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2012年9月26日
[木村昭二のどんと来い!フロンティア投資]
世界一の富裕国から破綻国へ大転落、
リン鉱石の島・ナウルの未来はどうなうる?
南太平洋の海原にぽつんと浮かぶ島・ナウル。島の面積は東京都港区とほぼ同じ21平方キロメートルで、バチカン、モナコに次ぐ狭さ。山もなく谷もなく、町と言えるような町もない。国家財政は完全破綻状態で、オーストラリアなどの援助でなんとか食いつないでいるこの国が、30年ほど前までは世界有数の金持ち国家だったことを知る人が、はたしてどれだけいるでしょう。天国と地獄を味わった国、ナウル。この国にいったい何があったのか!?
税金なし、生活費無料、新婚さんには家を進呈
80年代のナウルはまさに大盤振る舞いだった!
昼は陽射しが強いので誰も出歩こうとせず、夜は電気がこないのでみんなさっさと寝てしまう――どこを探しても「やる気」が見当たらないこの島が、1980年代の始めには1人あたりGDPが2万ドルを超える“富豪たちの国”だったという話をいったい誰が信じるでしょう!?
国土面積は21km²で、世界で3番目に面積が小さい国、ナウル共和国
当時のナウルは所得税・法人税は無税、教育費無料、医療費無料、水道光熱費全部無料、そればかりか国民には一律に生活費(ベーシックインカム)が配布され、結婚すれば2LDKの新築一戸建てを国がプレゼントしてくれるという大盤振る舞いだったのです。
なぜ、そんなことが可能だったのか!? それは、この国から良質なリン鉱石が採れたからにほかなりません。ナウルの国土は珊瑚礁の上にアホウドリなどの鳥が糞を落とし、積もりに積もってできた島。それが長い年月をかけて良質なリン鉱石になったのです(リン鉱石は「鳥糞石」とも呼ばれ肥料の原料になります)。
これがリン鉱石。ナウルのリン鉱石は、純度が高いことで世界的にも有名 (Photo:©木村昭二)
採掘はドイツ領だった1907年に始まり、オーストラリアの占領下では英国により継続されます。その後、日本が占領したり英国の手に渡ったりしましたが、1947年に国連の信託統治領となり、1968年に英国連邦内の共和国として独立しました。
採掘がピークだった1981年には170万トンを産出し、年間推定200億円以上を稼ぎ出しました。1968年の独立から1980年代末までの約20年間に、ナウルがリン鉱石から得た収入は5000億円以上とも言われています。当時の人口は5000人程度でしたので、国民1人あたりざっと1億円というわけです。
島には主要道路が1本しかなく、スクーターでも30分で一周できてしまうというのに、往時にはベンツやフェラーリが持ち込まれたそうです。政府は滑走路が1本しかないナウル国際空港を、本気でオセアニアのハブ空港にしようと考え、国営航空「エアーナウル」の飛行機をせっせと近隣諸国に飛ばしました。日本へも週1便、ナウル−鹿児島便がありました。
一時は、鹿児島や那覇へも直行便が飛んでいた。キリバス共和国のタラワ国際空港にて (Photo:©木村昭二)
とはいえ、こんなにちっぽけな島です。手当たり次第に掘りまくっていれば、資源が枯渇してしまうことはわかっていました。そこで、ナウル政府は未来のために手を打ちました。それが、よりによって「海外投資」だったのです。
天国から地獄へ、国家もろとも転げ落ち
世界でいちばん安く銀行が作れる国に!
