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中国リスク 企業の選択
(上)反日 貢献の歴史に背:当局人脈、通用せず
9月の沖縄県・尖閣諸島の国有化に端を発した日中関係の悪化が、日本企業に大きな打撃を与えている。中国の次期指導者を決める中国共産党大会を今月8日に控え、日本ブランド製品の不買は止まらず、インフラ案件の商談なども進まない。政治リスクがかつてなく高まるなかで、日本企業は中国とどう向き合うのか。
9月15日。暴徒化した反日デモの参加者が資生堂の化粧品カウンターを打ち壊す姿に、中国ビジネス関係者は大きな衝撃を受けた。優等生だった資生堂がなぜ――。
同社の中国進出は、トウ小平氏が改革開放政策を打ち出して間もない1981年。中国専用ブランド「AUPRES(オプレ)」は女性に定着し、2000年のシドニー五輪や04年のアテネ五輪で中国選手団の公式化粧品に選ばれたほどだ。
社名にある「資生」は中国の古典「易経」に由来し、創業一族の福原義春名誉会長は北京市の名誉市民。中国の次期指導者、習近平国家副主席の妻も愛用するといわれるが、被害は防げなかった。中国全土に約6千ある専門店のうち約250店が今も販売を見合わせたままだ。
「中国に尽くしてきたはずなのに…」。幹部がこう戸惑うパナソニックも同じだ。天安門事件で日米欧の企業が一斉に中国投資を手控えた89年に北京でカラーブラウン管工場を稼働。その後も各地に工場や販売拠点を築き、中国の雇用や輸出に貢献してきた歴史を踏みにじるかのように、暴徒が青島や蘇州などの工場に押し寄せた。
崩れた方程式
中国政府はこれまで「井戸を掘った人を忘れない」とし、自国の発展に貢献した外資企業を重視してきた。2社の苦境はかつての成功方程式が崩れた現実を物語る。
暴動からほぼ1カ月半たった10月27日朝、内陸部の湖南省長沙市。滋賀県を地盤とする百貨店の平和堂が、閉鎖していた2店舗の営業を再開した。店外には制服警察官の姿も目立ち、私服警察官も待機した。
平和堂が長沙に進出したのは98年。内陸市場開拓の成功モデルとして地元当局とも密接な人脈を築き、地域に根付いて着実に利益を上げてきた。「中国は法治ではなく『人治』。人脈がものを言う」という鉄則は揺らぎ、成功したがゆえに攻撃の的になるという皮肉な構図になっている。
中国では05年にも反日デモが広がったが、中国のある大学教授は「小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝が問題になっただけ。領土問題が前面に出た今回は違う」と指摘する。
その間、日本企業の中国依存は高まった。例えば日産自動車の05年度の中国販売台数は30万台弱。11年度は124万台を超え全体の26%弱を占めた。経済産業省によると10年度の製造業の中国現地法人売上高は21兆円弱で05年度比67%増。大和総研は対中輸出が1カ月停止した場合、日本の産業の生産額は2.2兆円減少すると試算する。
撤退も難しく
豊かになった中国の消費者の選択肢は拡大している。日本の象徴として焼き打ちの対象にもなった自動車。米ゼネラル・モーターズ(GM)は5日、10月の中国販売台数が前年同月比14%増になったと発表した。トヨタ自動車、日産、ホンダは同4〜5割減。日産のカルロス・ゴーン社長は「企業の力ではいかんともしがたい」とこぼす。
「工場の草むしりで従業員をつなぎ留めておくのは厳しい」(日系自動車部品大手幹部)が、撤退も簡単ではない。中国で人材紹介を手がける南富士(静岡県三島市)の杉山定久社長は「割増退職金や外資優遇政策で過去に得た利益の返還など、撤退には膨大な資金が必要」と話す。「解雇が暴動につながることを恐れる企業も多い」(中国に強いコンサルタント会社)。
中国市場で先行してきた伊藤忠商事の岡藤正広社長は「領土に起因する問題は今後も起こる可能性がある」と指摘。反日リスクは事業の前提になったと説く。
長引く「反日」。事態が正常化する時期はまだ見えていない。
現地以外も打撃 訪日観光客が急減/M&A手続き遅れ
尖閣問題の影響は国内の観光産業や日本企業のM&A(合併・買収)にも広がっている。
富士山の麓にある旅館「じらごんの富士の館」(山梨県南都留郡)では9月以降、中国人観光客のキャンセルが2000人を超えた。今後もキャンセルは続くとみており宿泊料金を下げる検討を始めた。
