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【第254回】 2012年11月20日 真壁昭夫 [信州大学教授]
アップルとサムスンの天下も10年後は続いていない?
日本復活が夢ではないIT業界の“近未来予想図”
一度自由な発想で考えてみよう
アップル、サムスンの勢いは続くか?
10年後、世界のIT企業の勢力図はどうなっているだろうか。やや荒唐無稽だが、現在わかっていること、これから起こりそうなことを全てひっくるめて、自由な想像を働かせてみたい。
まず、現在の世界のIT企業の勢力図を整理する。今、まさにIT関連製品群の中で、パソコンからスマートフォン、タブレットPCへと中心が移っている。それに伴い、パソコンメーカーの重要性が相対的に低下する一方、アップル、サムスンの2大メーカーが世界のIT市場を席巻している。
おそらく、この流れは向こう10年間変わらないだろう。むしろ、クラウドコンピューティングと呼ばれる集中型のシステムが進化するために、パソコンの重要性はさらに低下すると予想する。
職場などでも1人1人がパソコンを持つ時代は、もうすぐ終わろうとしている。簡単なキーボードによって、クラウドの中にデータや情報を蓄積し、必要なときにそれをダウンロードして使うことになるだろう。
個人の利用者間では、すでにスマホ、タブレットへと向かう流れが定着している。主にメールやインターネットを使う利用者にとって、スマホやタブレットを使えば十分に用が足りる。
軽くて持ち運びに便利、しかも外でも使えるスマホ、タブレットは、おそらく10年後においてもIT機器の中心になっているだろう。さらなる技術の発展で、スマホとタブレットの区別が明確ではなくなっているかもしれない。
そうした流れが続くと、スマホ、タブレットメーカーの隆盛がより鮮明になるだろう。ということは、当分、アップルやサムスンの天下が続くと見られる。しかし、両巨頭の天下は長くは続かないかもしれない。
台湾や中国などのメーカーの参入によって、競争が激化することは避けられない。そうした状況下、アップルやサムスンですら生き残ることが難しくなるような時代が来る可能性もある。
スマホやタブレットが世界を席巻
10年後の“IT機器の形”はこうなる
10年後、おそらくオフィスの中で人々がパソコンに向かって仕事をしている姿は、あまり見られなくなるだろう。たとえば、パソコンの代わりに、軽くてケーブルが付いていないキーボードを持ち歩く姿が一般的になるだろう。そのキーボードはゴム製で折りたたむことができる。無線LANでつながっているため、面倒なケーブルは付いていない。
そして、特定のインターフェースを通してクラウドに接続されている。人々は、そのキーボードを通してクラウドに入り、そこにデータや情報を蓄積する。蓄積したデータなどは必要に応じてダウンロードし、クラウド内にあるソフトを使って加工することも自由だ。
一方、個人ユーザーは、技術の進歩によって使いやすさを増し、しかも電池の容量を心配せずに済むスマホやタブレットを使っている。すでにスクリーンは折り畳みができるようになっており、液晶の大きさの制約はなくなっている。畳んだままポケットに入れて持ち運べるし、必要があればハンカチのように広げることも自由自在になっている。
そのため、スマホとタブレットPCの区別は事実上なくなっている。スマホが、個人ユーザーが使うIT機器の中心になっている。
スマホは、特定の回線を通してクラウドコンピューティングのシステムにアクセスが可能で、蓄積したデータなどを自由に見ることもできるし、ダウンロードして加工することも可能だ。加工して作ったデータなどは、クラウドの中の自分のスペースにアップロードしておけばよい。
スマホと通信回線の情報量のやり取りは、現在とは比べ物にならないほど速くなっており、ユーザーのイライラ感はほとんど解消されている。また、国際的に規格が統一され、どこの国に行っても持っているスマホが使える状況になっている。そうした状況は今は夢のような話だが、10年後にはこの夢は正夢になっていることだろう。
IT業界の熾烈な変化の波は
アップル・サムスンの二強も襲う
10年後のIT機器の姿を想像すると、最も重要な役割を担うことになるのはスマホだろう。そのスマホの分野は、現在、アップルとサムスンの二強時代に突入している。かつて携帯電話の王者だったノキアの影はかなり薄くなっている。
一方、スマホよりも少し大きいスクリーンを持つタブレットPCの分野でも、アップルとサムスンの存在感は傑出している。当分は、この二者の時代が続くことになるだろう。
しかし、IT機器の変化の速度を考えると、二強ですら変化に迅速に対応できないと、淘汰の荒波を受ける可能性は高い。変化の内容を2つに分けると整理しやすい。