ナウル政府はハワイやオーストラリアやニュージーランド、グァムなどの不動産を買い漁り、バブル最高潮の日本の株式市場にも資金をつぎ込みました。ここだけの話、筆者も若かりし頃にこの国の資金管理の一部の仕事をしたことがありました。
しかし、知識も経験も戦略もないナウル人のこと。あぶく銭投資がうまくいくはずもありません。不動産は値下がりし、株式市場のバブルははじけ、損失はどんどん膨らんでいきました。
中には1500万ドル相当の病院を5000万ドルで掴まされるなど、ほとんど詐欺に近いものまでありましたが、それもずさんな投資戦略が招いた報いでしょう。1990年代に10億ドルあった運用資金は、あっという間に10分の1になってしまったのです。
歳入が落ち込む中でも、ナウル政府は歳出のカットを行ないませんでした。当然、財政赤字は増え続け2000年にはGDP比18%にまで膨らみます。アジア開発銀行を始めとする海外からの借入れ返済も滞るようになり、ナウル政府はなりふり構わぬ資金集めに奔走します。
その一つが「世界でいちばん安く銀行が設立できる国」への法改正でした。所得税も法人税もゼロの国ですから、オフショア金融センターにして収入を得ようとしたのでしょう。筆者が調査に行った2001年には、資本金15万ドル+設立費用2万5000ドル=17万5000ドルで、文字通りのプライベートバンクが作れたのです。
「そんなもの作って何に使うんだ!?」と仰られるのはもっともです。実質的には租税回避のオフショアカンパニーと変わらないのですが、もの好きな世界の金持ちたちが「頭取」の肩書き欲しさに設立したのかもしれません。ピーク時にはこんな小さな島に、447行もの銀行が登記されていました。
筆者も当時、現地のオフショア業務事務所を訪れて、銀行設立の手続きについて調査しました。肌の真っ黒なインド人弁護士がぬぅっと出てきて「我々(といっても弁護士一人と秘書一人)は真っ当なコンサル事務所です。ナウル国内法に従って適切に銀行設立のお手伝いをいたします」というものですから「それでは銀行法のコピーを下さい」とお願いすると、「今はちょっと切らしていて…」と言われてズッコケたのは懐かしい思い出です。
ちなみに「後ほどホテルにお持ちしましょう」と言われた銀行法のコピーはそのままほったらかされたのですが、1週間の滞在を経て帰国の日に早朝4時発の飛行機に乗ろうと空港に行ったところ、丸々太ったナウル人秘書が待っていて「遅くなりまして」と手渡してくれました。びっくりしてお礼を言うと、秘書は「当然です。私達は誠実なコンサル事務所ですので!」と言いました。時間にはルーズですが、ちゃんと約束は守る人たちのようです。
パスポート販売から難民受け入れまで
なりふり構わぬ資金集めも失敗続きで…
もしかしたら、これを読んで「私も自分専用の銀行を作りたい!」と言う人がいるかもしれません。が、残念ながら現在は不可能です。1998年にロシアのマフィアがこの地のオフショアバンクを経由して、700億ドル(7兆円超)ものマネーロンダリングをしていたことが判明したからです。
ナウルは国内法に則って粛々と銀行設立を許可していただけで落ち度はなかったのですが、このことで国際的非難を浴びて2004年に全てのオフショアバンクの免許を取り消さざるを得なくなったのでした。
次にナウルが手がけた資金獲得策は国籍の販売です。日本人は二重国籍を認められていないので無理でしたが、世界では、米国、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリアなど、多重国籍を認める国がたくさんあります。複数のパスポートを持っていると、労働許可を得たり特定の国に入出国する際などに色々と便利があるのです。
政府はナウルパスポートを1万5000ドル〜3万5000ドルで発行していましたが、これも不幸なことに外圧により廃止させられてしまいます。こともあろうか9.11同時多発テロの捜査で、アルカイダの構成員がナウルのパスポートで出入国していたことが判明し、米国の逆鱗に触れてしまったのです。もう、やることなすこと全て裏目・・・。
挙句の果てには、オーストラリア政府から3000万豪ドルの支援金を受けるのと引き換えに、アフガニスタンやイラクやパキスタンの難民を引き受けたところ、「オーストラリアに行かせてくれ!」とハンガーストライキをされてしまう始末。戦禍を逃れてきた難民たちからも拒否されてしまう国っていったい・・・。
そうこうしているうちについに国費が底をつき、2002年には公務員の給料が払えなくなりました。国有のエアーナウルも自慢の飛行機を次々に売り払い、最後の1機はメルボルンで米国輸出入銀行に差し押さえられました。唯一の銀行となっていた国営のバンクオブナウルも2006年に完全破綻。約3500人の預金が払い出し不可能になりました。
