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世界の家電見本市では、李健熙会長率いるサムスンなど中韓勢の勢いが目立つ〔PHOTO〕gettyimages
第3部 日本企業 われわれはどうしたらいいのか 中国・韓国にもう勝てない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34093
2012年11月21日(水)週刊現代
置いていかれたニッポン 世界の経済はルールが変わっていた!
■スピード感が違いすぎる
「日本の製造業が老衰の淵で死にあえぐのは、感情としては忸怩たるものがあるが、産業史の必然だ。ソニーの今回の決算にしてもシャープやパナソニックよりましだと言われているが、黒字を出しているのは映画、音楽、金融部門であり、モノづくり企業としては慘澹たるもの。イギリスの繊維業者は見る影もなく、アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)は2009年に破綻した。パナソニック、シャープ、ソニーが・かつての姿・に戻ることは不可能だ。日本の電機メーカーはもう中国、韓国勢に勝てない」(元ソニー幹部)
地球儀を前に、まずはあの香川真司が活躍するサッカーチーム、マンチェスター・ユナイテッドの本拠地に指を置く。その指を右に弾き、地球儀を西へクルリと回す。たったこれだけのことで、モノづくりの「中心国の移り変わり」が体感できる。
産業革命を世界で先駆けて繊維や鉄道産業を興したイギリス。中でもマンチェスターはその中心地の一つで、巨大な繊維工場が立ち並ぶ一大工業地帯として世界に名を馳せた。
大西洋を越えると、現れるのはアメリカだ。大量生産方式を武器に高性能な車を安価に世界中にばらまいたGMが象徴するように、この国が第二次産業革命の覇者であった。
さらに地球儀は回り、太平洋を渡ると、日本にたどり着く。ソニーのウォークマンが全世界で大ヒットし、松下電器(現・パナソニック)が米タイム誌に巻頭特集され、トヨタの「カンバン方式」をマネしようと世界中の企業が殺到。アメリカに果敢に挑戦を挑み勝利を勝ち取ったのは、ジャパン・アズ・ナンバーワンと称された日本の製造業だった。
そしていま、無情にも地球儀はさらに西へと回り、モノづくりの中心は韓国に移動。サムスンやLGがテレビや携帯電話、家電を世界中で売り歩き、日本のお株をすっかり奪ってしまった。さらに後ろには中国、インドが控えている。
日本の大手電機・自動車メーカーからアジアの巨大企業までを取引先に持つ工作機器メーカー社長もこう語る。
「日本の企業を相手に商談をすると、必ず最後に『持ち帰ります』と言う。社内で何個もハンコをもらって決裁してからじゃなきゃビジネスが進められない。中国や台湾、韓国のメーカーは違う。プライベートジェットでトップが世界を飛び回って、トップ同士で直接交渉する。その場で納品の量から価格、時期まで社長がすべて決定するのだからスピード感が違う。
それに彼らは日本企業みたいに中間管理職が何人もいる組織じゃなくて、ほぼ全員がプレイヤー。かつてサムスンが海外に人材を送り出す時、片道切符で行かせ、業績が上がればその分は給料を与えるというスタイルで、一攫千金≠狙う猛者達が次々に新興国を開拓していったそうだ。海外駐在といっても中心都市にしか人を送り込まず、借り上げ社宅で優雅な生活を送らせている日本企業が勝てるわけがない」
■見て見ぬふりはもうできない
世界中に張り巡らせたマーケティング拠点から売り上げデータを集積、最新の需要がどこにあるのかを見つけたら即座に商品化し、トップダウンでカネと人員を集中投下して一気に市場を制覇していく。市場は秒単位で変化していくのだから、トップの指令は朝令暮改どころか「朝令朝改」―これがグローバル時代の常識だが、日本企業のサラリーマン社長は大胆な決断も改革もできず、ダラダラと赤字を垂れ流し続けている。
「勝負はずっと前についていた。日本人が見て見ぬふりをしていただけです」。電機業界の取材を長く続ける経営学者でジャーナリストの長田貴仁氏は言う。
「2007年に欧州を回って電機産業の実態を取材した際、パリの家電量販店を覗くとシャープのテレビは1台くらいしか置いていなかった。パナソニックもちょこちょことある程度。いっぽうで売り場の中心にドカンと展示されていたのがサムスンで、圧倒的な存在感でした。サムスンは当時すでにフランスでのテレビ販売シェアの4割ほどを握っていたから当然といえば当然。パリの街角でシャープはどこの国の会社かと尋ねると『韓国かな』との答えが返ってくるほど、日本企業の存在感は薄かった。
