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最適金融政策のニューケインジアンモデルにまつわる問題 ウッドフォード祭り
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/656.html
投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 19 日 12:28:39: cT5Wxjlo3Xe3.
 

#金融政策の無効化に関する議論は収束しつつも続く


最適金融政策のニューケインジアンモデルにまつわる問題 by Scott Sumner 

サムナーのブログより、”The problem with New Keynesian models of optimal policy rules”(16. September 2012)。ウッドフォード祭りをご存知ない方はご一読の前に本サイトのこれ、himaginaryの日記におけるこれこれに目を通しておくことをお勧めします。


多くのニューケインジアン達が、NGDP目標よりも(厚生の観点から)よい結果を上げるフレキシブルインフレ目標ルールがあると指摘している。それは正しい。私も一つ前のポストにおいてNGDPLT(名目GDP水準目標)が常に最適な政策ルールというわけではないというウッドフォードの主張に同意した。しかしいくつかのコメントを読むとあのエントリは修正する必要があるようだ。私はフレキシブルインフレ目標がNGDPLTより優れているとするニューケインジアンモデルの有効性を認めているわけではないのだから(そう読めてしまうのは失敗だった)。私が理論的に最適だと見ているのは全く別のルールで、名目賃金目標だ。

先ほどジョージ・セルギンのコメントに気づいたのだが、ニューケインジアン金融モデルに対する私の異議申し立てをうまく述べてくれている。

スコットもみんなも「名目GDP目標は最適ではないが実践的に良い解決策だ」論を余りにも易々と受け入れ過ぎている。今回のウッドフォードの文章と彼の同系列の仕事を詳細に見直したのだが、それらの中にはいつも物価の変動を「悪いもの」として扱う損失関数があった。それはいつも非明示的なものというわけではなかった。しかしそのように扱うための説得力ある根拠は書かれていない。単に「最適ではないが実際的には正当化される」のような表現でのごまかしがあるだけだった。(ところで同様なことはゼロインフレが最適だと扱うヴィクセルの議論にも言える。ゼロインフレを達成する政策は、金利を「自然」水準に保つことと同じだとするのだから。実際にその議論が成り立つのは生産性成長が一定の場合だけで、もちろん通常はそうではない)

もちろん、NGDP(または名目収入)目標が特に「最適」なものではないことはほとんど間違いない。しかしそれは他の通常の選択肢に比べて「最適」さにおいて劣るということを意味しない。今やDSGEなど多くの研究がこれを補強している通りだ。

ジョージに100%同意。私は「インフレの厚生損失」を想定することは、NGDPの変動や行き過ぎにおける厚生損失を考えるよりも良いとしょっちゅう言ってきた。このことはマーケットマネタリスト陣営が「モデルを欠いている」と見做されていることとも深く関係している。私とてモデルを示してきたのだが、他の経済学者たちはモデルの何たるかをわかっていないのでそれをモデルと認識できていないのだ。彼らはモデルとは方程式の束だと誤解している。誤解なきよう、方程式は有益だ。私も 方程式を使ったモデルで賃金ターゲットの最適性を示した論文を公にしているしNGDP先物目標についても同様。しかし正直なところ、これらの論文の方程式群は単にモデルの仮定から直感的に明らかなことを述べているだけなのだ。

ここが多くの経済学者がわかっていないところだ。われわれはいかなる政策が最善かを数学モデルで示せるような段階にまだ達していない。インフレの厚生損失についてさえ十分に知ってはいない。CPIがインフレの厚生損失の代理変数たりえると考える人の推す最適政策ルールにおいて、インフレが重要な役割を果たすのは当然のことなのだ。そしてジョージや私のようにインフレの厚生損失をよく表すのはNGDPだと考えるならば、政策ルールの中でNGDPが重要な役割を果たすことになる。常識的なことだ。

1970年代にミルトン・フリードマンはマクロ経済学がヒュームを超えたのは一点のみ — 名目の変化の一階微分の扱い方を知っていること — しかないと言った。1920年代の経済学者たちはマクロの問題を方程式ではなく言葉で議論していたものだ。そのアプローチに戻るのは無意味なことではない。



http://econdays.net/?p=7105









ウッドフォード「名目GDP目標は妥協案」

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Mark Thomaサムナーが賛意を表しつつ紹介しているWaPoインタビューで、ウッドフォードがそう述べている。

We proposed what we called an “output gap adjusted price level target”. The idea was to talk about a price level, as opposed to the inflation rate, but a corrected price level target where you add to it some multiple of the real output gap. In various models you could show there were ideal properties to this kind of proposal. But in only relatively special circumstances would that coincide with nominal GDP. I thought there was a strong case for having the nominal level variable, but not just a price index, to also take into account the level of real economic activity. But it’s not just real economic activity. It has to be corrected for potential growth. There are a lot of things to discuss about the ideal level of the target variable, but I was mostly arguing for the desirability of schemes that involved a level variable.

