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JBpress>海外>The Economist [The Economist]
企業が貯め込む現金:「死に金」
2012年11月08日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年11月3日号)
企業のバランスシートには危機の前から現金が積み上がっていた。
金融面の景気刺激策は、ある程度の成果しか出せない。トムソン・ロイターによると、米国ではS&P500株価指数を構成する企業の利益と売上高は今年第3四半期に、2009年以来初めて前年比で減少に転じた模様だ。欧州のストックス600指数を構成する企業では、これまでのところ、その約半分で利益が予想を下回っている。
企業が直面する4羽のグレースワン
犯人探しをする企業は、鏡を覗き込んでみた方がいいかもしれない。企業は、英国の大手広告マーケティング会社WPPのマーティン・ソレル氏が4羽の「グレースワン」(ブラックスワン*1と違ってグレースワンのことは誰でも知っている)と呼ぶものに直面し、技術コンサルティングサービスから半導体機器に至るまで、あらゆるものの予算を削減している。
企業の自信をなくさせている4つの懸念要因とは、ユーロ圏の危機、中東の激変、中国の景気後退の可能性、そして米国の経済状況と「財政の崖」――今年末に起きる予定の増税と歳出削減の組み合わせ――だ。
これは新しい問題ではない。景気後退が終わってから、投資は着実に増加してきたが、利益ほど大幅には伸びていない。例えば米国では、今年の名目設備投資が2007年に比べて(年率換算で)6%増加している。一方、内部キャッシュフローは32%増加している。
純額ベースで見ると、企業は2008年以降、資金の使用者ではなく、経済の他部門への資金供給者になっている。トムソン・ロイターによると、S&P500株価指数を構成する企業は6月末現在で約9000億ドルの現金を保有していた。1年前からやや減少しているが、2008年に比べるとまだ40%も多い水準だ。
企業経営者や保守的な評論家は、このような現金の山は、連邦政府の余計な規制と米国の高い法人税率が現金を閉じ込め、投資意欲を削いでいる証拠だと言う。だが、それでは同じ現象が世界中に広がっている理由を説明できない。
政策立案者を苛立たせる死に金
証券会社のISIグループによると、日本企業の流動資産は2007年以降、約75%も急増し、2兆8000億ドルに達しているという。現金の蓄積は英国やカナダでも増え続け、両国の政策立案者をひどく苛立たせている。
カナダ中央銀行のマーク・カーニー総裁は、カナダの企業が現在保有している3000億ドル近い現金(2008年から25%増加)のことを「死に金」と表現している。カーニー総裁は企業に対して「資金を有効に働かせるか、どうしていいか分からないのなら株主に返還すべきだ」と忠告した。
*1=事前に予測できず、実際に起きると衝撃が大きい事象を指す
企業が多額の現金を貯め込む理由を説明するのは1つの要因だけではないように見える。イングランド銀行は、天然資源会社が現金蓄積の過大な割合を占めていると指摘する。これはコモディティー(商品)価格の高騰と有望な新規供給源の不足を反映しているのかもしれない。
BCAリサーチによると、低金利が借り入れコストを引き下げ、米国企業の利益率を約1ポイント押し上げているという(ただし、超低金利は現金を保有する魅力も低下させている)。
金融危機によって、企業は資金を銀行や証券市場に頼ることを警戒するようになっている。ゼネラル・エレクトリック(GE)の金融部門が自社の運転資金を賄う能力について2008年に疑問が提起されて以来、GEは現金を貯め込んできた。その額は第3四半期末に850億ドルに達し、S&P500構成銘柄の中で最大となっている。
金融危機などより根深い問題
こうした傾向が急激に反転する可能性は小さい。企業の貯蓄の増加は、金融危機やコモディティーブーム、今回の金利サイクルよりも根が深いからだ。
シカゴ大学のルーカス・カラバルボニス、ブレント・ニーマン両氏は最近の研究で、1975年から2007年にかけて調査した51カ国で、民間貯蓄に占める企業の割合が全体で20ポイント上昇したことを発見した。企業の貯蓄が増加した国では、企業部門におけるGDPベースの労働分配率が全体で5ポイント低下していた。