1つの変化は新製品の開発だ。アップルの故スティーブ・ジョブズCEOのように、今までにないものをつくり出す企業が出てくるかもしれない。スマホよりも便利でかつ有効な、夢のようなIT機器を世に送り出す企業が出てこないとも限らない。それが現実のものになると、アップルやサムスンでも圧倒される可能性がある。
もう1つは、現在のスマホがコモディティ化することだ。つまり、スマホの機能などの開発が進み、製品の技術が飽和状況になる。そうなると、どこの製品を買っても、それほど大きな差はない。需要者は、機能に差がないのであれば、価格を優先して製品選択をするようになる。激烈な価格競争が巻き起こる。
価格競争の段階に入ると、まず厳しくなるのはサムスンだろう。同社は、韓国内の自社工場で部品の製造から組み立てまでを一貫して行なっている。しかし、賃金水準の低い国でスマホの組み立てを行なうようになると、価格競争力で勝てなくなる。わが国企業の二の舞になる可能性がある。
一方アップルは、世界的なサプライチェーンを構築し、自社では生産工場を持たないファブレス方式をとっている。そのシステムでは、組み立て工程はフォックスコンなどのEMS企業に任せている。
しかし、アップルが新製品の開発に行き詰まることになると、EMS企業の中には自社ブランドを使って、自社製品を独自販売するところも出てくるかもしれない。アップルにも、そうした落とし穴がある。
部品の提供と次の製品の開発を!
日本企業が復活するための選択肢
わが国メーカーにとって、スマホやタブレットPC分野で二強の後塵を拝してしまったことは、痛恨の極みと言っていいだろう。
成長性が高く今後のプロダクト展開の柱であり、しかも今後の発展性が見込める分野で、取り返しのつかないほどの差がついてしまった。アップル、サムスンが世界的なブランドイメージを定着させた以上、この分野で単純に巻き返すことは至難の業と言ってよい。
ただ、そうした状況下でもわが国企業にはそれなりの選択肢があるはずだ。まず考えられるのは、スマホやタブレットに使われる素材や部品を提供する機能を担うことだ。
サムスンにしても、自社ブランドで様々なIT製品を販売すると同時に、半導体や液晶などの主要部品において有力供給者の一面も持っている。そのため、アップルとの激しい訴訟合戦にも拘わらず、同社は史上最高益を上げることが可能になっている。
ソニーのイメージセンサー技術やシャープの持つ液晶の技術は、今でも世界有数のレベルにある。そうした技術を上手く使うことができれば、自社ブランドで完成品を売ることができなくても、相応の収益力を維持することはできる。
また、知識集約性の高い部品であれば、世界市場で高いシェアを持つことができる。当該分野で、プライスリーダーとしての地位を築くことも想定される。
もう1つは、わが国企業がスマホやタブレットの次の進化系製品を生み出す可能性だ。IT関連製品の発展性は目を見張るものがあり、今後考えもつかなかった製品が世に送り出されることが考えられる。だから、スマホやタブレットの「次の新製品」を狙うのである。
もちろん、世界中の企業がそれを狙っている。競争は厳しい。しかし、かつてウォークマンや亀山モデルをつくり出したカルチャーとエネルギーを復活させればよい。勤勉で高い技術を持つわが国の企業なら、その気になればできるはずだ。
素材や部品は、完成品と比較して収益率は低い。新しい製品の開発こそ、わが国経済を活性化する重要なファクターだ。
http://diamond.jp/articles/print/28097
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121119/239549/ph04.jpg
日本の電子部品メーカーが支える「iPhone 5」
2012年11月20日(火) 日経エレクトロニクス
2012年9月に発売された米アップルのスマートフォン「iPhone 5」。その中をのぞくと、日本の電子部品メーカーがiPhone 5に大きく貢献していることが分かる。しかし、安穏としてはいられない。部品をさらに詳しく分析すると、電子部品メーカーの付加価値を奪おうとするアップルの戦略が浮かび上がってきた。
この連載では、日経BP社の電子技術専門誌『日経エレクトロニクス』が実施した分解調査から見えたiPhone 5の進化の秘密とアップルの“部品力”、そしてアップルの新たなビジネスモデルに迫る。第1回は、iPhone 5を構成する部品を見ていく。
「驚きがない」など一部で言われながらも、着実にユーザーを増やすiPhone 5。従来製品の「iPhone 4S」に比べ、(1)ディスプレイを3.5型から4.0型に大型化した、(2)高速の移動通信規格「LTE」に対応した、(3)CPU性能とグラフィックス性能が2倍になった――といった機能強化を実現した。加えて、重さを140グラムから112グラムまで軽くし、厚さを9.3ミリメートルから7.6ミリメートルに薄くするなど、携帯性も向上した。
