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【第22回】 2012年11月2日
【真壁昭夫×浜矩子 特別対談】ユーロ後の世界経済を読み解く(下)
「基軸通貨不在の動乱時代がやって来る 世界が引きこもり化しないための最終解」
債務危機の火種が燻るなか、今後万一ユーロ圏が崩壊するようなことになれば、世界はどうなるか。前回に引き続き、国際経済・金融に精通する真壁昭夫・信州大学教授と浜矩子・同志社大学大学院教授が、さらに議論を深める。ユーロ後に登場するであろう世界の新しい通貨・経済体制は、我々にどんな教訓を投げかけているのだろうか。(対談コーディネート・記事まとめ/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也 撮影/宇佐見利明)
ユーロ圏崩壊なら為替動乱時代に
次の基軸通貨は米ドルか、日本円か
真壁 前回は、万一ユーロ圏が崩壊したら、世界経済にどんなインパクトがあるのか、ユーロ圏が抱える根源的な矛盾やリスクを基に、議論を交わしました。今回は、まずユーロ後の通貨体制について、ご意見をうかがいたいと思います。
現実的に考えると、仮にイタリアなどが急に破綻すれば、欧州金融市場が混乱に陥り、ボラティリティの高い株や債券は一斉に売られ、最悪の場合、中央銀行の債券ともいうべき現金も売り浴びせられる。ユーロの代わりに信用できる通貨を皆が我先にと買いに走る。
現在は代替的に買われている日本円やスイスフランも、そうした事態の中で信用に疑問符が付けば、きっとお金の行き着く先は金(ゴールド)になるでしょう。
しかし、アベイラビリティ(調達や利用の可能性)が限られているので、皆が金を手にすることは難しい。流動性は持っておかないといけないから、セカンドとして有力な通貨に注目が集まる。私は、あれだけの軍事力や国際発言力を持っている米国のドルが、やはり基軸通貨として注目されると思いますが、どうですか。
浜 かつての米ドルはそのように言えたと思います。しかし今は、基軸通貨と見なされていない気がします。その証拠に、このユーロ危機のさ中においても、円はこれだけ上がっているのに、ドルは特に上がっていない。ドルに資金が逃げ込む従来のパターンは、だいぶ薄れているのではないでしょうか。
真壁 しかし、スイスフランはともかく、世界の資金が明確に円をめがけて逃げ込んでいるというわけでもないですよね。
はま・のりこ
経済学者、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。専門は国際経済のマクロ分析。1952年生まれ。東京都出身。一橋大学卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長などを経て現職。金融審議会、国税審査会、産業構造審議会特殊貿易措置小委員会等委員、経済産業省独立行政法人評価委員会委員、内閣府PFI推進委員会、共同通信社報道と読者委員会、Blekinge Institute ofTechnology Advisory Board メンバーなどを歴任。 『グローバル恐慌?金融暴走時代の果てに 』『ザ・シティ金融大冒険物語?海賊バンキングとジェントルマン資本主義』など著書・共著多数。
浜 それはそうですが、2011年度の対外証券投資を見ると、欧州やアジアからものすごい資金が日本へ流入していることは確かです。
真壁 欧州からの資金は選択肢の1つとして日本に流入していますが、それよりも大規模な量が米国にも入っています。
浜 でも、こうした状態にもかかわらず円とドルの関係には変化が見られない。中国もドル離れを進めているし、足もとで安全資産としての円に資金が流れ込むトレンドは、変わらないと思いますよ。
