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三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」
第174回 自民党の安倍新総裁の経済政策
2012/10/02 (火) 11:10
9月26日に投開票された自由民主党総裁選挙において、安倍晋三元総理が新たな総裁に選出された。大手マスコミは今回の自民党総選挙について、「争点がはっきりしない」「誰がなっても変わらない」などと、相も変らぬ自民党下げの印象操作を繰り返していたが、冗談を言ってはいけない。実際には今回ほど「争点」がはっきりした総裁選挙は、かつてなかったほどなのである。
無論、安全保障や河野談話といった分野においても争点は分かれたが、それ以上に違いが明確化されたのは経済政策分野だ。より具体的に書くと、デフレ対策である。
自民党の新総裁に選出された安倍元総理は、出馬表明時点で、
「消費税を引き上げていく前に、デフレから脱却をして経済を力強い成長軌道に乗せていく必要がある」
と明言していた。その後も選挙戦を通じ「消費税増税前のデフレ脱却」という発言を繰り返していた。実は、安倍新総裁は「社会保障と税の一体改革」法案が衆院で可決された今年の6月時点から、
「報道等ではあまり触れていませんが、現在のデフレ下では消費税を引き上げず、法案には引き上げの条件として名目経済成長率3%、実質成長率2%を目指すという経済弾力条項が盛り込まれています。
つまり現在のデフレ状況が続けば、消費税は上げないということです。
しかし、野田総理のこれまでの委員会答弁は、この点があいまいであると言わざるを得ません。
要は民主党政権を倒し、デフレからの脱却を果たし、経済成長戦略を実施して条件を整えることが大切です。
そして、『その条件が満たされなければ消費税の引き上げは行わないこと』が重要です。(安倍晋三元総理のメールマガジン 2012年6月27日号より)」
と、税と社会保障の一体改革法案「附則十八条」に基づく「消費税増税前のデフレ脱却」について言及していたのだ。ところが、大手マスコミで安倍総裁の消費税に関する意見を報道したところはなきに等しく、それどころか附則十八条自体を正しく伝えたメディアが皆無だった。
とにかく増税さえできれば、国民生活などどうなってもいい財務省は、大手メディアなどに付則十八条について「報じさせない」ことで、国民の間に「増税のコンセンサス」を作ろうとしている。日本国民の側に、
「2014年4月に消費税は8%に上げられる」
というコンセンサス(政策的合意)が形成されてしまうと、来年(13年)の今頃、ときの政権が附則十八条に基づき、
「未だ日本経済はデフレから脱却していない。よって増税は見送る」
と判断をしようとしたとき、それ故に逆に国民から批判されてしまうといったバカバカしい状況に陥りかねない。さらに、国民からの批判を恐れた政府が14年4月時点の増税を決断すると、日本はさらなるデフレの泥沼に突っ込み、財政悪化と国民の所得減少という最悪の事態に至る。
現時点で政治家が「消費税増税前のデフレ脱却」と明言するか否かは、まさに我が国の運命を変えかねないほどにインパクトがあることなのである。そして、残念ながら、今回の自民党総裁選挙において、「消費税増税前のデフレ脱却」と明言したのは、安倍新総裁ただ一人だった。それどころか、例えば総裁選挙候補者の一人、林芳正参議院議員は、明らかに14年4月時点で消費税がアップされる「前提」の発言を繰り返していた。
14年4月の消費税増税には、デフレ脱却などの景気条項の他にも、「社会保障制度改革国民会議(以下、国民会議)における審議の結果等を踏まえる」という条件が設定されている。上記条件は、元々の自公民三党合意の中に、消費税を上げる前提として「国民会議における審議の結果を踏まえて実施する」という言葉があったために、条文にも挿入されたものである。
第174回 自民党の安倍新総裁の経済政策(2/3)
2012/10/03 (水) 12:30
