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日本株式会社:良い会社、悪い会社、悲惨な会社
2012年11月14日(Wed) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年11月10日号)
経営不振の電機メーカーがトヨタの再生を真似るのは難しいかもしれない。
3年余り前、トヨタ自動車の社長に就任したばかりだった豊田章男氏は、祖父が創業した自動車メーカーが「存在価値を失うか消滅する」瀬戸際にあると述べた。
世界的な経済危機から製品リコール(回収・無償修理)、巨額損失に至るまで、様々な悪材料に見舞われ、豊田氏は大規模なリストラではなく、シンプルな戦略で対応した。すなわち、運転に喜びを感じる車を造ることだ。そうした車を造れば、売上高と利益は後からついてくる、と豊田氏は主張した。
その後の道は楽なものではなかったが、トヨタの再生は勢いを増しているように見える。11月5日、同社は今期の最終利益目標を過去5年間で最高となる7800億円に引き上げた。過去最高益にはほど遠いものの、利益予想を2割ほど下方修正したホンダ、日産自動車とは対照的だ。
3社は揃って、領有権を巡って日本と揉めている中国での販売台数減少に痛手を被っている。しかし、トヨタの新型ハイブリッド車は「カローラ」や「カムリ」と並び、ショールームから飛ぶように売れている。
大赤字に苦しむ電機大手
シャープ、パナソニック、ソニーの新社長はトヨタに羨望のまなざしを向け、どうすれば自分たちも、デザイン性の高いハイテク製品のメーカーとしての日本のイメージを回復できるか悩んでいるに違いない。
これらの電機3社は合計で、過去20年間に上げた利益よりも多額の損失を過去5年間で計上することになると見られている(図参照)。
中でも特に目も当てられない混乱に陥っているのがシャープだ。テレビや太陽光パネルの生産を手がけるシャープは11月5日、自社のバランスシートに神経質になるあまり、会社の将来について「重要な疑義」があると述べた4日前の発表を修正した。
改訂版は、下手な英語に対する謝罪もなく、次のように述べている。
「There exist conditions which might raise uncertainties about Sharp being an assumed going concern. However, we judge that no uncertainties about Sharp’s ability to continue as a going concern will exist.(シャープの継続企業の前提に関して不確実性を生じさせるかもしれない状況が存在する。しかし我々は、シャープが継続企業として存続する能力について不確実性が存在することはないと判断している)」
シャープの格付けは既にジャンク級〔AFPBB News〕
格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は同日、既にジャンク(投資不適格)級だったシャープの信用格付けを一段と引き下げた。
S&Pは、過去2年間の巨額損失がシャープの財務を逼迫させており、そのうえ同社が短期債に大きく依存していると述べた。
みずほコーポレート銀行と三菱東京UFJ銀行の2行は最近、シャープ向けに総額3600億円の協調融資(シンジケートローン)を実行したが、この契約は来年6月、シャープの転換社債が大量償還を迎える間際に切れる。
S&Pは、シャープの財務、もしくはシャープと銀行の関係が悪化した場合、90日以内に再びシャープを格下げする可能性があるとしている。
S&Pは、パナソニックとソニーのバランスシートはシャープより強固だと考えている。しかし両社も、テレビやその他スクリーン関連の赤字事業に対する慢性的な過剰投資に苦しんでおり、安心するにはシャープにあまりに似すぎている。
パナソニックは最近、2期連続で7000億円超の損失を計上すると発表し、社債保有者に衝撃を与えた。また、同社は1950年以降初めて年間配当を見送った。一方で、ソニーは、通期では黒字になると予想しているが、中核事業であるエレクトロニクス部門の大半は依然として下り坂だと述べている。
トヨタから学べること
では、電機大手がトヨタから学べることはあるだろうか? アナリストらは、電機業界の方が自動車製造よりもずっとコモディティ化(汎用化)が進んでいると言う。電機各社は数多くの事業に手を広げすぎているため、スケールメリットを通じてコストを削減するのが難しい。また、コストの安い生産拠点に移転するには、日本に執着しすぎている。
