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反日デモと経済失速の行く末  社会にたかるベビーブーム世代 若者向け「自活」指南書で考える
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/773.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 02 日 00:50:51: cT5Wxjlo3Xe3.
 

反日デモと経済失速の行く末

2012年10月2日(火)  佐藤 央明 、 熊野 信一郎 、 張 勇祥 、 飯山 辰之介

日系施設を破壊した反日デモの影響は、観光や製品販売にダメージを与え始めた。だが、巨大な市場を前に、「撤退」を口にする日本企業は少ない。経済失速というリスクも抱える中国にとどまるべきか、引くべきか、難しい判断を迫られる。

 ハウステンボス子会社のHTBクルーズで、担当者は自嘲気味にこうつぶやいた。「唯一の販路が絶たれた。我々にはもうなすすべがない」。

 今年2月に長崎〜上海間を結ぶフェリーを就航、船内でカジノが楽しめることも人気を呼び、1日平均200人の乗客を集めていた。その7割が中国人観光客だったが、反日デモで状況が一変した。暴動のピークとなった9月18日には、中国人の団体客150人、日本人客150人がキャンセルになる事態が起きた。現時点で、中国人観光客の団体予約は3人だけ。中国の大手旅行会社は、日本の団体旅行の販売を全面停止しており、回復のメドは立たない。

影響読めず、中国に踏みとどまる

 中国公安当局は9月19日、デモ抑制の姿勢を強め、暴動や略奪はほぼ収束した。だが、日本企業にとっては、反日デモの影響は続いていく。

 既に観光業界は打撃を受けている。日本航空はキャンセル急増で、中国3路線の一時減便を決定。全日本空輸も中国路線を小型機に一時変更する。日中のイベントも中止が相次ぐ。「一昨年の漁船衝突事件では中国人客を3カ月で18万人失った。今回も影響は避けられない」(第一生命経済研究所の永濱利廣・主席エコノミスト)。

 日本製品の販売状況にも影を落とす。ホンダは2013年からの3年間で10モデル以上を中国に投入する計画。中国での新車販売を、2011年の61万台から、2015年には120万台強に倍増させる目標を掲げている。伊東孝紳社長は販売に影響が出る可能性を示唆しつつも「粘り強くやっていくしかない」と述べ、方針に変更がないことを強調する。

 だが、中国汽車工業協会によると、8月の日本車の販売台数は前年同月比2%減。乗用車全体では11%増加しており、落ち込みが際立つ。同月は香港の活動家が尖閣諸島に上陸して、尖閣問題が大きく取り上げられた時期だ。

 それでもデモと消費の関連が見極め難いため、踏みとどまる企業は多い。

 店舗破壊の映像が報じられ、被害の象徴となった流通大手のイオン。だが、「中国戦略を変更する考えは全くない」(イオン幹部)として、出店計画を粛々と進める方針だ。

 外資小売業の参入規制が段階的に緩和されて、流通企業による中国進出は本格化している。巨大な市場を考えれば、今すぐ「中国展開を控える」と決断する業者が少ないのもうなずける。

 だが、戦略の一部転換を示唆する企業も出てきた。ファミリーマートの木暮剛彦・執行役員は、「出店ペースを落とす可能性もある」と打ち明ける。背景には、「デモの標的」というリスクだけではない、深刻な問題が潜んでいる。

 「売り上げの伸びよりも、運営コストの増加ペースが速くなってきた」(木暮氏)。中国展開の魅力が薄れてきたわけだ。そこに、中国経済が大きく減速するリスクが浮かび上がる。

「踊り場の中国経済」、さらに打撃

 今年第2四半期は、GDP(国内総生産)成長率が7.6%まで低下し、長期低迷の始まりを予感させた。9月に入ると、米ゴールドマン・サックスなど米大手金融機関3社が、2012年の成長率予測を7.5〜7.6%まで引き下げた。

 9月19日、中国商務省の沈丹陽・報道官は会見で、「数カ月は世界経済の低迷が続き、外需は8月までの状況よりも悪化する恐れがある」と発言し、景気低迷が長引く見通しを示した。


 低迷の理由は製造業の不振だ。景気の先行指標となる中国製造業購買担当者景気指数(HSBC調査)は、9月に47.8と低迷し、11カ月連続で景気見通しの分水嶺となる50を割り込んでいる。

