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日本の労働制度(年功賃金制度から専門知識重視の職能賃金制度への転換を)
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投稿者 うらく 日時 2012 年 11 月 02 日 18:16:25: /ifMjniWI91/U
 

日本の労働制度(年功賃金制度から専門知識重視の職能賃金制度への転換を)
ワーキング・プアの問題が顕在化して久しい。バブル崩壊後、就職氷河期が慢性的化し、企業内訓練を得られない非熟練労働者が増加した。さらに、グローバル競争の激化により、製造業の競争力維持のため賃金の下方修正圧力が高まった。企業は、こぞって契約社員、派遣労働者、パート労働者、外国人研修生などの非正規労働者の活用に走った。かつて、正社員のお茶汲み職員は、どの企業にもいたが、今や完全に絶滅し、派遣に取って代わられた。

彼らの労働条件は厳しい。故に、社会問題化した。民主党政権は、今回、労働者契約法と労働者派遣法を改正し、長期の派遣契約を制限するなどの規制により、非正規労働者の正規雇用への転換を促す法改正を行なった。

しかし、この改正は、企業に、新たな抜け道対策を立てさせるだけに終わり、非正規労働者の生活水準向上には、ほとんど効果がないだろう。むしろ、現に日雇い労働に従事している若者を苦しめることになるおそれが高い。労働条件は、法律ではなく、労働需給で決まる。法律は、形式を整える意味しかない。企業が、新たな形式的対策を講じるだけだろう。解決は、単純労働の労働需給を調整することだ。とりあえず、就労目的の留学生は、直ちに受け入れ停止にすべきだろう。

非正規労働の問題は、経済学的には、差別の問題だ。同一労働、同一賃金の原則が貫かれていない。同じことをやっていて、正規と非正規で労働条件が異なる。そして、非正規には正当な労働の対価が支払われない。

他方、企業の人材が外国企業に流出し、技術ノウハウの無償移転が進行中である。日本の産業競争力を支えた中小企業の金型技術者は、チャイナで再就職し貴重なノウハウを無償でチャイナに移転した。日本の金型産業は壊滅状態だ。近年の日本の電子産業の崩壊に伴い、大企業の技術者が、大量に、チャイナ・韓国企業に再就職し大手を振って無償技術移転を行なっている。いままた、原子力技術者が狙われているそうな。特に、幹部技術者にたいしては、役員待遇の高額な給与でヘッド・ハンティングを行なわれている。

ヘッド・ハンティングは、外国ではもっと盛んだ。もともと終身雇用慣行のない国では、日本的労働慣行は無意味なものだ。労働者は、より良い条件を探して転職する。これは、当たり前のことであるとともに、普遍的なものと認識しなければならない。転職には、コストを伴う。引越しと同じだ。しかし、転職コストを上回る条件が提示されたら、転職しない方がおかしい。

企業は、知的財産保護活動により、ノウハウの移転を防ごうとするが、転職が基本的人権である以上、これにも限度がある。かつて、週末に日本企業の技術者がチャイナ・韓国で技術指導を行なっていて問題となったが、こういうスパイもどきに活動にしか適用できないだろう。現在の退職者の再雇用やヘッド・ハンティングには無効だ。

人材を通じた技術流出を防ぐには、その人材が持つ市場価値に等しい賃金を支払うことが基本的な対策だろう。その上に、知的財産保護規制をかけるのでなければ効果はない。社内の給与の横並び意識に縛られ、有用人材の労働価値を評価しないことが人材を通じた技術流出の原因だ。

こうして見ると、ワーキング・プアの問題も技術流出による競争力低下の問題も、日本の賃金制度に原因があることが解る。日本では年功賃金制度が支配的だ。これは、若いうちは会社への労働価値に満たない賃金で働き、年を取ってからは労働価値以上の賃金を受け取る仕組みだ。また、卓越人材も横並び賃金しか支払われない。そしてそれを補完する仕組みとして終身雇用があり、企業内労働組合がある。しかも、この慣行は、解雇権を厳しく制約した判例により制度化されてしまっている。

