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【第3回】 2012年10月19日 西川敦子 [フリーライター]
道路が陥没し、首都高や地下鉄は危険地帯に!?
老朽化したインフラが“モンスター”になる日
日本の人口は今、何人くらいか、君は知っているかな。2010年の国勢調査を見てみるとだいたい1億2806万人。でも、この人口はこれからどんどん減ってしまうんだって。
国立社会保障・人口問題研究所では、将来の人口について3つの見方で予測を立てている。このうち、「中位推計」――人口の増減が中程度と仮定した場合の予測――を見てみると、2030年には1億1522万人、さらに2060年には8674万人となっている。これは、第二次世界大戦後の人口とほぼ同じ規模だ。
どんどん人口が減り、縮んでいく日本の社会。いったい私たちの行く手には何が待ち受けているんだろう?
――この連載では、高齢になった未来の私たちのため、そしてこれからの時代を担うことになる子どもたちのために、日本の将来をいろいろな角度から考察していきます。子どものいる読者の方もそうでない方も、ぜひ一緒に考えてみてください。
野村総合研究所
社会システムコンサルティング部長 主席研究員 神尾文彦さん
インフラ産業コンサルティング部 グループマネージャー 宇都正哲さん の話
危険地帯と化す「首都高速」
「地下鉄銀座線・新橋〜浅草区間」
かみお・ふみひこ(写真左)
野村総合研究所 社会システムコンサルティング部長 主席研究員。1991年、慶応義塾大学経済学部卒業。社会、都市インフラ分野における国・自治体等の政策提言、官民連携ビジネスの振興に関わる。主な著書に「社会インフラ次なる転換」(東洋経済新報社)「業界再編Now&Future」(日経BP)「2010年の日本」(東洋経済新報社)など。
うと・まさあき
野村総合研究所 インフラ産業コンサルティング部スマート・シティ&鉄道・不動産・建設・住宅グループマネージャー。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。日本大学経済学部非常勤講師。都市、インフラ、水ビジネスに関する政策調査、政策制度設計から、事業構想・事業戦略の策定、さらに投資戦略、投資案件DDなどをトータルにサポート。
目が覚めたら水道の蛇口をひねり、清潔な水で顔を洗う。熱いシャワーを浴びて着替え、いつものようにバスで駅に着くと、通学電車は時刻表通りに到着。電車は橋を渡り、高速道路の下をくぐり抜けて、スムーズに安全運転を続ける――。
僕たちにとっては、ごくあたりまえの朝の風景だ。蛇口から流れ出す水が赤さび入りだったり、シャワーのお湯が出なかったり、なんてことはそう考えられないし、橋や道路がいきなり崩落する、などということもありえないよね。
だけど、2030年頃にはそんな平和な日常が一変している可能性が高いんだ。というわけで、今回は目前に迫った「インフラ・クライシス(公共設備の危機)」について考えてみることにしよう。
今年9月、国土交通省は「首都高速の再生に関する有識者会議」という会議の結果を発表した。
首都高速道路は、東京都の区部やその周辺を走る高速道路だ。路線の長さは300kmあまり。東京オリンピックの開催に向けて1959年から建設が始まり、1962年、京橋から芝浦をつなぐ4.5qがまず開通した。
それからちょうど50年。立派だった道路も、「老朽化(ろうきゅうか)」が問題となり、こうして会議が開かれるまでになった。ちなみに、老朽化というのは、ものが古くなって役に立たなくなることだよ。できてから40年以上が経つ部分は首都高速道路全体の約3割。それだけに、あちこち「ガタ」が目立つようになっている。橋の脚の部分やコンクリートのひび割れなど、補修が必要なヵ所は、2009年時点でなんと9万7000ヵ所にのぼる。
にもかかわらず、実際のところ補修工事はあまり進んでいない。周辺のビルオーナーなどの地権者が多すぎて、補修の了解を取りまとめるのが難しいんだよ。巨額な費用も障がいになっている。
とはいえ、1日約100万台もの車が通る道路だ。このままほうっておけば、大きな事故が起きるかもしれない。ましてや首都直下型地震が起きようものなら、それこそ大惨事につながりかねない。
地下鉄の老朽化も深刻だ。内閣府のシミュレーションによれば、巨大地震で浸水が起こりやすい地下鉄路線のひとつが、東京メトロ・銀座線の青山一丁目〜浅草駅区間。なかでも、浅草〜上野駅間の2.2kmは1927年に開通しており、日本でもっとも古い地下鉄区間にあたる。老朽化が進んでいるだけでなく、防水工事が不十分なヵ所もあるから、水が流れ込んで来たら一大事だ。
もうひとつ心配なのが水道。道路の下を通っている下水道は、普段は目に見えないけれど、じつはかなり老朽化が進んでいるんだよ。国土交通省によれば、水道管破裂などによる道路陥没(かんぼつ)はすでにあちこちで起きており、平成22年度にはおよそ5300ヵ所が陥没した。上水道にも危機が迫っている。2006年には広島県呉市で送水トンネルの中の壁が崩れ、水道水の供給がストップ。約7万2000人の住民と7企業が被害をこうむった。
こんな具合に、全国のインフラはあちこちほころびが出てきている状態だ。これからさらに老朽化が進んだとき、日本は人口減少時代のただ中にあるはず。そのとき、僕たちはボロボロのインフラをどう立て直せばいいのだろう――。
1人当たりのインフラ維持費が
年間30万円に!?
