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中国の政権闘争を黙って見つめるアメリカ、日本の取るべき位置
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/760.html
投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 29 日 16:26:40: cT5Wxjlo3Xe3.
 

『from 911/USAレポート』第592回

    「中国の政権闘争を黙って見つめるアメリカ、日本の取るべき位置」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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 ■ 『from 911/USAレポート』               第592回
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 それにしても、中国における一連の反日暴動に関するアメリカでの「報道の少なさ」
は異様です。新聞もテレビも、放火や破壊の被害を受けた工場や商店の映像はほとん
ど報じませんでした。トヨタに代表される日系企業が、消費者の「ボイコット」だけ
でなく、部品の通関への不安などから相当に長期にわたる影響を覚悟しているという
こともほとんど報じられていません。

 では、アメリカは「日本より中国に親近感を感じ」ているために、暴動の被害を隠
しているのでしょうか? そんなことはないと思います。というのは、中国にとって
もう一つの問題であり、恐らくは反日暴動の問題とも深く関わっている「次期政権」
の問題も一般紙やテレビではほとんど取り上げられていないのからです。

 ですが、このアメリカの「報道しなさ加減」というのは異様です。アメリカは何か
を恐れているかのようです。それは何がなのか、現時点での考えを整理してみたいと
思います。

 一つには、経済への巨大な影響です。ここ数週間、アメリカの株式市場はダウが1
3500ドル前後、S&Pが1450ドル前後という高水準で推移しています。これ
は、ダウで見ればブッシュ政権時の「住宅バブル」によって2007年につけた14
000円という高値まであと一歩という大変な高値圏であるわけです。S&Pで見て
もほぼ同様です。

 では、どうしてここまで株高になっているのかというと、一つには景気が「依然と
してスローながら改善を続けている」ということがあります。雇用統計も、数字とし
ては悪いのですが改善のトレンドから逸脱はしていません。住宅など「ずっと悪かっ
た」数字にもここへ来てハッキリと明るい兆候が出てきました。また消費動向に関し
て言えば、ここのところの数字が良いだけでなく、この11月から12月の年末商戦
に関しては相当に強気な声も聞かれるようになっています。

 そんな景況感の中、もう一つの理由は「QE3」だと考えられます。連銀による流
動性供給の継続は、金利引き下げ効果とともに、とにかく市中にキャッシュを流して
いるわけで、そのカネが株を買い上げているという構造もあると思われます。このQ
E3の関連で言えば、やっているのはバーナンキですが、ハッキリ言えばこれは「オ
バマ・エコノミー」だということも出来るわけです。

 共和党の(例えばロムニー)のように、投資家やエネルギー関連業者を喜ばせる
「強いドル」ということには一切こだわらず、ドルが安くても良いという顕著な政策
とも言えます。ドル安になれば雇用が多少なりともアメリカに戻ってくる、それ以上
に、多国籍企業が外で稼いだカネが、ドル換算では膨張して見える効果もある、そう
した点からして、ドル安をハッキリと容認する経済ということも志向されていると見
てよいでしょう。

 現在の株高は、例えばアップルやGMのように、あるいはGEのように「世界で稼
いで」きたカネをドルに換算して、好決算を続ける企業が主役というところもあるの
ですが、これもまた「オバマ・エコノミー」の一環だということが言えます。もっと
言えば、11月の大統領選挙へ向けて、この「オバマ・エコノミー」による株高が崩
壊してもらっては困るのです。何と言っても、経済はオバマの現職としての弱点であ
り、それが「決して期待したほどではないが、最悪期は脱した」という一種の安堵感
があることが、現在の「オバマの10ポイントリード」を支えているとも言えるから
です。

 ところが、この「オバマ・エコノミー」にはアキレス腱があります。それが中国な
のです。景気と株高を牽引している例として先ほど挙げた、アップル、GM、GEな
どがいい例ですが、こうしたアメリカの多国籍企業の成功は、相当の部分を中国に負
っています。対中貿易は、確かにアメリカから見れば赤字ですが、かつて1980年
代にアメリカが日本との貿易不均衡を問題視した時のような構造とは違います。

 中国は、中国のブランドでアメリカの市場を脅かしているのでは、現時点ではない
のです。そうではなくて、中国はあくまで現法やOEM発注先、あるいは組立外注先
ということで、直接的あるいは間接的に「アメリカの生産拠点」なのです。また、8
0年代の日本とは違って、中国はアメリカ製品の巨大な市場です。つまり、中国とい
うファクターは、アメリカ経済の生産拠点としても、販売先としても巨大な存在にな
っているわけです。

