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米国が世界最大の産油国になるとどうなるのか
2012/11/15 (木) 09:18
国際エネルギー機関、IEA(International Energy Agency)は、現地12日に発表した「WORLD ENERGY OUTLOOK 2012(世界エネルギー見通し 2012)」において、米国が2017年までに、現時点では世界最大の産油国であるサウジアラビアを抜いて、世界第1位の産油国になる、との見通しを発表しました。
今回発表された見通しによると、サウジアラビア、米国、それぞれの産油量(日)は2020年にはサウジアラビアが1.060万バレルとなるのに対し、米国は1,110万バレルに達するとされています。
ちなみに、IEAの発表によると2011年度の産油量は、米国が814万バレル、サウジアラビアが904万バレルとなっています。つまり、サウジアラビアの産油量を上回るとされる2020年までの間に米国の産油量が296万バレル拡大することが見込まれる一方、サウジアラビアの産油量は156万バレルの伸びにとどまると予想されているのです。
このような米国の大幅な増産見通しを支えているのが、近年の生産技術の発達を背景にしたシェール・オイルの産油量の増加です。
シェール・オイルは石油に類似した有機物であるケロジェンを含んだ岩石に強い水圧をかけて亀裂を入れた後に化学処理を施して精製された合成石油のことです。従来の石油に比べて生産コストが高いため、原油価格が低迷していた時期には生産は出来てもコストが見合わないということで、積極的な生産は見合わされていました。
しかしながら、原油価格は2008年のリーマンショック時には32ドル台まで下落しながらも、その後は短期間での高下を繰り返しながら上昇トレンドを維持しています。さらに、2010年以降となると、一時的に下落する場面は見られるものの、概ね70ドル前後を最安値にしての推移が続いていることで、持続的な生産が可能になってきているのです。
これを示しているのが米国の産油量の推移です。IEAによると、米国の産油量は2005年時点が732万バレル、2006年度は740万バレル、2007年度が748万バレル、2008年度が752万バレルでした。この時期の産油量は若干の増加はあるとはいえ、それほど大きな成長が見られていません。
しかしながら、その後の産油量はというと、2009年度は744万バレルと伸び悩みながらも2010年は778万バレル、そして2011年度が前述のように814万バレルと明らかな増加傾向を辿っているのです。ちなみに2012年度に関しては予測値ではありますが、895万バレルが見込まれています。
それでは、米国の産油量がIEAが予測するように増加傾向を保ち、世界最大の産油国となった場合、どうなるのでしょうか?
まず考えられるのが、米国の石油輸入量の減少です。現在、米国の産油量はサウジアラビア、ロシアに次ぐ世界第3位の規模を誇ります。しかしながら、同時に世界最大の消費国であり、1日当たり平均で800万〜900万バレルの原油を輸入しています。
単純に見ると、2020年までに産油量が296万バレル増加することで米国の輸入量がその分、減少することになります。IEAはこれにより米国が石油をほぼ自給できる、との見方を示しています。
この米国の石油自給化が影響を与えると見られるのが、世界の石油需給と価格、米国の対外的な動きでしょう。
まず石油需給と価格についてですが、米国の輸入量が減少したとしても供給が大幅な過剰になる可能性は低いと思われます。というのも、経済発展を背景にした新興国の需要の増加が米国の輸入減少分を相殺すると考えられるからです。
また価格については、米国の供給量の拡大により大幅な値崩れが起こる可能性は低いと考えられます。というのも、米国の産油量の増加が、バレルあたり60ドル以上とも言われる生産コストが割高なシェール・オイルの増産に依存している限り、価格が下落した場合には、シェール・オイルの生産が割りに合わなくなり供給が引き締まる→供給ひっ迫懸念から価格が上昇する、という流れが生み出されると見られるからです。
一方、米国の対外政策という点では、すでに指摘されているように中東地域への関心が薄まる可能性が高いと考えられます。米国は輸入している原油の約20%を中東に依存しています。これまで中東に様々な形で介入してきたのも、石油の安定供給を一つの目的としていました。
以前より政策目標として掲げられてきた石油の自給化を実現することにより、米国の中東政策に今後変化が訪れようとしていると考えられる点に留意しておきたいところです。
米国が世界最大の産油国になる可能性が指摘されたことは、大きなインパクトを与えています。またこれにより、世界の石油の輸出入の流れ、米国の今後の対外政策、などの点には大きな変化がもたらされる可能性が浮上しています。
しかしながら、米国の産油量が増加したとしても新興国を中心とした消費の増加に相殺されて原油価格の大幅な値下がりは期待しにくいのが実情ではないでしょうか。
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中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。
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