http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/691.html
Tweet |
【第121回】 2012年9月21日 池上正樹 [ジャーナリスト]
中高年の“再就職難民”から続々反響!?
一度社会を離脱すればやり直しがきかない日本
これほどまでに大きな反響があるのかと驚かされた。
2年余り「引きこもり」していた40代前半のAさんが、1年間に300社以上も応募し続けながら、採用が決まらなかったという話を前回の連載で紹介したところ、記事へのアクセスは20日現在、45万を突破。同じような体験をされている方々から、同じような内容のメールが、筆者の元に数多く寄せられたのだ。
いまの日本には、離職したことのない人たちには想像もつかないような社会の課題が、目の前に立ちふさがっているのではないか。
自分たちは、こういう社会に生きていることをまず共有することが大事なのかなと、改めて痛感せざるを得ない。
そこで、寄せられた反響のうち、記事への引用をご了承頂いた方の声の中から、固有名詞等を特定されないよう、多少編集させていただいたうえで紹介する
30歳前に帰郷するが就活に苦戦
再度上京も就けるのはアルバイト、派遣だけ
≪現在50歳になる者です。私も掲載された記事の内容と同様の形で現在も求職活動を行なっております≫
厳しい条件のもと、すでに8ヵ月にわたる再就職活動の合間に、こんな思いを綴ってくれたのは、Bさん。
≪大学卒業時に入社した企業で経営面での不安を感じ、入社1年半後に退職し、新たなスタートを切る事を決意しました。その後、自分の進むべき方向性が決まらないまま何社か転職を行いましたが、30歳を前に帰郷する事としました。その後、郷里で就職活動を行うも、バブル経済崩壊が始まった頃であり、思うような仕事が得られず、気づいてみると仕事らしい仕事もできないままに数年が経っておりました。
流石に何年も定まった仕事がないことに焦りを感じ、37歳を前に再度、上京する事を決め、就業はすぐにできる事を約束の上で部屋を借り、就職活動を再開する事となりました。
仕事がないのは田舎での事情で、多少の苦労はあっても事情を考慮してくれる企業もあるだろうと甘い考えを抱いておりましたが、実際、求職活動を始めると、それはとんでもなく甘い考えである事を痛感させられました。
何十社、何百社へ書類の送信、送付を行ってもほとんどが断りとお祈りメールばかりで、たまに面接の機会が得られた企業でも、検討後に断りの連絡をいただくばかりの状態でした。
この状態を数ヵ月続けるうちに流石に経済面でも考えなければならなくなり、まずは、最低限の生活維持のためにアルバイトを始め、野菜の袋詰のアルバイトから輸入果物の仕分け作業や引越し作業なども行いました。
アルバイト先では仕事の運びは良いためそれなりに評価もされ事情も理解していただいておりましたが、バブル崩壊の影響が深く残っているこの時期に正規での採用までは話が進まず、季節に応じた短期のアルバイトのためそれらの仕事も去ることとなりました。
驚いたのは、このような状況でいるのはブランクのある者や、あるいは年齢的に40歳も近い自分のような条件の人間ばかりかと思っておりましたが、一流私立大学卒業の若者も含め技能や才能、あるいは可能性が十分にある人達も思うような仕事が得られずに同様のアルバイトをしているという事でした≫
その後、Bさんは、派遣で大手企業の業務を担当した。
派遣先の直属の上長は、Bさんの働きを評価。派遣期間最大の3年終了ごとに、再度の仕事の継続を望み、社員化も社内に掛け合ってくれた。
しかし、社会状況の変化や社内の合理化などによって却下され、逆に古くから在籍していたBさんが退職せざるを得なくなった。
以来、今年1月から、再就職活動を続けているが、なかなか採用は決まらない。
≪「しごとセンター」などの紹介で、面接に何社か伺っていますが、いずれも正規雇用のお話ではなく契約社員等としての話であり、その条件でお願いするも、契約の発生が就業先にスキルシートを送り、OKとなった時点で初めて雇用契約が発生するというものです。
先方の営業マン、あるいは採用担当者は軽く“仕事はありますよ”と言いながら、実際、その就業先にスキルシートを送ったときに、自社の社員の採否と同様に、様々な条件で判断しようと石橋を叩いてばかりいるために、話が頓挫してしまい、就業までになかなか行きにくくなっているというのが実情です。
