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(回答先: 日本再生へ「貯蓄から投資」 いびつな年金制度、抜本改革にはどうすればいいか?「消費税」 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 19 日 00:23:07)
上昇を続ける金価格、金投資を始めるのは今からでも遅くない?
世界的なヘッジファンドが金買いに転じている
2012年10月19日(金) 豊島 逸夫
「金はバブル」と切り捨てたはずの著名投資家ジョージ・ソロス氏。ところが米国証券取引委員会(SEC)への四半期運用報告(通称13F)で2012年4〜6月期に金ETF保有を倍増させていたことが明らかになりました。同じくヘッジファンドの雄、ポールソンも、昨年後半は保有する金ETFの売却を続けていたのですが、ソロス氏と同時期に再び買いに転じています。
さらに最大級ファンドのレイ・ダルドも自ら金保有を推奨し始めました。金市場の流れが再び変わってきたことを現場では感じています。
スイスやNYでの金取引経験をもとに本音記す
この連載シリーズでは、私のスイス銀行チューリッヒ外国為替貴金属部やニューヨーク金取引所での長い体験を元に、現在は独立系だからこその、ポジション・トークなしの本音で、金市場の実態や金から見た世界経済などを書き綴っていきます。日経新聞電子版ではマネー面アクセスがトップ3にランクインしている筆者コラム「金のつぶやき」と併読されると、金市場についてさらに理解が深まるかと思います。
連載第1回目となる今回は、金価格が高騰を続ける中、金投資に関心を持ち始めた方向けにQ&A方式で解説をすることにしました。いずれも、私が講師をつとめる講演会で、個人投資家の方からよく受ける質問です。
Q:金価格高騰が続いていますが、ずばり、金は今、買いでしょうか。
A:「今日買って、年末に売れば、儲かるか?」という意味であれば、我々プロでも「分かりません」。私自身、スイス銀行やNY金取引所で、外為貴金属トレーダーとして毎日投機的な売買に従事していました。市場では「チューリッヒの子鬼」などと言われたものです。
12年間の勤務で3000回は相場を張りましたが、結果はざっくり1600勝1400敗。平均8勝7敗ですね。まぁ、勝ち越せるのがプロというところでしょうか。
しかし、個人投資家が長期投資として金を買い、ドルコスト平均法に徹すれば、今は買いだと思います。
金価格の推移
1985年以降、米ドル供給量が緩やかに増加したが、金価格は下落傾向だった。99年~流れが変わり上昇へ。米国の量的緩和第一弾に連動して金価格も一気に上昇した。
Q:ただ、今回の欧州経済危機では、金も株も「リスク資産」とみなされ、同時に売られたりしていますよね。
A:はい。市場の流動性が枯渇するクレジット・クランチ(信用収縮)が起きると、金よりキャッシュが選好され、換金売りが顕著になります。リーマン・ショック直後にも同様の現象が見られました。
しかし、キャッシュを求める流動性選好の金売りが一巡すると、値頃感から中国・インドの民間そして公的部門から長期保有の買いがジワジワ出て、ほどなくリーマン・ショック前の水準を回復して長期上昇トレンドに戻りました。
Q:例えば子どもの教育費を作るといったような長期的な観点から金投資をしたいのですが、何をしたらよいと思いますか。
スイス、中印も子どものため金買う習慣
A:子どもの教育費は長期的に作るものですから、やはり毎月一定額ずつの積み立て、金なら「純金積み立て」がお勧めです。
実は私の第2の故郷は福島県で、毎週末滞在して地元・ラジオ福島の番組にも出ているほどなのですが、ラジオ福島の山地美紗子アナウンサーから純金積み立てに関する良いエピソードを聞きました。山地さんは3人兄妹なのですが、お父さんが20年間も毎月純金積み立てをしてくれていたそうです。20年も続けているので相当たまっており、大学進学の際に、少しとり崩してくれたそうです。
この話を聞いて、まさに金投資の王道だ!と思いました。金を積み立てていたおかげで大学進学の資金になったというエピソードからは「有事の金」の役割を感じます。
また、金は単なる財産であるだけでなく、「心理的価値(センチメンタルバリュー)」があります。親が子どもに対する思いを金に託してコツコツためていく。金ならではの心温まる話だと思いました。 スイスの家庭にも子どものために金貨をためておく習慣がありますし、インドや中国など新興国では嫁ぐ娘に金を持たせるんですよ。
同じ金を買うのでも、自分自身の財産を殖やそうと思うと、どうしても欲が出てしまい、短期的な価格変動が気になってしまいます。一方、子どもの教育費のため、将来のための金投資は、短期的な儲けではなく長期的な資産形成が目的です。コツコツ続けていく純金積み立ては、その目的にぴったりの方法だと思いますよ。
Q:金を買ってみようと思うのですが、損をするのが心配です。金の値段は下がらないのでしょうか? 今後の見通しを教えていただけますか?
