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携帯電話なしの生活―節約のための米国最新事情
2012年 9月 28日 18:45 JST
ナンシー・カドリックさん(54)は最近、ニューヨーク市ポートオーソリティーのバスターミナルで友人を待っている時に確信が持てなくなっていた。彼女は友人のシンシア・サントロさんと待ち合わせをしていたが、時間が経過するにつれて場所を間違ったのではないかと思い始めた。
実際、間違っていた。サントロさんはやっと会えた時に、「上の階にいたのに、いなかったわね」と大声で叫んだ。
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Bloomberg News
ジム・フォスターさん
携帯電話のおかげで、このような瞬間は無くなるはずだった。しかし、マサチューセッツ州サーレムに住むカドリックさんは、携帯電話を所有していない約3000万人の米国民のうちの1人だ。以前は月額65ドル(約5040円)を支払っていたが、経費削減のため、数年前に契約を打ち切った。
ウォール・ストリート・ジャーナルは26日付の記事で、消費者の外食や衣料品、娯楽向けの支出は減少する一方で、携帯電話の利用料金は増加していると紹介し、読者から予想外の反響があった。だいたい、携帯電話など必要なのか。
米国の大手電話会社にとっては、カドリックさんのような人々は極端な例ながら拡大する課題だ。景気低迷で家計が圧迫されるなかで、どうやったら消費者を高額な契約プランにとどめておくことができるのだろうか。
カリフォルニア州ヘイワードに住むメリッサ・ヒルデブランドさん(24)は「携帯の支払いにはうんざりだ」とし、「清々する」と話す。
自宅介護士として働くヒルデブランドさんは、担当する85歳の女性は携帯電話を使用していて、「私に『なぜ携帯を持っていないのか』と怒鳴る」と話す。
ヒルデブランドさんにとっては携帯電話を持たなくなったことは、時間厳守に立ち戻ることでもあった。友人と待ち合わせをするときには、正確な場所と時間を指定する。サンフランシスコの近くのことが多い。ヒルデブランドさんは15分から30分くらいは、遅れて来る友人を待つことにしている。それでも友人が現れない場合は、他にやることを見つける。
ピュー・リサーチセンターの調査では、全体としては米国の成人の携帯電話所有率は約88%に達している。過去2年間に、貧困層や高齢者の間でも携帯電話の所有率が若干上昇した。
携帯電話のサービス加入者で契約を辞めた人々の数はそれほど多くはなさそうで、ワイヤレス通信各社は今後も携帯機器のインターネットサービスに対するユーザーの出費は増加すると見込んでいる。しかし、アップルのアイフォーンといった携帯電話や通常そうした携帯機器に伴う高額なデータプランが拡大し続けるなかで、一部の消費者は出費を削減する方法を模索している。
低額のプリペイド式携帯電話(あらかじめ料金を前払いしておく方式の携帯電話サービス)がますます人気を集めていることが明らかになっている。
UBSによると、携帯電話の契約プランの加入者数は今年4-6月期に、前年比わずか0.5%増の2億1700万人となった。一方で、プリペイド式携帯電話の利用者は約11%増加し7400万人となった。
マサチューセッツ州アーリントンに住むジム・フォスターさん(45)のような人々が一因だ。フォスターさんは小規模なビル調査会社を経営している。事業は商業不動産市場の危機の際に打撃を受けた。出費削減のためにフォスターさんは家族のAT&Tプランを解約し、ページ・プラス・セルラーと呼ばれるプリペイドプロバイダーと契約した。これにより家族の電話代は月額150ドル前後から83ドルに低下した。
フォスターさんはスマートフォンを使用しているが、プランでは月100メガバイトのワイヤレスデータしか利用できないという。これは全米規模の通信各社のプランの大半と比較して少ない。フォスターさんはボストン周辺の「Wi-Fi(ワイファイ)」スポットを利用し、電子メールをチェックする必要がある時だけ携帯データを使用するようにしているという。手間はかかるが、高い契約プランに戻る気はないという。
低所得者層の人々は家計が圧迫されると、少なくとも一時的には電話を諦める傾向がある。ニューヨークに住むジュニア・ミランダさん(46)は月額800ドルの社会保障費と、自分の住むブルックリン地域の店舗の清掃といった雑務の臨時収入で生計を立てている。ミランダさんは昨年、スマートフォンの月額50ドルのプランに加入し、ユーチューブのビデオを見たり、娘に写真を送ったりして楽しんでいた。
しかし、今年に入りケーブル代金が上昇したため、選択の必要に迫られ、携帯電話を諦めることにした。
ミランダさんは最近、低所得者向けの政府の携帯電話補助制度に登録したいと思って、携帯店舗の開店を待っていた。
全ての人々が容易に携帯電話を諦められるわけではない。シャーリーンさん(45、姓は匿名希望)はTモバイルUSAのプランを契約していたが、メトロPCSコミュニケーションズが提供する割安なプリペイド(前払い)プランに乗り換えたいと話す。
ただ、解約料が払えないため、乗り換えには1年以上待つ必要がありそうだと話す。
記者: Anton Troianovski
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上半期末に為替介入なしで東京市場に失望感―国際会議控え10月初めも期待薄か
FX Asia
2012年 9月 28日 19:49 JST
