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早期化・長期化・煩雑化する「平成の就職活動」の惨状 “過剰な自分探し”も就職難を招いていた!? 自己分析のジレンマ
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投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 21 日 02:26:48: cT5Wxjlo3Xe3.
 

早期化・長期化・煩雑化する「平成の就職活動」の惨状

日経ウーマン発行人が考えるシューカツ問題の本質(第2回)

2012年11月21日(水)  麓 幸子

 12月1日より、2014年3月卒業予定の大学3年生と大学院修士1年生の就職活動が本格的に始まる。この日から、企業の採用活動がスタートし、就職情報サイトや企業の採用サイトがオープンして、学生は志望する企業にエントリーができるようになるのだ。

 「サイトオープンの初日には、学生が殺到して、どのサイトもパンクしてしまいます」(就職情報サイト関係者)

 大学3年である私の娘もこのところ、自己分析や業界研究のための本を購入したり、就活用のスーツを準備したりと慌しい。

 「さあ、いよいよ始まるという感じ。12月から怒涛のような日々になるからね」と娘。

 怒涛か。確かにそうだ。いろいろな情報や出来事が渦巻いて押し寄せてくる。そして学生の生活は日々、シューカツに追われていく。

 3年前の息子のシューカツの時に、それを実際に目の当たりにして驚くことばかりだった。今回は、昭和の就活と平成のシューカツの違いを紹介したい。そして、今の学生がいかに就職活動に莫大な時間と手間とエネルギーを費やすかを知っていただきたいと思う。

平均で約90社にエントリーし24社にESを提出

 1980年代。親世代の就活は、今の就活と比べるとある意味、牧歌的であった。

 当時は就職協定があったため、建前上は大学4年生の10月1日が会社訪問解禁日、そして11月1日が入社試験解禁日となっていた。しかし、1984年11月1日、入社試験解禁日当日の日本経済新聞は、「男子学生の9割が入社試験待たずに内定、しかもその8割が10月1日前に内定」と報道している。それによると、当時の学生は、4年生の夏休み前後から本格的な就活を始め、平均約14社を訪問し、3〜4カ月で内定をもらっている。今と比べると非常に短期決戦である。

 就活の流れも至ってシンプルだ。大学の就職課に寄せられた求人票や就職案内誌の求人広告などを見て、資料請求はがきを志望企業に送り、応募書類を取り寄せて、その後は履歴書とともに送付する。それが通れば、一般教養や時事問題の筆記試験を受け、その後は数回面接があり、内定が決まる。

 子供たちが直面する平成のシューカツは違う。まず、スタートは大学3年生の12月。その時点で親世代よりも半年以上早い。早く始まり、早く終わるならまだいいが、早くても内定(内々定)が出るのは4月から7月頃と長期化し、さらに煩雑化している。

 学生たちはまず、就職情報サイトや企業の採用サイトなどで、資料請求はがきや会社説明会の申し込みをして、その企業に志望するという意思を表明する。その(プレ)エントリーが済むと、企業から会社案内や説明会の案内などが郵送やメールで届く。その後志望企業にエントリーシート(ES)や履歴書を送る。これが正式なエントリーとなる。

 ESも我々親世代にはなかったものだ。ESには「志望動機」「自己PR」「学生時代、力を入れたこと(略してガクチカ)」などを記入するようになっており、それを400文字などで決められた文字数で記入する。

 多くの学生が入社したいと思う大手企業には何千、何万枚のESが届くわけだが、そのたくさんの中から採用担当者に「この学生に会ってみたい」と思わせる出来ではないと次の段階に進めない。

 最近では、文章だけではなく、「写真やイラストなどを用いて自由に表現しなさい」「フリースペースに自由に表現してください」とのお題が出ることもあり、より、オリジナリティーやクリエイティビティーを問うESも登場している。

 就職情報サイト「日経就職ナビ」の2013年度学生モニター調査(ディスコ調べ)によると、学生1人当たりの平均エントリー数は89.1社、ES提出は23.6社である。

 我々の時に就活で書いたものと言えば、履歴書や論作文くらいだろうか。ある学生は1社につきES作成は4時間かかると言っていた。それを24社分も作成するといったら……。それに費やす時間や手間はとてつもなく多くなる。

