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(回答先: 中国は米国の最大債権者の地位失う公算-日本が急速に追い上げ 独首相がギリシャのデフォルトの可能性を否定、スタンス軟化 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 16 日 13:55:38)
【第110回】 2012年10月19日 姫田小夏 [ジャーナリスト]
中国市場から撤退したい、
だが退くに退けないその訳とは
上海では今、日本人が集まれば「今後どうする?」の話題で持ちきりだ。相互に情報収集に余念がない。
10月半ば、上海で日系企業が組織するある定例部会があったが、異例の高出席率を記録した。言うまでもなく、最大の関心事は「今後の身の振り方をどうするか」の決断だ。少しでも多くの情報を掴もうと、多忙な駐在員らが馳せ参じた。
日本総領事館員による中国の新政権についての解説が終わると、質問が続いた。
「習近平政権は反日強硬派になるとも聞くが、今後の日中関係への影響は?」
「尖閣諸島を国有化すれば日中間がどういうことになるか、シミュレーションぐらいはできていたはずだと思うが、そもそも国有化は何か別の目的があってやったことなのか?」――。
苦境に立たされた日系企業経営者の、やり場のない感情が見て取れる発言が相次いだ。
中国がWTOに加盟した2001年以降、日本の企業が堰を切ったように、ここ上海に押し寄せた。上海市に進出している日系企業数は8000社を超えるというが、今回の暴動を機に事業縮小もしくは撤退、という日系企業も出始めている。
部品加工メーカーのX社もそのうちのひとつだ。日本人経営者Aさんは「工場を閉めることも本気で考えている」と語る。
中小企業の同社は、7年前に上海に進出した。事業も軌道に乗ったここ数年は毎年50%増の売上高の成長が見られるようになった。ようやく累損を解消し「さあこれから」という矢先に、「尖閣国有化」で出端を挫かれた。「石原都知事は一体、何を考えているのだ…」という恨み節も出る。
他方、「反日デモはひとつのきっかけを作ったに過ぎない」というコメントもある。
土木用の計測機器を販売するY社は、これまで中国の不動産開発需要とともに大きく売上を伸ばしてきたが、不動産価格に対する政府の抑制策と、それがもたらす市場の停滞で発注が途絶えてしまった。不動産市場が今後どのタイミングで回復に転じるのか、その兆しがなかなかつかめない。
中国の事業環境がめまぐるしく変化していく中で、反日デモが決断を下すきっかけとなった企業もあるはずだ。逆に反日デモが背中を押したとも言える。「進出コンサル」ならぬ「撤退コンサル」は、今静かに繁盛しているとも聞く。
悪しき横並び精神!?
腰の重い日本企業
しかしその一方で、楽観論も健在だ。
さすがに05年、10年、12年と反日デモを過去3回も経験すると、“慣れ”も出てくる。反日デモを「ひとつの周期性を伴う中国リスク」だと捉え、「あえて戦略の変更はしない」と断言する企業もある。
だが、そんな日本企業に対して、「日本企業は腰が重い」(外資系金融)という意見もある。「日本企業は横並び。非常時を感じ取り、リスク回避の舵取りを自らできる経営者は少ないのでは」(同)とシビアだ。
腰の重い日本企業こそ、逃げ時を逃がすのでは、という危惧もある。「まずい」と直感したら、トカゲの尻尾切りよろしく、さっさと夜逃げや鞍替えをする中国企業のような機敏さは、日本企業にはないようだ。
ましてやここに拠点を築き、資材調達ルートも開拓し、なおかつ大事な客先が存在すれば、「ここから動きたくない」というのが本音だろう。コツコツと築き上げたビジネス環境だけに、そう簡単に見切りをつけられるものではない。
中国に市場は
「今までどおりに」あるか?
