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【第41回】 2012年11月1日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
国家は破綻するか?
カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフの『国家は破綻する――金融危機の800年』(村井章子訳、日経BP社、2011年3月)が注目を集めている。
本書は、過去に起きた金融危機と国家債務危機を、1800年以降を中心とする長期的なデータを(場合によっては1400年代も含めて)蒐集し、分析したものだ。本来は専門書だが、平易に書かれているので、金融や経済に対する予備知識がなくても読める。そして、扱っているテーマは、現在の世界が直面している最大の問題に関するものだ。だから、広く読まれて然るべき著作と思われる。
ただし、本書の主張に対しては、いくつかの疑問点がある。とくに日本に関する部分がそうだ。それらについて、以下に述べることとしよう。
国家破綻は
よくあること
本書の主張は、つぎの2点だ。
第1に、歴史的に見れば、国家の破綻はよくあることだ。銀行危機が通貨暴落とインフレを引き起こし、これを経由して対外債務・対内債務のデフォルトが起こる。これが、800年間の金融の歴史だ。銀行危機は、どんな国にも起こる「機会均等」の脅威であり、「今回は違う」ということはあり得ない(本書の原題“This time is different”は、そこから取られている)。
理論的に考えると、国内債務によってデフォルトする国は存在しない。しかし現実には、かなり頻繁に起こっている。1800 年以降で、少なくとも70件以上は起きている。そして、この数字は控えめだと著者たちは言う。
これは、データが示すとおりの事実だ。
銀行危機は
共通の性質を持つか?
本書の第2の主張は、「過去の金融危機には驚くべき共通性がある」ということだ。
この点に関しては、大いに疑問がある。以下に述べるように、さまざまな面について、個々のケースは異なる性質を持っていると言わざるを得ないのである。
日本との関係でいうと、「日本の『失われた10年』は、2007年頃の金融危機前後に多くの国が経験したことと、本質的に同じだ」と著者たちは言う。
確かに、表面的にはそうだ。
ただし、日本の場合は、さまざまの異なる点があった。とくに、銀行危機が財政赤字を拡大したメカニズムや銀行危機がマクロ経済に与えた影響に関して、そうである。後述するように、新興国工業化への対応や、人口高齢化による社会保障費増大などが重要な要因として働いているのである。
また、最近の事態は、「アメリカの日本化」とよく言われる。確かに、金融危機後のアメリカは、日本が2001年以降行なった量的緩和政策と基本的に同じ政策を採用している。そして、日本が量的緩和でデフレを克服できなかったのと同じように、高失業率という実体経済の問題を解決できない。
しかし、経済の状況が同じかどうかについて見ると、日米は大きく異なる。とりわけ、企業収益の動向が大きく異なるのである。
日本と同じように金融緩和に頼っているのは事実だが、それは、「本当に必要な政策(とりわけ、産業構造を転換させるための構造政策)が政治的に難しい」という理由によると考えられる。
銀行危機はなぜ財政赤字を
拡大させるか?
本書が指摘する「共通点」として、銀行危機後の政府債務拡大とそのメカニズムに関するものがある。
金融の規制緩和によって、民間借り入れが大幅に増加し、資産価格が急上昇する。しかし、破綻して、政府債務が急拡大する。本書によれば、第2次大戦後の主な危機で、実質政府債務は、危機前に比べて平均86%拡大した(邦訳のp260、p262、p329。以下、ページ数は邦訳のページ数)。
ここで興味深いのは、政府債務の衝撃的な急増は、深刻な金融危機に伴うリセッションによって税収が急激に落ち込むことが主因であり、銀行救済が原因ではないとしていることだ(p255、p329)。
しかし、これに対しては、疑問がある。
第1に、2007年の金融危機後のアメリカ、アイルランド、イギリスの財政赤字拡大は、銀行救済の直接の結果だ。政府が銀行に公的資金を注入し、それによって財政赤字が拡大した。つまり、民間債務が直接的なルートで公的な債務に転換したのである(本書も、フィンランドとスウェーデンの場合はそうだったことを指摘している。p337)。
1990年代の日本の場合、財政赤字の拡大は、確かに表面的に言えば、税収の減少によって生じた。しかし、注意すべきは、交付公債を財源として公的資金注入を行なったため、財政赤字が形式上は拡大しなかったことだ。しかし、これは実質的には赤字拡大である。アメリカのように直接に政府の歳出で公的資金注入を行なえば、日本の場合も赤字が拡大しただろう。つまりここには、「財政赤字の定義」という厄介な問題がからんでいるのだ。
また、日本の場合、中長期的に見ると、財政赤字が拡大した大きな原因は、人口高齢化によって社会保障関係の支出が増大していることだ。
なお、本書は、日本は景気刺激をとったために赤字が拡大したと述べている(p329、p411)。これはよくある誤解だが、日本の場合の現実は異なる。
銀行危機はなぜマクロ経済を
破綻させるか?