東京の為替トレーダーらは財務省が2012年度上半期の最後の営業日だった28日に為替介入を実施しなかったことに失望感を覚えた。長引く円高で打撃を受けた日本株式会社の収益を半期締めに合わせて少しでもかさ上げできるかもしれないとの希望が打ち砕かれることになったからだ。
REUTERS
ある大手行のシニアディーラーは「希望的観測に近いものだったが、もしかしたらやるかも、と期待はしていた」と話す。
多くの日本企業は9月末に上半期を締める。そして海外資産を評価する際に使用されるのが、最終営業日だった28日の仲値だ。
銀行の窓口レートの基準となる仲値はグリニッジ標準時間(GMT)午前1時(日本時間午前10時)に発表される。多くのトレーダーは財務報告書のかさ上げと株式市場の下支えのため、仲値発表までに財務省が介入を実施するかどうか注視していた。
介入を巡る市場のうわさが強まったのは米ドルが1ドル=77.50円前後で取引されていたからだ。先週、日本銀行が追加的な金融緩和に踏み切ったこともあり、トレーダーらはこの水準は危険ゾーンだと話す。また安住淳財務相が金曜恒例の記者会見をGMT午前1時過ぎに設定したため、市場の期待はさらに膨らんだとトレーダーらは言う。
GMT午前7時52分の時点で、ドルは1ドル=77.56円で取引されている。トレーダーらによると、ドルは28日の世界市場で少しではあるがさらに下落する可能性があるという。日本の輸出業者がまだオーダーを抱えているからだ。
あるシニアディーラーは「(日本時間の)10時を過ぎてため息をして、12時を過ぎてまたため息。15時を過ぎて深いのをまた一回」と話す。
来週に入れば市場の介入に対する期待はしぼむだろうと一部トレーダーは指摘する。東京で国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会が開催されるほか、これに合わせて主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議も開かれるためだ。
仮に日本が為替介入に踏み切れば、政府はその正当化に忙しくなり、昨年の東日本大震災からどう復興していくかを国際社会に訴える機会を逸してしまうことになりかねない。
レディ・アグリコル銀行外国為替部ディレクターの斉藤裕司氏は「不可能ではないが、IMFとG7前はやりづらいだろう」と話す。
斉藤氏は介入の警戒水準を1ドル=77.50円から77円ちょうどに下げた。
国際会議を控えた来週、安住氏は財務相を辞任し民主党幹事長代行に就任する。しかし、内閣改造は介入に対する政府の準備には影響がないとトレーダーらは指摘する。野田佳彦首相と財務省官僚らは辞めないからだ。
記者: Takashi Mochizuki
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【オピニオン】空威張りの中国―自国の首を絞めるだけの経済制裁は恐れるに足らず
ジョセフ・スターンバーグ
2012年 9月 27日 15:16 JST
中国は以前にも増してその経済力を戦略的な目的で振りかざしているようだ。直近の標的となっているのは尖閣諸島の領有権問題で関係が悪化している日本である。日本製品の通関手続きや日本人へのビザ発給に遅延が生じている。特に日本車などに対する不買運動を心配する声もある。日本企業がこうした経済制裁を不安視するのもわかるが、今のところは少しゆったりと構えていられそうだ。
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AFP/Getty Images
領土問題をめぐる抗議の張り紙(9月18日、武漢の日系企業で)
と言われても、日本人からするとにわかには信じられない話かもしれない。中国は今や日本にとって最大の貿易相手国であり、シティ・リサーチによると2011年時点で、日本の輸出高の24%を占め、日本から中国への投資額は63億ドルに上っている。
日中関係がここまで発展するのには長い年月がかかった。10年前、中国本土にある日本企業の子会社の売上高は、中国本土での売上高、日本への輸出高、第3国への輸出高でほぼ3等分されていたと調査会社キャピタル・エコノミクスは指摘する。それが今では、中国本土での売上高が円ベースで日本への輸出高の3倍、第3国への輸出高の6倍にまで急伸している。
こうした数字は中国の不買運動が日本企業の収益に大きな打撃を与え得ることを示している。国内市場が停滞していることもあり、日本企業は債務返済、研究開発、国内での設備投資、株式配当のための資金源として海外市場の売上高にますます依存するようになっている。英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)によると、中国で事業を展開する日本企業は2010年に総額で4980億円の配当を支払ったという。
だとしたら、中国政府による経済制裁に慌てふためくべきなのか。いや、必ずしもそうではない。日中間の経済競争においてキーワードとなるのは「相互依存」なのである。
RBSによると、日中の経済関係は過去10年間に規模が拡大したばかりでなく、その内容も劇的に変化したという。日本企業はかつて、安い労働力を利用するためだけに中国に材料を送り、製造したものを他国で売っていた。ところが今日、中国本土にある日本企業の子会社は原材料の3分の2を中国で調達し、作られた製品の4分の3を現地で売っているのだ。