 ですから、昨今の議論では2008年9月のリーマン・ショックに始まる不況とい
うのは、アメリカの不動産バブル崩壊が引き金を引いたのではなく、2008年8月
上旬に北京五輪が行われている丁度その最中に上海市場が大暴落して、中国の「成長
バブル」が一旦弾けた、そのことが根本的な原因だということも言われているのです。

 ということは、仮に今、中国の社会が激しく動揺しているということになれば、
「オバマ・エコノミー」は崩壊してしまうわけです。まずアメリカ株が下がり、それ
が消費と雇用に打撃を与えるかもしれません。最悪の場合は、2009年以来、薄氷
を踏む思いで改善してきたアメリカお景気と雇用が、大きく崩れるかもしれない、例
えばですがそれがこの2012年の「9月とか10月」に起きるようですと、オバマ
の再選には急に赤信号が灯ることになるわけです。

 そんな中で、今週の24日に山西省太原市にあるアップルの外注先である「FOXCO
NN」社の工場で暴動が発生し、工場が閉鎖されたというニュースが流れました。ニ
ュースの流れ方としては、中国のミニブログサイトでの「つぶやき」という形で事件
が明るみに出たという第一報が出ただけで、以降は限定的な情報しか流れなかったわ
けですが、市場は早速敏感に反応しています。

 この時点でのアップル株は「iPhone5」の受注が好調だということを受けて、
株価は700ドルを突破し「史上初の時価総額1トリオン(約80兆円)企業」にな
るかもしれないなどと、市場は浮かれていました。ですが、この「短信」だけで株価
は、20ポイント(2.9%)下がっています。その後は、地図機能の不具合である
とか、別の悪材料も出る中で株価は「やや調整」ということになり、そのキッカケに
過ぎないといえばそうなのですが、一瞬のうちに20ポイント落ちたという背景には、
中国の「カントリーリスク」にアメリカの投資家が非常にナーバスになっているとい
うことがあると思います。

 もう一つの大きな問題は、現在の中国の動揺が「幹部の交代期」にあること、そし
て権力の委譲を巡って恐らくは深刻な闘争が起きているということがあります。では、
それほど今回の中国の政権交代が重要であるのなら、アメリカのメディアとしては思
い切り報道すればいいのです。ですが、なかなか大きくは出てこないわけで、例えば
「太子党+江派」と「共青団」の対立構図などという話は「ニュース好きの専門的な
話題」にはなっても、一般的な関心を呼ぶことはないわけです。

 例えば、次期国家主席に内定しているという習近平を中心とした政権がどのような
性格になるのか、中国がより「開かれた社会」になっていくのかという問題は、先ほ
どの経済という観点からも、またアメリカの軍事や外交という観点からも、大変に重
要な問題であるはずです。ですが、ここ数週間のアメリカのメディアでの扱いは非常
に小さいわけです。

 反日暴動の話が断片的に報道される、日本に取材した尖閣を巡る日中の問題が断片
的に報道される、また権力闘争の「氷山の一角」としての「薄煕来氏事件」に関して
「だけ」はとりあえず報道されるという中で、アメリカでは一部の人しか「全体像を
想像しながら中国の政治を追いかけている」ということはないのです。

 たぶん、様子を見ているということはあると思います。遅かれ早かれ党大会の日程
が公表され、次期常任委員の顔ぶれと序列が決まるのだから、それまでは待つしかな
いという感覚はあるでしょう。また、メンツを重んじる中国の政治家のことに配慮し
て、「憶測的で失礼な記事」をバンバン書くのは止めておこうという配慮はあるかも
しれません。

 また、中国の問題というのは「クロウト向け」の難しい話題であり、大手のニュー
スメディアとしては、どうしても「大統領選」や「アラブでの反米デモ」のニュース
を大きく扱う一方で、中国の政権交代の問題は「二の次」になっているのかもしれま
せん。

 問題はそこにある大きな「落差」です。経済に関してはアメリカは中国に非常に大
きな利害を持ってしまっている、その一方で「政治」に関しては体制の違いというこ
ともあり、また密室性ということがあるために「遠くから指をくわえて見ているしか
ない」、そこには大きな落差があるわけです。

 この問題は、日本で2000年代以来言われていた「政冷経熱」などというレベル
の問題ではないと思います。もっと大きな落差、といいますか断層のようなものがそ
こにはあります。例えば、反日暴動の凄まじいまでの映像というのは、アメリカに対
してその「断層」を否が応でも突きつけてしまう迫力があるわけで、そのために「知
ることを、あるいは知らせることを躊躇する」というリアクションになったと見るこ
とができるわけです。

