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日本経済は踊り場から緩やかな下り坂へ、長引く円高が製造業にダメージ
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投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 19 日 15:45:54: cT5Wxjlo3Xe3.
 

(回答先: 情報BOX:中国の反日デモ受けた日本企業の操業状況 投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 18 日 12:38:53)

日本経済は踊り場から緩やかな下り坂へ、長引く円高が製造業にダメージ

2012/9/18

 国内景気は、復興需要により短期的には堅調と言われていますが、私にはそうは思えません。先月、国内指標を分析した時に、日本景気は踊り場であるという話をしました。しかし今回、主要な指標を見てみますと、景気は足踏み状態からやや後退しかかっているように思えるのです。前半では、国内指標を見ながら、現在の経済状況を分析していきます。

 後半では、シャープの経営問題について、私の考えをお話ししていきます。シャープの経営悪化に兆候はあったのか? シャープの今後の動きを予測する上で、何がポイントになるのか? そのあたりを具体的に考えていきます。

悪化の兆しが見える消費と製造業

 まずは、国内の指標を見ていきたいと思います。私が最も心配しているのは、消費の数字です。「小売業販売額」を見てください。

 2012年7月は前年比マイナス0.8%(※速報値)と、マイナスに転じました。「全国百貨店売上高」も、同年同月は前年比マイナス3.3%と大きく落ち込んでいます。百貨店は今年、夏のバーゲンを後ろ倒しする戦略に出ていましたが、指標を見る限り、それは百貨店全体では失敗に終わったと言っていいでしょう。一部の百貨店では成功しているのかもしれませんが、数字を見ると惨憺たるものなのです。

 このように、小売りは落ち込んでいると言えます。「現金給与総額」が落ちていますから、それに伴って小売りが悪化することは予測できたことですが、それにしても、厳しい結果ですね。

 今後、これが「消費支出2人以上世帯」にどう反映してくるのか。2012年7月は前年比1.7%とプラスを維持していますが、現金給与総額や小売りの状況を見ますと、徐々に悪化してくる可能性があります。

雇用は堅調だが、低迷する生産

 次に、雇用の数字はどうでしょうか。

 2012年7月の「有効求人倍率」は0.83倍、「失業率」は4.3%と、若干改善しつつあります。ただ、雇用の指標は遅行指数ですから、今後も改善が続くかどうかは微妙なところです。こちらも、これからの動きに注意したい数字です。

 日本経済に大きく影響する製造業の指標、「鉱工業指数」からも、国内景気が減速しつつある傾向が見えます。

 2012年7月の「鉱工業指数 生産指数」は、91.5(※速報値)と、前月より落ち込む結果となりました。生産は、春先以降じわじわと悪化してきているのです。

 「稼働率指数製造工業」も2012年6月は87.7と減少傾向が続いています。こちらも生産指数と同様、春先をピークに減少してきています。

 さらに2012年7月の「製品在庫率指数」は128.3(※速報値)となっており、在庫が増加している状況です。生産が落ち込んで、在庫が積まれているわけですから、「在庫が売れないから生産を抑えている」という、悪い在庫の増え方であると思われます。

 2012年7月の「生産指数集積回路」も前年比マイナス7.9(※速報値)と落ち込んでいます。

 一方で、復興予算が徐々にではありますが執行されていることから、「公共工事請負金額」は大きな伸びが続いています。

  また、「粗鋼生産高」は少し回復しています。前述の公共工事が伸びていることや自動車販売が好調なためでしょう。ただし、中国経済の減速もあり、世界的に鉄の市況は落ちていますから、経営的にはあまり楽観視できる状況ではないと考えられます。もうすぐ、エコカー補助金も予算を使い切ります。その後もこの程度の数字を維持するのは難しいかもしれません。

 以上の指標を見ますと、国内景気は足踏み状態から後退へさしかかっているのではないかと感じます。日本経済は復興需要等によって底堅いと言われていますが、これらの指標を見ると、そうは言えません。政府の月例報告を見ていても、後ろ向きの意見に変わってきています。

打つ手がない日本経済

 その中で、国内では秋に解散総選挙が行われようとしているのです。日本は輸出産業に大きく支えられているわけですが、前回もお話ししたように、世界中で景気が悪化しつつある状況ですから、近いうちに日本にもその影響が及ぶと考えられます。そういった中での選挙なのです。

 いずれにしても、政府に打つ手はそれほどありません。金融政策も限界に近づいており、公共事業もこれ以上増やすことは難しいでしょう。数字を見てもお分かりのように、すでに二十兆円近い予算を組んで実施しているわけですからね。

 日銀にも打つ手はありません。既に金利はゼロの状態ですから、これ以上下げることはできないのです。量的緩和も限界に近づいており、それほど経済を底支えすることに期待はもてません。