両氏は、企業の貯蓄増加と労働分配率低下の両方を、1980年代初めに始まった投資財の相対価格の下落と関連付けている。こうした価格下落は、大幅に下がったコンピューターのコストか賃金の安い発展途上国への資本財の生産移転、あるいはその両方によるものかもしれない。
どのような理由であれ、企業は労働から資本へシフトし、しかも教科書の経済モデルが示すよりも大幅に労働を資本で代用することで対応してきた。
そして、こうした投資の資金を捻出するために、企業は時間をかけて着実に貯蓄を増やしてきた(家計が毎年貯金しながら住宅ローンを組めるのと同じように、このことは企業が借り入れを止めたことを意味しない。事実、見方によっては米国企業はここ数十年間で債務を増やしてきた)。
カラバルボニス、ブレント・ニーマン両氏は、51カ国すべてについて2007年以降の比較可能なデータを持っているわけではない。だが、4大経済大国については数字を持っている(図参照)。
そのデータが示すのは、民間貯蓄に占める企業の割合が2007年以降やや低下していることだ。家計の貯蓄が増えたことが一因だが、絶対額では依然多額だ(GDPベースの労働分配率は低水準で安定した)。
貯蓄に対する衝動は弱まっているのかもしれない。国内で成長見込みがほとんどない日本企業は、海外企業を買収するようになっている。JPモルガン・チェースのマーク・ゼナー氏は、過去18カ月間に買収を発表した企業は株価上昇という見返りを得ていると指摘する。
倹約姿勢は揺るがない?
ただ、たとえ企業が財布の紐を少し緩めているとしても、近い将来に倹約的な姿勢を放棄する可能性は小さい。法人税率の低下は労働よりも資本の魅力を高めている。不確実性の高まりや気まぐれな資金調達市場は、繰り返し発生する景色の一部のように見える。それだけに企業はより一層、成長を内部資金で賄う決意を強くしているはずだ。
GEは今から2016年までに、投資、買収、配当の資金を賄い、さらに発行済み株式を危機以前よりも少なくするだけの自社株買いに十分な1000億ドルの現金を生み出すことを見込んでいる。
少し前、GEは現金の山の中からもっと多くの資金を買収に使う誘惑に駆られないかと聞かれた時、CEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルト氏はこう答えた。「急いで使いたいとは思わない」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36494
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
日本版「財政の崖」に対する懸念は行き過ぎ
2012年11月08日(Thu) Financial Times
(2012年11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
「近いうち」とはいつのことか〔AFPBB News〕
「近いうち」という言葉の意味が最近論議の的になっていることは、日本の政治討論のレベルについて実に多くを物語っている。
このため、今年度の巨額の財政赤字の補填に必要な38兆3000億円の資金を政府が借りられるようにする、遅れに遅れた法案の成立を実現する日本政府の力量について、国際的に懸念が高まっているのも無理からぬことだ。
メキシコシティで開催された主要20カ国・地域(G20)の会議に集まった各国財務相と中央銀行総裁は5日、大幅な歳出削減と増税が実施される、迫り来る米国の「財政の崖」と並び、日本の赤字補填問題を世界経済が直面する最大級のリスクとして強調した。
だが幸いなことに、日本がまるでレミングのように崖から飛び降り、財政破綻に向かおうとしているとの懸念はほぼ確実に行き過ぎだ。
米国とは事情が違う
参議院で過半数を占める野党陣営は、8月初旬に「近いうち」に総選挙を実施すると誓った野田佳彦首相に約束の履行を迫る武器として赤字国債法案を利用しようとしてきた。
米国の政治家と違って、日本の政治家は既に、財政の断崖へ至る前に、このチキンゲームをやめる意向を示している。
