の株価は15年前の35倍になった〔AFPBB News〕
2012年11月22日の韓国の証券市場。サムスン電子の株価がじりじり上昇し、一時141万9000ウォン(1円=13ウォン)になった。結局、終値は前日に比べて3万3000ウォン高の141万7000ウォン。いずれも過去最高値を更新した。
スマートフォンの販売が好調に推移していることでサムスン電子の株価は年初以降上昇を続け、5月2日に過去最高の141万ウォン台に達した。
その後、アップルとの訴訟の行方が不透明になったことで株価は一時100万ウォン近くまで下がった。
しかし、8兆1200億ウォンという過去最高の営業利益を上げた7〜9月期に続いて10〜12月には9兆ウォン前後に達するとの見方が広がり、一気に最高値を更新した。時価総額も208兆ウォンを超え、上場企業の全時価総額の20%をサムスン電子1社で占めることになった。
まさに全盛期といった感のあるサムスン電子だが、つい今から15年前の1997年末は「悪夢のような日々」だった。
世界最強・サムスン電子の「悪夢のような日々」
ちょうどそのころ筆者は、東京で韓国のビジネスマン2人と赤坂の韓国料理屋で夕食を一緒したことがある。
席の近くにあったテレビで韓国のニュースを放映していた。主要企業の株価が画面に映った。サムスン電子の株価が4万ウォン前後だった。
4万ウォン! なんと今の株価の35分の1だ。
一緒にいた1人が、画面を見ながら大声を上げた。
「あー。サムスンの株価も4万ウォンだ。韓国は国がつぶれてしまう!」
あまりに悲壮な表情なので筆者はこう言って励ました。「(政府が保有する)外貨が底を突くとか言っているけれど、サムスンは絶対につぶれないよ。こんな安くなったなんて今が買いじゃないの」
大声を上げたビジネスマンはこんな慰めをまったく信じてくれなかったが、同席していたもう1人は、その直後に本当にサムスン電子の株を買ったという。何株買ったかは知らないが、その後、大成功の投資になったことは言うまでもない。
韓国は15年前の大統領選の直前に国際通貨基金(IMF)への支援要請に追い込まれた〔AFPBB News〕
そう。わずか15年前、韓国は大混乱に陥っていたのだ。
「現在の難局を乗り切るためには、IMFに流動性調整資金の支援を要請するしかない」――。15年前の1997年11月21日夜。大統領選挙まで1カ月を切ったこの日、当事の副首相兼財政経済部長官は緊急記者会見でこう話した。
韓国経済が事実上破綻し、IMF改革と呼ばれた猛烈な国家・企業の再建作業が始まった瞬間だった。
財閥がばたばた破綻する猛烈な国家・企業再建
1997年はサムスンだけでなく韓国にとっても悪夢のような1年だった。年明け早々に中堅財閥で鉄鋼が主力の韓宝グループが破綻。その後、鉄鋼が主力の三美、焼酎メーカーで有名な真露、さらに中堅財閥の大農、双竜などがそれこそ「ばたばた」と破綻した。
夏になると起亜自動車の経営危機が表面化した。
いずれも無理に無理を重ねた拡大策で借入金が急増していた。ウォン暴落や金利急騰で資金繰りがつかなくなり、経営破綻に追い込まれた。資金を貸し込んでいた大手金融機関も経営危機に陥り、韓国経済は麻痺状態に陥った。
1998年2月に誕生した金大中政権は経済再生に全力投球した。負債が膨れ上がって再建の見込みがない財閥や有力企業はゾンビ企業として生き残らせず、躊躇なく破綻処理をした。さらに債権が焦げ付いて財務内容が極端に悪化した金融機関には果敢に公的資金を投入した。
一方で経営責任を追及して経営陣を一掃し、併せて大規模リストラを断行させた上で銀行の合併による再編を進めた。
サムスン、現代、LGなど生き残った財閥も大規模なリストラを実施した。人員削減はもちろん、事業や資産の売却を進め、「身を切るようなリストラ」(当事の財閥の社長)で破綻を逃れた。
サムスングループは大規模な人員削減をしたほか、一部の黒字企業を含めて事業を売却することで危機を乗り切った。「会社がつぶれるかと思った」――。サムスン電子の元役員は当事をこう振り返る。
1998年に韓国を訪問して驚いた。道ががらがらなのだ。経済危機でマイカー族は消え、経済活動が萎縮してトラックの交通量も激減していた。
韓国を代表する有名企業に就職していた友人や知人は、「失業者」になって約束の場所に現れた。
だが、国を挙げての大手術で韓国経済も企業も劇的に力強く回復した。
韓国経済と企業は劇的に強くなったが・・・
