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(回答先: EU首脳会議直前! 表面は「静か」、裏の事態は「深刻」 欧州債務問題長期化のからくりを解く 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 17 日 00:42:09)
第39回】 2012年10月18日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
ユーロ危機が日本のチャイナリスクを増やす
中国に対する日本の輸出が減少していることを前回述べた。10月13日に発表された中国の税関統計は、状況がさらに悪化したことを示している。すなわち、9月の日本の対中輸出は、前年同月比で9.6%という大幅な減少となった。
重要なのは、中国の総輸入額は対前年同月比2.4%増、輸出は9.9%増と、8月の減少から増加に転じたことだ。低調とはいえ、増加率はプラスである。その中で、日本からの輸入がこのように大きく減少しているのだ。
対中輸出の減少で、日本の鉱工業生産指数はさらに落ち込む可能性が高い。9月の工作機械受注額は、前年比3%の減少となった。
対中輸出は、現在の日本経済で最大の下振れ要因となっている。したがって、その減少がいかなるメカニズムで生じているのかを知ることが重要だ。
反日感情より
直接投資減が問題
一般に言われるのは、反日感情の高まりによる日本製品排斥や不買運動である。
確かに、中国国内での自動車の販売などには、この要因が大きく影響している。トヨタ、ホンダ、日産自動車の9月の新車販売台数は、前年同月比35〜48%という大幅な減少になった。
しかし、日本の対中輸出について言えば、これが減少の主要要因とは考えにくい。理由はつぎのとおりだ。
第1に、対中輸出の対前年比マイナスは、2011年4月からの現象だ(11年6、8、9月、12年5月だけが例外)。これは、反日の影響だけとは考えられない。それが影響していることは事実だが、それだけでないし、ましてや最重要かどうかは疑問だ。
第2の理由は、輸出の中身を品目別に見ると、減少しているのは原材料、部品、資本財(機械など)であり、消費者が直接に使用する最終財は落ち込んでいないことである。
12年8月の輸出額を前年同月と比べると、落ち込みが激しいのは、原材料(17%減)、一般機械(6.8%減)、自動車部品(11.7%減)などだ。他方で、最終消費財は、食料品41%増。飲料およびたばこ142%増、雑製品3.9%増、科学光学機械9.4%増、写真用、映画用材料4.3%増などとなっている。化学製品全体では7.4%減だが、最終財である医薬品は62.1%増だ。
仮に日本製品排斥であれば、最終消費財ほど減少が激しく、原材料、部品、資本財などはあまり落ち込まないはずである。ところが、実際にはまったく逆の現象が起きているのだ。
では、なぜ対中輸出が減少するのか?
これについての一つの仮説を前回述べた。それをまとめると、つぎのとおりだ。
ユーロ危機に伴う投資家の「リスクオフ」行動により、2011年秋以降、世界各国から中国への直接投資が急減速した。このため、中国輸出産業の投資が減速(あるいは減少)した。ところで、日本の中国に対する輸出は、中国の輸出産業に向けた中間財や部品が中心である。それらに対する支出が減少したため、日本から中国への輸出も減少した。そして、日本の鉱工業生産指数が対前年度比マイナスを記録するような事態になったのである。
輸出産業の設備投資減が原因であるために、中国全体の輸入と輸出が増えているにもかかわらず、日本からの輸入が減るのだ。
以下では、この現象についてさらに詳しく述べる。
日独に資金が流入し、
それに押されて対中投資が増えた
対中直接投資が減少した原因として、中国の賃金上昇が指摘されることがある。しかし、それが主たる原因であれば、世界各国からの対中直接投資は、一様に減少するはずである。
ところが、前回示した図表4において、2011年の日本とドイツの数字だけは、他国とまったく異なる動きを示しているのだ。
すなわち、世界各国からの対中直接投資が減少するなかで、この2国からの投資だけがきわめて高い率で伸びているのである。ドイツ以外の欧米からの投資は、11年には軒並みマイナスになった。また、台湾、香港、シンガポールからの投資も伸び率が低下した。それなのに、日本の伸び率は49%、ドイツは21%という、きわめて高い値だ。
また、日本の過去の数字と比較しても異常な高さだ。10年の伸び率は3%だったので、大きな変化だ。
これは、対中直接投資の変動が、賃金上昇というような一般的原因で起こっているのでなく、ユーロ危機による投資家のリスク対処の結果起こっていることを示している。
すなわち、ユーロ危機による投資家の「リスクオフ」行動により、資金が比較的安全とみなされる日本とドイツに流入した。それに「プッシュされて」、両国からの直接投資が増えたと考えられる。中国投資を進める必要があるという実体経済上の条件の変化で投資したというよりは、国内でカネが余ってしまったので、押し出されて対外直接投資に向かったのである。
日本の場合、11年は貿易収支が赤字化したために、経常収支の黒字は大幅に縮小した。このような実体経済上の変化から言えば、直接投資も減少して然るべきである。ところが、実際には高い伸び率で増加したのだ。実体経済だけを見ていてはとても理解できない現象が起きたことになる。
実体経済の条件と無関係に投資が増えたという意味では、日本とドイツの投資は「歪んだ」と言うことができる。
中国経済の減速は、「ニューノーマル」だと言われることがある。中国が労働力過剰経済から労働力不足経済に移行しつつあることは事実であり、それに伴って、成長率も低下せざるをえない。そうした傾向は確かに中長期的に続くだろう。しかし、上で述べた現象は、経済危機の後遺症と解釈できることだ。その意味で、中国はまだニューノーマルの段階には達していない。
巨額の証券投資流入が
引き起こしている歪み
以上で述べたことは、日本側の統計からも確かめることができる。
まず第1に、日本からの直接投資が伸びたのは、対中国だけでない。図表1に見るように、対米、対英も高い伸びを示しているのである。これは、日本の直接投資の総額が伸びたためだ。
なぜそうした現象が起きたのだろうか? それを見るために資本収支を見ると、図表2のとおりだ。
2011年においては、直接投資が大きく伸びているが、その原因は、証券投資が流入超過になったことにある。その中身は圧倒的に短期債が多い。これによって国内の金融が緩和し、それに「押されて」、日本の対外直接投資が増えたのである。
この意味で、日本の対中投資の増加も、ユーロ危機によって引き起こされた世界的な資金移動変動の一環なのである。
上で、「日本から中国への直接投資は歪んでいる」と述べた。そのことの一つの帰結は、資金の流れが逆転したときに起こる。日本への投資は証券投資であり、流動性が高いので、条件の変化により一挙に引きあげられる可能性がある。ところが、対外直接投資は工場などの固定資産になっている場合が多いので、条件が変化しても引きあげることができない。その結果、国内でクレジットクランチ(信用収縮)が生じることになる。
では、中国に対する証券投資はどうなっているだろうか? 直接のデータがないので、はっきりはわからない。
以下では、いくつかの周辺的データを見ることとしよう。
まず、香港市場での株価のインデックスを見ると、2011年の秋に急低下している。これは、中国に対する証券投資が減少したことの結果である可能性が大きい。
つぎに、イギリスの対中投資を見ると、資産マイナス負債のネットの残高は、それまでは増加を続けてきたが、11年には急激に減少している。これは、イギリスから中国への証券投資が減少したことを示唆している。
チャイナリスクと
それへの対応
「チャイナリスク」ということが、最近頻繁に言われるようになった。これは、中国に過剰に集中することによって起こる現象だ。
では、中国に対する投資は、過大と言えるだろうか?
日本の主要国に対する直接投資をフローベースで見ると、図表3のとおりである。
2011年においては、総投資額1157億ドルのうち、中国は126億ドルだ。アメリカ147億ドルなどに比べてかなりの大きさだ。
もっとも、リスクにさらされるのは、投資の残高であるから、フローよりはストックで見るべきだろう。
日本の対外直接投資残高をストックで国別に見ると、図表4のとおりだ。
日本の対外直接投資残高9646億ドルのうち、中国は833億ドルだ。アメリカが2755億ドルであるのと比較するとかなり少ない。
貿易における比率等と比較すれば、もっと増えてもおかしくない。
もっとも、新興国であるが故のリスクはあるから、アメリカと同列には論じられない。
リスクに対する方法は、一般的・原理的に言えば、分散投資である。
しかし、現実には、中国における生産の条件(インフラストラクチャ、労働者の勤勉度、サプライチェーンの存在)が優れているため、中国以外に容易に移転できないという事情があるかもしれない。
「チャイナプラスワン」(中国だけに集中するのでなく、他のアジア新興国にも投資する)が必要と言われる。しかし、実際にはなかなかそういうわけにはいかないのだ。
ただし、契約方式を転換することによって対応できる。EMS(電子部品の受託生産会社)を使っている場合には、仮に中国での生産に問題が生じれば、他に移動すればよい。しかし、自社工場を持っている場合にはそうはいかない。その意味でこれは、垂直統合生産方式のもたらす問題である。チャイナリスク軽減のためにも、水平分業を進めるべきだ。
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http://diamond.jp/articles/-/26483
ユーロ危機、市場は減点主義から加点主義へ?