厚みは7.6ミリ、あらゆる部品の高さを抑える
日経エレクトロニクスはiPhone 5の発売直後にKDDI版とソフトバンクモバイル版を入手し、分解調査を実施した。搭載されている部品を調べる限り、両者のハードウエア仕様に違いは見られなかった。
主要部品の配置はiPhone 4Sによく似ている。写真右がディスプレイ側、写真左側が本体側である。iPhone 4Sでは背面のパネルを開けるが、iPhone 5では前面のパネルを開ける構造になっていた。(写真:中村 宏)
アップルはiPhone 5で7.6ミリメートルという薄さを実現するために、あらゆる部品の薄型化を進めた。iPhone 4Sの背面に採用していたガラスを廃止し、ディスプレイ・モジュールと2次電池をそれぞれ薄型化。電池とは重ならないスペースに配置するカメラ・モジュールも薄くした。
ディスプレイ・モジュールは、カバーガラス(表面のガラス)を含めた厚さが約2.2ミリメートルだった。iPhone 4Sの約3.1ミリメートルに比べて、約30%も薄くなっている。これまで外付けだったタッチ検出用パネル(ガラス基板に電極を形成したもの)の機能を液晶パネルに内蔵する、「インセル」と呼ばれるパネル技術によって実現したとアップルは説明している。ジャパンディスプレイ(旧・東芝モバイルディスプレイ)とシャープ、韓国LG Display社の3社がアップルにインセル型液晶パネルを供給しているもようだ。
本体の形状変更に伴って縦が長くなった2次電池は、厚さがiPhone 4Sの3.8ミリメートルから3.3ミリメートルまで薄くなった。(写真:中村 宏)
電池は、厚さが3.8ミリメートルから3.3ミリメートルに変わった。横幅は同じだが、薄くする代わりに縦を長くしてiPhone 4Sとほぼ変わらない容量(1430mAhから1440mAhに微増)を実現している。日経エレクトロニクスが入手した個体では、ソフトバンクモバイル版がソニー製、KDDI版が中国Lishen社製の電池だった。中国ATL社の電池を搭載していたiPhone 4Sに引き続き、中国製の電池を採用している。
プロセッサなどの半導体を載せたメイン基板を見ていくと、受動部品がぎっしりと敷き詰められているのが目立つ。iPhone 4Sと比べて、大まかな形状や部品配置は似ているが、新たに設計したものである。
「APPLE」の刻印が入った多くの半導体
プロセッサなどの半導体を載せたメイン基板を、iPhone 5用(写真右)とiPhone 4S用(写真左)で比較した。大まかな形状や部品の配置は似ているが、新たに設計したものだ。SIMカード・スロットの上側にある、「A6」という文字が刻印された半導体がA6プロセサだ。
メイン基板には、アップルのリンゴのロゴマークや「APPLE」の文字が刻印された半導体が4個見つかった。その中で最大のものが、プロセサ「A6」だ。韓国Samsung Electronics社が製造している。iPhone 4Sに搭載したプロセサ「A5」に比べてCPU性能とグラフィックス性能がそれぞれ2倍に向上したとアップルは説明している。
アップルの刻印が入ったその他の半導体は、(1)米Dialog Semiconductor社製の電源制御IC、(2)米Cirrus Logic社製の音声符号化IC、(3)Cirrus Logic社製のオーディオ・アンプIC、とみられる。各社がアップルの要求に応じて設計・製造したものだろう。
iPhone 5に搭載された電子部品を調べていくと、日本のメーカー製のものが数多く見つかる。前述のタッチ・パネル機能付き液晶パネルや2次電池の他、無線LAN/Bluetooth通信モジュール、モバイル通信用の電力増幅器やアンテナ切り替え器、電子コンパス、水晶振動子などだ。フラッシュ・メモリでは東芝、DRAMではエルピーダメモリがそれぞれ採用されていた。
iPhone 5が搭載する部品とメーカー。表中、日本のメーカーは赤い文字で示した。(日経エレクトロニクス推定)
圧倒的な販売台数、ただし頼りすぎは危険
アップルはiPhone 5の発売直後の2012年9月24日に、3日間で500万台以上を販売したと発表した。2012年7〜9月期のiPhone販売台数は約2690万台に達したという。日本の電子部品メーカーにとって、世界のスマートフォン市場を席巻するアップルは欠かせない顧客になっている。
ただし、アップル相手の事業に頼りすぎることにも注意が必要だ。一部の電子部品を詳細に解析したところ、アップルが電子部品開発の主導権を奪おうとする構図が見えてきた。
