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4年間の、藁の上の回復  膨張するアジア新興国の家計債務 高まる景気後退リスク 「政冷経寒」の時代 日本に試練
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/713.html
投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 25 日 01:59:42: cT5Wxjlo3Xe3.
 

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     2012年9月23日:Vol.280   

<Vol.280:4年間の、藁 の上の回復 >

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  著者:Systems Research Ltd. Consultant 吉田繁治
45250部
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おはようございます。しばらくの間、送信がとぎれていたことをお
詫びします。まぐまぐからも、送って下さいと催促を受けました。
言い訳に過ぎませんが、8月から9月に、新しい本を書いていました。
幾度か手を入れて書き直し、仕上がったのが今週です。あとは月曜
日のゲラを待つだけです。書名は、出版社の提案で、『マネーの正
体』にしました。250ページの予定でしたが、必要な説明を入れる
と400ページになりました。

2008年9月15日のリーマン・ショック以降、先週で、4年です。不動
産価格の下落が続くことから生じた、不良債権からの回復には、5
年はかかると書き、送ったことを記憶しています(08年)。5年以
上に長引く感じです。

米国の不動産の、バブル的な価格の頂点(2000年代で2倍)は、200
6年でした。その後、価格が2倍以上になっていた都市から50%の価
格下落がありました。

2012年の下落幅は縮小して底打ちの州も見えますが、相場回復には
至っていません。(注)2010年から激しくなった南欧の債務危機も、
米国のあとを、忠実に追う不動産価格の下落が主因です。南欧の不
動産も、ユーロ加盟以降に、2倍から4倍に上がっていたからです。

日本の不動産(地価)は、1992年の頂点で2500兆円の評価でした。
1300兆円に下がっています(2011年)。20年経っても、まだ下落は
止まらない。全国ベースで、年率3%くらいの下落があります。下
げ止まったように見えるのは、人口がさほど減っていない4地域の
み(東京、神奈川、滋賀、沖縄)だけです。

1980年代までは土地神話があったこの日本で、住宅価格は下がるの
が普通ということになって、20年です。話題にもならなくなるくら
い常態です。不動産が上がらないと、銀行貸付は増えず、設備投資
も減って、経済は成長しません。経済(GDP)が成長しないという
ことは、世帯所得が増えないということです。

根拠づけるため若干のマクロの金融・経済の数値が入ります。2008
年からの米国金融危機と、2010年から顕著に加わった南欧(スペイ
ン、イタリア、ポルトガル、ギリシア)の重債務の危機が、なぜ、
長引くか、どうなってるのか、それを証明するためのものです。
(本文12ページ)

現在の世界経済は、飛ばされた不良債権の上に、中央銀行のマネー
貸付という、藁(わら)が、被さっているものです。

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<Vol.280:4年間の、藁(わら)の上の回復 >
無料版 2012年9月22日号

【目次】

1.不動産価格と、金融機関の不良債権
2.800兆円の重債務国:南欧
3.欧州のECB、米国のFRBの緊急資金貸付
4.400兆円の印刷マネー:ドル+ユーロ
5.4年間の「藁(わら)の上の回復」
6.CDSの持ち合いをすれば・・

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■1.不動産価格と、金融機関の不良債権

【米国世帯の負債】
米国の住宅ローンは、残高が$10兆(現在価格で800兆円:当時は1
000兆円)もあります。他に、$3兆の消費者ローンがあります。

合計で$13兆(現価で1040兆円)です。米国は、1億世帯の消費がG
DPの70%(日本は60%)を占め、世帯の消費と住宅購入が、経済の
中心である社会です。住宅価格の安定的な上昇が基礎になって、1
億世帯(負債をもつのは50%の5000万世帯)のローンで消費を増や
してきたのが米国です。

日本は住宅ローン残が200兆円です。住宅ローンを含んで、世帯の
総負債は356兆円(2012年3月:日銀資金循環表)です。米国は、日
本の世帯の、3倍(当時のドルでは4倍)の負債があります。

【日本の住宅ローンとの違い】
米国では、1929年から30年代初頭に、史上最大の大恐慌がありまし
ました。バブル的に上がっていた株と不動産が同時に暴落し、銀行
の自己資本危機に至り、マネー量(マネー・サプライ)が30%も収
縮したのです(フリードマン:『大収縮1929−33』)。

その後、株価と不動産の回復には、第二次世界大戦をはさんで、19
50年まで、20年を要しています。

1990年からの資産バブルの崩壊の後(不動差で1200兆円、株で300
兆円=合計1500兆円の資産喪失)、現在(2112年)まで22年も経っ
ていながら、未だに回復はないのと類似するのが、この米国の大恐
慌でした。

このとき米政府は、住宅ローンの制度を変えています。それが、20
08年にも書いたノンリコース・ローン(非遡及型ローン)です。大
恐慌のときの住宅ローンは、現在の日本と同じように、住宅を担保
とし、個人が保証するものでした。これは、個人保証にさかのぼる
遡及型ローンでした。住宅手放しても、ローンの残債は、いつまで
も、個人を追ってきます。

ところが、3000万のローンを組んで買った住宅が50%の1500万円に
価格が下がっても、その住宅を銀行(ローン会社)に渡せば、3000
万円の残債から開放されるのがノンリコース・ローンです。借りた
個人ではなく、住宅にローンをつけるからです。

ノンリコース・ローンでは、個人が住宅を手放して、担保となった
住宅を、ローン会社が接収して再販売(フォアクロージャー)した
あとの不良債権が、ローン会社と銀行に残り続けます。

