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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33559
今月は、民主と自民の代表選・総裁選がある。民主は野田佳彦首相が再選確実といわれているので、イマイチ盛り上がりに欠けている。総選挙すれば政権「交代」するとみられていることもあり、世間に関心を呼ばない。
一方、自民はそれなりに盛り上がっている。親分である谷垣禎一総裁を追い落として自らが総裁候補にでる石原幹事長の動きも、「こんなのあり?」と人間模様として面白かった。自民総裁選候補は、安倍晋三元首相(57)、石破茂前政調会長(55)、町村信孝元官房長官(67)、石原伸晃幹事長(55)、林芳正政調会長代理(51)の「安原茂林町」だ。
はじめの報道では、石原氏がリードという情報ばかりだったが、これは石原氏のバックにいる長老、マスコミ関係からでた話だろう。テレビでの数々の失言とともに、安倍氏、石破氏、石原氏の三つどもえの様相だ。9月3日付け本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33429)で予想したとおり、「安原茂」の争いだ。
同じ自民党なので、もともと大きな政策の違いはない。しかし、経済政策では微妙な違いがあり、それが今後の経済を見るうえでは結構重要になってくる。本稿では経済政策に絞って、5氏の「差異」を見てみよう。
*****財政政策には大きな違いはない
まず、その前に5氏の簡単な閣僚歴をおさらいしておく。
安倍氏は小泉政権の官房長官(2005年10月31日 - 2006年9月26日)、安倍政権の総理大臣(2006年9月26日 - 2007年9月26日)。
石破氏は小泉政権の防衛庁長官(2002年9月30日 - 2004年9月27日)、福田政権の防衛大臣(2007年9月26日 - 2008年8月2日)、麻生政権の農水大臣(2008年9月24日 - 2009年9月16日)。
町村氏は小泉政権の外務大臣(2004年9月27日 - 2005年10月31日)、安倍政権の外務大臣(2007年8月27日 - 9月26日)、福田政権の官房長官(2007年9月26日 - 2008年9月24日)。そのほか、橋本政権の文部大臣、森政権の文科大臣等。
石原氏は小泉政権の規制改革担当大臣(2001年4月26日 - 2003年9月22日)、国交大臣(2003年9月22日 - 2004年9月27日)。
林氏は福田政権の防衛大臣(2008年8月2日 - 9月24日)、麻生政権の経済財政担当大臣(2009年7月2日 - 9月16日)。
自民党は、8月31日に、「日本再生プラン」(http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf075_1.pdf)を発表している。基本的には各候補者が語る政策もその範囲内での発言だ。
そのプランは、マクロ的な財政政策と金融政策、ミクロ的な成長戦略から成り立っている。ここで、もっとも立場が分かれるのが金融政策だ。財政政策では、5氏ともに3党合意を守るので消費税増税をどのような条件で行うかくらいしか違いがない。成長戦略は、かつての「産業政策」と同じで、政治家にとって既得権になりうるのでこれを強調するかどうかがわずかな違いになる。
*****経済政策では官僚依存が強い石破氏
再生プランで金融政策については、「政府・日銀の更なる連携強化を図り、金融緩和の実効性を高めるため、政府・日銀の物価目標(2%程度)協定の締結、日銀による外債購入など、日銀法の改正を視野に、大胆な金融緩和措置を講じます。」と書かれている。なかなか気合いの入った文であるが、日銀法改正は「視野」なので、これに消極的な候補者もいる。
安倍氏は、テレビでもデフレ脱却では日銀法改正を明確に主張している。また、「政府と日銀の関係について政策目標は同じくするべき。ただ、その手段は日本銀行が自由に使う。あるいは日本銀行の使命として物価安定もあるが、他の国では雇用を最大化するというのも入っている。そういうことも考えていくべき」と発言して、中央銀行の独立性について、マスコミは目標と手段の独立性を混同しているのに対してキチンと理解している。