 減速の裏には、欧州経済の停滞などによって、貿易が細っている現実がある。8月の貿易額はわずか0.2%成長に低迷した。しかも、輸入額は2.6%の減少。政府が掲げる貿易総額10%増の目標を大きく割り込む水準だ。

 こうした局面で、反日デモが起きた影響は小さくない。今年に入って日中間の貿易も減退していた。日本から中国に向けた輸出は、2012年上期に前年同期比5.7%減となり、リーマンショック以来の落ち込みとなった。減少した主な品目は鉄鋼・化学製品や電子機器、機械などで、中国製造業が勢いを失っている状況が読み取れる。

 それだけではない。反日デモの影響がより深刻なのが対中投資だ。世界景気の停滞や中国経済の減速によって、対中投資を減らす国が多い中で、日本は前年同期比19%というハイペースで数字を膨らませていた。今年7月時点で、中国への直接投資(2012年)は、香港に次いで2位。円高による製造業の中国シフトの流れと、サービス分野の大型投資が相次いでいたからだ。

 だが、デモによる投資意欲の減退は避けられない。中国にとって海外からの投資が細る中で、日本との関係悪化はダメージが大きい。

 中国は窮状を打破するために、カンフル剤を持ち出すと見られる。

 既に動きは出ている。9月初め、国家発展改革委員会は1兆元(約13兆円)超の交通インフラ建設プロジェクトを認可した。だが、リーマンショック直後に打ち出した4兆元(約52兆円)の刺激策には遠く及ばない。しかも、前回の経済対策で主要インフラは大幅に整備されており、今回の刺激策がどの程度、波及効果を生むのか疑問符がつく。

 政治も複雑に絡む。10月の共産党大会で発足する習近平政権は、政治基盤を安定させるために、追加の大型刺激策を打ち出す可能性がある。だが、インフレや不動産高騰を招き、さらには不良債権問題や地方財政逼迫につながっていく恐れもある。

 経済と政治の転換点を迎えた状況下で尖閣問題が勃発し、減速する中国経済は微妙な舵取りを求められる。

 そして、中国に進出している日本企業も、難しい決断を迫られている。現時点では、中国戦略を大きく変更する動きは起きていない。だが、反日デモの余波と、転換点を迎えた中国の政治経済の軋みがどのように作用していくのか――。巨大市場に踏みとどまった企業も、固唾をのんで状況を見守っている。


熊野 信一郎(くまの・しんいちろう)

日経ビジネス香港支局特派員。日経BP社入社後、日経ビジネス編集部に所属。製造業や流通業を担当後、2007年に香港支局に異動。現在は主に中国や東南アジアの経済や企業の動き、並びに各地の料理やアルコール類の評価、さらに広島東洋カープの戦力・試合分析などを担当する。

飯山 辰之介(いいやま・しんのすけ)

日経ビジネス記者。

佐藤 央明(さとう・ひろあき)

日経ビジネス記者。出版社勤務や大学院留学などを経て、2004年日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。日経トレンディに約6年勤務。2011年1月より日経ビジネス編集部在籍、流通グループ所属。

張 勇祥(ちょう・ゆうしょう)

日経ビジネス記者
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120928/237401/?ST=print


JBpress>海外>The Economist [The Economist]
次の危機:社会にたかるベビーブーム世代
2012年10月02日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年9月29日号)
ベビーブーム世代が遺す経済的な遺産が世代間闘争を招こうとしている。
 新たな経済問題が地平線上に姿を現している。皺だらけの顔をした問題である。高齢化するベビーブーマーという膨れ上がった世代を消化しようとする苦労は、経済成長を圧迫する恐れがある。この問題の特性と規模が明らかになるにつれて、世代間の対決は避けられなくなるかもしれない。
政治的、経済的に独自の重力を持つ世代

