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『下流社会』の著者、三浦展さんが語る
「40歳定年」時代、中高年の「生き残り力」
2012年10月5日(金) 野村 浩子
国家戦略会議フロンティア部会で、2050年の未来像として示された「40歳定年」。果たして導入可能なのか。もしも実現したら年金支給までの25年をどう生き抜けばいいのか。『下流社会』の著者で、自らも40歳で独立した三浦展さんは「40歳定年」に賛成だという。
「40歳定年」、どう思いますか?
三浦 展(みうら・あつし)氏
1958年生まれ。82年一橋大学社会学部卒、パルコに入社。マーケティング雑誌『アクロス』編集長を経て、三菱総合研究所に転職、99年独立。著書に『下流社会』『第四の消費』など
(撮影:竹井俊晴)
三浦:賛成ですね。私自身、40歳で独立しました。20代の頃から先輩の後ろ姿をみて「40歳くらいで定年にしてくれよ」と思っていたのです。27歳で雑誌『アクロス』の編集長になり、30代でシンクタンクに転職。「このまま勤め続けるのは、能力的にも資質的にも無理だ」と感じていました。
ある日突然、神の啓示があったのです。「辞めても大丈夫だよ」と。独立したのは1999年、ちょうどその頃、インターネットが普及し始めたことも、一歩踏み出す要因となりました。「これで苦手な営業をしなくてすむ」と思ったのです。インターネットを使えば、会社を辞める前から人間関係を築けるし、ネットで一斉に情報を流せる。嫌いな営業を合理化できると考えました。
独立したとき、子供は1歳と6歳。「子供が小さいのによく決断できたね」と言われましたが、10年後だと子供は11歳と16歳。受験を控え、かえって辞められなかったと思います。50歳ともなると「定年まで、どうせあと10年」と考えたかもしれません。
40歳は会社の辞め時
仕事の経験を積んで業界での知名度も上がっている40歳前後は、独立起業するのにちょうどいい齢だと思います。その頃になれば、会社の中で課長どまりか、部長になれそうか、役員までいきそうか、だいたい分かってきますしね。30代のうちから、40歳を迎えたらどんな人生を送りたいか考えるべきだと思います。
では、40歳で一斉にみな辞める定年制を導入すべきでしょうか。
三浦:年齢で一律に切るのは、ちょっと酷です。40歳前後の人はライフスタイルも多様化しています。結婚している人、いない人。子供がいる人もいれば、これから持とうという人もいる。中学受験と高校受験を控えた子供を持つ社員を、40歳定年だからと辞めさせるのには疑問も残ります。次世代を育てている人には温情があってもいい、いかに運用するかだと思います。
成果主義といってじりじり給料下げるのは「?」
会社としては「年収300万円で20年契約を保障する」といった契約を、社員と個別に結ぶような制度を用意すべきだと思います。勝ち組でも負け組でもない、多様な「中間コース」があれば、安心できるし、モチベーションも上がるのではないでしょうか。
「年収600万円を450万円に下げるけど10年は雇用を保障する」「年収300万円で65歳まで働ける」といった具合に、細く長く働ける道を用意するのです。その対極には「年収1000万円超で3年契約」というハイリスク、ハイリターンのコースもあるわけです。
40代、50代の社員の給料を成果主義といってじりじりと下げるのではなく、「こう処遇する」と会社からはっきり打ち出すべきです。2年に1度評価を見直すなど、敗者復活の機会を設けることも必要です。
欧州の企業には、生涯年収が上がらないものの、細く長く働けるコースがあります。日本企業も年功型の賃金制度が崩れつつあるなか、欧州型に向かうのでしょうか。
三浦:働き方を変えるといっても、個人では対応できないこともあります。日本企業の年功型賃金制度は、扶養家族まで含めて生活を支える「生活給」の考え方が根底にあります。子供の教育費や住宅費も加味した給与制度なのです。
この給料の仕組みを抜本的に変えるのならば、教育費や住宅費を社会が担うようにしないと、社会不安を呼び起こします。欧州のように教育費や医療費を無料にするなど、社会デザインを切り替える必要があるでしょう。
40歳で独立する気概を持て、といわれても、独立して稼ぎ続ける自信が持てません。仕事をどう切り開いたのですか?