今は亡き、バンクオブナウル。2011年6月、豪州のDeloitteが精算人となり清算手続き開始 (Photo:©木村昭二)
そういえば私が40米ドルを豪ドル(ナウルには独自通貨がなく豪ドルが使われている)に両替しようとした時も、たった一人の行員がフロアじゅうの引き出しを開けまくって、くしゃくしゃの紙幣を集めてくれました。「銀行口座を開設したい」と言うと、口ごもりながら「やめたほうがいい」と言われたのを思い出します。今にして思えばあの時にはもう、実質的な破綻状態だったのです。
これぞまさに、国家が破綻するとどうなるかという実例です。燃料が買えないので電気が止まり、ポンプが動かないので水道が止まり、接続料の支払いが滞って国際通信回線もたびたび遮断されてしまいました。
国が破綻しても働けない人たち
唯一の道はさらに国土を削ること
ことここに至ってもベーシックインカムで労働意欲を摘み取られた国民は、額に汗して働こうとはしませんでした。もともと魚を釣り芋を掘ってそこそこ暮らしてきた人たちです。リン鉱石を掘ったといっても実際は海外からやってきた労働者が働いていたわけで、自分達は眺めていただけだったのです。
それなのにお金だけがたんまり入ってきて、欧米の高カロリーの食事を覚えてしまいました。食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活をしているうちにブクブク肥え太り、今やナウルは世界一の肥満国家になっています。国民の肥満率は実に90%、糖尿病率は40%にのぼります。国民全員、成人病まっしぐら。
こんな国がいったいどうしたら立ち直れるというのでしょう。「美しい海があるのだから観光に力を入れたらいいじゃないか」という人がいるかもしれません。
しかし、この国の海はミクロネシアやニューカレドニアのような遠浅の珊瑚礁ではないため、熱帯魚が泳ぎまわっているようなダイビングスポットはありません。砂浜もゴツゴツとした岩だらけで、とてもくつろげる雰囲気ではないのです。
ゴツゴツした岩が多く、ビーチリゾートには向かない (Photo:©木村昭二)
内陸はどうでしょう。南海の島というと木立深いジャングルがあり、美しい滝や川があり、色鮮やかな鳥たちや小動物がいそうです。が、ナウルは珊瑚礁の上にアホウドリの糞がたまってできただけの島なので、森はおろか川さえもないのです。私も1週間滞在したはずなのですが、その間、何をしていたのかさっぱり思い出せません。
しかも、この国の水不足は深刻で、雨水と海水淡水化プラントの作る水だけが頼りです。そのプラントも燃料不足によりたびたび止まってしまいます。リン鉱石は肥料の原料として世界中から引く手あまただったのに、この国には肝心の土壌がないため農業もままなりません。
結局は、唯一の産物である、リン鉱石をまた掘ることに (Photo:©木村昭二)
ナウルはどうなってしまうのでしょう。現地の人は今、国家再建の「リハビリテーション・プログラム」に一縷の希望を託しています。そのプログラムとは、リン鉱石の再採掘。表面のリン鉱石は採り尽くしたものの、掘り下げて二次層に進めば、まだ30〜40年分くらいの埋蔵量があることがわかったのです。
オーストラリアの資本を得て、将来的には年間50万トンの輸出を目指すと言うのですが……二次層を採り尽くす頃に、海面上昇と相まってこの国が南太平洋に水没してしまわないか、今から心配でなりません。
<取材・執筆>
木村昭二(きむら・しょうじ)
慶應義塾大学卒業。複数の金融機関、シンクタンク等を経て現在はPT(終身旅行者)研究家、フロンティアマーケット(新興国市場)研究家として調査・研究業務に従事。日本におけるPT研究の第一人者。最新刊『終身旅行者PT資産運用、ビジネス、居住国分散―国家の歩き方 徹底ガイド』(パンローリング)が発売中。
(構成/渡辺一朗)
http://diamond.jp/articles/tachibana-print/25411
インタビュー:物価1%到達、後ずれの可能性=佐藤日銀審議委員
2012年 09月 26日 22:27 JST
[東京 26日 ロイター] 日銀の佐藤健裕審議委員は26日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀が事実上の目標に掲げている消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%の達成について、現段階で日銀が展望している「2014年度以降、遠からず」というタイミングの「不確実性が強まっている」と後ずれを示唆した。
世界経済は引き続き下方リスクが大きいとし、日銀が描く日本経済の見通しから、さらに経済・物価が下振れるがい然性が高まる場合には追加金融緩和を「躊躇(ちゅうちょ)しない」と語った。
