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【第79回】 2012年10月24日 高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
「世界大恐慌」の足音が聞こえる
財政緊縮が変わらない限り金利トレンドは転換しにくい
――高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミスト
世界の「変調」「金融緩和オリンピック」
「政局化」は継続
先月の当コラムで筆者は、9月以降のストーリーラインを3つのポイント、すなわち、@「世界経済の変調」、A「金融緩和オリンピック」、そして、B「世界の政局化」とした。
この1ヵ月を振り返り、その潮流は足もとでも着実に続いている。
確かに、「金融緩和オリンピック」の結果、世界の金融市場は安心感を取り戻し、株価の戻しも見られた。しかし、実物経済については、製造業を通じた輸出連鎖が着実に経済の収縮を強める「恐慌」的な状況が続いている。
しかも、世界中が「政局化」するなか、一時的であれ、世界的に「決められない政治」状況になってしまっている。こうした状況は、1930年代の世界大恐慌の環境に類似する不安を持つ。
バランスシート調整のなか、財政緊縮により「変調」がより強まり、取り巻く環境要因については、1930年代の世界大恐慌の足音が聞こえるような状況にある。
10月のアノマリーは金融市場の変動、
世界大恐慌も10月だった
10月という月は、かつて歴史的にも金融市場で大きな調整が起きたことが多かった月であり、米国株式市場でもアノマリーとされることが多い。
なかでも、1987年10月19日のブラックマンデーは有名で、今年10月19日(金)はそれから25周年だった。25年前の当時、まだ駆け出しの債券ディーラーであった筆者は、当初、なにが起こったかわからなかったが、そのとき、初めて「質への逃避」という概念を知ったことを思い出す。
もっと歴史を遡れば、世界大恐慌の始まりも10月とされる。世界大恐慌は、一般的には「暗黒の木曜日」とされる1929年10月24日の米国株式市場の大暴落が起点とされるが、その背景に1920年代の信用拡張の反動となるバランスシート調整があった。
その後、1931年にはオーストリアの大銀行・クレディアンシュタルトの倒産など、金融面での波及が生じた。当事、欧米各国は景気対策を掲げつつも、金本位制の制度のなかで金の流出を抑えるべく、実際には緊縮財政がとられ、経済政策上、本来は景気対策が求められながらも実際にはブレーキを踏むことになった。
その結果、世界貿易は縮小し、商品価格下落もさらなる悪循環を招いた。各国は自国の生き残りに向けた対応策として、第一に通貨切り下げを行ない(金本位制離脱のケースが多かった)、すなわち、価格戦略で市場を確保するか、第二に、ブロック化による政治外交面で市場を確保し、対外黒字の確保を志向した。
これらの対応は、一国独自の生き残り戦略としては「正論」であっても、各国の対応が合わさって生じた「合成の誤謬」がスパイラル的な恐慌状況を招いた。
バランスシート調整に伴う縮小均衡の状況下にあって、世界中が限られた市場の確保を強硬な手段で行なったことに伴う摩擦・緊張が軍事面に波及し、それが第二次世界大戦の悲劇を招いたとされる。
世界大恐慌と
今日の環境の類似性
下記の図表は、1929年以降の世界大恐慌の頃の環境と、今日2007年年以降、欧米が1930年代以来の深刻なバランスシート調整にある環境とを、比較したものである。
今日の環境は
世界大恐慌のデジャヴ(既視感)
言うまでもなく、今日の環境は、先の図表に示した世界大恐慌がもたらした反省をベースにして生まれた体制である。それだけに、第二次大戦後のシステムは、様々な面での安全装置が組み込まれている。
それは、具体的には自由貿易を掲げる世界的体制、金融危機への対処を行なうIMFなどの国際機関の存在や各国中央銀行の協調的対応などである。
しかし、それでもなお、底流を流れる環境要因に類似性、すなわちバランスシート調整下での財政緊縮に主要国が同時に陥った点が存在するのではないかとの論点が、今月のメッセージである。
しかも、先月も議論した問題意識は、「世界が政局化」し、「決められない政治」になっているのではないかという点にあった。
2007年以降の環境を改めて振り返ろう。大恐慌以来、最大規模のバランスシート調整を迎えた欧米は、2007年のサブプライム問題、翌年のリーマンショックと金融面の危機を迎えた。
