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終身雇用、年功賃金がいつまでも続いている理由  「ムダ残業社員」撃退法  日本人が想定外の問題に対応できない本当の理由
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/145.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 17 日 00:32:16: cT5Wxjlo3Xe3.
 

終身雇用、年功賃金がいつまでも続いている理由

日本型雇用慣行について考える(その1)

2012年10月17日(水)  小峰 隆夫

 これまで延々と成長戦略について論じてきたので、そもそもこの連載で何を議論しようとしていたのか分かりにくくなってしまった。もう一度連載の本題に戻ってみよう。この連載は、日本経済がいろいろな面で行き詰っており、問題解決の方向に向かうどころか、問題は深刻化しているという危機感から出発している。

 そのような問題意識の中で考えたのが、「今後必要な政策方向と国民が支持する政策方向が食い違っている」という問題だ。これは結構深刻である。現状を変えなければならないのだが、多くの人々は現状のままが良いと思っている。すると、政治的にはどうしても現状維持的な政策が取られやすくなる。そうこうしているうち問題はますます深刻化していく。そんな類の問題として、以下では、日本型雇用慣行の問題を取り上げてみたい。

40歳定年制の議論

 日本型雇用慣行の問題を取り上げようと思ったきっかけは、前回まで議論してきた、野田内閣の成長戦略「日本再生戦略」である。前回述べたように、この成長戦略を策定するため設けられた有識者の検討の場である「フロンティア分科会」が報告書を公表しているのだが、この分科会で出てきた政策の中で、あるものは正式に成長戦略に取り込まれ、あるものは、最終的な戦略には残らなかった。

 その途中で消えた政策の中で私が注目したのは、「40歳定年制の提言」(フロンティア分科会報告書参照)である。具体的には次のようになっている。

 「企業内人材の新陳代謝を促す柔軟な雇用ルールを整備するとともに、教育・再教育の場を充実させ、勤労者だれもがいつでも学び直しができ、人生のさまざまなライフステージや環境に応じて、ふさわしい働き場所が得られるようにする。具体的には、定年制を廃し、有期の雇用契約を通じた労働移転の円滑化をはかるとともに、企業には、社員の再教育機会の保障義務を課すといった方法が考えられる。場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか。…こうした雇用の流動化は、能力活用の生産性を高め(筆者注、「能力活用の生産性を高め」という意味は、私には分からない。「能力活用の場を広げることによって生産性を高め」ということなら分かる)企業の競争力を上げると同時に、高齢者を含めて個々人に働き甲斐を提供することになる」

 私はこの部分を見て大変驚いた。驚いた理由は二つある。一つは、この議論は要するに労働力の流動化を促すべきだと言っているわけであり、これは成長戦略の極めて重要なポイントであることだ。簡単に言えば、人口に占める労働力の割合が低下するという人口オーナス時代においては、限られた労働力をできるだけ有効に活用していくことが必要となる。そのためには、産業・企業を超えて労働力の再配置を行っていくことが必要となる。この時障害となるのが、終身雇用的な日本の雇用慣行だ。40歳定年制は、この硬直的な従来型の雇用慣行を打ち破る方策として提案されているのだ。私は、ポイントを突いた立派な政策が登場したのに驚いたわけだ。

 私が驚いたもう一つの理由は、この労働力の流動化、終身雇用的慣行の打破という点は、現実に行われている政策方向と全く逆だということだ。現実に行われていることは、年金給付支給年齢の引き上げと関連してむしろ定年を延長したり、パート労働者の待遇改善のために、積極的に有期雇用を無期雇用(いわゆる正社員)に切り替えようとしたりしている。要するに、労働力の流動化どころか、固定化に向かっているのだ。つまり私は、現在の政権がやろうとしていることと全く逆の政策が登場したので驚いたのである。

 したがって私は「この部分は最終的な再生戦略には残らないだろう」と思った。現政権が志向していることとは全く逆なのだから採用されるはずがない。そして案の定、40歳定年制は最終的な再生戦略からは消えていた。

 これはいわゆる「骨抜き」である。しかし、私自身は一縷の希望を持った。なぜなら有識者の段階であっても、とにかく「40歳定年制」のような労働移動の弾力化を促す政策が消えずに残ったということは、少なくとも、国家戦略会議の中枢の一部の人は問題の本質を分かっているということを示していると思われるからだ。

 こうした問題意識に基づいて、以下では日本型の雇用慣行について考えてみたい。今回は、日本型雇用慣行がいかにして日本に強固に組み込まれたものとなっているかを考えてみたい。

相互補完性が強く作用している日本型雇用慣行

 ここでは日本型雇用慣行が日本の経済社会に強く組み込まれている状況を「相互補完性」と「ヒステリシス」という二つの概念を使って説明する。

 何をもって日本型雇用慣行とするかについてはいろいろな考え方があるが、ここでは次の三つを取り上げる。

 第1は、長期雇用(いわゆる終身雇用)である。日本の代表的な企業では、労働者は新規学卒者として一括採用され、基本的には定年までの雇用が保障されてきた。なお、我々は当然のように「定年まで働く」ということを前提にしていることが多いが、この定年制自体も日本型雇用慣行の一つだと言っていいかもしれない。

 第2は、年功型賃金である。近年、成果給や能力給の要素が強まってはいるものの、日本の賃金は、年齢、勤続年数が加わるにしたがって、昇進、昇給があるという年功型の色彩が強い。

 第3は、教育・訓練の形態としての「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」である。日本の企業では、企業内訓練によって職業遂行能力が形成されてきた。

 以上のような日本型雇用慣行がこれまで安定的に存在してきたのには多くの理由があるが、ここでは、「相互補完性(complementarity)」と「履歴現象(ヒステリシス=hysteresis)」という二つを使って説明しよう。「相互補完性」という概念は、「相互に依存しあいながら存在している」という状態を指す。つまり、日本型雇用慣行の三つの部品は、それぞれが独立に存在しているのではなく、お互いにその存在を支えあいながら続いてきたということである。

