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【第7回】 2012年10月17日 ビジャイ・ゴビンダラジャン
たった300ドルの超低価格住宅が引き起こす
リバース・イノベーションで世界を変える方法
――ビジャイ・ゴビンダラジャン
注目の戦略コンセプト、「リバース・イノベーション」の入門編の連載第7回。今回は世界的ベストセラーである『リバース・イノベーション』の著者で、コンセプトの生みの親でもあるビジャイ・ゴビンダラジャンによるコラムの翻訳です。
ゴビンダラジャンは、300ドル(約2万4000円)という信じられない超低価格の住宅をつくるプロジェクトを牽引していることでも注目されていますが、その設計思想には、リバース・イノベーションの考え方が随所に生かされ、画期的なビジネス・ソリューションとしての可能性が示唆されています。「300ドルハウスのビジネスへの挑戦」という原題です。
タタが仕掛けた約5万円の
超低価格プレハブ住宅
インドの超低価格車「タタ・ナノ」を発売したことで知られるタタ・グループが2011年、インド農村部向けに設計された超低価格のフラットパック(平らに梱包された)の家を発売すると発表した。
基本モデルは、現場で組み立てる20平方メートルのプレハブ方式のキットで、価格は500ユーロ(5万円強)である。ほかに、700ユーロ(7万円強)の一回り大きなモデルも用意されている(屋根の上にソーラーパネルをつける設計案もある)。
すでにインド各地の30カ所でプロトタイプのテストが始まっていて、年末には各パンチャーヤト(農村部自治体)からテストの結果が報告されることになっている。
先月、同じくインド企業のマヒンドラ・アンド・マヒンドラのチームが、「300ドルハウス」のオープン・デザイン・チャレンジで企業賞を獲得した。私たちが貧困者向けの設計に対する関心を高めるために、クリエーターを対象とするコラボレーション・プラットフォームであるJovoto.comと、そのスポンサーであるインガーソル・ランド社の支援により、グローバル・オンライン・コンテストを行ったところ、なんと300件もエントリーがあった。
同チームは空き時間を利用して、インド農村部向けにも300ドルの家を設計した。チームは現在、シニア・マネジャーの激励のもとで、自分たちが設計したモデルのテストに取り組んでいる。
巨大な潜在市場を
掘り起こすための7つの視点
idealabの創業者でCEOでもあるビル・グロスは、私たちの300ドルハウスのブログに寄稿し、彼のチームが取り組んできた貧困者向けの1000ドルの家「ワールドハウス」で直面した設計上の課題について、次のように述べている。
「質の高い、入手可能な住宅が約15億人分も不足していることは、新しい革新的なソリューションを必要とする問題として常に問題となってきた。今後10年間で1億人に住宅を供給するために、私たちは広い視野で考え、破壊的なテクノロジーと金融メカニズムを展開していく必要がある」
企業がこうした課題に「目を大きく見開いて」、巨大だが顕在化していない市場に参入するのは大いに喜ばしいことである。この問題を解決するには規模の拡大が必要なので、その方法を熟知している企業が乗り出すことが重要だと、私たちは一貫して主張してきた。
もちろん、協力も欠かせない。そこで、300ドルハウスと関連するコミュニティを発展させるために、私たちがこれまでに見聞したことをいくつか共有したい。この分野に参入する企業に対して、私たちのアドバイスは次の通りである。
サービスを考える
これは、単なる住宅建築ではない。問うべきは、電気、きれいな水、公衆衛生、公共医療サービス、家族計画、教育、交通、小規模企業などのサービスが含まれたエコシステムを利用でき、安心して暮らせる機会を貧困者に提供する、300ドルハウスの村を設計できるか、ということだ。ロバート・フリーリングの「ホール・ビレッジ」をぜひ参照してほしい。
グローバルで考える
これは、単なるインドのプロジェクトでない。世界資源研究所によると、所得ピラミッドの底辺の市場規模は約5兆ドルにのぼる。貧困層がより良い暮らしをすることに関心を持つコミュニティは世界中にあり、フィリピンやモザンビークなど世界各地から、私たちに問合わせが来る。
持続可能性を考える
これは、つくったら終わりという課題ではない。この言葉の意味を十分に理解してほしい。可能な限り地球にやさしく再生可能な材料を使うことはもちろん、長期的なプロジェクトの持続可能性について考えてみよう。
そのコミュニティには、自分たちの家を運営し維持するためのスキル、ノウハウ、手段が備わっていて、1年後、3年後、10年後もサービスが提供されるだろうか。住人たちはどのようにその対価を払うのだろうか。
手頃な価格を考える
これは、中間層向けのものではない。300ドルハウスのネーミングの本当の目的は、企業に手頃な価格を徹底的に追求してもらうことにある。手頃な価格でなければ、持続可能ではない。
協力について考える
これは、金持ちが貧しい人に施しをすることではない。プロトタイプの設計、提案の実行や維持に、コミュニティを巻き込むことによって、活動は広げられる。政府、NGO、コミュニティ・メンバーが、あらゆるレベルで手を結ぶ方法を探してほしい。
グラミン財団の携帯電話関連事業は途上国で、個人が管理するかたちで40億台の電話を活用している。民間の携帯電話会社と提携する力があったからこそ実現したと、グラミン財団技術センターのディレクター、デビッド・エーデルシュタインは認識している。
流通を考える
これは、車輪を再発明するようなことではない。既存のサプライチェーンを利用して、所得ピラミッドの底辺に届くようにしなくてはならない。ローカル・コミュニティの労働者(将来の従業員)は、あなたの村の販売チャネルである。
リバース・イノベーションを考える
これは、単なる途上国の経済の話ではない。インド、ハイチ、インドネシアで300ドルハウスを建設して学んだ教訓は、アメリカで3000ドルないしは3万ドルの家を建てるときにも活かせるかもしれない。ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された記事は、アメリカ全域に市場があることを示している。
企業がこの分野に参入し、その活動により、密接に関係している2つの面での成功、すなわち、利益を上げながら、人々の状態を改善することを実現するよう、私たちは待ち望んでいる。
そして、みなさんにもぜひ300house.comに参加していただきたい(ビジャイ・ゴビンダラジャン。環境問題に取り組むマーケティング・コンサルタントのクリスチャン・サルカールとの共同執筆による)。
訳:渡部典子
“The $300 House: Businesses Take Up the Challenge,” HBR Blog Network, July 18, 2011.
http://blogs.hbr.org/govindarajan/2011/07/the-300-house-businesses-take-1.html
(C) 2012 Harvard Business School Publishing Corporation.
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定価1890円
ISBN 978-4-478-021651
『リバース・イノベーション――新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき』
ビジャイ・ゴビンダラジャン+クリス・トリンブル著 渡部典子訳 小林喜一郎解説
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これまで誰も提示したことのない戦略の新領域「リバース・イノベーション」の、世界で最初、かつ現時点で唯一の本です。「途上国で最初に生まれたイノベーションを先進国に逆流させる」という、従来の流れとまったく逆のコンセプトであり、時に大きな破壊力を生み出します。本書はリバース・イノベーションのインパクトとメカニズムをシンプルな理論と豊富な驚くべき企業事例で紹介しています。
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※『リバース・イノベーション』試読版はこちらから(クリックするとPDFが開きます)。
◆主要目次
【第1部】 リバース・イノベーションへの旅
第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
第2章 リバース・イノベーションの5つの道
第3章 マインドセットを転換する
第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
終章 必要なのは行動すること
付録 リバース・イノベーションの実践ツール
ネクスト・プラクティスを求めて
http://diamond.jp/articles/print/26380
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