http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/254.html
Tweet |
【第198回】 2012年10月25日 週刊ダイヤモンド編集部
払底Xデーは11月27日
迷走する赤字国債法案の行方
臨時国会の開催をめぐり、与野党が互いの腹を探り合っている。選挙制度改革、社会保障制度国民会議の設置と並び、最大の開催目的が赤字国債を発行するための特例公債法案の成立だ。これがいまだに成立していないため、11月末にも新規国債の発行がストップし、国債価格が不安定化しかねない状況に直面している。
10月11日、野田首相と自民党の安倍晋三総裁の顔合わせが実現。だが、17日時点で臨時国会開催のめどは立っていない
Photo:The Asahi Shimbun/gettyimages
「11月27日には底を突く」。日本国債の年間発行計画を立てる財務省理財局が今、こんなシミュレーションを始めている。
これは、毎月約10兆円ペースで安定的に新規発行している長期国債の入札が、早ければ11月末にもできなくなるというもの。11月中の入札予定を見ると、1日(2.3兆円)、8日(0.4兆円)、13日(2.5兆円)、15日(1.2兆円)、そして27日(2.7兆円)となっている。
ところが、このままでは27日の入札額が2.7兆円に達せず、12月4日(2.3兆円)に至っては「入札を延期せざるを得ない状況」(齋藤通雄・理財局国債企画課長)というのである。
理由は単純だ。2012年度予算(90.3兆円)の4割強を担う赤字国債を、いまだ1円たりとも発行できずにいるからである。今年度の赤字国債の発行根拠となる法案、通称「特例公債法案」が未成立のままなのだ。
財政法は原則、国の歳出を税収と税外収入で賄うと定めている。ただし、将来世代に残せるような資産に充てる場合には、「建設国債」の発行のみを認めている。
だが周知の通り、これだけでは社会保障費などを支払えない。そこで毎年、財政法の“特例”として法案を通した上で、赤字国債を発行する立て付けになっている。
この法案が通らず、財務省は国債発行計画の変更を余儀なくされた。赤字国債以外の借換国債、建設国債、復興国債、財投国債を前倒しで発行し、何とか毎月の発行ペースを維持しているのが現状なのだ。だが赤字国債以外の弾も、いよいよ11月末には払底する。
国債価格が不安定化
付きまとう格下げリスク
「月内に臨時国会を開催したい」
何としても法案を成立させようと、民主党の輿石東幹事長は10月15日、自民党、公明党との幹事長会談でそう要請した。
先の通常国会では、特例公債法案は野党の反対に遭い、史上初の廃案となった。自公側は、野田佳彦首相の「近いうちに国民に信を問う」との発言を盾に、衆議院解散を法案賛成の条件としているのだからあきれる他ない。
一方、民主党側も「できる限り長く政権を維持したい」(政府関係者)との思惑から、早期解散を避けようと臨時国会の開催を先延ばししてきた体たらくだ。
これに不満を隠せないのが地方自治体や国立大学。財務省は予算執行を抑制して資金繰りに奔走、地方交付税交付金の一部を支払い延期にしている他、国立大学への3カ月ごとの運営交付金も9月から半分以下に抑えている。
ただ、目下のところ最も懸念されるのは、「国債価格が不安定化する」(市場関係者)ことにある。
11月までに法案が成立しなければ、一時的に国債が発行されない空白期間に陥る。需給は逼迫し、おそらく「いったんは国債価格が上昇する」(森田長太郎・バークレイズ・キャピタル証券チーフストラテジスト)とみられる。
しかし、その後の発行ペースは倍増しかねない。仮に臨時国会で法案が成立しなければ、12月だけでなく1月中も発行できない可能性が高い。法案成立は次の通常国会の開催時期である来年1月末以降となるからだ。
となれば、総額38.3兆円の赤字国債を、2〜3月のわずか2カ月で一気に消化することになる。こうして今度は国債価格が下落、金利が上昇して金利変動によるリスク量が増大する。そうなれば国際的な金融規制上、金利リスク量を一定以下に抑えなければならない銀行は、国債をある程度売却せざるを得なくなる。