三浦:辞めた直後は、知り合いの会社から仕事を出してもらい、半年は何とかしのぎました。朝日新聞と日本経済新聞に連載を持たせてもらえたことも、大きかったですね。
「ゴーン社長に手紙を送りました」
辞めてしばらくしてから、日産自動車のカルロス・ゴーン社長と、英国のヴァージン・グル―プ創業者のリチャード・ブランソン氏に手紙を出しました。「こんな仕事ができます」と。二人からすぐに返事がきて、日産からは仕事も出してもらいました。クイック・レスポンスです。世界的経営をしている経営者は違うなと思いました。日本の伝統的な大企業の社長だと、こうはいかないでしょう。
独立したら世間体なんて気にしてられません。ソフトバンクの孫正義社長に「こんな事業アイデアがある、10億円出資しませんか」と手紙を出せばいいのです。独立して自由になるとは、そういうこと。今やツイッター時代、どんどんフラットになっています。あなたが今の会社で出世できないとしても、あなたを生かす道はどこかにあるはず。どんどん企画書を送ればいいのです。
独立後は、順調に売り上げを伸ばしたのでしょうか。
三浦:山あり、谷あり、でした。独立後は、カルチャースタディーズ研究所を設立。自分の給料を年1000万円に設定しました。図書資料代などを会社の経費として処理できるため、可処分所得は上がりましたね。毎年300万円ずつ、住宅ローンの繰り上げ返済をするだけの余裕が生まれました。
2005年に『下流社会』がベストセラーになり、半年で80万部を突破。これで会社の売り上げが1億円を超え、住宅ローンの残りを完済しました。ところが直後に、リーマン・ショック。仕事の依頼も減るだろうと直感し、妻に頼みました。「働いてみないか」と。長年専業主婦だった妻が仕事を見つけるまで4年かかりましたが、ようやくやりたい仕事が見つかり、働き始めました。実際、リーマン後は売上が減ったので、妻が働き始めたら家計は安定しましたね。
掃除や料理はできるようにしたい
私はいま、掃除も料理もします。もともとキレイ好きで、料理も好きですし。奥さんに働いてほしい人は、やはり家事はするべきだと思いますね。子供が夏休みの間は、毎日事務所から自宅に戻り、子供の昼食を作っていました。会話も増えたし、シェスタ(昼寝)でもしようか、なんてスペイン人になった気分(笑)。
万が一、さらに収入が減れば、新潟で母親がひとり住む実家に戻ってもいい。スカイプを使って打ち合わせをすれば、通信費もかからない。見栄を捨てれば、選択肢はいくつもあるのです。
いかに働き、いかに家族との関係を築くか。ミドル層も発想を切り替えれば、新しい道が見えてくる?
三浦:家族や地域にどう向き合うか、見つめ直すと、自分もラクになるはずです。どうせ残業代もつかないのだから、さっさと家に帰り、料理をつくればいい。在宅ワークなど家でする仕事を少しずつ増やすのもいいでしょう。そうしてある日、自宅の表札に『株式会社〇〇〇』というプレートを追加したとしても、家族にも近所にもさほど違和感はないはず。世間の目を和らげる工夫も必要です。
自宅近くのシェア・オフィスやコ・ワーキングスペースを、月2、3万円で借りて、そこを拠点に仕事をする方法もあります。同年代の人とまずはNPO法人をつくり、地域社会の中でやりたい仕事を模索するのもいいでしょう。コミュニティビジネスが、社会に有益でかつ利益も生み出すソーシャル・ビジネスに発展するかもしれません。
自治体も、職住近接で働く人が増えることを望んでいます。都心と郊外を結ぶ沿線の各駅に、中高年向けシェア・オフィスが出来るといいですね。そうすると、「ジモティ起業家」も増えるのではないでしょうか。埼玉県から池袋経由で都心のオフィスに通勤するのではなく、埼玉の地元のシェア・オフィスを拠点に、地元密着の仕事をする。そんな無印良品的な働き方が増えていくのではないでしょうか。
ミドル世代にとっては、60歳を過ぎてどんな仕事をするかも悩みどころです。
三浦:大企業に勤めて高給取りだった会社員の方には、60歳の定年退職後に是非とも起業してもらいたい。75歳くらいまで年金をもらわずに、バリバリ稼いでもらいたいですね。
私の知人で70歳のある建築家の方は、30代の社員を二人雇っています。その社員には子供もいる。社員の家族も養っているわけです。若い世代を雇用しているシニア層には、法人税を優遇するなどして社会的にもバックアップすべきだと思います。