 典型的なものは、「長期雇用」と「年功賃金」の相互補完性である。年功賃金のもとでは、年齢が若い時は「実際の働きより実入りが少なく」、その分を年齢が上がってから「働きの割には実入りが多い」ということで取り戻していると考えられる。それが可能になるのは、同じ企業で働き続けるという前提があるからだ。働く方から見ると、途中で会社を辞めてしまうと、「元を取れない」ことになるので、同じ企業にとどまる強いインセンティブが生じる。これを企業サイドから見ると、年功賃金は、いわば将来の賃金上昇を人質にして、労働者を企業内に囲い込んでいるのだと言える。

 オン・ザ・ジョブ・トレーニングと長期雇用の間にも相互補完性がある。企業が時間とコストをかけて従業員を訓練していくと、従業員はその企業にフィットした人材になっていく(これは「企業特殊的=firm‐specific」な人材形成と呼ばれる)。企業の方では、せっかく人材育成の投資をしてきたのだから、いつまでも自社で働いてもらう必要がある。一方、企業特殊的な能力を身に付けた労働者は、その企業の外に出ると自分の価値が下がってしまうので、ここでもいつまでも同じ企業にとどまろうとする強いインセティブが生まれる。

年功賃金、長期雇用、定年がワンセットで実現

 もう一つの「履歴現象(ヒステリシス)」というのは、現在の状況が、現在の環境だけではなく、過去の出来事によっても影響を受けているという状況をさす。例えば、Aという環境条件の下で最適な姿としてBという状態になったとする。そのAという環境がCへと変化した時、Bがすぐに変化するかというとそうはならないで、Bのままでいることがある。これがヒステリシスである。たまたまある理由で存在したものが、長く続くにつれて次第に社会に当然のこととして根づいてしまい、いわば惰性で変わりにくくなってしまうわけだ。

 典型的な例がタイプライターのキーボードの配列だ。キーボードにおけるアルファベットの配列は、リボン式のタイプライターの時代には一定の合理性があったようだが、パソコン時代になると、現在の配列にしなければならない理由はない。しかし、多くの人はこの配列に慣れてしまったので、今さら変えることができなくなり、特に理由のない配列がいつまでも維持されることになる。

 日本型の雇用慣行にも同じようなところがある。あまりにも長く現在の慣行が続いたので、多くの人がこれを当然の前提として考えるようになっている。そもそも「これは人為的な慣行なのだから、時代の要請に合わせて変更すべきだ」と考えないのである。

 「定年」という仕組みもにそんなところがある。私には次のような経験がある。大学で期末のテストをしたとき、貯蓄行動のライフサイクル仮説を描いた図を示し、「仕事を辞める時」を空欄にしておいて、これを埋めるという問題を出したことがある。すると、かなり多くの学生が、これに「定年」と回答したのだ。つまり、多くの学生は「自分が仕事を辞める時は、定年になった時だ」としか考えていないのだ。

 しかし、「定年」という仕組みは、我々自身が制度的に作り上げたものである。現に米国では、定年は年齢差別禁止法によって禁じられている。要するに「ない」という選択もありうるのである。

 ではなぜ、日本では定年が一般的に存在するのか。これは日本の賃金に年功的な色彩が強いからだ。年功的な賃金体系の下では、前述のように、労働者は年齢が上がってから相対的に高い賃金を受け取ることによって若い頃の低賃金を相殺する。しかし、長期雇用の下でこれをいつまでも続けていると、企業は割高な賃金をいつまでも払い続けなければならない。そこで、一定の年齢を区切って、強制的に退職してもらう仕組みが必要となる。こうして、日本型雇用慣行の下では、年功賃金、長期雇用、定年がワンセットで実現することになる。

 以上、日本型雇用慣行が強固に続いている背景として、「相互補完性」と「履歴現象」という二つの要因を指摘した。要するに、この二つがあるために、日本型雇用慣行は変わりにくいのだ。日本型雇用慣行を構成する諸要素は相互に補完性を持っているから、一つの部品だけを取り換えるわけにはいかない。するとどうしても全体をワンセットで残すことになりやすい。また履歴現象が強いので、人々はそもそもこうした慣行を変えるつもりがない。

 これに加えて、多くの人々は現在の慣行を「続けたい」と考えているようなのだ。

根強く支持されている日本型雇用慣行

 日本型の雇用慣行は、多くの人の支持を得ているようだ。この点について、私が最近目にした調査としては、労働政策研究・研修機構の「第6回勤労生活に関する調査」(2012年5月)がある。

 この調査によると、「終身雇用」(一つの企業に定年まで勤める日本的な終身雇用)を支持する割合(これを「良いことだと思う」「どちらかといえばよいことだと思う」の合計、以下同じ)は、87.5%となった。これは1999年にこの調査が始まって以来の最高値である(99年は72.3%だった)。

 さらにこれを年齢別に見ると、若者の「終身雇用」支持率が上昇している。すなわち、2004年までは、かなり明確に年齢が上がるほど「終身雇用」支持率が高いという関係があった。例えば、2004年調査の場合、20〜29歳層の支持率が65.3%であるのに対して、60〜69歳は82.6%となっており、その差は17.3ポイントもあった。ところが2007年調査では、これが5.4ポイントに縮まり、最新の2011年調査では5.2ポイント差となっている(20〜29歳層84.6%、60〜69歳層89.8%)。