正常化への道のりは遠いが、一筋の光明も
2012年10月18日(木) 武田 紀久子
ユーロ情勢は、危機説が飛び交った9月を無難に乗り切ったことで、「ゲーム・チェンジした」とする一足飛びの楽観論も浮上した。しかし、10月に入り、楽観ムードは早くも萎んでいる。
ユーロ圏は、依然として「債務危機」「金融システム危機」「景気失速」が、三つ巴のネガティブ・スパイラルとなって事態が不安定化する難しい局面にある、と筆者は考えている。この負の連鎖を断ち切るためには、まだまだ時間もコストもかかるため、一部で期待されるような「ゲーム・チェンジ=転機到来」が今すぐ起きるというのは望み薄だ。つまり、ユーロを取り巻く情勢に大きな変化はなく、「危機」と「小康」が周期的に繰り返される状況は、暫く続く公算が高い。
そろそろ“減点主義”から“加点主義”へ
その一方で、債務危機発生から丸3年が経過したユーロ圏では、問題の深刻さとともに、事態打開には長い時間とコストがかかるというまさにその認識が、共有されてきてもいる。9月以降、欧州中央銀行(ECB)の新たな国債買入策(OMT)や欧州委員会による銀行監督一元化案(SSM)の発表、そして、欧州安定メカニズム(ESM)の正式稼動など、各対策に一気に動きが出たのは、そうした認識共有の結果であろう。一連の対策は総じて金融市場で好感され、7月末との対比ではスペイン10年債利回りは2%近く低下し、ユーロ相場は対ドルで7%近く反発した水準で取引されている。
こうして概観すれば、ゲーム・チェンジには遠く及ばずながらも、市場参加者のマインドセットに、微妙な変化が起きている可能性は、あながち否定できない。であるならば、この先、ユーロ情勢を読み解く視点を「どこが悪いのか=減点主義」から、「何が良くなったのか=加点主義」へ、徐々にシフトする必要が生じるかもしれない。尚早の誹りは覚悟の上で、「次の次を読む」市場参加者の定石として、3年前に比べてどのような“加点”が可能なのか、ここで確認をしてみたい。ポイントは「ECBの関与拡大」と「域内格差の是正」の2点と考えている。
ユーロ防衛に不退転の決意を示したドラギ総裁
7月26日にロンドンで開催されたグローバル投資家会議でECBのマリオ・ドラギ総裁が「ユーロ存続に必要なあらゆる措置を講じる」と発言したインパクトは甚大であった。これまで「危機対策は政府の責務」と、やや突き放したスタンスにあったECBが方針転換し、関与を拡大させるとのメッセージを送ったからだ。
ECBによる国債市場介入というドラギ総裁が切ったカードは、冒頭掲載図に示した「三つ巴のネガティブ・スパイラル」のうち、「債務危機」と「金融システム危機」の負の連鎖の遮断を目指している。これを断ち切るには、重債務国の国債市場安定化が急務となるが、欧州金融安定基金(EFSF)や欧州安定メカニズム(ESM)など既存の枠組みでは、規模、権限ともに限界があるため、ECBの関与拡大が待ったなしになったというのが、7月のドラギ発言に至る大枠の流れである。
ドラギ総裁の“大見得”を独メルケル首相も了承
後日談としては、この発言を行った時点では、具体的な政策について、ECB内部も含め当局者のコンセンサス形成は全くなされていなかったようだ。しかし、ドラギ総裁が大見得を切って見せたことで「ECBによる不退転のユーロ防衛」のマントラが市場参加者の心理に刷り込まれ、スペイン10年国債利回りは、この日を境に低下へ転じていった。一種の賭けに打って出たドラギ総裁にしてみれば、手応え十分の初期反応であっただろう。
その後、各関係者と約1カ月にわたる調整を経て、9月6日に国債市場介入の新たな枠組みである「OMT(Outright Monetary Transactions)」が発表された。この間、ドイツ連銀からは、ドラギ構想は国債のマネタイゼーションに当たり、EU法に抵触する、などとして断固反対の姿勢が示されたが、同総裁は同じドイツのアンゲラ・メルケル首相の合意を取り付け、連銀の反対を押し除けた。
ECBは、ドイツ連銀のクローンであることを半ば義務付けられて誕生した経緯がある(関連記事「ECB総裁選びにつきまとう“密約説”」)。だが、そのしがらみを捻じ伏せ、一方では、ドイツ政府が自国中銀の忠告を無視する形でドラギ構想を支持した顛末は、3年前には想像すらできなかった画期的な変化と言えそうだ。
OMTは重債務国政府に構造調整を促す装置
さて、そのOMTだが、1〜3年の短期債というただし書き付きながら金額上限の設定なし、そして、優先弁済権なしの2つの点で、明らかに旧プログラム(SMP)よりも強力な国債買入策に仕上がった。もちろん、OMTは根治療法ではなく、事態悪化に歯止めをかける対症療法であり、時間稼ぎの方策に過ぎない。しかし、ユーロ危機全体への対応策の1つとして眺めた場合、国債市場への介入を梃子に、重債務国が財政再建や構造改革を進める「装置」をECBが作り出したことの意義は相応にあろう。
また、先に触れた通り、OMTはEFSF/ESMの支援能力不足を補うという技術的な側面もある。支援受け入れ国がいつ要請を行うのか、その際の付帯条件が確行されるのかなど、不確実性は残るが、ESMが正式稼動に漕ぎ着けたことと合わせ、ともあれ、支援提供サイドの体制は整った。これにより、“安全網の能力不足を市場に突かれ、重債務国の国債市場で売りが売りを呼ぶ”といった不安心理の負の連鎖が、多少なりとも低減することが期待される。
是正が進む域内不均衡と競争力格差
3年前との対比で、もう1つの特筆すべき変化は、ユーロ圏内の格差是正が進行している点だ。先に述べたECBの変容は、ある意味まだ心理的な作用しかもたらしていないが、下図の通り、これらは、マクロ統計で確認できる数少ない光明の1つと言える。ユーロ危機の根源的な原因の一つが、参加各国間の経済格差にあることに立ち返れば、重債務国の経常赤字縮小や、単位労働コスト改善は、素直に朗報と受け止めて良さそうだ。
ただし、こうした格差是正は構造調整の結果、つまり、物価や賃金の引き下げなどデフレ政策の裏返しであるため、当事国にとっての痛みは大きい。しかも、水準的には、まだまだ調整の初期段階に過ぎず、この先の是正余地の大きさを念頭すれば、重債務国とって厳しい時間帯が当面続くことを示唆する指標でもある。
ユーロ空中分解のリスクは一旦後退
ECBがようやく重い腰を上げ、危機対策への関与を拡大させたことで、ユーロが早期に空中分解するとの懸念は一旦は遠のいている。また、経済格差、競争力格差にも是正の兆しが伺える。これらの“加点”により、ジグザグ行路ではあっても、向かっている方向は正しいとの信頼が維持されれば、「いずれはゲーム・チェンジ(=転機到来)する」との希望を繋ぐこともできそうだ。
しかしながら、ユーロ危機は、構造問題、政治問題、金融問題が複雑に絡んだ「複合危機」だ。解決への経路やステークホールダーも多岐に渡り、その準備や調整には多大な時間が掛かるため、事態が速度感を伴って直線的に改善する可能性は低い。危機と小康を繰り返すジグザグ行路を描きながら、ハードルをひとつひとつ越える地道なステップを踏むしかなく、いずれにしても、長期戦は必至となろう。
スペイン情勢を中心に危機ムードが再燃
実際、足下の動きに目を転じると、スペイン情勢を中心に警戒ムードが再燃しており、ジグザグ行路のベクトルが、再び下向きになってしまっている感は否めない。
スペインでは、今秋、3つの自治州地方選挙(10月21日にバスクとガリシア、11月25日にカタルーニャ)を控えているという事情も、読みを難しくしている。同国政府が国民感情への配慮からESMへの正式申請を躊躇していることで、9月に打ち出されたOMTなどの諸対策がいつ、どのような形で実際に効力を発揮できるか、不確実性が強くなっている。
音無しの構えのスペイン政府に判断を迫るように、米S&P社は先週10日、同国国債格付けをBBB−と、投資適格では最低水準へ2段階引き下げる「催促格下げ」をしている。一方で、IMFは先週発表した世界経済見通し(WEO)で、2013年のユーロ圏成長見通しを0.2%へ0.5%も下方修正。ユーロ圏は「今年、来年と2年連続でほぼゼロ成長」の厳しい見通しがメインシナリオになっている。
武田 紀久子(たけだ・きくこ)
三菱東京UFJ銀行 グローバルマーケットリサーチ シニアアナリスト(ロンドン駐在)
1989年慶応義塾大学法学部卒業、同年、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部シニアアナリストを経て、2007年より現職。
Money Globe ― from London
環境、会計など様々な分野で影響力を誇示する欧州の経済情勢を、現地の専門家がマクロ、為替、金融政策、M&A(合併・買収)など様々な観点から分析する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20121015/238098/?ST=print
竹中平蔵の「経済政策ウオッチング」
「脱ファストフード・デモクラシー」で経済改革を進めよ
2012年10月17日 RSS
長期的な視野で国益を考えることができず、安易なポピュリズム(大衆迎合主義)に走る「ファストフード・デモクラシー」が世界を覆っている。日本は「脱ファストフード・デモクラシー」を進めることで、世界に先んじて経済改革を行うべきだ。
世界第2位の経済大国という自覚が足りない中国
10月9日から14日まで、国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会が東京で開かれた。東京での開催は1964年以来、48年ぶり2度目となった。
ただ残念なことに、中国の財務大臣と中央銀行総裁がIMF・世銀総会を欠席した。背景には尖閣問題で対日強硬論が高まる国内事情がある。
これにより、世界経済における役割に対して、中国の自覚がまったく足りないということを示す結果となった。世界第2位の国内総生産(GDP)を持つ国でありながら、世界経済に対して責任を果たさず、国内の顔色ばかり見ているのは異常だ。
こんな姿勢を世界に見せれば、「脱中国」の動きを加速させるだけだろう。欧米はすでに対中投資を減らしているが、今後は日米欧のいずれの企業も対中投資を大きく減らす可能性がある。中国の軽率な行動は、中国経済に深刻な打撃をもたらすことになる。
Next:IMF・世銀総会で国益を損ねた日本
一方、日本は日本で、IMF・世銀総会というせっかくのチャンスを生かすことができなかった。主要国のすべての財務大臣が集まるこのような大規模な会合が、今後日本で開かれることはもうないのではないだろうか。
それをホストしたのは、もうすぐなくなることが誰の目にも明らかな弱体化した民主党政権だった。しかも財務大臣は10月1日に新しく就任したばかりで、総会まで1週間しか時間がないから原稿を読み上げるだけ。
このような対応では日本のプレゼンスを高めることができず、大きく国益を損ねたと思う。もっとちゃんとした政権のもとでこうした総会を開き、日本の考えを主張して欲しかった。
また、IMF・世銀総会の日本側運営窓口が完全に役所の縦割りになっていたことも問題だ。財務省が自分の管轄ということで、すべてを取り仕切っていた。外務省でさえ、総会に出席する要人の日程を直前まで知らされていなかったという。
国益を考えるなら、政府は財務大臣というポストを重視すべきだし、総会の運営も省庁で横断的に行うべきだった。ところが、野田佳彦首相は内部事情で内閣改造を行い、役所は省庁の権益争いを優先している。国益を無視し、国民に関係ないところで開かれたIMF・世銀総会だったと言える。
そんな状態だから、国民の間でIMF・世銀総会に対する関心も高まらなかった。もっとIMF・世銀への理解を深めたり、IMF・世銀における日本の役割について議論したりといったことが行われてほしかった。
ファストフード・デモクラシーが経済をダメにしている
もっとも、長期的な視野で国益を考えることができないのは、なにも日本の政治に限らないようだ。以前、ダボス会議(世界経済フォーラム)のクラウス・シュワブ会長と会談した際、次のような趣旨の興味深い発言があった。
「今の世界を覆っている最大の問題は、結局は民主主義の問題である。経済的な問題ももちろん難しいが、少なくとも何をなすべきかということはわかっている。しかし、それを実行しようとすると政治的な障壁に阻まれてしまう。民主主義の問題により、問題解決が進まない。
今の民主主義は『ファストフード・デモクラシー』になってしまっている。安上がりで質がよくない。実に安易な民主主義により、ポピュリズム的に国民に利益を与え、経済をダメにし、財政を肥大化させる。ファストフード・デモクラシーによる肥満体政府が、経済を大きく損ねている」
実際のファストフードは便利な面があり、私も食べることがあるけれども、民主主義に限って言えば、ファストフード化してもらっては困るのである。そんな民主主義のファストフード化に対して、われわれはどう対抗していくべきだろうか。
私が思い出すのは、「メザシの土光さん」である。1981年に発足した第二次臨時行政調査会は、土光敏夫会長の名前から「土光臨調」とも呼ばれた。「増税なき財政再建」のために徹底した行政改革を提言した。
Next:「メザシを食べる」土光敏夫氏が残した言葉
経団連会長でもあった土光さんは、夕食に妻と二人で「メザシを食べる」というエピソードが広く知られ、ファストフードのイメージからかけ離れた人物だった。ファストフード・デモクラシーの対極にある土光さんが残した言葉や考え方は、今の政策課題にも直結するものばかりである。
まずは、こんな土光さんの言葉を紹介したい。
「一日を粗末に過ごす人は、毎日を粗末に過ごし、一生を粗末に過ごすことに通ず」
一日一日でちゃんとケジメをつけるべきで、今日やるべきことは今日やらなければならない、というわけだ。
これを今の財政問題に当てはめると、「今年の財政支出は今年の歳入で賄わなければならない」ということになる。つまり、今年の政策経費は今年の歳入で賄うということで、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の考え方と一致する。
土光さんの考え方は、将来にツケを残さないというものだ。これは、今の政策課題にも直結している。
もう一つ、土光さんの言葉を取り上げてみよう。
「仕事の報酬は仕事である。賃金は不満を減らすことはできても満足を増やすことはできない」
満足を得るためには、良い仕事をしたから次にもっと良い仕事ができると実感することだ、というのである(「仕事の報酬は仕事である」は、元は王子製紙社長を務めた藤原銀次郎氏の言葉)。
Next:何の展望もなくお金をばらまいても意味がない
これを今の財政問題に当てはめると、「お金をばらまいてもダメ」ということになる。農家に対する戸別所得補償制度のように、何の展望もなくお金をばらまいたところで、人々の不満は抑えられるかもしれないが、そこから良い仕事が生まれることはない。
結局は、人々が自立して良い仕事ができるように、事業機会や雇用機会をつくっていくことが重要なのである。みんなが自立して生きることができるような社会を目指さなければならない。