こうした現状を踏まえると、中国本土にある日本の工場や小売店は本当に「日本企業」なのかという疑問さえ生じてくる。中国産の材料が使われた中国人消費者向けのシャツ、家電などが中国人従業員が働く工場で、中国メーカーのものよりも高い品質水準で製造されているのだ。
日本の製造業者は今や中国のサプライチェーンにすっかり組み込まれている。RBSによると、中国における日本企業の売上高の約3分の1は「卸売り」だという。その広義のカテゴリーには部品のような企業間取引も含まれる。そして、売上高の25%を化学製品、電気機械、情報通信機器、鉄鋼といった包括的なカテゴリー「その他の製造業」が占めている。
こうした製品の多くは、中国が自らの発展のために必要としている材料や資本財である。中国がまだ独自に製造できないハイテク機器の部品などについては、特にその傾向が強い。
日本にとって中国は重要な市場であり続けるだろうが、唯一の市場というわけではない。日本企業の子会社による製造品と非製造品の両カテゴリーの売上高で中国は4位にランクされている。キャピタル・エコノミクスによると、北米地域、中国を除くアジア地域の売上高はそれぞれ円ベースで中国の2倍近くとなっており、それに続く3位は欧州だという。
日本企業の中国での持続的な業績不振は、日本にとっても中国にとっても問題となる。それでも日本は、中国が分別を取り戻すまで待つことができるだろう。中国政府の一部が考えているよりも長く待てるかもしれないのだ。
日本はもちろん、米国、中国に続く世界第3位の経済大国であり、先進国水準の1人当たりの国民所得と数十年に及ぶ工業化を成し遂げている。こうしたことは中国のかんしゃくを乗り切る上で強みとなるはずだ。しかし、中国に対してこうした強みを持っているのは日本だけではない。
この春、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)に侵入した中国漁船に対して強気な対応をしたことで、フィリピン政府は中国の怒りを買ってしまった。中国政府はフィリピン産バナナの輸入を停止し、旅行者には同国への渡航を自粛するように促した。相対的な大きさからしてもこれは不公平なケンカに思える。
とはいえ、直近の四半期におけるフィリピン経済の成長率は年率5.9%だった。この数字は期待を下回るものだったが、その原因は中国の対抗措置ではなく、農産物の不作にあった。中国の制裁で打撃を受けた産業もあるが、人気の大統領が外国投資や国内消費にさらに弾みをつける一連の改革を実行していることもあり、今のところ経済全般は好調である。中国政府はその経済的影響力を見せつけることに失敗したのである。
一方のフィリピンには、中国政府が渇望する天然資源が豊富にあり、フィリピン政府はその開発にますます意欲を見せている。こうした状況で、中国がフィリピンに対する制裁を長く継続することなど果たしてできるだろうか。
その戦略的な苛立ちを外国企業に向けることで、中国は他国と自国の経済に大きな打撃を与え得る。しかし、そうした影響力の行使には代償がつきものである。だからこそ、成熟した大国は、相応の事情がない限り、影響力の行使には出ない。軍事的にも経済的にも大国とは言えない中国にこのような不機嫌な態度を取る余裕などないはずだ。
(筆者のジョセフ・スターンバーグは、ウォール・ストリート・ジャーナル・アジアのコラム『ビジネス・アジア』のエディター)
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http://jp.wsj.com/Opinions/Opinion/node_519854?mod=WSJ3items
1、 欧州銀行業危機の分析
取り付け騒ぎが銀行業危機の要因の1つである。取り付け騒ぎとは、預金者が急激に預金・貯金・掛け金等を取り戻そうとする現象である。恐慌などの影響を受けて、集まった預金者が、急激に金融機関の店頭に殺到し、混乱をきたす。いかなる金融機関でも全預金を払い戻すことのできる現金を保有していることは無いので、預金高が減?し、ないし預金不足となる現象を取り付け騒ぎという。
銀行と預金者の間でこのような関係が存在する。預金者は手元の資金を銀行に預ける。銀行は預金者の資金を融資に使って収益を獲得する。銀行は獲得した収益の一部を金利の形で預金者に返済する。このような「預貸関係」が銀行と預金者の間のゲームを構成した。ゲーム理論によって、このゲームには2つの均衡点が見つかる。1つ目の均衡は、預金者が積極的に貯金し、銀行がより多くの資金を融資に使用することによって、両者が「ウィン・ウィンの関係」を構築したパレート最適である。もう1つの均衡は、預金者が銀行の返済能力に対する自信を失ったため、大金を取戻そうとする。こうすると、銀行が融資、貸し出しに使う資金が無くなり、最悪の場合、経営破綻に至る場合もある。一方、預金者も損失を被る。これで、両者が「ルーズ・ルーズの関係(双方に不利)」を構築したナッシュ均衡となる。
ところで、どうやってあまり望ましくない「ルーズ・ルーズの関係」としたナッシュ均衡の発生を防止するか?この問題を解決するには、外からの介入、及び預金者とのコミュニケーションが必要とされる。お互いに協力モデルを選択して総利益を最大化する。銀行業危機を緩和させるため、欧州中銀(ECB)が2回にわたり実施した長期資金供給オペ(LTRO)によって、欧州の銀行業に低金利融資を提供して流動性供給を続けた。同時に、欧州連合(EU)が適時に公衆に真実を解明することによって、公衆の信頼感を獲得する。 結論から言えば、ゲームにおける全ての参加者がコミュニケーションできる時、より多くの利益を得るためにお互いに協力モデルを選択することが多い。逆の場合は、もし順調にコミュニケーションを取れないと、参加者が自分の利益を確保するために他人と協力しない。こうすると、望ましくないナッシュ均衡が発生する。危機が発生する時、一方が必死で真実を隠そうとして情報が非対称的になる。それで他方が非協力的な姿勢を示し、結局全体的な状況が悪化する。