高齢者は「若い人に支えてもらっている」と思うのはイヤなもの。「私たちが若い世代を支えている」という気持ちで働いてもらいたいものです。何も起業ばかりではありません。地域社会で、子育てを支えるような仕事もあるでしょう。
子供を何人も育ててきた高齢者には、保育3級といった資格を出して、子供を世話してもらう仕組みをつくってもいい。「現役世代3人が高齢者一人を支える」のではなく、「高齢者3人で現役一人を支える」と考えて出来ることをすればいいのです。
高齢化社会を迎えるいま、「生産年齢人口」の発想を変えるべきだと思います。従来は、片道1時間かけて通信し、毎日残業をする「過剰労働」の男性の働き方を想定したものでした。ところがこれからは、家の近くで週4日働く、週1時間働くといった人が増えていくでしょう。そうした「ワークシェアリング」を通して、高齢者も女性も、すべての年代が「生産年齢人口」となり、社会を支えていくことになるでしょう。
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アンケート回答
野村 浩子(のむら・ひろこ)
日経マネー副編集長
お金の知恵袋
雀の涙ほどの低金利が続くけど、資産を増やすにはどうしたらいいの? ほかの人はどんな風にしてお金を貯めているの? ついつい無駄遣いしちゃんだけど、無理なく節約するにはどうしたらいいの。個人のおカネにまつわる様々な疑問を解決するお宝情報が満載の「日経マネー」編集部がちょっとしたノウハウを順重します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20121004/237631/?ST=print
第6回
離職率を隠す企業の事情とは?
2012年10月5日(金) 上西 充子
就職活動で応募企業を検討するとき、多くの大学生は離職率を気にかける。「離職に至るかどうかは本人の心がけ次第なんだから、離職率なんて気にしてもしょうがない」のだろうか? また、離職率を公表していない企業の実態は、わからないのだろうか?
「若者問題」を語る際、「フリーター・ニートの増加、早期離職の増加…。」などと語りだされることが多い(そして、勤労観・職業観の育成、キャリア教育…と続きがちである)。しかし実際は、早期離職率は年々高まっているわけではない。
厚生労働省「平成24年版労働経済の分析」(2012年9月14日公表、リンクはこちら)の第3−(1)−18図「新規学卒者の在職期間別離職率の推移」(リンクはこちら)を見ると、1994年大学卒業者あたりから3年離職率はやや高まりその後横ばい状況になったが、2005年卒以降は低下に転じている(2009年卒と2010年卒については、3年目までの離職率のデータがないことに注意)。
離職率は求人倍率の影響を受ける
「平成24年版労働経済の分析」では、この動向について分析を行い、2つの傾向を指摘している(p.215-217)。
ひとつは、新卒時の大卒求人倍率が低いほど離職率が高まる傾向であり、これは「世代効果」と呼ばれている。学校卒業時の就職環境が厳しい世代は、不本意な就職先に就職した者が多いために将来の離職が増える可能性がある、というものだ。
もうひとつは、離職時の有効求人倍率が高いほど離職率が高まるという傾向である。
この2つの傾向により、1992〜96年、1999年及び2000年で卒業時の就職環境の厳しさが離職率を高めており、2000年代後半の離職率の低下は、卒業時の就職環境が改善したことと、離職時の就職環境が良くないことが影響していることがわかる、としている。
さらに、「2010年3月卒の1年目離職率は、リーマンショック後である卒業時の就職環境の厳しさから再び大きくなっており、今後、2010年3月卒世代の2年目、3年目の離職率の上昇及びその後の世代の離職率の上昇が懸念される」と指摘されている。
つまりは、就職時の就職環境や、辞めたいと思ったときの就職環境によって、離職率の変動(特に就職後1年目の離職率)の多くは説明できる、ということだ。
しかし一般的には、早期離職は労働市場の問題ではなく、若者自身の問題であると捉えられがちである。
日本経済団体連合会の米倉弘昌会長が会長を務める経済広報センターは、2004年6月に「若年者の就労に関するアンケート」の結果を公表している(リンクはこちら)。
早期離職は、若者自身の問題?