今のように雇用調整助成金を出して、収益の上がらない企業に人材を塩漬けにしていては、当面の不満は抑えられても、持続的な雇用機会を創出することはできない。土光さんの考えは、労働市場が現在抱えている問題にも示唆を与えてくれる。
「メザシを食べる」というのは、要するに「痛みに耐えてやるべきことをやる」ということで、リーダーとしては当たり前の態度である。小泉純一郎元首相は当たり前のことが言えるリーダーだった。
新しいリーダーが出てきて、「脱ファストフード・デモクラシー」を進めることを期待したい。
Next:現状を打破できるリーダーが出てくるかどうか
民主党にしても自民党にしても、既存の大政党はファストフード・デモクラシーになってしまっている。ギリシャを筆頭に、ヨーロッパでもファストフード・デモクラシーは広がっている。
この状況を打ち破るリーダーが出てくるかどうかが、世界的な課題となっているように思う。言い換えると、そうしたリーダーを選ぶことができた国が、世界の中で先んじることができるのだ。
今年から来年にかけて多くの国々でリーダーが交代する。日本は、世界に先んじて経済改革を実現するために、一日も早く「脱ファストフード・デモクラシー」を行う必要がある。
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
慶応義塾大学総合政策学部教授
グローバルセキュリティ研究所所長
1951年、和歌山県生まれ。経済学博士。一橋大学経済学部卒業後、73年日本開発銀行入行、81年に退職後、ハーバード大学客員准教授、慶応義塾大学総合政策学部教授などを務める。2001年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣就任を皮切りに金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣などを歴任。04年参議院議員に当選。06年9月、参議院議員を辞職し政界を引退。
現在、慶応義塾大学総合政策学部教授・グローバルセキュリティ研究所所長。公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、株式会社パソナグループ取締役会長などを兼職。主な著書に『日本大災害の教訓―複合危機とリスク管理』(共著、東洋経済新報社)、『経済古典は役に立つ』(光文社新書)など多数。
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ノーベル経済学賞受賞者が教える最も良い結婚相手を決める理論
AFP=時事 10月17日(水)9時24分配信
拡大写真
2012年ノーベル経済学賞の受賞が決まった米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロイド・シャプレー名誉教授(撮影地、撮影日不明)。
【AFP=時事】「独身者の最適なパートナー選び」は2012年のノーベル経済学賞受賞者、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California Los Angeles、UCLA)のロイド・シャプレー(Lloyd Shapley)名誉教授(89)とハーバード大学(Harvard University)のアルビン・ロス(Alvin Roth)教授(60)の研究テーマの1つだ。
ノーベル経済学賞、米国の2氏に(10月15日)
経済学者であり数学者のシャプレー氏は、1960年代にハーバード大の同僚のデビッド・ゲール(David Gale)氏と共に、需要と供給の最適化を抽象レベルで分析した。この理論には、実践的な応用例があった。
ノーベル経済学賞の選考機関、スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)によれば、シャプレー氏とゲール氏は「この理論の例証の一つに結婚を用い」、男女10人ずつを各自の好みを尊重しながら最適に組み合わせる方法を考察した。
その解法は、全員に自分の好みのパートナーを与えることはできない。なぜならば複数の男性が同じ女性を好むし、複数の女性が同じ男性を好むからだ。代わりに、「受入保留」(deferred acceptance)として知られる理論のおかげで、全員の最大の利益となるカップルを形成することができた。
■最も良い結婚相手を決めるには
まず第1ラウンドで、男性全員が自分が最も妻にしたいと思う女性にプロポーズする。複数の男性からプロポーズを受けた女性は、そのうち1人の男性のプロポーズを受け入れる。1人の男性からだけプロポーズされた女性もそのプロポーズを受け入れる。誰からもプロポーズされなかった女性は次のラウンドを待つ。
次に第1希望の女性にプロポーズを断られた男性たちが第2ラウンドへ進み、第2希望の女性にプロポーズする。第1ラウンドですでに他の男性のプロポーズを受け入れている女性も、独身として第2希望の女性に含めることができる。
こうして男性たちの希望リストが最後の女性に至るまで、この手順を繰り返す。途中、女性のほうは前のラウンドでプロポーズを受け入れていても、次のラウンドでプロポーズしてきた男性のほうが自分にとって好ましければ、前の婚約を解消できる。最終的に全員がパートナーを獲得する。
スウェーデン王立科学アカデミーは、シャプレー氏とゲール氏によって、この演算手順(アルゴリズム)が常に安定した組み合わせ(マッチング)をもたらすことが数学的に証明されたとしている。
ただし、このアルゴリズムは平等性の問題を解決しない。男性側がプロポーズしていった場合には、女性よりも男性にとってより好ましい結果となり、女性の側からプロポーズしていった場合にはその逆になるからだ。
純粋に理論的なこのアルゴリズムは経済学の学生たちにとって古典的な存在となった。しかし、王立科学アカデミーによれば「実世界での妥当性が認識されたのはもっと後」であり、この理論を実践応用し、臓器移植での提供者と患者の組み合わせや、医学実習生と研修先の病院の組み合わせなどに適用したのが、今回のもう1人のノーベル経済学賞受賞者、アルビン・ロス氏だった。【翻訳編集】 AFPBB News
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田嶋智太郎の外国為替攻略法
2012年10月17日
豪ドル/円の買い時・売り時を再検証してみよう!
今回は、少々ご無沙汰となっております豪ドル/円の値動きにあらためて注目し、今後の行方を展望しながら、その買い時や売り時について再検証してみたいと思います。
言うまでもなく、豪ドル/円は国内の投資家の間で根強い人気があり、現在も買いポジションを持ち越し続けている方が数多くおられることでしょう。しかしながら、世界全体の景況感の強弱に敏感な通貨だけに、停滞・減速を余儀なくされている目下の状況にあっては長らく上値の重い展開を余儀なくされています。
では、まずテクニカルな観点から現状を分析してみることにしましょう。下の図にも見られるとおり、豪ドル/円は今年3月高値から6月安値まで大きく値を切り下げた後、その下げ幅の61.8%戻しにあたる水準まで、8月初旬にかけて大きく値を戻すこととなりました。本欄の2012年8月8日更新分では「この61.8%戻しの水準を明確に上抜ければ、一段の上値を取りに行く」と述べていますが、結局は同水準を明確に上抜けるには至らず、再び下げに転じる結果となってしまいました。
ただし、6月中旬以降の価格推移を見ると、豪ドル/円の下値余地は3月高値から6月安値までの下げに対する38.2%戻しの水準=79.87円あたりまでに限られていることもわかります。この水準は、今後も一定の下値サポートとして機能しやすいものと考えておいていいでしょう。
次にボリンジャーバンドとの関係を見ます(ボリンジャーバンドについては本欄の2012年2月8日更新分参照)。下の図でも確認できるように、大雑把に言えばボリンジャーバンドの+2σおよび−2σが相場の「天」と「地」になっているわけですが、それは必ずしも+2σおよび−2σの水準に近づいたら逆張り的に「売り」および「買い」と判断すれば良いということを意味するものではありません。その理由は、図中の点線だ円の部分を見れば一目瞭然と言えるでしょう。
では、どのように適当な「買い時」、「売り時」を見出せばいいのでしょうか。何より注目したいのは、中心線(図の場合は20日線)と市場価格との関係です。たとえば、市場価格が中心線を明確に上抜けてきたら「買い」、その逆の場合は「売り」と考えます。さらに、市場価格が+1σを明確に上抜けてきたら「買い」乗せ、逆に−1σを明確に下抜けてきたら「売り」乗せが有効と考えればいいでしょう。
仮に「買い」と判断された場合は、その目標値(=利益確定ポイント)が+2σ、逆に「売り」と判断された場合には、その利益確定ポイントが−2σと考えることが重要です。そうすれば、かなり確度の高い取引が可能になることと思われます。
足下の状況を見ると、豪ドル/円は中心線を明確に上抜けてきているため、ここは「買い」、利益確定ポイントは+2σの水準ということになりそうです。もちろん、これはあくまで短期スタンスを前提としたものです。より賢明に中期的なスタンスを前提とするのであれば、やはり前述した38.2%戻しの水準で下値が支えられたとの確認ができたとき、あるいは長らく上値の抵抗となっている61.8%戻しの水準を明確に上抜けたときということになるでしょう。
周知の通り、豪州準備銀行(RBA)は10月2日に政策金利であるオフィシャルキャッシュレートを3.50%から3.25%に引き下げました。結果、上図でも確認できる通り、その前後において豪ドルは弱含みの推移となっています。しかしながら、大方の市場予想に反する格好で実施された今回の利下げは、かえって当面の追加利下げ観測を後退させることにつながっているのも事実です。また、そもそもRBAの利下げは、あくまで世界景気の急減速といった不測の事態に備える予防的措置であるというのが市場のコンセンサスでもあります。
考えてみれば、米大統領選や中国共産党大会の開催まで残すところ約3週間です。それらのビッグ・イベントを通過し、米国が「財政の崖」の問題を回避する、あるいは中国が新体制の下で強力な景気刺激策を実施するなどといった見通しが強まった場合は、豪ドルにも相当に強い買い圧力がかかってくるものと思われます。
http://lounge.monex.co.jp/pro/gaikokukawase/2012/10/17.html
村上尚己「エコノミックレポート」
2012年10月17日
ドル円にもようやく変化の兆し?〜米長期金利と連動すれば..〜
昨日(10月16日)、米国株市場は大幅続伸となった。昨日は10月分の住宅業界(ホームビルダー)の景況感を表す住宅市場指数の改善が好感された(グラフ参照)。足元10月の米国経済の動向を表す指標として、ミシガン大学消費者信頼感指数、NY連銀製造業景況指数、住宅市場指数、3ついずれも9月対比で改善した。これらは米国の経済活動の一側面だが、昨日レポートで紹介したとおり、秋口から米経済の復調が続いていることを示している。
今週月曜日に米国株が反発した時は、あまり動かなかった米10年金利も、昨日は、株高につれる格好で1.72%まで上昇した。ただ、米国債金利は、QE3が導入された直後に1.87%まで大きく上昇したが、依然それをかなり下回る水準にある(グラフ参照)。FRBの金融緩和が更に強まるとの思惑が底流にあるが、債券市場の投資家が、「財政の崖」などの懸念から、世界経済の減速が長期化する疑念を抱いていることも影響しているだろう。
ただ、中央銀行による金融緩和が強化されても、その効果で景気回復とインフレ率上昇が起きれば、長期金利に上昇圧力がかかる。昨日まで米国の経済指標の改善が相次ぐ中で、世界的な景気減速が長期化するシナリオを想定している債券市場の投資家の思惑も、揺らぎ始めた可能性がある。
このように株式市場と比べると、米国の債券市場は、世界経済の先行きに対しては依然慎重である。ただ、米国10年金利は、欧州債務問題を巡る混乱の先行きが見えなかった7月末(10年金利1.39%)がボトムだった。この時ECBが国債の無制限購入に踏み出し始め、この後安全資産である米国債に対する需要は薄れた。
つまり、米債券市場は、株式市場が描くシナリオになお疑念を持っているが、それでも欧州債務問題に起因する最悪シナリオへの懸念は後退したと認識している。だから、FRBによる金融緩和が強化されても、7月末と比べると米国長期金利は高い水準にある。
そして、米国10年金利が大底を打ったため、一時かなり縮小した米日長期金利差も、5月半ばと同じ約1%まで再び拡大している。一方、4月以降の米日長期金利差縮小につれて、為替市場ではドル安円高が進んだ。ただ米日金利差が再び拡大する一方で、ドル円は依然として70円台の円高水準が続いている(グラフ参照)。
2009年半ば以降、日本が円高に苦しむ根本は、自国でデフレから脱却の道筋をつけることができないことで(10月12日レポート)これが足元の円高をある程度説明できる。もう一つ、短期的な要因として挙げられるのが、景気見通しに慎重な米債券市場が7月末に天井をつけた(長期金利水準がボトム)が、これがドル円市場の価格形成に影響していないことである。
先週、日本の大手通信会社による海外企業の大型買収の報道をうけて、このディールに伴うドル買い需要の思惑で、ドル円はやや円安となっている。ただ、需給を巡る思惑でドル円が円安方向で動いたのは、これまで影響しなかった株式・債券市場の動きが、ようやくドル円市場にも反映され始めた兆候かもしれない。
なお、欧米の後追いではあるが日銀の金融緩和強化が、今回の大手通信会社による非常にアグレッシブな海外企業買収を後押しした可能性もある。つまり、日本でも金融緩和が強化されるとの思惑が、経済活動に及ぼすプラスの効果が現れているということである。この点については、別の機会に説明したい。
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/er/economic.htm
米大統領選第2回討論会、評価はほぼ拮抗=WSJ読者調査
2012年 10月 17日 16:28 JST
11月6日に行われる米大統領選の候補者による第2回テレビ討論会が16日、米ニューヨーク州のホフストラ大学で行われた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)では、討論会の決め手となる4つのポイントに関して、オバマ大統領と共和党のロムニー候補それぞれの戦いぶりをA〜Fの5段階で読者に評価してもらった。
平均評価は以下のとおり(集計時間は日本時間17日午後21時03分時点)。
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John Moore/Getty Images
米大統領候補による第2回討論会
1. 事実や詳細、数字に関する精通度
オバマ大統領 B-(評価人数1万2340)
ロムニー候補 B (評価人数1万2353)
スライドショーを見る
AFP/Getty Images
President Barack Obama, right, and Mitt Romney shake hands.