現在のインフラが整備されたのは、人口が爆発的に増えていった戦後の高度経済成長期だ。とくに東京や大阪といった大都会は、地方から大量の働き手がどんどん流入していた。こうした人たちのため、最初は都市を中心に上下水道や電気・ガスなどが敷かれた。続いて、地方の道路や鉄道、橋などが整備され、全国に交通ネットワークがはりめぐらされていった。
国がインフラ整備を進めたのは、人々の生活を向上させるためもあったけれど、もうひとつ大事な目的があった。“経済の活性化”だ。「工事などが増えればそれだけ仕事が生まれ、企業も働き手もうるおい、国が豊かになるはず」と当時、多くの人たちが考えていたんだよ。
だから、国や自治体は道路、空港、公共賃貸住宅、上下水道などにじゃんじゃんお金を注ぎ込んだ。その後、80年代前半や90年代後半に抑え気味になった時期はあったけれど、基本的に2002年頃まで、日本はインフラにお金をかけ続けたんだ。
過去に使ったこれらのお金の合計額を「社会資本ストック額」っていうんだけど、2003年時点で、日本の社会資本ストック額はすでに698兆円。今や700兆円をゆうに超えている、と考えられている。国民一人当たり、ざっと600万円に相当する額だ。
たしかに、インフラの整備は日本の経済成長に一役買った面もある。1980年代くらいまでは、社会資本ストック額が増えると、1人当たりGDP(国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の合計を、国民1人当たりで計算した額)も増えていた。ところが1990年代くらいから、その方程式が成り立たなくなってしまった。社会資本ストックが増加しても、1人当たりGDPは伸びるどころか逆に落ち込む、というジレンマにおちいってしまったんだ。
さらに悪いことに、国や自治体は借金をしてインフラ整備を行っていた。つまり、社会資本ストックが増えた分、借金もかさんでしまったというわけ。
重い借金を背負った状態では、高速道路や上下水道に「ガタ」が来ていても、そう簡単に補修にお金をつぎ込めない。さらにこの先、人口が減り、税金や公共料金、通行料などによる収入が減れば、インフラの維持はますます難しくなってくるはずだ。
心配なのは、団塊ジュニアと呼ばれる世代が定年を迎える2040年前後。国立社会保障人口問題研究所によれば、その頃、日本の人口は1億人を割っている計算だ。人口が減り、働き手が少なくなれば、経済的な発展もそう望めない。また、この頃、年金制度が維持できているかどうかもあやしい。つまり、国も国民もジリ貧状態でオンボロになったインフラを支えなければいけないことになる。
国土交通省の推計によると、たとえば島根県の場合、人口1人当たりのインフラ維持管理費は、2030年には年間30万円にのぼるそうだ。
日本全国に
「立ち入り禁止」の札が立つ日
人口減少の時代、インフラ・クライシスを回避する方法はあるんだろうか?