経済広報センターに登録している社会広聴会員を対象としたこの調査では、下記の通り、「七五三現象」(早期離職の現象)をどう考えるかを聞いた上で、その主な原因を尋ねている。
(2)のグラフを見ると、「若者自身やその周辺に原因がある」とする者が「どちらかというと」を含めて80%に達しており、雇用主側に原因を求める者の割合は低い。
この調査の尋ね方が「誘導的」であることにはお気づきだろうか。(1)の最初で「『石の上にも三年』ということわざがありますが」と、「最初の三年間はとにかく忍耐強く勤めるのが大事」という価値観を示した上で早期離職の問題性を問い、その後に(2)でその早期離職の原因を尋ねている。つまり、「石の上にも三年」を耐えることができないイマドキの若者、という意味づけを行った上で原因を尋ねているのだ。若者側に問題があると回答者が答えるのは、自然な流れである。
さらに言えば、「最近では…『七五三現象』が見られるようになってきました」という(1)の設問の記述も、本記事冒頭のグラフの通り、事実に反する。「最近」だけの傾向ではない。なのに「最近では」という表現を使うことによって、「イマドキの若者は…」という連想を促す結果となっている。
この経済広報センターの調査ではさらに「若者自身やその周辺に原因がある」と回答した者に「どのような点が早期離職の原因だと思いますか」と尋ねている(2つまで回答)。
結果は「下積みの仕事に意義を見出せず、つらくても、がまんするといった精神的なタフさがないから」がトップで61%。「『石の上にも三年』ということわざがありますが」で狙った通りの結果だ。
こういう誘導的な調査の結果が経団連の会員企業に広報され、「困った若者の問題」という固定観念を強化する方向に働いているのだろうかと想像すると、暗澹たる気持ちになる。
早期離職の理由は、「仕事が合わない」から?
では公的な統計では早期離職の原因はどう捉えられているのだろうか。
実はここも問題含みである。さきほど紹介した「平成24年版労働経済の分析」には、下記の図がある(リンクはこちら、複数回答、p.226)。
「なあんだ、やっぱり身勝手な理由で辞めているんじゃないか」と思った方も多いだろう。だが、調査は元データにさかのぼって確認することが重要。資料出所となっている内閣府「平成16年度青少年の社会的自立に関する意識調査」(こちら)を確認してほしい。青少年調査の回答者の最終学歴を見ると、卒業・中退者に占める大卒・大学院卒は22.8%にすぎない。
「平成24年版労働経済の分析」のp.218には「ここからは、新卒就職者のうち過半数を占めている大学に焦点を絞ってみていこう」とあり、上記の図が出てくるのは大卒者の労働問題が語られている文脈の中である。にもかかわらず、大卒者が回答者の4分の1にも満たない調査の結果が用いられる。これは一体どういうことなのか?
また、この内閣府の青少年調査の「初めて就いた職業」には非正社員も含まれており、正社員・正職員は61.6%である。その点でも、この調査結果をこの文脈の中に持ってくる意味に疑問が生じる。
労働時間・休日・休暇への不満が離職理由のトップ
ほかに実態を知るデータがないのならやむを得ないかもしれない。しかし厚生労働省は「平成21年若年者雇用実態調査」(リンクはこちら、2010年9月2日結果発表)という、より若者雇用問題に特化した、より大規模な調査を、自らの省で行っている(内閣府「平成16年度青少年の社会的自立に関する意識調査」の「青少年調査」の回答数は45.1%の在学者を含めて4,091人。厚生労働省「平成21年若年者雇用実態調査」の個人調査回答数は15,124人で、うち在学していない若年労働者が93.8%)。
その結果によれば、大卒の転職者が初めて就職した会社を離職した理由は下記の通りであり、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が27.5%でトップとなっている。
大卒の転職者が初めて就職した会社を離職した理由(複数回答3つまで:%)
厚生労働省「平成21年若年者雇用実態調査結果の概況」表24より筆者作成
この個人調査は事業所調査の調査対象事業所に若年労働者(15〜34歳)への調査票の配布を依頼する形で行われている。つまりは、現在在職中の個人だけが調査対象者であり、離職後に失業や無業の状態にある者は除かれている。その点で、上のグラフは大卒の早期離職者全体の離職理由を表すものではない。
しかし、この調査に回答している大卒者の81.2%は卒業から1年以内に正社員として就職しており、うち90.7%が調査時に正社員である。従って前述の内閣府の「平成16年度青少年の社会的自立に関する意識調査」よりもより実態に近い形で、大卒正社員の早期離職の理由を示していると考えられる。
なぜこの「平成21年若年者雇用実態調査」の結果を「平成24年版労働経済の分析」で使わなかったのか、不思議でならない。「『労働経済の分析』にこの結果を出したくなかったから」とは思いたくないが…。