情報化、システム化で社会が複雑になり、その就業に至るまでのプロセスが複雑で長くなっただけで、実際の就業に至るまでは以前では考えられない位に難しくなっているのが、日本社会の就業の実情です。
情報化とは本来、社会活動をスムーズにし、社会を明るくすべきはずのものであるにもかかわらず、実際は社会を何の意味もなく複雑にし、理解不能な理不尽な状況を作るだけのものとなってしまっています。
黎明期ゆえの社会的な未熟さでこのような事となっているのかもしれませんが、実際に就業することを目的に活動を続けている者にとっては、ストレスのかかる無用な社会システムにしか感じられないというのが、私だけでなく、多くの就業活動を行っている人たちの気持ちではないかと思います≫
うつになって以降アルバイトを転々
「中卒」を隠し応募することも…
39歳のCさんは、前回取り上げたAさんと同じように「引きこもり」歴がある。
会社には当初、アルバイトから入り、その後、契約社員を経て、就職した。
しかし、2、3年で「うつ」になり、退職してしまったという。
≪その後は、先に会社をやめていった同僚や、ネットで知り合った仲間のツテで同じ職種で働いていました。しかし、数年すると、うつの落ち込む周期がやってくるのか、落ち込んでしまう。クリエイティブな職種だったので、そうなるともう何もできなくなり、退社しました≫
こうしてCさんは、33歳の頃から、アルバイトを転々とするようになった。
≪私の学歴は中卒です。中学の時点で、学級崩壊等によってついて行けず、高校に入っても授業についていけず、1年の暮には中退してしまいました。思えば、このときにうつが始まっていたのかもしれません。
その後、最初の引きこもりで半年程過ごし、自殺しようと、カナダに渡りました。親は、問題が多い人間で、自殺するからカナダに行くと告げると、死亡保険の契約を組む事で了承されました。
しかし、カナダに渡った私は、転地療法になってしまったのか、日本語しか喋れず、ひとり旅という中、カナダを1周しようという意欲まで出てしまい、若かったこともあって、いろいろな人たちに助けられつつ飛行機や、列車、バスを乗り継いで横断してしまいました。
一方、その頃、親は、1ヵ月もすると、アリバイ固めに入ったのか、私が勝手に家出した事にして、ICPOに捜索届けを出したり、探しに行くという名目でカナダ旅行を楽しむ始末で、横断から出発地点に帰ってくる途中、ICPOの職員に発見されてしまいました。出発から2ヵ月後、死ぬことなく帰国し、家出したことにされていたと知りました≫
Cさんは、アルバイトを始めて、うつが再発。しかし、自分がうつであることを理解できていない状態のまま、間に空白期間を作りながら、転職を繰り返してきたという。
≪履歴書には、さすがに自分の経歴をそのままは書けません。経歴詐称になると知っていながら、高卒という事にして、職歴もできるだけ間を詰めて書くようになりました。
(Aさんのように)学歴・職歴、申し分ない人ですら、その状態なのですから、私などが再就職できるはずもなく、アルバイトですら、いくら応募しても採用されず、お祈りしか帰ってこない…それが今の日本ですね。
派遣制度の改正以降、より企業の仕事の採用の幅が狭まってしまったように思います。
求人広告も男女や年齢を法で縛られ明記できなくなったおかげで、仕事を探す側が探す手間が何倍何十倍にもなり、一番、被害を被っているように思います≫
企業からの“オファー”はあるのに
面接には辿り着けないジレンマ
48歳のDさんは、2年ほど前に、精神的肉体的な過労が原因で、会社を退職せざるを得なくなった。その後も、仕事ができず、自己破産。いまは「障がい年金」で暮らしている。
「空白の期間を持つと、再就職は本当に難しい」
Dさんも、そう実感する。
≪私の場合、貧困の生活から何とかして抜け出して自立したいために、就職活動をしています。
転職サイトにも登録してあり、エージェントや、企業からのオープンオファーは確かにあります。ただ、応募しても、面接にたどり着けたことは、一度たりとも御座いません。
中には「〇〇様のレジュメに大変興味を持ったので、是非応募して下さい」といった内容にもかかわらず、応募すると、翌日には、「お祈りメール」が来ることさえあります(病状のことは伏せておいてもです)。
本当に「お祈りメール」ばかりです。
今まで何社に、応募したのかさえ、分からなくなっています。
先日も、転職サイトから、