A:もちろん、短期的には値段が下がることもあるでしょう。ただ、長期的に下がり続けることは極めて考えにくいです。歴史的に見ても、金は2000年、ドルは200年、ユーロは10年。時代を超えて価値を維持してきました。古代エジプト時代から、金は富の象徴だったのですから。金から見ると、ドルもユーロも円も「新参者」ですよね。
金の総量はオリンピックプール3.5杯分程度
欧州でも新興国でも、親が子どもの将来のため、金をコツコツ買う習慣がある。日本でも「純金積み立て」で教育資金を作る例がある。
写真:ワールド・ゴールド・カウンシル
その金の価値は、そもそも希少性にあります。有史以来、人類が採掘した金は、腐食しないので、地球上のどこかに必ず残っているのですが、その総量は、オリンピックプール3・5杯分しかありません。しかも、数億年の自然現象の中からできた希少天然資源なので、「錬金術」という言葉はありますが、人間が勝手に作ることはできません。
一方、ドルや円は紙幣ですから、輪転機を回せば、いくらでも刷ることができます。そんなこと、まさかと思われていましたが、現に今、主要国は輪転機をフル稼働してお札を刷っているのですよ。
各国中央銀行の、量的緩和政策や銀行に対する流動性注入で金融市場に巨額の流動性が供給され、紙幣の価値の希薄化が進行する今、「刷れるドル、刷れない金」の差が強く意識されています。
また金はハイテク分野での用途も近年増えています。なんと、妊娠検査にも金が使われているのです!
豊島 逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所代表。一橋大学経済学部卒。国内銀行、スイス銀行外国為替貴金属ディーラー、ワールド ゴールド カウンシル(金の国際機関)日本代表を経て現職。金関連の著作も多く、日経電子版、ブログなどでの情報発信も旺盛。機関投資家向けにはブルームバーグ端末Toshima&Associates(コード GLD)。ツイッターは@jefftoshima
仕事の問い合わせはjefftoshima@hyper.ocn.ne.jp
豊島逸夫の「金脈探訪」
元ワールドゴールドカウンシル(金の国際機関)日本代表である金(ゴールド)取引のプロ、豊島逸夫氏が、金相場や金にまつわるトピックを、市場や世界中の国々を舞台にレポートします。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121012/238001/?ST=print
日韓、スワップの切れ目が縁の切れ目
真田幸光教授と激動のアジアを「金融」から読み解く(下)
2012年10月19日(金) 鈴置 高史
通貨スワップの切れ目が日韓の縁の切れ目――。前回に引き続き、真田幸光・愛知淑徳大学ビジネス学部学部長と鈴置高史氏が「自国通貨の安定も、日米ではなく中国に頼り始めた韓国」を深読みした(司会は田中太郎)。
現金化しにくい債券に化けた外貨準備
日本と韓国の間のスワップ総枠700億ドルのうち、80%強を占める570億ドル分が10月末で打ち切られることが決まりました。しかし、韓国の為替市場も株式市場も動揺していません。
鈴置:韓国メディアは2つ理由をあげています。まず、外貨準備が3100億ドルまで増えたうえ、一部の格付けが日本よりも上になるなど韓国経済の健全性が増していること。次に世界的な金融緩和で韓国に外貨資金が流れ込んでいることです。
まず、前者ですが、相当に怪しい理屈です。外貨準備が多いと言っても、その相当部分が高金利だけどすぐには現金化しにくい債券に化けているからです(「日韓スワップ打ち切りで韓国に報復できるか」参照)。
格付けが高くてもデフォルトは起きる
真田幸光(さなだ・ゆきみつ)
愛知淑徳大学ビジネス学部・研究科教授(学部長) 1957年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒。81年、東京銀行入行。韓国・延世大学留学を経てソウル、香港に勤務。97年にドレスナー銀行、98年に愛知淑徳大学に移った。97年のアジア通貨危機当時はソウルと東京で活躍。2008年の韓国の通貨危機の際には、97年危機の経験と欧米金融界に豊富な人脈を生かし「米国のスワップだけでウォン売りは止まらない」といち早く見切った。