「ブラック企業」への警戒心
長くなったが、「早期離職は若者自身に問題がある」という認識は、全面的に間違いとは言えないものの、職場の側の問題を無視した認識である。
他方で大学生の側は「ブラック企業」に警戒心を持っている。自分が応募しようとしている企業、選考を受けている企業の名前と「ブラック」を検索サイトに入力して情報を収集しようとする。出てくるのはたいてい、真偽不明の匿名の書き込みだが、そこに書きこまれている異常な長時間労働や、上司からの理不尽な命令などを見て、学生は不安になる。
また大学生は、自分たちの先輩が終電近くまで働いていたり、入社後1年もたたないうちに心身の調子を崩して離職したりしている姿を見ている。そのような先輩の姿は、稀ではない。したがって、ネットの匿名情報も、まるで根拠のないデマではないだろうと学生たちは感じている。教員たちも学生たちの卒業後の身を案じながら、送り出している。
労働相談を中心に、若者の「働くこと」に関する様々な問題に取り組むNPO法人POSSEの事務局長・川村遼平氏によれば、「ブラック企業」とは「長期雇用を匂わせるにもかかわらず、労務管理や雇用条件などが原因で多くの人にとって長年勤めることができない企業や法人」を指す(川村遼平「相談活動から見たブラック企業」『労働法律旬報』No.1759+60 2012年1月合併号)。具体的には、長時間労働や過剰なノルマによって心の病気になるまで働かせる「使い切り型」、たくさん採用し、「使える人材」だけを残して他は辞めさせていく「選別型」、パワハラ上司を会社が放置しているといった「職場統治不全型」に分けられるという(今野晴貴・川村遼平『ブラック企業に負けない』旬報社、2011年)。
そういう話をすると「若いうちは時間を忘れて仕事に没頭するぐらいじゃないと、一人前には育たないものだよ」といった声を、企業の人事の方から伺うこともある。
しかし労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏によれば、従来は「見返り型滅私奉公」であったものが「見返りのない滅私奉公」となったのがここ十数年来の「ブラック企業」現象であるという(濱口桂一郎「日本型ブラック企業を発生させるメカニズム」『オルタ』2012年7-8月号)。企業内で働いている方々にも、実は共有されている懸念であるとは言えないだろうか。
『就職四季報』の3年後新卒定着率に注目
そういうわけで学生にとっては気になる離職率。企業説明会で聞きたいところだが、そんなことをうかつに聞くと不利になるだろうから、聞けない。もちろん企業ホームページや民間就職支援サイトには掲載されていない。
そこで頼りになるのが東洋経済新報社の『就職四季報』と『就職四季報女子版』だ。入社後3年以内の離職率(「3年後離職率」)が、1年前のデータから最新のデータへの変化と共に記載されている。
ただし『就職四季報』の場合は、「3年後離職率」は男女あわせた数値であることに注意したい。会社によっては男性と女性の離職率に大きな差がある会社もある。『就職四季報』には「3年後新卒定着率」が男女別に記されてあるので、そちらも併せて確認したほうが良い。
離職率は業界によって大きく異なる。また同じ業界の中でも離職率が突出して高い企業と、めずらしく低い企業があったりする。2008年卒の大卒3年離職率が30%という本記事冒頭のグラフの結果は、あくまで全体の平均であるにすぎない。自分の応募している企業の離職率の状況を把握するには、同じ業界の違う企業との比較、全く違う業界の企業との比較、過去の同じ企業の離職率との比較など、いろいろ比較してみて、なぜ今、この企業の離職率はこの水準なのか、と考えてみたい。
そのためには、キャリアセンターで当該企業のページをコピーするだけでなく、自分で購入して読み込んでみてほしい。企業ホームページや民間就職支援サイトの新卒採用情報は、所詮は「学生に見せたい情報」でしかない。それだけで分かった気にならず、『就職四季報』や『就職四季報女子版』を読んだり、大学図書館の新聞データベースで企業名を打ち込んで記事を読んだり、ビジネス誌の記事を読んだり、企業ホームページのIR情報(投資家向け情報)を読んだりと、客観的な情報を読み込むことが重要だ。
大学はエントリーシートの書き方講座や個別相談などだけではなく、そのような情報の収集・分析のやり方について、授業内外の機会をとらえて支援してほしい。
離職率は無回答の企業が多いが…
とはいえ、『就職四季報』や『就職四季報女子版』の「3年後離職率」と「3年後新卒定着率」は「NA」(無回答)が多い。銀行など、ほとんどが「NA」だ。なお、都市銀行が『就職四季報』にほとんど登場していないのは、そもそも回答自体に同意していないからである。『就職四季報 2013年版』編集後記には、「NAだらけの会社よりも非掲載会社のほうがクローズド」なのだ、という学生向けの注意喚起が書かれてある。