 「年功賃金」についても全く同じである。全体として「年功賃金」を支持する割合は74.5%だったのだが、これも1999年にこの調査が始まって以来の最高値である(99年は60.8%だった)。年齢別に見た姿も、終身雇用と全く同じであり、若者の支持率が上昇している。すなわち、2004年までは、かなり明確に年齢が上がるほど「年功賃金」支持率が高いという関係があった。例えば、2004年調査の場合、20〜29歳層の支持率が56.1%であるのに対して、60〜69歳は69.5%となっており、その差は13.4ポイントあった。ところが2007年調査では、これが逆転して20〜29歳層75.5%、60〜69歳層72.4%となったのだ。そして最新の2011年調査では年齢別による差がほとんど見られなくなっている(20〜29歳層74.5%、60〜69歳層75.5%)。

 同様に、望ましいと考えるキャリア形成についても、一企業型を支持する向きが増えている。この調査では、望ましい職業キャリアを「一企業キャリア」(「一つの企業に長く勤め、だんだん管理的な地位になっていくコース」と「一つの企業に長く勤め、ある仕事の専門家になるコース」の合計)、「複数企業キャリア」(いくつかの企業を経験して、だんだん管理的な地位になっていくケース)、「独立自営キャリア」(「最初は雇われて働き、後に独立して仕事をするケース」と「最初から独立して仕事をするコース」の合計)という三つに分けてその支持率を出している。

 その結果によると、2011年調査では「一企業キャリア型」が50.3%で最も高い。これも調査開始以来の最高値である。「複数企業キャリア」は24.4%、「独立自営キャリア」は11.3%であった。

 これを年齢別に見ると、詳しい数字は省略するが、かつては一企業キャリアの支持率は若年層ほど低く、複数企業キャリアは若年層ほど高かった。しかし、最新の調査では、20〜29歳層の複数企業キャリア支持率が大幅に低下し、一企業キャリア支持率が大幅に上昇するということが起きている。

保守化傾向を強める若年層

 以上をまとめるとこういうことである。日本の労働者は、終身雇用、年功賃金、一企業内でのキャリア形成という雇用慣行を支持する割合が高く、その支持は近年さらに高まっている。特に若年層の変化が激しい。これまで、若年層は、高齢層に比べれば相対的に、終身雇用、年功賃金ベッタリではなく、一企業キャリアにこだわる程度も低かった。考えてみればこれは自然である。若年層は、自分の将来の可能性を信じる度合いが強く、自分のキャリア機会を広く捉えるから、終身雇用や年功賃金にこだわる度合いは低く、複数企業をまたがるキャリア形成もありうると考えると思われるからだ。

 しかし、近年の若年層は急速に保守化傾向を強めており、日本型雇用慣行を好むようになっている。おそらく、卒業時点での雇用情勢が厳しく、安定的な就職先を確保するのに大変な苦労したので、入ったからには雇用を守って欲しいと考え、一企業内でのキャリア形成で十分だと考えるようになったのではないか。

 このこと自体の是非はともかくとして、社会の革新者であるべき若年層もまた日本型雇用を支持しているのだから、その改革は非常に難しいということになる。

(次回も引き続き、日本型雇用慣行について考えます。次回は、日本型雇用慣行が持つ問題点について考えます。掲載は10月31日の予定です)


小峰 隆夫(こみね・たかお)

法政大学大学院政策創造研究科教授。日本経済研究センター理事・研究顧問。1947年生まれ。69年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。2003年から同大学に移り、08年4月から現職。著書に『日本経済の構造変動―日本型システムはどこに行くのか』、『超長期予測 老いるアジア―変貌する世界人口・経済地図』『女性が変える日本経済』、『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』、『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』ほか多数。新著に『最新|日本経済入門(第4版)』


小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか

進まない財政再建と社会保障改革、急速に進む少子高齢化、見えない成長戦略…。日本経済が抱える問題点は明かになっているにもかかわらず、政治には危機感は感じられない。日本経済を40年以上観察し続けてきたエコノミストである著者が、日本経済に本気で警鐘を鳴らす。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121014/238028/?ST=print

 【第296回】 2012年10月17日 
いつまでも会社にいるアイツは何をやっている!?
職場にはびこる「ムダ残業社員」撃退法
仕事と生活の調和を図る「ワークライフバランス」への関心の高まりや、不況の影響、節電意識の高まりなどから残業時間の削減を徹底する企業が増加している。しかし実際には、必要もないのにいつまでも会社に残り、無駄な残業を続けている社員も少なくない。こうした社員に対して、管理職はどう対処すれば無駄な残業を止めさせることができるのか。これまで多数の民間企業で残業削減やワークライフバランスに関するコンサルティングを行ってきた日本能率協会総合研究所の広田薫主幹研究員に話を聞き、無駄な残業をしている社員をタイプ分けし、それぞれの対処法を明らかにする。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

残業代がほしいだけ?だらだらネット?
今すぐ止めさせるべき4つの残業

――仕事に対する意識や方法を見直すため、残業規制や「ノー残業デー」などの取り組みをし、社員の無駄な働き方を改める企業が増加しています。しかし、未だに無駄な残業を続ける社員が非常に多いのも事実です。実際、どのような残業社員が職場にはびこっているのでしょうか。


ひろた・かおる
日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部主幹研究員。1962年神奈川県横須賀市生まれ。1985年中央大学法学部卒業。2003年法政大学大学院政策科学専攻修士課程修了(政策科学修士)。厚生労働省などから労働時間管理に関するプロジェクトを20年以上にわたって多数受託・研究。民間企業に対する残業削減、ワーク・ライフ・バランス推進といったテーマの研修・コンサルティング・ソリューション提案などにも豊富な実績を持つ。著書に『経営環境の変化に応じた労働時間管理の進め方(厚生労働省「労働時間制度改善セミナー」テキスト)』(全国労働基準関係団体連合会)、『義務化!65歳までの雇用延長制度導入と実務』(2004年7月発行:日本法令)がある。
 残業は、大きく「必ずすぐに止めさせなければならない残業」、「仕方ないと思わずに止めさせなければならない残業」、「仕事に対する考え方を変えないといけない残業」、「必ずしも悪いわけではない残業」の4種類に分けることができ、さらに詳細には合計9つのタイプが考えられます。