「就活の筆記試験は自宅のパソコンで受ける」不思議

 私の息子は自分用のパソコンはなかったため、彼はリビングの家族共用のパソコンで、就職情報サイトに登録したり、企業の情報を集めたり、ESの準備をしたりといろいろと就活関係の作業をしていた。

 エントリー開始となってからは、ほぼ毎日リクルートスーツを着て出かけていた。どこに行っていたかというと、就職情報サイトが主催する企業の合同説明会(略してゴウセツ)や会社説明会、OB訪問、セミナーなどなど。

 とにかくスーツの出番が多かった。毎日着て出かけいくので、すぐにヨレヨレになってしまい、最初に買ったスーツでは間に合わなくなり、結局後で2着ほど追加した。スーツだけではない。靴の消耗もひどく、それも買い足した。

 そう、今の就活はお金もかかる。日経就職ナビの同調査では、就活には平均15万4311円かかる。一番多いのは交通費で7万1362円。ゴウセツや会社説明会や就活セミナー、それに企業の面接などに行く往復の交通費も、積もり積もれば大きな額となる。地方から首都圏などで就活する場合は、交通費を浮かすために、深夜バスなどを利用する学生も多い。リクルートスーツ(ワイシャツ、靴などを含む)に約3万9460円。そのほかに情報通信費、就職用の雑誌・書籍などもかかる。

 そして、息子は、夜になると、リビングのパソコンの前に陣取り、カタカタと志望動機や自己PRを書いては文字アカウント機能で文字数を調べ、それからESに直筆で書き直していたのを思い出す。

 ESや履歴書などを提出し、第1次選考を通ったら、能力適性検査や性格適性検査などの筆記試験を受け、その後面接に進むことになる。日経就職ナビの調査では、筆記・ウェブ試験受験者数は16社。

 その筆記試験でもびっくりしたことがある。ある夜、息子がリビングのパソコンで試験のようなものを解いていたので、何をしているのか問うと、今、筆記試験の最中だという。え!自宅のパソコンからネット上で試験が受けられる? そんなことしたらカンニング放題ではないかと。

 筆記試験(適性検査)で、最も多く導入されているのは、「SPI(Synthetic Personality Inventory)2」というものである。これは、中学から高校1年レベルの国語や算数という基礎知力を測る能力適性検査と、その人の性格の特性を測る性格適性検査からなる。

 実施形態は、パソコンで受検するものに主流が移りつつあり、パソコン受検タイプには、「テストセンター」と呼ばれる専用会場に設置されたパソコンで受検する会場受検型と、自宅などのパソコンで受検するウェブテスト型の2つがある。その時、息子は自宅のパソコンでウェブテストを受けていていたというわけだ。

 筆記試験の後は、面接へと進む。日経就職ナビの調査では、学生が面接を受ける会社は11.4社。同企業調査では、面接の回数は「4回」が最多の5割となっており、3〜4回で面接は決まるとみていい。また、「5回以上」も前回より増え、1割を超えたことから、面接回数を増やし、人材をより見極めようとしている姿勢がうかがえる。最近では、8回面接を実施するという金融機関もあると聞いた。

最終面接までは何社も通るのに、そこで落とされ続ける学生も

 面接スタイルも親世代とは大きく様変わりしている。集団面接、個人面接のほかに、ひとつのテーマを学生が討論するグループディスカッションや、学生が「賛成」「反対」の2つの立場に分かれて討論するディベート、課題を与えられ話し合ったり作業したりするグループワークもある。

 そのテーマも、「当社の販売戦略を考える」「顧客満足度を向上させるには」という仕事関係のことから、「婚活は必要か」「東京オリンピックは賛成か反対か」など幅広いテーマが選ばれる。当然、テーマは事前に知らされることなく、面接会場で出されるのだが、それぞれのお題に対して上手に対応することが、意外にタフな作業であることが分かるだろう。

 年が明けて2月、3月と日を追うごとに学生は忙しくなる。ゴウセツや企業説明会に行き、筆記試験を受け、面接もこなす。それが10社以上は同時に並行するわけだから、就活生の予定はびっしりで、スケジュール帳は余白がないくらいまで埋め尽くされることになる。いつ面接が入るか分からないため、就活のピーク時にはバイトもできない。

