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フランスとユーロ:欧州心臓部の時限爆弾
2012年11月19日(Mon) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年11月17日号)
フランスが欧州単一通貨に対する最大の脅威になりかねない理由
ここへ来て急速にフランスが次の危機国との見方が広がってきた〔AFPBB News〕
ユーロ崩壊の脅威は当面のところ和らいだが、単一通貨を正常な状態にもっていくには、長年にわたる痛みが伴う。
ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアでは、改革と歳出削減を求める圧力が熾烈を極めている。これらの国では11月半ばに、大規模なストライキが実施され、警察との衝突が起きた。
だが、欧州の行く手には、こうしたことのすべてを取るに足りないと思わせかねないほどの、さらに大きな問題が姿を現しつつある。フランスがそれだ。
ユーロ危機で露になったフランスの弱点
フランスは常にユーロ圏の、そして欧州連合(EU)の中心にいた。フランソワ・ミッテラン元大統領が単一通貨を支持したのは、さもなくば統一後のドイツに支配されていただろうEU内でのフランスの影響力を強めたかったからだ。
フランスはユーロの恩恵を受けている。記録的に低い金利で資金を借り入れているし、地中海沿岸諸国のようなトラブルも回避してきた。
だが、フランソワ・オランド氏がミッテラン氏以来初の社会党の大統領となった今年5月よりも以前から、フランスはユーロ危機における指導的立場をドイツに奪われていた。そして今や、フランス経済も弱体化しているように見える。
本誌(英エコノミスト)今週号の特集記事でも触れているように、フランスはまだ多くの強みを持っているものの、ユーロ危機により弱点も露になっている。
フランスは長年、競争力をドイツに奪われてきた。さらに、ドイツがコストを削減し、大規模な改革を推し進めたことで、その傾向は加速している。通貨切り下げという選択肢を持たないため、フランスは公的支出と債務に頼ってきた。
ほかのEU諸国が政府の役割を抑えてきたのに、フランスでは公的支出が国内総生産(GDP)の57%近くを占めるまでに増加してきた。この割合はユーロ圏で最大だ。1981年以降、財政を均衡させた年は1度もなく、81年当時はGDP比22%だった公的債務が今や90%を超えるまでに膨らんでいる。
フランスでは経営環境も悪化した。フランス企業は、労働市場と製品市場の厳格すぎる規制、並外れて高い税金、そして給与にかかるユーロ圏で最も重い社会政策費用負担に苦しんでいる。当然のことながら、新企業の創設はまれだ。
今日の雇用拡大の原動力である中小企業は、ドイツやイタリア、英国よりも少ない。経済は停滞し、今四半期にも景気後退に突入する可能性があり、来年はほとんど成長しないと見込まれる。労働人口の10%以上、若年層では25%以上が職にあぶれている。
対外的な経常収支は、1999年の若干の黒字から、ユーロ圏最大級の赤字に転落した。端的に言えば、フランス企業のあまりにも多くが競争力を失い、肥大化したフランス政府は分不相応な予算を立てているわけだ。
追い詰められたオランド大統領
フランソワ・オランド大統領はフランスを正しい方向に導けるか?〔AFPBB News〕
しかるべき大胆さと度胸があれば、オランド大統領はいますぐフランスを改革できるだろう。
オランド大統領が所属する社会党は、国民議会とほぼすべての地域で支配権を握っている。左派であるから、右派よりも労働組合をうまく説得し、変革を受け入れさせることができるはずだ。
オランド大統領はフランスの競争力欠如を認めた。
最近は、期待が持てることに、実業家のルイ・ガロワ氏が新たにまとめた報告書で提言した改革案の多くを取り入れると約束した。その中には、企業にかかる社会政策費用負担の軽減も含まれている。
オランド大統領は労働市場の柔軟性を高めたいとも考えている。最近では、過剰に膨張した政府規模に言及し、「支出を削減しながら、より良い施策を講じる」とまで約束した。
だが、フランス経済の問題の深刻さからすれば、オランド大統領はまだ及び腰に見える。
一連の左派的施策、つまり所得税最高税率の75%への引き上げ、企業や富裕層、キャピタルゲイン、配当金に対する増税、最低賃金の引き上げ、既に受け入れられていた年金支給開始年齢引き上げの一部撤回などを推し進めている状況で、どうして企業がオランド大統領を信じられるというのか?