国債の売りを呼ぶ懸念はこれだけではない。米格付会社スタンダード・アンド・プアーズが、来年4月までの日本国債の格下げ見通しを示している。昨年、政治リスクを勘案して米国債を格下げした実績があるだけに、法案を通せなければ「格下げの可能性は極めて高い」(末澤豪謙・SMBC日興証券チーフ債券ストラテジスト)。
こうした状況に痺れを切らした政府・与党からは、「赤字国債法案と予算の一体成立を」(細野豪志政調会長)との声も出始めた。だが、これも的はずれだ。
約6兆円の建設国債に対し、“特例”であるはずの赤字国債40兆円弱を前提にした予算が1997年度以降、常態化しているのが本来、異常なことだからだ。
そもそも財政法が定める建設国債も、道路や橋が将来世代に残せる資産とは必ずしも言える時代ではない。建設国債・赤字国債といった分け方自体、時代遅れなのだ。
仮に予算と一体で無条件に国債法案を通すなら、建設国債も赤字国債も総じてシンプルに「借金」と捉え、これを毎年減らす法の縛りが同時に必要だ。“特例公債”の意味をもう一度、考え直す好機である。だが、そうした議論はおろか、臨時国会の召集すら不透明な状況が続く。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)
http://diamond.jp/articles/print/26651
第40回】 2012年10月25日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
貿易赤字拡大は、国債消化に悪影響を与えない
財務省が10月22日に発表した貿易統計によると、2012年度上半期(4〜9月)の貿易収支は3兆2190億円の赤字となった。これは、11年度の上半期に比べて9割の増加だ。半期ごとの額では、過去最大の赤字だった。
これによって、経常収支の黒字も縮小する。これまで巨額の経常収支黒字を記録してきた日本経済に、大きな変化が生じていることは間違いない。
しかし、これをめぐる議論の中には、誤りに陥っているものもある。その一つとして、国債消化との関連に関するものがある。それについて以下に述べよう。
外国からの借金で
国債を買うこともできる
「経常収支の黒字が縮小すると、国債消化が困難になる」との見方がある(注1)。この見解はかなり一般的であり、大新聞の記事にも見受けられる。
しかし、この見方は誤りだ。
誤りである第1の理由は、「経常収支黒字が縮小しても、資本収支の黒字(海外からの資金流入)が増えれば、国債の国内消化になんら問題はない」ということだ。
これは決して机上の空論ではない。事実アメリカは、2005年から07年まで、年間7000億ドルを超える巨額の経常収支赤字を記録してきた(図表1参照)。05、06年の経常赤字の対GDP比は、6%近くにもなった。それにもかかわらず、国債消化に格別の支障は生じなかったのである。
拡大画像表示
GDPの6%と言えば、日本で言えば約30兆円になる。気が遠くなるほどの額だ。これだけの赤字を記録しながら、なお国債消化に悪影響はないのだ。
それは、アメリカへの資金流入が続いているからである。そして、それは、アメリカに産業力があり、「国債は将来確実に償還される」という信頼を投資家が持てるからである。
日本でもそうである。2011年に経常収支黒字は減少したが、資本収支の黒字は増大した。とくに短期資金の流入は大幅に増加した。これについては、この連載ですでに見てきた。
「外国人の国債保有比率が高まると、国債市場は不安定化する」という議論があるかもしれない。確かに、南欧諸国では、ユーロ危機によって外国人投資家が国債を売却したため、金利が高騰した。しかし、資金流入が続く限りにおいては、国内投資家であろうと外国人投資家であろうと、関係はない。
(注1)本稿で議論しているのは、「仮に経常収支黒字が減少した場合に何が起こるのか」ということである。これと関連して、「貿易収支赤字の拡大は経常収支を赤字にするか?」という問題がある。
必ずしもそうはならない。なぜなら、経常収支は、貿易収支だけで決まるのではないからだ。この他に、サービス収支と所得収支がある。後者は、年間12兆円程度の巨額の黒字だ。だから、仮に12年度の貿易収支が6兆円程度の赤字になったとしても、経常収支が赤字になることはない。