世帯がローンを組んで買った住宅価格が半分に下がると、住宅担保
のローン残($10兆:800兆円)に、推計で、400兆円の不良債権が、
銀行の潜在損として残り続けます。関連する他の消費者ローン($
3兆:240兆円)も、同時に、不良債権化します。

住宅価格の上昇があるまで、この不良債権は、ローン債権や、住宅
証券(MBS:不動産ローン担保証券)をもつ金融機関に残り続けま
す。

ローン会社が倒産しても、債務が解消するわけではなく、今度はそ
の不良債権が、ローン会社にお金を貸した銀行に移転するからです。
その潜在損が、まだ、500兆円はあるでしょう。

■2.800兆円の重債務国:南欧

2010年以降の南欧でも、この米国と同じ状況です。重債務国である
南欧の不動産は、2012年の現在、価格下落が激しくなっているから
です。南欧4ヵ国(イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシア)
の合計GDPは、400兆円です。

政府と民間(企業と世帯)の、総債務は、このGDPの約2倍の800兆
円です。この南欧4ヵ国は、800兆円の総債務のうち、ほぼ4兆ユー
ロ(400兆円)が、対外債務です。

南欧の不良債権の総額がいくらか、現在に至るまでEU当局は、(な
ぜか)決して言いません。対策、つまりECB(欧州中央銀行)の
ユーロ印刷と貸付は、3.2兆ユーロ(320兆円)と2.6倍に膨らん
でいます。

この事実から見て、2009年から12年8月までに200兆円が、南欧の債
務のために使われたことが、はっきりわかります。

■3.欧州のECB、米国のFRBの緊急資金貸付

▼欧州ECBの「無制限買い取り」

報道でご存知のように、2012年9月14日には、ECBは、南欧債(1年
から3年もの)の、「無制限買い取り」を表明しています。

理由は、言うまでもないでしょう。南欧が、債券(国債と銀行の債
務)では、必ず来る毎月の、債務の償還ができないからです。

約定の返済と利払いができないことが、デフォルトです。国債でデ
フォルトを起こせば、その国債価値は、30%から50%は下落して、
国債金利も30%から50%(年率)に高騰するからです。

▼米国FRBの、「無期限買い取り」

同時に、米国のFRBも、MBSを毎月$400億(3.2兆円)の枠で、無
期限に買いとることを表明しています。

【MBS】
MBS(Mortgage Backed Security:不動産ローン担保証券)は、多
くの住宅と商業用不動産のローン債権を買い集め(例えば1000本、
300億円)、ごちゃ混ぜにし、ローンの元本償還金と支払い金利を
受けとることができるようにし、優先、劣後の構造を作ったデリバ
ティブ証券です。

【複合証券】
このMBSをまた細切れの証券(例えば額面10億円:30本)にして売
り、それを金融機関が、「国債より利回りが高い証券」とし買って
います。不動産ローンから作った証券なので、金利が高かったので
す。こうしたMBSで、米国の住宅ローン資金が約$5兆(400兆円)
供給されています。日本の、農協の預金を集めた農林中金が、この
MBSの下落で5兆円の損をしたことは、ご存知でしょう。

【額面の60%の価格】
MBSは、不動産価格が下がって、ローンのデフォルトが増えれば、
証券価値が下がりますから、大きく価格が下落します。09年のMBS
の価格は、AAA格(ローンの償還金を優先的に受け取ることができ
る優先債)でも額面の60%でした。400兆円×0.4=120兆円の損が
生じていたのです。

【ローン債権市場の消滅】
2012年現在、このMBSには価格がついていません。売買市場が消え
たからです。どんなに安くても買う人がいないということです。こ
うなると、そのMBSを買っていた銀行に、大きな資金不足が生じま
す。

このため、米国FRBは、MBSを額面価格で、毎月$400億(3.2兆
円)無期限に買い取って、資金不足の銀行にドルを貸すと表明した
のです。米国でも、住宅ローンと消費者ローンの合計$13兆(1040
兆円)に、いくらの不良部分が生じているのか、当局は、一切明ら
かにしません。推計では、ほぼ50%(500兆円分)がすでに不良債
券でしょう。

【別のローン債権】
デリバティブ証券のMBSだけではなく、08年8月に破産し、おおすぎ
るため政府が出資して政府系になっている住宅ローン会社(ファ
ニーメイ:フレディマック)のローン債権(400兆円)も、同じよ
うに、下落しているからです。日本の郵貯(総資金量195兆円:12
年3月期)の2倍の規模と言えば、その巨大さがわかるでしょう。

仮に日本で郵貯が、ファニーメイやフレディマックのように、保有
する国債(175兆円)の下落(金利の2ポイント上昇で13%下落)に
よって破産となると、日本経済は、信用恐慌になります。郵貯の自
己資本は9.8兆円しかないからです(12年3月期)。
http://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/financial/pdf/kessan201203.pdf

■4.400兆円の印刷マネー:ドル+ユーロ

ユーロ(加盟17ヵ国)の中央銀銀行ECBは、3.2兆ユーロ(320兆
円)に、米国のFRBは$2.8兆(224兆円)に、信用を拡大していま
す。中央銀行の信用拡大とは、お金の印刷です。08年以降の4年、
両方で、約400兆円くらいの信用拡大です。

【いつまで続くか・・・】
2012年9月以降、あといくらマネー印刷をするのか。
推計では、
(1)ECBが、四半期(3ヶ月間)で、5000億ユーロ(50兆円)、
(2)FRBが、四半期で、MBSの買い取りを含んで$3000億(24兆
円)くらいでしょうか。