 そんな数々の課題を乗り越えてようやく最終面接まで到達するのだが―─。

 息子の場合、最終面接にまで行ったのは4件であった。しかし、2件はそこで落とされた。聞くと、どちらも最終面接の最後の質問でつまずいたらしい。

 第一志望の出版社では、「あなたが希望する職種でなくてもいいですか?」と問われ、一瞬考えてしまった。

 また、息子は民間企業に全部落ちた後に、学校の教師に志望を変えたのだが、ある学校の最終面接でも、「あなたは本当に教師になる覚悟がありますか?」と尋ねられ、詰まってしまったという。

 虚を突かれる質問というのだろうか。それにうまく対応できなかったためか、内定まではいかなかった。

 「最終面接までは何社も行くのに、そこで落とされる学生っているんですよね」とある大学のキャリアセンターの職員は言う。

 「成績もいいし、そつはないし、スペックはいい。コミュニケーション能力もある。スムーズに最終面接までは進むのに、でも、なぜか内定が取れない学生というのがいるんです。最終面接で、企業は、その学生が本当にウチの会社で働きたいか、ちゃんと真面目に働いてくれるのか、覚悟や本気度を問うんですよね。最終面接を突破できない学生というのは、そこが弱い気がします」

 ES、筆記試験、面接、どの段階でも落とされるのは嫌なものだが、最終面接まで行ったのに、内定が獲得できなかった時のダメージは大きい。それが何社も続くと学生は相当こたえるだろう。

4年の4月は明暗の分かれるつらい季節

 我が家の場合は、大手企業の採用活動がほぼ終わる4年生の4月が、結構ヘビーだった。息子は、4月下旬に第一志望の出版社の最終面接に落ちて、その時点でエントリーしている企業は1社もなくなってしまった。だが、一方で、「幼馴染のAはテレビ局に決まった」、「同じサークルのBは商社に決まった」などの情報が当の息子から届けられる。就活生にとって明暗がくっきり分かれる時期なのだ。その度に、口では「あら、良かったじゃない」と言いつつ、内心は穏やかではない。

 「うちの息子はいつ内定が取れるんだろう。大丈夫なのかな……」

 初期の頃の親バカ・バイアスはすっかり影を潜めて、不安がだんだんと大きくなっていく。 

 就活生の中の、ラッキーな一握りの学生たちが、ゴールデンウイーク前に大手企業から内定をもらう。中小企業は、大手企業の採用が終わった6月頃から採用活動を始めるケースが多いため、今度は入れ替わるように中小企業の就活が本格化する。夏休みが終っても内定が獲得できなければ、企業の秋採用、通年採用に賭けることになる。

 息子に最初の内定が出たのは、4年の10月であった。我が家は、表面上はフツーで、息子にも自然に接していたつもりなのだが、4月から最初の内定が出るまでの6カ月間、かすかな緊張感に包まれることになった。

 学生たちは就活のいろんな段階で落とされ、しかもその明確な理由が明示されないため、全人格を否定するような思いを何度も味わい、疲弊していく。その効率の悪さを、息子の就活の時に痛烈に感じた。非効率ということでは、何万人もの学生の中から選考する企業の採用活動もそうであろう。

 就職情報サイトの登場により、誰でも自由に自分の志望企業にエトリーできることにようになったのだが、半面、そこが状況を難しくしている面もある。

 親世代の就活は自由ではなかった。大学や学部、所属ゼミなどによって学生がアプローチできる企業が事実上決まっていた。企業は学生を大学名やゼミ名で選別していたし、各大学に届く求人票も当然ながら違っていた。どんなにあの人気企業に入りたいと思っても、その企業のおメガネにかなった大学の学生でなければ門前払いされた。選考のフィールドに立つこともできなかった。そこには、企業と学生、双方に“相場観”があった。

 しかし、今はそれがなくなってしまった。学生の間には「とりあえず三大メガバンク」という言葉がある。大学名も学部も専攻も個人の特質も無視し、とりあえずは親も安心するようなメガバンクにはエントリーしておこうということだ。

 または、「無理かもしれない。でも、もしかしたら受かるかもしれない」という「憧れ系」企業にもエントリーする。だが、「とりあえず系」と「憧れ系」の2系統しかエントリーがないと、就活は茨の道になる。

疲弊する就職活動を強いられる学生たち

 息子の場合、ESを提出したのは、テレビ局、芸能プロダクション、出版社、教育関連企業など10社だった。何万人もエントリーする大手企業にしかエントリーしていなかった。それが、就活が長引いた大きな要因であった。