後者の資金流入に関しても楽観材料とは言いにくい。ホットマネーが大量に入りこんでいるに過ぎないのです。何かの拍子にこれが一気に流出すれば打撃はより大きくなる。「山高ければ谷深し」です。
真田:韓国の場合、ある民間金融機関が他の金融機関から借りたオーバーナイトのカネ、つまり超短期のドル資金の返済が滞る危険性が依然、疑われています。
そして、格付けとは国債のデフォルト・リスクのことであることに注意下さい。韓国の国債の格付けがいくら良くなっても、民間のデフォルト・リスクが下がる――つまり国全体のリスクが減る――わけではないのです。
サムスン電子や現代自動車が世界で快進撃し、貿易収支も今のところ黒字です。日本よりも強い、というイメージがあります。
鈴置:イメージはイメージに過ぎません。韓国はまだ、資本輸入国――つまり、政府や企業が外から外貨を借りて経済を回している国です。世界的に金融が収縮し、ドルの貸しはがしが起きれば、真っ先にその対象になります。
真田:企業で例えれば、売上高は伸ばしているものの資金繰りが苦しく、いつ手形が落とせなくなるか分からない――黒字倒産の可能性が高い会社、ということです。
危機時に円建て債を発行したPOSCO
実際、その懸念から1997年も2008年も、2011年にも貸しはがされたわけです。ことに韓国は超短期ドル資金の多くを欧州系金融機関に頼っていました。現在のように、欧州で金融収縮が起きれば、その影響をもろに受けます。
韓国の金融機関がいかにドル資金不足に直面しているか、という証拠があります。韓国企業は世界でプロジェクトを積極的に立ち上げている。韓国の金融機関にとって逃せない商機なのに、十分なドル資金を供給できない。そこで日本の金融機関に協調融資を依頼するケースが増えています。
鈴置:韓国で通貨危機が起きかけた昨年秋も、POSCOが日本で円建て債券を急きょ発行していました。外貨に関して韓国の金融機関には頼れなかった、ということと思います。
韓国の金融システムは韓国紙が主張するほどに盤石ではない、ということですね。では、もう一度聞きます。日本がスワップ打ち切りを発表したというのに、なぜ、韓国市場が揺れなかったのでしょうか。
真田:それは中国です。「韓国が困れば中国が助ける」と市場が見なし始めたからです。「日本からの570億ドル」が怪しくなった瞬間、韓国は中国に急接近しました。
ウォンの安定も中国頼みに、スワップ恒久化求めた韓国
鈴置:朴宰完・企画財政相は、中国と2011年10月に結んだ3600億人民元・64兆ウォンのスワップを発動して貿易決済に使おうではないか、と中国の金融当局に申し込んだのです。9月のことでした(「漁夫の利か『とばっちり』か――『尖閣』で身構える韓国」参照)。
ちなみに「日韓スワップ」は主にドルと韓国ウォンを交換しますが「中韓」は主に人民元と韓国ウォンの交換です。
韓国が中国製品の輸入代金を支払う際、ウォンを担保に中国政府から借りた人民元を充てれば、貴重な米ドルを使わなくていい。韓国の対中輸出額は全体の25%を占めていますから、これを完全に実施すれば韓国の米ドル=外貨繰りは相当に楽になります。
ただ、技術的に難しい点も多いので、すぐに実現できる話ではありません。日韓が神経戦を繰り広げる最中にリークされたところから「もし、日本がスワップを打ち切ったら中国に助けてもらうから問題ない。韓国が中国ともっと仲良くなれば日本は困るのではないのかな?」と日本を牽制する意図があったと思います。
真田:それより重要で実現性も高いのが、その後に朴宰完・企画財政相が中国に訴え始めた「中韓スワップの恒久化」です。現在の約束では中韓スワップは2014年10月に終了します。もし、恒久化できれば、韓国は外貨準備を3600億人民元(約576億ドル)分、未来永劫にかさ上げできます。
外貨の見返りは「ありとあらゆる情報」
私は、韓国が恒久化を求めるのは日本への牽制というよりも、本気で実現したいのだろうと思います。繰り返し指摘して来たように、韓国の外貨繰りは決して楽ではないからです。ただ、韓国にとって中国に牛耳られるリスクが一気に増します。
金融の世界では「おカネを貸す人」の力は絶大です。契約締結の過程で、どんな情報でも持ってくるよう「借りる人」に要求できるのです。
