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決算会見終了後、記者に取り囲まれた奥田社長〔PHOTO〕gettyimages
第2部 最終結論が出るのはもはや時間の問題 出口を失ったシャープ 社債がついに「クズ」扱い
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34092
2012年11月20日(火)週刊現代 :現代ビジネス
置いていかれたニッポン 世界の経済はルールが変わっていた!
■社長がしどろもどろ
11月1日、東京・中央区日本橋。野村證券日本橋本社7階の会場は騒然とした雰囲気に包まれていた。
この日、17時30分から決算会見に臨んだのはシャープの奥田隆司社長と経理担当役員の大西徹夫専務。巨大スクリーンを背に一通り決算内容を発表した後、質疑応答に入った。質問に立った新聞記者は、いきなり予想外の厳しい質問を浴びせた。
「今年に入って下方修正は4度目。問題の先送り体質などがシャープの経営の根幹を揺るがしてしまったのではないか。率直にどう思われているのかをはっきり話してもらわないと、働いているシャープの方も報われない」
普段、取材対象と良好な関係を築くことで内部情報≠いち早く聞き出すことを至上命題としている大手メディアが、これほど辛辣な言葉を投げかけるのは珍しい。
奥田社長は「信頼を失ったことは反省しなければならない」と率直に認めながらも、その後は歯切れの悪い答弁に終始。「失いきった信頼の回復に努めたい」「下期の業績回復についてとにかくやり切る」などと曖昧な言葉を並べるばかりだった。
「質問の趣旨がご理解いただけていないのかと」
業を煮やしたのか、記者は続けて質した。
「シャープの経営体質、企業体質そのものに問題はなかったかということに対してお答えいただきたい」
質疑応答はその後も、ほかの記者から畳み掛けるように集中砲火≠ェ浴びせられる異例の展開となった。
「会社の意思決定のスピードに問題はないか」
「シャープをどのように再建していくのか」
会見場を埋め尽くした軽く50人を超える数の記者やカメラマンは、奥田社長のはっきりしない物言いに苛立ちを募らせていった。4500億円もの赤字に陥る見通しを発表したのだから、経営者には当然説明責任が発生する。しかし奥田社長の態度には、この期に及んではぐらかすことで逃げきろうという甘さが滲んでいた。
質疑も終盤に差し掛かり、シャープをどんな会社だと思っているのか、今後なにで食っていくのかについて「もっと明確なメッセージを」と問われた奥田社長は、こう答えている。
「なんちゅうんですかね。バイタリティのある企業にまだなっていないということだと私は見ています。決めたことはちゃんとやりきって、問題があればスピード感を持って反省しながら軌道修正してやるという会社にしていきたい」
会見に出席した記者が言う。
「外面を分厚く取り繕うばかりで、中身がまったくない。まるであんこの入っていないたい焼きのような会見でした。質疑応答が終わると、まだ聞き足りないとばかりに、記者たちが奥田社長のもとに殺到した。会場の隅っこに追い込まれ、記者やカメラマンに取り囲まれている奥田社長は、それでも最後まで自分の言葉≠ナシャープの未来を語らなかった」
シャープがこの日発表した決算は散々だった。通期で4500億円の赤字に転落する見通しで、2期連続で過去最悪の赤字を更新するというものだ。本誌が再三指摘してきたように、経営判断のスピードが遅く大胆な改革に打って出られない経営陣の失政≠ェ証明された形だ。
次ページのチャートを見ていただきたい。右上方に向かって、不気味なほどの急カーブを描く曲線に、シャープの現状が浮かび上がる。
■とにかくカネがない
このチャートが株価の推移を示したものであればシャープの経営陣は大喜びだろうが、もちろんそうではない。これは企業の倒産危険度≠示す「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」の値の推移だ。CDSとは倒産確率を材料にする金融取引のことで、値が大きければ大きいほどマーケットが倒産危険度≠ェ高いと判断していることを示す。
「シャープのCDS値は今年の初めには100bp(ベーシスポイント)台だったのが、経営悪化が伝えられるにつれどんどん上がっていき、直近では4000bp台後半をつけている。パナソニックとソニーがいまも400bp台なのに比べ10倍も値が大きいのは、それだけ市場が警戒しているということ。ある欧米系報道機関はCDSの値を元に、5年以内にシャープ債がデフォルト(債務不履行)する確率を94・9%と弾いていたほどだ。ただこの報道はよほど影響が大きかったのか、すぐにネット上で見られなくなった」(全国紙経済部記者)
マーケットは容赦ない。決算会見翌日の2日、大手格付け会社フィッチ・レーティングスがシャープの長期格付けを一気に6段階(!)も引き下げ、「非常に投機的」だと市場に警鐘を鳴らしたのだ。
追い討ちをかけるように5日には同スタンダード・アンド・プアーズがシャープの長期格付けを3段階引き下げたうえ、もう1段階の格下げもあると牽制。シャープ債をジャンク(クズ)扱いにする異例の格下げラッシュ≠ナある。