考えられる解決法はいくつかある。ひとつは、思い切ってサービスの質を落とし、メンテナンスの費用を節約することだ。
さすがに、水道管のメンテナンスを手抜きされるのは困るけれど、「道路の点検の回数を減らす」といった節約方法なら実践できそうだ。日本の道路は、路面がきれいに清掃されており、段差や傷みも少ない。欧米と比べても高い水準を維持している、と言われているよ。
でも今後は、多少、石ころが落ちていたり、わだちがあったりしても目をつぶる。そのかわり、ドイツで行われているように、クルマの制限速度を低くするんだ。事故が起きないようにね。
第2の方法は、腹をくくり、一部の公共料金については値上げを受け入れること。たとえば水道料金。日本の水道水は水質がよく安全で、そのまま飲むことができる。ところが、料金は国際的に見てかなり安いんだ。内閣府の調査によると、日本の料金を100とした場合、イギリスは118、フランスは133、ドイツに至っては193という水準だよ。
国連では、「所得に対する水道料金の比率は5%以内が適正」としているけれど、たとえ水道料金が今の倍になったとしても、平均所得の5%を超えることはないに違いない。ちょっとつらいけれど、質を落としてほしくないサービスについては、ある程度の負担増はやむをえないだろうね。
そして、もうひとつの解決策が、「ダウンサイジング」だ。今のインフラのシステムや規模を小さくして、維持にかかるお金を減らす方法だよ。
たとえば、冬、雪が積もる山間部の道路は閉鎖されていることがあるよね。同じ要領で、通行量の少ない道路や橋は思い切って閉鎖してしまう。1台でも通る車があれば、補修、補強工事が必要になってしまうから。
すでに全国には腐食や破損が進み、全面通行止めになった橋がいくつもある。最近の例では、千葉県君津市の君津新橋、島根県東出雲町の出雲郡大橋側道橋など。こんな具合にあちこち閉鎖していくと、なんだか日本中に「立ち入り禁止」の札が立つことになりそうだ。でも、人口が減っていく以上、これもやむをえないだろう。
人の住む場所をダウンサイジングする、という方法もある。最近、注目を浴びているのが「コンパクトシティ」。郊外、山間部の住宅地に分散したインフラを中心部に集め、コンパクトな大きさにおさめた街のことだ。こうした街にみんなが集まって暮らせば、効率的にインフラの維持管理を行い、行政サービスを届けることができる。すでに富山市などで行われている方法だよ。
もちろん、これらの方法を実践するのは簡単なことじゃない。その道路や橋がなければ、生活が成り立たないという人たちもいる。また、「住み慣れた土地を捨てるなんて……」と移住を拒否する人も少なくないだろう。少数意見にもきちんと耳を傾けつつ、よりよいダウンサイジングの方法を探っていかなきゃね。
古いインフラが“モンスター”に?
ミネアポリスの悲劇
今、僕たち大人が一番してはいけないのは、インフラが老朽化していく現実から目をそらしてしまうことだ。
2007年、米国ミネアポリスで高速道路の橋がミシシッピ川に突如、崩落するという大事故が起きた。死者は13名、負傷者は80名以上。老朽化が進んでいることを知りながら、改修を先延ばしにしてきたあげくの悲劇だった。
このことからわかるように、人々の暮らしを豊かにしてきたインフラは、ある日突然、凶器に変わりうる。だから、ちゃんと「タイムマネジメント(時間の管理)」をしていくことが必要なんだ。放置したままだと、ますます老朽化が進み、更新の費用が高くついてしまう。そうなったら、古いインフラはいよいよ手がつけられない“モンスター”と化してしまうだろう。
今の大人たちが考えなければいけないのは、2030年、2040年の君たち、そして自分たちにとって何が本当に大切なのか、ということ。そのうえで、残すべきインフラと、切り捨てるべきインフラを見きわめなければいけない。場合によっては、料金の値上げやサービスの低下に耐える必要もあるだろう。
これまで日本は世界一の「インフラ大国」だった。お金をかけて立派なインフラを作り上げることが、豊かになることだとみんなが信じていた。でも、今後は違う。ただ立派なものをたくさん作ったって意味がない。より規模が小さくてお金のかからない、効率のよいインフラ、「こうありたい未来」を実現してくれるインフラこそ、豊かなインフラと言えるんじゃないだろうか。
http://diamond.jp/articles/print/26538
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