2、 9月7日号からの続き――
2、ゲーム理論における豚ゲーム
豚ゲームはゲーム理論においての有名な例である。仮に、豚舎に大豚と子豚が1匹ずついる。豚舎の一端に1つのトラフがあり、もう一端に飼料の量をコントロールできる電源ボタンが取り付けてある。ボタンを1回クリックすれば、10単位の飼料がトラフに流れるが、誰かボタンをクリックする度に、2単位のコストを払わなければならない。それに、大豚が先にトラフに着くと、大小豚の食べられる量、つまり収益比は9対1となる。両豚が同時にトラフに着くと、収益比は7対3となる。子豚が先にトラフに着くと、収益比は6対4となる。両豚が知恵を持っている前提の下で、子豚が待つことを選んだ。
ところで、なぜ子豚は待つことを選ぶが、大豚はボタンとトラフの間を急いだのだろうか。子豚が先に行動すると、つまりボタンをクリックすると、何も得られない結果になるが、逆に行動をしなければ、飼料を獲得することができるためである。子豚にとっては、大豚が動くかどうかにかかわらず、待つことにするのが一番良い選択である。ただし、大豚にとっては、子豚が先に動かないことを知っていると、自分が先に動く、つまりボタンをクリックするしかない。
豚ゲームは我々の日常生活によく応用されている。
次週(9月21日配信)で応用例を用いて紹介します。
9月14日号からの続き――
豚ゲームは我々の日常生活によく応用されている。
会社では、社員と社員の間に豚ゲームが存在している。一部の社員は努力して自社に収益をもたらすが、他の一部の社員は何もせずに他人の成果を享受する。ところで、全社員を努力させて会社の最大利益をもたらせるように、このような豚ゲームのジレンマを変えることが課題になる。これから、このジレンマから脱する方法を説明しよう。
まずは、全社員のベネフィッツと賃金を減らすこと。社員たちのベネフィッツと賃金を1人だけが十分なくらいにすること。こうすると、誰か仕事するかに関係なく、何もせずに他人の成果を享受する人が全部の収益を獲得する。これで、誰も仕事をしない最悪な状況になる。
次の方法は、全社員のベネフィッツと賃金を増やすこと。会社側が、努力している社員にも何もしない社員にも収益を保証する。ただし、この方法は操作性が悪いため、なかなか実現できない。
三番目の方法は、ベネフィッツと賃金の分配比を変更すること。努力している人が十分なベネフィッツを得ると保証し、仕事をしない人がベネフィッツを入手できないと定める。
この方法が、全社員を努力させられるし、操作性も良い。ただし、三番目の方法が企業へ応用されると、企業内の個人ヒロイズムになる恐れがあるため、実行には絶対化しないことが重要である。豊かな報酬を用意して社員を努力させるよう励ます一方、何もせずに他人の成果を享受する人も許すことによって、会社の凝集力と向心力を増加する。
証券取引にも豚ゲーム理論の例が見つかる。このモデルでは、大型投資家は取引から大きな利益を獲得することから、情報収集、市場研究、トレンド変動予測のために多くのコストを払わなければならないが、個人投資家は同様の作業をせずに大型投資家の決定を物真似する、あるいは何もせずにその成果を享受することが多いため、余分なコストを払わなくても済むことである。個人投資家は大型投資家の行動から必要な情報を取得できるため、自分で関連情報を集めなくてもかまわない。一方、大型投資家は自分で情報収集をしなければならない。なぜなら、大型投資家が投機取引での成功と失敗はただことではないため、単に個人投資家の不確かな情報を行動の根拠にするわけにはいかない。豚ゲーム理論は取引において個人投資家が大型投資家に従って動く合理性を説明できた。
(9月28日号に続く)
為替市場における個人投資家の「囚人のジレンマ」
先週号で述べたように、我々は「囚人のジレンマ」モデルについて簡単に紹介した。このモデルを簡単にするために、我々は2人だけの泥棒を設定した。金融市場の取引にも類似した規律がある。取引量の多い為替市場には為替のマニピュレーション(操作)をする大型投資家はいないが、一国の金融政策の変化は価格のトレンドを左右することができる。
米連邦準備理事会(FRB)、英中銀(BOE)、欧州中銀(ECB)、日銀などの中央銀行が「大型投資家」と見なされる。為替市場に参加したもの、即ち普通の投資家たちは個人投資家と見なされる。
大型投資家としての中銀が金融政策を打ち出すことによって、為替価格に1つの方向を示す。それで為替価格がこのトレンドに沿って進む。もし個人投資家が中銀の方針に従わないと、価格がこのトレンドを続けず、中銀の目標通りに進むことができない。ただし、個人投資家は、「囚人のジレンマ」における泥棒と似ているため、従わなければいかない。
一国の中銀が新たな金融政策を実施することに対し、普通の個人投資家は、「他の個人投資家が従うと、為替価格が必然的に続伸することになる。他人と同じように動かなければ儲けられないため、フォローするしかない」と思われる。したがって、この状況では最も適切なものは「従う」ことである。
個人投資家の立場は、「囚人のジレンマ」における泥棒と似ている。彼らは永遠に市場トレンドのフォロワーで、トレンドの創立者ではない。ところで、為替市場における個人投資家の「囚人のジレンマ」からどのような勉強をできるのか?為替市場の個人投資家である我々にとって、利益を得るため、各国中銀の動きを十分に理解することが最善策である。