 今、就活生の娘が大学1年の時に、知っている企業名を聞いてみたら、15社くらいしかなかった。それも、ゴールデンタイムのテレビでCMを大量に流しているような一般消費者向けの会社、いわゆる「BtoC(Business to Consumer)」の大企業ばかりである。そうした会社には万単位でエントリーがあるだろう。さすがにもうじき就活が始まる時期にこれではまずい。

 当然だが、学生は自分の知っている企業だけしかエントリーしない。その企業がみんなも知っている大手企業だけだと、何万人ものライバルがいる戦いに挑み続けることになる。

 企業は、本当に学生を選別していないのか。いや、そんなことはない。この平成の世でも、企業は大学名を見て選別している。

 HR総合調査研究所が実施した企業の採用者アンケートの調査結果では、ターゲット大学を設定して特別な施策を講じている企業が年々増えており、2013年卒採用では半数に迫る勢いとなっている。また、企業規模によりターゲット大学数の内訳は異なるものの、そのうち約8割の企業はターゲット大学数を20校以下としている。大手企業の場合には偏差値上位大学をターゲットにしていることが多く、20校というと、旧帝大クラスと早慶クラス、MARCH・関関同立クラスを合わせた大学数とほぼ一致する。中堅・中小企業のターゲット大学は必ずしも偏差値上位大学とは限らない。

 「企業は大学名を重視しているわけではないが、レベルの高い学生を取りたい、のであれば、大学名で選別するのが妥当性の高い方法です。就職情報サイトには、登録した学生を大学名でふるいにかける上位校のフィルター機能があります」(ある就職情報サイト関係者)

 「学歴フィルター」という言葉を聞いたことがある。

 就活の際に、学生が企業に提出されたESや履歴書に記入された出身大学で選別にかけて、ターゲットでない学生を排除することである。ESを読まない、筆記試験や適性検査を採点しない、就職セミナーや会社説明会の予約を満席表示にしてブロックさせないなどの方法が取られるという。

 つまり、平成のシューカツは、一見自由そうで実はそうではないのだ。就職情報サイトや企業の自社採用サイトで、採用活動はオープンに実施される。すべての学生が情報を取得しエントリーできることになっている。しかし、学生は自分が知っている、つまりみんなが知っている大手企業しかエントリーしない。でもそういう企業が上位大学層しか採用しなければ、学生は何十社も落ち続けることになる。一方、大手企業には何万人も集まるのに、学生が認知しない中小企業には人が集まらないというミスマッチが生じてしまう。

 リクルート ワークス研究所のワークス大卒求人倍率調査でも、2013年卒の卒業生の求人倍率は、従業員規模1000〜4999人では、求人倍率は0.81倍だが、300人未満だと、3.27倍になっている。

 非効率な就活を改善するためには、企業の採用基準と採用選考プロセスの透明化を求める声がある。採用活動のガラス張りである。

 法政大学准教授の上西充子氏は、企業の採用基準は2層に分かれているという。コミュニケーション能力や熱意・意欲という明示される人間力と、基礎学力や考える力など明示されていない「学ぶ力」である。人間力はESや面接で判断するが、学ぶ力は大学名や筆記試験などで企業は見ている。

 「企業が求めているのは学ぶ力が高く、なおかつ人間力のある学生です。企業はあらかじめ大学名などでふるいにかけた後で、その学生の人間力を見ている。しかし、学生は企業の真意を読み取れず、人気企業に安易に大量にエントリーする。そして何十社も落とされる。それでは企業も学生もお互いに不幸です。そろそろ本音ベースで情報を刷り合わせた方がいいでしょう」

 経済同友会は、この2月に、大手企業に人気が集中し中小企業に人材が集まらないというミスマッチを解消するため、大学別の新卒採用数など過去の採用に関する客観的な情報の開示を、企業に求めた。同会によると、年間の大卒の就職希望者は約45万人だが、就職人気ランキング上位200社の大手企業に入れるのは約2万人である。つまり、就活生の4%しか大手企業には入れないのだ。

 であれば、企業が大学別の新卒採用数を公表し、就活生がそれを見て、正しい就活の“相場観”を持ち、志望企業を適切に選ぶというのは、筆者は、有効な手立てだと思うが、いかがだろうか。