 落差、いやこの「断層」はこの先はどうなるのでしょうか? 私はタダでは済まな
いと思います。アメリカという国は、そのような断層をいつまでも放置するほど我慢
強くはないからです。習近平政権が確立し、アメリカの次期大統領も決まったところ
から、これまでとは違う、米中の政治のゲームが始まるのではないか、私はそう見て
います。

 その政治のゲームですが、過去の例としては、例えば、2001年に発生した「海
南島事件」が参考になります。つまり、海南島付近の南シナ海上空でアメリカと中国
の軍用機が空中で衝突しアメリカ側の電子偵察機が海南島に不時着した事件です。こ
の事件では、機密性の高いハイテク偵察機が中国の手に渡る中で、相互が緊張したわ
けです。ですが、今から考えれば、この事件は、米中が緊張を高める方向には作用し
ていません。

 むしろ、1999年のコソボ紛争に際して、ベオグラードの中国大使館を米軍が誤
爆して以来、大変に緊張していた米中関係が、逆に相互の信頼関係醸成へと向かった
契機になった事件と見ることができます。そんな中で、2002年には退任する江沢
民が国連総会と、首脳会談のためにアメリカを訪問し、ブッシュ大統領自身が大歓迎
の姿勢を見せるようになったわけです。

 この海南島事件の顛末は一つの参考になると思います。例えばオバマが再選されて
も、ヒラリー・クリントンは国務長官を辞めるわけですが、中国の新政権とヒラリー
の後継者との間に何らかの新しい要人同士の関係が生まれることで、何らかの事態の
収拾が図られる、あるいはロムニー政権になった場合は、もっと「手っ取り早く」関
係修復ということもあるかもしれません。

 第一のシナリオとしては、そうした「尖閣を巡って緊張」という状況を契機にしな
がら「新たな要人同士の信頼関係が模索される」という可能性があります。そこでは、
「断層」は大きな地震にはならないように、小手先の対策が取られることになるので
しょう。

 ですが、第二のシナリオとしては、中国の新政権がいよいよ南シナ海と東シナ海で
海軍の増強に突っ走るような場合、これに合わせて「政治体制、イデオロギーの違い」
という断層が激しく浮き彫りになるという可能性も捨て切れません。

 実際のところは、その両者が絡みあったような展開になるのかもしれませんが、で
はそうした中で、11月以降「米中が新たな外交ゲーム」を始めた場合には、日本は
どうしたらいいのでしょうか? 別に従来の外交方針や日米関係を変更する必要はな
いと思います。ですが、日韓関係と日台関係については、真剣に改善の姿勢を見せる
べきと思います。

 また、いわゆる慰安婦の問題に関しては「我々がやったのは人身売買であって、強
制連行ではありません」などという「名誉回復にはちっともならない主張」を続けて
「意味不明」と思われるのは止めるべきだと思います。この辺りの問題に関しては、
韓国の政権交代を一つのチャンスとして日韓の新たな関係が追求されるべきでしょう。

 そうした努力の中で、少なくとも日韓台の関係を修復し、健全な日米関係を維持し、
中国との軍事外交のバランスを取る、少なくとも「自由な東アジア」の中では大きな
「断層はない」という状態を維持することが重要ではないかと思われます。今回の政
権交代劇、薄氏事件、そして反日暴動というような流れを見ていれば、やはり中国に
対しては「もっと開かれた社会を」というメッセージを出し続けることが重要だと思
うからです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。

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JMM [Japan Mail Media]                No.707 Saturday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】101,417部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )  

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コメント
 
01. 2012年9月30日 19:38:21 : g9EbZmeAAc
中国が神経を尖らせている対日外交問題は、一部の右翼勢力が米国人権外交と結びついて反中国運動を展開していることです。

自民党安倍総裁はこうした右翼勢力と親しい関係にありタカ派とみなされていますが、一方現実的な外交路線は国内の嫌中国勢力と一線を画し現実路線を選択する可能性もあります。

冷泉氏の記事にもあるとおり、青息吐息の米国経済が中国国内の排外運動により少しでも影響を受けることを嫌うとすれば、オバマ政権としては尖閣問題は沈静化するよう日本側に働きかけると予想されます。

中国側も外資が混乱する中国から引き上げるということは、なんとしても避けたい思惑が働くものと予想されます。

いずれにしても、中国・米国・日本の軍事派閥を政治が押さえ込むことができるかどうかが、焦点でしょう。


02. 2012年10月01日 18:09:53 : LGUfwnafEI
なにが言いたいのでしょうか?

中国にメッセージを出す?はあ?


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