【2013年】
2013年(1年間)も、ECBが最低でも1兆ユーロ(100兆円)、FRBが
$5000億(40兆円)規模で、マネー印刷に向かうでしょう。米国と
欧州のGDPが回復して伸び、不動産価格も、長期上昇トレンドに転
じないと、このマネー印刷の必要量が減ることはないのです。

■5.4年間の「藁(わら)の上の回復」

本稿では、金額を挙げるにとめますが、世界の金融の原資産(1京5
000兆円)にかかったデリバティブは、総額で$5京1840兆円と、3.
5倍です(2011年12月時点:BISの統計)。

このうち債務の回収を保証する保険CDS(Credit Default Swap)は、
原資産(国債や住宅ローン債権)の2320兆円に対してかかっていま
す。
http://www.bis.org/statistics/otcder/dt1920a.pdf

【CDSとは?】
CDSは、例えば、A銀行がもつスペイン債やイタリア債でも、例えば
1000億円額面の6〜7%(60〜70億円)を保険料として、保証を引き
うけるB銀行(カウンター・パーティ)払って買うと、「安全債
券」になります。

B銀行が支払いを保証するからです。CDSの価格は、国債では、ほぼ
金利と同じで、毎日、銀行間のCDS市場で変動します。MBSにも当然、
CDSをかけることができます。

米銀は南欧債の100兆円を保証しています。受け取った保険料は、3
兆円から5兆円でしょう。これは、米銀の利益になっているのです。
金融機関が、簡単に、四半期で「利益が回復した」という理由の中
の相当部分は、保証を引きうけて受け取った保険料によるものです。
こうした利益は、「見えないリスク」が裏にあって、まるで信用が
できないものです。

他方で、保険料を受け取ったB銀行のリスクは、精算日まではリス
クは「理論値」しかないからと、オフ・バランス(貸借対照表に載
せないこと)が多い。額面より60%は下がったギリシア債(長期
債)も、まだ時価計上はないでしょう。25%は下がったスペイン債、
イタリア債(期間10年の長期債)はもちろんです。

【デリバティブの時価評価は、停止されたまま】
08年の金融危機以降、市場の気配値もないMBSなどにかかったCDSは、
「時価評価の停止」が、米国と欧州の当局によって敷かれています。

理論値の申告だけでいいというものです。これは、その銀行の株主
への、重大な裏切りでしょう。

■6.CDSの持ち合いをすれば・・

CDSを持ち合いにすれば、不良債権の処理は、簡単です。

(1)A銀行が、10兆円の、市場価値が30%下落した不良債権をもつ
とします。
(2)B銀行も、10兆円の、市場価値が30%下がった不良債権をもつ。

AとBが話し合って、お互いに、5000億円(5%)の保険料で、CDSを
掛け合います。5000億円の現金の受け渡しは、相殺されてゼロです。

A銀行とB銀行には、ともに、5000億円もの四半期決算の、保険料の
受け取り利益が生じます(保証の見返り)。しかも、10兆円の不良
債権が、安全債権に化けるのです。

(注)破産したリーマンやAIGはこれを行っていました。このため、
リーマンは、09年9月15日の破産の2週間前には、CEOが「当行は史
上最高益をあげた」と言っていました。その後、実は50兆円の不良
債権だったことが、破産処理で明らかになったのです。

こうしたものが、当事者以外は、だれにもわからない銀行間CDSの
売買の一端です。全部とは言いませんが、2320兆円の、CDSの残高
のうち、相当部分が、こうした持ち合いでしょう。

銀行間取引のデリバティブをOTC(Over The Couter)と言います。
OTCは、ほとんどが(推計80%)、オフショアの取引です、「闇の
中」の金融です(シャドーバン・キングとも言う)。

オフショアは、世界で60ヵ所の、租税と規制の回避地です。2000年
代の12年間で、世界の銀行資産(1京円)の、50%(5000兆円)は
オフショア金融になっています。

同時に、全部のデリバティブの85%は、オフショアと推計されてい
ます。世界の政府規制の外の法域なので、公的な数値はありません。
(『タックス・ヘイブンの闇』:ニコラス・シャクソン:藤井清美
訳)

最近の日本で、年金を預かって運用していたAIJが飛ばした約2000
億円の詐欺事件も、このオフショア金融のごく一部です。

【推計不良債権2000兆円】
08年9月以降、単独のCDSを含んで、CDSを更に集めて組成したデリ
バティブの複合証券(CDO)等によって、上記の「持ち合い」の方
法を混ぜながら、
・米国と欧州の、住宅ローン(2000兆円)関連で、1000兆円、
・他の債権で1000兆円が、飛ばされ続けていると見ています。
合計で2000兆円の、不良債権の空洞の、飛ばしです。

飛ばすとは、銀行間、証券会社間のお互いの話し合いで、精算日を
先送りすることです。この中に、日本の大手銀行(三菱)や証券会
社(野村)も混じっていますが、米欧ほどは大きくはないと見ます。

巨大な不良債権の空洞のうち、精算日がどうにもならないものを、
欧州ECBと、米国FRBが、400兆円くらいのマネー印刷で貸与して、
清算してきたということです(2012年夏まで)。

08年以降、4年間では収まらなかった。あと、最短でも3年は続く感
じです(2015年)。不動産価格の、上昇がないからです。日銀も、
同時に、資産買い取り枠70兆円を80兆円に増やすことを表明しまし
た(12年9月)。