2. 政策的立場の説明・擁護能力
オバマ大統領 B-(評価人数1万1118)
ロムニー候補 B-(評価人数1万1090)
3. 物腰、演出、態度
オバマ大統領 B-(評価人数1万1041)
ロムニー候補 B (評価人数1万1040)
4. 中心的メッセージのアピール力
オバマ大統領 B-(評価人数1万0815)
ロムニー候補 B (評価人数1万0802)
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エネルギーと税政策めぐり激しい論戦 米大統領選第2回テレビ討論会
2012年 10月 17日 15:51 JST
【ヘムステッド(米ニューヨーク)】米大統領選の候補者同士による2回目のテレビ討論会が16日開かれ、オバマ大統領と共和党のロムニー元マサチューセッツ州知事が経済や税制、エネルギー問題をめぐって直接対決した。ロムニー氏は自らのエネルギー政策を擁護するため、オバマ大統領に論戦を挑み、両者が数十センチの距離にまで近づく場面もあった。
画像を拡大する
AFP/Getty Images
ロムニー元マサチューセッツ州知事(左)とオバマ大統領は第2回討論会で激しい論戦を繰り広げた
オバマ大統領は、ロムニー氏のプライベート・エクイティ(未公開株)投資会社での実績について1回目よりも厳しく追及し、ロムニー氏は金融機関が会社に投資して破綻させ、それでも利益を得られるような経済を築くつもりだと批判した。
ロムニー氏はその批判は間違っていると言い、オバマ大統領の政策は「米国民に雇用をもたらしていない」と述べた。さらに、中間所得層は過去4年、「打ちのめされてきた」とも述べた。
中年女性から税制政策について問われると、ロムニー氏は「私はいかなる状況であろうとも、中間所得層に対する増税は行わない」と答えた。
オバマ大統領は、ロムニー氏が米国民の1%に当たる最富裕層の減税を計画しているが、減税分を補うためにどの優遇措置を廃止するつもりなのかを説明していないと指摘し、「われわれはロムニー元知事から具体策を何も聞かされていない」と述べた。
ロムニー氏は、オバマ大統領が指摘したことは「私の実際の実績とは無関係だ」と述べ、自らの税制政策には富裕層向けの減税策は盛り込まれていないと反論した。
ガソリン価格の高騰に関する質問について、ロムニー氏はオバマ政権下で石油生産量が増えたことは事実だが、それはすべて民有地で増産されたと答えた。
オバマ政権下で火力発電所を建設することは「事実上、不可能」だとし、カナダとテキサス州を結ぶパイプライン「キーストーンXL」の建設計画を認可しなかったことについて、「大統領がなぜパイプラインを承認しなかったのか、私にはさっぱり分からない」と厳しく批判した。
オバマ大統領は、やはり1回目の討論会ではやり玉に挙げずにいた元マサチューセッツ州知事時代の実績を今回は取り上げ、ロムニー氏は「(火力発電所の)閉鎖に誇りを持っている」と皮肉った。
今回はタウンホール形式(対話式)の討論会で、ニューヨーク・ロングアイランドにあるホフストラ大学で行われた。いまだ投票行動を決めていない地元の無党派層の82人が参加し、CNNテレビのキャンディ・クローリー氏の進行に従って、90分にわたる全国放送の中で両候補に質問をぶつけた。
オバマ大統領は16日、3日に行われた1回目の討論会での劣勢を挽回しようと、午前中に45分、午後に1時間、討論会に向けた最後の詰めの練習を行った。全米や州規模の世論調査の多くで維持していたオバマ大統領のリードは、1回目の討論会後に消滅した。
一方、ロムニー陣営は、マサチューセッツ州バーリントンで15日に討論会の予行練習を行い、タウンホールでのやり取りなど話し方を中心に6時間近くかけて準備を行った。
タウンホールは、討論会で唯一、有権者と直接やり取りできる場だ。側近によると、両候補とも、質問を単に自らの点数稼ぎや相手の攻撃のきっかけに利用するのではなく、投げかけられた質問にきちんと答えることを意識していたと話した。
聴衆の一人ひとりが質問を紙に書き、司会者のクローリー氏がその中から選んだ。
今回の討論会は、選挙戦の行方を決定づける激戦州を含めた40を超える州で不在者投票や期日前投票がすでに始まっている中で行われた。オハイオとアイオワで先週、期日前投票が開始されたのに続き、今週はコロラドとネバダでも不在者投票が開始される。
民主党の世論調査員、ピーター・ハート氏は、先日オハイオ州コロンバスで行った有権者へのグループインタビューの結果、オバマ大統領は最初の討論会で痛手を負ったが、必ずしも致命的ではないとの結論に達した。「コロンバスの浮動有権者はたった一度の討論会の結果だけで投票先を変えるわけではないが、今後もロムニー氏がオバマ大統領よりも精彩を放てば、意見を変える可能性がある。2回目の討論会の方がリスクが高い」とハート氏は15日、文書で述べた。
オハイオ州は選挙戦のカギを握る可能性があることから、ロムニー陣営は16日、世論調査では以前はオバマ大統領が圧倒していたが、最近は拮抗(きっこう)していることを指摘するメモを公表した。
ロムニー陣営の政治担当責任者、リッチ・ビーソン氏とオハイオ州担当責任者、スコット・ジェニング氏はメモで、「我々が以前から主張してきたとおり、世論は1つの事象ではなく、プロセスだ」と指摘、「我々の堅実な草の根運動に加え、ロムニー元知事の公の場での優れたパフォーマンスと有料広告によって、そのプロセスは我々に有利な方向へと促されている」と述べた。
【投票】次期米大統領、日本にとって好ましいのは?≫
記者: Peter Landers, Laura Meckler and Sara Murray
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ノーベル経済学賞、アルビン・ロス教授が起こした経済学の「革命」
まな弟子が明かす「マーケットデザイン」の社会貢献
2012年10月18日(木) 小島 武仁
2012年のノーベル経済学賞は、アルビン・ロス米ハーバード大学教授とロイド・シャプレー米カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授に決まった。様々な国家の「制度疲労」が目立つ世界情勢の中、既存の市場や制度を分析する従来型の経済学と一線を画し、制度をどのように設計するかを究める「マーケットデザイン」の研究が脚光を浴びることになった。ロス教授のまな弟子、小島武仁・米スタンフォード大学助教授が本誌に緊急寄稿した。
今回ノーベル経済学賞を受賞することになったアルビン・ロス教授の業績はゲーム理論、実験経済学など多岐にわたるが、今回の受賞理由となった「マッチング理論」およびその応用である「マーケットデザイン」は、まさに経済学の考え方を変える革命だと言っても過言ではない。
マッチング理論は、様々な好みを持つ人々同士をどのようにマッチさせ、限られた資源をどのように人々に配分するかということを研究する理論である。「マーケットデザイン」は、マッチング理論を応用して実際の制度をどのように設計するかを研究する分野である(マーケットデザインの大きな応用に電波周波数帯などオークションへの応用もあるが、この記事では割愛する)。
誤解を恐れずに言うならば、伝統的な経済学では市場や社会制度を既に「与えられたもの」としてその働きの分析に力を注いできたのに対して、マーケットデザインは経済制度を「設計するもの」と考えて、現実の制度設計を提案・実行しているのが特徴的である。つまり、発想そのものが伝統的な経済学とは異なる。
数学で不倫や離婚の危険がない男女のペアを探す
マッチング理論の原点は、ロス教授とともに今年のノーベル賞を共同受賞したロイド・シャプレー教授が、数年前に亡くなったデビッド・ゲール教授とともに発表した論文に端を発する。彼らは男女の結婚をめぐる問題を「数学の問題」として設定して、男女間の「安定である」マッチングを探すアルゴリズムを発見した。
ここでマッチングが「安定である」とは、「男性Aは現在マッチしている相手よりも女性Bのことが好きで、女性Bも現在の相手よりも男性Aのことが好きである」というような男女のペアがいないことを指す。もっと簡単に言えば、不倫や離婚の危険をなくす組み合わせを探す方法である。
ゲール教授とシャプレー教授の理論は抽象的な数学理論だったのだが、この理論の経済学的な価値に気づき発展させてきた中心人物が、ロス教授なのである。1984年に発表した論文で、ロス教授は米国の医療界で、研修医が勤務を希望する病院と病院側の受け入れ希望をマッチングさせる「研修医マッチング制度」が使っていたアルゴリズムが、ゲール教授とシャプレー教授のアルゴリズムと本質的に同じ物であることを発見した。
医学部を卒業したての学生は、実践的なスキルを身につけるために病院で研修医となって働く必要がある。だが、エントリーする学生側と、採用する研修病院側の相反する希望を汲み取ることは簡単ではない。なるべく学生と病院の希望を叶えるために、米国の研修制度では、学生と病院が希望する相手のリストを提出して、マッチ主催者がそのリストを元にアルゴリズムを使って配属先を決めている。
このアルゴリズムはいくらかの試行錯誤を経て50年代頃に現在の方法の基礎ができ上がったが、ロス教授は実はこの方法が、ゲール教授とシャプレー教授による方法と同じマッチングを生み出していることを発見したのである。
数学理論の結果と、実務で試行錯誤した結果が一緒
この発見は、研究者が、難解な数学理論を駆使して抽象的に考えた結論と、医療関係者が試行錯誤でたどり着いた現実的な解決法が同じである、という驚くべきものである。ロス教授の発見は抽象的な理論が現実のマーケットに使えるという希望を与えることになり、現実の制度を詳細に調べつつ理論と実践をするという研究スタイルの1つの源流になった。
さらに91年の論文では、英国の色々な地方で使われていた研修医マッチング制度を比較し、「安定マッチング」を生み出すアルゴリズムを使った地方が成功する一方で、そうでないアルゴリズムを使った地方では制度がうまく働かず、廃止されたり安定マッチングアルゴリズムに変更されたりしていることを発見した。
上に述べたように、抽象的な理論が実際に使えるという可能性を発見したのがロス教授であるが、その可能性を現実の物にしたのもロス教授自身によるところが大きい。ロス教授は90年代には米国の研修医マッチング制度を改革し、現在実際に使われているアルゴリズムを設計した。日本でも、今世紀初頭から同様のアルゴリズムを用いた研修医マッチング制度が発足するなど、世界中で応用例も増加している。
またロス教授は、学校選択制度を学校と学生のマッチングだと捉え、同様のアルゴリズムを学校選択制度に応用した。現在ボストン、ニューヨーク、ニューオルリンズなどといった米国の都市で、ロス教授やその共同研究者たちのアルゴリズムが採用されており、同じような制度の導入を検討する自治体が増えている。
また最近では腎臓移植のための「ドナー交換アルゴリズム」をどう設計するかについても先駆的な研究をしている。今年、山中伸弥・京都大学教授が新型万能細胞「iPS細胞」の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞することが決まったことは記憶に新しい。再生医療に注目が集まっているところだが、現在のところ腎臓病では、生体腎移植が最も有効な治療法の1つとされている。
しかし様々な不適合性のため、配偶者などのドナーから患者へ直接移植させることができないという問題がある。そこでロス教授らのチームは、この問題を腎臓のドナーと患者のマッチングという経済学の問題として捉えて、可能な限り多くの人々が移植の機会を得られるような方法を開発し、米国における腎臓移植ネットワークの設立と運営に現在大きな役割を果たしている。
このように、従来の「経済学」のイメージからは遠い様々な社会問題に果敢に切り込んでいく点もロス教授の研究の大きな特徴である。
また筆者はそれ以外に、ロス教授の大きな業績として、学生を引きつけて研究者として育て上げる手腕が挙げられると思う。ここ数年間にも、自らが育てた学生を米国のハーバード、スタンフォード、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ペンシルバニア、エール、シカゴ、コロンビア、カリフォルニア大学バークレー校などといった一流大学に就職させている。
研究の根底にある、人間に対する優しさ
