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前代未聞、「パチンコ店の裏側ツアー」景品交換、犯罪防止、すべての現場をお見せします!
2012年11月22日(木) 金田 信一郎 、 田中 深一郎
「こういう企画を考えているのですが、ご興味はありませんか」
パチンコホールの幹部から、そう切り出されたのは今年9月のことだった。「取材のご案内」と書かれたA4用紙のタイトルは、大きな文字でこう書かれていた。
「普段見ることのできないパチンコホールの裏側を公開」
パチンコ業は風俗営業として運営され、客は獲得したパチンコ玉を特殊景品に交換して、隣接する景品交換所で買い取ってもらい現金を得る。だが、パチンコ店が景品交換所を運営することは禁じられている。そこで、特殊景品を買い取る景品交換所や、それを仕入れてパチンコ店に卸す「卸業者」を人的・資本的につながりがないようにしなければならない。「3店方式」と呼ばれるシステムだが、この解釈を巡っては長く論争が続き、「事実上の賭博」「グレーゾーン」という指摘も聞かれる。
そこで、大手のダイナムジャパンホールディングスは、その疑惑を払拭する狙いもあって、「すべてを公開する」という方針を打ち出している。今年8月、香港証券取引所に上場を果たし、初の上場パチンコホールとなった。その勢いで、店舗の裏側まで完全公開するというわけだ。
1円パチンコで利益を上げろ
午前9時、本社があるJR日暮里駅のロータリーでダイナム幹部たちと合流し、クルマに乗って茨城県の店舗を目指した。運転手の新福克得氏(情報管理部)は大学を卒業した2003年に入社し、2年後に広島県内の店舗で店長(ストアマネジャー)に就任した。通常は3〜4店を回って経験を積んでから店長に昇格するケースが多いが、新福氏は2店目で店長に抜擢されている。
「学生時代から客としてパチンコ店に通っていた」という新福氏は、業務の飲み込みが早かったのだろう。最初に配属された店舗で「改善」や「ホール巡回」「接客マナー」などを一通り学ぶと、1年半後にはアシスタントマネジャーに昇格し、翌年には店長に就いている。
その後部座席に座った池上慎平氏(情報管理部)は2001年に大卒社員として入社。群馬→福井→富山と店舗を渡り歩き、富山で店長に昇格している。「福井では新店を立ち上げた。この経験が大きかった」という。オープンの4カ月前から仮設事務所を設置して、商圏を分析し、どのような店にするのか議論を重ねた。
大卒社員を大量に採用し、店長など幹部に起用して、新しい店舗を考えていく――。その背景には、縮小する業界で、厳しい生き残り競争が展開されている現実がある。パチンコ客数はピークの2900万人から1260万人まで急速に落ち込んでいる。これまで通りの中高年男性顧客中心の営業を続けていては、存続が危ぶまれる。
ダイナムは貸し玉を1玉4円から1円へと引き下げ、大当たりの確率も高めたパチンコ台の導入を進めてきた。それは、「時間消費型」の産業へと急速にシフトするためだった。「貸し玉1円だから、ライバルよりも少ない人数で効率的に店を回さないと利益が出ない」(池上氏)。ムダな作業を削減するアイデアを生み出し、全国347店にもノウハウを広げていく。
2000年代後半から1円パチンコ店の展開を本格化し、「ゆったり館」「信頼の森」といった低価格・時間消費型の店舗網を広げてきた。
「そもそも、パチンコ店に客が来なくなった理由を聞くと、ギャンブルが嫌いだという人が55%にも上った。タバコの臭いや騒音がダメだという人も45%いる。こうした課題にチャレンジしたのが1円パチンコ店だった」(新福氏)
女性を取り込む
午前10時半、クルマが茨城県のショッピングモールに到着する。駐車場を進んでいくと、平屋建ての巨大な建物が出現する。ここが1円パチンコ店「ダイナム信頼の森イオンタウン水戸南店」(茨城県東茨城郡)だ。
外観は薄緑を基調にして、派手な電飾は見当たらない。従来のパチンコ店が持つギラギラしたイメージは感じられず、むしろホームセンターに近い印象を受ける。その「落ち着いた雰囲気」は、店の中にも続いている。
昔のパチンコ店は、大音量で「軍艦マーチ」が流れ、電子音と機械音がけたたましく鳴り響いていた。そんな喧噪の中、店員がマイクを握って「○番台、大当たり」と叫ぶと、銀の玉がじゃらじゃらと流れ出る。当てた客の足下には、一杯になった「玉箱」が積み上げられていた。