 ここでもし、欧州にショックが来てしまったら、日本は大変なことになります。景気対策として、自民党は「10年間で200兆円もの公共事業をやる」と言っていますが、財源はどこにあるのでしょうか。今、各党は選挙を見据えて言葉上は大胆な政策を打ち出していますが、財源がなければ絵に描いた餅でしかありません。

 財源の裏付けをせずに言うだけならば、誰にでもできます。増税で賄うのか、財政赤字を増やすことで賄うのか、予算の組み替えをやるのか。夢物語のような、現実に根ざさないことを言うのは簡単ですが、現実的な政策を打ち出さなければ意味がないのです。そういう意味では自民党も無責任なことを言える「野党」になってしまったのでしょうか。とても残念です。

 日本の景気は、復興需要を考えた上でも後退しつつあるのです。つまり、悪化のスピードは、予想以上に速いということです。政府はこの現実にもっと目を向けなければなりません。

シャープの業績悪化の背景にあるものは?

 後半では、急激な経営悪化が問題となっているシャープについてお話しします。シャープはなぜ急に経営が悪化してきたのでしょうか。財務諸表の面から、予兆はあったのでしょうか。

 私が分析する限り、シャープが経営悪化に至る目立った予兆はそれほどありませんでした。売り上げを落としていたことは間違いありませんが、その点を含めて考えても、今回の経営危機は急速に来た感じで、感覚的には突然に来たという印象を持ちました。

 シャープはこの3カ月間で、有利子負債を1兆940億円から1兆2200億円と1260億円も増加させました。このように急激に借入金を増やしたため、銀行もある意味怖くなってしまったのでしょう。売り上げが落ち込んでいる中で、借り入れをどっと増やしたわけですからね。

 借入金を増やした結果、シャープは短期的に手元流動性をある程度確保しました。6月末の時点で2176億円の現預金があり、これは4−6月の月平均売上高の1.42カ月分に相当しますので、まずまずの額だと思います。

 しかし、今後もまだ売上高が低迷しそうな中で、銀行が追加融資をすることに恐れを抱いたのだと思います。

 また、シャープでは近々、社債の償還なども迫っていますから、その手当てをどうするかという問題も出てきます。さらに、その中で株価が急落しました。ですから、提携先の鴻海精密工業(以下、鴻海)は当初の条件では資本を入れるのを嫌がったわけです。

 その点で今、シャープと鴻海の間でもめているのです。一方、シャープにとっては「支配的な株式を渡したくない」という思惑がありますから、この交渉が今後、どう収束していくのかは分かりません。資金繰りの観点からも、銀行との関係も含めた信用の観点からもシャープとしては、できるだけ早く、ある程度のところで妥結したいというのが本音だと思います。

シャープは経営危機を脱せるのか?

 ここで、シャープの今後を予測する上で注目ポイントがいくつかあります。

 一つ目は、シャープが“クラウンジュエル”を売るかどうかです。クラウンジュエルとは、「王冠の宝石」で文字通りピカピカの部門、つまり、自社にとって最も魅力的な事業や資産のことです。もし、シャープがこれを売りに出すと、かつてのダイエーと同じ顛末をたどります。コアの部分がなくなるわけですから、形だけしか残らなくなり、十分なキャッシュフローを稼げなくなりますから、最終的にどこかの会社に買収されてしまうという結末になるのです。

 シャープがどのような対応を取れるかは、銀行の対応にかかっています。銀行が十分な融資をしてくれれば、コアの部分を残して、周辺のそれほど重要でない部分を売りつつ資金繰りをつけていけば、シャープは再生できるでしょう。

 しかし、急激な資金繰りの悪化に対し、銀行が恐れてしまって、「クラウンジュエルを売ってでも借り入れ分を返せ」「コアの部分を鴻海に売ってしまえ」いう話となれば、シャープはダイエーと同じシナリオをたどるでしょう。

 鴻海は、シャープのブランド力と、日本における製造拠点が欲しいのです。そこでシャープが、資金繰りのためにそれらを売ってしまうのかどうか。それは、銀行が資金繰りをつけるかどうかの判断次第です。

韓国企業に追い詰められたシャープ

 このシャープの経営危機の背景には、ウォン安があることは間違いありません。リーマンショック以降、韓国ウォンは主要通貨に対し、2008年比で1割以上も安くなり、一方で日本円は3割以上も高くなったわけです。ですから、韓国でシャープと同じ水準の製品ができてしまうと、日本の液晶は世界で勝ち目がないのです。

 もちろん、シャープの経営陣が早く対策をとれなかったことも一因としてあるとは思います。特にシャープは、家電の分野ではパナソニックやソニーの後塵を拝していました。それを、液晶テレビやソーラーパネルで一気に挽回しようとしたのです。