ドル不足に悩んだEUが中国におカネを貸してくれ、と頼んだ時、中国の温家宝首相が満面の笑みを持って受け入れたのを思いだして下さい。
中国は韓国に対し、こうした一種の縛りを掛けてくると思われます。もちろん、韓国から得た情報は韓国をコントロールする強い力の源泉になります。
日本は紳士的というか気が小さいですから、貸し手になってもさほどあこぎな要求はしません。しかし、中国――と言うか普通の国はカネを貸した国の奥深くに手を突っ込むものです。米国だって1997年の通貨危機をきっかけに韓国の資本市場に対する影響力を一気に強めたではありませんか。
鈴置:韓国は日本とのスワップが事実上なくなり、金融的なバックアップは中国に頼る時代を迎えます。メーンバンクだった銀行とケンカしてしまい、おっかない闇金融に資金繰りを頼みに行く中小企業を思いだします。
鈴置さんが2010年に書いたシミュレーション小説『朝鮮半島201Z年』では、米国、日本からスワップを結んで貰えず、デフォルトを起こしそうになった韓国を中国が助けます。ただ、中国もスワップを通じて外貨を貸すのではなく、急落した韓国の株式を買い占めることで外貨を供給します。韓国が困った瞬間を逃さず、中国は徹底的に弱みに付け込み、経済的な植民地にしていく……というシナリオでした。
中国が外貨準備の30%を使えば……
鈴置:「スワップ」ではなく、もっと強い支配力を持てる「買い占め」による救済、というアイデアは2008年の韓国危機の際に中国人のエコノミストと話していて気がついたのです。それを米国人のアジア金融専門家に話したら「十分に起こりうるし、起きたら困るシナリオだね」と苦い顔で答えたのが印象的でした。
もし、韓国総合株価指数(KOSPI)が1000前後に低迷し、ウォンが急落して1ドル=2000ウォンになれば、中国は外貨準備の3%で韓国の時価総額の30%を買ってしまえます。
真田:実際、2008年以降、中国は韓国の国債を大量に買い始めています。韓国も痛しかゆしです。国債を買ってくれるのはありがたいけれど、中国が大量に保有すれば、韓国に債権者として口を出してくることは間違いないからです。
鈴置:では、米国は、韓国を巡る日中間の「通貨戦争」をどう見ているのでしょうか。1997年の通貨危機の際、日本は韓国からドルを貸してくれと頼みましたが米国から「貸すな」と言われ、断りました。韓国と極度に関係が悪化していた米国は、韓国を国際通貨基金(IMF)傘下で改造しようと考えたから、と言われています。
2008年の通貨危機では韓国は米国に助けられました。今度は関係がよかったからです。ただ、米国がスワップを発動してドルを供給してもウォン売りはなかなかおさまらず、韓国が日本、中国ともスワップを結んでようやく止まりました。
韓国をかまう余裕のなくなった?米国
2011年の危機でも米国は韓国からスワップを頼まれたようですが、断ったと言われています。ただ、その代わりに日本に口をきいて、韓国とのスワップ増額に踏み切らせたと見る人もいます。これが今回、打ち切られた日韓間の570億ドル分です。
では、そのスワップを10月末に日本が打ち切ることに米国は反対しなかったのでしょうか。中国が韓国への影響力を増す契機にするのは間違いないというのに。
真田教授(右)と筆者
真田:「日王への謝罪要求」など韓国の日本への非礼に関しては、米国も相当に驚き、韓国を叱ったと言われます。日本の面子を考えれば、日本に「韓国とのスワップは続けろ」とは言えなかったのでしょう。
日本に突き放され、中国に引き寄せられる韓国。その韓国を中国がどう料理するか――。米国は中国の出方を確かめているのかもしれません。あるいは韓国のことを考える余裕など、もう、なくしているのかもしれません。金融だけとっても自国や欧州の問題で手いっぱいだからです。
米国の影響力が絶大であったとされるIMFでさえも「ドルへの反乱」が起きかけました。「国際基軸通貨をドルから特別引出権(SDR)に変えよう」と画策する専務理事が登場したのです。ニューヨークで奇妙な事件が起きて突然辞めることになりましたが……。いずれにせよ、韓国や朝鮮半島は米国にとって、当面は「どちらでもいい問題」に格下げされつつあるのかもしれません。