 まず、「必ずすぐにやめさせなければならない残業」として挙げられるのが、「生活残業」「罰ゲーム残業」「付き合い残業」「ダラダラ残業」です。

「生活残業」とは、仕事があるわけではないのに、残業代がほしいために遅くまで働いていることで、これはすぐにでも止めさせなければなりません。

「罰ゲーム残業」は、成果を上げている人が遅くまで会社に残って働いているので、あまり成果を上げていない人が後ろめたさを感じて、特にやるべき仕事がないのに帰りづらくなるものです。残っていても仕方ありませんので、こうした人には、早く帰って自分は何をした方がいいのか、職場を離れて冷静に考えてもらった方がいいでしょう。

「付き合い残業」とは、上司・部下・同僚が残業していると帰りづらいため、ついつい付き合ってしまうものです。上司は部下が心配であるが故に遅くまで会社に残るケースも多いですが、逆にそれが部下の負担になっていることもあります。ですから、上司が部下をフォローする必要があるならフォローし、必要がなければ自ら率先して帰るようにしましょう。互いに声掛けをしながら慣れ合いや依存心を排除し、仲良く職場に留まる雰囲気を打破する必要があります。

「ダラダラ残業」は、仕事の密度が薄いために生まれる残業で、これもすぐに止めるべきものです。ネットを見たり、給湯室で長々と話をしたり、煙草を吸いに行ってなかなか戻らないといった経験はないでしょうか。もちろんコミュニケーション自体を否定するわけではありません。ですが、こうした仕事の仕方は癖になる可能性があり、いざというときにしっかりやればよいと思っても頭と身体がついていきません。伸びきったゴムがこれ以上伸びないようなイメージです。

 対策としては、TODOリストに記入する際、それぞれのタスクに、どれほどの時間がかかるかを合わせて書く方法がおすすめです。毎日帰る際に、時間内にやるべきことが終わったかどうかを確認し、仕事の仕方が悪かったのか、余計なところまで調べすぎたか、などを反省する習慣を持つとよいでしょう。

締め切り間際に残業する社員を
「仕方ない」と思ってはダメ!

 次に、「仕方ないと思わずに止めさせなければならない残業」として挙げられるのが、「なりゆきまかせ残業」です。スケジュールも満足に立てずになりゆきまかせに仕事をし、締め切り間際になっても仕事が終わらず、結局最後は遅くまで残業をしなければならない状況を指します。確かに締め切り後の達成感はありますが、翌朝や2、3日後に見ると直すべきところが見つかり、後悔することも少なくありません。

 ではどうすればいいのでしょうか。締め切りを延ばせばいいというわけではありません。結局、締め切りを延ばしても間際でないと仕事をしないからです。ですから「なりゆきまかせ残業」をしがちな方には、締め切りを意識させるのではなく、いつから仕事を始めるかを意識させるといいでしょう。上司に報告するなどの小さい締め切りをいくつか用意し、タスクを小さく区切ってスケジューリングすると改善に向かうはずです。

同僚・後輩に仕事を取られたくない!?
“忙しさ自慢”をする「抱え込み残業社員」

 3つ目の「仕事に対する考え方を変えないといけない残業」には、「自己満足残業」と「独りよがり残業」、「抱え込み残業」があります。

「自己満足残業」とは、毎晩遅くまで真面目に仕事をしているものの、重要な部分とそうでない部分を見極めることができず、すべてを完璧に仕上げようとするために時間がかかってしまう人にありがちな残業です。こういう人は、それなりの評価を得ているものの、今一歩伸び悩んでいることもあります。心配症な方もいると思いますが、やらなくてもいいことは無限大にありますから割り切りが重要です。本当にやるべきことは何か。そのためには何が必要かストーリーを作ってから、必要な資料や準備したうえで仕事に入るように流れをつくりましょう。

「独りよがり残業」は、自分ひとりの思い込みで仕事をして、納期間際に出てきたものが本来の狙いからはずれてしまい、結局やり直すことになって生まれる残業です。これは最近の景気悪化の中で入社してきた優秀な若手社員に多いようです。なぜなら、優秀であるがゆえに、独善的で自信過剰である可能性があるためです。

 例えば、顧客や上司から仕事の依頼を受けた場合、客や上司と意向をすり合わせることなく、自分なりの解釈で最後まで進んでしまいます。それが方向性を誤っていれば、客や上司のニーズとかけ離れてしまうため、残業によってやり直しをせざるを得ないのです。こうした社員については、最初に仕事を受けた段階で、仕事のアウトプットのイメージや結果に至るまでのロードマップを作って、顧客や上司とすり合わせをさせるべきでしょう。その際、進捗状況の報告も行うようにさせて、正しい仕事の仕方を身につけるように導く必要があります。

「抱え込み残業」とは、自分しかできないと思い込んで仕事を抱え込んだり、仕事を渡すと自分のポジションが奪われるという強迫観念からくるもので、2つのパターンが考えられます。

 1つは、前者の自分しかできない仕事と思い込んで仕事を抱え込んでしまうケースで、ベテラン社員の方に多いといえます。その方がそうした高みに至ったのは称賛すべきことです。しかし、その方が退職をされたりすれば、仕事が回らなくなり、企業にとってのリスクは大きいといえます。対策としては、若い人を育てるのもあなたの仕事だと説得し、できるだけ若手社員と一緒に仕事をする中で継承をしていくべきでしょう。即仕事を引き継ぐことは難しいですが、仕事を切り分けて、最初に簡単なところから引き継いでいくように会社として取り組んでいくべきでしょう。