米国のベビーブーマーは日本の団塊の世代よりずっと大きな集団を形成している〔AFPBB News〕
 第2次世界大戦が終わった後、先進国では出生数が急増した。ピークを迎えた年はそれぞれ異なったが、英国、ドイツ、日本は揃ってベビーブームに沸いた。
 最も顕著だったのが米国のベビーブームだ。1964年になると、戦後生まれの米国民が総人口の41%を占めるようになり、政治的、経済的に独自の重力を働かせられる規模の世代を形成した。
 こうしたベビーブーマーは恵まれた人生を送り、どの年齢だった時にも前の世代を易々と上回る所得を得てきた。この世代の重さそのものが人口ボーナスを生んだ。働く女性の急増に補強される形で労働力の供給が増加したのだ。
 社会の変化もベビーブーマーに有利に働いた。世帯が小さくなり、以前より稼ぎ手が増える一方で、子供が減ったからだ。また、ベビーブーマーは、折しも教育に対する見返りが劇的に高まっていた時に、米国の各世代でも指折りの高度教育を受けた世代という特性も享受した。
一度限りの恩恵
 しかし、これらの恩恵は一度きりのものだった。ベビーブーマーの定年退職は、かつての労働力急増の流れを反転させることになり、若い世代は働く女性の増加から恩恵を得ることはない。
 教育水準を引き上げる余地はあるが、資質に恵まれない生徒の成績を向上させることは、戦後がそうだったように、大学の学位取得を優秀な生徒にとって標準にするよりも難しく、見返りが小さい。要するに、ベビーブーマーの所得の伸びは、いくつもの一度限りの恩恵に依存していたわけだ。
 また若い労働者は、ベビーブーマーを豊かにしたような、数十年続く資産価格の上昇を期待することはできない。
 サンフランシスコ地区連銀のエコノミスト、劉錚(リウ・ジョン)、マーク・スピーゲル両氏は2011年に、PER(株価収益率)の動きが、高齢労働者に対する中年労働者の割合の変化をたどることに気付いた。つまり、PERはこの先、低下する可能性が高いということだ。
 盛大な上昇相場を生きてきたベビーブーマーは今、引退後の生活を賄うために資産を売っており、株価に下落圧力を加え、若い労働者が楽に富を築く道を断っている。
 ベビーブーマーは経済危機をそこそこうまく切り抜けた。主として株式市場が急回復したおかげで、現在53〜58歳のベビーブーマーの財産は、2006〜10年に差し引きで2.8%減っただけだった。
規模の力で政策を有利に