この慣行は、現在転換を迫られている。その象徴が、ワーキング・プアの問題であり、技術流出の問題だ。ワーキング・プアの問題は、単に賃金差別に留まらない。結婚を困難にし、少子化を促進し、年金・医療制度を破綻させつつある。他方、技術流出は企業の競争力を低下させ、企業破綻により、失業を増加させ賃金水儒を低下させる。そして、ワーキング・プアの増加に繋がる。

現代日本で当たり前とされる年功賃金体系、これは戦前から日本にあったものではない。戦前は、大学卒など、一部エリートにしか見られないものだった。一般職工は、職業能力毎の社会的な一般的な賃金水準か形成されており、職工は頻繁に雇用主を変えていた。一般にまで終身雇用が普及したのは、戦後の高度成長時代。人手不足が常態化し、継続雇用のインセンティヴが必要とされた。労働者の供給元の農村の統治が、民俗学でいう年齢階梯型支配原理という年功原理によっていたこともこれに寄与した。

残念ながら、高度成長という条件が崩壊したいま、年功賃金体系から離れ、職能に応じた賃金体系に移行することが、社会全体として必要だろう。

職能賃金体系の社会はどんなものか。欧米では、労働組合は、職能別に組織される。職能毎に、会社横断型の労働組合が存在し、その職能を保有する人間の労働条件を交渉する。同一労働、同一賃金が原則は自動的に達成できる仕組みだ。ただ、習熟度により、若干の昇給制度はあえる。しかし、習熟した段階で、昇給は打ち止め、一生その賃金で働くことになる。昇給するためには、新たな能力を身につけ、新たな職務区分に移ることが必要だ。

定年もない。具体的な能力低下が認められないかぎり、老齢を理由に解雇することは不当な差別だ。解雇は、企業がその技能職務を必要としなくなる一定の条件があれば、柔軟に実施できる。ただし、ここでも、不合理な差別は禁止される。例えば、解雇順序。アメリカでは、解雇やレイオフは、採用経歴の浅いものからという慣行が確立している。また、三振制という慣行もある。これは、ある職務能力があるという前提で採用されたのに、3度職能を果たせなかった場合、3度目の警告で解雇できるというものだ。

職能給制度は、経済政策にも影響する。例えば、豪州。ここでは、政府が、各職種毎の労働需給状況と賃金を詳細に調査している。それを、移民数許可政策を連動させている。ある職種の需給が逼迫すれば、それを緩和するためにその職能を有する移民を入れる。ちなみに、一時期、日本人が移民しやすい職能は、日本料理の料理人だった。

賃金体系の具体例として、国連の国際公務員を紹介しよう。この賃金体系は、アメリカの公務員の人事体系に影響を受けたといわれる。ここでは、職員は、3つのカテゴリーに分かれる。G(一般),P(専門),D(管理職)だ。GとPには、数段階の習熟度グレードが用意される。Gは、経理、タイピストや通訳などの現地採用職員で、その賃金体系は、現地の職能賃金水準による。Pは、本来職務に拘わる専門職で、大卒を想定している。Dは管理職だが、それぞれのポストについて職務記述書が明確に決められていて、それに応じた個別給与だ。また、これは公募ポストでもある。内部のPから昇進することが多いが、あくまでも社外の応募者との競争になる。ちなみに管理職の公募制は、民間企業でも一般的だ。欧米の新聞や雑誌では、管理職の詳細な雇用条件と職務記述を記載した広告がわんさと載っている。組織の長にいたるまで、公募されている。

日本では、年功賃金の正規雇用の維持を金科玉条に、近年さまざまな労働関係法改正が行われてきた。企業内労働組合もこれをバックアップしてきた。しかし、その試みは、我が国が置かれた低成長の経済環境では、経済合理性を欠く。言い換えれば、ガラパゴス人事体系を温存するために、更にガラパゴス化が進むようなものだ。いまや、世界標準の職能型労使慣行に移行することが必要だろう。