韓国の「新思考外交」、軍事に続き金融でも
鈴置:確かに、過去3回の韓国の通貨危機を見ると、金融面で米国の力が落ちて韓国への関与も薄れる半面、中国の力が急速に増してきたのがよく分かります。
「沈む太陽の米国、登り龍の中国」を見つめる韓国の心情は複雑です。中国に飲み込まれることを恐れながらも、中国に接近せざるを得ない。
韓国が「中国とのスワップ頼み」という恐ろしい身の上に陥ってしまったのは、李明博大統領の竹島上陸と「日王への謝罪要求」が原因でした。大統領がそうしたパフォーマンスに踏み切ったのは、退任後の逮捕を防ぐためと見る人もいます。「個人的な利益のために国益を大きく毀損した」といった批判は出ないのでしょうか。
鈴置:若干ではありますが大統領への批判はあります。ただ、日本人が想像するほどではありません。理由は2つです。まず、そういう文脈で大統領を批判すれば、日本を応援したと受け止められかねないからです。反日が国是の韓国で、それはまずいのです。
もうひとつは韓国が、米国から離れ中国に従う「離米従中」外交にすでに転じていたからです(「中国ににじり寄る韓国」参照)。その一足先に対日政策も「従中卑日」――中国の後ろについて日本を叩く――に転換していました(「『尖閣で中国完勝』と読んだ韓国の誤算」参照)。
米国から「日本と軍事協定を結べ」と要請されても「日本は謝罪と反省が足りないから」と断る。さらには中国に対し、日本と断った軍事協定を結ぼうと持ちかける(「“体育館の裏”で軍事協定を提案した韓国」参照)――これが2012年に顕在化した韓国の「新思考外交」です。
確かに、李明博大統領のパフォーマンスは個人的な動機に突き動かされたものだったと思われます。それだけ考えると、今回の日韓摩擦は偶発的に起きた事件に見えます。でも、背景にはこうした韓国の外交戦略の大転換があるのです。
すでに韓国が安全保障面で「日本ではなく中国と組む戦略」を鮮明にした以上、金融面で「日本よりも中国を頼む戦略」に転じても別段問題にはなりません。韓国人とって必ずしもうれしいことではないけれど、自然なことなのでしょう。
いずれにせよ、通貨スワップ打ち切りは、経済にとどまらず外交、安全保障面の“日韓の縁の切れ目”になっていくことでしょう。
鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)
日本経済新聞社編集委員。
1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121017/238179/?ST=print
「新興国参入」なんてもう古い!
南米主要国の消費市場を考える・その2
2012年10月19日(金) 邉見 伸弘
前回はブラジル以外の南米の国々として、チリとペルーを取り上げた。最終回の今回は、南米に残されたフロンティアと新たな世界地図の見方について語りたい。
危険な国から変貌したコロンビア
初めてコロンビアの首都ボゴタの空港に着いたのは早朝だった。ペルーのリマからボゴタに向かう便は早朝か夕刻に限られていたのだが、あえて早朝便を選択した。コロンビアというと麻薬・武装組織によるテロといった怖いイメージがあったからだ。夕闇の中で現地入りすることはどうしても避けたかった。私は緊張感をもって、空港に降り立った。
ところが現地に着いてみると、想像と違う。確かに発展は遅れているものの、“戦地”に赴くようなピリピリした空気はない。ベネズエラから来た人に聞けば、「ここは十分に安全ですよ」と言う。ベネズエラの安全度がどの程度か分からないが、「用心してください」といわれるよりははるかに安心だ。
コロンビアと言えば美女の産地として有名である。ミスユニバースのファイナリストの常連だ。「コロンビアは世界で最も脇見運転による交通事故が多い国。それはコロンビア美女が原因だ」というジョークも聞いたことがある。しかし実際の自分はというと、とても脇見をする気分にはなれなかった。頭の中でキーンという音が鳴りやまず、頭痛が止まらなかったからだ。それもそのはず、コロンビアの首都ボゴタは標高2600メートルを超える高地にある。八ヶ岳の頂上にいきなり来たようなものだから、高山病のような状態になるのもやむを得ない。