個人的な話題で恐縮だが、筆者はハーバード大学の博士課程でロス教授の直接指導を受ける学生として研究する幸運に恵まれた(余談だが、教授は今年から筆者の勤務するスタンフォード大学に移籍したため、筆者は、今度は同僚として大いに薫陶を受ける立場になるという幸運に恵まれている)。
彼は多忙にも関わらず 、毎朝オフィスの前の廊下にコーヒーを運んでもらい、学生や同僚と情報交換をする機会を設けていた。筆者が大学院を卒業する際には、教授が自ら撮影した私の写真を印刷したマグカップをプレゼントしてくれた。
このようにロス教授は、突出した経済学者であるだけではなく、学生に対する愛情を常に忘れない人である。彼を慕ってこの分野を志す学生は数多い。経済理論を世の中を良くするため役立てようという「マーケットデザイン」が、ロス教授をリーダーとして発展してきたことは偶然ではなく、彼の人間への興味や人々に対する優しさが根底にあるように思えてならない。
小島 武仁(こじま・ふひと)
2003年東京大学経済学部卒業。2008年、米ハーバード大学経済学博士。米エール大学ポストドクトラルアソシエイトを経て、現在、米スタンフォード大学経済学部助教授。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121016/238121/?ST=print
TPP参加は日本再生の契機
小島順彦・三菱商事会長インタビュー
2012年10月18日(木) 北爪 匡
TPP(環太平洋経済連携協定)への日本の参加の必要性を強く訴えている。
小島:TPPに加わることの意義は、財・サービスの貿易自由化により最適な生産・流通ネットワークの構築が可能になることで、日本の成長が促進されることにある。確かにTPPにより厳しい国際競争にさらされる産業もある。しかし、同時に人材や資本が競争力のある産業に再配分されることで、幅広い産業・国民がTPPの利益を享受できると考えている。
小島順彦三菱商事会長(写真:新関雅士)
また、TPPは単なる関税率引き下げのみならず、投資・知的財産権・環境・労働など貿易投資にかかわる幅広い分野の国際ルール作りの場でもある。明治の開国以後、世界との互恵関係の中で生きている日本にとって、自由貿易・投資のルール整備は極めて重要であり、TPPはその核のひとつになりうるものだ。
さらに、TPPのルールは世界の自由貿易のルールに影響を及ぼすものであることも見逃してはいけない。できる限り早期に交渉に参加して自らの意見をルールに反映させることが、日本の国益となり、国際社会における日本の存在感も高める。先ごろ開催されたTPP交渉参加国の会合では、交渉の妥結が来年以降に先送りされた。妥結が延期になったことで、交渉参加が遅れている日本がルール作りに参加できるチャンスが広がったとポジティブにとらえることもできる。
TPP交渉はアジアの代表として
日本がTPPに参加しなかった場合、どのようなデメリットが想定されるのか。
小島:TPP交渉に参加しないと、世界の貿易自由化の流れから取り残されるばかりでなく、日本のTPP交渉参加に対する東南アジア諸国の期待に応えられないという面もある。東南アジア諸国の政治経済のトップと面談すると、日本・日本企業への期待を強く感じる。つまり、彼らは日本がアジアを代表して交渉に入ると考えており、TPP交渉に参加することで、彼らの期待に応えるという視点も考慮すべきだ。
昨年11月に野田佳彦首相がTPP交渉参加へのメッセージを出したことで、直後にメキシコ、カナダが参加に動き、日中韓FTA(自由貿易協定)の話も出てきた。日本の動きを世界が注目している。今のタイミングを逃すと日本の国際社会における存在感はますますなくなってしまう。交渉にすら入らないことが最も深刻な事態だ。
ここまでのTPP推進派、反対派の議論をどう見る。
小島:推進派・反対派ともに、TPP交渉の現状を正確に把握し、冷静な議論をすることが必要だ。反対派の議論の中には、外国の資格を有する医師や弁護士が大量流入する、単純労働者が大量流入して日本人の職が奪われる、食の安全基準が緩和され、食の安全が脅かされるなど、正確な情報に必ずしも基づいていないものも見受けられる。こうしたテーマは現在の交渉では議論されていない。
これは、参照している情報源が賛成派と反対派とで分断されており、共通の事実に基づく議論になっていないことも背景となっているのだろう。政府からの統一的かつ包括的な情報提供が求められる。同時に、政府だけがTPP交渉を主導するのではなく、産業のみならず広く国民を巻き込んだ国家レベルでの、事実に基づく中長期的な視点からの政策議論が行われ、TPP参加に対する国民的な合意が形成されることを期待する。産業界、財界はTPP参加に向けて、早く何とかしてくれと考えている。
参加しなければ農業は守れるのか?
農業界を中心に、反対派の意見はなお強い。
小島:TPPに参加しなければ、日本の農業を守れるのかと問いたい。日本の農業人口は減少傾向にあり、平均年齢の高齢化も進み、このままでは存続が危ぶまれる。TPPに参加するしないにかかわらず、農業改革は早急に取り掛かるべき課題だ。
広大な農地を有し、効率的な大型農業が盛んな米国は例外としても、欧州の先進工業国の中にもフランス、オランダ、スペインなど、それぞれの文化や歴史的な特色を生かし、特定分野における国際競争力を武器にした農産品輸出国がある。アジア諸国の経済が発展し、人々の所得が増大することによって、食品に対する要求が高まっている。日本の農産品も品質や安全性を柱として、十分に競争力を持ちえる。
TPP参加の意義は。
小島:TPP参加により、日本の産業界は2つの点で恩恵を受ける。第一は日本の産業の従来の強みをより大きな市場で発揮できるということだ。TPPはアジアを含む巨大市場を包括した枠組みだ。TPP参加により、日本は高品質のモノづくりやきめ細かいサービスといった従来の強みを生かして、国境をまたぐ製造サプライチェーンを構築し、成長する海外市場の需要を取り込んでいくことができる。
第2はこれまで強みとされてこなかった産業の活性化や競争力の強化につながることだ。TPPに参加すれば、国内産業は輸入品と競争することで、創意工夫が生まれ、改革が促進され、結果として国際競争力をつけることにつながる。
例えば、若い人が新たな経営方法で農業に参入する工夫をすれば、農業も活力を取り戻し、次世代の夢となる将来の日本の成長産業になりうると考えている。若者が夢や未来を描ける産業をこの国に生み出すために、農業の改革、TPPの参加は契機となるはずだ。もしTPPに参加しなければ、輸出産業も海外移転せざるを得なくなるかもしれない。そうなれば国内産業の空洞化につながり、雇用環境はさらに悪化しかねない。
TPPだけでなく、日本の通商・外交政策をどう見る。
小島:日本は13カ国・地域とFTA、EPA(経済連携協定)を発効済みだが、まだ貿易総額の2割しかカバーできていない。TPP交渉への参加と並行して、年内に交渉が開始予定の日中韓FTAはじめ、FTAやEPAも推進すべきだろう。TPP交渉に参加することで、中韓からも一目置かれ、中韓と交渉することでTPP交渉での発言力も増すような循環が望ましい。日本政府には積極的な通商戦略の展開を期待したい。
通商交渉の場に参加し、力強いメッセージを発信すれば、対外的な日本の存在感を高めることにもつながる。そして交渉の過程では、何を主張するかを決断し、主張すべきことを貫徹するために他をそぎ落とすという厳しい選択をすることで、結果としてメッセージの力強さが増し、日本の発信力が高まると考えている。
日本はいまだ世界第3位の経済大国。通商政策にしても、一国の目先の損得でなく、国を開いて各国と議論をしながら、次の世代へ向けて世界中で重要な役割を果たすという視点が重要だ。しかし、問題は政府の意思決定が遅れていることにある。
最近、米国では自由貿易締結国に対して、外交・安全保障関係において一定の優遇を考えようとする動きがある。議会においてはエネルギー資源の輸出を自由貿易締結国に優先的に考えようという動きがあるし、最近発表された米国の「アーミテージ=ナイ報告」では、経済関係を安全保障の1つの柱として位置づけようとしている。TPPにおいては日米が経済規模で突出しており、米国との関係について世界とのバランスを取りながら考える必要もある。
雇用維持のため、研究開発立国を
その際、日本国内はどう体制を整えるべきか。
小島:自由貿易の枠組みを推進しつつ、国内の雇用を守るためには、日本は高い技術力を維持する必要があり、その観点から研究開発環境の整備は極めて重要だ。産官学の間の人材交流や共同プロジェクトはもちろん進める必要があるが、海外からも積極的に研究者、研究開発拠点を誘致し、世界の技術・知識が集積する研究開発大国を目指すべきだろう。
、自由貿易を日本の成長につなげるためには、ルールのグローバル化と併せて、世界で活躍できるグローバル人材の育成も進める必要がある。その際、語学力を身につけるだけでなく、国際ルールにのっとって、自らの意見を堂々と主張できるよう、初等教育から訓練を重ねることが重要だ。こうした教育内容の変化に合わせ、教師の側も社会人との人事交流制度を設けて多様な経験を積むなど、新たな取り組みが求められる。民間人の教師は増やすべきだ。
いずれも一朝一夕にできるものではないが、TPP交渉への参加といった喫緊の課題と並行して、こうした中長期的な課題にも腰を据えて取り組んでいくことが、将来の日本の発展のためには必要だ。TPPは日本の経済、社会の将来へ向けた改革を進めていく上で、重要なカギになる。
北爪 匡(きたづめ・きょう)
日経ビジネス記者。
ニッポン改造計画〜この人に迫る
日経ビジネス本誌10月1日号でお送りする特集「ニッポン改造計画100」で政策提言をいただいた識者へのロングインタビューシリーズ。誌面では語りきれなかった政策提言の深層を聞く。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121011/237949/?ST=print
<日銀>追加緩和検討へ 2カ月連続、基金積み増し
毎日新聞 10月18日(木)2時31分配信
日銀は17日、今月30日に開く金融政策決定会合で追加の金融緩和に踏み切る方向で検討に入った。野田佳彦首相が17日の臨時閣議で新たな経済対策の策定を指示したことを受け、さらなる金融緩和で政府と一体となって景気を下支えする狙いがある。日銀は9月の決定会合で10兆円の追加緩和を決定しており、2カ月連続の追加緩和は白川方明総裁が就任した08年4月以降、初めてとなる。
新たに検討される追加緩和は、国債などの資産を買い入れる基金の増額が柱となる見通し。基金の枠を現在の80兆円から10兆円程度増額。国債のほか上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)などの購入枠の拡大や買い入れ期間の延長なども検討するとみられる。
日銀は9月に追加緩和に踏み切ったが、白川総裁は「14年度以降、遠からず1%に達する」としてきたデフレ脱却の時期が後ずれする可能性を示唆。今月30日の会合では当面の経済見通しと政策運営の考え方を示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をまとめる予定だが、実質経済成長率や物価上昇率見通しも下方修正する公算が大きくなっている。
今月12日に発表された政府の月例経済報告で景気判断が3カ月連続で下方修正されるなど、国内経済の先行き懸念は強まっており、異例の2カ月連続の緩和によって景気のテコ入れが不可欠と判断した。【三沢耕平】
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最終更新:10月18日(木)3時21分
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121018-00000006-mai-bus_all
日銀、30日の金融政策決定会合で追加緩和の是非を議論へ
2012年 10月 18日 01:28 JST
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KDDI冬モデルはスマホなど10機種、LTEは全国で高速化
[東京 18日 ロイター] 日銀は30日に開く金融政策決定会合で、追加緩和の是非を議論する。9月の会合で追加緩和に踏み切ったばかりだが、日中関係の悪化で再び景気の下振れリスクが高まりつつあり、同日の会合で示す2014年度までの経済・物価見通しで物価上昇率1%の目標に届かない公算が大きいためだ。