すでに、正規雇用は、過去の幻想と化そうとしている。非正規雇用は、一種の職能賃金制度とみなすことが可能だろう。つまり、昇給のない、職務給によっている。しかし、正規雇用幻想が建前の法制上は、その存在が望ましくないとして継子扱いされている。そのため、正規雇用に移行するまでの一時的労働と見做され、その労働条件は劣悪なままだ。我々は、実態をありのままに見、制度の改善に取り組むべきだ。

改革の方向は、職能賃金体系への移行だ。労働の市場評価に応じた適正な差別のない賃金を支払うべきだ。定年を設けない。職務を果たしている限り、会社は、その職能全体が不要とならない限り解雇できない。企業は、解雇規制が緩むので、採用を増加させるだろう。

職能賃金制度の長所に、労働者の人権の保障程度が高くなることもある。日本の終身雇用制度では、労働関係が身分関係に転化する傾向がある。日本人社員は、組織内で出世するためには、無限定の評価と忠誠競争に晒される。ここに、上司が付け込み、理不尽な要求を行なうこともあるだろう。サービス残業の発生の一因は、この無限定競争お一因だ。職能賃金は、労働者を無限定競争から開放し、職務遂行以上の義務を負わせない。

職能賃金体系下では、労働者の側にも、自己の市場価値を向上させようとする切実なインセンティヴが働く。学校も、うかうかしてはいられない。必要な能力を授けない学校は容赦なく淘汰される筈だ。今の日本の大学(文系)は遊園地だが、アメリカ並みに、普通に学問をする場となるだろう。

社会全体の専門知識レベルを向上させることにも寄与するだろう。国際会議で活躍する人材は、欧米ではほとんどPh.D 保持者だ。対する日本側は単なる大卒だ。アメリカでは、大卒は日本で言えば高卒の感覚だ。修士で大卒感覚、専門的な事柄を議論するためには、Ph.Dが必要条件だ。日本のゼネラリスト大卒では、国際展開には遅れをとる。しかし、日本では大学院卒は、組織内で使い難いとの理由で、就職困難となっている。なんという無駄だろうか。

福島では、原子力保安院の長官が、技術のことは判らないと事故対策から離脱した。これは、社会が専門知識と無関係に組織されている悪弊の最たるものだろう。アメリカのスリーマイルでは、原子力委員会委員長が、事故対策の全権を握り事故収束にあたった。調整だけの官僚国家と専門知識による人事原則が貫徹されている国との差は歴然だ。

職能型労働慣行は、専門知識の発達を促す。アメリカの大学を見ると、学科数が日本の数倍ある。社会の複雑化により必要な専門分野の数も飛躍的に増加している。アメリカの大学は、その要請に的確に応じてきている。それに対し、日本の停滞は明らかだ。大学は、秋入学といったくだらない問題に拘わるより、もっとやるべきことがあるだろう。

日本の社会・企業が抱える課題を解決するためには、労働慣行の改革が不可欠だ。ただし、これには、副作用もあるだろう。たとえば、管理職、いままでは、部下が管理職の意を体して業務を行なってきた。しかし、職能組織では、部下は部品としての機能しか果たさなくなるだろう。部品をいかに組み合わせて機能させるか、それを事細かく調製するのが欧米に於ける管理職の仕事だ。よきに計らえ型管理職は、機能しなくなるだろう。また、職務インセンティヴも変化するだろう。忠誠意欲や競争意欲を持つ人は、PからD、あるいはDの上位への移行を狙う人に限られる虞があるだろう。例えば、日本企業のお得意の小集団活動には、新たな動機付けが必要になろう。

社会保障の体系も、変革する必要がある。雇用を妨げる人頭雇用税(社会保険)や配偶者所得控除限度額を廃止し、雇用に対し中立的な負担にすべきだ。それにあわせ、解雇が容易で職業訓練を重視するスウェーデン型の福祉政策に転換する。労働・福祉法制の抜本的な見直しが必要だ。