「誠意、〇○様のご希望条件に合う企業様を探しておりますが、この不況の折(略)現在ご案内する案件がございません…」
といった内容のメールが届いたばかりです≫
Dさんはそれまで、IT系企業で管理職を務めていた。しかし、「現場を離れると、もう昔の知識など使い物にならない」と痛感。いまは、人事・総務職の経験もあることから、一般事務職での仕事を探している。
そんなDさんをもっと驚かせたことがある。
≪先日、生活資金を確保するために、アルバイトを探し、面接までこぎつけたのですが、私の職務経歴書を見た途端に、「これだけの職歴があれば、何もウチでバイトすることないでしょ?正規の仕事探してみては?」と、断られました。アルバイトの応募に、職務経歴書など、見せなければよかったと後悔しているくらいです≫
就労支援もハローワークも役には立たない。
≪高齢者の孤独死が、問題提起されて久しいですが、実は、私のように、職もなく、家もなく、家族もない者の中途半端な“中間高齢者”の「孤独死」が少なからず、あるのではないかと、訝しく思っております。
事実、僅かな貯えさえ底を尽きかけており、残された道は、自殺しかないと、本気で考えています≫
役に立たない「資格」と「就労支援」
求められるのは「実務経験」だけ
Eさんもまた、「(Aさんの体験は)自分に該当することが多かった」と明かす。
Aさんが全く役に立たないと嘆いた「ハローワーク」と「資格」についても、
≪まさにその通りだと思いました。私は体調を崩し、東北にある母の実家の近くに転居しましたが、この地方では、就職活動のメインはハローワーク。それしかないといってもいいくらいです。しかも、質が低い。
私は、ボイラー2級を取得していますが、ボイラー1級募集の仕事を斡旋されました。
理由を伝え、断ると、
「だったら介護しかない。なんでやらないの?」
と、ミスを謝罪することなく、こちらを攻撃。緊急雇用対策として県が派遣会社と組み、職を斡旋するというものに参加しましたが、斡旋とは名ばかり。ハローワーク求人で誰も応募者が来なかったものをこちらに斡旋してきます。
3年間、アルバイトで働いて認められれば、正社員になれる。県に斡旋状況を報告しなければならないため、拒否権はない。拒否しても、「はい」と言うまで何時間でも説得させられる。マッチングさせる能力がないのです。
自己啓発として、資格も30種類くらい取得しました。資格があれば、何とかなるなんて毛頭考えていない。少しでも成長できればと考えてのことでした。
しかし、どこに行っても実務経験を求められる。個人の努力では、実務経験はどうしようもない≫
「真面目に努力すれば報われる」
そんな社会への変革を願う
一度社会を離脱すれば、なかなか再就職できないのが、いまの日本の社会だ。
≪ある病気にかかり、体に不安があります。
そのため、体に負担のない職につきたいと考えています。しかし、そんなものはありません。
親戚の伯父は、やる気がないから職に就けないんだと罵ってきます。
昭和の高度成長期のように頑張れば何とかなると思っています。ただの老害です。
社会から離脱したことない人たちが、今の日本の状況を理解することはできないんだろうなと思います≫
どんなに厳しい社会状況でも、コツコツと真面目に努力していれば、きっと努力がいつかは報われる――そんな社会の仕組みに変革してほしいと願っている。しかし、頑張っても社会に這い上がれなくなる雇用環境の現実が、党首選や総裁選でパフォーマンスにうつつを抜かす“政治屋”たちに、どれだけ想像できているのだろうかと、疑問を抱かずにはいられない。
この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方は、下記までお寄せください。
teamikegami@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
http://diamond.jp/articles/-/25090
老後の格差は固定する だから今から備えを
受け身ではムリ 20代のバラ色老後(3)
2012/8/21 7:00日本経済新聞 電子版
バラ色老後の作り方について本連載は考えていますが、私の基本的な考え方は「自分の老後は自分でバラ色にする!」というものです。他人任せではなく、また過剰な不信で無気力になるのでもなく、きちんと現実的に自分の老後を考えていくための方法をお伝えしたいと考えています。
■がむしゃらに駆け抜ける人生のラストシーンは?