9月の決定会合では、中国経済の減速長期化などを背景に、それまで2012年度前半としていた国内景気の回復時期が半年程度後ずれすると判断、先行きへの影響を食い止めることを狙いに、資産買入基金を10兆円増額する追加緩和を決定した。その後も中国など海外経済の減速長期化リスクがさらに高まり、生産・輸出の減少が堅調な内需に波及する懸念も意識され始めている。野田佳彦首相が17日に経済対策の策定を打ち出す中で、政治からの緩和期待も強まっている。
日銀はこれまで消費者物価上昇率の見通しを2012年度プラス0.2%、13年度プラス0.7%と見ていた。しかし景気回復の後ずれでそれぞれ下方修正するもよう。今回14年度の見通しを初めて公表するが、消費増税を除いたベースで0%台となる見通しで、「14年度以降、遠からず」としていた1%の達成時期は後ずれが示唆される公算が大きい。
ただ、日銀が景気判断で重要視する為替は対ドルで円安方向に動きつつあり、市場は小康状態にある。9月に実施した追加緩和が、景気や物価の改善見通し維持に十分だったかなど効果を見極めたいとの声も行内にあり、中国・国内経済や市場動向をぎりぎりまで見極めて最終判断する見通し。
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反発力鈍い日本株、日中関係の改善見通せず下振れ懸念 2012年10月15日
景気想定より下振れで追加緩和、リスク性資産増額の声も=日銀要旨 2012年10月11日
デフレ脱却、日銀には果断な政策運営を期待=野田首相 2012年10月11日
日銀が追加緩和見送り、中国減速で景気は踊り場入り 2012年10月5日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE89G01A20121017?sp=true
ドイツ:13年成長率予想1%に下方修正、債務危機響く−経済相
10月17日(ブルームバーグ):ドイツ政府は来年の経済成長率見通しを下方修正した。ユーロ圏債務危機からの逆風とアジアの成長減速が輸出に打撃を与えていることを要因に挙げた。
レスラー経済技術相は17日にベルリンで、2013年の経済成長率は1%になるとの見通しを示した。5月時点は1.6%を見込んでいた。今年については0.8%と予想し、従来の0.7%から上方修正した。秋期が予想よりも好調だと説明した。
同相は電子メールで配布した文書で、「ドイツは欧州のソブリン債危機とアジアや中南米の途上国の景気減速による荒れ模様の中を進んでいる」と語った。
政府は来年の輸出の伸びの予想も4.4%と従来の5%から下方修正した。レスラー経済技術相は一方、失業者数は2013年を通じて平均290万人で推移し、雇用市場は安定しているとの見通しも示した。
原題:Germany Cuts 2013 Growth Forecast on Euro Crisis, AsiaSlowdown(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ベルリン Brian Parkin bparkin@bloomberg.net;ブカレスト Patrick Donahue pdonahue1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Hertling jhertling@bloomberg.net
更新日時: 2012/10/17 23:10 JST
米住宅着工件数:9月は15%増の年率87万戸−08年7月以来の水準
スペインに必要なのは予防的措置、全面救済でない−フィンランド首相
米BOAの7−9月:95%減益、メリル関連の和解などで (1)
英雇用統計:9月失業者4000人減、6−8月失業率7.9%−五輪効果 (1)
仏クレディ・アグリコル:ギリシャ撤退が利益圧迫−エンポリキを売却
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MC1HRJ6JTSEE01.html
【第749回】 2012年10月18日 週刊ダイヤモンド編集部
危機対策先送りでも反応なし
続くはずのない欧州市場の“凪”
緊縮財政に対する国民の反発も強まっている。写真はスペインでのデモ。プラカードには「メルケル(ドイツ首相)もラホイ(スペイン首相)も駄目」の文字
Photo:Bloomberg via Getty Images
すべては先送りされた。ギリシャの支援交渉、スペインの支援、銀行同盟構想などの問題に対し、10月8日のユーロ圏財務相会合は何ら新たな材料を出さなかった。
市場はこれに、ほとんど反応しなかった。「進まないことを、織り込んでしまっている」(中空麻奈・BNPパリバ証券投資調査本部長)ためだ。だが、この“凪”が続く保証はない。問題の根本は何も変わっていないからだ。
スペイン国債(10年債)の利回りは若干上昇したものの、10月10日時点で5.8%にとどまっている。7月には7.6%に達していたのに比べ、危機は明らかに沈静化したように見える。しかし、進まない財政再建、悪化する景況、地方自治州の資金繰り難など、またいつ火が付いてもおかしくない。
9月28日、銀行のストレステスト(健全性審査)の結果が発表された。想定内に収まったのは好材料ではあるが、資産査定の前提など内容についてなお疑問視する声もある。「これでスペインの金融システムに対する不安が払拭されたとは言い切れない」(中空本部長)。
利回りが落ち着いている最大の理由は、後ろに欧州中央銀行(ECB)が控えていることである。ECBは9月6日に発表した新国債購入策で、必要とあらば“無制限”の買い入れを行うとした。
この新国債購入策では、対象となる国はまず欧州安定メカニズム(ESM)に支援要請を行い、財政再建や構造改革などを約束することが条件とされているが、緊縮財政で不況にあえぐスペインは、支援要請に二の足を踏んでいる。
しかし、ECBのアナウンスメント効果だけで市場を抑え込むのにも限界がある。早晩、スペインは支援要請に追い込まれると、多くの市場関係者は予測する。
引き金となり得るのは、前述のスペインが抱える問題に関連して何らかの悪材料が出ること、そしてギリシャのユーロ離脱懸念の再燃である。ギリシャの支援交渉は、条件となる135億ユーロの追加緊縮策や、目標達成期限の2年延長をめぐって難航しており、決着は「年内でもつかないかもしれない」(田中理・第一生命経済研究所主任エコノミスト)状況だ。
スペインが手を挙げてもなお不安は残る。ECBの新国債購入策には、「無制限と言いつつ対象が短期債のみのため実質的には購入額に限界がある、ESMが課す約束が実行されなかった場合は購入を停止するとしているが本当にできるのか、といった問題点」(田中主任エコノミスト)も指摘されている。頼みの新国債購入策がうまく機能しなければ、見せかけの“凪”は一気に嵐となる。
何より、これも結局は時間稼ぎにすぎない。市場がおとなしくしているうちに、欧州は先送りされている対応策を詰め、新たな“材料”を提示しなければならない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)
http://diamond.jp/articles/print/26429
【第50回】 2012年10月18日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
偏向する大マスコミの報道
これが本物のIMFの指摘
先週、消費増税を支持する「論争!日本のアジェンダ」が読者の関心を集めたようだ。
ただ、私が本欄に書いている「6・13 国会公聴会 私が述べた消費税増税反対の10大理由」(2012年6月14日付け)の観点からみると、先週の「アジェンダ」には、財政再建のためには「増税」が必要であると間違った認識がある。多くの読者は、「増税」すれば税収増というイメージを抱くと思うが、実は「税率の引き上げ」を意味することを知らない。
税率を引き上げて税収が上がるかどうかは経済状況に依存する。それは商品単価を引き上げて売上増になるかどうかと同じだ。「増税」が税収増になるためにはデフレからの脱却が必要であるが、これが増税の前にやるべきことだ。筆者は、小泉・安倍政権時代、完全なデフレ脱却はできなかったが、増税なしでほぼ財政再建を達成している。こうした経験から、増税は政策経験のない人の下策であると思う。
どうして日本のマスコミの
報道は偏ってしまうのか
しばしばIMFなども日本に増税を要請しているのも、増税が必要との論拠になっている。本当にそうだろうか。そのIMF・世界銀行年次総会が、10月9日〜14日に東京で開催されたので、検証してみよう。
なお、年次総会は、IMFと世銀の本部があるワシントンで2年続けて開催された後、3年目は他の加盟国で開催される。東京は1964年に開催されて以来2度目だ。2012年は日本がIMF・世銀に加盟して60年目の節目にあたる。
総会には世界各国からの公式参加者が1万人、非公式の参加者を含めれば2万人とも言われる、世界最大規模の国際会議だ。総会では世界中の財務大臣・中央銀行総裁等が集うため、主要会議のほかに数多くの二国間会談やG7、G20等の会議が開かれる。
例えば、米国からガイトナー財務長官、バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長、そしてユーロ圏からもドイツのショイブレ財務相など各国財務相、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁、英国からはオズボーン財務相、イングランド銀行のキング総裁が来日。188ヵ国の財務相と中央銀行総裁らが集まった。
実際、IMFをはじめ各国の経済関係トップが東京に来ているので、生でその声を聞ける絶好のチャンスだった。というのは、日本のマスコミはどうも報道が偏っているからだ。
財政再建には「もうちょっと時間をかけた方がいい場合もある」と指摘したIMFのラガルド専務理事
Photo:DOL
IMFというと、いつも日本に増税ばかり要求する国際機関という印象だ。これは、ワシントンでIMFに取材する日本のマスコミが、日本語が通じる日本人スタッフからコメントを求めるからだ。その日本人スタッフは財務省からの出向者ばかりなので、どうしても財務省に都合のいい、緊縮財政マンセーのコメントばかりになるのだ。ところが、東京総会ではホンネが聞けた。
その好例がIMFのラガルド専務理事だ。日本のマスコミでは、中国人民銀行総裁と中国財務相の欠席に対し残念だと言ったことを、盛んに取り上げている。しかし、実は、率先して歳出削減と増税に走っている国々に警告を発し、「もうちょっと時間をかけた方がいい場合もある」と、緊縮財政にプレーキをかけるよう促す発言を行った。安易に緊縮財政に走ると成長に悪影響が出てしまって、かえって危機が深刻化するのでやめた方がいいと。
「財政健全化を急ぎすぎるな」
というメッセージ
ラガルド専務理事以外にも、IMFは世界に「財政健全化を急ぎすぎるな」とのメッセージを送った。各国の財政状況を点検した「財政モニター」で、コッタレッリ財政局長は「緩やかなペースでの財政調整がより望ましい」と発言し、緊縮財政を戒めた。
第一の問題は米国の「財政の壁」だ。ブッシュ減税の失効2210億ドル、景気対策の失効1210億ドル、歳出一律削減650億ドル、その他1530億ドルの合計5600億ドルの財政緊縮が年末以降に集中する。米国名目GDP15兆ドルの3.7%に相当するが、戦後でこれほどまでの財政緊縮は経験したことがない。このため、財政の壁が実際に発動されると、米国経済成長率は、4%程度からゼロ成長に落ち込むとされている。
第二の問題はユーロ圏の緊縮財政と金融危機の悪循環だ。ECBは南欧国債の無制限買入を行うというが、そのためには各国がEUに支援要請するのが前提だ。その条件が厳しい緊縮財政では危機はまた巡ってくる。
そこで、これらの問題のために、IMFは米国と欧州に対して緊縮財政は当面棚上げで控えろといっているわけだ。
同時に、IMFは金融緩和を強調した。ブランシャール調査局長は「日本の財政政策と金融政策について、非常な低金利であるために財政再建を急いで進める必要はそれほどない」、「低金利による利払い負担は小さいことなどから、急激な財政再建はかえって好ましくない」といいながら、「緩和的な金融政策の継続は、経済成長にとって非常に強い力となる」と述べた。
もちろん中長期的な財政再建の重要性にも言及しているが、当面は緊縮財政をしないで、金融緩和せよと、IMFは東京総会で言ったわけだ。だがなぜか、これらの発言は日本のマスコミにはあまり報道されていない。
