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「世界の亀山」バブルの跡、国内家電の落日映す−米自動車二の舞も
10月11日(ブルームバーグ):かつて東海道の宿場町だった三重県亀山市は、2004年にシャープが液晶パネル工場を稼働させたことから、お茶とろうそくに続く特産品を手に入れた。「世界の亀山モデル」のテレビだ。その名は一躍全国に広まり、街は工場の経済効果による好況に沸いた。
その後、国内テレビ各社が円高や韓国勢に押される中で、亀山のバブルは崩壊。工場関係者の入居を当て込んで乱立したアパートの敷地には現在、雑草が生い茂るばかりだ。
高い技術力で世界に知られた日本の電機各社は、米アップルや韓国のサムスン電子がスマートフォン(多機能携帯電話、スマホ)やタブレット端末を軸に存在感を増す中で、急速に輝きを失っている。この状況を、かつての米国の自動車産業に例える声も多い。
サムスンなどの価格攻勢で液晶パネル価格は急落。米調査会社ディスプレイサーチによると、04年初頭に2700ドル超だった40型パネルの平均単価は、今年初めに250ドルまで低下。04年の10−12月に世界首位の22%だったシャープの液晶テレビ出荷台数シェアは、今年4−6月期には5%程度に落ち込んだ。
テレビ不振などでソニー、パナソニック、シャープの3社は前期(12年3月期)に、過去最悪の純損失計約1兆6000億円を計上。 特にシャープは今期も過去の巨額投資による財務悪化に悩まされ、銀行団と3600億円の融資契約を結んだ。
シャープ株価は11日、前日比5.9%安の144円と、ブルームバーグ・データで確認可能な過去38年間での最安値を更新した。午前終値に基づく3社の時価総額合計は約2兆2600億円。世界一であるアップルの約6000億ドル(約47兆円)とは雲泥の差だ。
米自動車産業との共通点
米自動車業界が第二次大戦後の同国経済をけん引したように3社は日本の戦後復興を支えた。パナソニック創業者の松下幸之助氏(故人)は、蛇口をひねれば水が出るように安い製品を大量供給し人々を幸せにすることが産業人の使命だと説き、日本最大の家電メーカーを育てた。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役は、現在の日本のハイテク業界が過去の米自動車産業のようだと語る。両者とも消費者が本当にほしがる「ベストな価格で十分な品質」の製品に集中していないのに、自社製品が売れ続けると考えているためだという。
日米経済協会の会長を務めたジョージタウン大学のアーサー・アレキサンダー教授も「新しい技術や競争相手、事業手法が優位性を増す中で、米国企業と全く同じ問題の多くに日本企業がぶち当たり、ついていくのがいかに大変かよく分かる」と語る。さらに、ゼネラル・モーターズ(GM)がこの問題を克服するには、09年の破綻とその後の経営陣刷新が必要になった、とも指摘した。
自国市場への依存
両者に共通するのは、過去の成功体験や自国の市場に依存できることに満足して変革が遅れ、成長している新たな市場への参入や消費者志向の変化への準備ができない点だ。
GMは50年代のピーク時には、米自動車市場で半分以上のシェアを誇っていた。ブルームバーグ・データによる前期売上高の国内比率を見るとパナソニックは53%でシャープは48%、ソニーは32%だ。一方で、10年のサムスンの国内販売比率は17%。
日本は依然として米国や中国に次ぐ第3の経済大国だが、少子高齢化などを背景に消費は伸び悩んでいる。格付け会社フィッチ・レーティングスのシニアダイレクター、スティーブ・デュローズ氏は、日本の家電各社の窮状は成長が鈍化している先進国での販売に重点を置き過ぎたためだと指摘。新興国戦略では韓国企業の方が上手だと述べている。
また、ケリー・ブルー・ブックのアナリスト、アレック・グティエレス氏はGMを含めた米自動車大手3社が労使協定に縛られて人件費や年金コスト、そして生産目標を高留まりさせ、需要とは無関係な量の自動車製造を強いられた、と分析している。
「世界の亀山モデル」