銀行危機がマクロ経済を破綻させるメカニズムとして本書が指摘するのは、「銀行危機が銀行の貸出を慎重にさせ、マクロ的な収縮をもたらす」というメカニズムだ。
これと同じ考えが、日本でも90年代に主張された。宮崎義一『複合不況――ポスト・バブルの処方箋を求めて』(中公新書、1992年)がその代表だ。同書は、銀行の企業向け貸し渋りにより信用逼迫(クレジット・クランチ)が起こり、これが実質GNPのマイナス成長をもたらしたとする。つまり、金融部門が引き起こしたリセッションだったというのである。
これに関しても、疑問がある。日本の90年代以降のマクロ的停滞は、中国の台頭や、IT革命に日本が対応できなかったために生じたものだ。つまり、実体経済の構造変化が原因であり、「貸し渋り」という金融的な要因で生じたものではない。銀行が貸出を拡大しようとしても、投資資金の需要がなかったために、貸出が拡大しなかったのだ(もっとも、ラインハートとロゴフは、中国の台頭を考慮して経済を方向転換する必要があったことも原因であることを認めている(p.v、p336)。
本書で扱われているのは基本的にはさまざまなデータの間の相関関係である。それは必ずしもメカニズムを意味しないのだ。
貸出の供給側と需要側のどちらに原因があったかは、金利の推移を見ると明白である。仮に資金需要があったにもかかわらず貸し渋りのために貸出が伸びなかったのだとすれば、金利は上昇するはずだ。しかし、現実には、90年代の前半に日本の金利は急速に低下した(これは名目金利だが、実質金利も低下したはずである)。したがって、貸出が減少した原因は、資金需要が減少したことだ。それを引き起こしたものは、新興国の台頭によって日本が国際市場でのシェアを失い、企業利益が減少したことである。
資本流入と
リスクテイク
ラインハートとロゴフは、金融危機に先立って資本流入があることを指摘している。
確かに、最近の事例でも、その例は見られる。サブプライム危機(本書は、これを「第2次大収縮」と呼んでいる)に先立ってアメリカに資金流入があった。それは、サブプライムローンの金融化商品というリスクの高い対象に投資された。
また、この連載で指摘したように、ユーロ危機に先立って、南欧国債への資金流入が生じている。
しかし、日本の場合はかなり違う。
第1に、80年代後半の不動産バブルは、国内の金融緩和によって引き起こされたものであり、国際的に大規模な資金流入によって生じたものではない。
第2に、いま起きている日本への資金流入は、株式や不動産など、通常の意味でのリスク資産に投資されているのではなく、リスクがないと考えられている日本国債に投資されている(もっとも、それが国債バブルを引き起こし、将来の国債暴落の条件を作りつつあるのは事実である)。
なお、金融危機の国際的伝播の問題と関連して、ラインハートとロゴフは、「日本の金融機関が高いリターンを求めてアメリカのサブプライム市場を物色していた」としている(p354)。
しかし、これは事実に反する。「自国の不動産市場で利益を上げる機会がなかったから」と言うのはそのとおりだが、そして、日本からアメリカへの資金流入があったのは事実だが、それは主としてアメリカのファンドが円キャリー取引を行なうことによって生じたのだ。
金融危機は通貨安と
インフレをもたらすか?