就任会見で新たな政策手段として言及した日銀による外債購入は「期待インフレ率を引き上げる有効策」と述べる一方、法律上の制約や海外当局との関係など実現に向けた課題の多さをあらためて指摘した。
<中国経済減速は想定以上に長引いている、内需に変調の兆し>
日銀は9月18、19日の金融政策決定会合で、資産買入基金の10兆円増額を柱とする追加金融緩和に踏み切った。理由について佐藤氏は、海外経済の減速の強まりを背景に、輸出や生産が減少する中で、先行きを含めて景気判断を「はっきり下方修正した」と指摘。日本経済が持続的な成長経路に復帰するという「当初想定していた経路を踏み外さないために追加緩和を実施した」とした。起点となった海外経済は、特に中国経済について「景気の減速した状態が想定以上に長引いている。中国の景気刺激策も発動ペースが抑制的だ」とし、「その他の新興国にも相乗作用をもたらしており、中国の需要動向が今一つ芳しくないことで輸出が軒並み弱含んでいる」との見方を示した。一方、年前半に堅調に推移していた国内需要も、個人消費などに「変調の兆しが見られ始めていることを懸念している」と指摘。こうした足もとの経済状況を踏まえれば「景気回復の時期は後ずれしていると率直に言わざるを得ない」と語った。
<世界経済は下振れ意識、リスク顕在化なら日本は景気後退も>
先行きについても「世界経済をめぐる不確実性は非常に大きい。金融・為替市場が景気・物価に及ぼす影響にも注意が必要だ」と世界経済の動向を警戒。「(世界経済の)リスクバランスは、どちらかというと下方を意識している」とし、尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる日中間の緊張の高まりを含めて「中国の問題も下振れリスクの1つだ」と語った。特に欧州債務問題がさらに深刻化した場合の国際金融資本市場の動揺や、世界経済が一段と下振れするリスクを「最も警戒すべき」と強調。これらの世界経済をめぐるリスクが顕在化した場合には「日本経済が景気後退に陥るリスクもある」と語った。
物価動向については、景気の持ち直しが一服し、先行きも横ばい圏内の動きが続くとみられる中、「当然、需給ギャップの回復ペースも遅れてくる」と説明。生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)の前年比下落率が「一段と拡大していく地合いにはない」としながらも、日銀が現段階で見込んでいる「2014年度以降、遠からず」というCPIの前年比上昇率1%の到達時期は「不確実性が強まっている」と語った。
<経済・物価下振れれば追加緩和を躊躇せず、新たな手段も選択肢>
こうした情勢を踏まえた金融政策運営では、前回会合で下方修正した景気見通しをベースに点検するとしたが、「さらに経済・物価が下振れるがい然性が高まってくると判断された場合には、新たな手を打つことを躊躇(ちゅうちょ)しない」と強調。その際の手段について「期待インフレ率に働きかけ、実質金利の低下を促すことが重要」とし、1)バランス・シートの拡大、2)自国の為替レートの減価、3)リスク性資産の買い入れという3つが考えられると語った。日銀は国債を中心とした資産買入基金の累次の増額でバランス・シートを拡大させており、リスク性資産の増額も「オプションとしてある」としたが、「必要性が生じた段階で効果と副作用などを総合的に勘案して対応の是非を探っていきたい」と述べた。その上で、経済見通し下振れの可能性が景気回復の障害になる場合は、「新たな措置も当然オプションとして出てくる」と基金以外の緩和手段も選択肢になるとの考えを示唆した。
<為替安定に中銀がコミットすること適当でない、財務省との協力模索>
佐藤氏は、今年7月の就任会見で、新たな緩和手段として日銀による外債購入に言及した。現時点での円高は「日本経済にマイナスの影響が大きい」とした上で、「外債購入は、為替レートの減価を通じて期待インフレ率を引き上げる有効な政策の一つ」との認識をあらためて示した。しかし、為替安定を目的とした外債購入は財務省の所管で、「中央銀行が何らかのコミットを行うことは適当ではなく、日銀単独の判断ではできない」と言明。日銀法上の制約や外国当局との交渉など課題の多さを挙げながらも、「財務省と日銀が協力して何がしかの対応ができないか模索していきたい」とも語った。
<市場との対話、正確な動向把握と政策伝達が重要>
民間エコノミスト出身の佐藤氏には、市場とのコミュニケーションを円滑に行うための手腕にも期待がかかる。この点について「市場が政策を理解できない場合は、政策効果が減衰されてしまう」とし、「中銀が市場との対話を行うに当たっては、市場の動きを正確に理解したうえで、自らの政策判断を市場に正確に伝えるという姿勢が重要だ」と語った。