“ギャンブル”の魅惑的な雰囲気――。だが、そのことが若者や女性といった客層には「入りにくい空間」という壁になり、業界を縮小させてきた。客層を広げなければ、業界の縮小が止まらない。そう考えたダイナムは、「女性でも入りやすい店舗」を追求してきた。
それだけに、信頼の森には旧来の「パチンコ店」のイメージを覆す仕掛けが随所に施されている。店内の音量を抑え、しかも1台ごとに防音パネルを設置している。
ホール内は分煙が徹底されており、喫煙室を設けている。だが、その隣には禁煙休憩室もある。マッサージ機に座り、マンガを読むこともできる。
「大当たり確率」も、通常の4円パチンコは「400分の1」程度になっていたが、より高い頻度で大当たりが出るように確率を100分の1程度にした台を置いている。「通常、2000円あれば十分楽しめる。ゲームセンターより安いかもしれない」(森治彦取締役)。さらに、「くつろぎ空間」として、1玉0.5円という安価な料金の台を設置したコーナーもある。
こうした取り組みが、多くの顧客層を引き付けている。かつては、特殊景品によって数万円を得るか、「すっからかん」になって帰るか、という顧客が多かった。だが、ダイナムの「娯楽産業化」によって、ちょっと玉を増やしたところで、パチンコを終える客も増えている。そうした人に対応して、G景品(景品交換所で現金に交換できる景品)だけでなく、多様な景品を店内に取り揃えている。カップラーメンや菓子、日用品、CD、さらにはペットフードや家電製品まで並ぶ。コンビニの店舗を思わせるような陳列棚となっている。そのため、通常は、G景品以外の景品を持ち帰る人は1%を切ると言われているが、ここでは一般の景品を選ぶ人が2.6%に上るという。
「行政からは、パチンコ台数と同じ位の種類の景品を置くように指導されているが、うちの1円パチンコ店は2〜3倍の景品を並べている」(新福氏)。しかも、無駄な在庫を抱えないように、自動受発注システムを導入。そのため、景品の陳列棚のすぐ裏にある「景品倉庫」は小さなスペースで、棚にも少量の景品しか保管されていない。
そして、取材陣はついに、パチンコ店を運営する舞台裏に足を踏み入れた。
鉄のレジ板から「G景品」が…
「事務所」と書かれた扉を開け、内部に入っていくと、きれいに整頓された3つの机が並べられた部屋に通された。その時、社員がこう切り出した。
「ちょうど、G景品が到着しました」
事務所内に鍵が掛かった小さな部屋がある。そこに入金機と金庫が置かれている。その部屋の真ん中に、卸業者が持ってきたG景品が置かれていた。
「ペンダントトップ」と呼ばれるカード型のG景品で、ピンクが5000玉、オレンジが1000玉、紫が200玉で交換できる。客はそのカードを景品交換所に持って行けば、現金を手にすることができる。
日々、客が持ち帰るG景品を集計し、その分を卸業者から購入している。その取引が、この小さな部屋で行われているわけだ。部屋の奥には、売上金を納める入金機も設置されていた。
さて、ここでパチンコに馴染みの薄い方のために、記者がパチンコ店の基本的な流れを、実体験を交えながら解説する。機種は、人気の「スーパー海物語IN沖縄」。まず、パチンコ台選びから始まる。台の上には「大当たり確率」が表示されており、電光掲示板には、実際に大当たりした回数などのデータが表示されている。当たった回数が多い台を選ぶのか、はたまた、あまり当たっていないから「そろそろ当たるはずだ」と読むのか、客の個性が出る。
台を決めて座ると、正面左にある投入口に1000円札を入れる。そして、200玉(200円分)単位で玉を出して、手元にあるハンドルを右に回して打つ。昔のように、ハンドルにコインをはさんで固定して、自動的に打つことは禁止されていた。
台の中央部にある「入賞口」に玉が入ると、デジタル表示版が動き出し、3つの絵柄が揃うと「大当たり」。ちなみに、1円パチンコでは通常の4円パチンコよりも高い「大当たり確率」となっているため、少額で長い時間楽しめるわけだ。
遊技を終える場合、ボタンを押すだけで球数の情報が入ったカードが出てくる。それを持って、違うパチンコ台に移って遊技を続けることもできる。店を出る場合は、まず「カード精算機」で残金を回収する。例えば、1000円札を入れて600玉を使って遊技した場合、残りの400玉分の料金400円が戻ってくる。
そして、「大当たり」などで玉を獲得した場合、そのカードをレジに持って行く。
