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【第243回】 2012年9月19日 加藤 出 [東短リサーチ取締役]
「尖閣国有化」で事態が急変
9月が日本に大打撃の理由
日本政府が9月11日に尖閣諸島国有化を決定する数日前まで上海にいた。上海の街中では反日的ムードは全く感じられなかった。
中国の代表的な経済雑誌「財経」(9月3日号)も社説で冷静な議論を示していた。「もし中国が単純に民族的な傾向を強めたら、中国は容易に孤立する。強硬に振る舞ったり、武力を使ったりしたら、中日両国共に重い損害を受ける。理性的な言論と行動を保ち、お互いに交渉できる余地を残すべきである。争いを避けることが、唯一かつ必須の選択肢だ」。
しかし、国有化発表の翌日に中国各地の知人に電話してみたところ、皆同様に「これから何が起きるのか考えると怖い」と心配していた。先日ブラジルに行った際、ブラジルに進出する日本企業が近年増加し、約450社に達したと聞いた。とはいえ、中国への進出数に比べれば桁が二つ違う。日系の中国進出企業は実に2.6万社を超える。今回の問題が日本経済に及ぼす影響が心配される。
欧米から中国への直接投資がマイナスになっている中で、日本企業だけはプラスの状態を続けてきた。それ故、中国政府としては日本からの投資が減ることは本来避けたいはずだが、世論との関係で強硬姿勢を見せている。
「中国新聞網」(9月12日)によると、8月に日本ブランドの家電販売は急激に悪化した。ある調査では、前月比のテレビ販売台数は、日本メーカーは21〜44%も下落した。家電流通業界の専門家は、「日本製品はイノベーションに欠け、販売方法も保守的なため、3年前から売り上げは徐々に落ちてきていた。しかし、最近の急激な減少は尖閣の影響だ」と語っている。
例年、中国では9月後半ごろから国慶節にちなんだ大規模なセールが行われる。その時期に今回の問題が起きただけに、日本メーカーへの打撃が心配される。
8月の中国の自動車販売は前年比8.3%増、乗用車は11.3%増だった。高級車は特に好調で、BMWは37.5%増、アウディは24%増だ。しかし、日本メーカーはマイナスや横ばいが多い。日本車は、反日デモで襲われて壊されるリスクがあると警戒する人が増えているらしい。満州事変が始まった9月18日には大規模な反日デモが起きるのではと警戒されている。そこで路上の日本車が破壊されると、日本車の購入を敬遠する動きが一段と強まりかねない。
日本政府が、尖閣の国有化前に中国サイドの反発を綿密に想定していたのならまだしも、もし勢いで国有化を決定してしまったとすると、先行きはかなり厳しい展開になる恐れがある。
http://diamond.jp/articles/print/24948
【第4回】 2012年9月19日
中国赴任が決まったら自分の待遇はどうなるの?
身を守るために押さえるべき4つのポイント
突然の海外赴任を言い渡されることは、もはや珍しいことではないだろう。業界を問わず、海外で売上を伸ばし、利益を稼がなければ企業は生き残れないからだ。「海外赴任するのは一部の大手企業だけの話」ではないのだ。もし、海外赴任の辞令が出たら、従業員は自分の待遇について気に留める必要がある。勤務先が大手企業で、すでに世界各地に拠点を持つようなら大丈夫だろう。しかし、海外でのビジネス経験が浅い中小企業なら、待遇が劣化したり、海外赴任によって、本来受けられる利益が受けられなかったりすることもあるのだ。(弁護士・黒田健二、協力:弁護士ドットコム)
突然の中国上海赴任辞令!
そのとき、待遇はどうなるか
「来週から、中国の上海支社でがんばってくれ――」
日本は少子高齢化と人口減で、市場は縮小の一途を辿っている。この状況下では、業種を問わず、企業は海外へ出てビジネスをしなければ生き残っていけない。したがって、このような突然の海外赴任の辞令は、ますます一般的になるだろう。
筆者の事務所に相談に来られた田中さん(仮名)もその1人だ。田中さんは学生時代の中国留学経験を見込まれ、入社して1年で、会社内に新設された中国担当部署に配属された。
数人のチームだが、中国でのシェア拡大を推進し、日本での販売業績悪化をカバーするカギを握る部署だ。田中さん自身も、早速上海に設立された中国現地法人(販売会社)への赴任が決まったのだが、どうも気がかりなことがあると話す。それは現地での待遇についてだ。
辞令を出した側である会社に聞いても、田中さんには労働法や他社の一般的な海外赴任者の待遇について知識がなく、丸め込まれてしまうと考え、筆者の事務所を訪れたのだという。
田中さんの気がかりはもっともだ。田中さんが会社に対して自分の待遇について聞くとき、気をつけるべきポイントは以下の4つになりそうだ。1から順に説明していこう。
1、本社雇用で現地派遣なのか、現地採用なのか?