「就職難民」が生まれてしまう理由

 最後に、なぜ、大学を卒業しても5人に1人以上の「就職難民」が生まれてしまうのか。親世代とは違って大学から社会への移行がスムーズにいかないのか、その要因を考えてみたい。上記のように、企業と学生のミスマッチというのもその1つだが、そこには構造的な問題が含まれている。

 まずは、親世代に比べて、大学生が増えすぎていることが挙げられる。筆者が大学に入学したのは1980年だが、そのときの大学進学率は26.1%(男39.3%、女12.3%。出所:文部科学省「学校基本調査」)。同世代の4分の1しか大学に進学していない。

 しかし、その後は上昇を続け、今の就活生である大学3年生が大学に入学した2009年には、その数は50.2%となり、ついに過半数を超えてしまった。大学数も1980年には446校だったのが、2011年には780校に増えた。少子化、少子化と言われて、大学生の数も減っていると思われがちだが、実際は逆で、親世代よりも100万人も増加している。大学生の価値が下落しているのだ。

 それに対して新入社員のポストは減っている。リクルート ワークス研究所の大卒求人総数を見てみると、親世代の1988年3月卒業の学生には、65万5700人の求人があった。それがバブル期の1991年には、84万400人まで上昇した。過去最高の求人数は、リーマン・ショック前に就活をした2009年ので、94万8000人となっている。

 ところが、2013年には55万3800人となり、わずか4年で39万人分も減った。親世代と比べても10万人も減っているのだ。大学生は100万人も増えているのに、新入社員のポストは逆に少なくなっている。これでは競争は熾烈にならざるを得ない。

 親世代では、大卒の男性は、卒業後には企業の正社員になるのが当たり前だった。そして就職したら、定年まで安定した雇用と年功序列の賃金が得られ、管理職の昇進することも可能だった。親が就職した1980年代は日本型雇用システムが機能していたのである。

 しかし、今は違う。バブル崩壊後の低迷から抜け出し、グローバルな経済競争に勝ち抜くために、日本の企業は、1990年代に大きく雇用戦略を変えたのだ。

 1995年、当時の日経連(日本経営者団体連盟)は、「新時代の『日本式経営』」という報告書を出している。そこには、今後企業が取るべく雇用戦略として、労働者を(1)「長期蓄積能力活用型グループ」(2)「高度専門能力活用型グループ」(3)「雇用柔軟型グループ」の3つに分け、管理職や総合職・技能部門の基幹職のみを「期間の定めのない常用雇用の正社員」に位置づける。(2)と(3)は有期雇用とし、この3つを適切に組み合わせる「雇用ポートフォリオ」を企業が創出するべきだということが述べられている。

 それに呼応するように、労働法の規制が緩和され、労働力の弾力化、流動化を推進する環境が整った。企業は、これまでの日本型雇用システムを転換し、正規雇用の社員を絞り込んでその人数を減らし、契約社員や派遣、パート、アルバイトなどの非正規雇用に置き換えて人件費を削減するようになった。だから、新卒で採用するのはコア人材のみであり、量より質を重視する厳選採用となっている。

 今のこの求人数の落ち込みは、単に景気連動による採用数の調整レベルの話ではなく、企業が雇用戦略と採用方針を変えたゆえの結果なのである。

親世代のしわ寄せを受ける子供世代

 親世代と子供世代の雇用の問題は表裏一体である。

 日本では正社員の雇用は法律で厳重に守られており、人件費を削減しようとしても正社員を簡単に解雇はできない。まずは派遣社員や契約社員など非正規雇用の人たちを雇い止めしていく。または、正社員の高い給与水準を維持するために、新卒採用を抑制する。

 つまり、父の正社員のポストを守るため、新卒採用数が削減され、息子や娘の正社員の椅子取りゲームが熾烈を極めることになる。既に日本型雇用システムの恩恵を受けている中高年の正社員を守るため、そのしわ寄せが子供世代に来ているのだ。

 筆者が働き始めた1984年には、非正規雇用は15.3%しかなく、84.7%は正規雇用者だった。しかし、2010年には非正規雇用は34.3%にまで上昇した(男18.9%、女53.8%)。特に、15歳から24歳の若年層の非正規雇用率の上昇は高く、1990年には9.4%しかなかったものが、2010年には30.7%になった(出所:総務省「労働力調査」)。