亀山工場を稼働させた04年当時、シャープ液晶テレビのシェアは世界一だった。「世界の亀山モデル」のロゴを自社のテレビに張り付けたことにも説得力があった。
「雨後のたけのこのようにアパートができた」。亀山市で40年にわたり仲介業を営む「大和不動産」の森日出子社長(36)は当時をこう語る。市内に続々と進出してきた全国規模の仲介業者が、地元の地権者に土地を売ってアパートを建てるよう勧める例もあったという。
同市商工業振興室の坂口一郎室長によると、市の人口は工場操業前の03年から10年までに5.2%増えた。工場立地や人口流入により「増えた税収でまず、耐震化のため学校を建て替えた。中学生までの医療費を無料にし、75歳以上にはタクシー代として年1万円を支給した」と語る。JR亀山駅にも「1日の乗降客が5000人との基準を満たせず作れなかったエレベーターを、市などの負担で整備した」という。
ハードの先
シャープは昨年6月、亀山での製造対象を、需要増が見込めるスマホ用などの中小型液晶に転換すると表明。第2工場ではタブレット端末やノートPC向けに、独自の高精細・省電力技術を採用した酸化物半導体(IGZO)液晶パネルを生産している。しかし9月には、稼働率を上げるほどのIGZO液晶の受注は得ていないと明らかにしている。
日本企業に革新性がなかったわけではない。例えばソニーは携帯プレーヤーの「ウォークマン」発売や、インターネット経由の音楽配信で先行したが、現在はアップルに大きくリードされている。
米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーのピーター・ケネバン氏は、現在は革新の主軸がハードウエアから、データ配信のための「ソフトウエアやシステムやソリューションに移っている」と指摘。革新的な製品開発で事足りるとの姿勢を続けてきた日本企業にとって、状況は厳しいとの見方を示した。
シンガポール国立大学のシージン・チャン氏も、アップルが時価総額世界一に登り詰めたのはハードとソフトを融合させ、スマホの「iPhone(アイフォーン)」やタブレット端末の「iPad(アイパッド)」で娯楽コンテンツ(情報の内容)をいつでもどこでも手軽に使えるようにした点にあると指摘している。
無人のアパート群
「あそこにはもう誰もおれへん。昨年までは満室やったのに」−。亀山市・道野地区の一戸建てに住む無職、山内竹芳さん(81)は隣のアパートを指さして語る。田畑や昔ながらの家屋に交じって建つアパートの数々には、シャープや関係会社の工場で働くブラジル人が多く住んでいたという。しかし、取材に訪れた9月には敷地内に雑草が生い茂り人の気配はなかった。
無人のマンション群が示すように不動産ブームも去った。住宅ローンを抱えた地権者を残し仲介大手も撤退。森氏は「ブームで建てられたマンションが今も多数残り、不動産市況は壊れている」と嘆く。
市の中心部で暮らしていた山内さんは約9年前、現在の土地と建物を3500万円で買って移り住んできた。5000万円で売ってほしいと持ちかけられた時期もあったが、生活を楽しむために購入したことから応じなかった、という。
「結果的に売らなくて正解だった」と語る山内さんは現在、無人のアパート群を見渡す庭でミョウガやサトイモを耕す悠々自適の生活だ。しかし、「亀山にとっては一番いい時代が、もう戻ってくることはないだろう」ともつぶやいた。
記事に関する記者への問い合わせ先:大阪 堀江政嗣 mhorie3@bloomberg.net東京 Terje Langeland tlangeland1@bloomberg.net東京 安真理子 myasu@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.netMichael Tighe +852-2977-2109 mtighe4@bloomberg.net
更新日時: 2012/10/11 12:28 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MBNZUX07SXKZ01.html
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