我々は、自身の働き方を根本から見直し、将来を切り開いていかなければならない。現在の労働慣行は、議院内閣制と同じく、耐用年数を超えた。グローバル化により、国境を越えた労働価値の平準化が起きている。企業は、職能型賃金制度への移行により、グローバル化に対応しなければならない。国内人事制度と海外人事制度のシームレス化も必要だ。労働慣行の改革は一朝一夕に進まない。しかし、経営者、労働者、政治家、すべての政策担当者が新たな仕組みつくりに努力していく必要があるだろう。


日本的経営の終焉(日本の労働制度再論)

日本的経営の特徴として、「終身雇用」、「年功序列」、「企業内組合」があげられる。

提唱者は、ジェームズ・アベグレン。1958年ダイヤモンド社から出版した「日本の経営」においては発表した。アベグレンは、ガタルカナル島、硫黄島等で日本軍と戦い、戦後は、米戦略爆撃調査団の一員として来日した。1966年からは、ボストン・コンサルティング・グループの日本支社長として活躍し、1982年から日本永住、1997年に日本国籍取得。上智大教授やアジア・アドバイザリー・サービス会長等を歴任。晩年は、米国籍を棄て、日本人の妻と東京都内で暮らしたという。2007年逝去。ドナルド・キーンの経営学者版のような人生を送った人だ。

日本的経営について、日本経済の絶頂期には、その繁栄の根拠として大いにもてはやされた。その論理とは、「終身雇用と年功制は、長期間の雇用を保障し、外部からの中途採用を制限するとともに、年齢、勤続年数、実績に基づいた昇進システムを通じて、内部の従業員に企業固有のノウハウや技術を蓄積するインセンティブを与え、組織内での協力を高める効果を持つ」というものであった。

しかし、日本経済の長期衰退により、その論理がゆらいでいる。それにも拘わらず、日本の経営者には、これを問題とする意識は、全くないようだ。また、官公労と大企業労組により牛耳られた労働界にも、戦後の労使交渉を経て獲得した成果として、見直す気はさらさらないようだ。労働界の支援を受ける民主党は、当然のことだが、この慣行を強化する派遣規制の法律を整備に注力している。

年功賃金制度の何が問題か。なによりも、経済原則に反しているということだ。経済は、財の取引関係を基礎として成り立っているが、財の価格は、市場では一つに修練する。一物一価の法則だ。これを労働に置き換えれば、同一労働、同一賃金となる。年功賃金とは、労働者の年齢によって異なる価格をつけるということだ。

自由な市場では、同じ労働に対して異なる価格は成立しない。需要曲線と供給曲線の交点に収斂する。これは、経済学の基本中の基本だ。一物多価あるいは差別価格が成立する条件は、市場の分断がある場合だ。日本では、企業内と企業外とで、労働市場の分断がある。

市場の分断は、如何にして可能だったか。これは、戦後経済が慢性的に需要不足・労働力不足だった要因が大きい。作れば売れる経済では、生産要素の長期安定的確保が最大の経営方針となる。資本確保では、メーンバンク制が発達し、労働では、労働者囲い込みの一環として年功賃金・終身雇用が発達した。この制度は、銀行や労働者にとっても都合がよかった。銀行にとっては、企業との長期的関係により情報の非対称性が薄れ、労働者にとっては、職の安定により生活設計が容易となった。

この年功制にいま崩壊の時が近づいている。それは、とりもなおさず労働関係に経済原則が働き始めたからだ。つまり、戦後の異常状態の解消である。需要不足経済からデフレ経済に転換し、企業は、その対応に追われることとなった。労働も、市場価格で調達しなければ競争に敗退することとなる。チャイナのWTO参加により安価な労働が豊富に得られることになったこともこの傾向に輪をかけた。海外直接投資により、国内労働は、海外労働と価格競争に晒されることとなった。

その結果が、労働力供給超過と非正規雇用の増大である。現在では、若者の新規雇用の50%近くが非正規雇用という。認識しなければならないのは、これは、経済原則に即した変化であり、異常な事態ではないということだ。非正規労働の賃金は、経済原理に基づいた市場価格に近い。企業は、その生存を図るためには、市場価格で、労働を調達せざるを得ない。

