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17年前から倍増している化学プラントの事故
2012年10月15日(月) 張 勇祥
9月29日、日本触媒の姫路製造所で起きた爆発事故。
死傷者が多く発生した被害の深刻さに加え、設備が止まっていることによる1日当たり1億5000万円の機会損失、高吸収性樹脂(SAP)の生産停止による紙おむつ供給への影響など、あらゆる利害関係者にとって厳しい出来事になった。当然、株価も大きく下げている。
日本触媒は5日に外部識者を中心とする事故調査委員会を設置。原因究明を進めるとしているので、現時点ではこれ以上は触れない。しかし、ニュースに接し、このように感じた人も少なくないだろう。「最近、化学プラントを巡る事故が増えていないだろうか」、と。
化学プラントの事故、17年前の2倍に
大きく報道されただけでも4月の三井化学、3月のエア・ウォーター、昨年11月の東ソーなどで死傷者の出る事故が発生している。統計を見てみる。消防庁が5月に発表した「平成23年の危険物に係る事故の概要の公表」によると、2011年、危険物施設における火災、流出事故の発生件数は585件(内訳は流出396件、火災189件)に上る。直近で最も事故が少なかった1994年の287件(流出174件、火災113件)の2倍の水準だ。
この間、事故件数はほぼ右肩上がりに上昇しており、一時的な現象ではないことは明らかだ。加えて、この数字は震度6弱以上の地震により発生した事故は除外している。やはり化学プラントの事故は増えているのだ。しかも、危険物施設の数そのものは2011年で45万5829と、1994年の56万790に比べ大きく減っている。
なぜ化学プラントの事故が増えているのか。1つひとつの原因は様々だが、NKSJリスクマネジメントの鈴木拓人主任コンサルタントは以下の4点を指摘する。
1.熟練技術者の大量退職による技術伝承の不足
2.設備管理、保全業務のアウトソーシング化
3.生産ラインの省力化やシステム化の進展
4.設備の経年劣化による老朽化、メンテナンスコストの削減
日本触媒はSAPの好調などで堅調な業績を保っており、過剰なコスト削減圧力にさらされているわけではない。むしろ、日本政策投資銀行から「防災」「環境」で最高ランクの評価を受けるなど、事故防止や被害最小化に向けて高い意識を持っていた。日本触媒をあえて例外としても、日本の製造業は円高や高い法人税、労働規制など、競争環境としては非常に厳しい。
企業は「生き物」として当然、自らが生存できる空間へと移動しようとする。生産拠点の海外移転や国内での経費節減は、この環境下では自然と起きることだ。これに団塊の世代の退職という人口動態上の要因が重なる。日本のモノ作りが局地戦では健闘していても、全体としてみれば衰退が始まっている。そう指摘されても反論はしづらい。
償却内投資が定着。潜在成長率を下押しか
もう1つ、傍証がある。
国内で「償却内投資」が定着し、生産資産の取り崩しが始まっているのだ。すなわち、民間投資(設備投資と住宅投資)は減少しているだけでなく、資本減耗を下回る水準まで低下している。この傾向はリーマンショックを受けた2009年以降、急速に鮮明になってきた。
もちろん、バブル期の過剰投資の調整がなお続いている可能性はある。しかし、生産設備の老朽化に歯止めがかからなければ生産性の改善が遅れ、日本の潜在成長率を下押しするシナリオすら浮上する。労働人口が減る日本においては、生産性の改善こそが命綱なのに、だ。
そこまで極論しなくとも、相次ぐ事故は日本のモノ作りに対する信認を揺るがすには十分だし、小さくないイベントリスクを抱えた日本企業に資金を預ける投資家も増えはしないだろう。
NKSJリスクマネジメントの鈴木氏は「設備の稼働率に余裕があるメーカーも少なくないのだから、例えば輪番での点検、補修をより高い頻度で行うなどの施策を地道に行うしかない」と指摘する。20年近くにわたり上昇し続ける化学プラントの事故件数を見ると、モノ作りの基盤が一朝一夕に崩壊することはないにしても、立て直しにも相当の時間がかかることが分かる。
警鐘は最大の音量で鳴り響いている。
(この記事は、有料会員向けサービス「日経ビジネスDigital」で先行公開していた記事を再掲載したものです)
張 勇祥(ちょう・ゆうしょう)
日経ビジネス記者
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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夏のセール「後ろ倒し」の余波
10月に夏物が投げ売りされる理由
2012年10月16日(火) 南 充浩
暑さ寒さも彼岸までというが、今年は本当に9月のお彼岸を境に猛暑が治まった。まだ昼間は汗ばむ陽気の日もあるが、朝晩はめっきり涼しくなってようやく秋物が動き始めたようだ。
そこで10月1日に店頭を見て回った。すると、夏物の半袖シャツや半袖Tシャツが投げ売りされている。例年だと9月末までには各社とも売れ残りの夏物は倉庫に格納するはずなのだが、今年は格納しきれないほど夏物が余っているのだろうか。
セール分散で夏物を処分しきれず
今年9月の洋服の売れ行きは概して悪かった。OEM(相手先ブランドによる生産)事務所を営む友人は「9月出荷分の注文はほとんどなかった」と話す。その原因については9月20日ごろまで続いた高気温があるが、9月の高気温は何も今年始まったことではない。この数年間ずっと続いている現象である。昨年は10月末くらいまで高気温が続いていた。今年は比較的早く暑さが治まった方である。
9月の売れ行きの悪さについて、暑さ以外に「夏セールの不振」が挙げられている。今年の夏セール不振は、大ヒットアイテムが見当たらなかったことのほか「セール時期の分散化による盛り上がりの欠如」にも原因がある。結局、夏物をそれほど消化できず、9月に入ってもその沈滞ムードが続いたというわけだ。