それでも、豊田氏が授けられる教えが1つある。消費者が喜ぶ製品を作ることに、もっとエネルギーを注ぐべきだということだ。これは韓国のライバル企業や米アップルが実践していることだ。悲しいかな、日本勢は過去の傷口を塞ぐことに忙しく、それについて考える余裕がない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36527
今もお粗末な日本の企業統治
2012年11月14日(水) The Economist
英国人社長の指摘で、オリンパスの歴代経営陣による巨額粉飾決算事件が発覚して1年。会社法改正を含め企業統治の強化に動き出す気配のない日本に対する世界の目は厳しい。競争力を落とし、海外の優秀な人材確保でも後れを取る日本企業の変革力が問われている。
1年前、オリンパスで発生したスキャンダルは日本の経済界に衝撃を与えた。同社の社長に就任したばかりの英国人マイケル・ウッドフォード氏が、総額17億ドル(約1367億3100万円)もの資金を投じて買収した案件について、不透明な点があるとして疑問を呈したところ、取締役会の反発を受けて解任されたのだった。
会社法改正案は骨抜きに
当時、不正を何度も否定していた同社の菊川剛会長は結局、辞任。その後、不正の事実を認めている。菊川氏はほかの元幹部2人とともに最長で懲役10年の判決を受ける可能性がある。
日本の国会議員がこの巨額粉飾決算の再発防止を真剣に考えているとしたら好ましい。事実、法務省法制審議会はコーポレートガバナンス(企業統治)の強化を図るべく会社法の改正に取り組んできた。当初の案では、最低1人の社外取締役を義務づけようとした。
だが、経済界の古参の保守派がこれに反発。その後、与党・民主党はこの社外取締役1人の設置義務を見送り、取締役に対して信任義務について理解することを義務づけることもしていないこの骨抜きの会社法改正案を事実上潰した*1。
*1=法制審議会はこの会社法改正の要綱案を9月7日に滝実法務大臣に答申した。法務省は同改正案を来年の通常国会に提出する予定という
米ニューヨーク証券取引所では、上場する条件として企業は取締役の半数以上を社外から起用しなければならない。企業統治に関する日本の現状は至ってお粗末である。ランキングではほかの富裕国のみならず、日本より貧しい近隣諸国の一部をも下回る有り様だ。
古い体質の経団連が開き直り
だが、“日本株式会社”の反応は、「だから何だ」である。大企業で構成される日本経済団体連合会は、日本は独自のルールを持つべきと長年主張してきた。
古い体質の経団連のあるメンバーは、「オリンパスには実際に3人の社外取締役がいたが、経営陣による不正を止めることはできなかった」と指摘。そして、「米エンロンを見ろ、同社の社外取締役たちは近代米国史上最悪の企業スキャンダルを食い止められなかったではないか」と続けた。
株主への還元という視点で見た場合、取締役会に多彩な人材を起用しても大きな違いを生むわけではない。仏証券会社CLSAによると、社外取締役の割合が最も高い日本企業15社(筆頭はソニー)の3分の1は、この5年間に株主資本利益率が低迷している。株主へのリターンという点では、社外取締役のいない企業の実績が最高だった。
だがこの主張は、いくつか重要な点を見落としている。企業統治とは、単に社外取締役が何人いるかという問題ではない。彼らが「いかに自分たちがなすべき仕事をするか」が重要なのだ(オリンパスではウッドフォード氏を助けようとした取締役は皆無だった)。
日本では取締役会は法的な地位を持たないため、株主が経営陣と対立した場合、その後ろ盾となる存在がない。加えて、日本の企業は、内部関係者や昔なじみ、そのほかのOBメンバー(おまけにほぼすべてが男性)を取締役に選ぶことが多い。
問題の根源は、変わらぬ内向き
だが、たとえそうでも取締役になった以上、少なくともその責務が従業員とどう違うか研修を受けることを義務づけるべきだ。取締役はリターンさえ上げていればよいわけではなく、オリンパスのような規模の不祥事の発生を防ぐのが仕事だ。
日本企業が抱える大きな問題は、その「内向き」さにある。あまりに内向きでいるがゆえに、世界の市場でアジアの競合に抜かれたのである。
海外の優秀な人材を確保するという点でも劣勢にある。ウッドフォード氏の身に降りかかった災難を目の当たりにして、海外の若い優秀な人材がどれほど日本企業に勤めてみたいと考えるだろうか。
日本はごく最近まで、国民の高齢化に伴い国内市場が縮小する運命にあるという事実すら見過ごしてきた。
業績不振の企業を多数抱える国は通常、企業の買収を呼び込み、経営再建を経て利益を生むという筋道をたどる。だが日本は違う。大企業による株式の持ち合いは減ってきたが、その手法は依然として望まぬ買収を防ぐために利用されている。
事実、オリンパスは新たな会長に自社のメーンバンクの元幹部を任命。この銀行はオリンパスの筆頭株主でもある。提携相手を決めるに当たっても、海外の競争力ある企業ではなく、業績不振にあえぐ日本のライバル企業、ソニーを資本提携先に選んだ。