われわれにとっての最大の関心事は、金融危機や財政赤字の拡大が、最終的には何をもたらすかだ。
ラインハートとロゴフは、「国内債務が大きいとインフレになる」という(p201)。国内債務によるデフォルト発生年の平均インフレ率は、170%に及ぶ。そして、デフォルト後も、数年にわたり100%以上のインフレ率が続く(p209)。
つまり、「政府は膨れ上がった財政赤字の返済をインフレによって回避してきた」というのが、歴史が示すところである。本書によれば、「通貨の品位低下によるデフォルト」は、紀元前4世紀の古代ギリシャの時代からあった(p266)。そこで、本書では、インフレを「旧世界のお気に入り」としている。
これは、われわれが密かに恐れていることと一致する。そして、財政赤字問題に関する伝統的な考えでもある。インフレが発生するかどうかは、重大な問題だ。
しかし、いま現実の世界で、そうしたことが起こっているとは見えないのである。
いまアメリカで、ドル安とインフレが起きているか?現実は、むしろ逆である。ドルは増価している。物価上昇率は低くはないが、インフレとは言えない。
日本でもそうだ。国の債務が急拡大し、日本銀行による「国債の貨幣化」が大規模に行なわれているにもかかわらず、円安や物価上昇の気配は見えない。むしろ、円高かデフレが問題であるとされている。
ただし、このことは、将来も円安やインフレが生じないことを意味するものではない。
日本の場合も、どこかで急激に円安に転じ、インフレが輸入される危険は十分ある。事実、これこそが、中長期的に見た日本経済の大きな問題だ。しかし、少なくともこれまでに、その気配も見えていないのは事実である。
これをどう考えるべきだろうか?
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http://diamond.jp/articles/print/27174
【第80回】 2012年11月1日 熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
マネーを増やしてインフレは起こせる
しかし、健全な手法は存在しない
――熊野英生・第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
日銀は、必死になって資産買入基金残高を増やしている。9月19日はプラス10兆円、10月30日はプラス11兆円と、上積みはものすごいペースだ。基金残高は現在の66兆円(9月20日時点)が、2013年末には91兆円に増える計画である。
日銀は、消費者物価の伸び率を引き上げて、デフレ脱却を目指すのだが、それが成果を挙げていない。おそらく、「基金残高を91兆円に増やしてもインフレは起こらない」というのが、金融関係者の大筋の合意である。
それに対して、政治家からは、日銀の金融政策は「小出しではダメだ」とお叱りの声がある。日銀にしてみれば、2ヵ月連続で10兆円、11兆円と増やそうとしているのに、「小出し」と言われるとさぞ心外だろう。
一体、日銀は何をすれば非難されずに済むのだろうか。
マネーを増やす方法
金融を通じて景気を良くする方法については、次のような「頭の体操」ができる。
(1)日本経済が1つの世帯だったとする。世帯収入は100万円。今、個人消費を収入100万円よりも大きな金額に増やせるのか。
(2)金融取引がない世界では、収入以上に消費支出を増やすことはできない。
(3)金融取引がある世界では、世帯は銀行から200万円を借り入れて消費を増やせる。消費支出は、手取り収入+銀行借り入れによって、100万円から300万円になる。
(4)この理屈で、銀行が企業・家計にどんどん資金を貸し付ければ、消費・投資は膨らんで、日本の経済成長率は上昇し、デフレは解消する。
これが、ごく単純化した理屈である。しかし、その実行にいくつも問題が存在することは、誰でもわかることだ。銀行が、簡単に企業・家計に融資を増そうとするだろうか。
銀行は、貸し倒れリスクが大きいと判断する事業者には融資を手控える。銀行が融資活動を積極化しないのは、「しない」のではなく「できない」事情があるからだ。貸し倒れで損失が生じると、銀行は事業者としての損失を脅かされる。デフレの背後にある経済原理は、持続的に成長する事業案件が乏しいということである。
これがマネーとどう関係するかは、やや複雑である。貸借対照表(バランスシート)の上では、銀行が融資を増やすと、民間部門の預金口座には自由に使える資金が増える。この資金が増えたとき、「マネーサプライが増えて、物価が上昇する」と考える。