 ある企業の幹部が、「実は子供が就職に失敗して正社員になれなかった、どうしたものか…」と打ち明けてくれたことがある。

 自分たちが就職した頃と国の政策や企業の雇用戦略が変わってしまったのだから(たぶん、その企業自体も新卒採用抑制や厳選採用をしているだろう)、自分と同じような安定した道を子供たちが歩めるという保証はないのだ。

 就活の時にその椅子取りゲームからはじき出された子供たちは、非正規にならざるをえず、「Bad Start」となってしまう。

 日本型雇用システムは、高度経成長期には効率的なシステムであったが、経済成長が停滞する今においては様々な綻びが出てきている。

 筆者は、日経ウーマンの創刊に携わり、4半世紀にわたり、働く女性を取材してきたが、なかなか女性の社会進出は進んでいかない。

 政府は「2020年30%」という目標を設定している。これは指導的地位に占める女性の割合を、2020年に30%程度にするという目標である。しかし、民間企業の女性管理職比率に着目すれば、2010年で課長相当職では7.0%にとどまっている(出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」・2010年)。

 また、日本では女性労働者の就業継続に課題がある。第一子の出産前後で就業継続している女性は32%しかいない(出所:厚労省「第1回21世紀出生児縦断調査」・2001年)。政府は2017年までにそれを55%にする目標を設定しているが、そのハードルを越えることは容易ではなさそうだ。

 つまり、日本では、女性は、最初の子供が生まれるまでに6割以上が職場を去る。

 第一子の妊娠・出産を契機とした労働市場からの撤退は、高度経済成長期から見られるようになったが、その労働市場の「M字型カーブ」は、男女雇用機会均等法や育児休業法の施行など法律が整備された今日でもあまり変わらないと、法政大学教授の武石恵美子氏は分析する。

女性と若者を排除する日本型雇用システム

 日本型雇用システムは、長期雇用を前提としているため、男性より早期離職率が高く、勤続年数が短い女性はなじまない。日本の企業には、入社15年目くらいまでは昇進に差をつけない「遅い選抜」という特色もあり、このパターンでは、出産・育児期の30歳前後に離職してしまう女性は、昇進のチャンスを獲得できない。

 また、日本は国際的に見て労働時間が長い。企業が求める長時間労働や、突然の出張、残業、転居を伴う異動などは、家庭や育児に責任を持つ女性にとっては困難である。一方、働き方の柔軟性や仕事と生活の両立可能性も低い。保育園など子育て支援も充実していない。

 かくして、女性は、企業の求める働き方ができず基幹的職種から排除される。労働市場から退出した女性は結婚し専業主婦となり、家事や育児を引き受ける。女性から家事や育児の提供を受けることで、男性は企業が求める働き方ができる。

 つまり、日本型雇用システムとは、家庭における性別役割分業と強い相互依存関係にあり、それは女性差別的慣行を伴うものであると、同志社大学教授の川口章氏は、著書『ジェンダー経済格差』(勁草書房)で論じている。

 就活問題を取材してきて見えてきたのは、企業内部の労働者の雇用を強固に守る日本型雇用システムが、女性だけではなく、今、若年層をも排除しようとしているということだ。それは、若年層の非正規率を高めて、彼らの有様を不安定にさせている。そしてそのことは、将来の日本に少なからぬインパクトを与えよう。

 「就職難民」を、学生のキャリア意識の低さや大手企業主義のみに帰結し、学生の自己責任論だけに結びつけようとすると、シューカツ問題の本質を見落とすことになりはしないかと、筆者は思っている。


麓 幸子(ふもと・さちこ)

1962年秋田県生まれ。1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。2011年12月まで5年間日経ウーマン編集長。2012年よりビズライフ局長に就任、日経ウーマンや日経ヘルスなどの媒体の発行人となる。日経BPヒット総合研究所副所長。筑波大学非常勤講師を務める。法政大学大学院経営学研究科在学中。著書に『就活生の親が今、知っておくべきこと(日経プレミアシリーズ)』(日本経済新聞出版社)。


我が子を就職難民にしないために

親世代とは全く異なる、今どきの「シューカツ」。取材ではなかなか分からなかったその実態を息子の就職活動を通じて痛切に思い知った日経ウーマン発行人が、就活生の親が知っておくべきことと就職大困難時代の乗り切り方を伝える。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121119/239587/?ST=print

【第3回】 2012年11月21日 辻太一朗 [大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会(DSS)代表]
じつは“過剰な自分探し”も就職難を招いていた!?
自己分析のジレンマに陥る学生たち
「自分のこと、大好きな人間みたいで…」
学生が感じる自己分析での違和感

 今回は、多くの就活生が陥る「自己分析のジレンマ」についてお話しします。

 昨年から就職活動の開始時期が10月から12月になりました。いまごろ、多くの就活生が12月からの本格的な就職活動に向けて、「自分にはどんな会社がいいのか?」「自分はどんな仕事に向いているのか」を考えるために自己分析に取り組んでいるのではないでしょうか?