企業統治について高い水準の受け入れを拒む姿勢は、近視眼的体質をよく表している。改革に乗り出そうとしないのは、改革しない方が敵対的買収やMBO(経営陣が参加する買収)、ほかの株主至上主義的な側面から身を守れると考えているからだろう。
だが先進的な考えを持つ者は、海外からの取締役を招くことが、外の世界におけるチャンス及びリスクの見極めにつながることを認識している。
英国エコノミスト
1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。
The Economist
Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。
記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121108/239208/?ST=print
人口オーナスへの対応を阻む長期雇用、年功賃金
日本型雇用慣行について考える(その3)
2012年11月14日(水) 小峰 隆夫
今回は、人口問題との関係で日本型雇用慣行の問題点を議論してみたい。やや脇道にそれるが、昔話から始めよう。
その昔(多分1970年代前半頃だと思う)「現代経済」という赤い表紙の雑誌(隔月刊で日本経済経新聞社が出していたと思う)があった。毎号、第一線の経済学者が登場して、最新の理論を背景に経済の諸問題を論じており、私は欠かさず購読していた。
この中で確か稲田献一氏(故人、高名な数理経済学者)が司会を務めた対談に金森久雄氏(経済企画庁出身の官庁エコノミストで私の大先輩)が出席したことがあった。この対談では、経済学者たちが最先端の難しい理論的な問題を延々と議論していたのだが、金森氏はほとんど発言しない。
見かねた司会の稲田氏が発言を促すと、金森氏はただ一言「経済学者は歯医者のようなものだ、歯が痛くて困っている人がいたら治療しなければならない」という謎の言葉を発して、後は再び黙り込んでしまった(記憶に頼って記述しているので、細部については不正確である可能性があります)。
私はこれを読んでいておかしくてたまらなかった覚えがある。金森氏の言いたかったことは要するに「経済学者は難しい議論のための議論をするのではなく、歯医者のように世の中の役に立つような議論をしろ」ということだったと思う。
確かに、経済学者は医者のようなものかもしれない。「経済」を診断し、「経済」を常に健全な状態に保つようにするための処方箋を描いて、その実践を促し、少しでも人々の福祉のレベルを引き上げることがその使命である。
そのためにもまずは適切な診断が求められる。このとき重要な点は、表面化している症状は、それ自身が病なのか、別の病によってもたらされた症状なのかということだ。
例えば、「頭が痛い」といってやってくる患者がいる。患者本人は、頭が痛いということは分かっているが、その原因は分からない。単なる頭痛であれば頭痛薬を処方すれば良いのだが、クモ膜下出血の前兆であれば直ちに脳外科の専門家が治療する必要がある。この場合は、病気そのものを治療して、結果的に頭痛が収まるようにしなければならないわけだ。
本稿で私が言いたいことがこれである。以下に示すように、日本の人口動態をめぐっては「先進諸国の中で出生率の低下が著しい」という現象が見られ、今後労働力人口の減少が確実視されるにもかかわらず「先進諸国の中でも女性の社会参画の度合いが低い」という現象がみられる。多くの場合は、このように「低い出生率」や「低い女性の社会参画」は、それ自身が病気だと考えられており、その病気を治すために「子ども手当を増やす」「ワークライフバランスを推進する」といった処方箋が描かれる。
しかし私は、こうした出生率や女性の社会参画の動きはそれ自身が病気なのではなく、もっと本質的な病気によってもたらされている症状なのだと考えている。以下、なぜそうなのかを説明しよう。
人口オーナスへの対応
人口オーナス問題については、私のコラムでも既に何度も取り上げている(例えば、「『人口オーナス』から導かれる新常識」2010年9月10日)。
要は、人口が減少すると、一時的には人口に占める働く人の割合が高まる「人口ボーナス期」を迎えるのだが、やがて少子・高齢化の進展とともに働く人の割合が低下する「人口オーナス期」が来る。
日本は既にこのオーナス期に入っており、その結果、潜在成長力の低下、社会保障制度の行き詰まり、人口減少地域の疲弊などの諸問題が表面化している。この人口オーナス現象は、今後さらに程度が高まることが確実であるため、問題点の方もさらに深刻化することが懸念される。
では、これに対して我々はどう対応すべきか。まず、少子化を止めることにより、人口オーナスの程度を軽くしていくことが必要だ。また、潜在成長力の低下に対しては、これまでにも増して、資源配分の効率性を高め、発展分野に人材・資金・経営資源などが流れ込むようにすることが必要だ。