事実、図表1に示すIMFのWEO(世界経済予測)の予測では、日本の経常収支は、2016年までGDP比で2%台の黒字である。
金融取引と実物取引を
混同した議論
「経常収支の黒字縮小が国債消化を困難にする」との見方は、つぎのようなロジックによるのだろう。
「経常収支の黒字が減ると、外国から入ってくるおカネが少なくなる。だから、国債の購入に回せる資金が少なくなる。そのため、国債の消化に困難が生じる」(ある新聞の記事は、「経常収支の悪化が続けば、国の借金である国債を買い支えてきた国内の資金が減り、長期金利の上昇につながる可能性がある」と説明していた)。
このロジックは、金融取引と実物取引を混同している。あるいは、金融取引が存在することを忘れている。
外国との取引には、貿易や所得収支などの実物的なものの他に、投資や貸し借りなどの金融的なものもある。だから、経常収支が赤字でも、外国から借りることができれば、国債消化に支障は生じないのである。
譬えて言えば、つぎのようなことだ。
ある家計が、店舗の売り上げの一部で国債を買っていたとしよう。ところが、売り上げが減少してしまった。国債購入を減らす必要があるだろうか?必ずしもそうではない。借入を増やせば、これまでと同じように国債購入を続けることができるのだ。
もちろん、「外国が貸してくれるか?」という問題はある。アメリカの経常収支赤字の持続可能性は、10年以上前から経済学者の間のホットな論争テーマだった。そして、金融危機という形で大問題を起こしたことも事実だ。
しかし、「海外からの投資を呼び寄せられる能力は、経常収支黒字で決まるか?」といえば、そうとはいえない。
図表1に示すように、イタリアの経常収支赤字は、対GDP比で見て、2009年までは、アメリカより低かった。また、2010、11年には対GDP比が−3%台となるものの、IMFの予測では、2012年以降は−1%台に戻る。それにもかかわらず、ユーロ危機で資金が流出し、国債利回りが急騰しているのである。
他方で、金融危機でそれまでの半分以下にまで縮小したアメリカの経常収支赤字は、12年には、5000億ドルの水準に近づきつつある。そして、図表1に示したIMFの予測では、今後さらに拡大し、2017年には再び7000億ドルの水準に近づこうとしているのだ。
では、これによって投資資金は、アメリカから逃げ出しつつあるだろうか?現実にはまったく逆であって、アメリカには資金が流入し、国債利回りは歴史的な水準まで低下しているのである。
こうしたデータから見る限り、経常収支と国債の消化可能性の間には、ほとんど関係がないと言ってもよいだろう。
経常収支黒字減と
整合的なのは、財政赤字増
実物的な関係だけを見ても、経常収支黒字減と財政赤字減が必ず対応するわけではない。実際には、経常収支黒字減と財政赤字増が対応することが多いのである。これについて、以下に説明しよう。
国民経済計算の恒等式として、次式が事後的には必ず成り立つ(注2)。
家計黒字+企業黒字=経常収支黒字+財政赤字 (1)
いま、何らかの理由で、経常収支黒字が減少したものとしよう。家計黒字と企業黒字が不変であるとすれば、財政赤字は前に比べて増加する。つまり、経常収支黒字減と財政赤字増が対応するのである。「経常収支の黒字が減少し、同時に国内の国債消化が増大している」という事態は、十分ありうるのだ。
これは、上で述べた通常の見解(経常収支の黒字が減少すれば、国内の国債消化が困難になるから、財政赤字は縮小しているはずだ)と逆なので、間違いのように思われるかもしれない。
しかし、そうではないことを説明しよう。
(1)仮想例1:政府が海外製品の購入を増加
つぎのような仮想例を考えよう。
いま政府が、歳出を拡大し、そのすべてを海外製品の購入に充てたとする。
すると、(1)式右辺の経常収支黒字は縮小する(輸入が増えるため)。他方で、財政赤字は同額だけ増える(財政支出が増えるため)。したがって、右辺の和は不変に留まる。
この変化で左辺には影響が及ばないと考えられるので、左辺は不変だ。したがって、(1)式のバランスは保たれることになる。
(2)仮想例2:世界不況による輸出と企業利益の減少