「量的緩和」や「非伝統的な金融策」と、意図してあいまいに言い
ますが、これは、中央銀行にとって、過去60年間かつてなかったこ
とで、まさに異常なものです。

日米欧の、中央銀行の、同時マネー増発という「空洞の上の藁(わ
ら)での回復」です。その藁が、ぼろぼろだったと見なされるのは、
いつか。加えて、中国の不動産価格下落が、近づいています。

【後記】
本が出るのは10月末でしょうか。中央銀行が、今回のようなマネー
増発をすると、1.5ヶ月くらいは、藁の上でも・・・「回復した」
と言われますが、また次の1.5ヶ月で元に戻ります。銀行の決済に
不足するマネーを、補っているだけだからです。

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    <612号:『マネーの正体』を短く要約して紹介>
          有料版 2012年9月5日

【目次】

1.時価評価がなく、オフ・バランスのデリバティブ
2. 一章は、「お金」の実質と名目の価値です
3.二章は、マネーの発行は、なぜ「秘密」と思われてきたのか?
4.三章は、中央銀行の通貨発行と、銀行システムによる信用乗数
の効果がもたらすものです。
5.四章は、信用乗数と経済成長、人々の所得が増えるのはなぜ
か?
6. 五章は、ゴールドとFRBの40年戦争と最終勝者です。
7.六章は、21世紀の新しいマネー:巨大デリバティブはどこへ向
かうのか?
8.七章は、われわれのお金は、どこへ、どう流れているのか?
9.財政破産について
10.八章は、終章に換えて;金融資産の防衛です。


<614号:中国のバブルの崩壊と経済の急減速>
有料版 2012年9月19日号

【目次】

1.不明瞭な中国の失業率を推計
2.文化大革命の時代の農村を『初恋のきた道』で見る
3.不動産バブル崩壊と、経済成長率の低下
4.中国のGDPの特殊な内容
5.北京閥と上海閥の抗争
6.日本への大きなマイナスの影響

【後記:同時マネー印刷へ】

 


膨張するアジア新興国の家計債務

インドネシアやマレーシアはブレーキをかけ始めた

2012年9月25日(火)  フレドリック・ニューマン 、 孕石 健次

 2008年以降の欧米先進国の金融危機とそれに続く景気減速が輸出依存度の高いアジア新興国を直撃した。アジア新興国は域内貿易の拡大と内需拡大による対欧米先進国輸出依存からの脱却(デカップリング)に懸命に取り組んだ。その甲斐があり、ユーロ危機が一段と深刻化した今年も、中国やインドが10%近い高成長からの減速を余儀なくされたものの、アセアン主要国は年率6%前後の堅調な成長を続けている。アジア新興国は狙い通り、欧米先進国からのデカップリングに成功したかに見える。その原動力の1つは旺盛な個人消費であることは疑いない。日本企業も、急速に拡大するアジア新興国の個人消費市場への参入を目指し、自動車や二輪車、コンビニや外食、ゲームや通信サービスといった多岐にわたる分野で、これらの国々への新規進出や事業拡張を図っている。個人消費の伸びの背景にあるのは、1人当たり所得の向上と中間所得者層の急速な拡大だ。

家計債務のGDP比率、韓国はギリシャ上回る

 一方、旺盛な個人消費と共に、家計債務も急速に拡大し、これが新たな懸念材料になり始めている。今年6月に韓国の中央日報が伝えた「韓国の家計負債比率 OECD平均を大幅に上回る」との情報に関係者が注目した。これによると、韓国の家計債務のGDP(国内総生産)比率は2010年に81%に達し(後出のグラフの数値より高いが、ここでは銀行借入以外も含んでいるため)、債務危機に直面しているスペインの85%に迫り、ギリシャの61%を大幅に上回るという。

 内需主導への成長モデルへの転換が順調に進んでいるかに見えるアジア新興国だが、今度は家計債務急増に対するコントロールが課題になってきた。実際、韓国では家計債務急増への監視を強め、インドネシアでは自動車や二輪車の割賦販売に頭金支払いを義務づける規制を導入している。今回は、HSBCのエコノミストがこの問題を分析したレポートを紹介したい。

 欧米の家計がかつて借金漬けになりながら消費を謳歌し、バブルの崩壊を招いたことをあげつらうのは簡単である。実は、アジアの家計も、低金利環境と楽観的な所得見通しを背景に借り入れを積極的に増やしている。だが、アジアでは債務の増加で個人消費がすぐに落ち込むリスクは見られない。そもそも欧米とアジアの家計債務には大きな違いがある。とはいえ、以下の2点に留意する必要があろう。

 まず、家計債務の増加に規制当局が関心を寄せ、借り入れ規制の強化で個人消費の伸びが抑制される可能性がある。無論、長期的に見れば、これは良いことだが、足元で世界経済の減速感が強まる中、アジア経済にとっては新たな足かせ要因となる。

 第2に、家計はいつまでも債務を膨らませ続けることはできない。したがって、今後も個人消費を伸ばすには、所得の伸びを加速させる必要がある。だが、賃金の伸びが一段と加速した場合、企業利益には下押し圧力がかかる一方、インフレ圧力が強まる可能性が高い。

 図1は、欧米とアジア諸国の家計債務(銀行の貸出残高)の対GDP比を示したものである。アジア諸国に比べて米国と英国、スペインの家計債務の比率が際立って高いことが分かる。これを見て、アジアの家計債務は懸念するほどのものではないと考える人もいるかもしれない。しかし、果たしてそうか。