各国中銀が行動する前にその結果について予測が出るため、この予測が常に実際に公表された金融政策よりも大切であることがある。この予測を早めに手に入れたら、他の個人投資家より早く利益を得ることができるだろう。
(10月5日号に続く)
高城 剛
日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオ・ビエンナーレ」でグランプリを受賞。総務省情報通信審議会専門委員などの要職を歴任。メルマガ「高城未来研究所」では実際に海外を飛び回って入手した世界情勢や経済情報など豊富な内容で配信。
今週は、金融誌「グローバル・ファイナンス」が発表した「世界で最も安全な銀行」ランキングから、世界の現状と今後を推測してみることにしたいと思います。
まず、今年の「世界で最も安全な銀行」の上位5行を見ますと、
1. KfW (Germany)
2. Bank Nederlandse Gemeenten (BNG) (Netherlands)
3. Zurcher Kantonalbank- (Switzerland)
4. Landwirtschaftliche Rentenbank- (Germany)
5. Landeskreditbank Baden-Wurttemberg Forderbank (L-Bank) (Germany)
とあり、ドイツ、オランダ、スイスと欧州中北部の銀行ばかりが並びます。やはりですが南欧の銀行は、トップ20にまったく入っていないどころか、恐ろしい事に、英国や米国の銀行もトップ20に一行もランクインしていません。当然ながら、日本の銀行も入っていません(静岡銀行が45位)。さらに中国の銀行も入っていません。
トップ20までザッと見ると、欧州中北部の銀行以外では、カナダ、オーストラリア、シンガポールの銀行が多くランキングされています。
同じように、サブプライム問題以前、リーマンショック以前の「グローバル・ファイナンス」が発表した「世界で最も安全な銀行」2007年ランキングを見てみると、トップ20に、英米が6行、スペインが2行も入っていますので、この5年で世界が様変わりしたのがうかがえると思います。
すなわち、「ユーロ危機」と言葉ではよく言われますが、実際は南欧危機であり、実は英米危機で、隠れた中国危機で、ずっと日本危機である、と冷静に理解できると思います。為替市場はすでにギャンブル資本主義化しておりますので、その国やその国の金融機関の安全性と、ほとんど関係ありません。これらの諸国は、ちょっとしたことで倒れてしまう「ギリギリの状態」にあると考えてもいいでしょう。
また、面白い事に、今年2012年トップ10行には、株式公開している銀行はひとつも入っておりません。それもそのはず、世界の株式市場は、為替市場同様に、ギャンブル資本主義化していますので、株式公開している大手金融機関であればあるほど、「あっという間に大逆転」のポジションにさらされ、リスクが大きい=安全な銀行ではないことに、安全評価上はなるのです。
そして、新興国と言われるブラジルやロシア、インドの銀行も入っていません。ここも同じように、まだまだリスクが大きいギャンブル性の高い市場という評価なんだと思います。
5年前と今年の安全な銀行、そして各国のGDPの伸び率を鑑みると、実態は破綻同然ギリギリの国(AからCランク)、リスクはあるがそれなりの成長を続ける国、成長が無くリスクばかりが高い国、などいくつかの国家グループに分ける事ができると思います。
「世界で最も安全な銀行」ランキングとGDPの伸び率から読み解けば、日本は「成長が無くリスクばかりが高い国」(Bランク程度)と言わざるを得ないでしょう。
5年後、さらにこのランクは、大きく変貌していると思います。
『高城未来研究所「Future Report」』08/31号より抜粋
今週は通貨としては一見安定方向に向かうユーロと、地域としては、分裂というより再定義に向かうユーロのふたつを見ていく事にしましょう。
長い間、ドイツ裁判所で討議されていたESM=欧州安定化政策は、「合憲である」と司法の判断がくだされました。このESMとは、「European StabilityMechanism 」の略語で、ユーロ参加国が財政危機に陥った場合に金融支援を行うための恒久的な制度のことです。7000億ユーロまでの融資が可能な仕組みなのですが、ドイツ国民の税金がESMを通じて南欧諸国に流れてしまう!とドイツ野党CSUがメルケル政権を批判し、設立阻止を目指し憲法裁に提訴していました。なにしろ、ドイツはESMで想定されている7000億ユーロ(およそ70兆)の三分の一を負担しなければいけないからです。
そしてついに今週、ドイツ裁判所の「合憲である」ことが発表されましたので、同時に、ドイツ議会で批准手続きを進め、数週間以内にEMSを稼動することを、メルケル政権は目論んでいると思います。
また、今週オランダの議会選挙があり、中道右派の自由民主党が辛勝しました。選挙戦の序盤では、緊縮財政やユーロ圏の金融支援に反対する左派の社会党や、ユーロや欧州連合(EU)離脱を主張する右派の自由党が優勢となっていましたが、最終的に自由民主党が勝利しましたので、「メルケル路線」は、オランダでも継続されます。
これで一見、ユーロ危機は去ったように見え、また、米国では申し合わせたようにQE3が実施され(実際、申し合わせてます)、世界経済は、火事場を凌いだ印象さえあります。しかし、本当でしょうか?