韓国の1997年の名目国内総生産(GDP)は506兆ウォン。98年にはこれが501兆ウォンに縮小したが、99年には549兆ウォンとプラスに転じた。その後は、2000年603兆ウォン、2005年865兆ウォン、2010年1173兆ウォン、2012年1237兆ウォンと一本調子で増え続けた。
ドルベースの1人当たりGDPもぐんぐん増えた。1997年1万1582ドルと1万ドルを上回ったが98年には7724ドルに転落。99年も9906ドルだったが、2000年に1万1347ドルで1万ドル台に回復するとほぼ一貫して増え続け、2011年には2万2424ドルとなった。
サムスン電子の純利益の推移も興味深い。1995年に半導体メモリー事業が絶好調で2兆5000億ウォンを記録したが、96年には半導体不況で10分の1以下の1641億ウォンに落ち込んでいた。IMF危機で97年には1235億ウォンになった。98年に3132億ウォンになったが、力強さには欠けていた。
ところが、IMF危機の間も半導体事業への投資を続け、99年には3兆1696億ウォンに浮上、2000年には6兆145億ウォンと日本企業を圧倒する収益力を発揮し始めた。
ちなみに2012年7〜9月期には、4半期ベースで6兆5600億ウォンというケタ違いの強さを見せた。
IMF危機から15年。得意の猛烈なスピード意思決定と大胆な実行力で危機を短期間で乗り切って経済強国に浮上した韓国、韓国企業だが、「IMF危機15年」に祝杯を挙げるような雰囲気はない。
目前に迫った大統領選の争点もまた経済
15年前の大統領選挙も経済が最大の争点だった(写真は1997年12月18日、第15代大統領選挙の投票を終えた金大中氏=当時野党候補)〔AFPBB News〕
15年前の大統領選挙の最大の争点も経済だった。だが、2012年の大統領選挙の最大の争点もまた経済だ。
今回の争点は、「経済民主化」「雇用」「福祉国家建設」。成長、拡大、効率をキーワードに拡大を続けてきた韓国経済や企業活動から考えれば様変わりの内容だ。
それだけ経済の先行きが不透明で多くの国民が不安感を抱いているということだ。
IMFに救済支援を要請してから15年経った日の韓国の主要紙の見出しはこうなっている。
「国を強くした外換危機15年 庶民生活は忘れられた15年」(中央日報)
「IMF救済金融15年 経常収支13倍 外貨保有額急増 総負債3倍に増え成長率は4分の1に」(毎日経済新聞)
IMF危機を契機に韓国経済も企業も強くなったことは事実だが、庶民の生活は逆に苦しくなってきたというのが主な内容だ。
IMF危機の乗り切り策というのは、ひとことで言えば「強い者はどんどん強くし、弱い者は退出してもらう」という大リストラのことだ。
都市銀行や財閥の半分がこの過程で消えた。サムスンや現代自動車、SK、LG、ポスコ、ロッテなど勝ち残った財閥は飛躍的に事業規模や利益を拡大させた。その一方で、多くの財閥が消え去った。
弱肉強食の「超競争社会」
「弱肉強食」はサラリーマンにとっても同じだ。年功序列、終身雇用は「危機乗り切り」のために跡形もなく消えた。猛烈な社内競争で40代になると誰もが「いつクビになるか」におびえる。この恐怖感が「猛烈な仕事ぶり」の原動力になった。
就職希望者にとっても事情は同じだ。一流大学を卒業しても就職率は50%弱。有名財閥の就職競争力は「宝くじ」並みだ。
「TOEICで900点や会計士の資格は、いまや就職には役に立たない」――。ある有名大学4年生はこう話す。学業成績に加えて留学や資格は「基本」で、合格の十分条件ではまったくないからだ。
中小企業を経営する筆者の友人が最近、社員を1人採用した。
「大卒以上の経歴社員。日本語が堪能」
年俸は税引き前で2500万ウォン。あっという間に200人以上が応募してきた。修士、日本の有名大学卒業者、日本語通訳資格保有者・・・
円換算すればボーナスなしで手取り月給が13万〜15万円。条件が悪いとは言えないが、給与外の待遇などを考えれば決して楽ではない。それでも200倍の競争率だ。
恋愛、結婚、出産を放棄せざるを得ない「3放世代」
「3放世代」。韓国で最近、こんな言葉がある。1979年から1987年生まれ。つまり25歳から33歳くらいまでの本来なら人生で一番光り輝いている世代だが、この世代は、恋愛、結婚、出産の3つを放棄せざるを得ないという。
就職もできない。就職しても、非正規職やアルバイトでとても生活は苦しい。結婚どころか恋愛さえ無理ということだ。韓国の出生率が2000年以降、世界最低水準に落ち込んだのにはこうした事情がある。