日本の富の規模や債権国としての立場を考えると、円が買われ続けることは、ある意味仕方がないとも言えます。日本がこれだけ深刻な財政状況にあることを考えれば辻褄が合わないように思えますが、逆に「そんな状態にありながら債権国であり続けることはスゴイ」と世界に思われ、資金の流入を招いている側面もあると思いますよ。
消去法ではなく必然的に円は買われる
円高が一段と進むことは覚悟すべき
真壁 それは「あくまで消去法で円が買われる」ということですか。
浜 消去法とは少し違い、富の規模という点でそれなりの必然性があるということ。もちろん、それにしては円は頼りない側面もあるので、今後は「隠れ基軸通貨」のような性格を帯びてくるでしょう。円高が一段と進むことは覚悟しておくべきでしょうね。
最終的には、こうした混乱の中で、「ドル=基軸通貨」という過大評価の幻想が落ちるべきところへ落ちていくと、私は見ています。
真壁 私は為替市場に関して、少し異なる見方をしています。つい最近まで為替市場で実際にオペレーションをしていましたが、世界では1日4兆ドル、年間800兆ドルの取引があり、今でもクロスレート(多通貨間為替レート、一般にドルを仲立ちとして計算する)は全部ドルが中心です。ドルは一時より衰えたとはいえ、依然として中心通貨ではあります。
なかでも、取引の比重が最も高いのが投機筋です。ヘッジファンドのファンドマネジャーたちが売買で見ているのは、やはり金利差。QE2では一昨年の10月から昨年の6月まで、6000億ドルの金融緩和が行なわれましたが、お金が余った分は金利が下がっており、その一方で円はこれ以上金利が下がる余地がないため、円とドルの金利差は縮んできました。
まかべ・あきお
経営学者、信州大学経済学部教授。専門は行動ファイナンス理論、投資理論 、金融工学。1953年生まれ。神奈川県出身。一橋大学商学部卒。76年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社などに出向。その後、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長、同主席研究員などを歴任。2005年より現職。『下流にならない生き方』『行動ファイナンスの実践』『はじめての金融工学』『最強のファイナンス理論』『れからの年金と退職金がわかる本』など著書・共著多数。
真壁 こうした状態が続いた場合、近い将来、大きなインパクトが世界経済を襲ったときに、円が買われ続けるかどうかは疑問です。それはひとえに、そのときの「金利差」の状況にかかってくる。
また、ここへ来て米国では、ツイスト・オペレーション(保有している短期の国債を売却し、長期の国債を購入すること)が行なわれています。短期金利が高い一方、長期金利が下がっていくので、投機筋は2年物米国債の金利スプレッドに注目しています。
そうなると、たとえば2年物米国債が売られて金利が上がった場合、円を売ってドルを買い戻す動きになり、ドルはむしろ買われる。QE3の後はわかりませんが、こうして考えると、円がますます強く買われるイメージはわきにくい。
決済通貨として需要が残っても
基軸通貨としてのドルは終わる
浜 なるほど。ただ、それは少し次元の違う話かもしれません。クロスレートがドル中心になっているのは、ドルが決済通貨として幅広く使われているから。ドルは基軸通貨としての役割を終えつつあると思いますが、決済通貨としてはまだ大きな便宜がある。国際決済通貨と国際基軸通貨は、区別して考えるべきでしょう。
真壁 基軸通貨の最も大きな機能は決済通貨であること。基軸通貨という全体の中に、決済通貨という部分集合があると認識しています。それでは、基軸通貨という言葉の意味をどう定義しますか。
浜 基軸通貨国の定義は、その国にとって良いことが世界にとっても良いことだという、合成の誤謬ではない状況が自ずと生まれることを可能にする通貨だと思います。
