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人の命にお金を投じるものはこの世にいくつか存在する。その一つに、フランスには「ビアジェ」と呼ばれる投資システムがある。これは不動産投資の一種だが、ちょっと特殊であるのは、老人が早く死ねば死ぬほど儲けが出るという点だ。
■「年寄りつきマンション売ります」
パリの不動産売買情報誌を見ていると、市場価格より格段に安い物件を見つけることがある。これは「古家付き土地」ならぬ「年寄りつきマンション」。
ビアジェとは、死後に受け渡すマンションの販売を、生前中に行うことができるフランス特有の制度。高齢者所有のマンションを市場価格より安く買うことが出来るが、もれなく「おばあちゃん付き」だ。売主の高齢者は、生存中はそのマンションに住み続ける権利があるからだ。またおばあちゃんにはお小遣いも必要で、毎月契約書で定めた「年金」を支払わなくてはならない。
※ビアジェとはフランス語で「年金」を意味する。
若い夫婦は、市場価格より格段に安くマンションを買えるチャンスだと思い、ビアジェを利用する。フランスの不動産は古くなっても価格が下がらず、ここ数十年間不動産価格が右肩上がりに上昇しているため、低い前金で将来的な含み益も望める。
フランスではローマ時代からこのビアジェという売買契約が行なわれているが、最盛期は前不動産取引の10%近くを占めたこともあったが、現在は約1〜2%、件数にして年間2000件以上の成約件数と減少しており、風前のともしびとなりつつある。これから実例などを見ていくが、それも納得か?
■年寄りの寿命が損益分岐点
買った物件は当たりクジかはずれクジかは、老人の寿命にかかっている。それは人の寿命を賭けた不動産投資だからだ。
ビアジェの投資としての魅力とリスクを、2つの実例を見ながら説明する。
例1) まずは価格帯として最もよくあるタイプのマンション、売主が60代と若い例だ。「パリ17区バティニョール界隈、65歳女性 39平米の2K 販売価格3万5000ユーロ 毎月600ユーロ 市場価格34万ユーロ」
このエリアはパリの北西端に位置し、パリにありながら半分田舎のような雰囲気を残しているため、よく「バティニョール村」と呼ばれる。昔ながらの八百屋さんやパン屋さんなどが軒を並べている。元々は中心部から離れた垢抜けない界隈でパリ市内では価格が安かった。しかし近年では急激にこのエリアの開発が進み、そのレトロさが逆に人気を呼び、急激に値上がりしている。
マンション自体は90年代の建売マンションで、パリらしい趣のある豪華なマンションではないが、簡易キッチンにバストイレ別で水周りは清潔で明るく、若いカップルが投資を始めるのに最適のマンションだ。
万が一、上記の65歳の女性が68歳で急死をすれば、総支払額は5万6000ユーロ。市場価格は34万ユーロなので、まるで宝くじに当たったようなお買い得物件になる。
これはうまくいった例で、当然ながらこの逆もある。
■長生きされると損する
売主が80代の高級物件の例。人の寿命を考えれば年齢が高くなればなるほど、当然支払い期間は短くなると想定される。そのためビアジェの販売価格(一時金)と毎月の支払額(年金)は、売主が80代であればグッと高くなる。
高齢のおじいちゃん付き高級物件で、ある程度資産のある人に最適の投資だ。
例2)「パリ16区アンリマルタン界隈、84歳男性 60平米の1LDK、販売価格11万8500ユーロ 毎月5000ユーロ 市場価格60万ユーロ」
高級住宅地の代名詞であるパリ16区。パリで最もスノッブなトロカデロから徒歩5分、目の前に広大なブローニュの森が広がる夢のような立地だ。このエリアの治安の良さはパリ屈指で日本人駐在員が多いことでも知られている。4階でエレベーター付き、居間24平米、寝室19平米、バストイレ別、玄関の脇にウォークインクローゼットと設備も良い。
男性が84歳と高齢で、パリ屈指の好立地なので毎月の支払額は5000ユーロと破格の高さ。このマンションの市場推定価格は60万ユーロなので、男性が8年以内に亡くなれば買主は得をするが、万が一100歳まで生きてしまえば総支払額は108万ユーロとなり、大損である。
もちろんいつ亡くなるかは誰にも分からない。早く物件を手に入れることが出来て得をするかもしれないし、売主にものすごく長生きをされて損をしてしまうかもしれない。
そのため、ビアジェの前は素行調査ならぬ健康調査が行われることも多い。
■売主と買主との間にロマンス
多くの場合、買主が近所のパン屋、肉屋、薬屋などにヒアリングに行く。しかし迎え撃つ年寄りのほうも具合が悪いフリをするのに余念がない。調査に来そうな数週間前から出歩くのをやめ、背中を丸めてゴホゴホ咳き込みながら「もう長くはなさそう」といった噂を広めてもらう。もちろん一度契約がまとまってしまえば元気はつらつ、パン屋でのおしゃべりに花が咲く。
実際、ビアジェを組む年寄りは平均寿命より長生きする傾向があるという面白いデータがある。ビアジェを組む70歳以上の男性の「平均余命」はフランスの国家平均の12.2年を大きく上回り14.2年。女性の場合は平均が15.8年に対して17.1年だ。
年寄りはそもそも健康に自信があるからこそビアジェを組もうとするわけで、当然と言えば当然である。またビアジェを組むことで「長生きをしなくては損だから頑張る」といった気持ちも働くのかもしれない。生き甲斐が一つ増えるというものだ。
一方、温和に見えた若い買主の男が契約後に激変。大声で「早く死ね」と叫んできたり、郵便受けにいたずらをしたり、路上荒らしをしたり。あからさますぎて年寄りが参ってしまうケースもある。
先日、筆者の取引先の年配女性が、ビアジェで若い男性にマンションを売ったところ、最初の年金を受け取る前に購入者の若い男性のほうが死んでしまい、一銭も受け取れなかったというトラブルもあった。
また、詳しくは書けないのだが、20代の買主の男性が書類の関係でおじいちゃんの元を訪れたところ、雑談をしているうちに口説かれて雰囲気に呑まれてうっかり誘いに乗ってしまい、同性愛に陥ってしまったというロマンスの国ならではのトラブルに発展したこともある。
もちろん単なる売主―買主の関係を超えて、定期的にお互いの家に行き来している間に、本当の親子のように同居してしまったというような心温まる話もある。
■老後の生活防衛の秘策となるか?
ここまでは若者の投資家側の視点から見てきたが、高齢者側から見れば、ありがたい制度でもある。つまり、一種の「私的年金」という考え方もできるからだ。
前述の例1で紹介した女性だと、日本円にして毎月約6万円の支払いを買主から受けることになる。補助的な年金としては、これで十分だろう。
日本の場合は、生命保険文化センターの発表によると、ゆとりある老後生活費を送るには月額36.6万円、最低でも22.3万円必要になる。
ところが夫婦2人で満額の国民年金79万円×2人分と、厚生年金100万円を受け取っている場合でも、最低の生活をするにも年額50万円程度不足する。ゆとりを持って生活するには年間200万円以上足りないのが現状だ。
もしも、ビアジェを日本でも活用したらどうなるか。人の寿命を経済合理性で換算する制度であるために、その無慈悲なまでの徹底した合理主義に抵抗を感じる人もいるかもしれない。特に、日本人ならばなおさらだろう。ただ、生前に財産を現金化でき、しかも住居に住み続けることができるメリットは大きいことは確かだ。
ただ、こうしたメリット以上にトラブルが起こり得る可能性が、取引を激減させている理由だろう。
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