ベビーブーマーは有権者として層が厚いだけに、自分たちに有利な政策を実現できる〔AFPBB News〕
 それ以上に心配なのは、ベビーブーマーはその世代の規模を利用して、自分たちに有利な政策を実現できるように見えることだ。
 各国政府は1980年代に、後れを取る自国経済を活性化するため税率を引き下げたが、それは折しもベビーブーマーが最も所得の多い年齢層に差し掛かる時期だった。
 中央値に当たる米国世帯では、所得税と給与税を含めた連邦税の平均税率が、1981年の18%超から2011年の11%強に低下した。
 しかし、賢明な税制改革の結果、ベビーブーマーが自分たちのために投票し続けた寛大な給付金(保険の掛け金が不十分な処方薬給付など)を賄う税収が減った。
 財政赤字は爆発的に増加した。フンボルト州立大学の経済学者エリック・エシュカー氏は、1945年に生まれた米国人は全員、純額ベースで国から220万ドル近くの資金移転を受け取れると考えている。その前のどの世代よりも多い額だ。
 また、ベビーブーマーのたかりは、若い世代のそれを上回る可能性が十分ある。
 国際通貨基金(IMF)が2011年に行った調査は、個々の世代が生涯に支払う税額と、受け取る給付金の見込み額を比較した。ベビーブーマーは莫大なツケを遺すことになる。
ベビーブーマーが遺す莫大なツケ
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/1/f/250/img_1fe774e472647cb89689f078e8a7bbda13459.png
 2010年に65歳だった米国民は全体で、納税額よりも3330億ドル多い給付金を受け取る可能性がある(図参照)。
 これは、25歳だった人たちが将来に残すと見られる債務額の17倍に上る。
 悲しいかな、計算上は、この難題から抜け出す方法は2つか3つしかない。急速な成長は役に立つだろう。しかしベビーブーマーが残す負債は、労働力の伸びの鈍化という障害を一段と大きくする。
 ハーバード大学の経済学者のカーメン・ラインハート、ケネス・ロゴフ両氏は、GDP(国内総生産)比90%を超す公的債務は、平均成長率を1%以上低下させる可能性があると試算している。
 その一方で、米国ではベビーブーマーの時代に公共投資が減少した。GDP比の年間インフラ投資額は、1960年代初頭には3%以上だったのに対し、2007年は1%程度まで低下した。
 もう1つの選択肢は緊縮財政だが、必要となる財政再建の規模は大きい。IMFは、米国の財政不均衡を是正するためには、すべての移転支出を35%削減し、すべての税金を35%引き上げる必要があると試算している。軋みが生じている政治システムにとっては、飲み込むには大きすぎる薬だ。
65歳以上の有権者の比率がまだまだ上昇する米国
 エシュカー氏が行った別の調査によると、財政の不均衡は、65歳以上の人口の割合の上昇および党派的な行き詰まりに伴って拡大するという。有権者全体に占める65歳以上の人口の割合が現在の17%から2030年には26%に上昇する見込みの米国にとって、これは厄介なニュースだ。
 こうなると、残るのは3つ目の可能性だ。インフレである。
 戦後のインフレは米国のGDP比の公的債務残高を35%引き下げる一助になった。今以上の物価上昇は、別の理由でも有益かもしれない。ロゴフ氏は、5%の物価上昇が数年間続いていたら、家計の債務をもっと早く減らす助けになったと考えている。
 米連邦準備理事会(FRB)の政策決定委員会のメンバー2人を含む他のエコノミストは今、金利がほぼゼロである以上、FRBは回復のスピードを上げるためにインフレ率の上昇を容認すべきだと主張している。
世代間闘争は不可避
 世代間の隔たりは、この計画を受け入れ難いものにしている。若い労働者は一般に債務者であり、実質金利を引き下げるインフレの恩恵を受ける。一方で、貯蓄を多く持つ中高年は、同じ理由からインフレを嫌っているからだ。
 セントルイス地区連銀が最近発表した論文は、国の高齢化が進むにつれ、インフレに対する耐性が低下することを示している。論文の執筆者たちは、中央銀行はある程度の世代間の再分配を達成するためにインフレを利用できるという理論を立てている。
 しかし、FRBに景気拡張的な金融政策の打ち切りを求める圧力はかなり強く、共和党を筆頭に、次第にベビーブーマーの優先事項に突き動かされるようになっている。
 ベビーブーマーの政治力は恐るべきものだ。しかし、遅かれ早かれ、計算から逃がれられなくなる日が訪れる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36218

#まさに日本化

 


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120925/324454/

「3冊だけ」で仕事術向上! ――奥野宣之「ビジネス書、徹底比較レビュー」

会社に雇われなくても「仕事をつくる」道はあるか? ――若者向け「自活」指南書で考える

2012年9月28日

あとで読む連載ウォッチ

■今回取り上げる3冊

『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』ティナ・シーリグ(著)、高遠裕子(訳)/阪急コミュニケーションズ/1470円
『ニートの歩き方 ──お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』pha/技術評論社/1659円
『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』伊藤洋志/東京書籍/1365円
弱肉強食の世界を生き抜く方法
 小学生のころ、夏休みにはいつもテレビで『北斗の拳』の再放送があった。毎日、朝ご飯を食べたあと、人体をめちゃめちゃに壊したりナマス切りにしたりするアニメを観るという冷静に考えればすさまじい環境だったと思うけれど、そんな中で、友達とよくこんな話をしたのを思い出す。

 「北斗の拳の世界になったら、どうやって生きていく?」

 「料理人になればいいんでない?」というのが僕の答えだった。地域のボスに気に入られ、雇ってもらえれば、略奪されてばかりの村人よりいい生活ができそうだから、というのがその理由だ。

 ところが、この話をした数日後の『北斗の拳』で、料理人が「メシが気に入らない」と、ボスに半殺しにされてしまった。

 「料理人もダメか……」

 あれから20年あまり、ふと振り返れば、北斗の拳ほどではないけれど、現代もかなり弱肉強食の殺伐とした世の中になってきている。

 文部科学省の今年8月の発表によると、今春に大学を卒業した56万人の学生のうち、約8万6000人は就職も進学もしないという。そのうち約3万3000人は、進学も就職の準備もしていない、つまりニート確定だ。