昨年末から三越伊勢丹ホールディングスやルミネは「セールの後ろ倒し」を主張してきた。それにより、今年夏のセールは伊勢丹三越が7月13日から、ルミネが7月12日からとなった。当初は、あっさりと業界全体がこの動きに追随するかと思われたが、実際はそうではなかった。
三越伊勢丹とルミネの本拠地がある東京はまだしも、関西圏はほとんどこの動きに追随しなかった。6月10日ごろから郊外型ショッピングセンターでセールが始まった。その後、あべのHOOPが23日から、天王寺MIOが6月28日から、なんばシティと心斎橋OPAとルクアが6月29日から、なんばパークスが7月7日から、というふうに五月雨式にセールが始まった。
郊外型ショッピングセンターのセール開始から伊勢丹三越のセール開始まで裕に1ヶ月以上の期間が空いている。これほど間延びすれば夏のセールが盛り上がらなくても当然である。
実際に体験して初めてわかったが、セールは商業施設同士の相乗効果がないとまったく盛り上がらない。周辺近隣のビルすべてがセールだから消費者は買い回るわけである。そこには買い物で高揚した精神状態がある。冷静に戻れば「どうして、こんなくだらない商品を買ってしまったのだろう」と後悔することもしばしばある。その場では一種の興奮状態に陥っているのだろう。
今回のようにセール開始時期がバラバラだと、消費者は目的のビルを覗いただけで買い物を済ませてしまう。けっして周辺まで足を伸ばそうとはしない。その結果、いつもより買う量が減る。7月から9月末まで店頭を定期的に見て回ったが、例年よりも賑わっていなかった。
年が明けると冬のセールが始まる。いろいろと問題はあっても、冬のセールは年間で最も盛り上がる商戦である。この開始時期についてルミネは、6月29日にすでに「1月17日から開始する」と明言している。三越伊勢丹は1月18日から開始する。
このルミネの発言は異様だ。6月下旬といえばまだ自社の夏のセールは始まってもいない。夏のセールの結果もまだ出ていないのに、早々と冬セール後ろ倒しを宣言している。「仮説→実行→検証」というのがビジネスの鉄則なのに仮説段階で次のスケジュールを決めている。検証する気がまったくないということである。
この発言でまたもや業界は右往左往するのかと思われたが、どうやらルミネと三越伊勢丹を除くほとんどの商業施設は例年通り1月2日からのセール開始となりそうだ。関西のある広告代理店の営業担当者によると「関西の主要施設はほぼ1月2日開始で足並みがそろうようです」とのことだ。百貨店でも既に高島屋が1月2日開始と発表している。
冬のセールは福袋の初売りとセールが同時スタートとなり、その相乗効果が見込める。もし、福袋の初売りと冬のセールを切り離してしまえば、まったく盛り上がらないだろう。とくに1月2日に目当てのブランドで福袋を買うと、ほとんどの消費者はそのまま初詣か新年のあいさつ回りに移動してしまうだろう。高島屋を始めとする各社が1月2日に冬セールを開始するのは賢明な判断だといえる。
セール後ろ倒しより商品サイクル見直しを
夏のセールは20年ほどまで7月中旬以降にスタートしていた。7月20日ごろに始まった時期もあったと記憶している。これが年々早まり、ついに6月下旬開始となってしまった。この状況に対して「もう一度、従来のセール時期に戻したい」という気持ちは分からないではない。しかし、この20年来の動きに消費者はすっかりと慣れてしまっている。今の30代以下はセールが7月1日で当たり前という環境下で育ってきた世代である。その幼少期からの感覚を変えるには、また20年くらいの時間が必要となる。三越伊勢丹とルミネはそこまで耐えきれるだろうか。
それに春夏物に関して言えば、もともとゴールデンウイーク明けからピタリと消費が止まっていた。5月10日から6月末日までは、セール待ちの買い控えでもっとも商品が動かない時期の1つである。ならば、6月下旬にセールを行い在庫を一掃してしまう方が効率的ではないだろうか。
そして、7月10日くらいからは晩夏初秋物を定価で投入して目先を変える方が良いのではないか。ここでいう晩夏・初秋物というのは長袖ではなく、半袖の夏向き素材で、色柄をやや秋っぽいものに変えた商品のことを指す。どうせ9月下旬まで暑さは続く。ならば、7月10日前後から晩夏・初秋物を投入して9月10日前後まで販売すれば良いのである。
冬のセールにしても同じで、1月で冬物を売り切り、2月からは冬素材・春色のアイテムを投入すれば良い。3月は春だと認識されているが、実は平均気温は12月と同じであり、まだまだ寒い日が続く。セール時期を無理やり遅らせるよりは、商品供給のサイクルを変えて消費動向に対応する方が店頭が活性化すると思うのだがいかがだろうか。
(この記事は、有料会員向けサービス「日経ビジネスDigital」で先行公開していた記事を再掲載したものです)
南 充浩(みなみ・みつひろ)
フリーライター、広報アドバイザー。1970年生まれ。洋服店での販売職・店長を経て繊維業界紙に記者として入社。その後、Tシャツメーカーの広報、編集プロダクションでの雑誌編集・広告営業を経て、展示会主催業者、専門学校広報を経て独立。業界紙やウェブ、一般ファッション雑誌などに繊維・アパレル業界に関する記事を書きつつ、生地製造産地の広報を請け負っている。
「糸へん」小耳早耳
普段、私たちが何気なく身に着けている衣服の数々。これらを作る世界では何が起きているのか。業界に精通した筆者がファストファッションから国内産地の実情まで、アパレルや繊維といったいわゆる「糸へん」産業にまつわる最新動向を鮮やかに切り取る。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121015/238075/?ST=print
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