<次回に続く>
日経エレクトロニクス
電子・情報・通信など、エレクトロニクス全分野の技術情報をお届けする、開発・設計者向けの情報誌。
iPhone 5の中身から見えた電機産業の地殻変動
米アップルが2012年9月21日に発売した最新スマートフォン「iPhone 5」。端末そのものに新鮮味はなく、ユーザーからは「驚きがない」との声も聞こえる。しかし、『日経エレクトロニクス』誌が搭載部品を徹底分析した結果、「インセル」方式の液晶パネルやプロセサ「A6」に、自社の開発技術を盛り込んでいることが明らかになった。これにより、部品メーカーを製造請負の立場に追いやるという新しい事業モデルが見えてきた。
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曖昧な世界の競争が、データに裏打ちされた競争に変わる
全日本食品 代表取締役社長 齋藤 充弘 氏
2012年11月20日(火) 田島 篤
企業内外に存在する多種多様で膨大なデータ資産の生かし方が事業の優劣を決め、企業の競争力を左右する――。ビッグデータ活用が注目を集めるなか、企業はどのような姿勢で取り組めば成果につなげることができるのか。ビッグデータ活用を成功に導く勘所を、識者や先進ユーザー企業、ベンダー企業へのインタビューを基に紹介する。
様々な販売施策で膨大なPOS(販売時点情報管理)データを活用しているのが、ボランタリーチェーンを展開する全日本食品である。同社を率いる齋藤充弘社長に、データ活用をどのように企業経営に役立てているのかを聞いた。
(聞き手は田島 篤=ITpro副編集長)
齋藤 充弘(さいとう・みつひろ)氏
1946年東京生まれ。71年、慶応義塾大学経済学部卒業。ダイエーを経て72年、全日本食品に入社。東京本部における営業体制を整備し、営業本部長と就任後、四国本部長に就任するほか、各地区本部開設と基盤整備に従事。81年に取締役就任。常務取締役営業本部長、本社経営本部長、専務取締役経営本部長、副社長を経て、2001年に代表取締役社長に就任
(写真:北山 宏一)
「これからの小売業は、データ活用に優れたところが勝ち残っていくことになるでしょう」。全日本食品の齋藤充弘社長は、このように強調する。同社は、約1800の加盟店と提携チェーンで構成する日本最大のボランタリーチェーン「全日食チェーン」の運営会社。大手のスーパーやコンビニなどに対応するために、古くから様々な情報化に取り組んでいる。
例えば、2010年9月に稼働した販売促進システム「ZFSP」。購買履歴に応じて、「顧客別チラシ」を提供するシステムである。その顧客がいつも購入している商品を店頭価格よりも安くしている点が大きな特徴である。
このシステムを含めて、同社は工夫を凝らした販売施策で膨大なPOSデータを駆使している。POSデータを分析する専門部署を設置するほど、データ活用を重要な役割に位置づけている。具体的には、どのように企業経営に役立てているのか。
「小売業は今、大きな転換期に立っていると考えています。一言で表現すると、『曖昧な世界の競争が、データに裏打ちされた競争』に変わりつつあるのです。
これまでの小売業は、ヒト頼りという側面が大きかった。優秀なMD(マーチャンダイザー)がいれば優秀な店になって、MDがダメだと店もダメになる。MDの勘と経験に頼っていたのが現実です。小売業の大半は、いまだに一部の優秀な人材に頼っているのが実情でしょう」
客観的な情報の活用でビジネスは進化する
齋藤社長は、IT(情報技術)の進化によって、この状況が変わりつつあると指摘する。ビッグデータと呼ばれるような膨大な量のデータを即座に収集・分析できる環境が整ってきたからである。確かに、過去に蓄積した膨大なPOSデータを高速に処理できるようになれば、顧客行動や需要の予測などが、これまでよりも高度で詳細に分析できるようになる。
「小売業は、これまでの勘と経験で判断を下す時代から、データに裏打ちされた決断を下す時代に移行するでしょう。どんな仕事でも環境が整えば、曖昧な世界から客観的な情報に基づいて意思決定を下すように変わりますから。
例えば、医療がこの好例です。今はCT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などいろいろな検査機器があります。しかし、20〜30年前には聴診器を当てて体温を測って問診するだけで病状を判断していました。医学者から聞くところによると、当時はかなりの誤診があったそうです。それが今では、CTやMRIなどのデータから判断を下すので、誤診はほとんどなくなりました。どのようなビジネスでも、客観的な判断材料が手に入るように環境が変われば、正確な意思決定を下せるようになるのです。