 就職活動は、もはや学生と企業のマッチングとは呼べない。イス取りゲームのように「どこにも座れない人」が生み出されるシステムになってしまった。

 そんな状況で、「就職できないなら、いっそ自分で起業したらいい」と言い出す経済評論家もいる。

 正社員で経験を積んだあと、フリーランスになった僕から見れば、電話のかけ方もわからない学生に起業なんて……と思ってしまう。

 しかし一方で、誰かに雇ってもらえなくても、若者が仲間と気軽に起業したり、自分で好きな仕事を作れるような世の中になればいいな、とも思う。

 株式上場で大金持ちになることを目指して、一念発起して会社を興すような「起業」だけでなく、パソコンひとつから始められる自営業、会社員をしながらでもできる副業なども含めて、もっと柔軟に「自分の仕事」を自分で作ることはできないのだろうか。

 近ごろ増えている若者向け「自活」指南書を読んで考えた。

「お膳立て」「ルール」を無視せよ

「お膳立て」「ルール」を無視せよ
 1冊目は、2010年の刊行から順調に版を重ねているロングセラー『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』だ。

 著者のティナ・シーリグ氏は、大学卒業後、本当にやりたいことを探して、さまざまな仕事を経てきた女性実業家。スタンフォード大では、学術的な知識ではなく社会に出てから役に立つようなものごとの考え方や捉え方、著者流に言うと「起業家精神」を教えている。

 たとえば、学生へ次のような課題を出すことを通じて。

●これから2時間で、元手の5ドルをできるだけ増やしてください
●5日間以内に、封筒に入ったクリップからできるだけ多くの「価値」を生み出してください
●オフィスに節電を徹底させる効果的なアイデアを出してください

 本書ではそんなワークショップや起業家の若い頃のエピソードが紹介され、失敗を恐れずやってみることの大切さが語られる。

 紹介されている学生のアイデアや、起業家のエピソード自体は、それほど画期的なものではない。だが、これまでのセオリー通りのやり方ではなく、「自分の頭で考えたやり方をする」ということ自体に意味があると、著者は言う。

「『決まりきった次のステップ』とは違う一歩を踏み出したとき、すばらしいことが起きるんですね」。踏みならされた道は、誰でも通ることができます。でも、予想もしなかった角を曲がり、何か違うことをしようとしたとき、そして、周りがお膳立てしてくれたルールに疑問を持とうとしたとき、面白いことが起こります。用意された道にとどまった方が楽なのは誰もが認めます。ですが、その先の角にある意外な世界を見つける方がずっと面白いものです。(20歳のときに知っておきたかったこと/P.67 ※太線強調は引用者によるもの。以下引用部でも同じ)
 成功するかしないかではなく、「面白さ」で選ぶのだ、と。

 本書で語られる「起業家精神」とは、煎じ詰めれば、誠実な人付き合いの姿勢であったり、常識を疑うものの考え方であったり、失敗にくじけない心の強さだったりする。要は誰もが必要としているものだ。

 しかし、その核にあるのは、「自分に許可を与えること」。つまり、リスクをどんどん引き受け、躊躇せず新しいことを自分にやらせるというバイタリティにあふれた生き方だ。

 読んでいると、明日にでも起業家になれるような気がしてくる。そんな底抜けの明るさも本書が売れ続けている理由だろう。

ニートという生き方があってもいい

 「恐れずにどんどんチャレンジしろ!」というのは、勇ましいし、かっこいい。

 ただやはり、いかにもアメリカ的だな、テンションが高すぎてついていけないな、という気もする。

 特に日本には「世間体」というものがあって、会社の名前や肩書き、年収で、その人が判断されたりする。だから、学生はとりあえず大きい会社の正社員を目指す。いつかは結婚もしたいし。

 個人的には、「世間体」なんてしょうもないことだとは思うが、この空気から完全に逃れることは難しい。

 まずは、この「就職していないと一人前ではない」という「常識」を崩してみる必要がありそうだ。

 というわけで、2冊目として『ニートの歩き方――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』を見てみる。

 著者のpha氏は33歳の自称ニート。アフィリエイトや古本の「せどり」などで80万円ほどの年収はあるけれど、基本的には働かずシェアハウスでネットしながら、だらだら寝て暮らしているという。