経済学の考え方では、誰かの預金は最終的に誰かに貸し出されて、購買力に結びつくということが、信用創造として知られる。教科書的な説明では、日銀が信用創造の元締めとして、信用創造プロセスに初めの一歩として資金供給を行ない、そこから加速度的な信用創造が起こるとされる。
マネーを増やす条件として、銀行がリスクのある融資先へのファイナンスを増やすのならば、ある程度の損失発生を容認しなくてはいけない。それを実現する方法は、銀行の努力だけでは至難の業である。
そこで一案として、日銀を使って限界を突破しようと考える。それは、日銀の供給した資金のうち、「一部については貸し倒れ損失を加味して返済しなくてもよい」というルーズな取り決めをする方法である。「損失を日銀が肩代わりしてくれるのならば」と、銀行はさらに貸出を増やすことができる。
ただこれは、日銀から銀行への贈与と同じことである。日銀ではなくて、政府の公的資金を使ってでも同じことができる。
しかし、こうした方法は、明らかに不健全である。貸し倒れの穴埋めを誰がするのかを考えてほしい。日銀の損失も、政府の公的資金の損失も、全く等しく国民負担である。
株式を日銀が買う
外債を日銀が買う
原則論を踏まえたかたちで、よく耳にするアイディアを当てはめてみよう。日銀が株価を上昇させるまで無制限にETFを買い続けることが実行されたならば、どうなるか。日銀が円安になるまで外債をひたすら買い続けたならばどうなるか。
おそらく、日銀のバランスシートは、日本の株式と外債で大きく膨らんで、日銀は損失を抱える可能性がある。その場合、やはり日銀を通じて国民負担が発生する。そんなことを実施してもよいかどうかが問われる。
思考実験として先に進むと、次なる問題は、政府・日銀の損失発生を認めるとして、それをどういった使途に用いることが比較的ダメージが少なく、国民の納得を得られるかということになろう。選択肢としては、
(1)銀行を通じて、事業リスクの高い企業への融資に使う
(2)株価・外債の買入資金に回す
もう1つあるとすれば、今までの議論で扱わなかったアイデアとして、
(3)政府が事業損失を出しかねない分野に財政支出を使い、損失穴埋めのための増税を先延ばしして、代わりに日銀が財政ファイナンスをする、という方法もある。
最後の(3)の方法は、政府の財政規律を失わせて取り返しがつかないことにならない節度を保つのが生命線だ。日銀の国債買入は、金融機関の資金供給という名目で、この政策を現在行っている。見ようによっては暗黙の財政ファイナンスになりかねないような、グレーな金融政策にも見える。
「裸の王様」を指摘する勇気
筆者は、前述の(1)〜(3)の選択肢のうち、(3)は使途のことを考えず、財政全般について、債務拡大がもう限界に来ていると考える。だから、消費税率を引き上げざるを得ないのだろう。(2)は金融市場の規律を喪失させるのでダメだ。
条件付きでチャレンジしてもよいと考えるのは(1)である。(1)については、財政資金のバックアップを条件にして、日銀が工夫する余地があるのではないか。
最後に、20年来言われてきたことであるが、わが国にはリスクを顧ずに、事業の成功を目指して行動する主体が少なすぎる。リスクマネーの少なさが、マネーの量の少なさという議論にすり替えられている。
リスクを覚悟する主体がいないと、イノベーションも起こりにくい。経済学の泰斗だったシュンペーターが述べていた「アニマルスピリット」である。
今後、日銀を取り巻く政治環境が変わったとしても、金融政策に対する風当たりは強まるばかりだろう。深刻な問題は、日銀がデフレ対策に関して「王様は裸だ」とは言えない立場であるところだ。
筆者は、王様は裸だと開き直って「健全な方法ではもはやマネーを増やし、インフレを起こすことはできません」と明言した方がよいと考える。その認識を共有して、税金を投入してでも、リスクテイクをする事業者を支援するぎりぎりの方法を議論すべきだと考える。
http://diamond.jp/articles/print/27101
【第51回】 2012年11月1日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
デフレの責任は誰にあるのか 政府・日銀「共同文書」の奇妙さ
のっけから恐縮であるが、まず、2008年1月にセンター入試で出題された問題をご覧頂きたい。
●中央銀行が行うと考えられる政策として最も適当なものを以下から選べ
1.デフレが進んでいる時に通貨供給量を減少させる