「やはり中国には市場があるから」というコメントも、いまだよく聞く。だが、注意しなければならないのは、確かに過去には市場はあったかもしれないが、「この先はあるかどうかわからない」ということだ。
中国政府は日本なしでやっていく覚悟を国民に呼びかけ、「大国中国が日本から得るものはない」と豪語する勢いだ。また、13億人の国民も9月10日以降、国が支配するテレビや新聞報道の洗脳作戦によって「すっかり別人になってしまった」かのようだ。
上海の小売市場では日本ブランドが抵抗なく手に取られている側面もあるが、BtoBビジネスの現場では「商売への影響」を指摘する日本人経営者が増えた。
僅差であれば日本ブランドは却下される、そんな雰囲気が醸成されるようになったのだ。常日頃から、モノはよくても価格競争力がないと言われた日本ブランドだったが、それがいっそう中国で闘いにくくなった、というわけだ。
「オンリーワンの技術」ならば、日本ブランドだろうと何だろうと国籍を問わず買ってもらうことも可能だろうが、中国で競争に晒されている日系企業にとっては、これからさらに厳しい時代が始まる。実際「以前のようには売れなくなっている」と嘆く経営者もいる。
「13億の市場など幻想に過ぎない」とは、かつてから言われ続けてきたことである。取引先に莫大な金額の袖の下を渡し、行政指導を名目にした“たかり”にも耐え、顧客のクレームにひたすら持ち上げなだめすかし…。そんな “地雷で三方を埋められた”かのような中国ビジネスは、日本人に攻略できるほど甘くはないと言われ続けてきた。
その上、「尖閣国有化」をきっかけに、最後の砦とまで言われた「日本ブランド=信頼の象徴」にまで傷がついてしまった。
中国のテレビは連日、黒服を着た日本のヤクザのイメージ画像を流し、「これが日本の右翼、すなわち日本は右翼だ」と刷り込んでいるのだ。右傾化する日本はファシストの悪党――。少し前までは「日本人は軍国主義」、反日デモでは「帝国主義」、そしてついに今や「ファシスト」呼ばわりだ。日本企業や日本人の信用はガタ落ちとなった。営業活動は今や“マイナスからの再スタート”だとも言える。
それでも踏みとどまる
ある日本人経営者の本音
日本人経営者A氏が、中国との決別を「本気で考えている」ことは前述したが、「なかなか最終的な踏ん切りがつかない」とも打ち明ける。A氏はその理由を「中国人従業員たちが気がかりだ」と語る。
たった30人のメンバーだが、そこには家族同然の感情がある。彼らはいつも目を輝かせて技術指導を受け、「社長、社長」と慕ってくる。そんな従業員を経営者は食事に連れて行ったり、上海の自宅に招いたりもする。
反日デモについても朝礼で取り上げた。「君たちはどう思う?」――。こうした非常時でも、タブーなく互いの考え方を言い合える関係を、7年かけて築き上げた。
毎年秋には恒例の社員旅行がある。今年は反日デモが落ち着いた10月に、浙江省の海沿いの観光地に連れて行った。従業員は四川省や安徽省、江西省など内陸からの出身者が多く、彼らにとっては生まれて初めて見る海だったという。彼らは「もう二度と海を見ることもないだろうから」と言って、秋の海にはしゃいで飛び込んで行った。
「なんだかんだ言っても、俺には彼らがかわいくてたまらない。そんな中国人従業員を捨てられるものか」とAさんはいう。
反日デモで揺れる日本企業だが、Aさんは社員旅行でそんな思いを強くしたようだ。
余談になるが、最近はタクシーに乗車するやいなや、運転手から「おまえは日本人か」という尋問を受ける。彼らは「日本人はファシストだから嫌いだ」というのだ。中国政府の刷り込みの賜物だから運転手個人を憎む気にはなれないが、こちらもひとこと言わせてもらう。
「日本の企業には、中国から撤退するかどうかを真剣に考えているところも多い。でも、最後に踏みとどまるのは『中国人従業員を失業させたくない』から。日本人経営者には、中国人従業員を『本当の家族』だと思って大事にしている人もいる。あなたにもそういう側面を知ってほしい」
日中関係を今、唯一支えているのが、経営者と従業員の間のほんの小さな“相思相愛”関係だ。だからこそ、日本人経営者には“その先の答え”が出せないでいる。中国政府には怒り心頭だが、そう簡単には撤退できない別の感情がそこにはある。
http://diamond.jp/articles/print/26537
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