上の例は、若干人工的と思われるかもしれない。そこで、もう少し現実的な例をあげよう(09年頃に起こったことは、これに近い)。
世界的な不況で日本の輸出が減少したとする。これにより、経常収支黒字は減少する。
しかし、輸出減のために企業の利益が減少し、税収が減少すれば、財政赤字は拡大する。
企業の黒字は「企業貯蓄マイナス企業投資」であるが、これがどう変化するかは、さまざまな場合がある。
まず、利益の減少は貯蓄を減らすだろう。減少額は税収減少額より大きい可能性が高い。この場合には、左辺で企業黒字が減少し、右辺で経常収支黒字が減少して、財政赤字が拡大し、両辺がバランスする。
企業の利益が減少した時、企業は投資を減らす可能性もある。それによって企業黒字が不変に留まる場合もある。この場合には、左辺が不変。右辺で経常収支黒字が減少して、財政赤字が同額だけ拡大、ということになる。
どちらの場合にも、経常収支黒字の減少と財政赤字拡大が対応している。
(3)仮想例3:投資の減少
07年頃までの日本で進行していたのは、およそつぎのようなことだった。
投資が減少して、企業黒字が増加した。他方で、輸出の増加により、経常収支黒字は増加した。また、税収の減少により、財政赤字は増加した。
仮想例2も3も、財政赤字は拡大だ。しかし、経常収支黒字は、2の場合は縮小で、3の場合は増加である。
このように、財政赤字の変化が同じであっても、経常収支の変化は逆である場合もある。どうなるかは、他の変数の増減による。
(4)仮想例4:家計の外国製品購入増
もう一つの例を挙げよう。
いま何らかの理由により、家計の消費が従来より増え、それはすべて外国製品の購入に向かったとしよう。
この場合には、(1)式において、経常収支黒字が減少する(輸入が増えるため)。他方において、家計の黒字が同額だけ減少する(消費増により貯蓄が減るため)。
この場合には、経常収支の黒字縮小が、財政赤字には何の影響も与えないことになる。
以上で見た(1)式のバランス関係を、譬えて言えば、つぎのようなことだ。
これまで店の収入の一部を貯金していた。しかし、店の収入が減った。しかし、親の生活費を削減すれば、これまでと同様に貯金を続けられる。
(注2)この式は、ある一定期間を区切った場合に、財やサービスの生産と支出の間のバランスを示したものである。
なお、この式で「黒字」とか「赤字」と言ったのは、各部門の貯蓄と投資の差である。ここではわかりやすいように日常用語を使ったが、国民経済計算の制度部門別資本調達勘定では、「純貸出/純借入(資金過不足)」と呼んでいる。
なお、この式が示すのは、事後的な恒等関係であって、因果関係ではない。したがって、これが示すのは、ある項目の増減と他の項目の増減の対応関係にすぎない。例えば、「経常収支黒字減と財政赤字増は整合的」ということである。経常収支黒字が減少した時、何が生じるかという経済的な変動を、(1)式から予測することはできない。
重要なのは、日本の
産業力を強めること
以上で述べたことは、「理論的には意味があるとしても、現実にはあまり重要な意味を持たない」と考えられるかもしれない。「重要なのは財政赤字を減らす政治的な努力であり、国債消化が経常収支縮小でどうなっても関係ない」と論じられるかもしれない。
しかし、そうではない。
「貿易収支の赤字が膨らむと、国債消化が困難になる。だから、輸出振興に励もう」という考えに結びつきかねないのだ。しかし、この考えは間違いだ。
火力発電へのシフトがあるかぎり、貿易収支の赤字は避けられない。他方で、財政赤字の拡大を阻止するのも、現実には極めて困難だ。
こうした状況下で必要とされるのは、国内の産業力を強めることだ。ここで重要なのは、その産業は、必ずしも輸出を増やすものでなくともよいことだ。将来の所得を支え、国債の償還と利払いを支障なく行なえる条件を支えるものであればよい。そうした信頼があれば、外国から安い金利で借りられる。このような経済を構築することこそが重要なのである。
http://diamond.jp/articles/print/26840
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。