到着後、仮眠を取った後に市内を歩くことにした。時刻は夕方になっていた。滞在先はボゴタ中心地を離れた住宅街に立っていたので、至って普通の街並みだった。
ボゴタの旧市街チェントロにある商業エリアは、東京で言えば上野のアメ横や御徒町のような雰囲気だ。裸電球を垂らした露天や商店が数キロに渡って軒を連ねている。あたりは暗く、用心は欠かせない。少々足を伸ばしたところ、ライフルのようなものが売っていると思ったら、軍事基地の近くだった。安全になったとはいえ、他の南米諸国とは明らかに異なる緊張感がある。タクシーで狭い路地を通った際、前後を別の車で挟まれ、前の車から人が降りて来た時は、「しまった」と思った。ボゴタでは「プチ誘拐」が流行っているので十分に注意するように、とホテルのコンシェルジェから聞いていたのだ。「これか」と身構え、胸ポケットの100ドル紙幣を確認する。幸い、前の車がパンクしたとかで、何事もなく胸を撫で下ろしたが。
翌朝は、ショッピングモールをのぞいてみることにした。当地では有名なショッピングモール「CLOE COLUMBIA」 だ。品揃えは他の南米諸国に比べると少なく、種類も限られているが、休日ともなれば家族連れが思う存分ショッピングを愉しんでいる。以前、世界有数の危険地域と言われたとは思えない光景だ。
ボゴタ郊外のショッピングセンター「CLOE COLUMBIA」(左)とその店内
危険なイメージもあり、とてもビジネスができる環境とは思えなかったのだが、新興国の発展スピードは思ったより早い。ウリベ前大統領によるテロ撲滅作戦が功を奏し、他の南米主要都市と変わらない治安レベルとなりつつある。また、他の南米諸国と異なりハイパーインフレを経験しておらず、治安の改善に伴い外資の参入が進んでいる。今ではBRICs諸国に次ぐポテンシャル投資対象国として挙げられるまでに成長した。
コロンビアは、美人だけでなく、エメラルドやコーヒーなど資源の大産出国として有名だ。石油も採れる。ただ、日本への関心はそれほど高くない。中南米のデジタルテレビ放送の規格は多くが日本方式だが、コロンビアは欧州方式だ。現地の企業エグゼクティブによると、留学先に欧州を選ぶ人が多いそうだ。
また、商都が点在しているのも他の南米諸国との違いだ。同国にはボゴタを始め、メデジン、カリという3つの商都がある。いずれも高地に位置し、距離も離れている。コロンビアは、南米ではブラジルに次ぐ人口大国(4600万人)だが、大都市を攻略し、その後地方へ、といったビジネスモデルを展開するには悪路が多く、なかなか難しいと言える。
しかし、世界で資源争奪戦が繰り広げられる中で、この国との友好関係をもう少し深める時期に来ていると思う。コロンビアの変貌は横浜銀行頭取(元コロンビア大使)である寺澤辰麿氏による著作『ビオレンシアの政治社会史』に詳しいが、治安が改善し、急成長を遂げる経済の注目国として見るべきだ。欧米の企業に加え、中国や韓国企業が数多く進出する中で、日本企業の参入は劣後している。成長市場の取り込みが急がれる。
孤高の大国、アルゼンチン
ワールドカップではその名を聞かないことがないサッカー大国、アルゼンチン。牧畜や農業が盛んな国としても有名だが、経済的には南米危機もあり長く低迷している。
この国に入ってみると、実情がよく分かる。ブエノスアイレスは、南米のパリとして名高く、その街並みは優雅だ。
ブエノスアイレスの夜の街並み
街行く人々の顔立ちを見ても欧州系に近い。歴史的にはイタリアやスペインの移民でできた国だから、当然かもしれない。
ビジネスの観点で街を見ると、ブラジルやペルー、チリなどの周辺国のような活気は感じられない。車を見ても、10年落ちの日本車が平然と街中を走っている。高い自動車関税や鎖国的ともいえる経済政策が招いた結果を反映しているのだろう。むしろ、所得では大きく下回るペルーの方がアルゼンチンでは見かけない高級車を多く目にした。
ブエノスアイレス在住の実業家ニコラ氏は「クルマを見れば、僕たちの国がいかに閉鎖的か分かる。 普通にクルマを買ったら関税のせいで高くて仕方ないからね。でもこのトヨタ車、15年ものだけど良く走るんだ。僕たちのような国にはぴったりだ」と屈託なく語る。経済は停滞しているが、大学進学率や識字率は高い。しかしながら、労働市場がないので、皆他国に出稼ぎに出ているという。