 前者よりもタチが悪い「抱え込み残業」は、仕事をほかの社員に渡すと自分のポジションが奪われるという強迫観念から、仕事をなかなか同僚や後輩に渡さないものです。あなたの周りに、「忙しさ自慢」をしたり、上司や同僚が「手伝おうか」と声をかけても「大丈夫」と言う人はいないでしょうか。忙しさ自慢をしながら手伝いを断るのは、自分のやっている仕事を人に見せたくないから。量はあっても質的に高くないことがばれて、仕事が取られることを恐れているためです。

 こうした人は表面上、一生懸命仕事をして数字も挙げているように見えますが、ずっと同じことを続けていたら、その仕事がなくなった場合にどうするかといったリスクもあります。上司はそうしたリスクについても部下に気付かせるべきでしょう。

若手社員の残業規制のやりすぎは問題?
一人前になるために必要な「がむしゃら残業」

 最後に「必ずしも悪いわけではない残業」といえるのが、「がむしゃら残業」です。最近、残業削減の流れのなかで誰もが定時に帰るべきいう風潮がありますが、それは間違っていると私は考えています。

 大企業では残業の抑制が新入社員にもある一方、ベンチャーや中小企業に入った新入社員は遅くまで仕事をしています。大企業の新入社員は、それに対して若い時にもっと一生懸命に仕事をしないと一人前になれない、でも会社から残業するなと言われて、本当に自分は将来大丈夫かと不安がり、ひいては不満を抱いているのです。

 私は、若いうちの残業はそれほど規制する必要はないと考えています。職業人としての生涯は長く、若いうちにこれで食べていきたいと言える仕事を見つけないといけません。そのために、若いうちは一生懸命仕事をして、上司やお客に怒られたり、難しい仕事も苦労しながらするなかで、早く一人前になる努力をして、成し遂げたときの喜びを感じたいもの。その段階で多少の残業は構わないのではないでしょうか。

 ただし、遅くまで会社に残るのを奨励すればいいわけではありません。正しい仕事の仕方を若いうちから身につけさせる必要があります。例えば、育児をするようになれば、働く時間に制約が生じるでしょう。そのときのためにも、限られた時間のなかで最大の成果を出せるような仕事の仕方を若いうちから身につけることは重要なのです。

適切な仕事の割り振り、進捗管理ができているか
イマドキの上司に足りないものとは

――ではこうした残業社員を減らすため、上司はまず何から取り組めばよいでしょうか。

 マネジメントとは、部下の能力や育成を加味して、仕事の適切な割り振りと指示をし、目的通りに終わるよう進捗管理をすることです。しかし今、マネジメントができている管理職は非常に少ないように思います。

 なぜなら、管理職がプレイングマネジャーになっているからです。プレーヤーとしても優秀な上司は、部下を指導するくらいなら、自分で数字を上げればいいという考えを持っている場合もあります。だからこそ、上司から指導を受けられずに孤立してしまっている若い人がどんどん辞めているのです。管理職の方には、本来はマネジメントの方が重要だと知ってもらわないといけません。

 仕事の配分と進捗管理ができれば、残業は自ずと減ります。なぜなら、残業が発生するのは、仕事が当初の計画通りに行っていないからです。その原因を見極めて、上司が部下に指導をすれば、問題が解決するとともに、残業も減っていくでしょう

 残業が多いもう1つの原因は、仕事の仕方に無駄があることです。進捗管理をするなかで、先ほど挙げたように残業する部下をタイプ分けして、タイプに応じてアドバイスをしていかなければならない。

 残業が少ない部門では、上司と部下の対話がうまくいっているといえます。なぜなら、部下が何をやっているか、何に悩んでいるのか、どういう仕事の仕方をしているのか、理解しているからです。プロの選手にはコーチがいますが、コーチは試合には出ません。ふさわしい練習で選手の能力を伸ばし、必要に応じてアドバイスをしています。上司とは、そういう役割なのです。

――とはいえ現代では、自然な形で上司と部下の間の対話を増やすことは難しいように感じられます。

 やはり会社として残業を削減するために対話を増やす仕組みをつくるべきです。多くの会社では就業管理システムを導入し、部下はシステム上で残業申請をするものの、上司はろくに見ずに承認のリターンを押して人事に送るケースが多いようです。しかし、それでは意味がありません。

 実はキヤノンは、残業時間管理票を紙で提出する仕組みを取っており、夕方、上司に口頭で残業理由を報告する仕組みをあえて作っています。そうしたことで自然と会話やアドバイスも生まれ、残業も減っていきます。

 また神奈川県庁は、役所のなかでも残業削減にいち早く取り組んだところです。青と赤と黄の色に分かれたカエルバッチの装着で残業時間の管理をするとともに、バッジの交付個数を限定することで、優先業務を明確化して無駄な残業を削減しています。

 その他、昼休み終了後、段取りタイムをつくって1人3分ほど上司と部下が仕事内容について確認し合い、残業の必要性や他の人との仕事の調整をする会社もあるので、こうした取り組みを企業として参考にするとよいでしょう。
http://diamond.jp/articles/print/26413

 

日本人が想定外の問題に対応できない本当の理由

齋藤ウィリアム浩幸さんに日本の問題解決の方法を聞く【1】

2012年10月17日(水)  飯村 かおり

国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、国家戦略会議フロンティア分科会など、日本の問題解決にかかわる会合にひっぱりだこの齋藤ウィリアム浩幸氏。米ロサンゼルス生まれの日系二世で、現在は自ら創業したベンチャー支援の会社でスタートアップ企業の支援を行っている。課題先進国と言われて久しい日本。なぜ問題解決ができないのか、なぜイノベーションが起きないのか。齋藤氏に聞くと、それは「日本にはチームがないから」と語った。“仲間”でもなく“グループ”でもないチームとは何かを聞いた。
齋藤さんは国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会、国家戦略会議フロンティア分科会と国の仕事に携わりました。
 そういった議論の過程で、内容がおとなしいことに驚いてしまったほどだと聞いています。齋藤さんが見る日本組織の問題点とは何でしょうか。