 第1に、定義上の問題がある。通常、欧米では、家計債務にはあらゆる借り入れが含まれるが、アジアでは銀行借り入れだけを指すのが普通である。その理由として、欧米ではノンバンクの貸出規模がアジア(銀行借り入れが中心)と比較して大きい点が挙げられる。また、アジアのノンバンクの家計向け融資データは信頼性の点でやや見劣りする。ただ、多くのアジア諸国の家計債務の対GDP比が図1に示した水準よりも高いとみて間違いないだろう。例えば、マレーシアの銀行の家計向け融資残高は対GDP比55%となっているが、同国中銀によると、これにノンバンクの融資を加えれば、同比率は76%強に上昇する。

過去4年ではシンガポールの家計債務の伸びが目立つ

 第2に、アジアの家計債務がまだ相対的に低いとしても、この数年で多くのアジア諸国の家計債務が大幅に増加していることは事実である。図2は、米国と英国、スペインの2004年1Q(第1四半期)〜2008年1Qの家計債務の対GDP比の増加幅とアジア諸国の2008年1Q〜2012年1Qの家計債務のGDP比の増加幅を見たものである。英国とスペインの家計債務の増加が目立つが、シンガポールの過去4年間の家計債務の伸びは金融危機前の4年間の米国の家計債務の伸びとほぼ同じである。また、中国とマレーシア、香港、タイの家計債務の伸びも目立っているが、欧米ほどではない。

 次に図3を見てみよう。今度は米国と英国、スペインの2005年1Q〜2008年1Qの家計債務の対GDP比の増加幅とアジア諸国の2009年1Q〜2012年1Qの家計債務のGDP比の増加幅を見たものである。これを見ると、一部のアジア諸国の家計債務のGDP比の伸びは米国を上回っているが、英国とスペインほどではない。ここで4年間ではなく3年間の家計債務の伸びを示したのは、筆者の直感的な判断によるところが大きいが、ここでは次の2点を指摘しておきたい。第1に、3年間と4年間の家計債務の伸びのどちらを見ても、台湾とインド、フィリピン、日本を除いてアジアの家計債務はこの数年で大幅に増加している。第2に、世界金融危機以降、多くのアジア諸国の家計債務は金融危機前の米国の家計債務と同じようなペースで増えている。

 第3に、アジアの家計債務の対GDP比は欧米に比べて低いとはいえ、1人当たりGDPが全般的に低い点を加味する必要がある。所得が高ければ、借り入れが増えても穴埋めできる。このため、例えば、インドネシアとスペインの家計債務の対GDP比を単純に比較しただけでは不十分である。1人当たりGDPが相対的に低い点を踏まえれば、アジアの債務負担水準は欧米よりも高いという議論も成り立つ。


 この点を検証するため、1人当たりGDPの違いを調整してアジア各国・地域と米国の家計債務の対GDP比を比較する簡単なベンチマークを作成した。例えば、インドの1人当たりGDPは購買力平価ベースで米国の約7.6%である。したがって、その分を考慮する必要があり、インドのケースではベンチマークは6.3%となる(ベンチ―マークは、米国家計の銀行債務の対GDP比率82%に、購買力平価ベースでのインドの1人当たりGDPの米国に対する比率7.6%を掛け算したもの)。しかし、実際のインドの家計債務の対GDP比は足元で12.8%である。このため、両国の1人当たりGDPの違いを調整すると、インドの家計債務は米国を6.5ppt上回る。

 図4は、その他のアジア各国・地域についても同じ比較を行った結果を示している。シンガポールの過去4 年間の家計債務の伸びは金融危機前の4 年間の米国の家計債務の伸びとほぼ同じだったが、1人当たりGDPの違いを勘案すると、同国の債務は引き続き米国の水準を大きく下回っている。これは香港と台湾にも当てはまる(両地域については家計債務を低めに見積もっていることもあるが)。しかし、その他のアジア諸国を見ると、軒並み米国の家計債務の対GDP比を上回っている。

 これは懸念材料である。だが、いつものように指摘しておかなければならない点がいくつかある。第1に、借り手の所得層が異なる。米国では、特に金融危機前の数年間、低所得者の債務増が目立った。一方、アジアで債務を増やしているのは比較的所得が高い家計である。第2に、アジアでは住宅ローンのLTV(担保掛目)の水準が低い。このため、不動産市場に若干波風が立っても競売が相次ぐような事態に発展する可能性は低く、不動産市場の落ち込みは限られるだろう。また、不良債権比率から見て銀行の自己資本比率がまずまずの水準にあるため、不動産市場の混乱でシステミックリスクが広がる余地も限定的である。

マレーシアやクレジットカードの規制を強化

 これは少なくとも若干の安心材料にはなる。しかし、家計債務の拡大が続いていることは事実である。図5に示したように、アジアの銀行貸し出しの伸びは引き続き堅調である。当面、これは個人消費を下支えする要因となり、外需の減速による影響を吸収する可能性がある。一方、当局も家計の借り入れに対する規制強化に乗り出している。例えば、マレーシアの規制当局は今年初めにクレジットカードに関する規制を強化した。所得が低いクレジットカード保有者に対しては、借り入れ上限を月収の2倍までとしたほか、クレジットカードの保有枚数も2枚までに制限した。


 また、インドネシアの規制当局はオートバイと自動車の購入に関する規制を強化し、頭金の最低金額を20〜30%に設定した。この結果、同国の自動車・二輪車販売はこの数週間で大幅に鈍化し、家計債務の増加にも歯止めがかかりつつあるとみられる。