アルゼンチンは二度の世界大戦を経験しなかった。 戦後は各国への農畜産品の輸出により、20世紀半ばまで南米で最も裕福な国であった。30年近くもの間、GDP成長率が6%を超える世界有数の経済大国で、1人当たりGDPで世界第6位という時代もあった。
しかしその繁栄は長くは続かなかった。ポピュリズム政治によって、労働者保護や社会保障の充実などといった政策が取られるようになると、経済は傾き始める。バラマキ政策などの結果、経済力が衰えていった国の代表例だとも言えるだろう。 ここまで転落した国はアルゼンチンしかないのではないだろうか。数年前から「日本のアルゼンチン化」という言葉を 耳にすることがあるが、アルゼンチンの歴史を他山の石とし、日本の経済政策も引き締めていく必要性を強く感じる。
アルゼンチンはワインのメドックの産地としても知られる。このワインを巡っては、日本でも有名なチリワインとの差が面白い。アルゼンチンのバーやレストランでは「アルゼンチンのメドックは世界最高だ。だからこれは自分たちで飲む。それで余ったものを輸出するのさ。チリは、最高のワインを輸出して、残ったものを自分たちで飲んだ。これがアルゼンチンとチリの違いだよ」といった話が語られる。両国で飲むワインは世界最大のワイン産出国フランスに負けず劣らず廉価で大変おいしいのだが、国民性と経済情勢の違いが分かる小噺になっている。
「鎖国」というチャンス
同国も日本に対しては、「クール」というイメージを持っているようだ。私は世界を回る際に、必ず現地で最もはやっている日本食店に行くことにしている。そこでの食のクオリティは、どれだけ積極的に海外の文化を取り込んでいるかのバロメーターになるからだ。
ある日、アルゼンチンで「OSAKA」という有名な日本食店に行った。夜は2週間先まで予約がいっぱいで、昼でも長蛇の列ができる店だ。店内をのぞくとよく分からない日本語が壁に所狭しと書かれている。
アルゼンチンの日本料理店「OSAKA」
定番の寿司や天ぷらを食してみたところ、ニューヨークやパリで食べるのと変わらないレベルだった。普段、日本人が来ることはほとんどないそうで、日本人の私は質問攻めにあった。ついには「出し巻き玉子の作り方を教えてくれ」と、厨房に招かれ、デモンストレーションをすることになってしまった。
普通、海外の日本食店では華僑系や韓国系の人が厨房にいることが多いが、ここでは現地のアルゼンチン人ばかり。興味深そうに話を聞いてくる。寿司の語源やら、日本文化の話をしているうちに数時間が経ち、気づけば店内の客まで輪に入っていた。彼らにとって日本は遠い国だが、その魅力は十分にあるようだ。「最後にはこの店に残らないか」というありがたいお誘いまで頂き、しばし人気者気分に浸った。もちろん“引き抜き“については お断りしたが、わが国にここまで興味を持ってくれるのはやはりうれしいものである 。
鎖国に近い経済政策を取っているアルゼンチンは、日本企業に残されたフロンティアと言える。というのも、1970〜80年代に積み上げた日系企業の進出実績が今でも色濃く残されている上に、対外的には鎖国的な政策を取っており、まだ手付かずの市場が残っているからだ。日本にとってはアルゼンチン、中でもブエノスアイレスは魅力的な市場と言える。
本連載で、ブラジルを筆頭にアルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビアなど南米の国々を見てきて共通して感じたことがある。それは、 国という単位では見えてこない「都市」のパワーだ。
国ではなく都市や地域の単位で市場を見る
通常「新興国参入」と言えば、カントリーリスクや1人当たりGDPといった観点から戦略立案をするケースが多い。筆者も経営コンサルタントとして日本の大企業の「新興国参入戦略」を支援し、世界中を回ってきた。しかし、そこで感じたのは、「新興国参入」という概念はもはや古いのではないか、ということだ。
これには2つの意味がある。1つ目は「新興国」の中には、現在猛スピードで発展を続け、近い将来「先進国」を経済規模で上回る可能性がある国があり、もはや「新興国」という概念では括りきれなくなってくるという点だ。