齋藤:1つは失敗を恐れ過ぎて何も言えない、実行ができない状況になっていることです。国家戦略会議でもスタート時点からその点について疑問を呈しました。実は会議が始まる前に、事前にメールでいくつかの問題が提示され、どう解決するかについて、前もって答えを提出してほしいということでしたが、私はそれに反対しました。

 問題を提起して、それに対してソリューションを出すことが大事なのではないと。日本人は既に何が問題かはほとんどの人は分かっているんです。場合によっては、解決策も分かっている。本当の問題は、なぜそれが実行されないかということです。実行の方法について、ほかの参加メンバーと議論したいと申し出ました。


齋藤ウィリアム浩幸(齋藤・ウィリアム・ひろゆき)氏
1971年ロサンゼルス生まれの日系二世。16歳でカリフォルニア大学リバーサイド校に合格。同大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部卒業。高校時代にI/Oソフトウエアを設立。指紋認証など生体認証暗号システムの開発で成功し、2004年会社をマイクロソフトに売却。日本に拠点を移し、ベンチャー支援のインテカーを設立。ドバイなど世界3カ所にオフィスを持つ。1998年アーンスト・ヤング主催のアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー米国大会でヤング企業家賞を受賞。2012年に国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の最高技術責任者と国家戦略会議フロンティア分科会「繁栄のフロンティア」分科会委員を務める。著書に“An Unprogrammed Life:Adventure of an Incurable Entrepreneur”。近著は『ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く』
(写真:的野弘道、以下同)
それに対して反応はどうだったんですか。

齋藤:日本の政府で仕事をするのは初めてだったので非常に勉強になりましたが、アメリカと違うなと思ったのは、英語で言う「バイトサイズ」、個々の問題提起をしたほうが話しやすいということです。

 問題の本質は問題提起から解決方法に至るプロセスにあって、問題の定義の仕方、議論の進め方、そして、法案に落とし込んでいくという政治プロセスを今一度見直したほうがいいと主張しました。しかし、なかなか難しいことなので、具体的な問題をいくつか出して、それについて議論しましょうという話に結局は戻りました。分かりやすいキャッチフレーズに落として話をしようということです。

なぜ、そうしないと議論が進まないのでしょうか。

齋藤:結局、参加している委員の方も、皆さん何らかのステークホルダーなので、農業だったら農業、文化だったら文化と、英語で言うところの「ペットプロジェクト」を持っています。それを守りたい、むしろ売り込みたいということもあると思われます。

 もちろん、そういう気持ちは分かります。僕にもアントレプレナーシップという守りたいテーマがあります。でも、それは脇に置いておいて、もっと俯瞰して考え、提言することが私の役目だと思いました。それもグローバルな視点で。

なぜ、日本の組織は、問題も、問題の解決策も分かっているのに実行に移せないのでしょう。

齋藤:減点主義の社会の在り方に慣れて、失敗を恐れているからです。何をやるにしても、リスクをできるだけ少なくしようとして、自分の評価を下げないようにする。それはイコール、何もやらないことになります。

 結局、議論のプロセスが変わることなく報告書を出すことになってしまったことはちょっと残念でした。Aという問題に対して、いくつかの実行案は示されたので、それはそれでいいんですが、どう実行するかという議論まで踏み込めなかったことが心残りです。

日本の組織の前では、イノベーターである齋藤さんも歯が立たなかったということでしょうか。

齋藤:誰とは言わないけど、わざわざ議事録のしゃべった時間を計算した人がいたのですが、それによると私は結構しゃべった方でした。パッションを持っていろいろ提言したのですが、実際にそれが報告書に反映され、外部にお伝えするということについては、まだまだ力不足でした。ただ、すごく勉強になったので、これから政治家や官僚の方と話をする際には役立つと思います。

国だけでなく、組織が問題解決できないことの原因に、チームの不在があると齋藤さんは言っています。何かを解決したり、何か新しいことを生み出したりするためには、チームが必要だと。そして、日本にはあらゆる面において、チームがなくて、そのことが問題解決ができない、イノベーションが生まれない原因だと言います。
 そもそも、齋藤さんがおっしゃるチームというのは、どういうものなんでしょうか。

イノベーションは失敗の積み重ねの末に生まれるもの

齋藤:最近、世界経済フォーラムや、サマーダボス、OECDといったところでいろいろ話をする中で、チームの考え方も広がってきました。また、なぜチームづくりがイノベーションにつながるのかについて話してくれと頼まれることがすごく多くなりました。

 イノベーションがいきなりぽっと生まれるということは、今までの人間の歴史上なかったことです。イノベーションというのは、いろいろな研究や失敗の積み重ねの過程で「たまたま、運よく」生まれるものであって、いきなりイノベーションが「できた、生まれた」ということはありません。長いプロセスにおける数々の失敗のおかげでイノベーションは生まれるのです。

 だから、国家戦略会議の会合でも、イノベーションという言葉は失敗という言葉と一体として理解されない限り使ってはいけないと強く提言しました。失敗ということが許されなかったら、イノベーションはあり得ません。イノベーションは必ず失敗と隣り合わせで、失敗したとき、どうやってほかのメンバーに助けてもらうか、どのような役割分担で助け合えるかが大事で、それができるのがチームなんです。

失敗したときに、失敗をカバーし合うのがチームということでしょうか。

齋藤:もっと言うと、アントレプレナーシップというのはアイデアを実行するプロセスです。よくアントレプレナーシップはリスクテイカーと言いますが、私はリスクテイカーと言うと、わざわざ好んでリスクを取ることのように捉えられて誤解されると危惧します。そういうことではありません。