また、消費税増税では、デフレのときに税率を上げるべきでないと、5氏の中では唯一明確に述べている。小泉・安倍政権では増税なしでプライマリーバランス赤字を四分の一にしたから、財政再建のために必ずしも増税(税率の引き上げ)が必須と思っていない節がある。
石破氏は経済政策で官僚依存が強く、財務省や日銀の主張はそのままだ。具体的には増税指向で、デフレ脱却に消極的だ。ブルームバーグのインタビューで、表向きデフレ脱却といい、金融緩和は必要だがインフレにしようとは思わないと、デフレ容認姿勢だ。日銀法改正も内心好ましくないと思っている。
町村氏は元経産官僚で、古いタイプの「産業政策」指向。マクロ経済にはほとんど関心がない。しかし、財政では増税路線の強力な支持者だ。
*****自称「金融財政のスペシャリスト」の実力
石原氏はロイターのインタビューで自ら「金融財政のスペシャリスト」としているが、「為替政策がデフレに一番効くことは誰もが分かっている」といった時点で、早くも化けの皮がはがれた。
日銀の外債購入について「周回遅れだ」と断じているあたり、為替政策や金融政策をまったく理解していない。日銀の外債購入は、自民党の日本再生プランに書かれていることを知らなかったのだろう。知らなくても、需給関係で為替に直接効果があるばかりか、日銀のマネタリーベースの増加になり、円安にするには即効性のある政策だ。これを否定するのは為替介入権限を持つ財務省のいいなりなのだろう。
林氏は、若く理解力もあるが、経済政策の方向感がはっきりしない。基本的には石破氏と同じ方向であり、石破氏はしばしば林氏から経済政策に関するアドバイスを受けている。財政政策と金融政策、成長戦略のすべてが同時に必要だと官僚的な無難答弁だが、変動相場制では金融政策が優先になる。この点、変動相場制の見直しに言及しているが、上手の手から水が漏れた。
国際金融のトリレンマがあり、固定相場制、独立した金融政策、資本移動の自由のうち、同時に二つしか実現できない。もし固定相場制にすると、先進国では資本移動の自由はマストなので、独立した金融政策ができなくなる。つまり、固定相場制にすると為替介入義務が無制限に発生するので、それに追われて金融政策ができなくなるのだ。だからこそ先進国では仕方なく変動相場制を採用している。さらに、自民党の日本再生プランの達成のためにも無理筋をいってしまった。
本コラムで再三書いてきたが、小泉政権の後半と安倍政権では、金融緩和し円高を止め、その結果名目GDPが伸び、株価も上昇した。増税なしでプライマリー収支赤字も28兆円から6兆円(対GDP比で5.7%から1.2%)と財政再建をほぼ達成できた。
経済政策として、あえて一つだけ達成すべきものといわれたら、雇用の確保だ。そのために各種の政策手段を総動員するわけだが、その中で世界では常識になっているのが金融政策だ。それで、所得を増やし雇用の確保もできる。その結果、生活保護者も減り、自殺率も減る。
日本を見るとまだまだ改善の余地がある。フィリップス曲線といわれるが、インフレ率と失業率は短期的トレード・オフの関係にある。日本経済の場合、インフレ率が1%下がると失業率は0.5%上がる。今はゼロ近辺なので、2%まで上げれば、今より失業率は1%低くなり、60万人程度の雇用が生まれる。生活保護費の10%カットも可能になるし、自殺者も2000〜3000人減少させられる。
FRBの法的責務には「物価の安定」だけでなく「雇用の最大化」も盛り込まれている。アメリカはデフレでないが、FRBは、13日、雇用改善するまでQE3(量的緩和第3弾)を行うと決定した。
デフレのまま、金融緩和を渋り続けている日銀は、今週18日(火)、19日(水)と金融政策決定会合を開く。自民党総裁選を見て、びっくりしているのは日銀だろう。(抜粋/高橋 洋一
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