 いったん正社員として就職したものの、退職してニートとして生きていくことにしたのだから、肝が据わっている。今後、就職も結婚もするつもりはなく、ネット環境とネット上でつながれる仲間さえいれば充分幸せだという。

 なぜそこまで確信を持ってニートになれたのか。

 会社に勤めて、結婚して、子育てして……、このような社会の既定路線にすべての人が適応できるわけではない、ということを著者は、工場などで使う「歩留まり」(=不良品を除いた出荷できる製品の割合)という言葉を使って説明する。

 結局、人間の社会にも歩留まりというのはあるのだ。人間の世界のことで100%というものはあり得ない。義務教育は全ての国民が受けるために作られているものだけど、どうしても何%か義務教育に適応できない性質の人聞は生まれてくる。会社に適応できない人も同じだ。
 それはもうそういうものなので、仕方がない。頑張って一般に合わせようとしても無理だ。かと言って、じゃあそういう人聞は死ねばいいのかって言うともちろんそんなことはなくて、周りから変人だと思われることを気にせず自分なりの独自の生き方を切り開いていくしかないのだ。(ニートの歩き方/P.137)
 確かに、やりたいことができず、生きていながら死んだような生活を送って、あげくに鬱病になるくらいなら、貧乏でもやりたいことをやって暮らす方がいい。

 これも、方向性こそ正反対だが、『20歳のときに知っておきたかったこと』で何度も強調されている「自分に許可を与えること」のひとつだろう。

 この広い世界には、ニートという生き方も「有り」なのだ。すでに事実としてニートはたくさんいるのだから、もっと積極的に人間社会の一員として存在を認められてもいいはずだ。

 とは言うものの、著者のように一日中ネットしているのが、「心底楽しい」といえる人は少ないだろう。

 ほとんどの人は物欲も性欲もそれなりにあるから(20代ならなおさらだ)、ただ生きているだけで、何かとカネがかかってしまう。

 そもそも、「ほとんど働かずに年収80万」というのは、普通の人から見てると、相当うらやましい状態だろう。

収入が増えなくても収益アップは可能

 さて、カネの問題に突き当たった。

 雇われていなくても、誇りを持って生きていくことはできるだろう。しかし、カネがないとそれも続かない。

 3冊目の『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』は、そんな「自分の力でどうやって食っていくか」というテーマを正面から扱った本だ。

 『ニートの歩き方』の著者とほぼ同い年(しかも共に京大卒)の著者が語る生き方とは、「一人の人間がいくつものナリワイを持つこと」。

 ナリワイとは、「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体が鍛えられ、技が身につく仕事」と著者は語る。

 たとえば、自分で床の張り替えができれば、簡単なリフォームの仕事ができるし、友人知人の住居メンテナンスの手伝いもできる。自分の家が傷んできたときにも、業者に頼まず、材料費のみでDIY修繕できるし、ネットやチラシで集客すれば、技術を教えるワークショップも開ける。

 こんふうにすれば、「床の張り替え」はただのスキルでなく、ナリワイとなる。

 本書には、床貼りのほかにも、ツアーガイドやパン焼き講習などが、ナリワイの例として紹介されている。ひとつのナリワイごとに月3万円程度の収入を目標にすると、10のナリワイで年収360万円くらいは稼げる、というのが、著者のカネに対する考え方だ。

 これで物質的にも精神的にも豊かな生活が手に入ると著者は言う。なぜかというと、「経済的な豊かさ」を単純に「収入」だけで考えないからだ。

「たった360万円ぐらいで老後も含めて大丈夫なの?」という意見もあるだろう。ナリワイは、先に述べたようにそもそも自分の生活を自分や自前のネットワークで賄えるようにすることがスタートで、やっているうちに生活の自給度が上がるということを前提にしている。したがって、収入も増えつつ同時に支出も減っていくという「ダブルインカム」状態が生み出される訳である(「ダブルインカム」の本来の意味とは違うけれども)。
 ものすごくテキトーに単純化して皮算用するとナリワイの場合は現金として入ってくる360万円の二倍、つまり720万円分の収入があるぐらいの生活が実現できると私は踏んでいる。(ナリワイをつくる/P.3)
 これは僕の実感とも一致していて、フリーランスになってからカネの使い方が異常に上手くなったと自分でも感じている。