The thing about the Jackson Hole talk this year is that probably the most practical version of such a proposal that you can imagine the Fed adopting is an NGDP target. That is a compromise relative to the theoretical ideal. It’s worth asking what you could imagine the Fed actually going for, which is not going to be what, in an ideal world where everyone understood economics perfectly, you would want to do.

(拙訳)

Woodford=Eggertsson(2003)で)我々は「生産ギャップで調整した物価水準目標」というものを提案しました。インフレ率ではなく物価水準を対象にする、という話ですが、その際、実質生産ギャップの何らかの倍率を加えた修正済み物価水準目標とする、ということです。この目標政策は、様々なモデルにおいて理想的な特性を有することが示せます。しかし、それが名目GDPと一致するのは、比較的特別な状況下においてのみです。名目水準変数を対象とすべき強力な理由があるというのが私の考えでしたが、それは単なる物価指数ではなく、実体経済の活動水準を取り入れるべき、と考えていたわけです。潜在成長率で修正を掛けるべき、ということです。目標変数のあるべき水準という点についても論じるべきことが数多くありますが、私は専ら水準変数を伴う政策スキームが望ましいということを論じていました。

今年のジャクソンホールで話したことは、そうした提案でFRBが採用すると考え得る最も現実的なバージョンは、おそらく名目GDP目標だろう、ということです。理論的な理想から言えば、それは妥協案です。FRBが実際にどんな政策を採用できるか、と問うことは意味のあることです。その政策は、皆が経済学を完璧に理解している理想的な世界で実現したいと考えるような政策にはならないでしょう。


またウッドフォードは、1990年代末に日本に対して政策提言を行った際にも、既にバーナンキと微妙な意見の違いがあった、と述べている。

We certainly talked about the issue then, because both he and I were interested in the Japanese situation and writing things about it. There was always some difference in emphasis in our preferred advice back then. He gave a lot of emphasis on the idea that purchases as such were the key, or at least that’s something he would give a lot of emphasis to as opposed to being committed to particular targets. I thought future policy and the targets of future policy was the correct thing to talk about. He also talked about the desirability of commitments to keep interest rates low as a policy tool that could also be used but he never pushed it as hard as I would have pushed it. So there was probably some difference in preferred approach even then.

(拙訳)

確かに当時、我々はその問題について話し合いました。彼も私も日本の状況に興味を抱き、それについて書いていましたので。当時、各人がそれぞれの政策提言において重視した点には若干の違いがいつもありました。彼は購入自体が重要だ、という考えにかなりの重きを置いていました。少なくとも、ある特定の目標にコミットする、ということに比べれば、彼はそうしたことにかなりの重きを置いていました。私は、将来の政策と将来の政策目標こそが主題となるべき、と考えていました。彼も、金利を低く留めておくというコミットメントも望ましい政策ツールとして使える、という話をしましたが、私ほど熱心にそれを推奨することはついぞありませんでした。ということで、当時においても、推奨する政策には若干の違いがあった、と言えるでしょう。


ちなみにウッドフォードは、名目GDP目標を取り上げるに当たってサムナーの影響はあったか、という問いに対し、にべもなく、無かった、と答えている。それについてサムナーは、インタビューで言及してもらっただけで光栄、とコメントしている。



http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120917/woodford_interview




ウッドフォードがやってくる!

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ジャクソンホールで提示した論文マイケル・ウッドフォードが名目GDP目標支持を表明したことで、市場マネタリスト界隈がちょっとした祭り状態になった:


もちろん、大物経済学者の発言だけに、市場マネタリスト以外の注目度も高く、WSJブログバーナンキ以外で最も注目される講演と評したほか、クルーグマンも「Important stuff」と評している


そうした中で、ロバート・ワルドマンとStephen Williamsonという経済学者としてはおよそ両極に位置する2人が、ウッドフォードに批判的なコメントを寄せているのが興味深い(言うなれば、オールドケインジアンとニューマネタリストが、ニューケインジアンの代表的な金融学者を挟撃する、という構図になっている)。