以前、このメールマガジンでECBから巨額の資金をスペインが借り入れた直後に、スペイン各州が、自分たちは破綻直前だ!公的注入を求む!と各々主張しはじめているとお話ししました。また、私見として、バルセロナを擁するカタルーニャ州は、この機に独立を目論むのではないか、と数ヶ月前にお伝えしました。
今週11日、バルセロナで150万人規模の大きなデモがありました。そのデモは、スペイン中央政府に富を奪われている、独立するべきだ! といういままでとは違ったデモです。周辺人口入れて400万人にも満たないバルセロナで150万人のデモは、強大です。
予感は、実感にかわりつつあります。ESM=欧州安定化政策の最大の問題は、ギリシャではなくスペインにあります。
カタルーニャは、観光GDPが高く、それなりの産業もありますので、人口は少ないのですが、スペイン経済の5分の1以上を担っています。欧州北部であるドイツが、スペインや南欧諸国をカバーしているように、ここのスペインでもスペイン北部が、スペイン南部をカバーしている同じ構造なのです。
ここがギリシャと実は大きく異なるところだと僕は思います。ギリシャには、南北問題がそれほどなく、言うならば「すべて南」の国家です。しかし、スペインは違います。また、ヨーロッパ全土も違います。そこには南北格差が存在します。マクロで起きた事は、ミクロでも起き、ミクロでも起きた事は、マクロでも起きるのです。
今週、カタルーニャ独立運動は、市民デモから次のステージへとあがりました。ひとつは、カタルーニャ自治政府のアルトゥール・マス知事が、「州内から徴収する税の使途についてもっと裁量が認められなければ独立を探る」と公式に独立に関する主旨の発言しました。
そしてもうひとつ、サッカーチーム・バルサの前指揮官、ジョゼップ・グアルディオラが世界的なスポークスマンとなって、カタルーニャの独立をメディアに喧伝しています。これはかなり強力であり、先日の独立デモの際にも、グアルディオラは、米国からビデオ参加したほどです。
実はこの大規模デモの日9月11日は、スペイン継承戦争でカタルーニャが敗れた“カタルーニャの日”なのです。 米国で起こった同時多発テロの9月11日は、カタルーニャにおいては、別の意味を持つのです。
この先すぐに、ESMは稼動開始されると思います。しかし、欧州が直面している財政問題は、すでに財政の問題を超え、大きな社会の枠組みの変化の時期に差しかかっていると僕は思っているのです。
グローバル企業が国家を超え、いよいよ地域が国家を超える時代。それがはじまるように僕には思えます。
『高城未来研究所「Future Report」』08/14号より抜粋
三橋 貴明
東京都立大学経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立。経済評論家、作家としても活躍中。
(1)ある地区にA家とB家の二つの家庭があった
A家とB家には共に夫婦が住んでおり、夫は仕事に出かけ、妻が専業主婦として留守番をしていた。両家の妻は、毎日、自分の家をピカピカに掃除していた。
あるとき、A家の主婦がB家の掃除をしてあげた。B家の主婦は、掃除をして貰ったお礼に一万円札をA家の主婦に渡した。
次の日、今度はB家の主婦がA家に赴き、家中をピカピカに磨いてあげた。A家の主婦はお礼として、昨日、自分がもらった一万円札をB家の主婦に渡した。一万円札が、B家の主婦⇒A家の主婦、A家の主婦⇒B家の主婦と、二回、移動したことになる。二人はこの話を色々な場所で話して回った。結果、年末の確定申告時に税務署の役人がやってきて、二人の主婦に「税金を払って下さい」と言った。
A家の主婦、B家の主婦が共に互いの家の掃除をし合い、一万円の「サービスの消費」が二回行われ、「労働により製品もしくはサービスを創出し、支払いを受けた」ことで「所得」が成立してしまったためである。所得を得た人は、それに対する税金を支払わなければならないという話。
(2)ギリシャのある都市に潰れかけのホテルがあった
そこに旅人がやってきて「泊まろうかどうか、考えている」と言った。ホテルのロビーにいた従業員は、「とりあえず部屋を押さえておくので、100ユーロを手付として置いていって欲しい。泊まらないならば、これはお返しする」と返答した。旅人は言われたとおりに100ユーロの手付をフロントに置き、街の見学に向かった。ホテルの従業員は目の前の100ユーロを握り、ダッシュで支配人室に向かった。支配人から借りていた100ユーロを返済するためである。
