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中国失速、地方財政がアキレス腱
2012年9月18日(火) 財新メディア
「新世紀」記者 李雪娜/王婧/沈乎/王莉/鄭海/朱以師/王暁慶
中国の景気減速に伴い、税収の頭打ちや地価の下落が地方財政を直撃。地方政府の債務総額は2010年末で10.7兆元(約133兆円)に達したとされる。各自治体は徴税活動に必死だが、支出削減の動きは鈍く、財政は悪化の一途をたどる。
中国経済が失速する中、地方政府が次々と大規模な投資計画を打ち出している。西部の貴州(クェイツォウ)省、中部の長沙(チャンシャー)市から珠江デルタの広州(クァンツォウ)市まで。虚実取り混ぜて数千億元クラスの計画が明らかになり、「地方版4兆元対策」*1と呼ばれる。一方で裏づけとなる財源は乏しい。中国でも最も豊かな北京や上海、広東(グワントン)省、浙江(ジャージャン)省でも税収の伸びが鈍化し、マイナスに転じた月もあるほどだ。
*1=2008年末、中国政府はリーマンショック後の景気落ち込みに対応するため4兆元(約50兆円)規模の景気対策を打ち出した
地方財政の厳しさは、もはやのっぴきならない状況にある。石炭販売で潤い、大規模なインフラ開発で一躍有名になった内モンゴル自治区のオルドス市は、石炭の値下がりや不動産市場の崩壊を受けて経済が停滞し、市の資金繰り難までささやかれる。地元政府からの公共工事の支払いが遅れたり、税の還付が受けられないといったクレームも全国で上がっている。
「東莞は少し前のギリシャと同じ」
東莞市は製造業の集積で成長を果たしたが、外需の低迷や人民元高で転機を迎えている(写真:ロイター/アフロ)
広東省の実例を見てみよう。広東省東莞(ドングァン)市で印刷工場を経営する肖功俊(シャオゴンジュン)氏は今年に入り市政府からの注文を断っている。これまでは支払いの遅延も受け入れてきたが、貸し倒れのリスクを看過できないと感じ始めたからだ。肖氏だけではない。納入業者は情報を交換し、市への売掛金の額を把握している。「30億元(約370億円)以上はあるはずだ」と肖氏は指摘する。
東莞経済に詳しい人物が微博(ウェイボ・中国版ツイッター)で8月中旬、東莞市の樟木頭(ジャンムウトウ)鎮*2の負債が16億元(約200億円)に上ると告発した。肖氏も「樟木頭鎮は実質的に破綻している。東莞は財政赤字を隠していたギリシャと同じ状況にある」と話す。
*2=鎮は市より下部の行政単位
広州市と香港の中間に位置する東莞市は製造業が集積、「世界の工場」と呼ばれてきた。2006年以降、GDP(国内総生産)伸び率は平均で11%に達したが、今年上期は2.5%と低迷した。市の資料によると市内33ある鎮のうち、成長率がプラスなのはわずか15。12%のマイナスに沈んだ鎮もあった。税収も9の鎮で前年同期を下回っている。
これは東莞に限った話ではない。広東省に立地する製造業の純利益は20%近く減り、省全体の税収は4.3%増にとどまった。朱小丹(ジュウシャオタン)省長は「現状は2009年より厳しい」と危機感をあらわにする。一葉落ちて天下の秋を知る。これは全国的な現象でもある。
土地の払い下げという「打ち出の小槌」が効き目を失いつつあることも地方政府の財政難に拍車をかける。
あるシンクタンクの集計によると、今年上期の主要300都市における土地の払い下げ総額は6525億元(約8兆1500億円)と前年同期に比べ38%も減少した。ここ数年1位の座にあった上海が9位に転落、払い下げ額は1842億元(約2兆3000億円)と前年同期に比べ半減した。北京の状況はさらに悪い。トップ10にも入らず、払い下げ総額はわずか144億元(約1800億円)だった。広州も94億元(約1170億円)にとどまる。
地方政府、徴税強化に走る