いわゆる「パクス・アメリカーナ」と言われた戦後から1965年くらいまでは、明らかに米国の繁栄が世界の繁栄を支えていました。だから、ドルが基軸通貨たり得たのです。基軸通貨としての決済手段、価値の保存手段、対外準備資産といった教科書的な定義にも正しく当てはまっていた。それは、基軸通貨であることによって発生してくる機能ですが、それと為替における相対価値は意味が違う気がします。
浜 視点の違いだけですが、たとえばヘッジファンドがドルを決済通貨と捉えて、円などの通貨を売買するテコに使っていることこそが、ドルが絶対的な通貨ではなく「One of Them」の通貨になっていることの表れではないでしょうか。本来、基軸通貨は他の追随を許さない圧倒的に頼りがいのある通貨なのですから。
投機筋は、いわばメッセンジャー。彼らが為替の流れをつくっているわけではなく、為替の流れを見ながら彼らがそれを追っているのです。そうしたなかで、やはりドルを軸に全てが動くという考え方は、トレーディング・フロアの中でも次第に薄れていくような気がします。
人民元がドルの代わりになるわけがない
ユーロ崩壊後、基軸通貨はもう出現しない
真壁 基軸通貨はもともと本源的な矛盾をはらんでいます。価値の保存ができるという意味で皆が欲しがりますが、もう1つ、アベイラビリティが高まらないといけない。
流動性が外へ出て行くということは、その分だけ通貨の発行量が多くなるので、それだけ価値が下がらなくてはいけない。絶対的な通貨であるはずのドルが他の通貨と相対的に取引される背景には、そうした性質を持っていることもあるでしょう。
浜 「流動性のジレンマ」ですね。希少性と流動性という二律背反的なものを同時達成しなければいけないのが、基軸通貨の使命です。
真壁 本来矛盾している姿を、「覇権国」というオーソリティが隠してくれているわけですね。
浜 言い換えれば、その国にとって良いことが世界にとって良いことだという状況が続いている限り、基軸通貨国は過度な流動性ジレンマに直面しないで済む。しかし米国の力に陰りが見え、ドルが世界中に溢れて稀少性が低下する状態になったからこそ、ニクソンショックが起きたのです。
真壁 では、今後基軸通貨は変わるのでしょうか。私は、その時代、時代の覇権国、つまり一番ケンカが強くて政治力がある国の通貨が基軸通貨になることが多いと思います。たとえば、中国の人民元が、近い将来基軸通貨的な役割を果たす可能性はあるでしょうか。
浜 我々は、中国に少しこだわり過ぎかもしれません。足もとで実質的な固定相場制であることに加え、そもそも「人民元」などという名前の通貨が世界の基軸通貨になるわけはない。「人民」という言い方をしているところに、閉鎖性があるわけです。
人民元であろうと他の通貨であろうと、グローバル化が進むなかで、次の基軸通貨はもう出現しないというのが、私の基本的な考え方ですね。
今の世界にストック調整はできない
ユーロ崩壊なら世界恐慌以上の混乱に
真壁 わかりました。では次に、今後万一ユーロ圏が崩壊するようなことになれば、世界経済はどうなるでしょうか。私は、それによってもし世界危機が起きれば、過去の不況時のように経済が回復するのは、極めて難しい状況に陥るのではないかと危惧しています。
たとえば、世界恐慌後の経済を考えましょう。1920年代の初めに世界では一種のバブル期があって、民間セクターが設備投資をさかんに行ない、供給能力を増強していました。
ところが、バブルがはじけてストックが積み上がり、不良債権が発生した。不良債権は金融機関に溜まっていくので、政府が公的資金で救済しようとした。足もとで、欧州では政府自身が危機に陥っていますが、今ユーロ危機が起きたら、これと似たような流れになることは、何となくイメージがわきます。
問題はその後です。広がり過ぎた供給能力に対して、大恐慌時のようにストック調整ができるかと言えば、非常に疑問です。