「自分の頭で自分で考え、自分で行動する」というのはとても大事なことです。恋愛をするにしても結婚をするにしても家を買うにしても、誰もが自分で決めて行動していると思います(もちろん、流れや勢いに乗ることもあるでしょうが)。
後悔しないためにも、自分で決心して実行することはとても重要です。今の時代は「自己責任」が問われます。特にお金の問題について、後から「聞いてませんでした」「知りませんでした」という言い訳は通用しません(金融機関がウソをついていたり説明すべき事項を説明していない場合は別ですが)。
そして、自分で考え、自分で行動すべきことのひとつに「老後の準備」があります。たとえ20代であっても、自分の将来のことも考え、自分で備えていく計画性が求められているのです。
「いやいや、人生は目の前のことだけを考え、がむしゃらに駆け抜けていくのがカッコいいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。
しかしそういう感覚はバブル世代より上の人たちのものであり、20代の人生設計向きではありません。団塊ジュニア以降、就職氷河期世代は、ただ勢いに任せてがむしゃらに駆け抜けて、うまくいくような時代ではないのです。
成熟した社会において、人生は先の先まで見据えたうえで、駆け抜けていくべきだと思います。
計画的に自分の将来を見据える必要がある理由のひとつは「格差は老後に固定する」からです。
今、「格差」が大きな問題となっています。生活に困窮する人がいれば、多くの年収を得て安定した生活を送る高所得者もいます。格差そのものがゼロになることはありませんが、差別や不合理な条件によって生じる「悪い格差」は是正していく必要があります。
■現役時代は自分の未来を自分で変えられる
しかし、実は現役時代に同世代間で生じている格差は、まだ固定されたわけではありません。たとえば、会社がつぶれて多額の借金を負った社長が次の起業で取り戻し豊かになることはありますし、転職先で大幅にキャリアアップすることで人生が大きく変わることもあります。
「そんなこと自分にはないのでは?」と思っている20代も多いのですが、若いうちに自分の能力を磨いておくと、それを取り戻すチャンスはたくさんあります。20代で他の人より年収が200万円少なくても(22歳から8年で−1600万円)、積み上げた能力が評価され、30代以降に他の人より年100万円年収が多くなれば、生涯では+1400万円多い収入になる、というようなことはいくらでもあります。現役のうちは、自分の未来を自分で変えることができるのです。
それでも「格差」が固定する時期はやってきます。それがあなたの老後です。
仕事をやめ、年金生活に入ると、手元に今ある財産と、国からもらえる年金額が全てです。資産運用を行わない限りは、これ以上収入が増えることもありません。財産が500万円以下で年金は80万円という人と、財産が5000万円以上で年金が200万円以上という人は実際にいます。こうした老後の人生の格差は20年以上にも及ぶあいだ、ずっと固定されてしまうのです。
老後にはガンガン働いてお金を稼ぐのは難しいですし、リスクを取って株式等の運用をしすぎるのも困難です(大きく負けてしまうと大変なので、リスクを高くできないため)。つまり、老後になってこうした格差を取り戻すことはほとんど不可能です。格差は老後になって、固定してしまうのです。
しかし、若い人にはまだこの格差を食い止めるチャンスがあります。先ほどの2人の例は、年収で3倍近く、財産で10倍以上の差がついてしまったわけですが、これはなんとなくつく差ではありません。これはあくまで「現役時代、定年退職までのあいだ」の取り組みの差です。つまり、前向きにバラ色老後に向けて努力した人は回避できる格差なのです。
■所得の5%を貯蓄し年利3%で運用すれば2000万円に
まず、手元の財産をいかに増やせるかは現役時代のがんばりの差です。これはとても重要なことです。大卒男性の生涯賃金は2億4000万円とされていますが(ユースフル労働統計2012)、ほとんどの人は定年時にその1割も手元に残すことができず使ってしまいます。
もし将来のことを分かって、計画的に貯蓄・運用していれば、老後は大きく違ってくることでしょう。仮に所得の5%を貯蓄し年利3%程度で増やせれば、2000万円くらいの老後資産を確保することができます。退職金も合わせると、これだけで老後のメドが立つはずです。将来を意識し、少しの行動があれば未来がずいぶんバラ色に変わることが分かります。