土地を払い下げた際の収入は全額が地方政府の懐に入り、最も手軽な税外収入と位置づけられてきた。地方都市では総収入の3割か、それ以上を土地の売却収入が占めることも珍しくなかった。言うまでもなく、中央政府が2011年に実施した不動産の価格抑制策*3が響いたことは間違いない。
*3=中国政府は昨年、個人で2戸以上の住宅の購入を制限したり、2戸目の購入が認められる場合でも、一定以上の頭金を必須とするなどの「限購令」と呼ばれる施策を打ち出した
地方政府は新たな収入源を探そうと血眼になっている。
先日、1通の納税通知書が広東省のある民間企業の従業員に届いた。通知書には、2年前に個人で引き受けた仕事の個人所得税が未納になっているため追徴するとあった。受注額はわずか3000元。しかも「刺された」のは彼1人ではない。同僚の中には2008年の所得に対する追徴もあった。
地方政府は当面の危機を乗り切ろうと、「取れるところから取る」という姿勢をあからさまにしている。
深圳(シェンジェン)では昨年、個人所得税の総額が初めて企業所得税(法人税)を上回った。今年1〜3月期の実績では法人税が前年同期比13%の減収だったのに対し、個人所得税は課税最低限を引き上げたため、本来ならば減収でも不思議ではなかったが同57%増となった。
深圳の税務当局は今年、電子メーカーが集積する南山(ナンシャン)区で大規模な税務査察を実施し、2〜3年前の帳簿までさかのぼって脱税や納付漏れを調べているという。製造業が集まる宝安(バオアン)、竜崗(ロンガン)の両区でも帳簿の調査が始まった。要は市がこの辺りを「掘り起こせそうな税金が埋まっている」と見ているのだ。
徴税の強化は各地で見られる。内陸部の大都市、重慶(チョンチン)では昨年、不動産税に関する査察を行い、一気に45億元(約560億円)の“増収“を実現した。地元デベロッパー、竜湖不動産1社だけで3億元(約37億円)を追徴された。加えて市は今年10〜12月期の税金を事前に納付するよう要求している。
税外収入の確保にも躍起だ。7月、地方政府の税外収入は前年同月比で21%も増えた。これまで重視してこなかった広告権や道路使用権など様々な手数料収入を積み上げているのだ。
例えば広西(グワンシー)省では駐車場や屋外広告の場を増設したほか、ゴミ処理費用の徴収方式を変えた。深圳大学の徐進(シュイジン)教授は「電気や水道の利用許可を得る際に必要な証明書の手数料を引き上げるなど、費目は多岐にわたる。企業が製品を輸出する際に必要な検査費用も含まれる。地方政府は裁量の余地が大きい収入源に目をつけている」と解説する。
支出削減はどこ吹く風
財政が逼迫する地方政府を中心に支出を抑制する動きがないではない。東莞市の石排(シーパイ)鎮工業区では「三公経費(海外出張費と公用車の購入・維持費、接待費)」を中心に、支出を数千万元規模で削減する計画を打ち出した。
だが、増収になりふり構わぬ姿勢を見せているのに比べると、支出抑制は表面を取り繕っているだけだと感じている市民は少なくない。
三公経費について、中央政府は各省・直轄市などに2年以内の情報公開を指示してはいる。上海や北京、広東省などは関連データの開示を始めた。しかし、その下部にある市や県、第3セクターには公開のスケジュールもなく、支出削減などどこ吹く風だ。
政府に財政情報の公開を一貫して求めてきた社会活動家の呉君亮(ウーチンリャン)氏は、「政府がうたう支出削減は表面的なもの。財政支出は毎年のように過去最高を更新し続けている」と指摘する。
実際にそれは的を射ていて、収支状況に責任を持つべき杭州(ハンジョウ)市の財政担当者ですら「地価が上がれば何とかなる」と楽観的な見通しを口にする。景気下支えのための財政拡大を求める声も高まる中、地方政府が財政立て直しに政策転換できる可能性は低いだろう。
オルドスに迫る「財政の崖」