 では、今の学生はどのように自己分析をしているのでしょうか。書店の就活コーナーには、自己分析に関するの本も数多く並んでいます。

 そのような本の1つを手に取ってみると、

1「今まで好きだったもの、熱中したものはどのようなことですか?」
2「あなたの好きな言葉を上げてください」
3「あなたは表彰されたことがありますか?資格を取得していますか」
4「あなたが希望する仕事はなんですか」
5「自己PRは何ですか」
6「志望動機は何ですか」

 などなど40余りの課題があり、それぞれに対応する記入用のシートや、記入例が載っています。

 知り合いの立教大学の学生にどのような自己分析をしたのかを聞いてみました。すると、こんな答えが返ってきました。

「自己分析は10月から始めました。まずは本を買って、本に載っている質問に答えるって感じで。でもこれがまったく答えられないんです。

『人生で一番感動したことは?』なんて聞かれても思い出せなくて。だから自分の人生を時系列にして挙げていくようにしました。生まれてから今まで、覚えていることを全部ノートに書き出しました。書いていると、自分はこういう生き方をしてきたんだっけっていう発見が意外とあって面白かったです。

 次に、イベントごとに詳しく書き出していくことにしました。高校で部活を始めたキッカケ、そこでのエピソード、そこから学んだことを考えていきました。面接ではだいたい『学生時代に頑張ったことと、その経験から得たものは?』なんて聞かれることが多いので、想定問答を準備しておきました。

 でもそこまでやったところで、これって自分の良いところばかり書きすぎてるんじゃないかなって思ったんです。なんか自分のこと、大好きな人間みたいで気持ち悪くて。だから先輩や友人に聞いて回りました。『私の長所と短所ってどこ?』って。そうやって客観的な情報も取り入れて、自己分析をつくってきました。

 それでも大学のOG・OBや先輩に面接の練習をしてもらうたびに、考えが浅いと指摘されました。何回も考え直して、結局4月から始まる面接の直前までやっていた気がします」

 このように就職活動において、自己分析という作業に多くの時間を使っている学生は少なくありません。

自分の強みを活かしつつ、
好きなれる仕事探しに自己分析は重要

 そもそも自己分析は、どうしてするのでしょうか?

 自己分析をする目的は、大きく2つ考えられます。

 1つめは、自分の強みや弱み、興味・価値観というような特徴を知り、自分に合う会社を選ぶことです。

 特徴には強み、弱みといような能力的な特徴と、興味、価値観のような特徴があります。

 能力的な特徴を知ることは、「自分が活躍できそうな」「自分の強みを活かせそうな」会社や仕事を見つけるために有効です。

 関心・価値観的な特徴は、「自分が興味をもつ」「自分が好きになれる」会社や仕事を見つけるために有効です。

 2つめは、採用選考時のエントリーシート・面接でのネタを探すことです。

 自分の特徴を整理して理解しておくことで、面接での質問に対して、的確に、必要に応じて具体的な経験や事実も含めて答えることができるようになります。

 自己分析は、就職活動をするためには必要で、したほうがいいものだと思います。自分を振り返ることで、今後の進むべき方向が分かってくるようにもなるからです。逆に自己分析が足りないために、どのような仕事が自分に向いているのかが分からなかったり、面接にうまく臨めなかったりした人もたくさんいます。

過剰な自己分析は可能性を狭める!
たった十数年の経験に捕らわれる学生たち

 しかし一方で、過剰な自己分析によって可能性を狭めている学生が多くいることも問題です。自己分析が過剰になると、かえって自分の可能性を狭めてしまいます。なぜかというと、自己分析は「過去の自分の経験から、今後の自分の方向を探る」ことだからです。

 もっと言えば21〜23歳程度の学生にとって、過去とはもの心がついて十数年ほど。それだけの経験しかしていません。また、多くの人がアルバイト以外で働いた経験はまったくないのです。そのような経験から、今後数十年に及ぶであろう“職業人”としての姿を描くのです。