さらに重要なのは、労働参加率(人口に占める働く人の割合)を高めることだ。人口オーナスは、そもそも人口に占める働く人の割合が低下することによって生じるのだから、女性、若者、高齢者、外国人の労働参入を促し、働く人の割合が低下しないようにすることは、人口オーナスへの特効薬になるはずだ。特に、日本は女性の労働参加度合いが低いから、「眠れる資源」としての女性労働力をもっと生かしていくことが重要となる。
ここで問題になるのが、日本型雇用慣行がこれら人口オーナスへの対応に際しての桎梏になっていることだ。
少子化の進展と日本型雇用慣行
まず、少子化の進展と日本型雇用慣行の関係について考えよう。
日本に限らず、多くの国々では、所得水準の高まりとともに子供の数が少なくなる傾向がある。その理由として、経済学者は所得水準の上昇とともに、「子供を持つことのコスト」が上昇し、「子供を持つことのメリット」が小さくなるからだと考える。
メリットの方は、先進国になってくると、次第に子供が多いからといって家計が助かることもないし、子供が多いから老後が安心というわけでもなくなる。コストについては、多くの人がすぐ思い浮かべるのは教育コストである。所得水準が高まると、より高度の教育を受けさせるようになるので教育コストが高くなる。しかし本当に重要なことは女性の子育てに伴う「機会費用」である。
「機会費用」というのは、あることを行うことによって何かをあきらめた時、そのあきらめたことがコストだという考えである。女性にとっての子育てのコストは、子育てに専念することによってあきらめたことがコストだということになる。
例えば、かつての日本では、女性はある年齢になると結婚して家庭に入り、家事、子育てに専念するのが当然だと考えられていた。すると、女性が子育てに専念しても、特にあきらめたことはないわけだから、機会費用はゼロである。
しかし、所得水準が上昇し、女性も男性と同じように高い教育水準を受けて、高い賃金を得るようになってくると、話が違ってくる。今度は、育児に専念する女性は、そうしなければ得られたであろう就業上の地位と高い所得を犠牲にすることになる。機会費用が上昇するのである。
ただし、これだけで日本の少子化傾向を説明するのは難しい。先進諸国の中で日本は特に少子化の進展が急速に進んでいるからである。
女性が子育てのため退職した場合の「逸失所得」
機会費用についてもっと詳しく検討してみよう。女性の子育ての機会費用は、女性がそのまま働き続けた場合得られる生涯所得と、子育てのために退職した場合の生涯所得を比較することによって計算できる。2005年の「国民生活白書」(内閣府)が、実際にこれを計算している(白書では「逸失所得」という言葉を使っている。参照ページはこちら)。
これによると、いったん退職して子育てに専念し、子供が6歳になったときにパートで働きに出たとした場合の逸失額は約2億3000万円となる。これはかなり巨額だ。
しかしこの巨額の機会費用は、運命的なものではなく、我々が保持している制度慣行によって左右される。私は、日本的な雇用慣行が、以下のような点で、この機会費用を大きくする方向に作用していると考えている。
第1に、長期的雇用慣行が機会費用を大きくしている。日本的な長期雇用の下では、オン・ザ・ジョブ・トレーニングを通じて企業特殊的な人材が育成されていくので、いったん退職した女性が同じような条件で職場に復帰することは難しい。すると、子育てのために退職することが大きな負担となり、それが子供を持つことをためらわせる。前回述べたような、スキル依存型で企業を移動しながらキャリアアップを図る場合には、女性は子育て期間終了後に、退職時の職場に近い条件で雇用の場を得ることができるから、機会費用はぐっと小さくなるはずだ。
第2に、日本型の年功賃金も機会費用を大きくしている。年功賃金の下では、どうしても正社員と非正規社員(パートなど)との賃金格差が大きくなる。正社員の場合は勤続年数が加味されるから、同じような仕事をしていても非正規社員よりも賃金が高くなるからだ。
子育てが終わって働きに出る女性は時間的な制約が大きいので、どうしてもパート的な仕事につかざるを得ないが、その賃金は正社員よりずっと低い。これが機会費用を大きくしている。年功賃金ではなく、同一労働・同一賃金となっていけば、正社員との賃金格差が縮小するから、機会費用はずっと小さくなるはずだ。
日本型雇用慣行は、機会費用以外の面でも少子化と関係している。例えば、日本型雇用慣行は男性の育児参加を難しくしている。日本的長期雇用の下では、雇ってしまった労働者は、いわば「据え付けてしまった機械」のようなものだから、稼働率を高めたい(労働時間を長くしたい)という誘引が作用するし、景気の変動に応じた雇用調整もまずは残業時間で調整しようとする。長期雇用では企業命令を拒めないので、単身赴任となるケースも多い。
