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家電量販、「アマゾン価格」に怒り
2012年11月20日(火) 中川 雅之
家電製品に関するインターネット通販「アマゾン」の価格設定が波紋を広げている。仕入れ値を下回ると見られる価格に、家電量販店から「ルール違反」との声が上がる。「キンドル」を日本に上陸させる「黒船」の影響力はどこまで広がるのか。
「申し訳ありませんが、ウチではこれ以上の価格は出せません」
テレビ売り場の店員は、そう言って申し訳なさそうに頭を下げた。11月上旬、東京都心のある大型家電量販店で、シャープの薄型テレビ「LC-24K7」の値下げ交渉をした時のことだ。
交渉材料に使ったのはインターネット通販サイトの「アマゾン」。サイト上で販売元が「Amazon.co.jp」となっていた同型商品の価格は2万6543円だった。一方、量販店の値札に掲げられた価格は3万3100円で、10%のポイント付き。ポイント分を差し引いても3000円以上の開きがあった。
「ここまで下がりませんか」。アマゾンの価格を見せると、販売員は「確認します」と言っていったんその場を離れた。数分後、改めて提示されたのは2万9800円にポイントなしという条件。アマゾンで購入すると伝えると、店員はうなだれた。
“粗損失”を巡る価格交渉
米アマゾン・ドット・コムが日本国内で販売している家電製品の価格を巡り、家電販売の世界で波紋が広がっている。一部の限られた商品ではあるものの、大手量販店でさえ追随できないような安値が恒常的に掲載されているからだ。
右のグラフは、ある大手電機メーカーが調べた、同社製DVDレコーダーの価格の推移を示したものだ。グラフの赤線はアマゾンにおける販売価格、青線はメーカーの納入価格(アマゾンにとっての仕入れ価格)を表す。この資料によれば、アマゾンは仕入れ値を下回る価格をサイト上で提示していることになる。このDVDレコーダーの「赤字販売」は半年以上にわたる。
このメーカーの関係者は「アマゾンと取引している製品のうち、価格競争が激しい売れ筋を中心としたおよそ2割の商品が、納入価格よりも低い値段で販売されている」と話す。
別のメーカー社員は「家電量販店の仕入れ担当者から、『なぜ(アマゾンが)うちの仕入れより安くできるのか』と電話があるが、取引数量の多い大手量販よりアマゾンへの納入価格を低くすることは、あり得ない」と話し、アマゾンが原価割れで販売していることを示唆する。
「何とか10%にならないか」。ある電機メーカー社員はアマゾンとの商談でこう持ちかけられたことがある。
この言葉は「10%の粗利益が取れる納入価格にしてほしい」という意味にも取れるが、実際はそうではなく「赤字額が販売価格の10%で済む納入価格にしてほしい」という意味だった。粗利益ならぬ“粗損失”を巡る交渉に、この社員は「初めから利益を取ろうとしていないと感じることもある」と話す。
アマゾン関係者によると、同社は競合する主要サイトの価格を自動で定期的にチェックする仕組みを取り入れている。価格を機械的にほかのサイトに合わせるため、仕入れ値を大幅に下回る価格が出ることもあり得るというわけだ。
ネット専門の家電販売事業者は「最安値ではなく2番目程度の価格を設定するのが彼ら(アマゾン)の手法」と指摘。アマゾン側の思惑を「自分たちは価格下落を主導しているのではなく、市場相場に対応しているだけだ、との立場を堅持しようとしているのではないか」と分析する。
アマゾンは日本での事業規模を公開していないが、業界関係者の間では、全体の売上高が5000億〜6000億円程度と言われている。そのうち家電や関連製品が占めるのは1000億円程度とされる。
連結売上高が約2兆円のヤマダ電機など、家電量販大手と比較して圧倒的なバイイングパワーがあるわけではない。ただ、同社の主力商品は価格競争がほとんどない書籍。仮に家電分野で赤字が出たとしても、その分は書籍などの黒字で吸収できる可能性が高い。