大恐慌後は世界の供給能力が過剰になったので、先進国は需要を求めて発展途上国へ出ていき、植民地政策が活発になった。それがエスカレートして、経済で植民地のパイを奪い合うのではなく、武力で奪い合うようになった。これが第二次世界大戦へとつながっていきます。
不謹慎な言い方かもしれませんが、戦争は生産能力を壊して供給を削減するための有効な手段です。しかるに、今の世の中はそうした調整法を使うことができない。今の軍事力で先進国が戦争をしたら、それこそ地球は破滅してしまいますから。つまり、ストック調整を行なって再び経済を活性化させることが、非常に難しい状況になっている。
リーマン後の政策を間違えた先進国
生産設備を海に投げ捨てるべきだった
真壁 そうなれば、各国が皆で示し合わせて、「イチ、二、サン」で設備を海に捨ててしまえばいいのですが、そんな合意ができるはずがない。よって、ユーロ後にどんな世界が出現するのか、正直、見当もつかない。
浜 その通りだと思います。リーマンショック直後がそうした生産調整を行なうチャンスだったのですが、逆に世界各国が財政出動をして、落ち込む前のスケールまで経済を戻してしまった。
本来、リーマンショック後のG20の初回会合などで、各国が「ようやくバブルがしぼんだから、このへんで調整しましょう」という合意を行ない、それこそ設備を一斉に海に捨ててしまえばよかったのですが、逆に膨らませる方向へ行ってしまった。金融恐慌への対応を間違えてしまったと言えます。
真壁 間違えたと言うか、痛みを嫌った結果、そうせざるを得なかったということでしょうね。供給能力が100あったとすれば、不況で需要は60〜70くらいまで落ちている。本来、こういう状況になったら国が規制しないと、抜け駆けで生産を増強しようとする企業が出てくるので、ますます供給過剰になっていく傾向があります。
浜 そうした課題が置き去りになっているため、世界はいまだリーマショックの後遺症から抜け出せていないのです。今の日本のデフレも、ある意味ではグローバルな供給力の高まりによるもの。では、有効解は何か。結局、各国がグローバル経済の影響を避けるため、「鎖国」をするしかない。
もちろん、これは後ろ向きの解決策であり、私はそうなったらいいとは決して思っていません。しかし、現状ではこれくらいしか思い浮かびません。
今は戦争が起きにくい世の中ではありますが、各国がその一歩手前の状況、つまり「引きこもり」になっていく恐れはありますね。「グロス・ナショナル・ハピネス」(GNH=国民幸福度)などという言葉が流行るのも、結局世界が引きこもり化していく前兆だと思います。
真壁 それにしても、「引きこもり」なんて現実的に可能なのでしょうか。
市場による暴力的な是正が起きたら
各国は「引きこもり化」してしまう
浜 当然、簡単ではないでしょうが、下手をすると各国の政治がそういう手段を講じる可能性もあるということです。それによって出てくるであろう様々な弊害が、怖いですよね。
真壁 今は政治がポピュリズムに走っています。大恐慌時もそうでしたが、世の中が右傾化し、「自分の国がよければ他の国は構わない」という政策展開になってしまいがち。「引きこもり」というのはおそらくそういう状況のことを指しているのでしょうね。
しかし、ここまでグローバル化が進んでいるなかで、欧米諸国が鎖国をできる可能性はやはり低い。皆が生活レベルを落とすことが可能であれば解は出てきますが、ポピュリズムが蔓延する中では、政治が国民に対して痛みを強いることはできないでしょう。
そうなると、さっきの話に戻りますが、いよいよ立ち行かなくなったときに、マーケットが暴力的に現状を是正する方向へ動くというシナリオが、最も可能性が高い。
浜 マーケットの暴力的な是正は、リーマンショックという形で一度起きています。それに対して、各国が変な形で「逆襲」をしてしまったから、こうして混沌とした事態になっている。次に是正が起きて最終的な決着が着くとしたら、おそらく中央銀行恐慌でしょうね。そして、過度に膨張した世界の経済規模が現実的なレベルへと縮小していく。それは縮小均衡とも言えますが、問題はそれが本当に「均衡」するかどうかです。