レジの台には、タバコやドリンクの交換表とともに、G景品の交換表が中央に置かれていた。
多くの客はG景品に交換するが、半端な玉数はスナック菓子などに交換することになる。多くの景品がレジの後ろに並んでいて、店員が交換できる景品を教えてくれる。
そしてG景品は、レジ台の中央部にある黒い鉄板が開き、中から自動的に搬出されてくる。厳重な管理が施されているわけだ。そして、一般景品を入れた買い物袋とともに、店員から手渡される。
さて、G景品を手にした人はどうするのか? 店員は景品交換所がどこにあるのか教えてくれない。
仕方なく店を出ると、なんとそこに白い小さな店舗が…。そして、G景品を持った人々が中に入っていく。
ドアを開けると、そこには窓口が1つあるだけ。しかもガラス窓にはシャッターが降りているため、中をうかがい知ることはできない。客はここに入ってくると、無言でG景品を窓口の下から差し出す。すると、中から、やはり無言で現金が渡される。
「金髪禁止」の徹底
1店目の取材を終えた一行は、再びクルマに乗り込み、次なる店舗へ向かった。幹線道路を走ること約1時間、わき道に少し入った場所に「ダイナム岩瀬店」(茨城県桜川市)が姿を現す。
岩瀬店も水戸南店と同様、外観からはパチンコ店の雰囲気をほとんど感じさせない。木造平屋の茶色い建物と広々とした駐車場を眺めていると、まるで郊外の健康ランドにでも来たかのような錯覚に陥る。こうした店の造りを採用している理由は、入りやすい雰囲気を醸し出す効果もさることながら、コスト抑制など「チェーンストア理論を学び、効率運営を目指してきた」(森氏)からだという。
しかし、岩瀬店は1円店の水戸南店と異なり、パチンコ営業の基本だった4円貸し玉の店舗だ。店内に一歩足を踏み入れると、すぐにその違いが分かる。
まず、タバコの臭いが鼻を突く。昼下がりで客数が増え始める時間帯のせいか、店内に響き渡るパチンコ玉の音も格段に大きい。貸し玉料金が4円のパチンコ台が主力機種。顧客層は40〜70代の男性が中心で、農業従事者が多いという。高い貸し玉料金で遊技しているだけに、台を見つめる視線も鋭い。雰囲気はぐっと重厚になった感じだ。
岩瀬店店長の吉沢祐二氏は、2002年に入社してから、山形を振り出しに鹿児島、山口、三重の各県で店舗経験を重ねてきた。三重県では、ダイナム傘下の同業、オークワジャパンの店舗にダイナム流の運営方法を導入する重責を担った。
昨年9月、吉沢氏はこの店に着任した時、店員を見渡して「なっていないな」と感じた。ダイナムでは男性従業員は「茶髪禁止」だが、若いアルバイトの多くが金髪に染めていた。「アルバイトを含めた全従業員に店舗方針をしっかり伝えて、挨拶や身だしなみといった規律の向上を、1年かけて徐々に改善してきた」(吉沢氏)。
不正と犯罪の厳重チェック
1円パチンコに比べて高額な遊技代をかける4円貸し玉の店舗では、不正遊技の防止が重要になる。このためダイナムでは、パチンコ台を勝手に開けたり、玉を持ち込むといった不正行為を発見するためのシステムを整備している。
その中核となるのが、事務所に設置した「ホールコンピューター」だ。パソコンの画面を見れば、利用されているパチンコ台の状況が一目で分かる。また、各パチンコ台の打ち玉や出玉の数、入賞口に玉が入った回数、さらに台ごとの利益など、詳細な数値データが把握できる。「大当たり」が出過ぎて、損失が膨らんでいる台も、すぐに見つけることができる。それをチェックすれば、不正行為を発見することにもつながる。客がパチンコ台を開けるといった不正行為が起きると、画面に「セキュリティー異常」の警告が表示される。同時に、全従業員のインカムにもアラーム音が鳴り響く仕組みだ。
監視カメラも数多く設置されていて、そのモニター画面が事務室の壁に掛かっている。それを見ていると、急にある男性客がアップで映し出された。
「恐らく、遊技態度が良くないお客様ですね。足で蹴る、台を叩くなど、不審な行為があると、このように監視を強化する」(新福氏)
パチンコ台が開くなどの異常があると、その場所が自動的にズームアップされて、すぐに不正の現場を確認できる仕組みになっている。ただ、吉沢氏によると「アラームは1日に数回鳴るが、多くは店員のミス。アラーム解除を忘れてパチンコ台を開けてしまう、といったケースで、犯罪行為はほとんど見られない」という。