問題は、我が国の制度が、非正規労働の増大という事態に対応できてないことだ。制度は、年功賃金正規雇用中心に組み立てられている。非正規労働は、あっってはならないという前提でできている。企業が、非正規労働に支払う費用は市場価格だが、規非正規労働者の手取りは、押し下げられている可能性がある。派遣会社によるピンハネ分は明らかだ。また、契約労働者の雇用期間規制により、契約労働者は5年で正規雇用に転換しなければならない。実際は、企業は、優秀な契約社員でも5年で解雇する。熟練インセンティヴの低下は労働者と企業双方に損失をもたらしている。また、これを大きく見れば、非正規労働者の犠牲の上にたって正規労働者の市場価値以上の賃金が維持されているとも見ることも出来る。

技術流出の問題は、コインの裏側の問題だ。労働市場が分断されているが故に、過去においては、高技能労働者を市場価格以下の賃金で雇うことができた。しかし、グローバル化により、ここでは、企業の側が競争に晒されることになった。高度技術者は、市場価格を提供する企業に移動する。企業は、技術者を育てるために、育成投資を過去おこなった。その恩に感じて留まれと説得するが、経済原理には抗いようがない。かくて、人材移動とともに技術移転が生じてしまう。

この移転に輪をかけているのが、定年制だ。年功賃金制に下では、高齢者は、自己の労働の価値以上の賃金を得る。高年齢高賃金労働を修正する制度が、定年制だ。いわば、一物一価原理に反する制度の限界を示す制度といえる。しかし、人生80年時代を迎えたいま、定年制は、優秀な熟練技術者を海外企業に流出させる制度と化している。もし、市場価値に応じた賃金制度であれば、定年退職を強いる必要はない。熟練労働者の育成には、巨額の投資がかかっている筈だ。それをむざむざと海外の競争にプレゼントしていることになる。これでは、競争に勝てるわけがない。そして、倒産、社員再就職を通じて最新技術の流出という更なる悪循環が続く。
定年については、解雇規制の観点もある。八代尚弘氏の雄弁な文章があるので、引用させてもらおう。
「大きな問題は定年退職である。高齢化で労働力が減り、熟練労働者が減っている中で、貴重な高齢者を強制的に解雇するという定年退職は、極めて野蛮な制度である。これはアメリカでは昔から年齢による差別として禁止されており、ヨーロッパもその方向に向かっているが、日本だけ進まず、せいぜい定年退職後の再雇用を政府が考えているだけである。ただこの定年退職後の再雇用は一年契約の非正社員であるため責任ある仕事はできず、貴重な熟練労働力を無駄にしている。定年退職制度を変えられない理由は、企業にとってこれが唯一の雇用調整の機会だからである。つまり、一旦雇用を保障すると能力不足の人も定年まで雇い続けなくてはいけないため、定年退職はまさにそのような労働者をシャッフルする唯一の機会なので企業としても変えられない。よって定年退職してもらい、有能な人だけを再雇用するという考え方になるのである。日本の定年退職は、年功賃金という年齢による逆差別とセットになっているのでなかなか変えられないのである。」
http://www.jacd.jp/news/column/100513_post-49.html
日本型経営の特徴の一つが終身雇用制であった。しかし、この言葉はミスリーディングだ。正確には、「定年まで雇用」と称すべきものだ。むしろ、欧米企業は、終身雇用だ。その職能が必要な限り、本人の労働能力が衰えるまで雇用する。定年制は、年齢差別賃金制の極端な場合と考えることが出来る。日本的経営の利点は、長期的視点にたった技術の蓄積と忠誠心であったという。その利点を一気に放棄する定年制による企業損失は、極めて大きい。その損失を認識できない年齢差別賃金制度の弊害は大問題だ。