言うまでもないことだが、「NA」とは「情報が得られない」ではなく、「要注意」と読むべきだ。もし離職率が低いなら、それは会社の信頼度を増すことにつながりこそすれ、会社の評判を落としたり社会的批判を浴びたりすることではない。
にもかかわらず無回答であるということは、「離職率を公表したくないほど、離職率が高いのか?」と疑ってかかった方がいい。そして、先輩や教員や保護者など、いろいろな人脈を辿って、率直に働き方の実情を尋ねられる人を見つけて話を聞いておきたい。当該企業に勤めている人でなくても、同業他社に勤めている人であれば、その業界ならではの特徴的な働き方の実態は聞くことができるし、同業他社の事情も案外知っている場合があるだろう。
離職率が出ていなくても、調べ方はある
また、『就職四季報』には男女別従業員数、平均年齢、平均勤続年数や、採用実績人数なども記されている。会社の設立年度や合併・分社化などの動向を確認した上で、当該企業の従業員の平均年齢、平均勤続年数を同業他社や他業種と比べてみれば、その企業が定着率の高い企業か否かはある程度わかる。
さらに、従業員数と入社人数の比率を過去何年かにさかのぼって調べてみれば、「同業他社や他業種と比べて従業員規模に比した入社人数が多すぎないか? …ということは早期離職が多いのか?」といった推測もできる。
あるいは、景気変動に応じて採用数が大きく変動し、社内の年齢構成にアンバランスが生じているような企業なのか、景気が悪くても継続して新入社員を採用することに努力している企業なのかも推測できる(そのためには大学のキャリアセンター・就職部には、過去の『就職四季報』『就職四季報女子版』もあわせて利用可能としておいていただきたい)。
企業が「都合が悪い情報は出したくない」と考えているならなおさら、就職を考えている学生はみずから、情報の入手に努めた方がいい。
筆者も委員として参加した内閣府の「雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)」(リンクはこちら)でも、離職率はたびたび話題になった。
関西国際大学学長の濱名篤氏は第2回の会議(2012年4月16日)で「送り出す学校からすると3年未満離職率も公表しない企業に対しては、大変不信感を持つ」と発言されている(議事録はこちら、該当箇所はp.30)。さらに、「情報公開という緊張関係がまずベースにある。社会全体が育てていく。産業界も学校も行政も若者を一緒に育てるのだというような風土ができないと、問題は解決していかない」と訴えておられる(議事録p.31)。
濱名氏は第3回の会議(2012年4月26日)でも、離職率の公表を情報公開の観点から企業側に求めている(第3回議事録のp.6)。
それに対する日本経済団体連合会・常務理事の川本裕康氏の当日の回答は「採用については選考の方法も含めて企業に幅広い裁量権があると思っておりますし、こういうデータの公表を義務づけるのは適切ではないと思っております。」「離職率については、離職に至る背景には個々の労働者によって様々な理由があるわけで、これもただ離職率を公表することは非常に間違ったメッセージになりかねないので、賛同しかねるところでございます。」(議事録p.20)というものだった。
「離職に至る背景には個々の労働者によって様々な理由がある」と同時に、先に「大卒の転職者が初めて就職した会社を離職した理由」のグラフで見たように、離職に至る背景には個々の職場における働かせ方の問題もあるはずなのだが…。
業界別・規模別離職率の公表を期待
筆者はこの会議の中で離職率について1つの提言を行った。それは本記事の冒頭に示した「新規学卒者の在職期間別離職率」の、業種別・規模別に分けた詳細データの公表である(第3回議事録の p.23)。
この「新規学卒者の在職期間別離職率」の資料出所は「厚生労働省職業安定局集計」となっている。雇用保険の記録を管理するために蓄積されている情報を集計したものだ。ということは、既に厚生労働省は業種別・規模別の離職率を算出できる元情報は持っているのである。しかし実際には、本記事の冒頭グラフに示したように「大卒」という括りでしか公表されていない。筆者はこれを業種別・規模別のデータとして報道発表で公表するように求めたのである。
それが公表されても、個々の企業の離職率はわからない。しかし、業種別・規模別の特徴はわかる。学生にとっては就職先の定着率の傾向を予想する目安になる。
また、データが公表されれば、離職率が高い業種の企業は、なぜ離職率が高いかを学生に納得のいく形で説明するか、もしくは離職率を下げるための努力を業界として行うようになることも期待できる。