ワルドマンはマシュー・イグレシアスのブログエントリツイートを足掛かりに*1論文の結論部しか読んでいないと断りつつも、以下のように論じている

  • ウッドフォードは名目GDP目標がGDPに顕著な(もしくは少なくとも検出可能な)影響を与えるか否かについて明確な見解を示していない。
  • ウッドフォードは将来の政策に関する約束の無いQEの無効性について大いに論じているが、遠い将来の政策が効果を発揮するという証拠を何ら示していない。その理由は単純で、期待インフレ率を上昇させようと試みた中央銀行は未だ存在しないからだ。
  • ウッドフォードは、中央銀行の中長期の政策ガイダンスがもたらす効果についての情報を我々は事実上有していない、と示唆するが、期待インフレ率の上昇ではなく低下についてならば、そうした情報は大量に存在する。70年代終わりから80年代初めに掛けて金融当局は、自分たちが低インフレを真摯に達成しようとしていることを人々に納得させようと必死に試みた。もし期待経路が(他の経路が塞がれている場合においても)機能するというならば、短期リスクフリーレートの高騰や深刻な景気後退や歴史的な高失業率といった直接的な効果抜きでも、そうした金融銀行のコミュニケーションにより低インフレが達成できたはずだ。即ち、金融当局の中期目標に関する声明が、期待経路以外の政策抜きには決して達成できなかった、という証拠は大量に存在する。
  • ウッドフォードもイグレシアスも、こうした歴史的な証拠が自らの主張に対する反証にはならない、という点については説明できていない。
  • イグレシアスは、ウッドフォードは雇用創出法を分かっている、とツイートしたが、数学的な証明もしくは証拠の提示が無い限り、分かっている、とは言えない。

一方のWilliamsonは、この96ページの論文は、時間価値がゼロで無いならば読む必要無し、と痛撃している*2。その上で、FRBが苦労して培ったインフレ抑制のコミットメントを放棄するべきではない、と論じ、以下のように結んでいる。

Woodford seems not to think much of QE, and goes off on an extensive discussion of forward guidance, most of which made me happy that Woodford is not in charge of forward guidance at the Fed. If he were, we would never understand what they are up to.

(拙訳)

ウッドフォードは量的緩和をあまり評価していないようだ。その上で将来政策のガイダンスについて大いに論じているが、それを読むと、ウッドフォードがFRBで将来政策のガイダンスに関与していないことが喜ばしく思える。もし関与していたら、FRBが何をやろうとしているのか我々は決して理解できないだろう。


また、批判というほどではないが、上記のNunesがリンクしているEconomist’s ViewエントリでMark Thomaは、ウッドフォードの名目GDP目標支持にばかり注目が集まっていることに異議を唱えている。

*1:ちなみにワルドマンは以前からイグレシアスのリフレ派ないし市場マネタリスト的な言動に対し、金融政策の限界を分かっていないという趣旨の批判を折りに触れ加えてきた。これ以前の直近では例えばここ。(なぜかこの人はイグレシアスに結構粘着している)

*2このWSJ記事によると、この論文の長さはジャクソンホールでも話題になったが、2008年のWillem Buiterの論文は144ページでもっと長かった、というこぼれ話を紹介している。

MTMT 2012/09/04 07:56 ワルドマンが反証として挙げている、期待経路が機能するならコミュニケーションによって期待に働きかけるだけで、失業等を伴わずにインフレを低下させられたはずだ、というのは、期待NGDP水準目標を唱えている人たちのロジックを誤解した上でのものになってませんか?すでに高いインフレという予想が形成されている以上、どんな手段であれそれを低いインフレ予想へと変化させれば、その時点で引き締め効果が発揮されてしまう(つまり期待経路が機能しても、というより機能するがゆえに高失業が発生する)というロジックなはずです。だからこそ、現在の低いレベルで形成されている期待インフレ(NGDP)を引き上げるだけで景気が回復し、その後に期待インフレ(NGDP)を安定させることで景気が安定する、と主張しているはずですから。

anti-libertariananti-libertarian 2012/09/04 08:58 >MT氏
それは、FFレートの引き上げを伴わなくても、低インフレのコミットメントでインフレ退治ができたはずだということになるだろうか。(ほんとうにそんな方法があるならボルカー先生も大喜びだっただろうけど・・・)

でも流動性の罠でより高いインフレをコミットしようっていう考えは、FFレートを上げなくても低インフレに出来たはずだって考えと完全に対称的。そういう意味でワルドマンの指摘に意味はある。