実際、G20の高官らがメキシコに集う前から、野党・自民党の安倍晋三総裁は、同党が赤字国債法案の国会審議に応じるとの声明を出していた。11月5日には、同法案の成立を総選挙の日程問題と「切り離す」ことを確約している。
自民党の心変わりは、日本が、中央政府の資金が枯渇し始める前に赤字国債を発行できなかった場合に生じかねない市場の混乱と歳出削減を回避できることを意味している。自民党の譲歩はまた、先月、今国会の開会にあたっての所信表明演説で、法案成立に消極的な野党側の姿勢を「不毛な党派対立の政治」と評した野田首相にとっても後押しとなる。
赤字国債を巡る論争では、不信感が一定の役割を果たした。租税政策に対する民主党と共和党の意見の相違の結果として「財政の崖」の脅威が生じているワシントンとは異なり、日本では与党・民主党と野党・自民党は今年、社会保障と税の一体改革について合意に至った。
しかし野田首相は、自民党が財政責任を受け入れたことを到底喜べない。「近いうち」に総選挙を実施することに合意して以来――現在5%の消費税率の倍増に向けた法案可決に対する野党の協力への対価――、衆院解散への圧力が高まっているためだ。
首相は「近いうち」が何を意味するのかを明確にすることを拒んでおり、他の民主党幹部らは、総選挙を年内に実施できるのかどうか、あるいは実施すべきなのかどうかを巡って意見が割れている。
野田首相は先月、この1年で3度目となる内閣改造を行い、主導権を取り戻そうとした。だが、この目論見は裏目に出た。法相に任命した田中慶秋氏が、30年前にヤクザと呼ばれる暴力団幹部の結婚式で仲人を務めたことが明るみに出て、辞職に追い込まれたためだ。
急落する首相の支持率、「財政の崖」がなくても問題は山積
世論調査によると、野田首相の支持率は急落している。11月4日に共同通信が配信した世論調査の結果では、野田内閣を支持すると答えた回答者の割合は18%を下回り、過去最低となった。
日本では、これほど低い支持率は大抵、政権が末期にある兆候と受け止められる。だが、解散・総選挙の時期を決定できるのは首相だけだ。
これはつまり、「近いうち」という言葉の定義を決めるのは野田首相であることを意味しているが、事態の展開に対する首相の影響力は一段と弱まる恐れがある。中国との間で燃え上がっている領土紛争などの外交政策上の問題や、形式的な景気後退へ逆戻りしかねない景気回復の衰えなどに直面してリーダーシップが必要なことを考えると、これは日本にとって悪材料となる可能性がある。
たとえ財政の崖がなくても、世界3位の経済大国である日本には、まだ心配すべきことが多々あるのだ。
By Mure Dickie in Tokyo
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36500
【第42回・最終回】 2012年11月8日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
財政赤字と金融緩和の行き着く先はどこか?
ジョン・モールディン、ジョナサン・テッパー著『エンドゲーム――国家債務危機の警告と対策』(山形浩生訳、プレジデント社、2012年8月)も、この連載で取り上げてきたテーマについて論じている。
本書が描く世界経済の推移は、つぎのとおりだ。
(1)過去60年にわたって「負債のスーパーサイクル」があった。これは、民間部門が負債を増加させていく過程だ。
(2)それは、2008年のリーマンショックで終わりになった(p21。なお、ページ数は邦訳のもの。以下同様)。そして、これからは「エンドゲーム」になる(p14、p18、p23)。これは、国などの公的セクターが債務を増大させていく過程だ。
(3)しかし、この過程はいつまでも続けられず、いずれ政府が現在のように安い金利では借りられなくなる。ギリシャはその段階に達したが、他の先進国も、いずれはそうなることを免れない。その場合の選択肢としては、デフォルト、インフレ、通貨切り下げがある。先進国政府は、国債の貨幣化を行なっている(p36)。
民間の負債が
増えたのはなぜか
まず上記の(1)の過程について見よう。
民間部門が負債を増大させてきた期間を、本書は「60年間」としているのだが、これは長すぎるのではないだろうか?