 その結果、シャープの液晶テレビは一時期、大きく売上高を増やしました。しかし、液晶パネルは超ハイテク製品ですので多額の設備投資を必要とします。それを償却するためには大量生産をするという大前提が必要です。そして、巨大な装置産業なのですが、逆に言えば、巨額の設備投資を行えば、ある程度の技術力をもったところであれば、同様の品質のものを作れるということになります。問題はそれに必要な巨額の投資をできるかということと、出来上がった製品を売る販売力があるかどうかです。

 そこで強力なライバルとして躍り出たのが、韓国のサムスン電子とLG電子だったわけです。

 何度も言いますが、この4〜5年でウォンが対円で4割ほど安くなっています。この為替の状況では、世界中の市場を席巻されてしまうのも当たり前の話です。

 ですから、このままではシャープが対抗するのは容易ではありません。今のところ資金繰りがついていますが、この状況が続くと回らなくなる可能性があります。国内でのテレビ販売も太陽光パネル販売も競争が激しく、価格低下が顕著だからです。そこで、銀行はどこまで資金繰りの面倒を見るのか、言い換えればシャープが事業をどこまで売却するか。しばらくはシャープや銀行、そして鴻海の動きから目が離せない状況です。

コモディティ化してしまった大型液晶テレビ

 シャープはリストラもどんどん進めていますが、もしコアの部分を売却してしまったら勝てません。しかし、コア技術を維持できたとしても、この円レートと国内の競争環境では大きく売上高を伸ばすことは難しいでしょう。

 シャープは、エコポイントや地上デジタル放送への移行によって国内需要が膨らんだ時期までは何とか持ちこたえることができましたが、その後の需要減退と価格競争で一気にその脆弱性が露呈してしまったとも言えます。自社の想定よりはるかに需要減退と価格低下の速度が速かったのです。

 ですから、そういう意味でコモディティ化する製品は怖いのです。職人技などは必要としませんから、多額の設備投資をできる資金力とある程度の技術力さえあれば海外のどこでも製造できるのです。これは、円高が続く日本にとっては非常にリスクが高いことなのです。

 以前、ソニーとパナソニックが有機ELパネルを共同開発するという話がありました。そこで、台湾での共同生産も検討しているとのことです。この円高では、国際競争に勝つのはよほどのコスト競争力をもたないと難しいからです。逆に言いますと、円高であろうがなかろうが、技術さえあれば通貨の安いところで作った方が有利なのです。

 そうしますと、余計に日本では空洞化が進みます。

政府はウォン安に対抗策を

 この傾向を少しでも止めるためには、政府が円高対策を積極的に行っていく必要があります。今は、景気が良くて円レートが上がっているわけではありません。ユーロや米ドルからの一時的な避難として日本円が買われているだけなのです。その証拠に、株価は低迷している一方、海外投資家は日本国債の中でも2年債を多く買っています。価格変動リスクを回避しやすい短期債を選んでいるのです。

 短期的な投資資金によって、円レートが大きく上昇しているのです。さらに言えば、韓国はそれに乗じてウォンが安くなるように誘導しているのでしょう。日本製品との競合が多い輸出にはとても有利ですからね。液晶や半導体だけでなく、米国では韓国車がシェアを伸ばしています。東日本大震災やタイの洪水で日本車の生産、販売が足踏みをした間に、韓国車がシェアを伸ばしたのです。

 ですから、日本政府はウォンを円や米ドルに対して高くするためにウォンを買い上げるべきだと思います。約1兆3千億ドルある外貨準備を有効に活用すべきです。日本企業は、円高のあおりを受けて完璧にやられてしまっているわけですから。

 もはや、シャープだけの問題ではないのです。もし、円高の状況が続けば、第二、第三のシャープが出てくるでしょうし、それに携わる企業も大きなダメージを受けかねません。国民や国土を守ることは言うまでもなく、国内産業を守ることも政府の大きな役割であることは言うまでもありません。

 日本国内の産業を守るためにも、政府は為替介入を行い、円高に立ち向かう姿勢を世界に示すべきです。このままでは、日本企業はどんなにいい製品を作っても、国際競争で勝ち抜くことはできないでしょう。そして、ますます空洞化は加速するばかりです。

 政府には、この現実をもっと重く受け止めてほしいと切に願います。

(つづく)

>> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです

◇   ◇   ◇

小宮一慶(こみや・かずよし)

経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!

小宮コンサルタンツBlog:komcon.cocolog-nifty.com/blog

http://bizacademy.nikkei.co.jp/seminar/marketing/suisui_keizai/article.aspx?id=MMACl6000013092012&print=1  

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