この要望は最終的に取りまとめられた「若者雇用戦略」(2012年6月12日合意)に取り入れられている。「II.具体的施策」/「(2)雇用のミスマッチ解消」/「(4)積極的な就職関連情報公開による求職活動の効率化」に、次の文面で明記された。
「学生の判断に資するようにするため、雇用保険の集計数値を用いて、各産業の特徴が十分伝わるよう配慮しながら、産業別・規模別の離職率を公表するとともに、職業情報の提供を推進する。」(P.10)
意味のない化かし合いをやめよう
ささやかな一歩でしかない。しかしそのささやかな一歩が、確実に実現するよう、読者の皆様には、注意深く見守っていただきたいと願う。
そして企業と学生が、お互いに素顔を隠して「化かし合い」を行うのではなく、誠実に向かい合える関係を築いていけるように、読者の皆様と共に努力していきたい。
(本連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました)
上西 充子(うえにし・みつこ)
法政大学キャリアデザイン学部および同大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻准教授。専門は若年労働問題、社会政策、キャリア教育。1965年生まれ。95年東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得満期退学後、日本労働研究機構(現:労働政策研究・研修機構)研究員。2003年法政大学キャリアデザイン学部専任講師。2005〜2006年度法政大学キャリアセンター副センター長を兼務。主な著書に『大学のキャリア支援―実践事例と省察(キャリア形成叢書)』(上西充子編著、経営書院)、『若者の働きかた(叢書・働くということ)』(小杉礼子編著、ミネルヴァ書房)、『就職活動から一人前の組織人まで―初期キャリアの事例研究』(川喜多喬・上西充子編著、同友館)など。
その数値にダマされるな! データで読み解く大学生のシューカツの実態
「100社にエントリー(登録)したけど、1社も内定をもらえない」「新卒ニート3万人」──。ショッキングな数値とともにセンセーショナルに報じられる大学生の就職活動。しかし、そこにはデータの誇張や誤用があり、実態を正しく伝えているとは言い難い。
本コラムでは、若者の労働問題を研究する専門家がデータの本当に意味するところを示しながら、大学生の就活の実情を明らかにするとともに、データを正確に理解するためのノウハウを伝授する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121001/237468/zu01.jpg
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121001/237468/
えっ! 行政書士の6割が所得ゼロ!?
2012.09.27
行政書士というと漫画『カバチタレ』などのイメージで、弁護士とか司法書士の仲間かな?と感じられる方もいるとおもう。
そんな行政書士の年収の実態について明らかにされたデータがちょっとしゃれにならないものだったので紹介しておく。
1994年5月に実施された日本行政書士会連合会のアンケートによれば
・年商100万円以下 40.4%
・年商101〜300万円 22.4%
・年商301〜500万円 11.7%
だった。
注意しなければならないのは、これは年商だから、そこから事務所家賃、水道光熱費、通信費、交通費、事務機リース代、印紙代なんかが引かれてくることになる。
なので、年商300万円という数字は所得ゼロを意味する。
これは、今から19年前の数字だから、最近はもう少し上がってるのかと思ってみると、
2008年4月に同じく日本行政書士会連合会の行った行政書士実態調査によれば、年商500万円未満が75.9%と、年商500万円未満の割合は74.5%→75.9%とここ15年間ほとんど変わっていない。
こんな行政書士の内情を紹介した『プロ法律家のビジネス成功術』(金森重樹 著、PHPビジネス新書)には、悲惨な行政書士の現状についてこんな記述がある。
「(行政書士の)新人に職業を尋ねる場合には2回聞く必要があります。
『仕事なにやってんの?』
『行政書士です』
『で、なにやってんの?』
『コンビニのバイトです』『警備員です』『塾講師です』etc.…』
都内の新人行政書士は語る。
「職業の中でわざわざ『食えてる人もいます』なんて発言をしなければならないのは、行政書士くらいなんじゃないですか?」
司法制度改革で弁護士は食えないなんて話がでているが、昔も今も行政書士の赤貧ぶりは半端じゃないようだ。
行政書士の中には前掲の書籍の著者の金森重樹氏ように年商数十億、課税所得2億円超の高額納税者もいるようだが、行政書士は一般人がカバチタレで抱く弁護士の仲間というイメージよりは所得だけみると、どちらかというと法務レスの仲間のような気がしないでも…
大丈夫か? 行政書士! ごはん食べたか? 行政書士!