IMF危機以降の大リストラに加え、最近は世界的な景気後退で一時鳴りを潜めていた「名誉退職」という早期退職勧奨を実施する大企業が増えてきた。
急速な高齢化で「退職後」の生活への不安も現実問題になってきた。
勝ち組も大変だ。
サムスングループの役員は午前6時半、部長以下の社員でも7時半には出勤する。ただ朝早く行くだけではなく、すぐに臨戦態勢だ。すると数日前にこんな話を聞いた。「現代自動車の研究所の幹部は午前6時までに出社するようになった」
筆者は最近、ソウルのスポーツクラブに加入しようと見学に行ってこんな話を聞いた。
「最も混雑するのは朝の6時から7時過ぎまで。7時半になるとがらがらです」
勝ち残り組も決して楽じゃない
サムスンや現代自動車のように6時や6時半に出勤する人たちは無理だが、そうでない知人たちの中にも、朝の5時台に起きて運動をしてから出勤する例が本当に多い。
運動してから出勤するといっても定時の9時に出社するのではない。7時半には席に着いて仕事を始めているという。
勝ち残り組も、さらに猛烈な努力をしているのだ。
ちなみに筆者が東京で通っていたスポーツクラブではこう言っていた。
「朝は混みます。7時過ぎるとお年を召した方がどどっといらっしゃるので・・・」
11月22日、また1つ気が滅入る統計が発表になった。韓国銀行(中央銀行)によると、9月末時点での家計負債は6月末時点に比べて13兆6000億ウォン増えて937兆ウォンになった。1998年には183兆ウォンだったから、15年間で5倍に増えてしまったことになる。
多くの国民が借金を抱えながら雇用不安に追い込まれているのだ。
韓国が迫られる選択
IMF危機を見事に乗り切った韓国だが、15年経過して再び大きな構造改革を迫られているのだ。
強い財閥をさらに強くすることでIMF危機を乗り切ってから15年。財閥を規制して「分配重視」の経済に進むのか。新しい成長軌道を探るのか。バラマキ型福祉国家の道を歩むのか。
15年前の大統領選挙で韓国の国民は、保守候補ではなく長年民主化運動のリーダーだった金大中候補を選んだ。
2012年の大統領選挙まであと1カ月弱。今回の最大の争点は「経済」だが、有力候補の政策は「成長一辺倒路線」の修正で似通っている。どの候補に今後5年間を託すのか。国民は選択に頭を悩ましている。
■編集部よりお知らせ■ JBpressでの連載をもとに大幅に加筆した本が刊行されました。『韓国財閥はどこへ行く』(玉置直司著、扶桑社、税込み1470円)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36622
中国:米QE政策が新興市場に悪影響-通貨ボラティリティ拡大
11月26日(ブルームバーグ):中国当局は、米国の量的緩和(QE)政策が新興市場通貨のボラティリティ(変動性)を高めているとの認識を示した。
世界貿易機関(WTO)で中国の副代表を務める朱洪氏は26日のジュネーブでの会合で、中国や他の多くの国は、米国のQEが新興市場国を中心に長期にわたるマイナスの影響を与えることになり、「無責任な近隣窮乏化政策」だと批判してきたと述べた。発言内容が会合終了後に公表された。
朱氏は、通貨のボラティリティは自国通貨が主要な国際決済通貨である一部の国が量的緩和政策を追求している結果だと指摘。「国際的な準備通貨を発行する国・地域の責任感を高め、協調を促進することがこの問題を解決する正しい道だ」と主張した。
原題:China Says U.S. QE Boosting Emerging-Market CurrencyVolatility(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ジュネーブ Jennifer M. Freedman jfreedman@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Hertling jhertling@bloomberg.net
更新日時: 2012/11/27 11:22 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-ME4DHI6K510Q01.html
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