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年金マネーは金を目指す
株安下で堅調さ光る
日本の年金が金投資に動き出した。信託銀行が企業年金向け商品に組み込み始めたうえ、厚生年金基金の一部も運用を開始した。利息や配当のない金は本来年金に向かない。しかし株、債券という伝統資産の運用がままならない中、金の特殊性が伝統資産をカバーしつつある。
「下位の力士が横綱を投げ飛ばす。その勲章を『金星』と呼ぶのはそれが高い価値を示しているから」
10月発行の年金専門誌に掲載されたこんな広告が話題を呼んでいる。広告主は金の上場投資信託(ETF)のシェアで首位を独走する「SPDRゴールド・シェア」を提供するステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。中岡寛晶証券営業部長が「金星」の意味をこう解説する。
「主要国の株価が安く債券利回りが低迷するなかで年金はどこも運用難。現物に裏付けされた金ETFを組み込めば安定運用に効果がある」。つまり伝統資産の株と債券を横綱、金ETFを下位力士と見立てて金ETFが運用という土俵に立てば、株や債券を負かすほどの活躍ができることを訴えようとしたわけだ。
欧米の基金が先行
実際、欧米の年金基金はこの4〜5年、盛んに金ETFをポートフォリオに組み込んできた。その結果がグラフAが示す世界の金ETF(主要21ETF)の運用資産残高の急増ぶり。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると9月末の残高は1431億ドル。金高騰などと相まって5年前の2007年9月末比で7.6倍と過去最高に達した。
日本の年金も動き始めた。三菱UFJ信託銀行は今年3月、確定給付年金など企業年金向けの商品ラインアップに「金投資」を加えた。金を伝統資産以外に分散する代替投資の有力な対象に位置付けて、同社が提供する金ETF「金の果実」に投資する内容だ。既に2社の企業年金から合計21億円を受託し、ほかに数社が関心を示しているという。2社は年金資産のそれぞれ約3%に金ETFを組み込む見通し。
金に投資するメリットは株や債券相場との低相関を生かした分散効果だというのは年金運用部の森山亮統括マネージャー。「グローバル化で国内の株、債券とも海外の株、債券相場と連動しがちで内外に分散しても効果を得にくい。しかし対象が金なら価格変動リスク低減やリターン改善が期待できる」と説明する。
同社が金と株、債券相場の相関を調査した結果がそれを裏付ける(表B)。金と内外の株、内外の債券との相関はすべてが相関の低さを示す0.5以下か、相場が逆方向に動きやすいマイナス0.5以内だ。
ほぼ10年上昇基調
昨年9月には先行して確定拠出年金(日本版401k)向け商品に金投資を導入。採用企業は三菱東京UFJ銀行の販売分と合わせて約40社にものぼる。
みずほ信託銀行も分散投資の観点から金を重視。既に11年3月から「分散パッケージ」という年金基金向け商品に金ETFを約3%組み込んだ。この1年半余りの採用は約200社・団体に達した。今年4〜9月の収益率では国内株がマイナス11.8%、外国株がマイナス3.0%になる中、金ETFは0.3%と国内債券(1.8%)とともにプラスを維持。収益率悪化に歯止めをかけ運用の安定化につなげた。
同社は10月から機動的な資産配分変更による安定リターンを狙う「動的パッケージ」という新ファンドも開設。全体の7%を代替投資に配分し不動産投資信託(REIT)とともに金ETFを組み入れた。
通貨リスクの分散という観点から金投資に踏み切ったのは岡山県機械金属工業厚生年金基金だ。今年から総資産約400億円の約1.5%を金ETFに投資した。同基金の狙いは株や債券からの資産の分散ではなく、ドルなどの通貨安リスクに備えたヘッジ(保険つなぎ)という位置付けだ。
運用執行理事の木口愛友氏は「金価格が高騰しているが資産価値は追求しない。スイスフランなどと並ぶ安全通貨として組み込んだ。このため価格が上がっても下がっても一定量持ち続けたい」と話している。
木口氏が言う通貨分散の有効性を示したのが円・ドルと金相場のグラフCだ。結果はこの10年の円高・ドル安でドルの価値が円に対して下がる一方で金価格はほぼ一本調子で上昇。つまり、金を組み込んでいればドル建て資産が減価した分をある程度ヘッジできる。
では一体、年金基金は金を何%持てばポートフォリオを最適化できるのか。参考になるのが海外の例だ。表Dでは4例をあげたが最大でも総資産の約4%になっている。WGCが7月に発表したリポート「日本の投資家にとっての金の最適保有比率」の結論では2.1〜9.4%と分析しており、年金基金の金の配分比率にはまだ拡大余地がありそうだ。
ただ、日本の年金の金投資は始まったばかり。金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は「日本の年金は保守的で本格的な浸透はこれから。AIJ投資顧問の詐欺事件を受け、金ETFの透明でシンプルな面も見直されるだろう」と指摘する。金が年金運用で新たな輝きを放ちつつある。
(編集委員 浜部貴司)
[日経新聞11月7日朝刊P.19]
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