それから4年程度が経過した今日、80年前と同様の信用拡張の反動で、依然バランスシート調整に伴う景気低迷状況にあり、景気回復を志向しつつも、債務危機に対処して財政緊縮のブレーキを一斉に踏む状態にある。
その影響が時間差をもって、貿易を通じて世界経済に実物経済を通じた収縮の悪循環をもたらしているのは、1930年代に類似する。各国中央銀行は金融緩和を競うが、それは本音では、自国通貨切り下げ競争で市場を確保する行為に等しい。
しかも、各国の対応が国家間のフリクションを強める構造も1930年代に類似する。結局、今日の「金融緩和オリンピック」は、1930年代の通貨切り下げ競争に類似し、また「政局化」は、1930年代の各国のフリクションが生じた状況に類似する。足もとに見られる現象は、1930年代の状況の「デジャヴ」でもある。
世界中が財政緊縮に
向かう合成の誤謬
ここで大きな問題は、世界第一の経済地域である米国と第二の地域である欧州において、双方ともに財政緊縮の流れが半ば規定路線化し、さらにそれまで財政を拡大させてきた中国、日本も、財政拡大余力が限られる状況にあることだ。その結果、世界全体の需要が大きく収縮する不安がますます強まっていることである。
すなわち、欧米各国が個別に財政再建、財政緊縮を行なうことがまさに「正論」とされても、世界中が財政緊縮を行なうことの「合成の誤謬」が生じるリスクが、本論における大恐慌の不安を招く要因になる。
世界的な「合成の誤謬」の罠から逃れるには、今のところ米国財政の転換しか考えられ得るシナリオは見当たりにくい。しかし、そのような方向には今のところ、現在の政治情勢上は進みにくい環境にあるように見える。
米国では「財政の崖」が話題になるが、米国大統領選の後、世界が問題を先送りすれば、2013年には大きな不安が訪れると?のではないか筆者は強く懸念している。
日本にとって
市場の確保は生命線
歴史を振り返れば、日本は1930年代に欧米各国がブロック化するなかで、市場確保に制約をかけられたことで大きな悲劇を招いた。今日、東アジアは減速する世界のなかでも、相対的には最も高い経済成長を続ける地域である。
その地域での摩擦で貿易縮小を招くことは、80年ぶりの危機にあるなか、日本にとって極めて残念なことだ。貿易に大きく依存した日本ほど、市場の重要さが大きい国はない。20世紀の教訓を熟知する日本は、新たな平和体制を確保することが危機脱出策になる。
財政政策の方向が
金利トレンドの鍵に
最後に、債券金融市場について考えてみよう。今や世界全体としていかに需要をつくり出すかが真剣に問われている。IMFはようやく最近になって、世界が財政緊縮に一斉に向かうことのリスクを議論するようになってきた。
しかし残念ながら、10月初めに46年ぶりに東京で行なわれた世銀・IMF総会では、まだそこまでの議論は尽くされていないように見える。また、財政のフレームワークが大きく変わらない限り、金利トレンドは大きく変わりにくいのではないか。
今後の金利予測には、政治的観点から財政の方向がどうなるかをつかむ必要がある。http://diamond.jp/articles/print/26762
【第248回】 2012年10月24日 加藤 出 [東短リサーチ取締役]
FRBのMBS購入の裏にある米労働市場の深刻なミスマッチ
米国で雇用の「2極分化」が顕著になっている。ニューヨーク連銀のエコノミストが今月発表した論文は、米国における業種を、ハイスキル(法律家、コンピュータ開発者、金融業など)、アッパー・ミドルスキル(教師、建設業、保安業など)、ローワー・ミドルスキル(業務補助員、工場従業員、販売、運輸など)、ローワースキル(ビル管理、食品調理など)に分類して、1980年から2010年までの変化を分析している。
その30年間の雇用者数の増加率は、ハイは100%、アッパー・ミドルは46%、ローワー・ミドルは20%、ローワーは90%だった。その結果、雇用におけるシェアは、ハイが19%から25%へ上昇、アッパー・ミドルは21%で横ばい、ローワー・ミドルは47%から38%へ大幅減少、ローワーは12%から16%へと上昇した。実質賃金上昇率は、ハイが37%、アッパー・ミドルは0%、ローワー・ミドルは7%、ローワーは17%だ。
このように、中間のミドルスキルの労働者は現在厳しい状況にある。「2極分化」の主因は、IT化による技術革新とグローバリゼーションにある。ニューヨークでは、80年に4人に1人が補助業務(秘書やアシスタントなど)をしていたが、今は15%未満に減った。法律事務所は以前は弁護士1人に秘書を1人雇っていたが、最近は部屋やフロアに1人である。また、製造業の工場やサービス産業の一部業務が、賃金の安い新興国へ「オフショアリング」されてきたことも、米国のミドルスキルの雇用に打撃を与えてきた。