 僕の場合、会社員のころは、本当は必要のないものを時間のなさとストレス解消のためにろくに考えもせず買っていたし、家でつくるのが面倒だからと食事は外食ばかりだったが、これはキッパリやめられた。しかも、料理の腕によっては外食よりはるかに健康的な食生活ができる。

 つまり、自宅で料理をしたり夕方にスーパーに行ったりできるような時間の余裕があると、生活コストがガクンと減るので、「収入−支出」の収益は増えるという計算だ。

 面白いことに、『ニートの歩き方』のpha氏も、『ナリワイをつくる』の著者の伊藤洋志氏も、東京のシェアハウスに暮らしている。都会のシェアハウスなら、家賃が安いだけでなく、仲間も集まりやすい。ゲームやマンガの貸し借りもできれば、居酒屋に行かなくても、ネットで招集をかけて呑み会もできる。金銭的メリットは大きい。

 ただ、収益は収入以上には絶対にならないので、限界はあるだろう。

 しかし、「外車を乗り回したい」なんてまったく思っていない若い世代にとっては、「収入アップで豊かな暮らし」だけでなく、「支出ダウンで豊かな暮らし」という道もあるという話は、ある種の福音になるのではないだろうか。

「自分の感覚を裏切らない」というルール

 3冊の本は、一見バラバラのことを言っているようだが、共通して感じたのは、「この人たち、好きなように行きてるなあ」ということだった。

 書籍のPR会社を作るとか、別荘を共同購入して旅館経営するとか、モンゴルツアーを企画するとかいった事業のアイデア自体は、べつに「これこそイノベーションだ!」というようなものではない。

 しかし、その行動力というと、すごい。

 周りの人間をどんどん巻き込み、思いついたことはとりあえずやってみるという「回路」が当たり前のようにできあがっている。

 その点では、「成功をめざせ」と学生に発破をかけるスタンフォード大の教師も、毎日ゴロゴロしていたいと語るニートも、「非バトルタイプ」を自認しているナリワイ実践家も同じだ。

 では、この人たちの行動力の源とはなんだろう。

 自分以外のすべての人間が当たり前だと思っていることでも、自分で考えて「おかしい」と思ったら、躊躇せずに自分の思うとおりにやる。

 右に行くのが常識で、周りの人はすべて右に行くとしても、自分の胸に手を当てて左に行きたければ、左に行く、というような自我の強さ。

 言い換えれば、「自分の感覚を裏切らない」ということだろう。

 このことは、ナリワイ実践家の伊藤氏とニートのpha氏が会社をやめたときのエピソードを見るとよくわかる。

 伊藤氏は、多忙な会社員時代のことを、
ストレスなのか、寝る前にハーゲンダッツを食べないと眠れないこともしばしばであった。睡眠時間を削って稼いだお金が、睡眠不足のストレスを解消するためにアイスクリーム代に消える。
 どうも、これはおかしい。(ナリワイをつくる/P.3)

 と振り返っている。
 pha氏も、会社員時代、ストレスから衝動買いしたり、盆休みやゴールデンウィークに割高な旅行ツアーを申しこまざるを得なかった違和感を次のように語る。

それは、会社に自分の時間を売ってお金を得たけれど、その得たお金でまた時間を買い戻しているだけのような気がした。それは本当に本末転倒というか、何をやっているのか意味が分からないなーと思ったし、別にお金があんまりなくても時間さえあれば僕は十分楽しく暮らせるような気がしたので仕事を辞めたのだった。(ニートの歩き方/P.161)
 せっかく稼いだカネが、カネを稼ぐために費やしたエネルギーを補うために使われてしまう。ブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいるようなもので、何がしたいのかわからない。

 周りに流されないでいると、世の中の矛盾に気づく。

 スタンフォード大の授業のように「起業家精神」というと仰々しいけれど、その神髄とは、この2人のように自分だけの違和感を切り捨てず、そのせいで苦しむことになっても、突き詰めていく、ということではないだろうか。