このような状況に、地上デジタル放送への完全移行以来、売り上げの減少に悩む家電量販業界からは「アマゾンの価格は、不当廉売には当たらないのか」という怨嗟の声が上がっている。
家電量販各社はネット価格への対抗意識を強めている(写真はイメージ)
ヤマダ電機の山田昇会長は今年7月、会見後に取り囲んだ記者たちに向かって、「我々は取引上、厳しい監視の目にさらされている。だがアマゾンは違う。これで公正な競争と言えるのか」と語気を強めた。
難しい「不当廉売」の線引き
独占禁止法は損失を出すような低い価格で企業があえて商品を販売することを禁じている。これに違反するものは「不当廉売」とされ、同法で「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、ほかの事業者の事業活動を困難にさせるおそれのあるもの」と規定されている。
家電量販業界の激しい怒りに対し、アマゾンはどのような見解を示すのか。アマゾンジャパンに取材を申し込んだところ、面会や電話での取材には応じず、書面で「各国の法律に基づき、市場での適正価格で販売している」と回答した。
では、アマゾンの家電価格は不当廉売に当たらないのだろうか。
公正取引委員会経済取引局取引部の山田弘・取引企画課長は「個別の案件については答えられず、あくまで一般論」と前置きしたうえで、「継続的に仕入れ値を下回って販売するのは不当廉売の対象になり得る」と話す。
一方で、「ネットの場合、低価格販売がほかの事業者にどれほどの影響を与えたか算定しづらいため、公正な取引を阻害していると言いにくい」とも話し、今回のアマゾンのようなケースを取り締まることの難しさを挙げる。
実際に取り締まる際には、アマゾンが米国に本拠を置き、国境を越えてネット通販を手がけている点もネックになる可能性がある。「カルテルなど、各国の姿勢がある程度共通している事柄であれば、国内法令を域外に適用するハードルは低いが、不当廉売はそうとは言い切れない」(山田課長)。
ネット上では、圧倒的な安値を提示する事業者はアマゾンだけに限らない。規模の小さな事業者がアマゾンよりもさらに低い値段を表示していることも多く、彼らの仕入れ経路や価格設定の手法は一層不透明な場合もある。
一方、大手量販店もメーカーとの間でリベート(販売奨励金)などの仕入れ条件を事後的に見直すことは珍しくない。高額のポイント付与も値引きとの線引きが難しい。実態の見えにくいネット販売の増加や分かりにくい商慣習の存在が、不当廉売か否かの境界を曖昧にしている面もある。
アマゾンはこれまでも、配送料の無料化や当日配送の実現など、常識や慣習を飛び越える利便性の向上で、消費者の支持を集めてきた。今月には、満を持して電子書籍サービスの「キンドル」を日本で本格的に始める。
同社が自社ブランドで売るタブレット端末や電子書籍専用端末は、実際の店舗の「ショールーム化」を進めるとの見方も根強い。着実な広がりを見せる「アマゾン経済圏」に、国内流通企業の憂鬱はますます深まりそうだ。
中川 雅之(なかがわ・まさゆき)
日経ビジネス記者
時事深層
“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121116/239526/?ST=print
自動車市場に価格破壊の足音
新興国向け超低価格車が震源
2012年11月20日(火) 吉野 次郎
1980年代、低価格で小型の日本車が米国市場を席巻した。より高価な大型車を得意とした米国のゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーター、クライスラーの「ビッグスリー」は大いに苦しめられた。大衆車の“価格破壊”が起きたのだ。
歴史は繰り返すというが、大衆車市場でもう一段の低価格化が今、世界規模で進みつつある。震源地は新興国だ。
VWが「50万円車」を計画
欧州最大の自動車メーカー、独フォルクスワーゲン(VW)が新興国向けに50万円前後の超低価格車を発売する見通しだ、という記事を「日経ビジネス」の10月29日号に掲載した。新たなブランドを立ち上げ、「VW」などグループのほかのブランドとの差異化を図る模様だ。