佐藤氏は、モルガン・スタンレーMUFG証券で経済調査部チーフエコノミスト兼債券調査本部長として景気全般、金融政策、財政政策など幅広い分野の分析・情報発信を手掛け、今年7月24日に日銀審議委員に就任した。
*インタビューの一問一答を後ほど配信します。
(ロイターニュース 伊藤純夫 木原麗花 竹本能文:編集 石田仁志)
http://jp.reuters.com/articlePrint?articleId=JPTJE88P00D20120926
佐藤日銀審議委員インタビューの一問一答
2012年 09月 26日 22:54 JST
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情報BOX:シャープが銀行に提出した経営計画の概要
アングル:政権奪還に背水の陣、安倍氏は早期解散前提に強硬論
ギリシャ政府、120億ユーロの緊縮策を策定
アングル:中国リスクに戸惑う日本企業、求められる危機管理強化
[東京 26日 ロイター] 日銀の佐藤健裕審議委員は26日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀による外債購入は「期待インフレ率を引き上げる有効策」と述べた。ただ、法律上の制約や海外当局との関係など実現に向けた課題の多さもあらためて指摘した。
消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%の「2014年度以降、遠からず」の到達については、「不確実性が強まっている」と後ずれを示唆。経済・物価が見通しから下振れるがい然性が高まる場合には追加金融緩和を「躊躇(ちゅうちょ)しない」と語った。
佐藤氏は、モルガン・スタンレーMUFG証券で経済調査部チーフエコノミスト兼債券調査本部長を務めるなど民間エコノミストとして長く日本経済の分析に携わってきた。今年7月24日に任期5年の日銀政策委員会審議委員に就任。日銀審議委員としてメディアのインタビューを受けるのは初めて。一問一答は以下の通り。
──9月の金融政策決定会合で追加金融緩和に踏み切った背景は。
「先般の金融政策決定会合では、景気の現状を『持ち直しの動きが一服』、先行きも『当面、横ばい圏内の動き』と判断をはっきり下方修正した。こうした中で、物価安定の下での持続的な成長経路に復していく、という当初想定していた経路を踏み外さないために追加緩和を実施した」
──前提となった海外経済の認識。
「欧州では、ECB(欧州中央銀行)の政策対応などもあって、四半期末の月に高まりがちな金融市場のストレスが抑制される一方、実体経済はマインドなどの悪化や金融面の制約などから緩やかに後退している。米国経済は緩やかな回復基調にあるが、来年の財政の崖が視野に入ってきたことで、経済の先行きに関しては不確実性もある」
「新興国は、特に中国が欧州の停滞の影響を受けて輸出が減速したこともあり、景気の減速した状態が想定以上に長引いている。景気刺激策の発動ペースも抑制的だ。こうした動きは、その他の新興国にも相乗作用をもたらしており、中国の需要動向が今一つ芳しくないことで輸出が軒並み弱含んでいる。このあたりが4月の展望レポート、7月の中間評価における見通しとかなり違ってきていた」
──日本経済の外需と内需の動向をどうみる。
「外需は輸出がはっきり減少してきている。こうした中で鉱工業生産は4─6月期以降、2四半期連続の減産がほぼ確実な情勢。企業は、先行きの外需の弱さや、在庫復元の一巡を見越して生産水準を調整している。いわば需要の『逃げ水現象』の懸念が現実化してきている」
「一方、内需は、年前半は堅調に推移してきたが、私個人としては、個人消費などに変調の兆しが見られ始めていることを懸念している。また、海外経済の減速を受け、企業が設備投資スタンスを消極化させている可能性があり、製造業による足もとの減産の影響が雇用に波及している兆しも見受けられる。こうした足もとの経済情勢を踏まえると、景気回復の時期は後ずれしていると率直に言わざるを得ない」
──欧州情勢に加え、尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる日中間の問題なども含めて世界経済は不透明感強い。
「(世界経済の)リスクバランスは、どちらかというと下方を意識している。中国の問題も下振れリスクの1つ。世界経済をめぐる不確実性は非常に大きく、金融・為替市場が景気・物価に及ぼす影響にも注意が必要だ。特に、欧州債務問題がさらに深刻化することによる国際金融資本市場の動揺、世界経済の一段の下振れリスクを最も警戒すべきと考えている。こうした(世界経済をめぐる)リスク要因が実際に顕現化すれば、日本経済が景気後退に陥るリスクもある」
──「2014年度以降、遠からず」としている消費者物価の前年比上昇率1%の到達時期は。