このIMFのストーリーは、筆者が国会で述べた、「増税の前にやるべきことがある。特にデフレ脱却のために金融緩和せよ」とそっくりではないか。
どちらにしても
増税は惨めな結果を招く
最後に、増税論者に対する皮肉を述べたい。実は、日本では増税しても心配するような財政緊縮にならない。というのは、今回の復興予算の被災地以外への横流し問題のように、増税があると、必ず歳出拡大になる。その一方で、税収は増えるかどうかは経済次第だ。
その結果、歳出マイナス歳入が縮小すると限らず、財政緊縮にならないのだ。それは経済にとってはいいことだが、それで残る結果は、税収が増えてもムダな財政支出が残り、税収が増えない場合には財政赤字がさらに拡大することになる。どちらに転んでも、増税は国民にとって惨めな、望ましくない結果になる。
http://diamond.jp/articles/print/26481
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
IMFが発した警告と励まし
各国が行動しなければ、世界経済は一層弱体化
2012年10月18日(Thu) Financial Times
(2012年10月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
IMFは東京で開催された年次総会で警告を発した〔AFPBB News〕
国際通貨基金(IMF)は最も強力なクライアントとの関係において「相談を受ける権利、行動を奨励する権利、そして警告を発する権利」を有している――。
これはビクトリア期の偉大な経済ジャーナリスト、ウォルター・バジョットが19世紀の英国王室の役割を説明するのに用いた表現を筆者が拝借し、IMFが3年おきに取りまとめる「サーベイランスレビュー」の2011年版に寄せた論文(PDF)で披露した考え方である。
IMFは先日東京で開催された年次総会で、この通りの役割を果たした。しかし重要なのはIMFの加盟国、とりわけ米国とドイツが、受け取った警告と奨励策に基づいた行動を起こすことだ。
減速する世界経済
IMFが最新の「世界経済見通し(WEO)」で発した警告は次のようなものだった。「世界経済の回復は続いているが、勢いは弱まっている。先進国・地域の経済成長率は低く、失業を大幅に減らすには至っていない。主要な新興市場国・地域でも、以前は力強かった経済成長が減速している」
IMFはそのうえで、先進国・地域の2013年の予想経済成長率を今年4月に示した2.0%から1.5%に下方修正した。同様に途上国・地域についても、今年4月の6.0%から5.6%に引き下げた。
米国については2013年に2.1%の成長を見込んでおり(これは今年7月に示した予想より0.1ポイント低いだけだ)、ユーロ圏をはるかに上回ると見ている(ユーロ圏の2013年の予想成長率は0.2%で、今年7月の予想より0.5ポイント下方修正された。2012年は0.4%のマイナス成長の見込み)。
IMFはドイツについても、2012年と2013年はともに0.9%の低成長にとどまると予想している。スペインは2012年がマイナス1.5%、2013年がマイナス1.3%になるという。ユーロ圏はさながらマゾヒストを収容する檻の様相を呈している。
すでに明らかなように、高所得国で経済成長が鈍化している理由は緊縮財政と脆弱な金融システム、そして非常に強い不確実性に求められる。この有毒な組み合わせは特にユーロ圏内で脅威となっている。これも意外ではないが、ユーロ圏内の輸出に依存する国々は有力な貿易相手国の経済規模縮小によって悪影響を受けているからだ。
IMFが「国際金融安定性報告書(GFSR)」の最新版で示しているように、ユーロ圏周縁国から逃げ出した資本の規模は累計で当該周縁国の国内総生産(GDP)の10%相当額を超えている*1。
外部からの支援、特に欧州中央銀行(ECB)からの支援がなければ、周縁国は為替管理を導入せざるを得なかったはずだ。これらの国がユーロ圏から離脱した可能性さえある。ユーロ崩壊の懸念はまだ蔓延している。マゾヒズムを信頼できる戦略にするのは難しいのが常なのだ。
まだ楽観的かもしれない2つの仮定
ここまでは悪い話ばかりだ。だが実は、気が滅入るようなこれらの予測にも、楽観的かもしれない仮定が2つ盛り込まれている。
米国は「財政の崖」を回避しなければならない(写真は連邦議会議事堂内に立つ、ジョージ・ワシントン初代米国大統領の像)〔AFPBB News〕
第1に、予測では米国がいわゆる「財政の崖」を回避することが仮定されている。議員同士の反目がもたらしているこの現象がもし回避されなければ、GDP比で4%もの財政緊縮が実施されることになる。
気の確かな人ならこれがもたらす結果が分かるはずだ。深刻な景気後退と、下手をすれば正真正銘のデフレである。米国の議員たちはそこまで愚かになり得るだろうか? そんなはずはないと思わねばなるまい。
2番目の楽観的な仮定は、「欧州の政策立案者が、国レベルでの調整とユーロ圏レベルでの統合を進めるために追加的な措置を講じる・・・その結果、政策の信頼性と信認が少しずつ改善する」というものだ。果たして、欧州の政策立案者にそこまでの働きができるだろうか? 以前より果断に行動するようになってきたとはいえ、疑問の残るところだ。
警告はこれぐらいにして、次は奨励されている対応に目を向けよう。IMFは大胆にも、2007年からの「グレートリセッション(大不況)」における財政乗数は平時のそれよりはるかに大きいという、物議を醸す主張を展開している。
これは特に意外なことではないだろう。今は金利がゼロに近く、信用も抑制されているケインズ的状況にあるからだ。
過度な緊縮がもたらすダメージ
IMFによれば、財政乗数は標準的な想定値の0.5ではなく0.9〜1.7程度になっているという。
これは、例えばGDP比で5%の財政緊縮を行えば(スペインでは2009年から2013年にかけて、景気循環調整後ベースで概ねこの規模の緊縮が行われると見られる)、ほかの条件がすべて同じである限り、GDPが5〜9%減少することを意味している。
*1=ここで言う周縁国はギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペインを指している。資本逃避の額は2009年12月以降の累計額
もしこれに近いことが現実に起これば、歳入が減る一方で歳出が増加し、財政赤字の縮小すらできなくなるだろう。
ペースの速すぎる財政緊縮は経済に大変なダメージをもたらす公算が大きい。
分別のある世界であれば、政策立案者は、短期的には強力な財政政策を発動して景気を支え、過大な債務を抱えた脆弱な民間セクターを立ち直らせることに尽力するだろう。そして長期的には、構造調整を強力に推進するだろう。さらに、名目的ではなく構造的な財政目標を設定するだろう。
IMFはこのほかにどんな策を奨励しているのか? いくつかあるが、最も重要なのは「テールリスク」の排除だ。
米国とユーロ圏のテールリスクを排除する方法
米国について言えば、これは短期的な財政支援と構造的な財政改革の計画を打ち出すとともに、財政の崖を除去することを意味する。
これらをセットで実行すれば、驚くほど力強い経済成長が実現する可能性がある。住宅市場は安定するに至っており、民間セクターの債務削減も進んでいるうえに、米連邦準備理事会(FRB)も景気回復を支援し続けると約束しているからだ。次の大統領選挙は勝つべき選挙なのだ。
ユーロ圏のテールリスクの最たるものはユーロ崩壊〔AFPBB News〕
ユーロ圏については、3つのステップがあると筆者は考える。
第1のステップは、長期的な改革を進めることだ。そこで最も重要になるのは「銀行同盟」、すなわち脆弱な国と銀行のつながりを断つ取り組みである。
第2のステップは、ごく近い将来にスペインのプログラムに同意することだ。その際には、ECBは「アウトライト・マネタリー・トランザクション」という新しい施策を用いて、政府債務の金利を3%程度に引き下げるべきだろう。
ドイツはこのところ、ギリシャの問題を進展させるためにスペインを人質にしているようだが、このやり方は順番が間違っている。ユーロ圏がギリシャの問題に取り組めるようになるのは、ほかの国々、特に重要国の防御を再度強化してからのことになる。
ギリシャについては、大規模な債務再編が再度必要になる。今回は、公的機関からの貸し付けも再編の対象にしなければならない。IMFは、ギリシャの債務の状況が持続可能なものにならない新しいプログラムを推し進めるべきではない。債務の状況が持続可能なものにならなければ、民間の投資など行われないだろう。
そして最後のステップは、調整と経済成長でなければならない。WEOに収められたある重要なグラフによれば、赤字国の経常収支不均衡は、その経済規模が縮小するにつれて消えると予測されている。しかし、黒字国の経常収支黒字が減少するとは予想されていない。
今こそ影響力に伴う責任を果たせ
これは世界にとって近隣窮乏化を招く組み合わせだ。良心に反するものでもある。ユーロ圏が需要を健全な水準に維持することは、ユーロ圏と世界のために不可欠なのだ。
IMFは、本来すべき通りに警告し、奨励した。その警告とは、世界経済は脆弱で、適切な行動が取られなければさらに弱体化しかねないという内容だ。そしてIMFの奨励は、影響力を持つ国々が行動すれば、経済を強くできるという考えである。影響力には責任が伴う。今こそ行動しなければならない。
By Martin Wolf
http://www.imf.org/external/np/pp/eng/2011/081511.pdf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36344
JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]
危機でも褪せない新興国の魅力
2012年10月18日(Thu) Financial Times
(2012年10月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2008年の危機以来、世界の投資が激しく振れる中で、安定を保った要素が1つある。先進国から新興国への外国直接投資(FDI)のフローだ。
ファンドマネジャーたちが新興国のポートフォリオ投資で考えをころころ変える一方、米国、欧州、日本の多国籍企業は世界の新興国に対するコミットメントから大きく反れることはなかった。
民間資本全体と比べるとはるかに安定したFDI
先週末発表された国際金融協会(IIF)の報告書によると、ネットのFDIフローは今年、およそ5130億ドルに達し、先進国から新興国への民間資本の流入額全体の半分を占める見込みだ。来年にはこの数字が5360億ドルに達する可能性があり、2008年の過去最高記録5600億ドルに迫る。
FDIの規模と同じくらい重要なのが、その投資の相対的な安定性だ。ネットのFDIは危機が勃発した時に落ち込み、2008年の過去最高記録から2009年には3570億ドルまで減少。その後急回復し、昨年は5260億ドルまで戻した。
だが、新興国への民間資本の流入額全体の振れと比べたら、FDIの振れは大したことではない。何しろ新興国への民間資本の流入は、2007年に1兆2360億ドル(ネット)の過去最高額を記録した後、2008年、2009年は7000億ドルを下回った。
こうした投資は、欧米と日本の多国籍企業が自国の弱い市場を補い、主要新興国、特に中国の経済成長見通しをフルに生かすために新興国で事業を拡大しているスピードを反映したものだ。
多国籍企業は、新興国が先進国よりずっと速いペースで成長しているという事実に対応している。
世界経済の牽引役になった新興国
2012年の国内総生産(GDP)成長率について、国際通貨基金(IMF)は先進国の成長率が1.3%にとどまるのに対し、新興国は5.3%に上ると予想している。
新興国は2008年以降の経済成長の約60%を生み出してきた。ユーロ圏が深刻な景気後退に陥ったら、その割合は75%に上昇する可能性もある。米国のエンジニアリング大手ハネウエルのシェーン・テジャラティ氏は「新興国はもう勃興した。新興諸国は売り上げの20〜25%、売り上げ成長の50%を生み出している」と話している。
IIFによると、新興国で群を抜いて最大規模を誇る中国の減速でさえ、新興国全体へのFDI流入の明るい見通しを変えることはない。中国のFDIは停滞しているが、それも対内FDIが5年間で倍増した中南米諸国への投資の大幅増加によって相殺されているという。