実際、中国は昨年、GDPで日本を超えた。これが、10年後になるとどうなるだろう。OECDの予想では、2013年にもGDPの規模で新興国が先進国を上回ると予想されている。またA.T. カーニーのGBPC(Global Business policy council)(PPPベース)の予想でも、世界経済に占めるG7諸国の割合は2010年の56%から2025年には、47%と低下すると予想している。無論、可処分所得で見ると新興国のそれは低いが、都市単位で見れば想像以上の発展があると考えるべきだろう。
もう1つの視点は「国」という概念で市場を捉えていては、出遅れる可能性があるのではないかということだ。つまり「都市」単位で市場を見ていくことの重要性である。
実際、ブラジルのサンパウロから空路で移動した場合、北西部のマナウスに行くより、アルゼンチンのブエノスアイレスに行く方がはるかに近い。都市同士を繋いだ市場展開はASEAN諸国でも見られる現象だ。シンガポールをハブにして、ジャカルタやクアラルンプール、バンコクに向かうという汎アジア都市市場戦略が当たり前になってきている。南米においても同様だ。チリのサンチアゴをベースにペルーのリマ、アルゼンチンのブエノスアイレス、コロンビアのボゴタへ向かうということが当たり前になりつつある。
そうなってくると、南米市場攻略の考え方も大きく変わってくる。物流戦略はもちろん、組織体制も変わる。今までであれば、全体を「米州」と一括りにして、米国から南米をコントロールしていた。激戦の米国での利益率が低い分、新興国の儲けを吸い上げ、米州として収支トントンとしているケースもあると聞く。東京の本社サイドが都市を軸に急速に発展する市場の実態を正しく把握できなければ、 投資機会をみすみす見逃すことになりかねない。
今こそ、新たな視点で新興国市場への取り組みを根本的に捉え直す時期に来ているのではないだろうか。現地経営を人任せにせず、まずはエグゼクティブが1日も早く、自分の目で見て、その実態を肌で感じることが必要だ。「百聞は一見に如かず」である。また、駐在経験の長いシニアによる「古きよき発展途上国の思い出」のレンズを外すことも重要だ。既成観念のカラを打破するのだ。
そのためには、本社幹部がリスクを取って、若手人材を送り込むことが重要だろう。日本の国内市場が少子高齢化で縮小する中、グローバル外需を取りにいくことは、日本企業の大きな課題だ。現地の語学や経済情勢をお勉強するよりも、まず飛び込み、感じる。そんな外向きの志向が大切になっていくだろう。
多くの日本企業のグローバル戦略が既に周回遅れとなっているのは否めない。それでも、円が相対的に強い今、積極的に海外投資を進めていくことを真剣に考えるべきだ。日本に残された時間はもうそう多くない。ラストチャンスといってもいいだろう。まずは速やかにキャッチアップすること。そして、日本独自のモデルを世界に展開し、そこでの成功体験を黒船方式で日本国内に逆に持ち込むくらいの大胆な発想が求められている。
邉見 伸弘(へんみ・のぶひろ)
A.T. カーニー マネージャー。慶応義塾大学卒業、仏ESCP EuropeにてMBA取得。国際協力銀行にて東アジア地域向けの投融資、プロジェクトファイナンス、アジア債券市場育成構想(ABMI)等に携わる。2006年にA.T. カーニー入社。 金融グループのコアメンバー。金融のほか、政府機関、総合商社、エネルギー、ハイテク業界もフィールドとし、新興国参入戦略やマクロトレンド分析などを得意とする。南米をはじめとする海外オフィスで現地メンバーを率いたグローバルプロジェクトにも数多く従事。
「遠くて近い」南米ビジネス必勝術
日本から遠く離れた南米には、地理的な距離はあるものの、歴史的な経緯もあって心理的な距離は近い国も多い。しかし、海外進出に力を入れる企業でも、南米で成功を収めている例はそれほど多くない。世界的コンサルティンググループで新興国への参入戦略などを担当する著者が、「遠くて近い」南米市場の実態をリポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121017/238187/?ST=print
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