ただし、1980年代あるいは90年代以降に、これがアメリカを中心として生じたことは明らかだ。これは、「グレート・モデレーション」と呼ばれた現象だ。ただし、日本ではそうならず、不況が続いた。また、企業の負債も減少し続けた。だから、日本人には理解しにくい。
では、なぜ民間の債務が増えたのか? 本書の説明は、つぎのとおりだ。インフレ退治のため高金利を続けた結果、インフレは収まった。また金利も低下した。このため、借りやすくなり、負債が増えた(p25)。とくに膨張したのは、家計と住宅ローン負債だ(p26)。
また、証券化やシャドーバンキングなどの金融技術の進展も寄与したことを指摘している(p30)。
先進国一般に金融緩和へのバイアスが生じたことは事実だ。しかし、これは、「引き締め政策の結果インフレが退治された」というよりは、外部的要因でインフレがなくなったからではないか? とくに重要なのは、新興国が工業化したからである。なお、新興国工業化が重要な変化であることは、本書も認めている(p23)。
民間の負債が政府の負債に
変わったのはなぜか
「負債は、消えたわけではなく、移転されただけ」だ(p32)。本書は、アメリカの場合について、民間債務から公的債務への転換を示す図を掲載している(p32)。そして、これを、本書の最も興味深い図だと言っている。確かにそうだ。
問題は、なぜこうなったかだ。
前回述べたように、ラインハートとロゴフは、経済が不況になったから税収が減ったためであって、銀行に公的資金を注入したためではないとしている。
本書は、理由については、あまりはっきりしない。
日本については、財政出動が原因だという。「景気下降のショックを和らげるべく、日本政府は無意味な橋など、実体経済の生産性をまったく高めないような公共事業に、狂ったような金額を注ぎ込んだ」(p273)。しかし、これは誤解である。
日本は押しつぶされた虫?
本書の日本経済に対する評価は、かなり厳しい。すなわち、「日本は、どこかの車のフロントガラスで押しつぶされた虫のようなもの」だという(p20、p271、p282)。そして、巨額の政府負債を政府が返済できないことは明らかだから、「日本で行きづまるのは明らかだ」という。
国債の海外消化を求めざるをえず、そうなれば、調達金利は上昇する。問題は、「そうなるかどうか」でなく、「いつそうなるか」だけだ(p281)。
そうだろうか?
「返済できない」と言うのは、その通りだ。しかし、本書の診断にはいくつかの疑問がある。
第1に、民間債務減少について。
本書は、アメリカについて、上記(2)の過程(民間債務から公的債務への転換)を示す図を示している。では、日本についてはどうか? 確かに企業の債務は減少している。しかし、これは、投資が低調であるために民間企業に資金需要が発生しないためだ。
また、日本国内の国債保有者が国債を売れば、状況は大転換して円安になるとしている(p282)。これまでも、日本は180度の転換を行なったことが何度もあるから、今後も起こる可能性があるというのだ。
しかし、国債保有に関する限り、そうした現象は見られない。他に投資対象がないからだ。とくに、地銀、生保はそうである。国債の消化にまったく変化は見られない。
デフレの可能性
本書は、デフレについても触れている。そして、先進国においては、インフレとデフレの両方の可能性があるという。
デフレの(古典的な)定義は、「一般物価水準の実際の低下と、総需要の不足や不十分で特徴づけられる経済環境」だ(p145)。
デフレの原因としては、生産性の上昇によるもの(例えば、PCの性能向上。これを「良いデフレ」と呼んでいる)もあるが、それ以外の要因によるものもあるとし、つぎのようなものをあげている(pp148−152)(注1)。
(1)過剰生産能力と需要不足
(2)過剰な債務の圧縮
デフレの定義の中に上のように「総需要の不足」を入れてしまうと、(1)は「定義によって」ということになってしまう。
(2)は、いわゆるバランスシート不況だ。これをデフレの原因と考えることに対する私の批判的な意見は、この連載の前回に書いた。
(注1)ただし、この部分の記述は、デフレを引き起こす原因と、デフレがもたらす結果とが混在しており、読みにくい。例えば、「富の破壊」が挙げられているが、これはデフレの原因でなく、結果と解すべきものだろう。
貨幣の流通速度低下について
本書は、デフレに関する議論と関連して、「貨幣の流通速度」に関しても議論を行なっている(pp151−163)。後述のように流通速度が低下するとデフレが深刻な問題となるからだ。
「流通速度」とは、貨幣数量説の式 Mv=PY におけるv(=PY/M)のことだ。ここで、Mは貨幣ストック、Pは物価水準、Yは実質国民所得である。「国民所得PYの取引のために貨幣が一定期間に用いられた平均回数」と解釈することができる(注2)。
データを見ると、最近時点の貨幣の流通速度は、明らかに低下している。流通速度が低下すると、貨幣供給量Mを増大させても、PYは増加しない。つまりインフレは起こせないわけだ。
フリードマンが「インフレはいつでもどこでも貨幣的現象だ」と言ったとき、彼は流通速度が一定であると仮定していた。しかし、その仮定は満たされない。
では、なぜ流通速度が下がったのか? 本書は、1990年代には流通速度が顕著に上昇したことに注意すべきだという。そして、これは、証券化などの金融イノベーションの結果だという(p159)。金融イノベーションが崩壊したために、流通速度が低下しているというのだ。
これについては議論の余地があると思うが、中央銀行がインフレを起こすのが難しくなったことは間違いない。
さらに、中央銀行は、貨幣供給量Mにも影響を与えられないようになっているのだ。本書では、それを図7.6(p159)で示している。
FRB(米連邦準備制度理事会)が量的緩和を行なってマネタリーベースを増加させたにもかかわらず、M2はそれに応じて変化しなかったのだ。これは、本連載ですでに論じたことである。また、日本でもそうであることを、この連載で示した。
しかし、奇妙なことに、本書では図7.6についての議論が行なわれていない。
(注2)ケンブリッジ方程式 M=kPYにおけるk(=1/v)を「マーシャルのk」と呼ぶ。これは、貨幣保有に対する選好度を示すと考えられている。
インフレになるのか?