起業を考えている多くの人がフランスを離れることを口にするのも無理はない。
欧州で大規模な改革に取り組んでいる国々がその道を選んだのは、強い危機感があったからであり、有権者がほかに選択肢はないと信じたからであり、政治指導者が変化は不可避だと確信していたからだ。そのどれもが、オランド大統領とフランスにはない。
大統領は、選挙戦の間、企業寄りの改革の必要性にほとんど言及せず、その代わりに緊縮財政を終わらせることばかりを強調していた。フランス社会党はいまだ現代的ではなく、資本主義を敵視している。オランド大統領がフランスの競争力に関する警告を発し始めて以来、大統領の支持率は急落した。
取り残されるフランス
さらに悪いことに、フランスが追っているのは動く標的だ。ユーロ圏諸国はどこも構造改革に取り組んでいて、そのほとんどはフランスよりもペースが速く、改革規模も大きい。国際通貨基金(IMF)は最近、フランスがイタリアとスペインに後れを取る恐れがあるとの警告を発した。
フランスの決断はユーロの将来も左右する〔AFPBB News〕
危険にさらされているのは、フランスの将来だけではない。ユーロの将来も同様だ。
緊縮策を強く推し進めすぎているとしてドイツのアンゲラ・メルケル首相をしつこく攻撃してきた点では、オランド大統領は正しい。だが、ユーロ危機の解決に必要な政治統合の話になると、オランド大統領は黙り込んでしまう。
各国の経済政策に対する欧州レベルのコントロールを強めることは必要だ。
各国の予算に対してEUの権限を強める最近の財政協定を、フランスは渋々ながら批准した。だが、エリートの政府首脳も有権者もまだ、根本的な構造改革を断行する準備ができていないのと同じように、主権を今以上にEUに譲り渡す覚悟ができていない。
ほとんどの国がどの程度の主権を手放すべきかを検討している一方で、フランスは欧州の未来に関する一切の議論を断固として避けている。社会党が真っ二つに割れた末に、有権者がEUの憲法条約批准を拒否した2005年に、オランド氏は散々な目に遭った。それが繰り返されれば、単一通貨は混沌に陥るだろう。
欧州の大国に関する本誌の最新の特集記事(2011年6月)では、シルビオ・ベルルスコーニ氏の下で改革に失敗したイタリアを取り上げた。その年末までに、ベルルスコーニ氏は姿を消した――そして変化が始まった。
失敗するには大きすぎる?
これまでのところ、投資家たちはフランスには寛大だった。実際、長期金利は若干ながら下がっている。だが、遅かれ早かれ、フランスの価値は下がるだろう。いつまでも経済学に逆らい続けることはできないのだ。
オランド大統領が、過去30年にわたってフランスが取ってきた進路の変更に真剣に取り組む姿勢を示さない限り、フランスは投資家の、そしてドイツの信頼を失うだろう。一部のユーロ参加国が思い知らされたように、市場の空気は瞬く間に変わり得る。危機は早ければ来年にも襲ってくるかもしれない。
過去の欧州の通貨不安は、大抵はどこか別の国で始まり、フランスを飲み込んで終わった。そして今回も、イタリアやスペインではなくフランスこそが、ユーロの命運を左右する国になる可能性がある。オランド大統領には、欧州の心臓にある時限爆弾の信管を外すための時間はあまり残されていない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36569
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
メルケル首相はカネを出す覚悟を決めた
ドイツが求めるユーロ救済の条件
2012年11月19日(Mon) Financial Times
(2012年11月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
アンゲラ・メルケル首相は腹をくくったのか〔AFPBB News〕
筆者は先日ある人が、アンゲラ・メルケル首相は来年秋のドイツ総選挙を欧州を救った首相として戦う気だと話すのを聞いた。
ユーロの将来についてまだ心配している人は、首相の自信に安心感を覚えるだろう。緊縮財政に抗議するため、11月半ばにストに踏み切り、欧州各地の街頭に繰り出した大勢の労働者は恐らく、それほど賞賛しないだろう。
メルケル首相は少し前まで、ためらいがちで優柔不断だと批判されていた。ポーランドのラドスワフ(ラデク)・シコルスキ外相はベルリンに足を運び、リーダーシップを発揮するよう求めた。ポーランドの政治家がより積極的なドイツを求めたのは、実に久しぶりのことだった。
メルケル首相は今、どう見ても積極的だ。欧州議会で行った最近の演説の個々の要素――財政の健全性、競争力の向上、金融統合の進化とユーロ圏の経済統治の強化――は、とても画期的とは言えない。だが、すべて足し合わせると、単一通貨ユーロの将来を確かなものにするためのドイツの条件になる。
ドイツ政府は、いずれにせよ、ドイツは資金負担を避けられないと判断した。このため条件を定めることを望んでいる。今すぐ緊縮財政を実施し、後で共同で意思決定を下すというのが、ドイツの連帯のために他国が払わねばならない代償なのだ。
ユーロ危機は終わっていないが・・・