真壁 経済は常に動いているので、厳密には均衡しないですよね。
浜 起きるとしたら「動的均衡」でしょうか。残念ながら、それが今考えられる最もまともな解決策であることは明らか。そのとき、日本も原発をゼロにして、それでやっていけるレベルまで経済活動を落としていく。考えてみれば、環境問題もエネルギー問題も、全てこの議論に集約されます。
やはり「そろそろ皆でスローライフを送ろう」というメッセージなのでしょうか。地球も少しお休みができて、いいと思いますよ。
浜 要は、各国の政治や経済がそれをまともに受け入れることができるかですね。こうした選択肢が耐え難いから「引きこもりを選ぶ」という解答は、あってはいけません。
真壁 プロセスとしては、非常によくわかります。
浜 経済的活動で強権を発動する国家主義が横行していくのは、すごく怖いこと。武力衝突にはならないとしても、お互いにバリアを高くして、全てを自己完結で地産地消でやっていこうとする発想になったら、結局、誰もハッピーにならない。しかし、現実的にそういう動きがちらほら見え始めていることについては、暗澹たる気持ちになりますね。
無限の欲望で積み上がる経済価値
資本主義は今回も「是正」を促すのか
真壁 その通りです。そのひずみは色々なところに現れていて、やはり一度ご破算にしないといけない。世界の歴史を見ても、大きなインパクトが起きた後でさえ、各国が自らを改革することは難しかった。
そこへ外からやって来たのが資本主義です。これは究極の民主主義とも言うべきものなので、これまでは資本市場の機能を通じて、世界全体のバランスが何とか正常な状態に保たれていた側面があります。
大恐慌時の教訓を考えると、身に余る経済価値を人間が享受して、一度ガクンと落ち込んだものがまた復活してくる。人間の無限の欲望が砂の上にどんどん積み重なり、それが維持できなくなると一旦壊れて、また新しいものができるという繰り返し。今回も同じことが起きるでしょう。
そういう方向に向かわせない政治の機能が重要になりますが、期待するのは無理。やはり資本市場が、歪みを是正せざるを得ない状況をつくり出すのではないか。
浜 そうですね。ただ、世の中は資本市場への信頼感が高すぎるかもしれない。市場には、確かにそうした一定の調整能力はあると思います。しかし、今は古典的な経済環境と違い、グローバル化しています。リーマンショックも、古典的な経済環境だったら、米国だけの問題で終わっているはず。
浜 今は、政策が一国家の中で自己完結せずに、国境を越えてしまう。そうした中で、実は市場の原点回帰力は相当低下しているのではないでしょうか。市場がちゃんとメッセージを送ってくれるかどうかは、わかりません。
真壁 タームによりけりだと思いますよ。為替もバブルも、明らかにおかしい状況が3〜5年続いてから、ようやくわかりますから。
確かに、市場のメッセンジャーとしての機能は低下しているかもしれません。しかし、新古典派の経済学や金融工学もそうですが、中長期で見れば「ここがフェアバリューだろう」というメッセージは送ってくれると思います。
フェアバリューを探り当てる力は
マーケットにどれだけ残っているか
浜 それはそうですが、ロングタームで見たら皆死んでしまっているかもしれませんよ。フェアバリューと言っても、そこには政策のリークなど、従来にはない色々な要素が入ってくる。だから、ロングタームで見ても、市場が必ずしも正しいメッセージを運んでくるとは限らない。
そもそもメッセンジャーと言っても、市場に主体性があるわけではなく、あくまでメッセージのキャリアです。たとえば、ジョージ・ソロスが英国をERM(欧州為替相場メカニズム)から追い出したという言い方は、実は正確ではない。もともと英国経済がそこに止まることが到底不合理な要因があったから、ソロスが注目したという考え方が正しいと思います。