エンドゲームの結末は、インフレである可能性も高い。
これに関して、本書は2つの歴史的データ研究を紹介している。
第1は、この連載の前回で紹介したラインハートとロゴフによるもので、彼らの結論を要約すれば、銀行危機→政府のデフォルト→インフレとなる(p178)。その説明は、銀行危機→負債圧縮と貨幣速度の低下によるデフレ圧力→外国人投資家が通貨売却→通貨下落→輸入インフレということだ。
第2は、インフレ研究家であるバーゼル大学のベルンホルツの研究で、それによれば、(1)支出の4割以上の財政赤字は維持不可能、(2)ハイパーインフレ(貨幣供給量の伸び率が月率50%以上)は、赤字が貨幣創造で資金調達されるときに起きる(p185)。
これらを踏まえて、本書はつぎのように診断する。
(1)中央銀行による赤字ファイナンスが行なわれれば、インフレになる(p180、p186)。
(2)日本とアメリカは、ベルンホルツの水準からあまり遠くない。ただし、中央銀行による大規模な貨幣化は行なわれていない(p185)。
(3)だから、日本やアメリカがハイパーインフレになることはなさそうだ。しかし、中央銀行が独立性を失ったり、財務省と協調し続けたりすれば、そうした状況は将来変わりかねない(p191)。
本書が刊行された2011年では、確かに(2)(3)の状況だった。しかし、いまは事態は違う。実際、日本では、つい先ごろ財務省と日銀の共同声明が出された。
だから、いまハイパーインフレに突入してもおかしくないことになる。
インフレとデフレのどちらになるかで、保有すべき資産も変わる(pp321−324)。だから、「本当にインフレになるのか?」というのは、多くの人の最大の関心事だ。では、どうなるのか?