すなわち、国民会議を開催し、社会保障制度改革について結論を得なければ、消費税を14年4月に上げることはできないのだ。総裁選挙の期間中、安倍新総裁は国民会議の設置について、「先に総選挙をやるというのが首相の約束だ」と語っていた。何しろ、野田総理本人が「近いうちに国民の信を問う」と約束した以上、まずは解散総選挙を実施し、その上で社会保障制度改革のための国民会議を設置するというのが筋道というわけで、ごくごく当たり前の話だ。
上記のプロセスを踏むと、解散総選挙が遅れると、国民会議が設置できないということになる。国民会議における議論は、最低でも一年間は必要だ。というわけで、例えば解散総選挙が年明けにずれ込むと、国民会議が設置されるのは早くても2013年1月になる。そこから一年間の議論を経たときには、すでに14年4月の増税の可否を判断する13年秋の時期を過ぎている。結果、自動的に消費税の14年4月時点のアップは「消える」という結論になってしまう。
上記、国民会議設置の問題について、林芳正参議院議員は、
「ずるずる解散が延ばされて、議論の時間が3カ月しかなかった、では困る」
と発言した。ポイントは「議論の時間が3カ月」という部分である。どうやら林参議院議員は、以下のスケジュールを思い描いているようなのだ。
◆野田総理が解散せず、2013年7月に衆参同日選挙
◆2013年7月 選挙後に国民会議設置
◆2013年10月 3か月の議論を経て、14年4月時点の消費税アップを決定
◆2014年4月 消費税を8%にアップ
上記の通り、すでに林参議院議員の頭の中では「状況がどうなろうと、来年10月に消費税増税を決定する」という、まことに財務省に都合がいいスケジュールがインプットされていることが分かる。来年10月に消費税アップを決定することが「決定している」ならば、確かに解散と無関係に国民会議を設置しなければならない。
くどいようだが、附則十八条により「消費税増税前のデフレ脱却」は法律化されている。それにも関わらず、林参議院議員は14年4月時点の消費税増税を「決定事項」としてものを考え、発言しているわけである。
また、石破前政調会長(新幹事長)にしても、
「解散は野田首相の専権事項だ。(国民会議の設置を認めるかは)どういうものができるかによる」
と、解散前の国民会議設置を示唆していた。
消費税増税や社会保障改革の国民会議の設置問題に限っても、各候補の意見がここまで異なっていたわけだ。それにも関わらず、マスコミは「争点がない」などと自民党総裁選挙を矮小化しようとしたのである。
さて、安倍新総裁は「消費税増税前のデフレ脱却」を前提に、具体的なデフレ脱却策として以下の政策を掲げていた。
「日本銀行とのアコード(政策協調)によるインフレ目標3%と円高是正」
「子供たちの安全や生命を守り、地域経済を活性化させる未来への投資としての公共投資の拡大」
「スーパーコンピューター京プロジェクトに代表される、創造的活動、イノベーションへの政府支援拡大」
まさに、筆者が本連載において繰り返し主張してきた「財政出動と金融政策のパッケージ」である。上記の「正しいデフレ対策」がこのまま実施されれば、日本は恐らく三年程度でデフレから完全に脱却し、新たな成長の道を歩み始めることができる。
『2012年9月26日 毎日新聞「安倍新総裁:経済政策 金融緩和、日銀に圧力」
安倍晋三自民党総裁は、増税よりも経済成長を重視する「上げ潮派」の政治家として知られる。野田佳彦首相が進める消費増税についても、時期を慎重に見極める姿勢。政権交代が実現すれば、日銀への金融緩和圧力が強まり、国民負担の増大で財政健全化を急ぐ現政権の路線は見直される可能性が高い。(中略)
具体策でまず浮上しそうなのは、日銀への一層の金融緩和圧力だ。安倍氏は総裁選で「日銀と政策協調して大胆な金融緩和を行う」と強調。2?3%の物価上昇率を達成し、円高を是正する考えを示しており、日銀の独立性を高めた現在の日銀法改正を材料に柔軟な政策運営を求めるとみられる。
◇消費増税先送り