内モンゴル自治区オルドス市の行政、経済の中心である東勝(ドンション)区――。林立するホテルに人の気配はなく、あちこちの工事現場の作業は中断している。クレーンは止まり、コンクリートは露出したままだ。あるデベロッパーによると、オルドス市街の約7割の建設プロジェクトが休止状態にあるという。
住宅のモデルルームや販売所を訪ねる客もいない。建売住宅の平均価格は1平方メートル当たり7000元(約8万7000円)から4300元(約5万3000元)に下がった。これが「中国で最も豊かな都市」とうたわれたオルドス市の現状だ。
明らかにバブルだったのだ。2011年、オルドス市の不動産開発面積は4100万平方メートルを超えたが、うち住宅が2000万平方メートルを占めた。オルドス市街地の人口はわずか60万人にすぎない。地場のデベロッパー、万正不動産開発有限公司の辺燕雲・副総経理は不動産の需給が改善するのに少なくとも3〜5年はかかると見る。
オルドスの中心市街地では不動産開発の中断が相次いでいる
(写真:ロイター/アフロ)
「石炭経済」が価格の下落で崩壊
毎年夏、オルドスから包頭(パオトウ・オルドスに隣接する市)へ向かう高速道路は渋滞し、石炭を運ぶ大型トラックの長い列ができていた。それが今年の8月はスムーズに走れる。運転手に尋ねると、トラック数は3分の1近くまで減っているという。
オルドスの石炭埋蔵量は全国の6分の1を占め、この「黒いダイヤ」に支えられて飛躍的な経済成長を遂げてきた。だが今年4月から、オルドスの石炭の「坑口価格(炭鉱で直接、取引される価格)」は下がり続け、5月以降は在庫が積み上がった。現状を調査したある銀行関係者によると、オルドス全体で306カ所ある炭鉱のうち、今や操業しているのは101カ所しかないという。
石炭はオルドス市財政の中核だった。石炭の生産者が負担する租税コストは1トン当たり約70元(約870円)、うち40元(約490円)ほどが地方政府に落ちる。2008年にはオルドス市の税収の5割超が石炭関連だった。この収入と不動産開発が、1人当たりGDP(国内総生産)で香港を上回るほどの成長を遂げたオルドス市を支えていたのだ。
これまでの「ビジネスモデル」が崩れたにもかかわらず、オルドス市は今も同じ手法で経済を立て直そうとしている。開発中の「鉄西新区」は、東勝区の面積(約20平方キロメートル超)と同じ規模の街をもう1つ作るのに等しい。開発のムダやムラも多い。新しく敷設された道路が再度拡張されることも珍しくなく、複数の体育館が乱立している。
しかし「財政の崖」は目前に迫る。地価の下落で、不動産の売却収入を償還資金として当て込んでいた「都市投資債券」*4の償還に暗雲が広がっている。債券の買い手はつかず、地元の建設会社は市政府から工事代金を払ってもらえない状況にある。
*4=2008年末、中国政府が打ち出した4兆元規模の景気対策では、地方政府が「融資平台」と呼ばれる第3セクターを設け、独自に債券発行や借り入れを起こすことで景気対策のための資金を調達した
(「新世紀」2012年8月27日号©財新傳媒)
「中国発 財新」
「財新メディア」は2009年1月、数々のスクープ報道で名を馳せた経済誌「財経」の中心メンバーが独立して発足。週刊誌の「新世紀」、月刊誌の「中国改革」、ウェブサイトの「財新網」の3媒体を中核に、独自の取材と分析に基づく質の高い情報を発信している。中国政府の政策の矛盾を鋭く指摘するなど、政府系メディアとは一線を画す“硬派”の報道で、新興メディアながら既に高い評価を集めている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120913/236749/?ST=print
中国企業、収益悪化が鮮明に
中国企業の業績動向
2012年9月18日(火) プ・ヨンハオ
中国の上場企業の収益は2011年後半から減益局面にある。製造業は在庫圧縮に苦しみ、底入れは来年後半になりそう。為替も一方向の元高・ドル安は期待できないだろう。