既にインドで現地財閥グループのタタ自動車やスズキ傘下のマルチ・スズキが、東欧で仏ルノーグループのダチアが、中国では現地メーカーが1万ドル(約80万円)を切る超低価格車を販売している。そうした新潮流に乗り遅れまいと画策するのはVWに限らない。
中国メーカーが超低価格車で攻勢を強める。写真は中国・長安汽車の新モデル
トヨタ自動車は傘下のダイハツ工業を通じて、日産自動車は80年代に廃止したブランド「ダットサン」を復活させて、新興国市場への超低価格車の投入を模索する。
狙うのは、中間所得層の中でも低所得層に近い、「下位中間層」の世帯だ。世帯年収が5000ドル〜1万5000ドル(約40万〜120万円)の下位中間層の人口は、新興国で2010年に14億1000万人に達している(経済産業省・新中間層獲得戦略研究会の「新中間層獲得戦略」から)。従来の大衆車は高すぎて買えないが、超低価格車なら需要が喚起される可能性がある。
ただその影響は、従来の大衆車市場全体に及ぶかもしれない。トヨタやホンダ、日産自動車、VW、GMなど世界の主要メーカーは、現在、新興国で「上位中間層」向けに1万ドル以上の大衆車の品揃えを最も充実させている。
超低価格車はそうした従来の大衆車市場を侵食し、自社の収益を圧迫する恐れがある諸刃の剣でもある。
軽自動車の販売シェアが過去最高に
大衆車の低価格化が進むのは、先進国もしかりだ。
「日本市場で軽乗用車の販売シェアが2012年に過去25年で最高を更新する見通しだ」と、11月2日付けの日本経済新聞が報じた。その比率は34〜35%に達しそうだという。デフレが長期化する中、消費者の間で低価格志向が強まっており、ダイハツが「ミライース」を、ホンダが「NBOX」を発売するなど、各社が軽乗用車に力を入れる。一方で、より高い収益が見込める小型乗用車(5ナンバー車)や普通乗用車(3ナンバー車)の需要は相対的に低下している。
景気が減速する西欧諸国でも低価格志向が強まっている。全長4.5m以下(総排気量はおおむね1500cc以下)の安価な小型車の販売比率は2000年の68%から、2011年に74%に高まった(米IHSのデータを基に筆者が試算、以下同)。VWが昨年12月、同社の「ポロ」よりさらに一回り小さい「up!(アップ)」を発売するなど、欧州メーカー各社は低価格化への対応を急ぐ。
北米でも同様だ。2000年に27%だった全長4.5m以下の自動車の販売比率は、2011年に39%に達している。
こうした流れの延長線で、新興国向けの超低価格車に対するニーズが、日米欧市場でも高まるかどうかが、自動車業界の将来を大きく左右しそうだ。ニーズの高まりを受けて、メーカー各社が超低価格車の投入を余儀なくされれば、日米欧で大衆車の安値競争が一段と進む。“価格破壊”に対応できない自動車メーカーは、1980年代のビッグスリーのように、凋落の道を歩むことになりそうだ。
吉野 次郎(よしの・じろう)
日経ビジネス記者。1期生として慶応義塾大学環境情報学部を卒業。1996年に日経BPに入社し、通信業界の専門誌「日経コミュニケーション」で2001年までNTTと新電電の競争や業界再編成を取材。2007年まで通信と放送の専門誌「日経ニューメディア」で、通信と放送の融合やデジタル化をテーマに放送業界を取材。現在は「日経ビジネス」で電機やIT(情報技術)業界をカバーする。好きな季節は真夏。暑ければ暑いほどよい。お腹の出っ張りが気になる年齢にさしかかり、ダイエット中。間もなく大型バイク免許を取得する予定。著書に『テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか』(日経BP)。
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121116/239508/?ST=print
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