よって、国富論的な考え方をベースにして、昔考えられていたようなフェアバリューを探り当てる力が市場にどこまで残っているかは、やはり疑問です。
真壁 そこに異論はありません。ただ、短期的にはマーケットは間違えるものです。実際にマーケットにいると、初期段階において、正しい見方は往々にして少数意見ですね。
でも、1つの見方が正しいと思う人が20人を越えると顕在化し、50人を越えると多数意見になり、70人を超えると法案になるというように、長い目で見ると、マーケットが送ってくる意見はそれなりに正しいものだと思いますよ。
世界を引きこもり化させてはいけない
身の丈に合った経済活動へと回帰せよ
浜 なるほど。意味のある「長い目」であるかどうかが問題ですね。
真壁 「ユーロ後の世界経済」については、おそらく我々が最終的にイメージしている姿は、大きく変わらないと思います。まとめると、各国が「引きこもり」になるような状態は、一時的には起きるかもしれない。しかし、世界恐慌後のように植民地を奪い合うような状況には、おそらくもうならないということでしょうね。
浜 各国がそれをやろうとしないかどうかはともかくとして、おそらくそうはならないでしょう。
真壁 それと、戦争もおそらくもう起きない。核戦争が起こったら人類の大半は死滅することになりかねませんから。
浜 それを期待しますが、人間はいざとなったら何をやり出すかわかりません。「自分たちだけは大丈夫」と考える国もあるかもしれないので、全く起きないとは限りませんよね。
真壁 人間がある日ハッと気づいて、「1950年代から数十年続いてきた世界経済の状況は行きすぎだった」と反省して、生活レベルを落とし、身の丈にあった経済活動をすることが必要になる可能性は、高いですね。そこが「最終解」になる気はします。
浜 そうですね。こんなに地球温暖化が起きて気象状況も変わっているのは、地球を疲れさせるような経済レベルを保持し続けようとすることに、大きな間違いや限界があるというサインかもしれませんし。
真壁 ユーロ危機にせよ、その後の世界経済の行方にせよ、問題は目の前に近づいている変化の兆しに気づいている人が、まだ少数だということでしょう。
浜 そのことについて、我々はもっと真剣に考えなくてはいけません。
*真壁教授と浜教授の対談の模様を収録した動画を、ダイヤモンド・オンラインのフェイスブックで公開しています。ぜひご覧ください(フェイスブックのアカウントをお持ちでない方は、登録の必要があります)。
http://diamond.jp/articles/print/27276
Xデーは2017年、世界のカネを呼び込まないと日本は沈む
近藤洋介・経済産業副大臣に聞く
2012年11月2日(金) 磯山 友幸
「総合取引所」を実現させるための制度整備を盛り込んだ改正金融商品取引法が9月の国会会期末ギリギリに成立した。これまで、金融庁と経済産業省、農林水産省に分かれていた取引所に対する規制・監督の権限を、原則として金融庁に一元化することとなる。株式や金融先物、商品などを一括して取引する総合取引所の実現に向けて、政府は民間の取引所に対して積極的に働きかけを行う方針だ。省庁間の権限争いもあり、法案の成立が危ぶまれたが、何とか第一歩を踏み出した。総合取引所法案に主体的に取り組んだ近藤洋介・経済産業副大臣に聞いた。
政権交代後に経済産業大臣政務官として、総合取引所構想を成長戦略の柱として打ち出しました。
近藤洋介(こんどう・ようすけ)氏
1965年生まれ。88年慶応義塾大学法学部を卒業し日本経済新聞社入社。東京本社編集局産業部、経済部で記者として、日米摩擦、エネルギー問題、金融問題、行政改革などを取材。99年同社を退社。2000年衆院選に山形2区から無所属で出馬するが落選。03年の衆院選に民主党から立候補し初当選。以後、当選3回。野党時代は「次の内閣」の経済産業大臣を務め、若手論客として活躍した。政権交代で誕生した鳩山由紀夫内閣では経済産業大臣政務官に就任。新成長戦略の作成に中心的役割を果たした。その後、民主党総括副幹事長、成長戦略・経済政策プロジェクトチーム事務局長などを務め、2012年10月に経済産業副大臣に就任。野田佳彦首相の側近として知られる。