MTMT 2012/09/04 10:18 >FFレートの引き上げを伴わなくても、低インフレのコミットメントでインフレ退治ができたはずだ

FFレート以外にも政策手段がありそれを使って低インフレのコミットを信用してもらえる可能性がある、そうすれば高失業と低インフレが訪れる、という意味ではその通りではないでしょうか。

ただ、市場マネタリストのロジックは、(FFレートの引き上げかどうかは別として)なんらかの景気を引き締める政策なしにはインフレ退治が出来ない(というか、期待インフレの低下自体が景気を引き締める)、ということを意味しているので、別に「夢のような」ものではありません。

市場マネタリストが、期待NGDPの引き上げが望ましいと言うのは、いま既に期待NGDPが落ち込んでしまっているからそれを引き上げる余地があるためです。

anti-libertariananti-libertarian 2012/09/04 19:31 FFレートは例示に過ぎない。要は期待以外のパスが存在しないときに、期待以外のパスが存在していたときと同じことが・・・総需要の調整が出来るという話は根拠薄弱だっていうのが、多くのケインジアン(とその他)の懸念なのだ。
期待以外のパスが存在しないときとは? それが今、流動性の罠だ。

流動性の罠において、ベースマネーを供給することそのものに意味がないことは、マーケットマネタリストのサムナーすら認めていることである。そこで彼はターゲティングと期待を持ち出すわけだけど、「効果を持たない政策に対し期待を要請する」というのは(少なくとも、マーケットマネタリスト以外にとっては)非常に奇妙なものに見える。
その奇妙さを克服するために、例えばスヴェンソンは為替介入による対外収支改善(これはちょっと規模が小さすぎ)、クルーグマンは財政出動による需要創出(政治的ハードルが高い)を"必須"とするわけだが、サムナー、あるいは多くのマーケットマネタリストにとってはそれは不要らしい。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120903/Taking_Woodford


http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20120903/Taking_Woodford




「金融政策に関するウッドフォードの見解(やや専門的)」by Paul Krugman

以下の文は、Paul Krugman,”Woodford On Monetary Policy(Sort of Wonkish)“の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。デヴィッド・ベックワースの見解(hicksianさん訳)。


 僕はジャクソンホールには参加していない――実際、おそらくグリーンスパン批判がファッションになる前に無謀にもそれをやってしまったもんで、ずっとのけ者にされてるみたいだ。別に問題はない。もうその論文を読むことはできている――そして、その中で一番重要なのがマイク・ウッドフォードの論文(pdf)だ。

ウッドフォードの論文は、彼が徹底的といえるほど詳細にたくさんの実証研究を検討しているために、長く本当に密度が高いものになっている。だが、その結論は「ベン、あんたのやってることは間違いだ」ということ。

そこで議題になってるのは、利子率がゼロ下限(もしくはゼロ下限近傍――最小値が正確に何であるかは重要ではない)に達したときに、金融政策が何らかの効果を持ちうるのかということ。これらの状況の下では、伝統的な金融政策――ただ短期債券を買うことによって、銀行の預金準備を増やすこと――は牽引力を持たない。

だが、このことは中央銀行にオプションがないということを必ずしも意味しない。僕は自分が最初にその点を突いた(pdf)と考えているが、それは2003年にウッドフォードとガウティ・エガートソンによって大幅に拡張された。具体的に言うと、中央銀行が、経済が回復した後にも以前の予想よりもっとインフレ的な政策を追求することを、公衆に確信させることができれば、牽引力を再び取り戻すことができる。僕がその時書いたように、中央銀行は信頼ある形で無責任になることを約束する必要がある。

でも、中央銀行は本当にそんなことができるのか? ウッドフォードはその論文の前半部を「先行き見通し(forward guidance)」(中央銀行が将来の意思を発信すること)に関する証拠の拡張的な論評に費やしている――そして、そのようなメッセージが重要な意味を持つという強い証拠を見出した。だから、彼の答えはイエスだ。FRBは、景気が回復しても、利子率の引き上げを遅らせるとコミットメントすることによって、経済を押し上げることができる。

だが、それはFRBが主としてやってきたことではない。少なくとも明示的なものとしては。それよりも、FRBは非伝統的な資産の購入(量的緩和やQEと言う誤解を生む名前で呼ばれる)、特に長期国債の購入に依存してきた。これは効果があったのか? ウッドフォードは証拠を解析して、QEの明示的な効果のほとんどは予想の経路を通して達成されたものである――つまり、QEは、市場がそれをFRBの先行き見通し(forward guidance)と見なす程度において、効果があった――と試験的に結論を下している。