また、先ほどの例で生じた国の年金額の違いも、実は現役時代の取り組みの違いで決まってきます。特に会社員の場合、今しっかり働いて、多く厚生年金保険料を納めた人ほど将来の年金額も多くなります。平均給与が1.5倍違うと、厚生年金額が1.5倍違ってくることはあまり知らないと思います。実は、将来いくら年金をもらえるかも、現役時代の積み重ねなのです。
今月のテーマである「バラ色老後は受け身ではやってこない」のとおり、老後の余裕を作るのは、これから定年までの時間をいかに有意義に過ごすか、なのです。
■20代のあなたは「知って」人生を駆け抜けよう
20代のあなたは、ぜひ「未来のことも知りつつ」人生を駆け抜けてほしいと思います。人生を楽しむことは基本的には毎日を楽しむ、ということです。未来のことを考えすぎて今を楽しめないのはつまらない話です。
しかし未来のことをまったく考えずに目の前の生活だけを楽しむのも同じくらい愚かなことです。将来のことも考えずに刹那的に生きていると「長生きしてもいいことはない」なんて発想になってしまいます。長生きを楽しめないなんて、日本のような長寿社会においてもったいないことです。
そして今、40歳代、50歳代の人のほとんどが「お金のことをもっと早く教えてくれればよかった!」「老後の準備が必要だなんて若いうちに知りたかった」と言っています。今お金について、あるいは人生の幸せについて早く考える機会がある人はとてもいいチャンスです。
ぜひ、「将来を知って備えつつ」、「今も楽しく過ごす」バラ色人生のデザインを考えてみてください。
おひとりさまの老後準備は夫婦世帯の2倍厳しい
きょうの積み重ねがバラ色老後をつくる(3)
2012/9/18 7:00日本経済新聞 電子版
9月のテーマ「きょうの積み重ねがバラ色老後をつくる」では、いろいろな人生がバラ色老後に与える影響について考えています。今週考えてみたいのは「シングルか結婚か」という人生の問題が与えるバラ色老後への経済的影響です。
■増える生涯未婚者、40%の世帯がシングルの時代に
生涯独身、という人が増えています。国勢調査を見ても生涯未婚者の割合は上昇を続けており、男性20%、女性10%まで高まっています。このペースでは25%になろうかという勢いです。25%の人が独身のまま人生を送る、ということは4人に1人が結婚しないというわけですから、この社会的インパクトは大きいものがあります。
25%の人口が未婚であるということは、世帯数でいえば40%が独身世帯になる可能性があります(現在の単身世帯は2割くらい)。というのも、男性4人、女性4人がいて、3夫婦ができ、男性1人と女性1人がシングルということは、5世帯ができて、3世帯が夫婦、2世帯がシングルということになるからです。もちろん、高齢者のシングル(配偶者に先立たれた場合もある)、2世代同居(シングルの子が親と同居する)などもありますから、単純に4割とはいかないものの、未婚率の上昇は日本に重要な変化を及ぼすこと必至です。
ところが、老後を考えるテーマにおいて、ファミリー世帯が例にあがることがほとんどで、シングル世帯の老後の対策はあまり紹介されていません。書籍「おひとりさまの老後」のヒットが示すように、これからはこの4割の世帯のバラ色老後のことも考えていく必要があります。
■既婚者子育て世帯の老後資金、目安は3000万円
一般に、老後資産形成の目安は3000万円といわれます。前回指摘した通り老後の幸せを感じる水準は人それぞれなので、1000万円もなくても幸福感を味わえる人もあれば、5000万円あっても不安に怯えている人もいます。
しかし、毎月5万円の不足が老後に生じたとして、平均余命を勘案すれば最低1200万円必要ですし、長寿リスクや消費税増(10%で止まるはずがない)、健保等の自己負担増などを考えればこれにプラス1000万円くらいの予備が欲しいところです。インフレ対応などいろんな課題を総合するとやはり、3000万円はひとつの目安になると思います。
とはいえ、3000万円というお金を貯めるのは、夫婦でも容易ではありません。子育てにかかる費用より老後準備を優先したり、住宅ローン返済より老後準備を優先したりする夫婦はまずないからです。もちろん、日常生活費で借金してでも老後の貯金をするはずもないので、しっかりとした計画がなければ、老後資金準備は実現しないでしょう。
それでも、夫婦の場合「2人で乗り越える」という選択肢があります。お金の準備も共働きで年収を増やす方法もありますし、介護費用等も互いに支えあいながら(あるいは子どもの力も借りながら)、負担軽減に努めることもできます。
しかし、シングルではそうはいきません。
それではシングルライフの「バラ色老後」には資金面でどのくらい不足するでしょうか。