 多くの学生が働いた経験もないし、職場にいた経験もありません。そのような学生が短い学生生活の経験から分析すること自体にもともと無理があります。

 自己分析を繰り返しているうちに、「自分は過去にこのようなことに興味があったので、○○のような仕事をしたい」という考えが行き過ぎて、「○○のような仕事以外には興味がない」と考えを狭めてしまいます。

 また、「自分は過去にこのようなことが得意だったので、○○のような仕事が向いている」という考えが行きすぎて、「自分は○○のような仕事は得意だが、△△のような仕事は不向きである」というように自分の可能性を狭めてしまうこともあります。

 自己分析が過剰になってしまうと、「過去に自分が得意だったこと」「過去に面白かったこと」に執着して、まだ分からない将来の可能性や、未知の可能性、したことのない経験に目を向けない傾向が強まります。

 実際の面接の場面では、「もし配属があなたの希望する営業ではなく人事になったらどうしますか?」という質問をされることがよくあります。

 すると、大抵の学生は返答に困ってしまいます。

「自分は営業をやりたい。人事なんて私には向いていない」

 過剰な自己分析が、このように学生の可能性を狭めてしまうのです。

なぜ自己分析が過剰になりやすいのか

 先程も書きましたが、自己分析は重要で、有用なことです。しかし、過剰な自己分析は問題があります。現状の日本の就職は、どうしても自己分析が過剰になりやすい傾向があります。そこで、就活生はやりすぎないように気をつけるべきなのです

 どうして自己分析が過剰になりやすいのでしょうか?そこには多くの要因が重なっていると思われます。

 1つには企業の選考において面接の比重が高いことです。合否は、ほぼ30分〜1時間の面接で決定されます。そのために学生は、面接の準備に力を入れる必要があります(一方で企業も学生の面接準備に対応するために、面接官のトレーニングもしています)。そのために、自己分析に注力する必要があるわけです。

 また、大学で単位の取得や卒業が比較的楽なので、就職活動準備に十分な時間を割けることも1つの理由といえます。そして大学に入学してから、「自分のしたいこと(できることではない)」を探すことに時間をかけてきているので、就職においても自分のしたいこと、自分に向いていることを見つけたいという欲求が高いことも原因の1つでしょう。

 さらに、なかなか内定が決まらず、長いあいだ就職活動を続けている学生のなかには、自己分析の泥沼に入ってしまう人もいます。

 面接がうまくいかないと、企業の人、大学のOB・OGや友人から、

「まだ自己分析が甘いから面接がうまくいかないんだよ」
「本当にしたいことを見つけられていないからうまくいかないんじゃないの?」
「志望動機をもっと深めてはなさないといけないよ」

 と、言われるからです。

 このように、採用がうまくいかず長い期間、就職活動をしている学生は、自分が何をしたいのか?自分にはどのような強みがあるのか?それをどうやって相手に伝えるのか?というような疑問に答えるべき、自己分析の泥沼に入ってしまう場合があります。

 誤解のないように言っておきたいのですが、私は自己分析を必要だと思っています。しかし、過剰な自己分析は自分自身の可能性を小さくする要因になってしまうので、気をつける必要があるということです。また、現状の就職活動では、過剰な自己分析に陥りやすいということを気にする必要があるといえるでしょう。
http://diamond.jp/articles/print/28234


 

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コメント
 
01. 2012年11月21日 11:14:52 : kVgwY6Ob42
私が考える自己分析というのは、「就職活動だ、さあ自分とは何ぞや」ということでなく、少なくとも大学4年間をフルに使ってするというものだ。様々な経験、挑戦、試行錯誤を通し、自己を拡張する作業を経たものであるべきである。詰まり大学入学時点で既に広い意味での(学業を含めた)就職活動は始まっているべきである。また、自分探しというとき、レールに敷かれた生き方に疑問をもつという意味合いを含む場合もある。私は親のすねかじりでない限り、自分探しは大いにやるべきだと思う。その為に会社を転々としたり、非正規雇用で食いつないだり、となっても、本人にはっきりとした目的意識があり、客観的に自己を見つめる目があるならば大いに結構だと思う。安定志向もいいが、強固な安定は地道な試行錯誤と努力の土台の上に築かれるのであって、大樹の陰によるだけでは危うい。

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