従業員から借金の返済を受けた支配人は、100ユーロを手にホテルの隣の肉屋に向かった。従業員同様に、100ユーロの借金を返済するためだ。支配人から100ユーロの返済を受けた肉屋は、通りの向かいのバーに駆け込み、ホステスに「ツケ」の100ユーロを支払った。
ホステスは肉屋から返済された100ユーロをハンドバックに突っ込み、ホテルへと赴いた。ホテルの従業員から借りていた100ユーロを返済するためである。ホステスから100ユーロを返してもらった従業員は、何食わぬ顔でユーロ紙幣をフロントのレジに戻した。
そこに旅人が戻ってきて、「やはり別のホテルにするよ」と言った。従業員は「それは残念です」と、100ユーロを返還した。100ユーロ紙幣が旅人、従業員、支配人、肉屋、ホステスの間をぐるりと一回転し、最終的に旅人の財布の中に戻った。ところが、この一連のお金の動きで従業員、支配人、肉屋、ホステスの四人が、それぞれ100ユーロの負債を返済してしまったというお話。
(3)若い夫婦が150組ほど加盟している協同組合があった
組合に加盟している夫婦たちは、ベビーシッター代を節約するために、交代で互いの子供の面倒を見ることになった。そこで、組合は子守用「クーポン券」を各夫婦に二十枚ずつ渡した。子守を頼んだ夫婦は、子守を引き受けてくれた夫婦にクーポン券を渡す仕組みだ。
しばらくすると、困った事態が発生した。組合に加盟している夫婦たちが、クーポン券について「予備を確保」しようとし始めたのだ。結果的に、夫婦たちは他の夫婦の子守をし、クーポン券を増やさない限り外出しようとしなくなってしまった。夫婦が外出をしないと、別の夫婦がクーポン券を稼ぐ機会は生じない。
最終的には、どの夫婦もクーポンを過剰に保有することを望み、協同組合内でのベビーシッターという「サービス」は行われなくなってしまった。彼らはみな「自分の支出は、誰かの所得。誰かの所得は、自分の所得」という当たり前の事実を忘れてしまったのだ。
誰もがクーポンを節約しようとした結果、自分がベビーシッターのサービスでクーポンを獲得する機会、すなわち所得を得る機会までもが失われてしまったのだ。この現象が「国民経済」という規模に広がると、デフレーションと呼ばれる。
『週刊三橋貴明』09/08号より抜粋
世の経済学者や「経済通」と自称する人々の多くは、「貯蓄が投資に回り、所得が生まれる」といった言い方をする。すなわち、初めに貯蓄ありきで、そのお金が投資に費やされ、所得(GDP)になるという考え方である。特に、新古典派経済学者に上記の考えをとる人が多い。
まずは「貯蓄ありき」であるため、彼らは常に、
「どのように貯蓄から投資にお金を回させるか?」について知恵を絞り、戦後の「インフレ対策」としての経済学を発展させてきた。貯蓄から投資を増やすには、どうすればいいか? いわく、
「政策金利を引き下げればいい」
「家計に貯蓄を増やさせればいい」
「特に貯蓄性向が強い富裕層を減税すれば、貯蓄残高が増えて金利が下がる」
などなど、新古典派経済学や新自由主義は「投資のための貯蓄」を重視する。とはいえ、すでにお分かりになっていると思うが、上記の政策は、「銀行に過剰貯蓄(民間に借りられない預金)が溢れ、政策金利がゼロ、長期金利が1%を下回る状態でも企業が投資をしない」場合には、根底からひっくり返ってしまうわけである。すなわち、金利が何パーセントだろうが企業が投資をしないデフレ期には、貯蓄の多寡は本質的な問題ではなくなってしまうのだ。
「貯蓄から投資へ」の流れを重視するのは、政府の国債発行に反対する経済学者も同じだ。彼らが国債増発を嫌悪するのは、「政府が国債を発行し、市中銀行の貯蓄を吸い上げると金利が上がり、企業が投資をすることができなくなってしまう」ためである。いわゆる、クラウディングアウトの発生だ。
【日本の国債発行残高(右軸、単位:億円)と長期金利の推移(左軸、単位:%)】
だが、図の通り、デフレ化が始まった以降の日本は、政府の国債発行残高がどれだけ増えても長期金利は上がらない。何しろ、98年以降の日本は「デフレ深刻化⇒物価下落⇒企業のリストラクチャリング⇒企業の投資・家計の消費減⇒デフレギャップ拡大⇒デフレ深刻化」の悪循環に完全に嵌ってしまっている。このデフレ循環の「輪」にはまり込むと、政策金利を引き下げようが、政府が国債を発行しようが、いずれにしても企業の借入は増えず、金利は上昇しない。