中国経済は失速してしまうのか、すんでのところで持ちこたえるのか。景気刺激策など政府の出方次第の面があるので予想は難しいが、現状を分析する手がかりの1つとして、上場企業の業績動向を観察対象に加えることを提案したい。
UBSは中国株の代表的な指数である「MSCIチャイナ指数」構成銘柄の業績動向を集計している。金融業を除くベースでは、既に2011年下期から減益局面に入っている。増益率の鈍化ではない。中国企業は2ケタ成長が当然という時代は終わりつつある。
利益水準そのものはリーマンショック前を上回っている。これは過度の悲観が必要のない証拠ではある。ただ、物価の上昇を考慮すると、それほど力強い成長を遂げているわけではない。
セクター別に見ると製造業、とりわけ鉄鋼や非鉄、セメント、機械などの不振が目立つ。鉄鋼などは輸入している鉄鉱石や石炭の値下がりがいずれ収益を下支えするだろう。しかし、今はまだ積み上がった在庫を少しでも早くさばかなければならない段階だ。
どう見ても、2008年末に政府が打ち出した4兆元規模の経済対策の後遺症だ。(今後追加経済対策がない)自然体のままなら、企業業績の底入れは2013年の下期になってからだろう。足元におけるPMI(製造業購買担当者景気指数)の落ち込みも、この見方を補強している。
今後、打ち出されるであろう景気対策にはどの程度、期待できるのか。実効性のある刺激策がパッケージとしてまとまるのは早くとも年末だろう。どこの国でも政権交代の直前に大胆な施策は出てこないものだ。
人民元の上昇余地乏しく
企業収益低迷の副作用として、人民元のドルに対する上昇余地が乏しくなっていることも指摘しておきたい。輸出の伸びが鈍化していることから分かるように、元高は少しずつ中国の輸出競争力をそいでいる。2005年夏の管理変動相場制への移行後、元は対ドルで2割以上も切り上がった。
企業業績の不振は雇用や労働者の所得を通じて中国経済に大きな影響を及ぼす。ただ、個人消費への波及にはタイムラグがあるうえ、都市化という後押し要因もある。今後の中国経済の動向を見定めるには、個人消費がどこまで持ちこたえるかを丹念に見る必要があるだろう。
(構成:張 勇祥)
プ・ヨンハオ(浦 永灝)
UBSウェルス・マネジメント チーフ・インベストメント・オフィサー
厦門大学大学院、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修了。アジア開発銀行などを経てUBS入社。2009年から現職
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120917/236889/?ST=print
【第192回】 2012年9月18日 週刊ダイヤモンド編集部
尖閣諸島「国有化」で緊迫
経済活動への悪影響は不可避
日中関係がにわかに緊迫している。引き金となったのは、9月11日の日本政府による尖閣諸島国有化の決定だ。中国政府はただちに撤回を要求、中国軍も報復措置を示唆する異例の声明を発表するなど、緊張が高まっている。はたして尖閣問題は日中関係にどのような影を落とすのだろうか。
「中央政府の会議で、日本からの投資申請は受け付けないことに決まった。今回は認可するが、次回は難しいだろう」
日本政府の尖閣諸島国有化から一夜明けた9月12日、会社設立の認可を得るため上海のある区政府を訪れた日系企業の担当者は、窓口の担当官の言葉を呆然と聞いていた。最悪の事態は回避できたものの、今後の事業展開に不安が募った。
尖閣国有化の余波はこれだけではない。中国を訪問中の佐藤雄平福島県知事が、11日に予定していた中国民用航空局長との会談を一方的にキャンセルされたり、15日に開催される上海観光祭のパレードに参加予定だった大阪市と香川県が出展中止を要請されるなど、政府間だけでなく民間の交流にも影響が出ている。