近藤:2010年に「新成長戦略」の金融分野の柱として総合取引所を盛り込みました。本来ならば1年前には通すべき法律だったのですが、ようやく成立にこぎ着けたのは良かったと思っています。ただ、問題は、新成長戦略の検討を始めた3年前に比べて日本の資本市場をめぐる状況がむしろ厳しさを増している事です。ねじれ国会という事情もあり仕方がない事とはいえ、やや遅すぎたと感じています。これから相当スピードアップして取引所の改革を進めなければならないと思っています。
10月に発足した野田佳彦第3次改造内閣で、経済産業副大臣に就任され、今度は総合取引所の実現に向けて旗を振ることになりました。
近藤:経産副大臣になって、取引所自身の判断とはいえ、東京工業品取引所を今後どうするかという話は少し歩みが遅くなっているのではないかと危惧しています。東工取は大阪証券取引所との連携を模索していたわけですが、その大証が東証と一緒になる。その時に東工取はどうするのか。本来なら早めに結論を出さなければいけないわけです。特にシステム更新を控えているわけですから。経産省の事務方は、東証と大証のシステムがどうなるかを見ないと判断できないと言っていますが。とはいえ早めに手を打たなければいけないという危機感は持っています。
東証大証の統合で生まれる日本取引所に東工取も合流する、と腹を括ったのでしょうか。
近藤:まだ判断を下していないということでしょう。しかし、東工取だけで単独で生きていけるのかというと、そうではない。ただ時間だけが流れていく対応の遅さに焦りというか、これでいいのかという思いはあります。個人的な意見ですが、私は東工取も東証大証と一緒になるべきだと思います。と言うよりも、ほかに対案はないのではないでしょうか。
新成長戦略に総合取引所を盛り込んだ時、経産省や農水省には相当な抵抗がありました。当初彼らがこだわっていたものは何だったのでしょう。
近藤:あまり言いたくはないですが、やはり役所という組織は自分の所管を剥がされるのが基本的に嫌ですからね。現場の審議官とか課長が、というよりも、やはりOB達であると思います。大物が何人かおりましたから。やはり「俺の目の黒いうちは(権限を手放すな)」というのが若干あったのではないでしょうか。
東工取の業績は思った以上に悪い
その後、経産省も腹を括ってくれました。ただ残念ながら、法律の成立が遅れた理由のひとつとも言えるのですが、金融庁も自分の庭先さえ綺麗にすれば良いという姿勢が見えました。世界で競争に勝てる日本の取引所を合併推進などでどう作るのかという発想に欠けていた。経産省からすると金融庁に「いい所取り」されるのではないかという疑心暗鬼がありました。
その点、松下忠洋・金融担当大臣が非常に尽力されました。経産副大臣から金融担当大臣になられたので、双方の立場からまとめられた。法案成立に向けた後半戦は松下さんの力が大きかったと思います。亡くなられて非常に残念です。
経産省が腹を括った理由は?
近藤:東工取の業績が思った以上に悪いという現実だと思います。農水省管轄下の東京穀物商品取引所の上場商品を東工取が引き受け、東穀取は解散することになりました。東穀取もボロボロでした。
農水省も当初は総合取引所構想に反対の姿勢でしたね。どうにかして自らの権限を残そうとしていました。
近藤:農水省の中では数少ない「開明派」の幹部が統合の旗振りをしてくれました。これでまあ、ベースは出来たわけです。
民主党が目指した「政治主導」にはいろいろ批判もありますが、総合取引所については、官僚の抵抗を押し切ったという点で「政治主導」が効いた事例という事でしょうか?