すなわち「貯蓄が投資され、所得が生まれる」という前提で編み出された数々の「政策」は、全て無効になってしまうのである。
実は、そもそも「貯蓄が投資され、所得が生まれる」という前提自体が、間違っているというのが真実なのだ。国民経済では、まずは「所得」がある。所得から消費や投資、すなわち「別の誰かの所得」にはならなかったお金が貯蓄になる。「貯蓄⇒所得」ではなく、「所得⇒貯蓄」という考え方が正しいのだ。
「そんなの『鶏と卵』ではないか」と思われた方が多いだろうが、「所得⇒貯蓄」という認識は、国民経済の政策を考える上で決定的に重要なのである。
何しろ新古典派経済学者のように「貯蓄⇒所得」という前提が頭の中で成立していると、経済政策は自然と、「どうすれば貯蓄が増えるのか?」という発想からスタートしてしまう。それに対し「所得⇒貯蓄」が前提になっている場合は、「どうすれば所得が増えるのか?」からソリューション(解決策)構築が始まる。頭の中に「貯蓄⇒所得」が植え付けられている新古典派経済学者は、上記の質問に対し、「所得を増やすには投資を増やせばいい。投資を増やすには貯蓄を増やし、金利を引き下げればいい」
と回答する。挙句の果てに、「貯蓄を増やすには、貯蓄性向が高い富裕層に減税すればいい。あるいはいっそ、投資する企業の法人税を引き下げればいい」という、いわゆるトリクルダウン理論が結論になってしまうのだ。
上記のサプライサイド的な政策が、デフレ期には無用の長物になってしまうのは、本メルマガで繰り返し指摘してきた通りだ。
逆に「所得⇒貯蓄」から思考が始まる人は、とにかく所得を増やせれば「どんな政策でも構わない」という発想になる。無論、富裕層増税をして貯蓄を増やし、金利を引き下げ、企業の投資が拡大することで国民の所得が増えても一向に構わない。だが、もちろん他の手段でもいわけだ。「所得⇒貯蓄」が前提になっている人は、どのように所得を増やすべきか、自由裁量権が与えられることになる。
結果的に、
「所得を増やす方法は何でも構わないわけだから、政府が消費や投資を増やしてもいいのでは?」
「所得が増えれば、貯蓄が積み上がるならば、政府は当初はあまり負債増を気にせずに、国債を発行すればいいのでは? 国民の所得が増えれば、貯蓄も拡大するわけだから、政府の負債はファイナンスされ、金利は上がらないのでは?」(注:インフレ期には金利が上昇する可能性が高いが)「いっそ、中央銀行が通貨を発行し、それを政府が消費もしくは投資として使えばいいのでは?」(インフレ率により限界が生じるが)などなど、幅広いソリューションを考え付くことが可能になるのだ。所得拡大のために、複数の代替案を提示し、現在の環境に適した解決策を選択すれば、それで話が済むわけである。
対して「貯蓄⇒所得」という発想の人は、所得拡大のための方法として、基本的には、「貯蓄を増やし、金利を引き下げ、企業の投資を拡大する」以外に構築することができない。経済学ではなく「常識」で考える人々から、「デフレ期のゼロ金利の国が貯蓄を増やしても、金利はそれ以上下がりようがないのでは? あるいは、デフレで儲からない企業は、金利がゼロでもお金を借りないのでは?」といった疑問を投げかけられることになるわけだが、「貯蓄⇒消費」派は、「いや、貯蓄が増え続ければ、長期的には企業の投資が増え、所得が拡大する」などと返すことになり、すぐさま「長期的とは、どのくらいの期間を意味するのか?」と突っ込まれる羽目になるわけだ。
国民経済の中心は「所得」であり、貯蓄ではない。貯蓄とは、所得から生まれた副産物である。確かに貯蓄を企業が借り入れ、投資に費やすと、国民の所得は増える。だが、別に「そうしなければならない」という話ではないのだ。
日本国民は元々貯蓄性向が高いが、長引くデフレで所得が減り続け、ついに貯蓄に回すお金も無くなりつつあるのが現実だ。そもそも、家計が世界で最も銀行預金という貯蓄を貯めこみ、長期金利がスイスと並んで世界最低の国において、「貯蓄を増やし、金利を引き下げれば所得も増える」などと言い続けること自体がナンセンスである。
貯蓄をこよなく愛する日本国民も、そろそろ国民経済の中心が「所得である」という現実を見つめ直す必要があると確信している。
『週刊三橋貴明』09/22号より抜粋
http://www.mag2.com/o/kinyukeizai/2012/0921.html
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