がんばれ行政書士!
【書籍情報】
タイトル:プロ法律家のビジネス成功術
出版社 :PHP出版
発売日 :2012年8月17日
価 格 :861円(本体価格820円)
出版社 :PHP研究所
著者名 :金森重樹
http://biz-journal.jp/2012/09/post_717.html
「司法試験を通っても就職できない......」急増する"弁護士ニート"の現実
「弁護士の資格を持っているのに就職できないんです......」
3年前、難関の司法試験に合格、司法修習を経て弁護士バッジを手にした井上晴彦さん(28=仮名)は、いまだ弁護士事務所に就職できていない。
「毎月、各所の弁護士事務所に採用を求めてるんですが、どこも募集はしていないと断られてます。たまに募集があっても人が殺到していて不合格。いろいろ短期のアルバイトをして食いつないでいますが、実質は無職の"弁護士ニート"です......」
こう話す井上さんは、資格を得る過程で学費などを借金しており、肉体労働などのアルバイトをしても手元に残るのは半分の月収5万円程度だという。地方から上京し、学生時代から交際相手のマンションに居候してきたが「ついに『将来性がない』と追い出されてしまった」(井上さん)という。現在、友人宅に身を寄せているが「このままではニートどころか"ホームレス弁護士"になってしまう」と不安の日々だ。
井上さんだけでなく、現在多くの新人弁護士が就職先に困っており、弁護士ニートの数は右肩上がりで急増中だ。かつて1万5,000人前後を推移していた弁護士数は、いまや3万人近くに膨れ上がっている。
この現状を生み出したのは小泉政権時代の2002年、政府が計画した「司法試験の年間合格者を3,000人に増やす」という閣議決定だった。これにより06年に1,000人程度だった合格者は翌々年には倍増。裁判員制度の導入を見据えた司法制度改革だったが、結果として法曹界の質の低下や就職難を招いてしまい、今年になって計画を見直す方針となった。
しかし、世間の志望者数はいまだ減少の傾向にないと専門家は解説する。
「資格取得の教育関連企業ユーキャンの調査では、取りたい資格ランキングの1位が司法関係。グレーゾーン金利の撤廃と過払い金返還訴訟の急増で、弁護士バブルが起きたことも原因のひとつ。また、行政書士事務所を舞台にしたTBSのドラマ『特上カバチ!!』の影響もあったでしょう。最近ではとりあえず弁護士になっておこうという"ソク弁"も増えています」(司法関係者)
先日、無派閥の宇都宮健児氏が、業界の最大派閥に属した山本剛嗣氏を破って日弁連会長に就任したが、これは「合格者数を政府目標の半分にする」と明言し、弁護士ニートたちからの支持を得た結果だった。
だが、一度増えた弁護士たちがいなくなるというわけではない。前出関係者によれば「今後は増えた弁護士たちが仕事欲しさに、やたらと司法制度を利用するよう焚きつけられる危険性がある」という。
つまり、家族間や近隣住民、社内などのほか、また医師と患者、教師と生徒の親など、あらゆる人間関係のトラブルに弁護士が手を招く傾向が出てくるというわけだ。
前出の井上さんも「そうなってくれたら僕にも仕事がありますかね」と笑顔を見せたが、実際、テレビではやたらと弁護士事務所のCMを見ることが増えた。
「弁護士に依頼する立場の国民にとって怖いのは、井上さんのような経験を積んでいない弁護士が増えること。質の低下は、さらなるトラブルを生む」と前出関係者。
いずれにせよ、日本もアメリカのような訴訟社会へと変貌していくのだろうか......。
六法全書 平成22年版
ニート大国ニッポン。
http://www.cyzo.com/2010/04/post_4254.html
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