近藤:時間はかかりましたが、結果的にできました。ねじれ国会の中で、自民党の方々のご理解もいただいたわけですから、その力も大きかった。自民党政権下では出来なかったことを、一緒になってやらせてもらったという事です。
近藤さんは新成長戦略をまとめる頃から、海外のおカネをいかに引っ張ってくるかという発想が大事だ、アジアの投資資金の「ハブ」として取引所が重要だ、資産運用立国を目指すべきだと主張されていました。
近藤:はい。今でもそう思っています。個人の金融資産は国内にたくさんあると言われますが、海外の資金を日本に引っ張ってくる必要がいずれ出てくる。特に東日本大震災で状況が大きく変わりました。やはり原発が動かなくなったことが大きいのです。31年ぶりの貿易赤字になりましたが、輸入エネルギーの費用が増えれば、いつ経常収支が赤字に転落してもおかしくない。そのXデーが2017年にもやってくるという見方が出ているわけです。原子力発電所のほとんどが停止する前はもう少し時間があったかもしれませんが、2017年というのは相当な現実味を帯びています。
不動産におカネを呼び込むことが必要
そういう状況の中で円高が進み、輸出ができなくなってくるとますます状況は厳しくなる。そうなると日本の国債を国内だけで消化できなくなる日が自ずと来るわけです。そういう意味でも世界のおカネを日本に呼び込む、投資してもらう政策が本当に必要になってくるわけです。
産業政策と共に、おカネをいかに呼び込むかということを考えなければ日本の産業は簡単には立ち直らないとことですね。
近藤:そうです。そういう意味も含めて、古川元久さんが国家戦略大臣として「成長ファイナンス戦略」をまとめました。私はそのとき党側で、プロジェクトチームの事務局長をやっていました。いろいろと民主党の中でも批判はありましたが、私はファイナンス戦略に一石を投じたものだと思っています。
ひとつの柱はデフレ解消のためのファイナンス戦略です。資産デフレを解消するためには不動産におカネを呼び込むことが必要です。Jリートによる資金調達手段の多様化などに向けて次期通常国会に法改正案を提出するという方針を盛り込みました。
もうひとつは、運用立国を目指すという意味で、確定拠出年金の普及・拡充や、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資金活用の必要性も入れ込みました。
さらに、全国銀行協会の幹部に「絵空事だ」と揶揄されましたが、休眠預金の資金活用です。全銀協は大したことはないと言っていましたが、整理させたら、手数料を引いてもネットで年間600億円ぐらいある。これは結構な額だと思います。このおカネをリスクマネーとして投資に回せるとすれば、それなりの効果があると思います。休眠預金も、まさに眠っているお金を動かすということだと思います。
日本の銀行は人もおカネもムダにしている
こう言ってはなんですが、銀行は大した努力もしないで史上最高益を得ているわけです。運用と呼ぶに値しないことをやっている。預貸率が5割以下というところもある。こんなことでは金融機関とは言えないと思うわけです。おカネを眠らせてムダにしているわけですから。
なおかつ、銀行界は人材も眠らせている。最近の就職人気上位に大手銀行が並んでいます。人もカネも抱え込んで眠らせている。この構造を変えるべきだと思います。その象徴として休眠預金に手をつけたわけですが、ことほどさように、カネを動かすこと、そして外から呼び込む事は非常に大事だと思います。
経済成長のためにおカネを回す施策となると、経産省だけでは難しいですね。
近藤:そうです。経産省主導ではなかなかできません。やはり金融庁と財務省ですね。金融を動かすには税なんです。そこでやはり財務省の主税局がもう少し柔軟に対応してもらわなければならないですね。
「成長ファイナンス」にも「教育資金を通じた世代間の資産移転の促進」を盛り込みました。まさに眠っているおカネ、銀行の資金を分析すれば、65歳以上の高齢者の預貯金がほとんどなわけです。これをどうやって回すかとなると、子や孫のために投資するという形で動かすのが一番わかりやすいわけです。そうすると贈与税や相続税といった問題にぶち当たる。主税局の壁にぶつかるわけです。
成長ファイナンスの柱は、閣議決定した「日本再生戦略」にも盛り込まれました。日本経済は成長過程に乗るでしょうか。
近藤:やはり今後の景気を占う上で、電気料金の値上げが大きな重石になるのではないかと危惧しています。「だから原発を再稼働しなければ」とは言いませんが、現実問題として動かせる原発は動かさないと、電気料金が上がり、企業収益の足を引っ張ってしまいます。
著者プロフィール
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
ジャーナリスト。経済政策を中心に政・財・官を幅広く取材中。1962年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末で退社、独立。熊本学園大学招聘教授、早稲田大学客員上級研究員、上智大学非常勤講師。静岡県アドバイザーも務める。著書に『国際会計基準戦争完結編』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。共著に『オリンパス症候群』(平凡社)、『株主の反乱』(日本経済新聞社)。
このコラムについて
磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121029/238734/?ST=print
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