2.インフレが進んでいる時に預金準備率を引き下げる
3.不況期に市中銀行から国債を買い入れる
4.好況期に市中銀行に資金を貸す際の金利を引き下げる
本コラムの読者なら、簡単に答えがわかるだろうが、正解は3。
センター試験は高等学校の学習指導要領に沿って出題され、平均点は6割くらいに設定されている。勉強していれば解答できる問題ばかりだ。
高校生でもできるこの程度の問題を、当時の日銀は実行できなかった。マスコミは、金融政策は日銀が先生であり、そのまま鵜呑みにするだけなので、先生が違うといえば、高校生でも知っている知識も曲げてしまっていた。
実際、あるマスコミ関係者もこの問題は解答がないとか不適切だとか、奇妙なことを言っていた。もちろん、この問題では、不適切という批判もなかったし、解答も訂正されていない。要するに、おそらく日銀を刺激して、新聞ネタをもらえなくなるのをおそれているのだろうが、御用マスコミが多いということだ。
アンケート調査を見てびっくり
2008年9月のリーマンショックでは、欧米の中央銀行は国債買いオペなどで、実際にセンター入試の正解を実行したので、さすがに、もうこの種の日本での誤解はなくなってきたと思っていたら、10月29日の日経新聞のアンケート調査に関する記事を見て、愕然としてしまった。
調査方法は、日経リサーチを通じて19〜22日、全国の20〜60代の男女1000人にインターネットで聞いたとしている。おそらく日経や日経関連の読者層が中心であろう。デフレから脱却するにはどうすればいいのか。政府と日銀の役割や必要な対策について意見を聞いている。
同紙によれば、政府と日銀でどちらがデフレ対策を主導すべきなのかという問いに対して、政府が「より重い責任を負う」との回答が6割を占め、日銀は2割だった。政府に求める施策として、医療・介護・健康産業などの創出・振興、中小企業対策、環境配慮型産業の創出・振興が多かった。日銀には、政府と一体のデフレ対策、インフレ目標の引き上げ、無制限資金供給だった。
なお、これを受けて、ネット上でも議論があり、政府や日銀ではなく、民間もデフレ対策を担うべきだという意見もあった。ある業界の価格破壊を標榜する経営者から、民間にも責任があるという意見が出されたのは、悪いジョークにしか思えなかった。
デフレ対策は日銀がより責任をもつ。デフレとは一般物価の持続的な下落だ。一般物価とはマクロ経済の対象であり、ミクロではない。マクロ経済に対しては、マクロ経済政策が対処するが、マクロ経済政策の中心が金融政策であるのは世界の常識だ。だから、物価とか(物価と表裏一体である)失業率とかは、金融政策が一義的な責任をもっている。
デフレについては、モノとカネの相対的な関係で、モノがカネより相対的に多いとモノの希少価値が下がるという中学、高校生でも理解できる話。経済現象は複雑だが、モノとカネの関係で7割方は説明つく。この基本を外したら、デフレ対策にならない。
このロジックをさらに詳しく説明したものは、過去の本コラムにある。日本のマネーの伸び率が世界的にみるとビリで、それでデフレになっていることは、2012年6月14日付けコラム、マネーを増やすとなぜ予想インフレ率が高まり、実質金利が低下して、円安・輸出増加、設備投資増で有効需要を高めるのかは、2010年12月2日付けコラムを参照してもらいたい。
政府・日銀の共同文書の奇妙さ
こうしてみると、10月30日の日銀金融政策決定会合と同時に出された政府・日銀の共同文書の奇妙さがわかる。
政策決定会合の中身が事前に漏れても、市場は何の反応もなかった(やや失望のほうが多かった)のは、各方面で報じられているので、ここでは触れない。
こうした共同文書は、相互主義になって余計なモノが入りやすい。政府は日銀の親会社なのに、「政府は…金融緩和を…期待する」となってしまう。もちろん、この背景には中央銀行の独立性があるわけだが、今の政府・日銀はこの独立性の意味をはき違えている。独立性とは、目標の独立性ではなく、手段の独立性なのだから、「期待する」ではなく「要請する」、「指示する」でなければならない。もし、それができないなら日銀法を改正して制度を変えるまでだ(独立性については、2010年12月2日付けコラムを参照)。
また、政府の「日本再生戦略」(平成24年7月31日閣議決定)が共同文書にあるが、それはデフレ脱却のためなのか。デフレ脱却に一番近かった小泉内閣では、役人の予算作りのための「成長戦略」はなかった。ビジネスのわからない役人が作る「成長戦略」で、デフレ脱却できると思っているのか。