小売業には、お客さんの行動の履歴ともいえるPOSデータが大量にあります。これを様々な側面から分析すれば、お客さんがどういう買い方をしたのか、なぜ買ってくれたのかといったことが見えてきます。これがわかれば、売り上げを伸ばせる戦略を立てられるようになります。今ではITの進化によって、大量データの分析を何度も繰り返すことが可能になりました」
業界の常識を疑う
現在の小売業者の多くは、採算度外視の特売とチラシを駆使して、利益率を落としながらも商品を販売する「ハイ&ロー」戦略をとっている。しかし、齋藤社長はハイ&ローに疑問を呈する。実際、全日食チェーンでは特売は最小限に留め、米国の大手スーパー、ウォルマートの戦略として有名になった「エブリデー・ロー・プライス(毎日低価格)」を基本戦略にしようとしている。ここにも、データ活用を重視する齋藤社長のこだわりがある。
「小売業には、根拠が曖昧な施策がたくさんあります。特売もそうです。特売を行うと、確かに売り上げは伸びます。しかし、全体の利益が上がるかというと必ずしも、そうではありません。実際、当社で過去の販売データを分析してみたところ、特売と利益の相関があまりないという結果になりました。それなのに、なぜ業界全体で特売を続けているのか。『競合他社がやっているから』という以外に誰も回答を持っていないんですね。
小売業に限らないのでしょうが、業界の常識とされているものでも、データで裏打ちされた根拠がなければ疑ってかかった方がよいでしょう。『コンサルタントはこう指摘していた』『専門誌にはこう書いてあった』『社長がこう言った』といった理由で判断していてはダメなんです。コンサルタントも専門誌も、場合によっては社長でさえも、現場のことを知らないかもしれないのです」
情報を駆使できるものが覇権を奪う
現在、小売業界は体力の乏しい小規模業者の淘汰が進みつつある。そんな中、全日食チェーンは2008年度から2011年度まで売上高を伸ばしている。齋藤社長は、中小の小売業でも情報化によって大手に対抗できるとする。
「中小と大手チェーンの最大の差は教育です。小売業では、昔から店頭に近いところの社員が優秀なことが大きな強みです。だから、大手は教育に力を入れています。しかし、末端の社員を教育すればするほど、質および賃金の高い労働力になってしまいます。経営的に考えると、ある種の矛盾があるわけです。
こうした状況に一石を投じたのがウォルマートです。同社は、サプライチェーンの様々な部分のシステム化を進めて、店頭オペレーションの教育をできるだけ排除しました。現在、ウォルマートは時給の安いスタッフで店頭を賄っています。システム化の勝利だといえるでしょう。
中堅・中小の小売業でも、本来は教育が必要な店頭オペレーションをシステム化すれば、大手と戦っていくことが可能です。むしろ、この部分の優劣が企業としての成否を握るようになってくるのだと思います」
齋藤社長は、小売業が労働集約型から知識集約型の産業に変わるのではないかと考えている。データを分析・活用することが競争力の源泉になるというわけである。こうした思いに至った背景には、10年以上前から齋藤社長自らがコンピュータを操作してデータを分析していたことがある。
「自分が管理層になった際に、なぜ売れないのか、理由がわからなくて困っていた時がありました。そこで、自分で現場の生のデータを見ようと思ったわけです。夜の8時くらいから会社に出て、データウエアハウスのシステムを使ってデータを見る。気がつくと日付が変わっているというような日々が4年から5年くらい続きました。
自分でデータをいじくってみると、『なるほどなぁ』と思うことが多々あります。どの数字をどう比較すればよいのかがわかってきますし、売れる店と売れない店の違いといったことも見えてきます。
会議などで経営層に上がってくる情報は生の数値ではなく、加工されたものです。しかし、全社の合計や平均化された数値、割合として示される数値からは見えてこないことが、たくさんあるのです。自分たちの想定とは異なっている点が多々あることに気づくはずです。この気づきを、みんなで議論して、改善や改革を進めていくことが大切なのです」
田島 篤(たじま・あつし)
ITpro 副編集長
ビッグデータ活用を企業戦略に生かせ
ビッグデータの大波が企業の経営を変える時代が到来している。データを制する者がビジネスを制すると言って過言ではない。企業戦略とビッグデータは不可分になりつつある。識者と先進企業の取り組みに対する取材を元に、経営にもたらすインパクトを示す。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121115/239491/?ST=print
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