消費増税を柱とする税と社会保障の一体改革でも現政権と温度差がある。安倍氏は民主、自民、公明の3党合意は維持する姿勢だが、「増税時期を間違えると景気の腰を折る。デフレが続いている間は上げるべきではない」と主張。(中略)
自民党は、防災対策に10年間で200兆円を投じる「国土強靱(きょうじん)化計画」を発表し、安倍氏も「最初は公共投資で(経済を)引っ張っていく」と推進の立場だ。財務省などには「歳出拡大圧力が高まるのでは」という警戒感がある。』
現在の日本のデフレは本当に深刻な状況に至っている。何しろ、
「マネーストックが増えても、物価が上昇しない」
という異様な事態になっているのだ。社会全体のお金の量が増えても、それが消費や投資に向かい、雇用・所得を生み出すように使われなければ物価は上昇しない。物価とは、あくまで消費や投資の「価格」なのである。
たとえば、土地購入や金融資産の売買は消費でも投資でもなく、どれだけ巨額のお金が動いても雇用にはほとんど影響しない。量的緩和第三弾が行われ、FRBから供給されたドルが原油先物や食料先物に流れても、雇用は全く生み出さない。もちろん、先物取引を手掛けたトレーダー個人の所得は高まるが、「働く人」が増えるわけではないのだ。それどころか、先物価格上昇でガソリン価格や穀物価格が上昇すると、発展途上国を中心に社会的な混乱を巻き起こしてしまう。
デフレ対策として中央銀行が通貨を発行するのは当然として、それを「誰か」が所得・雇用を生み出すように使わなければならないのだ。マネタリーベース、マネーストックを増やす金融政策のみでは不足で、そのお金が所得、雇用に向かうように消費、もしくは投資されなければならないという話だ。
本来、民間企業などが投資を積み重ね、個人の所得が増えることで消費が拡大していくことが経済成長の基本だ。とはいえ、民間需要が委縮しきったデフレ期には、民間主導の消費、投資の拡大は不可能なのである。
安倍総裁が「最初は公共投資で(経済を)引っ張っていく」ことについて積極的なのは、当たり前すぎるほど、当たり前の話だ。しかも、政府が正しいデフレ対策を実施し、経済成長を達成することで、財務省が望む財政の健全化も達成できる。
【図174−1 日本の国債発行残高(右軸、単位:億円)と長期金利(単位:%)】
出典:財務省、日本銀行
図174−1の通り、アメリカの不動産バブルの影響で好景気だったかつての安倍政権から福田政権にかけ、税収増により国債発行残高が横ばいになっている。経済成長(名目GDPの拡大)を達成すれば、自然増収により財政は健全化できるのだ。
それにも関わらず、財務省は安倍総裁の「正しいデフレ対策」に対し、「歳出拡大圧力が高まるのでは」などと警戒感を示している。財務省は国民経済を成長させるつもりがないのはもちろん、「財政健全化」達成にすら背を向けているとしか思えない。何しろ、政府が国債をどれだけ発行しようが、長期金利が逆に下がっていくデフレ期において、
「増税! 公共事業などの財政支出削減!」
などと真逆のことを言い続け、国民経済をどん底にまで追い詰めつつあるのだ。
財務省が安倍新総裁の「正しいデフレ対策」に反対である以上、今後の日本のマスコミでは「アンチ安倍キャンペーン」が展開されることになるだろう。マスコミというマスコミが「反・安倍」を叫ぶ中、国民は総選挙でフェアな判断をできるのだろうか。
いずれにせよ、来たるべき総選挙において、日本国民が、
「デフレ期に消費税を上げない政権」
を誕生させるのか、あるいは、
「デフレ期にも関わらず、消費税増税を強行する政権」
を生み出してしまうのか。選択肢が現在、日本の有権者の手の中にあることだけは、間違いないのない事実だ。
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2012/10/03/017206.php
#財政拡張の仕方がインフラ投資中心の場合、効率的でない場合、所得の長期的な上昇につながらず、
#短期間で貯蓄に回ってしまう可能性も指摘されているが、適正な評価は難しい
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