さらに、規制緩和も含まれているが、規制緩和は供給力を増やすので、デフレ対策とは真逆になる可能性もある。長期的には成長力の一助なので、デフレやインフレにかかわらず推進すべき施策であるが、デフレ対策と位置づけると逆効果にもなる。
失敗例を正当化しかねない共同文書
中身についても奇妙だ。白川方明日銀総裁は「両者の共通している認識を改めて確認するものだ」というが、新味がないばかりか、これまでの失敗例を正当化しかねない問題がある。
経済・物価情勢の展望(物価レポート)が同時発表されているが、白川方明日銀総裁の任期は来年4月までなので、2012年度のインフレ率が、白川総裁の最終成績になる。今回のレポートとこれまでのものから、2012年度の消費者物価総合指数(除く生鮮食品)対前年比の見通しを見ると、4月時点は+0.3%、7月時点は+0.2%、現時点は▲0.1%と下方修正を続けている。2月のインフレ率の「めど」の1%に近づくのではなく、逆に遠ざかっているのだ。これでは、1%の「めど」の達成にやる気がないと思われても仕方ない。
なお、来年度の2013年度についてみると、4月時点は+0.7%、7月時点は+0.7%、現時点は+0.4%とこちらも下方修正になっている。
なお、白川総裁時代の物価見通しをみてみよう。常に見通し時点では、威勢よくインフレ率は高くなるといっている。これは、横軸に各年度、縦軸にインフレ率を表示した「白川日銀の物価見通し(1)」をみると、どの見通しも右上がりになっていることがわかる。
ところが、横軸に見通し時点を入れて、縦軸は各年度のインフレ率が見通し時点の違いでどのように変化するかを表示すると、「白川日銀の物価見通し(2)」となって、威勢のいい見通しは逆に結果として、デフレのままであることがわかる。両者はまったく同じデータである。日銀の発表する物価レポートでは、「白川日銀の物価見通し(1)」が強調されて、マスコミはそれを報じるので、あえて同じデータで違う見方を提供した。
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一方、共同文書では、「日本銀行としては、引き続き「1%」を目指して、強力に金融緩和を推進していく」とされている。政府文書で「引き続き」という文言は、これまでの政策に間違いはないという確認だ。物価レポートが示すように「めど」からも外れてきたが、今後もこれを「引き続き」やっていくということに他ならず、悪い冗談のような話だ。
こうした悪例の踏襲を正当化する文書は、日銀法改正を政府から言い出せなくする効果がある。これで少なくとも政府から日銀法改正を持ち出す芽が摘まれたことは確かだろう。もっとも、政権交代すれば話は別なので、政権交代の争点になるかもしれない。
もし前原誠司経済財政担当相が功を焦り文書を望んだとすれば、これは失敗作である。日銀にとっては、これまでの失敗を政府も認めているということで、大勝利の共同文書だろう。
http://diamond.jp/articles/print/27172
公務員給与、地方が国を逆転 6・9%上回る、財務省試算
(2012年11月1日午前2時00分)
2012年度の地方公務員の給与水準が、国家公務員を6・9%上回り、9年ぶりに逆転するとの財務省試算が31日、明らかになった。東日本大震災からの復興財源を捻出するため、国家公務員の給与を12年4月から2年間、平均7・8%削減しているため。財務省は地方自治体も給与を国並みに自主的に下げるよう求め、地方交付税を減額したい考えだ。
国家公務員の給与削減後、国と地方の水準を比較した政府試算が示されたのは初めて。財務省は11月1日の財政制度等審議会の分科会で試算を公表。早ければ12年度分から地方交付税を減額する方針を提案し、出席する委員の理解を得たい考えだ。
関連記事
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地方公務員給与指数が25年連続下落 【2000年4月29日】
地方公務員給与も削減へ 最大10%、6千億円捻出
義務教育負担金の削減検討 公務員給与減額で財務省
地方交付税1・5兆円別枠廃止 財源難で財務省方針
民主の公約実施で106兆円に 13年度予算、財務省試算
http://www.fukuishimbun.co.jp/nationalnews/CO/main/638821.html
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