それなら、FRBはなにをすべきなのか? ウッドフォードは基本的な政策表明のやり方を変えて、「歴史依存的」なものにする必要がある――つまり、大不況の後には、他の状況の場合よりも利子率の引き上げを遅らせるという意思を表明する必要があると言うこと――と結論を下している。 [1] そして、その過去時制を繰り返させてほしい:現在の状況だけなく、大不況の後にも

どうやってこれをやるのか? 名目GDPターゲットが一つの答えになる。なぜなら、それがFRBに長期間利子率引き上げを遅らせるための理由を与えるから。他のスキームにも機能するものがあるかもしれない。

ポイントは、まさにFRBがこうしたことをやってないってこと。バーナンキは労をいとわず、できるだけ早期に通常の政策に回帰する、FRBはかつてと同じほどインフレに対し警戒していると言っては政治家たちを安心させようとしている。ウッドフォードはこういうことをやるなと言っている。これらは全て間違った方向の先行き見通し(forward guidance)を与えることになってしまうから。

重要な内容だ。

  1. 原文:And let me repeat the past tense: following a big slump, not just when you’re in it. []

http://econdays.net/?p=7074








「ウッドフォード、名目GDP水準目標を支持」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “Michael Woodford Endorses Nominal GDP Level Targeting”(Macro and Other Market Musings, August 31, 2012)の訳。


マイケル・ウッドフォード(Michael Woodford)といえば世界を代表する貨幣経済学(monetary economics)の研究者として知られているが、そんな彼が本日のジャクソンホール・シンポジウムで発表した論文(pdf)の中で名目GDP水準目標(nominal GDP level targeting)を支持する意向を示している。ウッドフォードの件の論文では過去4年にわたるFedの金融政策が批評されているのだが、その批評の一環として名目GDP水準目標への支持が表明されているのである。彼の批評のポイントをピックアップすると以下のようになろう。

(1) 量的緩和がそれほど効果をあげなかった理由は、量的緩和に伴うマネタリーベースの増加が(世間一般の人々によって)永続的なものと見なされなかったためであった。仮に量的緩和に伴うマネタリーベースの増加が永続的なものだと予想されるようであれば、それに伴い将来の物価水準や将来の名目所得もまた永続的に上昇するだろうと予想されることになり、それを受けて家計や企業は現時点での名目支出を増やすことになるだろう。マネタリーベースの増加が永続的なものだという点を人々に伝達する(コミュニケートする)ことがキーとなるのである。この話題についてはビル・ウールジー(Bill Woolsey)が突っ込んで検討しているのでそちらを参照してほしい。

(2) Fedは政策金利(FF金利)の将来(期待)経路に関する先行き見通し(forward guidance)を公表しているが、この先行き見通しは堅調な景気回復を促す上ではほとんど何の役割も果たさないだろう。例えば、Fedが先行き見通しの中で政策金利の将来経路の低下を予測したとしよう[1] 。果たしてこれはさらなる(追加的な)金融刺激策の採用を意味しているのだろうか? それともFedによる景気見通しが下方修正[2] されたことを意味しているのだろうか? もし後者の理由で政策金利の将来経路の低下が予測されたのだとすると、Fedは弱々しい経済の現状を追認しているに過ぎないということになろう。この点についてはかつて私自身も話題にしているので詳しくはそちらを参照してほしい。

(3) 大規模資産購入は長期金利を引き下げる上では効果がなかった。確かに長期金利は低下したものの、その理由の大半は経済の低迷によって説明されると考えられる。長期金利が低下した原因の一部は長期的な構造要因の変化(例えば、人口の高齢化やアジアにおける貯蓄選好の高まり、生産性伸び率の低下予想)に求められるかもしれないが、今般の危機の過程で10年物国債の利回りが5.1%以上の水準から1.6%にまで下落した事実は循環的なストーリー[3] の妥当性を示唆していると言えるだろう。つまりは、先進各国で今後も経済の低迷が続くだろうと予想されているがために長期金利に低下圧力がかかっているのである。Fedは世界全体の金融環境に対して影響力を持っており、その影響力をもとにして先進各国の今後の景気に関する予想を転換し、そうすることで[4] 長期金利の上昇をもたらし得る存在であるが、そうだとするとFedは通常考えられているのとは違ったかたちで低金利の現状に責任を負っている[5] と言えるだろう。