 しかし、規制当局による監視が強まれば、個人消費への影響も避けられない。個人消費における借り入れが活発な分、当局の規制強化によって内需、ひいては成長率への影響が小幅ながら出てくるだろう。これは欧米のようなバブル崩壊を避けるためにアジア諸国が払わなければならない代償なのかもしれない。


(この連載は今回で終了します)


孕石 健次(はらみいし・けんじ)

HSBC投信 シニアアドバイザー
1950年生まれ。1976年早稲田大学大学院修士課程修了。東京銀行入行後、国際投資部、資本市場1部、財務開発部、開発金融部などで国際金融業務を担当。海外駐在はニューヨーク、香港、ジャカルタに計11年。一貫して新興国向けビジネスを担当。2001年国際通貨研究所出向。総務部長、開発経済調査部長としてアジア危機政策評価、ASEM Task Forceなどの委託調査を主査として担当。2004年東京三菱銀行退職後、ITベンチャー企業役員などを経て、2007年HSBC入社。

フレドリック・ニューマン

HSBC調査部アジア経済調査部門のマネージング・ダイレクター。香港を拠点に活動。HSBC入社以前は、ジョンズ・ホプキンス大学など米国のいくつかの大学に勤務し、大学院でアジアのソブリン・リスク分析、金融市場、金融政策、東南アジアの政治文化について教鞭をとる。また、国際機関、政府にも勤務し、ワシントンDCの国際経済研究所に研究員として勤務。国際経済とアジア研究の博士号を持つ。


エマージングエコノミーの鳥瞰図

世界経済が揺れ動く中、新興国への関心が高まっている。成長への期待も強いが、その反面脆弱性も残る。専門家の目を通じて新興国経済の現状とこれからを俯瞰していく。これからの成長センターと期待される国々の実力を見ていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120921/237125/?ST=print

 

高まる景気後退リスク

鉱工業生産指数

2012年9月24日(月)  矢嶋 康次

鉱工業生産指数の低下が鮮明になっている。内需が息切れする中、中国など外需も失速した。日本の景気後退リスクは急速に高まっている。


 世界経済の混乱が日本に大きな影響を及ぼしている。7月の鉱工業生産指数は前月比で1.2%低下した。8〜9月の予測指数で引き延ばすと、7〜9月期は3%程度の低下になりそうだ。経済産業省は生産の基調判断を「横ばい傾向」で据え置いたが、既に下降局面に入った可能性は否定できない。

 日本経済を取り巻く環境は厳しい。製造業の頼みの綱である外需は減少傾向にある。最大の貿易相手である中国向け輸出額を見ると、昨年10月から大半の月が前年同月を下回った。欧州の景気後退で中国から欧州への輸出が減り、経済成長が鈍化しているためだ。

 内需も期待できない。震災復興の予算措置は今年7〜9月をピークに減少していく。エコカー補助金が終了し、内需を支えている新車市場も縮小する。ここに政治の混迷が追い打ちをかける。赤字国債発行法案が廃案になり、政府は5兆円の予算執行の抑制を決めた。地方交付税の支払いが遅れることで、地方経済の悪化は避けられない。

 米国は量的緩和第3弾(QE3)に踏み切った。ドル安傾向が長期化し、円高是正も期待できないだろう。外需が減り、内需が息切れし、円高も続く。鉱工業生産指数の悪化は、厳しい経済の実態を反映している。


消費増税に再び異論も

 東日本大震災で落ち込んだものの、現在の日本経済は2009年3月を谷とした拡張期にある。しかし、景気後退期に入るリスクは高まっている。いったん景気後退期に入れば1年以上続く。2014年4月に予定されている消費増税の是非について、再び異論が出てくるだろう。危機的な水準にある日本の財政再建が、遠のく可能性がある。

 状況を打開するカギは中国経済の回復だ。中国政府は総額1兆元(約12兆円)の公共投資をする方針だ。指導部が入れ替わる共産党大会が近づき、景気刺激策が不可欠と判断したようだ。日本と違い、中国は政策を確実に実行する。早ければ来年春頃には中国の経済成長率は上向くだろう。

 日本は、こうした需要を取り込む施策が不可欠なのに、尖閣諸島の領有権を巡り日中関係は最悪の状態だ。経済制裁があれば対中輸出が一段と落ち込みかねない。このままでは決められない政治と出口の見えない経済に見切りをつけ、企業が日本から脱出していくだろう。景気後退リスクが高まっている現実を念頭に置いた外交と、経済政策が求められている。

(構成:阿部 貴浩)


矢嶋 康次
ニッセイ基礎研究所経済調査
部門チーフエコノミスト

1992年東京工業大学卒、日本生命保険入社。95年ニッセイ基礎研究所で日本経済・金融など担当。2012年から現職。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/research/20120920/237063/?ST=print

 


尖閣巡る緊迫は収まらない

2012年9月24日(月)  The Economist


尖閣諸島の国有化を決めた日本に対し、怒りを募らせる中国。国連海洋法が定める排他的経済水域を巡る利害は大きい。それだけに日中間の尖閣を巡る解決は容易ではない。

 9月11日、日本と中国の間に点在する5つの島を巡る両国の争いが再浮上した。日本が「尖閣諸島」、中国が「釣魚島」と呼ぶ島々だ。

 この日、日本政府は未所有だった3島を民間の地権者から20億円(約3180万ドル)*1で購入することで合意し、国有化を決めた。中国はこれに激しく反発し、2隻の海洋監視船を領海内に送り込んだ。