2、中国の会社におけるポジションは?
3、ビザ取得の落とし穴に注意!
4、中国における社会保険加入の強制
雇用が本社か現地かで
社会保険料が大きく違う
1、本社雇用で現地派遣なのか、現地採用なのか?
事実上、本社雇用の場合と、現地採用の場合で待遇が異なることが多い。
本社雇用の場合は、給与・手当の面だけではなく、日本における各種社会保険の加入が維持されるというメリットもある。逆に、会社にとっては、現地採用の場合に比べると大きくコストアップになる。したがって、中国の現地法人の管理について、人件費を削減し、意思決定の迅速化を図るなどの様々な理由から、人事・財務権限を中国人従業員に委譲する現地化を進める会社が増えており、費用がかかる本社雇用は徐々に減っているようだ。
現地採用の場合は、中国における個人所得税や社会保険の負担が大きい。そのため、田中さんのように赴任を言い渡されたら、まず手取り給与がいくらになるか注意すべきだ。特に、後に述べる社会保険については、地方によっても料率は異なり、個人負担割合だけで20%前後にもなってしまうからだ。
もし田中さんが本社雇用の場合、日本本社との労働契約に加え、現地法人との間でも労働契約を締結することが考えられる。その場合、どちらの人事権が優先されるか曖昧になるため、トラブルが生じやすい。例えば、日本で労働契約が解除された場合に、中国での雇用の維持を主張して労働仲裁を行うなどのケースだ。
田中さんは、まず本社と現地法人の間で出向契約が締結されているか確認し、人事権が本社と現地法人のどちらにあるかはっきりさせることが重要だ。最近では、現地法人への帰属意識を高めるために、待遇は日本在住時と同程度を維持するが、敢えて本社との契約を終了し、現地法人のみと契約するという方針をとる会社もあるようだ。
中途半端なポジションでは
現地で仕事がやりにくいかも?
2、中国の会社におけるポジションは?
中国の会社の組織体制には、董事長や総経理など、日本人には耳慣れない言葉が多い。赴任前に現地法人の組織体制について一通り理解しておくことは重要だ。
もし田中さんが、会社側から現地で従業員管理を課せられているのにもかかわらず、人事権がないポジションについてしまっては、仕事をしたくてもできない状況に追い込まれてしまう。
中国の会社の基本的な構造は、日本の場合と同様に、株主会の下に取締役会に相当する董事会があり、董事会で決定された経営方針を実行する総経理、その他の高級管理職が存在する(但し、中外合弁企業に限っては、株主会ではなく、董事会が会社の最高意思決定機関となる)。
中国においては、中国人従業員に、日常経営管理を行う総経理を担当させるケースも多いため、赴任する日本人が総経理を監督する役目も負っているのであれば、総経理より上のポジションである董事長に就任することがよいであろう。
自分のキャリアによって
ビザの種類が変わってくる
3、ビザ取得の落とし穴に注意!