ユーロはまだ危機から脱していない。ユーロ圏各国政府と国際通貨基金(IMF)との論争は、まだギリシャを覆っている経済危機の規模を浮き彫りにした。
論争そのもの――ギリシャの債務残高を国内総生産(GDP)比120%に引き下げる期限は2020年か、それとも2022年かを巡る論争――は現実離れしていた。ギリシャが再び債務の大部分を減額しなければならないことは誰もが知っている。問題はタイミングだ。
スペインは救済策を必要としている。キプロスも同様だ。アイルランドは競争力の回復に成功したものの、銀行債務の負担からの救いを切に必要としている。国債金利はまだ極端に高すぎ、銀行のバランスシートはまだ弱すぎる。経済が成長しないため、周縁国では有権者の苛立ちが怒りに変わった。
とはいえ、実存的な危機の空気は消えた。ユーロ崩壊が差し迫っているという予想は早計だったことが分かった。政治が経済に勝っているというのが、今の一般的な前提だ。
欧州中央銀行(ECB)は行き詰まった政府の債券を買う用意があると述べたマリオ・ドラギ総裁の発表が転換点だったと見なされている。その見方は正しい。
歴史は、ついにユーロを救ったのは「スーパー・マリオ」だったと記録するかもしれない。だが、ECBの構想が可能になったのは、ひとえに、メルケル首相がドイツ連銀(中央銀行)と敵対してECBの味方についたためだ。
メルケル首相の重大な決断
メルケル首相はドイツ連銀を否定した最初の首相ではない。ヘルムート・コール氏は東西統一の条件についてドイツ連銀の主張を退けた。それでもメルケル首相の決断の重要度が低くなるわけではない。
戦後の大半の期間を通じ、ドイツの公共政策は健全な通貨と欧州に対する揺るがぬコミットメントという2つの柱に基づいてきた。2つの柱の間には時折緊張も生じた。1980年代初頭に、フランスの経済政策を巡ってコール氏がフランソワ・ミッテラン氏と激しく対立した時などがそうだ。だが全般的には、2つの目標はうまく合致していた。
ユーロ危機がその状況を変えた。危機により、国内における通貨の安定と、欧州に対するドイツの借りが対立する恐れが出てきたのだ。そしてメルケル首相は欧州を選んだ。
ギリシャに対する見方が、今夏、大きく変わった〔AFPBB News〕
もう1つの重大な決断は、ギリシャに関する180度の方針転換だった。
今年前半は、ギリシャは救い難いというのがベルリンの見解だった。ギリシャには信頼に足る経済運営を取り戻すための統治の基本手段がなく、グリグジット(ギリシャのユーロ離脱)は不可避であると同時に乗り切れるように見えた。
その判断が夏に変わった。メルケル首相は、ちょうどリーマン・ブラザーズが世界の金融システムを崩壊させたように、ギリシャがユーロ圏を分裂させかねないと判断したのだ。
ユーロはまだ大惨事に向かっていると主張する大勢のエコノミストは、こうした変化にまるで感銘を受けていない。欧州改革センター(CER)が主催した最近の会議では、多くのエコノミストが、集団的な緊縮財政は自滅的な結果となり、遅かれ早かれ債務国における政治的抵抗と衝突すると強く主張していた。
エコノミストらの言い分には一理ある。だが、彼らが見逃している点もある。政治家は経済を理解していないと不満を述べる際、エコノミストらは政治を理解し損ねている。
メルケル首相はイタリアやスペインに向かって、ドイツが債務を引き受けることを見込んで、痛みを伴う改革など忘れ、支出と借り入れを続ければいいと言えたはずだという考えは、政治的な幻想の世界に属している。
急所を突く批判は、ドイツは他国が経常赤字を削減することを期待しながら、同時に自国の経常黒字を維持することはできないとする批判だ。
今の状況は、このまま続くはずがない。過去数年間の教訓は、この状況が続かないことを示している。メルケル首相は救済は一切ないと約束したが、以来、一連の、そう、救済策に署名している。ユーロ圏には今、恒久的な救済制度があり、いざとなれば最後の貸し手の役目を果たす中央銀行がある。すべてのことは、ドイツが今後も状況に応じて政策を変えることを示唆している。
歴史は繰り返さないという保証
ユーロ圏で起きていることを理解する最善の方法は、これを債権国と支払い能力のない債務国との典型的な交渉と見なすことだ。ドイツは、債務国が全額返済できないことを知っているが、債務減額に同意する前に、歴史が繰り返さないという保証を引き出す決意を固めているのだ。
メルケル首相はカネを払うことを決めたが、それと引き換えに、資金負担が単なる第1回目の支払いにならないことをドイツの有権者に納得させられるだけの言質を必要としている。
これが危機を管理する効率的なやり方だと主張できる人はいないだろう。欧州はデフレによって問題から抜け出すことはできない。だが、ユーロは常に、経済組織であると同時に政治組織でもあった。そしてドイツが小切手を書くのであれば、ドイツがルールを定めるのだ。
By Philip Stephens
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36570
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