年齢差別賃金制は、経済原理に反するだけではなく、前に述べたように、人権原理にも反する。日本で女性の正規雇用が進まないのは、無限定競争に曝される労働環境にある。サービス残業が日常の世界では、女性の活躍の余地は限定される。また、ことは女性だけの問題ではなく、男性労働にも加重な負担を負わせる。ワークライフ・バランスも現状では、掛け声だけに終わるだろう。また、モーレツ世代の号令にゆとり世代は対処困難だろう。うつ病患者の増大も、この制度のひずみかも知れない。また。制度の意図した効果の忠誠心も、最近の調査では、日本の労働者の忠誠心は、海外企業より低い結果がでている。これも、日本企業のトータルな職場環境が劣化しているせいと考えられるのかもしれない。

さらに、職務能力ベース賃金制度は、企業が社会変化に対応するのに有用だ。日本を外から見ると、一部世界レベルに伍している分野がある反面、世界水準から大きく劣っている分野が並存する。例えば、劣っている分野は、そういう分野が存在すること自体認知されてない。例えば、企業法務やPR分野、金融工学など。日本企業は、社内で、一から人材育成をしようとする。あるいは、見よう見まねで社内のゼネラリストで対処しようとする。しかし、そんな体制では、グローバル競争に勝利できないのは当然だ。日本の大学では養成できない専門分野も多い。

最近はやりのグローバル人材の育成も同様だ。育成するのに時間がかかり、育成したと思ったら、引き抜かれるのがおちだろう。グローバル人材とは、文字通りどこでも活躍できるからだ。グローバル人材は、養成しなくても世界には腐るほどいる。問題は、そういう人材を採用も活用も出来ない人事制度にあるだろう。

例えば、豪州。この国は、一部を除き突出した優秀性はない。しかし、オールラウンドに世界の最高水準に近い能力を保持している。なぜなら、新たな分野が生じる度に、その分野を専門家を他国から連れてくるからだ。職能ベースの賃金体系のため、中途採用がスムーズだ。

日本の企業経営は、素人による経営だ。京セラやトヨタのように例外的に優れた経営手法を編み出す例はあるが、それらの企業でも、総務部を見れば、素人集団だ。これを世界水準に引き上げるには、中途採用によるのが手っ取り早いだろう。

年齢差別賃金制度の弊害はあきらかだが、労使双方とも問題意識は低い。かつての成功体験が邪魔をしており、日本社会全体が、正規雇用のマインド・コントロールに支配されている。また、一斉入社式、同期会、退職金控除制度など補完システムも強固だ。しかし、経済原理に即した改革は不可避だ。

問題は、どうやって改革に向かうかだ。出発点は、公務員制度の改革だろう。

日本の近代労働制度は、明治の公務員制度がスタートだった。それを民間大企業がまねた。戦前は、年功賃金は官吏のみに適用され、現業職員は雇員とされ俸給制度は異なった。戦後、占領軍が導入した人事制度は、アメリカの制度で、職階制と呼ばれるものだった。これは、職務に応じた俸給制度で、上位職種に異動するためには、昇任試験を受ける必要があった。しかし、この制度は日本になじまないとして、占領軍が導入した様々な行政制度とともに、なし崩し的に制度が変容してしまった。おりしも、暴力・騒乱行為を伴う戦後民主主義労働運動が燒結を極め、官吏に適用されていた年功制度が、一般公務員にも拡張された。かくて、経済民主化の掛け声とともに官吏の年功人事制度が、一般職員にも適用されるようになった。

この戦後の公務員制度改革の結末が、数年前の高齢ゴミ収集公務員の年収問題だ。正確な数字は覚えていないが、ヒラの職員の年収が約800万円程度だったと記憶する。これは民間では課長級の俸給だ。さすがに、これはやり過ぎとして社会問題となった。ゴミ収集は、その後依託業務化が進み、人々の記憶から消えた。しかし、自治労は、職員の俸給は適正で、民間企業の俸給レベルが低いのが問題だという。現に、自治体職員の俸給は、上がることはあっても、下がことはない。ワタリなどでヤミ昇給するケースも野放しだ。これには、自治体首長の選挙が、職員丸抱えで行なわれ、首長が組合に頭が上がらないとい構造的問題もある。(この点でも、大阪市の橋下市長は偉い。)