外国人が、中国現地法人で働くためには、「外国人就業許可証」を取得して、労働ビザ(Zビザ)を取得する必要がある。中国政府は、もともと中国人従業員で代替可能な一般的な職務については、中国人を優先して採用すべきで、このような職務への外国人の就業を許可しないという考え方を持っている。
加えて、世界的な不景気の影響を受け、今後も外国人に対する就業許可やビザに対する審査は厳しくなると予想される。ちなみに、中国の公式統計では、10年以上に渡り失業率は4%前後を保っているが、実際の失業率はこれより高いと思われる。
(1)「2年以上の職務経験があること」
就業許可を取得するに当たって、「2年以上の職務経験があること」が要求されていることは、意外と知られていない落とし穴だ。中国の大学を卒業し、又は留学後そのまま現地で就職する希望を持つ若者が増えているが、この条件が障害になることがある。
田中さんは「入社1年」のため、就業許可を取得できない。なお、「外国人の中国における就業管理規定」においては、「職務経験」が要求されているが、「2年以上」という記載はない。上海市労働局の関連通知「『外国人の中国における就業管理規定』を徹底することについての若干意見」において「2年以上」という具体的な要件が定められている。このように、中国においては、いわゆる「法律」だけではなく、監督庁や地方政府の定める関連規定にも十分注意が必要だ。
田中さんのように、経験年数が足りず、就業許可を取得できない場合、実務上、労働ビザ以外のビザ(例えば、Fビザ)を利用して、あくまで日本の会社に所属する従業員として、中国に出張して業務を行うことも考えられる。
但し、この場合には、【1】滞在期間が短期間に制限され、何回も中国から出国しなければならないこと、【2】特に現地法人から給与等を得ている場合には、不法就労とみなされるリスクがあること、【3】累計の滞在期間が長期間になると、個人所得税の納税やPE課税リスクがある、等の問題に注意が必要だ。
(2)年齢の制限
意外と知られていないものとして年齢の制限がある。田中さんには、直接関係はないが、日本の会社を定年退職した者が、中国の会社に再就職するケースも増えているため、参考までに紹介しておこう。
「外国人の中国における就業管理規定」においては、18歳以上であることが記載されているだけであるが、上記の上海市の通知においては、原則として男性は18歳〜60歳、女性は18歳〜55歳と定められている(中国の定年年齢とほぼ同じである)。
もっとも、当該年齢を超えた場合であっても、董事長等の会社の重要なスタッフに就任する場合には、特別に許可が下りる余地があるため、この点からも自分がどのようなポジションとして採用されるかという問題は重要である。
中国の社会保険改革は
他人事ではない
4、中国における社会保険加入の強制
年平均10%を超える割合で上昇を続けている賃金の問題にとどまらず、会社にとって負担が大きい社会保険の問題に注目が集まっている。これは田中さんが、実際に中国に赴任してから気をつけておくべきことだ。
中国の社会保険には、養老年金保険・医療保険・労災保険・失業保険・出産保険があり、加えて厳密には社会保険ではないが、住宅積立金制度もある。出身地や都市戸籍・農村戸籍の区別によって強制される社会保険の種類や金額に差が生じるため、中国現地法人にとっては、どのような人を採用するかによって人件費に大きな影響が生じる。もっとも、最近では、出身地や都市戸籍・農村戸籍の区別による差異を少なくするよう社会保険の制度改革が進んでいる。
現地に赴任する日本人にとって注目すべきなのは、外国人に対する社会保険の強制加入問題である。
これまで外国人に対して、社会保険への加入は強制されておらず、日本本社で採用され現地に派遣される場合には、民間の海外旅行保険に加入することで代用することが多かった。ところが、「中国国内で就業する外国人の社会保険参加暫定弁法」によって、2011年10月から“法律上は”納付義務が生じている。
しかし、次ページのような問題が残っている。
(1)実際には地域によって運用が異なっていること
現時点で、社会保険を強制的に徴収されていない地域では、追徴のリスクがある。それを軽減するために、会社は当局への確認記録を残しておくなどの対策が必要であろう。
(2)日中二国間の社会保障協定が締結されていないこと
社会保障協定においては、現在、日中の二国間で社会保障協定が締結されていないため、ルールがない状態だ。養老年金保険や失業保険など、一定の受給条件があって外国人が利益を受けられる可能性が低い社会保険について適用を除外、保険期間の通算(なお、年金を受給するために最低必要とされる期間は、日本は25年間、中国は15年間)などについて、決まりはない。
今のままでは、日本企業は、日本と中国で事実上、二重払いになってしまう。ルール作りが進まなければ、会社は二重払いを解消するため、日本における各種社会保険について見直しを考えるだろう。
また、中国においては、一般的に民間の海外旅行保険に基づく医療サービスの方が、医療保険に基づく医療サービスよりも条件がよいとされている。そのため、医療保険への加入によって、海外旅行保険への加入が打ち切られれば、受けられる医療サービスの質が低下するのではないかとの不安も広がっている。