スタンフォード大の「やるか・やらないか」理論

 おかしいと思ったら、違うやり方をする。

 それはシンプルなことであって、知識も能力もいらない。

 それでも……、と不安に感じる人のために、最後に引いておきたいのは、スタンフォード大機械工学部で行われたある演習だ。

 教授が瓶をしっかり掴んで、学生に「この瓶を僕から奪おうとしてみて」と言うと、取れない。あるいは落としてしまう。

 ところが、教授が「この瓶を僕から奪って」と言うとだいたい3回以内に成功するという。

ここからどんな教訓が導けるのでしょうか? 何かをしようとするのと、実際にするのでは大違いだ、ということです。わたしたちは、「何かをしようとしている」としょっちゅう口にします。減量であったり、運動であったり、職探しであったり。でも、ほんとうのところは、しているのか、していないのか、どちらかなのです。「しようとしている」というのは言い訳に過ぎません。(20歳のときに知っておきたかったこと/P.193)
 「できるか・できないか」じゃない。
 「やるか・やらないか」だ。

 やると思ったときには、もう行動に移していなくちゃいけない。そうでなければ本気とは言えない、と。

 ヤクザの親分が鉄砲玉を送り出すときの話みたいにも聞こえる。

 しかし、この言葉を超えるものがなかなかないのも事実だ。

 現代は閉塞感にあふれている。しかし、それに付き合って深刻な顔をする義理はない。

 同じように、今の社会のルールだって誰かが作ったものに過ぎない。であるなら、今から自分が新しいルールを作ってもいいはずだ。

 雇われるにしろ、雇われないにしろ、自分のボスは自分だという原則を片時も忘れてはならない。

■これだけは押さえておく3冊の要点

『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』
●スティーブ・ジョブズも教会の炊き出しに列んだ。失敗を恐れるな
●誰かに引き上げてもらうのではなく、自分で自分を引き上げろ
●人間関係は大事に。ちゃんと手書きの礼状を書け
【こんな人におすすめ】
→自信をなくしがちな人は読んでみよう。いいカンフル剤になる。

『ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法』
●都会暮らし・シェアハウス・ネット環境、これらの条件がそろえばニートは楽しい
●「集まっていると死ににくい」。マイノリティは群れて暮らすべき
●将来や老後も、最終的には「なんとかなる」はず
【こんな人におすすめ】
→「働きたくない」はおかしいのか。常識から一歩はみ出して考える本

『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』
●ナリワイとは単なる労働ではない。技術を身につけて生活の自給度を上げることが目的
●ニート問題の本質は、戦後の経済成長で、仕事の多様性が失われたことにある
●専業は飽きるし、リスクも大きい。対してナリワイは柔軟性がある
【こんな人におすすめ】
→稼ぎ方のほか、手仕事などに回帰する若者の「仕事観」がわかるという点でもおすすめ。

奥野 宣之(おくの・のぶゆき)
1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部を卒業後、新聞記者・ライターとして活躍。仕事や私生活での資料やメモの整理を独自に研究した結果をまとめた『情報は1冊のノートにまとめなさい』でデビュー。同書は31万部、読書を題材にした続編の『読書は1冊のノートにまとめなさい』が14万部、累計45万部のベストセラーとなる。情報の整理と活用、アウトプット技術などをテーマに「面白くて役に立つ本」をモットーとした著作活動を続けている。(発行部数は2010年1月現在のもの)
他に、『情報は「整理」しないで捨てなさい』(PHP研究所)、『だから、新書を読みなさい』(サンマーク出版)、『人生は1冊のノートにまとめなさい』(ダイヤモンド社)。最新刊『「処方せん」的読書術』(角川書店)も好評発売中。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120925/324454/?ST=career&P=6
皆様からお寄せいただいたご意見(1件)
以前から思うことだが、例えば、男一人だとかニートだとか、ここで言うテーマの「仕事創生」では制約のない立場を題材としているのが気に入らない。斯様に制約がない人間にとっては、その人が起業をするなど極めて簡単なことである。

紹介されている本を読まなければ起業できない人は、最初からどうやっても起業ができないのである。起業に本など必要がない。本に書いてあることは終局的には行動あるのみ、これだけだ。結局ベストセラーもニートなどの話題になるのみで、著者や評論家を儲けさせるのみだ。

もっと制約を抱えた人のための、例えば、扶養家族を抱えて起業をする方法や、基本的に日本で仕事の容量を増やすことを紹介した本が、今は一番必要であり、読むべきである。 (ぷりぺあ) (2012年09月28日 12:16)
 

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