「足もとで経済の持ち直しが一服し、先行きも当面横ばい圏内であれば、当然、需給ギャップの回復ペースも遅れてくる。コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)の前年比下落率が一段と拡大していく地合いにはないが、所得から支出への好循環は強まりにくく、需給ギャップの縮小によって14年度以降遠からず1%に達するというシナリオの不確実性は強まっている」
──経済・物価情勢を踏まえた今後の金融政策運営について。
「前回会合で追加緩和を行ったが、引き下げた景気見通しから、さらに経済・物価が下振れるがい然性が高まってくると判断された場合には、新たな手を打つことを躊躇(ちゅうちょ)しない」
──今後の緩和手段は、国債やリスク性資産を買い入れている資産買入基金の増額が引き続き柱か。
「名目ゼロ金利制約の中で、中央銀行が金融政策面から経済を下支えしていくためには、期待インフレ率に働きかけ、実質金利の低下を促すことが重要だ。そのために中央銀行がとり得る手段として、バランス・シートの拡大、自国の為替レートの減価、リスク性資産の買い入れの3つが考えられる。このうち、リスク性資産の買い入れはオプションとしてあるが、必要性が生じた段階で効果と副作用などを総合的に勘案して対応の是非を探っていきたい」
──さらなる国債の買い入れは副作用の方が大きくないか。
「国債の買い入れは、イールドカーブのフラットニングを通じて金融機関の利ざやを圧迫する副作用があり、金融機関が金融面から経済を支える力を弱くする面もある。何らかの金融的な不均衡の蓄積で、先行きの金融システムの不安定化につながる副作用も考えられる。もし経済見通しにおいて、さらなる下振れのがい然性が強まり、日本経済が望ましい回復のパスに復帰する上で重大な障害になると判断すれば、新たな措置も当然オプションとして出てくる」
──為替の減価について、円高是正の必要性をどのように考えているか。
「今の円高状況は、日本経済にとってプラスの側面とマイナスの側面の両方がある。日本は原油をはじめ、天然資源を輸入に頼っており、円高がプラス方向に作用する一方、行き過ぎた円高は輸出企業の競争力や企業、家計のコンフィデンスも悪化させる。現時点での円高は、日本経済にマイナスの影響が大きい」
「IMFの対日4条協議で『円はいく分過大評価』との評価があったが、画期的だ。国際社会の円相場に対する認識も、若干変わってきている可能性がある。日本の通貨政策上、わずかであるが追い風が吹いており、こうした好機を逃さずに政府と日銀が一体となって円の過大評価是正に取り組むという姿勢を見せることは、マーケットに対して建設的なメッセージを発することになる」
──就任会見では、新たな政策手段として日銀による外債購入に言及した。
「外債購入は、為替レートの減価を通じて期待インフレ率を引き上げる有効な政策の一つ。仮に日銀が外債購入を行うことで、円安への修正が生じた場合、直接的には円安による輸出刺激効果がある。もうひとつ大きいのは、輸出関連企業を中心に株式市場など資産市場のセンチメントが好転すれば、実体経済に好影響を及ぼして需給ギャップにプラスに作用し、ひいては中長期的な物価安定の目途の達成に結びつき得ると考えられることだ」
「日銀による外債購入の実現可能性であるが、そもそも為替レートの安定を目的とした外債購入は財務省の所管だ。これに対して中央銀行が何らかのコミットを行うことは適当ではなく、日銀単独の判断ではできない。法律上の制約や手続き論、外国の通貨当局との関係など実現可能性を踏まえて探っていきたいとの考えに変わりはない。しかし、為替レートに働きかける政策は期待インフレ率に働きかけるために有効であり、財務省と日銀が協力して何がしかの対応ができないか模索していきたい」
──エコノミストとしての経験も踏まえ、日銀と市場との対話に改善点はないか。
「市場が政策を理解できない場合は、政策効果が減衰されてしまう。中銀が市場との対話を行うに当たっては、市場の動きを正確に理解したうえで、自らの政策判断を市場に正確に伝えるという姿勢が重要だ」
「2月に中長期的な物価安定の目途を導入し、消費者物価上昇率の前年比1%が見通せるまで強力な金融緩和を進めるとした。これを受けて、マーケットは『3月以降、順次資産買入基金の総枠を増額していく』と理解したが、実際は4月末以外は追加緩和を実施しておらず、市場からは政策の一貫性を問う声が聞かれた。日銀としては、着実に資産買入基金の残高を積み上げていくことで、間断なく金融緩和を進めていくことが強力な金融緩和の意味するところだったが、日銀とマーケットの間で多少なりともミスコミュニケーションがあったと言える」
(ロイターニュース 伊藤純夫 木原麗花 竹本能文:編集 石田仁志)
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