03. 2013年1月13日 22:10:51
: GVYsLuFuCE
ソニーといえば、創業者の井深大氏が根っからのラジオ少年で、とにかく好きなことを仕事にしたことから、製品に対して妥協しなかったという。彼は外国からの国際短波ラジオ放送を聴く趣味(BCL)であった。自らの力で世界の一流メーカーのアメリカのゼニスや、西ドイツのグルンディッヒに肩を並べる高性能ラジオを送り出し、1975年のCRF-320で遂に彼らの製品を完全に凌駕して、世界の頂点に躍り出た。二輪車、四輪車の本田宗一郎氏と並ぶ、戦後日本を代表するメーカーに育て上げた。しかしソニーも、創業者井深大氏が亡くなってからというもの、創業当時の熱いスピリットは消えうせ、大企業だから食いっぱぐれがないだろうと入社する文科系大学生が主流をなし、出井社長の頃からおかしくなってしまった。 「ラジオなんて売れないし、そこそこ性能あればいいんだよ。売れなくなったらいつでもやめられる下請けにまかせればいいじゃない。」 そんな風に自社工場での生産をやめて下請けにまわし、井深氏の思い入れの強かったラジオは大半が中国の生産委託先に移されてしまった。ごく一部のラジオを国内生産にしているが、秋田県の十和田オーディオと言う下請けメーカーである。ここは生産だけでなく、設計開発まで行なえる本格的EMSである。ソニーは東京の馬鹿でかい本社ビルで、ただ商品企画をしているだけなのだ。 大崎の工場で組み立てていた情熱は、歴史のかなたに消えうせてしまった。かつてソニーを、ライバルのゼニスやグルンディッヒと同水準のメーカーに押し上げたCRF-230を見たことがあるが、部品の一つ一つを手で組み込み、ひとつひとつ半田付けしている。未熟者だと芋半田になってしまい、製品の寿命が短くなったりするが、このCRF-230は、マエストロ・クラスの社員が組み立てたものだろう。40年以上たっても、びくともしない。半田付けの出来栄えは秀逸である。 かつてのソニーはCRF-230や、後継機のCRF-320を頂点に、普及価格帯までびっしりと多彩な製品が用意されていた。ライバルの松下電器と火花を散らした家電販売合戦。1960年代、1970年代の対決はすさまじいものがあった。ユーザー間の優劣論争も過激になり、行き過ぎと見られる現象も見られたが、それだけモノづくりに相当な意気込みで望んだためだろう。 しかし今日、ソニーの国際短波ラジオ放送受信用の主力商品は、ICF-SW7600GR。これには、電波の強弱を視覚的に判断できるメーターすらない。LEDがあるだけで、点灯しているかいないか、それくらいしか判断する方法がない。もはや、製品に対する情熱は消えうせてしまった。ライバルとして出てきた中国大陸の高性能ラジオには、昔の日本製ラジオにあったように、電波の強弱を判断できるメーター(ただし液晶表示)がついている。 ソニーのICF-SW7600GRは困ったことに、手で回すチューニングつまみがない。別にテンキー入力ができるからいいけど、手で回すところにラジオの楽しみがあることを知らないのだろうか。そんなもの、過去のものだと思っているのだとすると、もはや製品に情熱など感じられない。CRF-230やCRF-320には立派なチューニングつまみがついていた。これで未知のラジオ放送を探し出すのが、BCLの醍醐味だった。今のソニーは、趣味を満足させる心遣いがない。中国大陸で作られるラジオの方が、BCLの醍醐味を味わせてくれる。 かつてBCLをしていた人たちが次々と復帰している。彼らがラジオを買おうとしても、かつての松下電器はパナソニックに変わっただけに留まらず、短波ラジオから撤退してしまった。赤字がひどく、製品を急速に縮小している模様だ。昔あれだけあったラジオも、ごっそりなくなってしまった。CDラジオカセットなんて一つしかない。テクニクスのステレオも全滅した。ここまで減らすのか ! あまりの凋落ぶりに悲しくなった。 ソニーはiPodに対抗するウォークマンとか出しているが、パナソニックに比べると、まだ救いはあるかも知れない。短波ラジオなんて売れないのだから、別にどうでもいいじゃんと思っているのだろうな。ソニーに入社する文系の大卒者など、ラジオなんて聴いたことないのだろうな。短波ラジオがカタログに載っていても、ライバルの中国大陸メーカーが、どう言う製品を出しているのか知らないだろう。本当のことを言うと、ICF-SW7600GRは時代遅れになりつつある。中国大陸のラジオは、DSP方式が増えているぞ。これは日本では採用していない技術である。 BCLに復帰している人たちは、日本メーカーの凋落に驚き、中国大陸メーカーの躍進に再び驚く。そして散々ネットで情報を集めたあげく、中国大陸のラジオを通販で購入する。ICF-SW7600GRは2001年に登場して以来、12年が経過している。前モデルのICF-SW7600Gが1994年登場だが、これを僅かしか手直ししていないから、事実上もう20年近くも前のラジオなのだ。国内販売価格は42,000円もする。だが、この価格で買う人は、よほどの情弱だけだ。日本からの輸出モデルを取り扱う通販業者が、日本国内に流している。これだと13,800円で買える。(ただしACアダプターは別売)実際、外国だと中国大陸メーカーに対抗するため、これくらいで販売している。外国に出かけた際に、免税店で見てください。 こんな価格で売っていたのでは、利益は殆ど出ない。ソニーとしては、利益が出ないから下請けに作らせているし、売れなくなったら後継機も出すことなく撤退する気だろう。もしくは中国大陸メーカーに生産委託するか。全然やる気がないのである。これでは先が思いやられる。井深さんも絶望していることだろう。 |