 本当のアントレプレナー、あるいは本当のイノベーターというのは、わざわざリスクは取らない。リスクをはかって、そのリスクをどう防ぐかを考える存在なんです。


齋藤:ただ、そのリスクを完全に防ぐことは難しい。時々、想定外の問題が起こる。全てのリスクについて、前もって手を打てるかどうかと言うと、それはできない。そこで、リスクが発生する度に、微調整したり、対策を打ったりするのがチームなのです。いろいろな人の意見を聞き、議論し、完全ではないけれどもベストソリューションを探すプロセスです。イノベーションはこういったプロセスそのものを指す、ということもできます。

 これまで数多くのアイデアを見てきましたが、1人でイノベーションを実現しているという例は世の中にほとんどありません。必ず2人とか3人で始めている。最近はノーベル賞も1人で受賞するケースは少なくなっています。お互いの意見を聞きながら、お互いの意見を足し算したり、掛け算したりして、リスクを分散して、対策をたて、具体的な成果につなげるプロセスがチームの一番大事な部分なんです。

チームにはダイバーシティーがとても大事

いろいろな意見とか、いろいろな人がいるというのがチームには重要なのでしょうか。

齋藤:そうなんです。ダイバーシティー、つまり多様性というのがチームには不可欠です。日本は残念ながら、多民族国家であるアメリカに比べてダイバーシティーが非常に少ない。個々の頭脳レベルは高いけれど、組織の在り方は、ダイバーシティーに欠けていると思います。年齢や性別に関係なく意見を普通に伝え、お互いに普通にコミュニケーションできる組織もめったにないし、そのような組織・企業風土もない。悪いことは悪い、間違っていることは間違っている、リスクはリスクと、誰もが自然に言える環境にしないとまずい。そういったコミュニケーションがまともにできない結果が今の日本の閉塞感を招いていると思います。

同じような経歴の人ばかりとか、男ばっかりとか、女ばっかりとか、同じような人が集まってもイノベーションが生まれないのはなぜですか。個々の人はみな、優秀だと思いますが…。

齋藤:同じ畑から出た優秀な人というのは、グループ構成員としては合っているんです。同じ人が1ミリずつ物をこつこつと良くしていく。改善という言葉がありますよね。英語で言う、インクリメンタルイノベーションをやっていくという面では合っています。

 グループという概念、グループという組織は悪くはないんです。例えば、高度成長の時代にはグループはすごく合っていました。ただ、時代が変わっていくとき、グループの目標である改善という概念は使えません。グループの場合は、今までのやり方を守る力が強くなりますが、ちょっと変わった人が新しい目標設定について考えるイノベーションには合わない。しかも、時間軸がすごく短くなっていて、イノベーションの方法がどんどん進んでいる中では、改善の結果イノベーションを生むことを待っている暇はもうないんです。

 時間軸が短くなっただけでなく、世界のあらゆるところでいろいろな変化が起きている。そんな中で、ゆっくりと微調整していく時代ではもうなくなったのです。

これまでの方法を踏襲するためのグループではなく、イノベーションを生むチームをつくるためには、女性の登用がカギだとおっしゃっていますね。

齋藤:OECDの中でも日本は、女性と一緒に仕事することについて遅れています。女性がキャリアをつくるのがシステム的に難しいんですね。女性がもっと活躍できるようにするだけでもGDPが15%も伸びるというデータもあります。

 日本の学生と話していて思うのですが、男性は、大学に入って、卒業して、就職して、課長になって、家を買って、結婚して、部長になって……という、エスカレーターに乗らないといけないという社会的ルールがあるようですね。

 一方女性はそういったルールに基づかない生き方ができる自由が男性よりあるようです。結婚相手を探して専業主婦になるのがいいという雰囲気も最近感じますが、そうではなく、海外で勉強をしたり、冒険したりして自分の世界を広げている女性は多い。本当は男性もそういう経験をするべきなんですが、組織に縛られていると、そういう余裕がない。

齋藤:もう1つ大事なのは、日本人の人口に女性が占める割合は51.4%なんです。わずかながら男性より人口も多いんですよ。結構、財布を握っているのは女性です。消費行動の主役は女性です。なのに、女性向けの物を作るための会議に女性がいなかったら、ちょっと変です。いくつかの会社の経営会議に出席した中で、この製品を女性に売ろうと言いながら、その会議の中に女性が1人もいないということが時々あるんですよね。女性のマインドセット(気持ちのあり方)を経営とか製品・サービスに反映しないと意味がありません。

女性自身がダイバーシティーを身に付けているということですね。

齋藤:はい。それに、女性であるということで、考え方とか価値観とか問題の処理の方法とかも違わけですが、今までそれを経営ストラクチャーに反映してこなかったことはもったいないと思います。

先ほど、チームでは率直にコミュニケーションができることが大事だとおっしゃいましたが、女性はコミュニケーションの面でも重要な役割を担うのでしょうか。

齋藤:チームを言い換えれば、コミュニケーションと言ってもいいというぐらいで、コミュニケーションはチームにはすごく大事な要素です。

 チームが動く根本はコミュニケーションをすることなんです。遠慮なく、ちゃんと言うことを言うというのが基本です。新入社員や大学制のインターンが企業の会長に向かって「これは違うんじゃない?」と言えるぐらいのことです。

女性はそういったコミュニケーション能力が高いということですか?

