http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/444.html
Tweet |
(上)3Dプリンター、速く安く誰でも 多品種開発容易に
国内製造業の現場がデジタル技術の革新によって変わり始めた。簡単に試作部品を製造できる3次元(3D)プリンターなどを使えば、開発期間の短縮だけでなく、投資を抑えた効率的な多品種少量の生産も可能になる。巨大な設備や多くの人材を抱えて大量生産を追求した製造業のあり方が、変革を迫られる可能性もある。最前線の動きを追った。
フィギュア1日で
東京都浅草に近いバンダイ本社。正面入り口を入ると、ガンダムなどキャラクター模型が並ぶ。10月に放送が始まったばかりのテレビアニメ「超速変形ジャイロゼッター」のロボット玩具も人気だ。ヒット製品を生み出す陰の主役が高性能の3Dプリンター。原料の樹脂を入れれば、粒子を噴射して短時間で試作部品を成形できる。
フィギュアの製作は各部品の高い精度が求められる。従来は精密な金型の製作に2〜3週間必要だが、「3Dプリンターなら試作が1〜2日でできる」と設計チームの古沢北斗リーダーは語る。
同社は2005年に最初の機械を導入。現在は新型機を含めて5台まで増やしており、愛好家を納得させる製品作りにフル稼働している。
家庭用品大手のライオンでも3Dプリンターが活躍する。同社の包装技術研究所(東京・江戸川)では歯ブラシの取っ手などの樹脂部品を試作する。「設計データを入れておけば、一晩で模型ができる。開発効率が一気に上がった」という。現在は韓国やタイの拠点への導入も検討している。
世界の製造業は今、歴史的な転換期にある。米フォード・モーターが量産車「T型フォード」を発売してから100年余り、多くの企業が大量生産によるコスト削減を追い求めてきた。それは巨額投資による規模の拡大こそが利益を増大させる「勝利の方程式」だったからだ。
だが、最近は顧客ニーズの多様化を受けて製造業大手も新製品を短サイクルで投入する必要に迫られている。重要なのは3Dプリンターのようなデジタル技術。これを生かせば、中小企業もモノづくりへの参入ハードルが低くなる。
米調査会社ウォーラーズ・アソシエイツによれば、11年の3Dプリンターの世界販売台数は10年前の5倍の約6500台だ。金額ベースで17億ドル程度(サービス含む)。現在は米ストラタシスなど海外大手3社が6〜7割の世界シェアを握り、日本でも価格を抑えながら高精度の造形ができる機種を投入している。
日本勢にもろ刃
もちろん、最近10年で急速に技術開発が進んだ3Dプリンターも魔法のつえではない。成形は樹脂品が対象で、金属材への対応は難しい。低価格化が進んでも、まだ1000万円を超える高額機も多い。今後の普及には成形速度や精度向上に加え、一段の価格引き下げが課題となる。
ただ、昨年新規参入したキーエンスなど日本企業を含めて3Dプリンターの開発競争は一段と激しくなる。使い勝手の良い次世代機が登場することは間違いない。
ここで見逃せないのは日本の製造業にとってもろ刃の剣になりかねないことだ。日本は金型のような基盤技術に強く、中国などの企業に対する優位性を維持してきたが、デジタル機を購入すれば同じような生産技術を確保できる。製品開発に不可欠な試作では投資負担が軽くなり、アジアの新興企業も様々な製品に参入しやすくなる。
日本の大手製造業は今後も急速に革新が進むデジタル化の時代でもモノ作りの強さを維持できるのか。新たな試練に直面することになりそうだ。
▼3次元(3D)プリンター 3次元の設計データをもとに立体の模型を作り出す装置。成形には熱した樹脂を歯磨き粉のように絞り出して重ねたり、粒状にした樹脂を吹き付けたりする方法が使われている。ねじのような小さなものから自動車のバンパーまで様々なものを成形できる。材料の樹脂の開発も進み、色付きや透明の模型も作れる。自動車や家電などの試作部品の製造に使われることが多い。最近では歯の治療用模型など医療分野で活用されるケースも増えている。
[日経新聞11月7日朝刊P.11]
(下)1人でもメーカー 下がる起業のハードル
今春、池袋パルコ(東京・豊島)のショーウインドーで動くマネキンが注目を集めた。手掛けたのは従業員が社長を含めて3人の杉浦機械設計事務所(横浜市)。3次元(3D)プリンターで腕や肘を製作し、モーターで動く仕組みにした。
杉浦富夫社長は「3Dプリンターの価格が下がり、買いやすくなった」と話す。思いついたアイデアをすぐに試せる。マネキン部品の製作期間は1カ月。通常の3分の1以下だ。他百貨店から引き合いもある。
大手が駆け込む
精密機械産業の集積地、長野県伊那市にあるスワニーは3Dプリンターで復活した。モーター部品などを手掛け、最盛期に60人の従業員がいたが、取引先の海外移転で橋爪良博社長が家業を継いだ2010年は両親2人だけ。「このままでは生き残れない」と設計会社への転換を決意。優秀な設計者を採用、現在は13人まで増やした。
スワニーは今、医療や家電などの大手が頼る「駆け込み寺」として知られる。図面がない顧客のアイデアでもすぐにデータ化し、3Dプリンターを使って最短1日で試作品をつくれるからだ。
製造業はインターネット関連と異なり起業が難しかった。生産は外部委託できるが、製品化には試作の金型などに初期投資として数千万円単位の資金が必要。3Dプリンターの低価格化などで資本力という高いハードルが下がり、極端に言えば1人でもメーカーになれる時代が訪れつつある。
「新産業革命」――。米誌「ワイアード」編集長のクリス・アンダーソン氏は近著「メイカーズ」で、こうした変化のうねりをこう表現した。「誰でも(製品を)デザインし生産できるようになった」という。
米オバマ政権も製造業復興のために3D関連技術を支援。米マサチューセッツ工科大学(MIT)も個人が3Dプリンターなどを安いコストで使える市民工房「ファブラボ」を提唱、普及を後押ししてきた。現在は世界35カ国に広がる。
日本でも今月、東京・渋谷に3カ所目がオープンした。ファブラボ渋谷の梅沢陽明代表は建機大手の元設計技術者だ。「作りたいものを作れる場を提供したい」。若者などの利用を見込む。
試作2万円以下
個人から3Dプリンターで試作などを請け負う「出力サービス会社」も増えている。
金型製造のインクス(東京・千代田、古河建規社長)もその一つ。同社は「金型の無人工場」を建設するなど積極経営で知られたが、08年秋のリーマン・ショック後に受注が低迷、民事再生法の適用を申請した。出力サービスでは試作部品を2万円以下で提供、個人顧客を開拓する。約800人の技術者を抱え、うまく加工できないデータの修正も助言する。
米ストラタシスの3Dプリンターを販売する丸紅情報システムズも11年11月から、樹脂部品の受託製造サービスを始めた。ベンチャーを含めて「3Dプリンターを試してみたい」との声が多いからだ。「開始後、半年間だけで100件以上の受注があった」という。
日本の製造業にとって強さの源泉は優れた中小企業の集積にあった。3Dプリンターなど革新技術を活用、ものづくり分野の有力ベンチャーが相次いで誕生すれば、日本の競争力が再び高まることになる。
中村結、伊藤大輔、三浦義和、松本支局 岩戸寿が担当しました。
[日経新聞11月8日朝刊P.15]
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。