日本の財政再建はできない
日本の将来を見たとき、つぎの諸点は明らかである。
(1)どんな政権が誕生しようが、現在の歳出を大幅に削減することはできない。社会保障制度を大きく改革することもできない。
だから、高齢化に伴って社会保障支出は増大を続け、歳出も膨張を続ける。
(2)消費税増税が予定通りにできたとしても、5%の引き上げでは、財政赤字を中期的に縮小する効果は期待できない。つまり、これは「焼け石に水」だ。
そして、それ以上の消費税率引き上げはほとんど不可能だ。相続税などの税目での増税は行われるだろうが、多額の税収を期待することはできない。
(3)日銀に対する政府の圧力はますます強まり、国債の貨幣化は続く。そして、毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が購入するような事態になる。
しかし、インフレや
通貨安の兆候は見えない
上の状況下で、日本政府の債務膨張はいつか行き詰まると、私は考えていた。
その理由は、これまでの国債消化は、銀行のポートフォリオの組み替え(企業貸出が減少して国債保有が増加する)によって行なわれてきたが、このプロセスには明らかに限界があるからだ。そして、現在のような国債発行が続けば、2028年頃に限界に達すると考えていた(詳しくは、拙著『消費増税では財政再建できない』、ダイヤモンド社、2012年、第2章参照)。
しかし、この推計を行なった時にはなかった2つの新しい事態が、その後生じた。
(1)ユーロ危機によって、巨額の資金が日本に流入してきた。ユーロ危機が簡単には解決できそうにないので、この傾向は当分の間は続きそうだ。この意味で、現在の日本は、「ユーロ危機に助けられている」と言ってよい。
(2)それに加え、日本銀行の財政ファイナンが始まった。10月30日の金融政策会合で、国債購入基金の残高は11兆円増額された。
この2つの変化によって、日本の債務膨張が行き詰まる様子はまったく見えていない。
(1)がなく(2)だけであれば、円安が生じた可能性が強い。(1)による資金流入があるために、そうはなっていない。
興味深いのは、本書の翻訳者が本書の内容に「まったく同意しない」と言っていることだ(p326)(注3)。アメリカでも日本でも、金利は低下し、ドルも円も強くなっているからだ。破綻の兆候は見えない。
(注3)なお、訳者は、原著には、経済理論をまったく誤解している部分もあり、それは翻訳で削除したと述べている。原著の著者は、投資家、あるいは投資評論家であり、専門の経済学者ではない。
この状況は続けられるのか?
しかし、現在の状態がいつまでも続く保証もない。
いまの財政状況をいつまでも続けられるとも思えない。
理由について議論の余地はあるものの、日本が公的債務を積み上げているのは、間違いない事実だ。そして、日銀がこの貨幣化を行なっているのも事実だ。
では、この状況は続けられるのか?これは、日本経済にとって、最大の問題だ。
海外からの資金流入が続けば、当然、国債の外国人保有比率は上昇する。外国人投資家は、これまでサブプライム証券化商品や南欧国債を買ってきたときと同様、短期に資金調達して運用している。だから、市況が変化すれば、簡単に売りに転じる可能性がある。
第2に、「日本国内の国債購入者である金融機関は、簡単には国債を売却しない」と述べた。しかし、金融機関のうち、メガバンクは、保有国債のデュレーションを著しく短期化している。これは、将来起こりうる金利高騰に備えた行動であると解釈することができる。
インフレの兆候はないが、バブルはすでに起きている。国債バブルだ。それが崩壊すると、金融機関に巨額の損失が発生する。
現在の世界経済は、ユーロ危機の行方(収束するかどうか)、アメリカ金融政策(緩和からの転換が起きるか)、中国経済の動向(成長減速が続くのか)に大きく影響される。
これらの一つでも大きく変わると、日本経済は変調する。すでに中国の減速が、大きく影響している。日本の将来は、大きな不確実性に包まれていると言わざるをえない。
●野口教授が監修された経済データリンク集です。ぜひご活用ください!●
●編集部からのお知らせ●
野口教授の最新刊『製造業が日本を滅ぼす』好評発売中!
自動車や電機など製造業の輸出が落ち込み、日本を支えてきた輸出主導型の経済成長モデルが崩れはじめている。日本は円安・輸出頼みを捨て、新たな成長モデルを確立しなければならない。円高こそが日本経済に利益をもたらす、新興国と価格競争してはならない、TPPは中国との関係を悪化させる、「人材開国」と「金持ちモデル」を目指せ…など、貿易赤字時代を生き抜くための処方箋を示す。
http://diamond.jp/articles/print/27579
東京市場 日本の貿易赤字、半期ベースで過去最大に
:2012/11/08 (木) 09:52
朝方発表された2012年度上半期(4-9月)の国際収支速報で、貿易収支は2兆6191億円の赤字と、比較可能な統計が始まった1985年以降の半期ベースでの最大の赤字となった。為替市場では円安の材料と捉えられそうだが、現状は反応薄。
USD/JPY 79.91 EUR/JPY 101.91 AUD/JPY 83.26
(再送)豪州経済指標【雇用統計】
:2012/11/08 (木) 09:43
*雇用者数(10月)9:30
結果 10.7千人
予想 0.5千人 前回 15.5千人(14.5千人から修正)
*失業率(10月)9:30
結果 5.4%
予想 5.5% 前回 5.4%
http://www.gci-klug.jp/fxnews/
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