齋藤:アメリカでもよく言われますが、女性のEQ(心の知能指数)は男性より高いそうです。ただ、男性社会の中に、たった1人の女性を投入しても、なかなかうまくいきません。

 私は世界経済フォーラムの特別委員をしていて、女性の雇用問題を話し合うグループに入っていました。メンバーのうち14人が女性で私だけが唯一の男性です。これはすごいプレッシャーでした。相手は実務経験もキャリアも豊富な女性たちですから。

世界トップクラスの女性が集まる会議で出た結論とは…

 そこで、女性役員がいない上場企業は上場を廃止させてはどうか? という提言について話し合っていたときのことです。では、何人女性役員が必要かという話になりました。1人でも女性役員がいなければだめだ、というメッセージにしようと言ったら、「それはだめです」と、ある企業の女性副社長が言った。女性が1人だけだと、しゅんとなってしまって、言いたいことも言えなくなるから効率がよくないと言う。

 じゃあ、2人ならどうかと言ったら、ノルウェーの女性が「うちも10年前ぐらいに女性官僚を2人にしたけれどもだめでした」と言う。なぜなら、女性が2人だと女性同士でけんかしちゃうからだという。

 結果、3人が最少人数で、ベストは4人ということになった。世界のトップクラスの女性が集まった会議でダイバーシティーの議論ができて、ファクトとしてこういうことが分かった。これを日本で日本人の男性だけの会議で議論していたら、こんな結論は出てこないでしょう。

齋藤:日本の大企業のチームづくりを手伝ったことがありますが、女性を入れたけれど、うまくいかないということが多い。私は責任を与え、女性を受け入れるチームの環境をつくってあげないといけないと提言しました。女性、女性と言って女性をただ組織に入れるだけではだめ。日本ではその後のフォローがなさ過ぎるんです。

 女性、女性と言って女性をただ組織に入れるのは逆効果で、なぜ女性を入れるのかの趣旨を分からせ、女性が活躍できる環境をつくらなければいけない。ノルマを果たすようなやり方で女性を組織に入れるだけで終わってしまうのはよくない。

 日本人は「WHAT」が好きなんです。女性を入れるなど、これやれ、あれやれと言われるのは好きで、みんなきちんとやりますが、「WHY」を知らない。なぜやるのかを考えないのです。

 チームは「WHY」を引き出すことがポイントなんです。グループは「WHAT」を聞いて、はい、分かりましたと言って1ミリ削る。チームはなぜ1ミリ削らないといけないかを考え、チームのメンバーとコミュニケーションしながら、「なぜ」を見つけていく。つまりコミュニケーションを密にとって解決策を見つけるのです。

その「なぜ」を見つけていくプロセスがイノベーションにつながるのですか。

齋藤:イノベーションにもつながるし、問題処理にもつながります。

 想定外とか例外処理に日本が弱いのは、「WHAT」はみんな知っているのに、「WHY」を知らないからです。何をするかではなく、なぜそれをするかを考えれば、どんな問題が起きても柔軟に対応できる。何をするかだけだったら、ただチェックリストの通りにしか行動できない。なぜを考え、知らないと、ちょっとでもマニュアルと違うことが起きると困ってしまう。

日本製の携帯電話が売れないことはみんな知っているんだけど、なぜ売れないかを知らない、というようなことですか。

日本人は「なぜ」を見つけられない人が多い

齋藤:なぜうちはiPhoneのような製品ができないのか、って、例えば品川の会社とかは思っているでしょう。でも、それは「WHAT」なんですね。何が売れないのかしか分かっていない。根本の「WHY」については考える余地がありそうです。

「WHY」である「なぜ」を見つけるのは難しそうです。でも、それは多様性のあるチームによって見つけられるのですか。

齋藤:そうです。日本のマネジャーは優秀なんですよ。「WHAT」をやることについては、誰にも負けない。でもマネジャーが管理職になって社長になると、それはマネジャー社長でしかなくて、「WHAT」はできる。けど「WHY」が分からない。

 方向性を決めるのはリーダーの仕事ですが、日本人の社長はそういうふうには育っていないんです。「WHY」を部下から聞き出せない。ほかの国ですと、「WHY」を聞き出すことができる。そして、その「WHY」に対してどう答えるかを決める人たちが社長になる。そうすると、世の中が方向転換しても、柔軟にリーダーシップを発揮できるのです。

(次回につづきます。掲載は、10月24日の予定です)


飯村 かおり(いいむら・かおり)

日経ビジネスオンライン編集長。


編集長インタビュー

日経ビジネスオンラインの編集長が、各界のイノベーターにインタビュー。さまざまな分野で幾多の困難を乗り越え、新しいことをなし遂げたイノベーターの方々の言葉の中に、日本、そして、ビジネスパーソン一人ひとりが抱える問題を解決するヒントを見つけてください。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121011/237930/?ST=print
 

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コメント
 
01. 2012年10月17日 05:35:53 : B6zVyjmuwU
男は子供っぽいから、恋人とか奥さんがホメたら実力以上の力を出すらしい。

昔風に言えば、カーチャンのためならエーンヤコラと。

そうやって所得を伸ばしてたんだろ。

そして子供が出来たら、なぜ、お隣は子供部屋があるのにうちにはないのよ。

とか、お隣の車は4人乗りなのにうちは2人乗りなのよ、とかいう風に、

しかたなく頑張らざるを得なくなって、GDPを押し上げてた。

モノもそうやって売上が伸びていった。

そういう体制を崩壊させて、男が稼ぐ気力を失わせたのが、

少子化の原因であったり、日本経済低迷最大の原因だろう。


02. 2012年10月17日 09:55:17 : cqRnZH2CUM
>>40歳定年制

差別的でなく効果的な社会保障や医療システムを実現し、効果的な労働参加が可能になれば、別に全員非正規でも問題はない

そして正規・非正規の区別は意味がなくなるのが望ましい

そうすれば、もっと日本も豊かになるのは間違いないだろうが

そのためには既得権にしがみつき、企業ブランドに拘る狭い発想は捨てた方がいいだろうな

オランダなどは参考になる


03. 2012年10月17日 10:43:55 : MdkRza1k1k

経済至上主義の馬鹿頭
効率史上主義のクソ頭

新自由主義の見本だな、流行カブレ。


04. 2012年10月18日 06:04:46 : 6kuobrWeYc
アップルでは社員は週90時間働いているとのこと。

5. 2018年1月25日 06:28:30 : wC11QOb7Q6 : c7nTPKXuR1w[11]
経歴詐称のとんでもない大ボラ詐欺男だったじゃないか。こいつを重用した人間の責任は?

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