ちなみに、業界では、出玉確率などを不正に変更する「ROM操作」が問題視されたことがあったが、現在は客はおろか、従業員でも手を出せないようになっているという。大当たり確率はROMに設定されているが、これに触れることが出来ないように厳重に保護されているからだ。
事務所にもパチンコ台が置かれていたが、背面を見ると、中枢部のROMは透明のカバーで覆われており、開ければ痕跡が残る仕組みになっている。だから、たまたま大当たりを繰り返して、ホールの損失が膨れ上がっても、出玉を調整することはできない。「その日は1日、じっと見守るしかない」(新福氏)というわけだ。
だが、玉の転がり具合で収益が決まってしまえば、それこそ「博打」のような経営になってしまう。それでも、ダイナムは売上高や利益といった業績数字は安定している。果たして、パチンコ店はどのように経営されているのか。
「その答えは、3店目で分かると思います」。ダイナム幹部はそう言って、岩瀬店を後にしようとした。
事務室を出て、レジの前を通り過ぎる時、興味深い景品が目に飛び込んできた。陳列棚を埋め尽くすように、アイドルグループ「AKB48」のグッズが並んでいた。「AKBグッズの中には、パチンコホール限定で作られたものもある。だから、ファンの中には、まったくパチンコを打たずに、カネを玉に換えて、そのままAKBグッズと交換して帰る人もいる」(企画調整グループ・菊地俊治氏)。
出玉率は変えられるか
岩瀬店からクルマで30分、最後に訪れたのが1円店、「ダイナム信頼の森岩間店」(茨城県笠間市)だ。夕方になり、駐車場はかなり混み合っていた。主婦が夕飯のための買い物に出かけ、その帰りに立ち寄るケースも多いという。
店内に入ると、パチンコ台の配置や景品スペース、休憩所の位置が、最初に取材した水戸南店と似ている。G景品を収めた機械こそ違ったが、一瞬、同じ店に迷い込んだような錯覚に陥る。チェーンストア理論による店舗運営が、こうした効率的な出店にも現れている。
岩間店では、パチンコホールの収益構造に関する解説が始まった。
パチンコ店は貸し玉で得た総収入から、払い出した景品コストを差し引いた「粗利益」を安定化させることが経営のポイントとなる。この数字は、「出玉率」と「G景品利益率(換金率)」という2つの数字に大きく左右される。「一般的に言って、パチンコ店はこの2つの数値を調整することで、粗利益をコントロールしている」(新福氏)。
出玉率は、購入した貸し玉の数に対し、何個の玉が戻ってくるかを表す。例えば1円パチンコの場合、客は1000円を支払うと1000個の玉を借りることができる。この貸し玉でパチンコを打って、800個の玉が出た場合、出玉率は80%になる。逆に、大当たりを連発して2000個の玉が返ってくれば、出玉率は200%だ。当然、出玉率が低いほど、パチンコ店側の儲けは大きくなる。
次に、G景品利益率。これは、パチンコを打って獲得した玉を客がレジに持ってきた時に、いくらの価値があるG景品を渡すか、を示している。G景品利益率はパチンコ店ごとに設定が異なっている。例えば、1000個の玉を1000円分の価値のあるG景品と交換するならば、店が得るG景品利益率はゼロ。一方、理論的には980円の価値があるG景品と交換するとすれば、店は20円の利益を得られる。
ある店舗が、G景品利益率はゼロに設定し、出玉率が97〜98%程度だとしよう。1万円を持ってその店にパチンコを打ちに行くと、平均して9700〜9800円のリターンがあることになる。もちろん、この数字は平均値であり、1万円を投入して玉をすべて失うこともあれば、数万円の価値があるG景品を獲得するケースもある。
さて、ポイントはここからである。大当たり確率は、パチンコ機メーカーが設定した数値を変更することはできない。だが、大当たりを出すためには、入賞口に玉を入れて、スロットを動かして、当選しなければならない。つまり、打った玉が入賞口に入らなければ、大当たりは出ないのだ。これは、宝くじ抽選会に例えると分かりやすい。宝くじの抽選は、回転するルーレット板に矢を射て当選が決まる。当選確率は、そもそも矢を何本射るかに大きく左右される。
玉が入賞口に入った後、どのくらいの割合で大当たりになるかは大当たり確率として、メーカーが設定している。パチンコ店がこの確率を操作することは、事実上、できないと言っていい。店がメーカーから受け取ったパチンコ台を設置する際や、メーカーに送って修理した後は、警察による承認が必要になる。「実際に玉を打って動作を確かめるか、ベテラン(の警察官)の場合は目視で確認する場合もある」(新福氏)。