慣れない環境で仕事と生活をしなければならなくなれば、病気になる可能性も上がるかもしれない。万が一のときに、現地での医療保険がどうなっているかは、非常に大切なことだ。自分の身を守るために、会社側にこの点はぜひ確認した方が良い。
<弁護士ドットコムとは>
「弁護士ドットコム」は“インターネットで法律をもっと身近に、もっと便利に。”を理念に、現在4000名を超える弁護士が登録する日本最大級の法律相談ポータルサイトです。弁護士費用の見積比較の他、インターネットによる法律相談や、弁護士回答率100.0%(※)の法律特化型Q&A「みんなの法律相談」を運営。累計法律相談件数は 20万件を突破しています。2012年4月12日より、独自の法的ナレッジを活かしたニュースコンテンツ「弁護士ドットコムトピックス」を提供開始。話題の出来事を法的観点から解説した記事が大手ニュースメディアのトップページに取り上げられるなど、注目を集めています。(※)2012年8月22日現在
<執筆者プロフィール>
黒田健二/くろだ・けんじ
大学を一年で中退した翌年、独学で1983年度の司法試験に全国最年少の20歳で合格。1986年より日本及び香港で弁護士実務経験を積んだ後、中国(上海復旦大学法学部高級進修生課程)、デンマーク及び米国(デューク大学ロースクール)で中国法、EC法及び米国法を学ぶ。米国ニューヨーク州弁護士登録後、1995年に黒田法律事務所・黒田特許事務所を設立。(中国、コンピュータソフト、バイオ、環境保護)に特化した弁護士を目指し、中国案件を20年以上手がけている。中国語・英語に堪能で、国際案件および交渉の経験も豊富。黒田法律事務所・黒田特許事務所代表弁護士・弁理士。
http://diamond.jp/articles/print/24934
社説:選挙をにらんだオバマ大統領の対中政策
2012年09月19日(Wed) Financial Times
(2012年9月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
選挙のための迎合の最近の標準から言っても、バラク・オバマ大統領が中国を世界貿易機関(WTO)に提訴したタイミングは露骨だった。17日の提訴発表の舞台に選んだ場所も同様だ。
オハイオ州は今回の選挙でも、結果を左右するスイングステート(揺れる州)になる可能性がある。オバマ大統領の訴えは、中国が自国の自動車部品の輸出に補助金を支出していると主張している。自動車部品は、オハイオに残る産業基盤の大部分が依存しているセクターだ。大統領の行動は明らかに、オハイオの懸念に合わせたものだった。
しかし、オバマ大統領の行動の(政治的意図ではなく)中身は、暴挙には及ばない。2009年に中国製タイヤの輸入品に反ダンピング税を課すために大統領が発動した米通商法421条とは異なり、17日の行動は、多国間ルールの条文のみならず、その精神の範囲内に収まっている。
米国側の訴えが主張しているように、中国は自動車部品の輸出に10億ドル以上の違法な補助金を出したかもしれないし、出していないかもしれない。だが、今回の提訴が審理に値するかどうかを決めるのは、WTOであって、米政権ではない。
さらに、中国は米国の選挙日程に伴う潮の干満を経験している。中国の当局者は、1992年にビル・クリントン氏が選挙演説で繰り広げた中国叩きと、後に中国をWTOに導き入れた行動の対比をよく覚えている。
ロムニー氏の強硬路線に追随してはならない
だが、オバマ大統領は、自身の発言に潜む大衆迎合的なリスクに注意すべきだ。1990年代と異なり、米国の労働市場は今、縮小している。また、父親の方のジョージ・ブッシュ氏が自由貿易を旗印に掲げた1992年の選挙とは異なり、今回は、対中リスクを高めたのは共和党大統領候補のミット・ロムニー氏だ。
ホワイトハウスの主の座を争う候補者2人が、今後7週間で自制を示すべき理由が2つある。まず、ロムニー氏は既に、就任初日に中国を為替操作国と認定することで、貿易戦争のリスクを取ることも辞さないと誓っている。同氏は有権者に、オバマ大統領が7回も認定を見送ったことを思い出させている。
もしオハイオやミシガン、ウィスコンシンのような州で世論調査が拮抗してくれば、オバマ大統領はロムニー氏に追随する誘惑に駆られるだろう。大統領は誘惑に抵抗すべきだ。
次に、中国は徐々に消費拡大の方向に経済をシフトさせており、人民元が対ドルで上昇するのを容認している。確かに、中国経済のリバランス(再調整)は動きが中断しており、遅れがちかもしれない。だが、量的緩和第3弾の開始を決めた米連邦準備理事会(FRB)の先週の決断は、米中両国とも通貨のゲームができることを思い出させてくれた。
オバマ大統領は最新の対策を講じるに当たってWTOの場を選ぶことで、「戦争」ではなく「法律」をこれ以上ないほど重んじた。大統領は今後も、法の範囲内にしっかりとどまっているようにすべきだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print2/36125
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