「社債市場ではシャープ債が売り込まれ、額面の半値以下にまで落ちている。海外投資家の中には激しい値動きに目をつけ、利ざやで稼ごうとこの鉄火場で短期の売買を繰り返すものも出てきた。もはやシャープ債は・賭博商品・と化している」(外資系証券会社幹部)
もちろん袋小路に追い詰められたことをシャープ自身も重々わかっている。
11月1日に発表されたシャープの決算短信の添付資料4ページに、投資家が注目する一文が書かれていた。「継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております」というのがそれ。これは一般的に売り上げが急激に減ったり営業キャッシュフローがマイナスになったときに開示するもので、
「要するにシャープ自身が投資家に『うちは絶対安心ではないですよ』と自己申告≠オているようなもの。シャープが疑義を開示するのはこれが初めて。もしものこと≠ェあった際に備えて、監査法人がちゃんとリスクを開示するように促したのだろう」(同前)
かつての「稼ぎ頭」だった液晶テレビが値崩れを起こしている上、力を入れてきた太陽電池ビジネスでも世界的な競争激化で価格下落が激しく、これら主力事業で利益を稼げなくなってきた。さらに、新しい稼ぎ頭を作ろうにもシャープにはその原資≠ェなくなってきている。
「電機メーカーは当たるかどうかわからない設備投資をして、当たれば大儲け、失敗すれば大損というビジネスモデル。だからその原資≠ニなる自己資本をたっぷり持つことが大事で、自己資本比率が25~30%あれば健全といえる。
しかし、シャープの自己資本比率は昨年9月末には34・4%あったのに、今年6月末には18・7%と1年も経たずにおよそ半減し、そこからたった3ヵ月後の今回の決算では9・9%と急激なスピードで減っている。10%を切ったというのは、いよいよ・蓄え・がなくなってきて、もはや新規事業に打って出る勝負すらできないということだ。収益低下が止められず、それを資本金で穴埋めしてきたツケが回ってきた」(長く電機業界を見続けている投資銀行幹部)
手足を縛られた形のシャープは、手持ちの技術をフルに活用し、限られたカネと人員を集中投資することで生き残りを図るしか術がない。
■最後は税金が投入されるのか
その頼みの綱とされているのがIGZOと呼ばれる最新鋭液晶だ。消費電力が格段に低く、携帯電話に搭載すると2日間は充電しなくて済むという画期的な製品で、世界中でまだシャープしか量産に成功していない。米アップルのiPadに搭載されているとされ、奥田社長が成長ドライバーと語る虎の子≠ナあるが、シャープの「救世主」になりうるのか疑問視する業界関係者は多い。
実際、決算会見でも記者から、「IGZOが短期的に見ても他社との優位性をどれくらい維持できるのか確信を持てない」との疑問が奥田社長に投げられる一幕があった。
「IGZOの問題は3つある。ひとつは、歩留まり(不良品でない製品の割合のこと)をどれだけ上げられるか。アップル向けに納入しようとした際、歩留まりが悪く納期が遅れた過去があり、いまの段階でどれだけ改善されているのかが判然としない。ふたつ目は価格競争力。いくら優れた技術でも価格が高いと誰も買ってくれない。
最後にはどれだけ供給先を広げられるか。米デルやヒューレット・パッカードに供給する契約交渉をしているとされるが、もし販路を広げられなければ宝の持ち腐れで終わるだけだ」(前出・投資銀行幹部)
IGZOの売り出しに失敗すれば、ただでさえ資金繰りが逼迫しているシャープはいよいよ出口がなくなる。最近では「国が救済に乗り出す」との報道も出てきたが、実はそれも期待できそうにない。
「あまり知られていないが、実は今年7月にシャープには経済産業省から補助金が出されている。日本経済にとって中核となる部品などを支えることで経済・雇用効果をもたらすことを狙った『国内立地推進事業費補助金』がそれだが、すでにシャープの経営危機が表面化していた時期に補助金を出していたことを批判する声も一部から上がっている。国はそれを蒸し返されたくないから、シャープに血税を注ぐことには後ろ向きになっている。少なくとも政権交代が起きるまでは国の救済はありえないだろう」(経産省関係者)
こんな話もある。
「シャープは液晶パネルのカルテルをめぐって、米国などで民事訴訟を起こされている。今年7月には米国企業3社と約160億円を支払うことで和解しているが、実はほかにもまだ民事訴訟が残っている。その件数や総請求額は不明だが、1円でもカネを失いたくないいまのシャープにとって小さくないリスクファクター≠セ」(同前)
奥田社長は「FUSION(融合)」を合い言葉に、部門間の垣根を越え、全社一丸となることでこの危機を乗り越えようとしている。10月には社長自身を委員長とした「緊急経営対策委員会」を設置し、社内の各部門を横串で通す組織も作った。
態勢はできつつある。あとは社長自身が泥にまみれて、必死にモノを売り歩く商売魂をいかに示せるかだろう。社員は社長の一挙手一投足を見ている。奥田社長自身が行動で示さなければ、どんな改革案も「FUSION」ならぬ、「ILLUSION(幻)」にしかならない。
「週刊現代」2012年11月24日号より
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