ファンドマネジャーたちは、現地の債券を中心に、新興国の金融市場に巨額の資金をつぎ込んでいる。投資額があまりに大きいため、IMFは先週、こうした資金流入が突如逆流し始めた場合に受け入れ国に生じかねない影響について警鐘を鳴らした。
新興国への警鐘
IMFは新興国に対し、自国の銀行をてこ入れし、金融規制を強化し、慎重な財政・金融政策を行うよう助言した。各国政府はこうした対策を講じるに当たって、FDIの投資家の存在と、資本だけでなく技術と経営能力を輸入することで彼らが持ち込む大きな恩恵を忘れてはならないという。
各国政府は、ブラジルを筆頭に一部の国が短期の資本流入に課した規制が、FDIを呼び込む能力を損なわないようにしなければならない。危機時に可決された保護主義的な措置の影響を抑制し、追加規制を求める声に抵抗しなければならない。
また、各国政府はFDIが双方向であることを忘れてはならない。中国やインド、ブラジルなどの企業は諸外国に投資している。FDIは単に先進国から地球上のその他諸国に雇用を移転するものではなく、欧米諸国の産業を活性化させる役目も果たす。
英国に本拠を構える自動車メーカーで現在はインドのタタ・モーターズが所有するジャガー・ランドローバーの従業員がこれを証言してくれるだろう。
By Stefan Wagstyl in London
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36341
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「財政の崖」放置なら景気後退入り
第1回テレビ討論会 「ロムニー氏勝利」が67%
第1回テレビ討論会後の世論調査では、共和党候補ロムニー氏が論戦に勝利したと回答した人が67%に上りました。ロムニー氏の支持率も討論会後に上昇し、オバマ大統領との差を縮めました。
討論会前はロムニー氏が惨敗という見方が優勢だったわけですが、この討論会を見る限り、オバマ大統領は「演説は上手いが討論は下手」なのだと思われます。現職の大統領なのでこうした議論には強いはずなのですが、オバマ大統領は困って答えに詰まるような場面もあり驚きました。
一方のロムニー氏はビジネスマンを長くやっていたので、こうした議論の訓練を積み得意としているのです。ロムニー氏は経済について、失業率は若干改善したものの、オバマ大統領の4年間における経済政策は失敗したとして、その例を挙げて攻めるというワンパターンを繰り広げました。生活実感からも経済は良くなっているとは言えない、という論理で上手く訴えました。
次回は副大統領同士が討論をしますが、今までのところあまり副大統領の差は争点にはなっていません。候補者同士の討論がまた行われますが、今回の様子からオバマ陣営は相当巻き返す必要がありそうです。
またタイム紙はロムニー氏を取り上げ、モルモンのアイデンティティとは何かという特集を掲載しました。モルモン教徒は一夫多妻で、ロムニー氏の祖父は妻が3人、その家族写真は驚くような大人数です。ロムニー氏本人の妻は一人ですが、家族は子や孫を合わせると20人以上と、大家族主義であることが分かります。カトリック教徒も避妊を禁じているので大家族が多く、イタリアなどではフィアットに何人もの家族を押し込めて教会へ行く様子を見かけます。ロムニー氏が候補となったことにより、改めてモルモンのような少数派の宗教集団について注目が集まっています。
大統領としては、アイリッシュカトリックのケネディ大統領あたりから、いろいろな人物が出始めました。オバマ大統領でアフリカンアメリカンの大統領が現れ一段と抵抗がなくなり、次はモルモンの大統領となるかもしれません。
今回の討論によってロムニー氏が大統領になる可能性がやや高まりましたが、依然としてオバマ大統領の方がポイントは高く、ロムニー氏が今後も失言をする可能性も高いと思います。
「財政の崖」放置なら景気後退入り
2012会計年度におけるアメリカの財政赤字は約86兆円と、赤字額が減少するという見通しが示されました。米債券運用会社PIMCOのエラリアンCIOは、減税失効と歳出の自動削減開始が重なる「財政の崖」の問題を米議会が解決できなければ、米経済はリセッション(景気後退)に陥る公算が大きいとの見方を示しました。この見方はおそらく正しいでしょう。
雇用のデータを見ると最近若干改善しているとは言え、リーマンショック後に大きく雇用が削られ、ようやくプラスが継続しているものの力弱いという状態です。それを受けて、財政だけではなく金融出動ということでQE3まできたわけです。今のところこうして人工的に失業率を下げていますが、選挙対策であり統計のあやだという意見もあります。
財政収支の推移を見ると、オバマ大統領は派手に使っていることがわかります。毎年財政赤字の上限を作り直さないといけない状況なので、今年も12月にまた「壁」がくるわけですが、問題を放置するわけにはいきません。しかし、だからと言って超緊縮予算にするとまた景気が悪くなります。金融出動は QE3で出せるものはほぼ出してしまっているので、難しい状況なのです。オバマ大統領のやり方では景気後退にかかってくることも避けられないだろうと思います。
スロベニア国債利回り上昇 銀行救済で支援要請の懸念
スロベニアでは銀行の不良債権問題に対処するため、外部支援を要請するとの懸念が広がり、10年国債利回りが6.29%まで上昇しました。旧ユーゴスラビアの7ヵ国のうちで最初にユーロ転換をした国で、超優等生と言われていたスロベニアですが、10年債の利回りは6%を超え、ルーマニアやハンガリーと並んで要注意の国となりました。むしろブルガリアやチェコの方が低い利回りで安定しているという状況です。
スロベニアがこのようになってしまった理由として、政治の混乱が大きな要素だと思います。私もスロベニアのリブリアーナというところへ行き、いかに良い経済状態か話を聞いたことがあります。小さい国で工業力も非常に高く、こんなにあっさりと崩れるとは思えませんでした。しかし、現在ヨーロッパを襲っている大きな問題によって、特に政治が乱れた時にはこうした事態も起きるという一つの事例だと思います。
プリンターはMPS(Managed Print Service)へ
アメリカ市場では、HP(ヒューレットパッカード)の2013年10月期の業績見通しが市場予想を大幅に下回り、株価が一時急落しました。HPについてはIBMと違い、プリンターなどに対する依存度が高く今後の成長戦略が見えないこと、またトップの交代が激しいことなどが問題となっています。
今後プリンターなどは、MPS(Managed Print Service)という形に移っていくので、非常に収益化が厳しいと思われます。キヤノンと HPは超優良会社ですが、今後はマルチベンダーになり、マネージドプリントをしていくことになるとかなり苦しくなるでしょう。HPはそうした変化を先行して導入していますが、今までのような収益を稼ぐのは難しいと言えるでしょう。
講師紹介
ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 学長
大前 研一
10月7日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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その他の記事を読む
海外の日本国債保有が過去最高
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20121017_150712.html
2012年10月18日
第12回 日銀のJ-REIT買取り枠増加期待の背景と注意点【J-REIT投資の考え方】
J-REITの価格は、前回の連載(2012年10月4日)以降も堅調に推移しています。東証REIT指数は、今週に入り年初来高値を更新し続け10月17日には1,034.12ポイントとなりました。
堅調な値動きが続く背景には
【1】欧州債務問題の沈静化
【2】海外収益下落リスクがないJ-REITの収益特性
【3】日銀のJ-REIT買取り枠増加期待
の三点があると考えられます。J-REITの2010年以降の価格は、欧州債務問題の深刻化懸念が強まると大幅に下落し、その後回復を示すという動きを繰り返してきました。J-REITの価格が、2012年6月以降は堅調に上昇している大きな要因として欧州債務問題の沈静化が働いているのです。また株式市場は一時的には上昇するものの【2】の海外収益下落懸念を要因として8月以降も不安定な動きが続いています。一方でJ-REITは、国内不動産しか保有していないため株式市場での内需株と同様の収益特性になっています。投資家がこの収益特性を好感しているため、J-REITの価格が堅調に推移しているものと考えられます。
さらに10月になってから、【3】の日銀のJ-REIT買取り枠増加期待が高まっています。この点が価格上昇に伴う投資家の利益確定売りを抑制し、東証REIT指数が1,000ポイントを超える水準を維持している要因になっている可能性があります。そこで今回の日銀によるJ-REITの買取り枠増加期待の背景とその注意点について記載します。
日銀の直近の金融緩和は、9月に公表されています。しかしこの金融緩和は国債の買取り枠増加を中心としたもので、J-REITの買取り枠増加は実施されませんでした。日銀のJ-REIT買取り枠は、2010年10月に500億円の規模で始まり2011年3月に1,000億円、同年8月に1,100億円、2012年5月に1,200億円と増額され、買取りの期限も延長されてきています。9月以降も日銀に対する金融緩和圧力が続いていること及び比較的価格が堅調であった10月1日から5日にかけて3営業日で72億円の買取りを実施したことから、J-REIT買取り枠の増加期待が高まっています。
日銀が単月で50億円を超える買取りをおこなったのは、2010年12月に買取りを実施し始めてから過去においては2011年3月、8月、9月、2012年5月の4回(図表参照)しかありません。この4回は全てJ-REITの価格が急落した時期であり、積極的に日銀が買い支えていたと見ることができます。一方で今年10月初旬は冒頭に記載した通り、J-REITの価格が順調に推移した時期でした。つまり今年10月の買取りは、やや異例とも言えるものだったのです。さらに現在の買取り枠1,200億円は、10月5日までの72億円で累計買取り額が1,043億円となりあと160億円を切る水準まで減少しました。この点から10月5日までの買取りは枠の「消化」を急いだという見方もできるのです。
このように日銀の買取り枠増加は、蓋然性が高くなっていると考えられます。一方でJ-REITの価格には織り込まれていると考えるべきです。従って、実際に買取り枠の増加が公表されたとしても価格上昇に与える影響は限定的だと考えられる点が注意点でしょう。唯一、ポジティブサプライズとなる要因があるとすれば、日銀の買取り枠の設定方法変更です。日銀の買取り枠は、格付け会社によってAA格以上の格付けを得ている銘柄であること及び各銘柄の5%以上の投資口を取得しないという条件が設定されています。日銀による買取りは、いままでは市況低迷時に実施されてきているため、銘柄によっては5%の上限近く買取りを実施している銘柄が存在する可能性(※)があります。従って買取り方法に関して各銘柄の投資口の買取り枠上限を5%から緩和することになれば、J-REIT価格の大幅上昇要因になることもありそうです。
※日銀は、買取り実施日をホームページで公表していますが個別銘柄の投資状況は開示していません。また日銀は、信託銀行に委託して買取りを実施しているため、各銘柄の大口投資主に日銀の名称が出てくることはありません。
<本内容は、筆者(関 大介)の見解でありアイビー総研株式会社及びJAPAN-REIT.COMを代表したものではありません。個別銘柄に関する記載がある場合は、その銘柄の情報提供を目的としており、お取引の推奨及び勧誘を行うものではありません。また執筆時点の情報を基に記載しております。>
前の記事:第6回 オプション戦略について1 〜考え方〜【福永博之の先物・オプション講座 ステップアップ編】 −2012年10月16日
http://lounge.monex.co.jp/pro/special1/2012/10/18.html
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