日本で最大の雇用者として、国の賃金制度は民間の賃金制度に大きな影響を与える。しかも、意識的な制度改革が可能な領域だ。おりしも、公務員制度改革は、政治の主要論点となっている。まず、職階製を復活させ、職能に応じた賃金制度とし、年功部分は廃止し、職務の習熟度に応じた昇給制度に変更すべきだ。公務員の一括採用をやめ、専門職・管理職は、原則公募制をとるべきだ。それにより、官庁の無意味な縄張り争いも天下りも自然に是正されていくことだろう。

人事院は、職能別賃金を調査し、職務ごとに勧告を出すようにすればいい。人事院の報告は、単に、公務員の俸給の適正化に役立つだけではなく、民間賃金へも波及していくだろう。職種ごとの相場観が生まれる。そして、それは、学生の学校選択に反映していくに違いない。

ところで、つい先日、維新の会が、キャリア公務員の40歳定年制導入を突然打ち出した。もともと国家戦略会議が労働制度全般の改革の中で今夏提案したものだ。企業の年功賃金制度による高齢者賃金負担の軽減と労働力の新陳代謝をねらったものと説明される。しかし、これは問題の本質をごまかし更なる混迷を労働制度に持ち込むものだ。不合理の本質は、年齢差別賃金制度と不当な解雇規制にあり、その問題に真正面から取り組むべきだろう。

労働界は、これまでの提案に反対だろう。人間を物と同じに扱うのかという反論だ。人間は物ではない。人間にふさわしい処遇を受ける権利がある。だからこそ、各種の規制や福祉政策がある。ただし、経済システムの根本的作動原理に逆らうことは不可能だ。現状の仕組みでは、我が国の産業は衰退し、結果として生活水準が低下するだろう。法律で、それを防ぐことはできない。法律は、経済システムを機能不全にするのではなく、経済システムをうまく働かせ、結果としてよりよい生活を国民に享受させることを目的とすべきだ。労働制度を改革しなければ、日本経済の復活はないことを銘記すべきだろう。
 

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コメント
 
01. 2012年11月03日 21:57:43 : O87RlyPDpE
教育や高齢者福祉への税金投入が不十分なのを、中年男性の賃金を高くすることで
補完してきたのが「年功序列」賃金の正体です。

年功序列の恩恵にあずかることができなかったシングル(あるいは夫が働けない)女性
やガテン系職人などは、総じて子供の教育費をかけられず子供は低学歴になりがち
でした。

年功序列賃金を止めるのなら、教育費の自己負担軽減を同時に行なわないと、日本は
本当に「オワル」でしょうね。今は国立大学でさえ年に授業料が50万円以上かかります。
これは、一部の私立中学と比べられる金額です。


02. 2012年11月03日 23:57:45 : 6kuobrWeYc
>>01
住宅もね。
持ち家政策を改め、高齢になってもそれなりの借家で住めるように
公共住宅を増やすとかしないとだめだろう。(老人は民間ではまともな部屋は借りられない)

03. 2012年11月04日 23:08:56 : dHT7OCqmuo
それでもだ。

年功序列賃金制度が大多数の企業で機能していた時代、日本経済は今よりうまくいっていたし多くの人にとって今より将来に対する希望があった。収入は各年代が必要とする支出に見合っていた。これは消費の拡大につながった。

雇用に手を付けることは経営者にとって最後の手段か経営の失敗を意味していた。

企業利益、つまり金儲けだけの立場だと切れる人件費は全部カットすることが正しいという教えになる。最近ではこの立場の議論ばかり強調されるがこんな理論に単純に洗脳されてばかりでいることもないはず。金は何のために必要か。

それもやはり生活のためだろう。


04. 2012年11月05日 10:34:26 : ZqYYmmBZuM
年功賃金を止め「同一労働同一賃金」を徹底することは、むしろ雇用の自由度を高めて
社会の風通しを良くする。

しかし、そのために必要なコストを(税金なり保険料の雇用者負担なりで)企業が負担
しない限り、回り回って自分の首を絞める(購買力を欠いた消費者が増える)ことになる。

つうか、もう若年層ではそうなっちゃってるけどね。


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