*1=正確には20億5000万円


日本が尖閣諸島を国有化したことに反発して、北京の日本大使館前で9月16日、「釣魚島は中国に帰属する」との横断幕を掲げてデモ行進をする中国市民(写真:ロイター/アフロ)
野田首相が国有化を決めた理由

 日本は、中国側の空騒ぎで終わることを願っている*2。野田佳彦首相がこれらの島を購入した理由は、海域紛争問題を掻き回すためでは恐らくない。無愛想で中国叩きの激しい国粋主義者である東京都知事の石原慎太郎氏の手に渡るよりはましだと感じたからだろう。石原氏は4月から、東京都によるこれら3島の購入準備を進めていた。

*2=この原稿は、9月13日以前に書かれたもので、14〜16日に中国全土で反日デモが広がった事実を踏まえたものではない

 この件について、中国は必ずしも野田氏の意図を汲み取ってはいないかもしれない。問題の1つは、日本側が「中国の海洋進出」を不愉快に思う一方で、中国側もまた、日本の海事領域に悩まされているという点だ。

 ある試算によると、日本と中国はほぼ同程度の長さの海岸線を有するという。だが、列島国である日本のEEZ(排他的経済水域)は450万km2(約280万平方マイル)で、中国の5倍に当たる。

 オーストラリア国立大学のガバン・マコーマック教授が最近発表した論文によると、1982年に国連海洋法条約が採択されて以来、日本は中国よりもこの法律をうまく使ってきた。そのあたりは植民地時代の遺産とも言える。EEZで見ると、海洋国としての中国の順位はモルディブとソマリアの間ほどである。

 日本は自国のEEZを重要視している。太平洋に広がる島々と環礁は、なんと東京都が管轄する。その最南端にある沖ノ鳥島(文字通り、その意味は「遠方の鳥の島」)で、首都からは2000km(約1250マイル)も離れている。ざっとロンドンからレイキャビク(アイスランドの首都)ほどの距離だ。

無理がある日本のEEZ巡る主張

 実際、2つの隆起珊瑚礁からなるこの小島では満潮時に面積が減少する。マコーマック教授の言葉を借りれば「1つはダブルベッド、もう1つは小部屋ほどのサイズになる」という。

 同教授によると、87年以来、日本はこのサンゴ礁の消失を防ぐために6億ドル(約470億円)をつぎ込んできた。

 だが国際法の下では、「沖ノ鳥島は1つの島である(従って半径200カイリのEEZが認められる)」とする日本の主張は、控えめに見てもかなり無理がある。

 この海域から得られる潜在的な領土面・資源面での利点を考えると、尖閣諸島を巡る日中両国の激高は理解できないことではない。

 野田政権は、日本人の上陸禁止を約束することで事態の沈静化を図るかもしれない。だが、尖閣諸島問題が今後も大きくのしかかってくる可能性はある。節目となるのは、今度の総選挙だ。現在、野党で次期首相の最も有力な候補となっているのは、ほかでもない石原伸晃氏。例の気難しい都知事の息子である。

© 2012 The Economist Newspaper Limited.
Sep. 15-21, 2012. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


英国エコノミスト


1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。


The Economist

Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
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記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120920/237069/?ST=print

 


「政冷経寒」の時代へ、日本に試練

中国、暴走する反日

2012年9月24日(月)  坂田 亮太郎

日本政府が尖閣諸島を国有化したことに反発するデモが中国全土に広まった。デモが収束したとしても、周辺海域での衝突や対中経済の停滞は免れない。「政冷経熱」から「政冷経寒」の時代への突入は、日本企業にとって新たな試練となる。

 満州事変の発端となった「柳条湖事件」から81年目の9月18日も、50を超える中国の都市で反日デモが起きた。1931年、当時日本が所有していた南満州鉄道の線路を旧日本軍が自ら爆破し、それを中国軍の犯行として戦争が始まった。中国人なら知らぬ者がいない「屈辱の日」として記憶されている。

 日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したのも、中国人の目からすれば日本側の暴挙と映る。中国の子供は地理の教科書で「釣魚島(ディアォユーダォ)(尖閣諸島の中国名)は中国固有の領土」と教えられて育つ。海底の資源が確認された70年代以降、中国側が急に自国領土と主張し始めたという日本側の声は恐らく耳に届いていない。だからこそ、日本に対する反発が中国全土に広がっている。

 デモ参加者の一部は暴徒と化し、現地に進出した日系企業に多大な被害を与えた。イオンは青島(チンタオ)(山東省)に出店していたスーパー「ジャスコ」が壊滅的な被害を受け、被害総額は25億円に達するという。湖南省の省都、長沙(チャンシャー)で百貨店を展開している平和堂(滋賀県)も宝飾品を中心に商品が略奪され、店舗再開のめどは立っていない。

「民間版経済制裁」という空気

 日本車も目の敵にされている。トヨタ自動車やホンダなど日系メーカーの販売店が放火の被害を受けたほか、中国人が所有するクルマでも日本車と分かれば暴徒の攻撃対象となっている。

 生産活動にも大きな影響が出始めている。電子部品メーカーのミツミ電機は青島の工場が全焼。パナソニックでも青島と蘇州(江蘇省)で工場の一部設備が破壊された。

 こうした違法行為に対して中国人の中からも批判の声は上がっている。反日デモを容認している政府も、略奪や破壊など違法行為については厳正に対処する方針を示してはいる。ただ、反日の機運がデモとは異なった形で広がり始めていることの方が深刻だ。