シングルライフは夫婦の3000万円の2分の1、すなわち1500万円ためれば済むのならば、しっかり頑張れば何とか実現可能な数字に思えるかもしれません。しかしいくつかの問題からシングルが準備すべき老後資金はより上方修正すべきだと考えます。
まず、夫婦の2人暮らしとシングルライフの老後の生活コストを比較すると素直に半分とはいかないということです。総務省の家計調査では、夫婦の年金世帯が毎月4.3万円不足しているところ、シングルの年金世帯では毎月3.1万円となっており、3割弱くらいしか減っていません。仮に毎月4万円を20年分確保すれば、960万円は必要です。
次に、介護や医療のコストはファミリー世帯より高めに考える必要があります。シングルライフも70歳で骨折などすれば、すべての家事負担を代行してもらわなければなりませんので介護保険外での費用を考えなければなりません。夫が先にケガした際に、妻が家事をやりつつ病院に通う、というわけにはいかないからです。
家を出て病院に入りっぱなしにするとしても、やはりお金がかかります。どのような病気・ケガの状態で老後を送ることになるかはわかりませんが、独居老人が無料で利用できるサービスは買い物の配送くらいです。洗濯や炊事のような家事サービスはお金で買っていく必要があるのです(軽微な介護状態ほど介護保険頼みとはいきません)。
さらに、シングルである以上、老後の面倒を子に頼ることができません。
■独身貴族の老後コストはさらに跳ね上がる
生活水準が高く、ファミリー世帯と同じくらいのお金をひとりで使っている、いわゆる独身貴族のようなライフスタイルの場合、深刻さはさらに深まります。正社員で50代のころの給料(例えば毎月40〜50万円くらい)をひとりで使い切っている場合、どんなに公的年金が多くても、毎月10万円以上不足するはずです。老後をバラ色気分で過ごすためのコストは何倍にも跳ね上がります。
仮に毎月10万円不足するなら、年間120万、20年で2400万円が実際の生活でかかるコストであり、これに介護や医療の備えを上積みしていくことになります。先ほど示した増税や自己負担増への備えを考えると、明らかに3000万円は上回ります。
そうなると、「1人だから夫婦世帯の半額準備すればよい」どころではありません。むしろ、「夫婦世帯と同じかそれ以上」を考える必要があるわけです。それを1人で頑張って準備しなければいけないわけですから、1人当たりの割り当てで考えれば2倍以上頑張る必要がある、というわけです。
俗に「地獄の沙汰も金次第」といいますが、シングル老後も金次第、という側面は否定できません。自分の身一つでバラ色老後を迎えるためには、安心できる経済的手当てを真剣に考え、準備を進めていくことが重要になるのです。
■選んだ人生をバラ色の老後に導く意識を
子育てファミリーは毎日の生活に追われて老後資金準備ができていないことが多いものです。しかし、それとは異なる次元で、シングルライフもまた、老後資金準備に不足が生じていることがあります。どんな人生を選んでも、「バラ色老後実現」のため意識を高めていく必要があるのです
私は「シングルは経済的にキツイから結婚しなさい」というつもりはありません。結婚しない人生を自分が選んだ、という自覚をもって老後のことも考えつつ人生を送らなければならないのです。
因習で結婚を強要される時代が過去のものとなったいま、結婚は個人の自由意思に委ねられています。社会的プレッシャーがなくなったというのはとてもいいことですし、結果として婚姻率が低下するのは当然だと考えます(私はもっと気楽に結婚してしまえばいいと思っていて、共働きをすれば結婚はぐんとラクになる人生の選択肢だと考えていますが、どう判断するかは個人の自由です)。
しかし、自分の選んだ人生に合う形で、自分の「バラ色老後」をデザインしていくのだ、という意識を持つことが大切です。
次回9月25日(火)付のコラムでは、人生の多様化が20代のバラ色老後にどう影響するかをまとめたいと思います。
山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ) 1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版社)。twitterでも2年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。ホームページはhttp://financialwisdom.jp
http://media.yucasee.jp/offshore-news/posts/index/127
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。