そうなると、玉が入賞口に入る確率は、パチンコ店にとって存亡に関わる数値ということになる。入賞口に入りやすい状態になったパチンコ台を放置すれば、損失が膨れ上がる。逆に、入賞口にほとんど玉が入らないと、客が離れていってしまう。
この微妙な調整を、一般にパチンコ店は「釘調整」という手法でコントロールする。パチンコ台に取り付けられた釘は、大量の玉が当たることになる。物理的な変化が起きるため、営業時間外に台を開けて、ハンマーや専用工具を使って微調整していく。逆に言えば、この調整をしなければ、パチンコホールの経営はまさに「ギャンブル」になってしまう。取材では、釘調整についてダイナムは口をつぐんだ。
景品交換所の謎
取材の途中で、パチンコ店に2人のスーツ姿の男性が現れた。声を掛けると、彼らはダイナムにG景品を納めに来た、コーヒー卸業者としても知られる三本コーヒーの小形純一執行役員と川合真美・水戸支店長代理だった。三本コーヒーはホテルなどに業務用コーヒーや食材を卸すビジネスが主力事業だ。しかし、「昔はパチンコ店の近くには必ず喫茶店があった。併設されている場所もあり、そうした中から取引が始まったのではないか」(小形氏)。現在、三本コーヒーはG景品の卸業務を手掛けて、ダイナムの東日本の店舗に商品を納めているという。
パチンコホールと景品交換所、卸業者との間で景品が流通する、「3店方式」について聞くと、店舗の出入口の横にある景品交換所に行って、説明してくれた。
小さな窓口には、「岩間商会」という札がかかっている。これが、交換所の運営会社の名称だという。「パチンコホールから渡された景品を、まず岩間商会さんが一般的な市場で買い取る。我々は、他のホールからの発注を受けて、岩間商会さんのような買い取り所(景品交換所)から景品を買い付け、パチンコホールに納品する」(小形氏)。
「一般的な市場」とは、通常の商取引という意味で捉えていい。景品交換所は古物商として営業している。三本コーヒーとダイナムの数県にある店舗が取引しているG景品が「ペンダントトップ」と呼ばれるもの。一般のアクセサリーショップやインターネットサイトでも販売しているという。このため、一般的に市場で売買されている商品を取引しているというわけだ。
パチンコホールの営業は、G景品を換金する景品交換所と、それを買い取ってパチンホールに卸す業者が必要となる。だが、法制度上、この3者は、人的・資本的な関係のない別々の会社が運営しなければならない。だが、パチンコホールがオープンする際に、間違いなく近くに景品交換所ができるのはなぜなのか。
「ホールと取引している卸業者が、近隣の知り合いなどに声をかけて、(景品交換所を担う)人を探してくる」(小形氏)という。
さらに、取引を複雑にしているポイントがある。あるホールから出た景品が、そのまま店に戻ってこないようにすることだ。あるパチンコ店から出ていった景品が、そのまま同じ店に還流すれば、「3店方式の主旨に反する」(小形氏)と見なされるからだ。このため、同社はパチンコ店からG景品の注文を受けてから、景品交換所に買い取りに行くという。だが、それではG景品が景品交換所に滞留するリスクはないのだろうか。未だ、複雑な商取引を取らざるをえない実状が垣間見える。
法的な問題が長年に渡って議論されてきたパチンコ業界――。それだけに、非合理的な商慣行や、法解釈が揺れる部分も残っている。そうした中で、香港上場を果たしたダイナムは、これまで閉じていた業界の裏側を、公開していく姿勢を取っている。そこに、業界正常化の道を見いだしているに違いない。
金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)
日経ビジネス副編集長。日経ビジネス記者(1990〜2006年)、ニューヨーク特派員(2006〜2009年)、日経ビジネス副編集長(2010年)、日経ビジネスオンライン副編集長(2011年)を経て、2011年9月から現職。
田中 深一郎(たなか・しんいちろう)
日経ビジネス記者
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121121/239717/?ST=print
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