同じ時期、日本ではサムスンが日本の家電市場から撤退するとのニュースが流れていた。これを見て多くの日本人は『やっぱり韓国製品は安かろう悪かろうでダメなんだ』と思っていたが、現実はそうではなかった。サムスンはこんな効率の悪い日本に資本投下するより、世界で勝負したほうがよっぽど未来があると考えていたわけです。そして実際、欧州市場はサムスンが次々に支配していった」
日本企業が「まだまだ優位性がある」と慢心≠オていた技術力でも中国・韓国勢に追い抜かれている。
象徴的だったのが、今年1月、米国ラスベガスで開かれた国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」。来場客が殺到したのが韓国の両雄サムスンとLGのブースだった。お目当ては両社が初めてお披露目した55インチの有機ELテレビ。厚さ数mmと極薄なうえ画像はきわめて美しく、しかも液晶より省エネ。初めて間近に見た観客たちはカメラのシャッターを切り続けた。
「有機ELテレビは次世代テレビの本丸で、日本勢も開発部隊を作ってやってきたが、完全に出遅れた。いまやサムスンが世界の有機EL市場の8割を独占している。中国最大手の京東方科技集団(BOE)でさえ、来年から中小型の有機ELパネルの量産に入るといわれている。パナソニックとソニーが今年、有機ELの共同開発をすると発表したが、いまさら何ができるというのか。日本のメーカーは『技術で勝ってビジネスで負ける』といわれてきたが、いまは違う。『技術でもビジネスでも負ける』時代に入った」(電機メーカーと取引のある経営コンサルタント)
■最悪の状況だが希望はある
製造業の崩壊は、日本経済の崩壊でもある。すでに足元では不況が庶民の生活を蝕んでいる。たとえばシャープの巨大工場が建つ三重県亀山市では、
「工場労働者のために建てたワンルームマンションは空室が目立ち、かつては工場の設備事業者や建設業者らで潤っていた市内のビジネスホテルも経営が厳しくなるほど稼働率が落ちている。工場に搬入出するトラックで混雑していた道路には、いまでは鹿やイノシシが出ると話す人もいる。話を聞いた部品業者の社員は、転職を決意して会社を辞めました。もうシャープに望みはないと」(亀山市議会議員の服部孝規氏)
天下のトヨタ自動車のお膝元でもこんなことが起きている。
「トヨタの下請けの社長たちはよく言います。『仕事はあるけど、儲からない』。トヨタのコストカットに付き合っているため、彼らももうギリギリのところで仕事を受注しているんです。働いても働いても給料は下がっていき、中には十数万円しか給料を取っていない社長もいる。彼らは外食を控え、食費を切り詰めているから周辺の飲食店街のネオンも消えてきた」(経営コンサルタントの北見昌朗氏)
製造業が倒れれば、下請けの部品メーカー、材料を納入する素材・化学メーカーから製品を包む梱包業者、モノを運ぶ運送業者まで軒並み共倒れする。多くの産業でリストラや給料カットが始まればおのずと庶民の財布の紐は固く締められ、レストラン、ファッション、映画、テーマパーク、百貨店などサービス産業が大打撃をくらう。製造業と運命共同体である日本経済の成長はもはや望めない。
われわれはいま、どうしたらいいのか。
「イギリスはシティを、アメリカはウォール街を世界の金融の中心地に成長させることで、製造業に代わる国家の食い扶持を作り上げることに成功したが、日本は『次』が見えないのがきつい。外国語を駆使するグローバルエリートはすでに日本を見限って、海外企業を転々としたり、新たな地で会社を興したりしている。このままいけば優秀な人材は海外に去り、日本は出遅れた企業と人材ばかりの後進国≠ノ落ちぶれていく運命にある。そうなれば国家の食い扶持がないのだから、年金や医療といった社会保障制度も維持できなくなり、あちこちに貧困層や病気を抱えた高齢者があふれる悲惨な光景が広がることになるだろう」(外資系企業に長く勤める企業幹部)
ただ嘆いていても仕方がない。次の飯のタネさえ作れれば、日本経済にはまだまだ希望があるのだ。このほどノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のiPS細胞の技術や、ひとつの都市の中で発電から電力消費までを完結させるスマートシティの技術など、探せばその原石≠ヘいくらでも見つけられる。
長くモノづくり企業で働いた中高年の経験と知恵を欲しているベンチャー企業だって、いくらでもある。産業は死んでも、ヒトは死なない。65歳定年までしがみつこうなどと考えず、いま自分に何ができるのかを考え、新しいフィールドへ一歩を踏み出す。日本人一人ひとりがその歩みを始めたときに初めて、新しい日本経済の未来が切り開かれる瞬間が訪れるのだろう。
「週刊現代」2012年11月24日号より
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