 化粧品や宝飾品などを扱う湖南省のテレビ通販番組「嘉麗(ジャーリー)」は12日からコーセーなど日本製品の取り扱いを一斉に中止した。電話で注文してきた人が「釣魚島は中国の領土」と言えばその場で20元(約260円)を割り引く“サービス”まで登場させた。

 こうした「日貨下架(日本製品は販売中止)」の動きはほかの小売業でも急速に広がっている。大手スーパーチェーン「大潤発(ダールンファー)(RT-MART)」は、家電製品から日用雑貨品に至るまで日系企業の商品を売り場から排除している。「聚尚網(ジューシャンワン)」など複数の通販サイトも日本ブランドの商品の取り扱いを停止した。

 販売への影響も既に出ているようだ。在外向け中文ニュースサイト「中新網」は14日、香港の活動家が尖閣諸島に上陸した8月以降、日系自動車メーカーのシェアは2%低下したと報じている。家電メーカーの状況はさらに深刻で、北京・上海・広州の3大都市で販売数量が東芝は40.3%減、シャープが21.1%減、松下(パナソニック)が23.4%減となったと伝えている。

 こうした情報の信憑性はともかく、日系企業に対するマイナス情報が報道や微博(ウェイボー)(中国版ツイッター)などで絶え間なく流されている。不買運動を展開している中国企業に共通するのは、自分たちの行動は「民間版経済制裁」であり、消費者に自らの怒りを消費行動に示そうと呼びかけている点だ。

サイレントマジョリティーの怒り

 歴史を振り返れば、日本と中国の関係は振り子のように前進と後退を繰り返してきた。それでも振り子が振り切れなかったのは日中にとって経済が決定的に重要だったからだ。中国からすれば日本の高度な技術やノウハウが不可欠であり、日本も中国の安い労働力と広大な市場を求めてきた。「政冷経熱(政治は冷え込んでも経済は活発)」と呼ばれる時代が長く続いた要因だ。

 だが、今回の日中関係の悪化は、両国の国境付近に浮かぶ島の領有権が原因だけに解決は難しい。尖閣諸島を国有化した日本に対しては、一般の民衆レベルでも怒りは強い。

 デモで「反日」を叫ぶ人は13億人超の人口からすれば圧倒的少数だが、「しばらく日本製品を買うまい」と考える消費者は相当数に上る、と日本側は覚悟が必要だろう。日本への渡航自粛やレアアースの対日輸出規制など官製の経済制裁に加えて、サイレントマジョリティーによる見えない反日行動はジワリと影響が出てくるだろう。

 日中関係の最後の生命線だった経済的な結びつきさえも切れてしまえば、政冷経熱から「政冷経寒」とも言うべき不幸な関係となる。さらにガス抜きのために許してきたデモの矛先が中国政府、共産党に向かうことになれば、中国経済、ひいては中国社会自体が大混乱に陥るだろう。その場合、日中関係はもとより世界経済に与える影響は計り知れない。

「過激化」に冷ややかな香港
 山東省青島(チンタオ)のジャスコが襲撃を受けていたその頃、香港島にあるジャスコでは買い物客がレジに列を作っていた。繁華街にある日本料理店もいつもと変わらぬ賑わい。中国全土が「反日」で覆い尽くされた週末、香港は平穏だった。

 16日に実施された反日デモでは、主催者側が参加者5000人と発表したのに対し、実際は最大で850人。日本の国旗に点火した参加者が拘束される騒ぎがあったものの、大きな混乱もない。一国二制度上の「別の国」とはいえ、中国本土に広がった緊張感とはあまりにも違った。

 そもそも今回の一連の動きの発端の1つは、8月に香港の活動家が尖閣諸島に向かい、日本当局が身柄を拘束したことだった。そのため香港は尖閣問題の起点としてのイメージもある。だが市民の関心は別のところにあった。

 香港では9月から小中学校で導入予定だった新しい「国民教育」が「共産党礼賛の洗脳教育」として批判を集め、大規模な反対運動が繰り広げられたばかり。結果的に香港政府は撤回を余儀なくされた。今回の中国各地の暴動に対しても「洗脳教育の結果」として突き放す見方も多い。さらに、日用品の値上がりを引き起こしているなどとして、本土客の買い占めへの抗議活動が活発化している。

 「本土離れ」が進む香港において、領土問題は中国国民としての一体感の醸成にもってこい。台湾でも同じだ。16日、元駐日大使で、現在は対台湾政策の責任者となっている国務院台湾事務弁公室の王毅・主任は「民族の大義の下、両岸の同胞は力を合わせて海外に対抗しよう」と発言した。尖閣問題を台湾政策に利用しようという意図が見える。

 これまでのところ、香港も台湾も反日活動のような過激化は見られない。反日教育も情報規制もない法治国家に住む市民の反応だ。逆に言えば、貧富の差や汚職の横行、学生の就職難など、中国の構造的な問題が一部を過激化に向かわせているとも言える。
(香港支局 熊野 信一郎)

坂田 亮太郎(さかた・りょうたろう)

日経BP社北京支局長。入社してから6年間はバイオテクノロジーの専門誌「日経バイオテク」で記者として修行、2004年に「日経ビジネス」に異動、以来、主に製造業を中心に取材活動を続けた。2009年から北京支局に赴任し現在に至る。趣味は上手とは言い難いがバドミントン。あと酒税の安い中国はビール好きには天国です。

時事深層

“ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120921/237108/?ST=print  

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