ローワースキルの、「オフショアリング」できない仕事、IT化しにくい仕事は増えているものの、ミドルスキルの人がそちらへ転職すると年収は減少する。所得格差を表す米国のジニ係数は、この30年間で0.42から0.47へ上昇した。一方で、IT関連のハイスキルの職種は、人材が逼迫している。しかし、ミドルスキルの人々は、そちらにはなかなか転職できない。深刻なミスマッチが存在している。失業率が適正な水準に下がるにはまだ時間がかかるだろう。
バーナンキFRB議長は、上記のような構造問題が横たわっていることを認識しながらも、9月に、雇用情勢が改善するまでMBS(住宅ローン担保証券)を毎月400億ドル購入し続けると決定した。構造的な失業者を早期に吸収するには、バブル的な経済ブームを起こすしかない。しかし、それは危うさをはらむ。むしろ、前掲論文が言うように、採用と求職のミスマッチに対処するために、地道に教育制度の改革を行っていくことが正論と思われる。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)
http://diamond.jp/articles/print/26780
【第205回】 2012年10月24日 成瀬順也(大和証券チーフストラテジスト)
逆風続く世界景気と日本株
今年末か来年初めに底打ちか
グローバル景気敏感株。日本株がこう呼ばれるようになって久しい。しかし、現在ほどネガティブな意味で捉えられる時期はなかっただろう。
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IMF(国際通貨基金)・世界銀行総会が48年ぶりに東京で開催された。総会に合わせて発表されたIMF世界経済見通し(10月)は、前回7月予測から2012年が0.2ポイント、13年が0.3ポイント下方修正された(表参照)。10年の5.1%成長、11年の3.8%成長から、今年は3.3%成長へ減速するとの予測である。来年も3.6%成長への回復にとどまる。
懸念されていた通り、欧州と新興国の下方修正幅が大きい。今年については南欧、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの下方修正が目立つが、来年については独仏やASEAN(東南アジア諸国連合)まで下方修正幅が大きくなっているのが今回の特徴だろう。
下方修正が局地戦からグローバルに広がってきた格好で、日本株低迷の要因を端的に示唆している。しかし、今年の日本の成長率予測は、くしくも米国と同じ2.2%。にもかかわらず、日経平均は09年以来の安値目前、ニューヨークダウは史上最高値目前と、日米の株価は大きく二極化している。
ニューヨークダウの海外売上高比率は5割近い。日本株同様、グローバル景気敏感株のはずである。何が違うのか。
大きな違いはニューヨークダウのほうが海外売上高比率の高い業種が分散していることだろう。ファイザー、ジョンソン・エンド・ジョンソンといった薬品・医療品や、コカ・コーラ、マクドナルドといった飲料・外食など景気変動に左右されにくい業種でも海外売上高比率は5割を超える。つまり、グローバル「景気敏感」株に限らず、景気変動の影響を受けにくいグローバル「ディフェンシブ」株も数多く存在する。
結果として、米国株は為替感応度も相対的に鈍い。日本株ばかりがグローバル景気の鈍化と自国通貨高というダブルパンチを食らいがちである。
当面、日本株への逆風は収まりそうにない。米国では「財政の崖」懸念に対処する形でQE3(量的緩和第3弾)が発動された。日本銀行が10月30日の金融政策決定会合で追加金融緩和に踏み切ることを期待しているが、円高阻止が精いっぱいで円安へのトレンド転換は期待し難いだろう。最大の輸出先である中国の景気が低迷しているところに、通関や入札での日本企業はずしが加わった。
とはいえ、13年には米国の「財政の崖」の解決と住宅市場の本格回復、中国の景気ソフトランディングと日本企業はずしの緩和が期待できるだろう。後から振り返れば、12年末か13年初めが、グローバル景気と日本株の大底である可能性が高いのではないだろうか。
(大和証券チーフストラテジスト 成瀬順也)
http://diamond.jp/articles/print/26781
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