こうして日本では、男性が企業に拘束される時間が長くなり、家事・育児への参加がなかなか進まない。日本の男性の家事・育児時間は欧米先進諸国と比較して比べものにならないほど短いことは多くの調査で明らかになっている。これも女性の負担を重くしている。
さらに、日本的な雇用慣行の下では、雇用調整はまず新卒採用の抑制という形態をとることが多い。既に雇い入れた労働者を減らすことは難しいからである。このため、日本では若年層が雇用調整のしわ寄せを受けやすくなる。しわ寄せを受けた若年世代では生活の余裕がなくなるから、結婚できない。日本では結婚しないと子供を作らないから(または子供ができたら結婚するから)、これが出生数の減少をもたらすことになる。
女性の就業率と構造改革
次に、女性の就業について考えよう。人口オーナスに対抗するには、女性の労働力率を引き上げていくことが必要となる。日本の女性の労働力率は、20代後半から30代前半にかけていったん低下し、その後再び上昇するという「M字型カーブ」を描いている。日本では、このMのくびれが大きいので、女性の労働参加率が低くなるのだ。
さらにこれを学歴別にみると、大卒の女性の方が子育てが終わった後も労働市場への再参入が少ないという傾向がある。要するに大卒女性の方が専業主婦になる確率が高いということだ。量的にも質的にも日本の女性の人的資源は未活用の程度が大きいということになる。
そして、これにも日本型雇用慣行が関係しているというのが私の考えだ。
第1に、長期的雇用慣行が支配的だと、退職のリスクが大きいため、企業は女性をコアの労働力として教育訓練コストをかけない。すると、女性の側でも「どうせやりがいのある仕事は任せてもらえない」という気になり、結婚や出産を機に家庭に入るという選択をしがちになる(このあたりかなり単純化して記述しています。最近では女性を十分活用している企業も増えています)。
第2に、年功賃金が支配的であると、前述のように、正規と非正規の賃金格差が大きくなり、パートの賃金は相対的に低くなる。大卒の女性が専業主婦になる確率が高いのは、学歴が高いほど所得の高い男性と結婚する確率が高くなるという面もあるが、自分の能力を生かして、ある程度の所得を得られるパートの職が少ないからだろう。
第3に、これも前述のように、日本では長期雇用を前提としているため、残業、転勤、企業同士の接待など、企業に拘束される時間が長い。これも時間的制約の強い女性には不利である。
経済社会の流れと不適合な日本型雇用慣行
以上のように、日本型雇用慣行は少子化をもたらし、女性の社会参画を阻んでいる。つまり、女性の社会参画が進むという避けがたい経済社会の流れと、日本型雇用慣行が不適合となっており、それが低水準の出生率、低水準の女性の労働参加率となって現われているのだ。
経済の医者として、私はこれこそが本当の日本の病だと診断する。出生率や女性の労働力率はその病によってもたらされる症状である。この病を治療しないまま、少子化対策を講じ、女性の社会進出を促そうとするのは、(効果がないとは言わないが)かなり効率が悪い。日本型雇用慣行を改め、女性が莫大な機会費用を払わなくても結婚・出産ができるような環境を整えていけば、自ずから出生率は高まり、女性の社会進出も進むのだと思う。
(次回は、このシリーズの最後として、今こそ小泉型構造改革が求められているのに、それが多くの誤解もあって人々に支持されていないという問題を考えます。掲載は11月28日の予定です)
小峰 隆夫(こみね・たかお)
法政大学大学院政策創造研究科教授。日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか』、『超長期予測 老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図』『女性が変える日本経済』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』ほか多数。新著に『最新|日本経済入門(第4版)』
小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか
進まない財政再建と社会保障改革、急速に進む少子高齢化、見えない成長戦略…。日本経済が抱える問題点は明かになっているにもかかわらず、政治には危機感は感じられない。日本経済を40年以上観察し続けてきたエコノミストである著者が、日本経済に本気で警鐘を鳴らす。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121107/239168/?ST=print
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