今後Fedが採るべき最善の方途としてウッドフォードが挙げているのが名目GDPを危機以前のトレンドの経路に戻すことにコミットする名目GDP水準目標である。名目GDP水準目標は−適当なかたちで実施されたとすれば−上でピックアップしたウッドフォードの批判を免れることになるだろう。ウッドフォード自身の言葉を以下に引用しよう。

世間一般の人々に対してチャールズ・エヴァンズ(Charles Evans)の提案[6] と同じくらい容易に説明することができ、加えてエヴァンズの提案よりも産出ギャップで修正を加えた物価水準目標(output-gap adjusted price-level target)の利点をより多く備えている基準(criterion)[7] は、Romer(2011)等によって提案されている名目GDP水準目標であろう。名目GDP水準目標が採用された場合、FOMC(連邦公開市場委員会)は実際の名目GDPがあらかじめ定められた目標経路−もしも2008年後半以降にゼロ下限制約によってFedの政策が縛りを受けていなかったとすれば名目GDPが辿ることになったであろう経路−を下回って推移している間はFF金利を現在の水準(ゼロ金利)に据え置くことを約束することになろう。そして一度名目GDPが目標経路に復帰した後は名目(政策)金利は名目GDPの定常的な成長を保つ上で必要な水準にまで引き上げられることになろう。

加えて、ウッドフォードは名目GDPがトレンドを下回っている様子を示す今ではよく知られた図[8] を掲げた上で現時点において名目GDPは目標とする水準を10〜15%ポイント下回っている事実にも注意を喚起している。この事実を指摘することでウッドフォードは2008年後半以降のFedの金融政策は実質的に引き締め過ぎであったと非難していると見なすことができよう。ウッドフォードの論文ではこのエントリーで触れた話題以外にも興味深い議論が多々見受けられるが、それにしてもマイケル・ウッドフォードのような優れた人物がマーケット・マネタリストが過去4年にわたり唱え続けてきた主張に支持を与えてくれるとは何とも元気づけられるものである。ここのところFedに対して金融政策のレジーム転換を求める圧力が高まっている(この点についてはこちらこちらを参照)が、ウッドフォードの論文はこの圧力のさらなる高まりに加勢することになろう。

(追伸)ウッドフォードの論文ではマーケット・マネタリズムや名目GDP水準目標を推進する上でマーケット・マネタリズムが果たした影響については触れられていないものの(注33は嬉しい驚きではあったが[9] )、まあそれはよしとしよう。そんなことよりも何よりも重要なのは、引き締め気味の金融政策のために人々が味わっている多大なる苦痛を最小化する(可能な限り和らげる)ことである。ウッドフォードの論文はその目標の達成に向かってさらに一歩踏み出す手助けとなることだろう。

  1. 訳注;例えば、これまでの先行き見通しでは2014年の後半に政策金利が上昇すると予測(2014年後半まで政策金利が現在の水準に据え置かれると予測)されていたものが、新たに公表された先行き見通しでは政策金利の上昇が2015年にずれ込むと予測されたり []
  2. 訳注;これまで予測していたよりも景気の回復が遅れそうだと判断 []
  3. 訳注;長期金利が低下したのは循環的な理由、つまりは景気の低迷が原因 []
  4. 訳注;景気の回復を促すことで []
  5. 訳注;Fedによる積極果敢な金融緩和策の結果として金利が低下しているのではなく、Fedが景気の低迷を放置している結果として金利が低下している、ということ []
  6. 訳注;チャールズ・エヴァンズシカゴ連銀総裁によるゼロ金利解除に関する7/3 threshold rule。失業率が7%を上回っているか中期的な期待インフレ率が3%を下回っている間はゼロ金利を継続するが、失業率が7%を下回るか中期的な期待インフレ率が3%を上回るかした場合にはゼロ金利を解除する。 []
  7. 訳注;ゼロ金利解除の基準 []
  8. 訳注;ウッドフォードの論文ではpp.45にFigure 13として掲げられている []
  9. 訳注;ウッドフォードの論文の注33ではベックワースのブログエントリーへの言及がなされている []

    http://econdays.net/?p=7041








  10. 最適金融政策のニューケインジアンモデルにまつわる問題 by Scott Sumner 
  11. クルーグマン「ベン・バーナンキを憎む共和党」(NYT,2012年9月16日)
  12. クルーグマン「iPhone 経済刺激」(NYT,2012年9月13日)
  13. クルーグマン「割れ窓と iPhone 5」(ブログ,2012年9月11日)
  14. クルーグマン「金融政策 vs. 財政政策,再説」(ブログ,2012年9月1日)
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