東日本大震災の影響が薄れ回復傾向だった中国人の訪日数は9月から急減しており、かき入れ時となる来年2月の春節(旧正月)休みへの不安も強まっている。
米穀物商社、ガビロンを2800億円で買収することを決めた丸紅は、中国独禁当局の審査遅れを懸念。当初は年内に実施する予定だったが、来年にずれ込む可能性が高まってきた。
10月1日の経営統合で合意していたJFEホールディングス傘下のユニバーサル造船とIHI子会社のアイ・エイチ・アイマリンユナイテッドも、実施日を2度延期。現在の予定は12月1日だが、ユニバーサル造船の三島慎次郎社長は5日「予定通り統合できるかどうかは五分五分」と語った。
[日経新聞11月6日朝刊P.3]
(下)成長へ、それでも手結ぶ
中国本土で直営店18店を展開しているワタミ。今年10店を出すなど中国での大量出店計画を狂わせたのが9月の反日デモだった。半分の店が休業に追い込まれ、なんとか全店舗で通常営業に戻したが、反日感情の高まりから客離れが加速。足元の売上高は休業前と比べて約1割減った。
国内の居酒屋市場が縮小し、中国市場の開拓にカジを切った。だが、デモを受けて桑原豊社長は「中国本土に集中した出店戦略はリスクがある」と決断した。4年内に本土で40店出す計画を20店に半減し、香港やシンガポールなどアジア地域への出店を優先。中国に加えもう一つ成長の柱を作る「チャイナ・プラス・ワン」戦略へ転換する。
順調に中間層が拡大する中国の消費力は多くの日本企業を引き寄せた。今後、進出企業はワタミのようにリスク管理が厳しくなる。それでもすでに中国で基盤を作った企業であるほど簡単に中国離れはできない。
13億人市場の力
反日デモから約1カ月後の10月20日。ファーストリテイリングは西安市で「ユニクロ」を予定通り2店を開いた。「中国はリスク以上にチャンスがある。ビジネスを拡大しないわけにはいかない」。柳井正会長兼社長はデモ発生以来、こう言い続けた。2013年8月期に日本の衣料関連企業で初の売上高1兆円を達成することが確実な同社にとって中国は現在も今後も成長エンジンだ。
1990年代初頭から、中国工場に社員を派遣。職人を育成し、縫製技術の向上を二人三脚で進めてきた。店頭に並ぶ商品の75%は中国製。東南アジアにも委託工場を増やしているが、中国に比べると「縫製レベルが段違い」(大手商社)。製造面でも中国抜きのユニクロはあり得ない。
デモ後の中国戦略の不透明感が増す中、吉野家ホールディングス(HD)は中国全土を視野に入れた出店に動いた。10月25日、華僑系財閥、チャロン・ポカパン(CP)と合弁会社を年内に設立すると発表した。
広東省出身の兄弟がタイで創業したCPは中国の外資系で第1号認可企業。飼料や食肉加工に加え大型スーパーを70店以上運営し、中国人脈は広く、深い。すでに中国に300店を出す吉野家HDの河村泰貴社長は「13億人市場の魅力は変わらない」と言い切る。
20年で投資55倍
日本と中国は双方に欠かせない貿易相手だ。中国の11年の対日輸出額は91年の15倍、対日輸入額も同19倍だ。資本の集積も進む。日本企業の対中直接投資は11年に91年の55倍にまで拡大。投資回収はこれからが本番だ。
日本電産が中国の主力工場を構える浙江省平湖市。1平方キロメートルの敷地にグループ14社が工場を構え、デジタル機器や自動車向けの各種モーターを生産する。見渡す限りグループ企業が立ち並ぶ「日本電産村」だ。
上海の100キロ圏には平湖市のほか、世界のパソコンの9割を生産する台湾EMS(電子製品の製造受託サービス)大手が集まる崑山市、電子関連企業が集積する蘇州市など部品から最終製品まで網羅するサプライチェーンを構築。日本電産は重要な一角を占める。
92年に中国に本格進出以来、500億円以上を投じ、6823億円の連結売上高(12年3月期)のうち2〜3割を中国の工場が稼ぐ。永守重信社長は「デモの影響は楽観視していないが、成長を維持するために必要な設備投資や研究開発投資は続ける」と語る。
反日デモは密接な日中の経済関係にも深刻な影を落とした。リスクを封じ込める見込みはない。それでも中国を成長の軸に据える日本企業は多い。地道にしたたかに欠かせない存在となる努力を続けるほかない。
[日経新聞11月7日朝刊P.3]
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