尖閣諸島をめぐる日中両国の関係が緊張の色を帯び始めたきっかけは、4月の石原慎太郎東京都知事の発言だった。尖閣諸島の五つの島のうち三つを、都で買い上げることを表明したのだ。中国政府は「不法な措置」として監視船を尖閣諸島周辺の海域に派遣するなど、反発を強めた。
8月15日には香港の活動家が尖閣諸島の魚釣島に上陸、14人が逮捕・強制送還となった。すると19日に東京都議ら10人が政府の許可なく同島に上陸、27日には丹羽宇一郎駐中国大使の公用車から国旗が奪われる衝撃的な事件が発生するなど、両国関係は緊張の度合いを強めていった。
(1)魚釣島に上陸した香港の活動家。(2)9月には東京都が尖閣諸島の調査を実施
Photo:AFP=JIJI(左)、JIJI(右)
そんな中で行われた日本による尖閣国有化に、温家宝首相は「主権と領土問題では半歩たりとも譲らない」と強硬な姿勢を示し、中国国防省も「事態の推移を注視し、相応の措置を取る権利を留保する」と報復措置を示唆した。尖閣問題に関して中国軍が声明を出すのは異例のことで、中国側の反発の大きさを示している。
相次ぐ日本ツアー中止
懸念される日本製品外し
思い起こすのは、2年前の2010年9月、尖閣諸島で起きた中国漁船衝突事件だ。日本側が漁船の船長を逮捕・送検したことに対する報復措置として、中国側は閣僚級の交流停止やさまざまな会談・交渉の中止、さらにはレアアースの対日輸出停止に踏み切った。また、中国各地で反日デモが行われ、日系企業の店舗が投石で損傷を受けるなど、経済活動にも大きな影響が出た。
今回の日本による尖閣国有化は、これまで領土問題を事実上「棚上げ」してきた日中両国からすれば非常に大きな「変化」であり、中国側の反発が大きいのも当然といえる。両国の経済活動への影響度も、2年前と比べて大きくなることは間違いない。
予兆はすでにある。10月1日の中国の国慶節(建国記念日)の連休に組まれていた日本へのツアーが相次いで中止になっており、中国からの旅行客を当てにしていた業界に衝撃を与えている。全日本空輸では、ここにきて中国線の観光客向けの予約が減少しているという。
現時点では、日本製品の販売に影響は出ていない。しかし、「今後日本製品への風当たりは強くなる可能性が大きい」(小澤秀樹・キヤノン中国社長)と懸念する声もある。冒頭で触れたように、日系企業の中国への投資が今後制約を受けることになれば、影響は甚大だ。
日本では反日デモの様子が報道されているが、2年前のような大規模で過激なデモは今のところ起きていない。日本大使館や領事館などは中国の公安当局が厳重な警戒態勢を敷いているからだ。ただ、ネット上では週末のデモを呼びかける動きがあり、予断を許さない。
(3)(4)日本の尖閣国有化は中国メディアや一般市民の反発を招いている
Photo:AFP=JIJI(左)、JIJI(右)
こうした動きを受けて現地の多くの日系企業が、社員に対し慎重に行動するよう注意を喚起している。北京の日本人学校では、丹羽大使の事件後、登校時の出迎えの人数を増やすなど、万一の事態に備えている。
緊張が続く日中関係は今後どうなるのか。「冷静になって考えれば、日中関係が悪化したままではどちらにとってもプラスでないことは明らか」と、大和総研の齋藤尚登シニアエコノミストは指摘する。
加えて、中国側にはこれ以上事態を悪化させたくない事情もある。この秋に10年ぶりとなる最高指導部の交代を控え、何よりも安定を第一に考えている中国にとって、反日デモがエスカレートして反社会・反政府デモに転じるリスクは何としてでも避けたい。だからといって、日本に対し弱腰だと捉えられてはかえって反発を招き、求心力の低下につながる。表向きは強硬な姿勢を崩さず、デモは管理可能な範囲で容認して“ガス抜き”しながら、日本側の出方を見極めることになるだろう。
折しも今年は、日中国交正常化40周年に当たる。この節目の年に再び両国は正常な関係を取り戻せるのか。互いに冷静な判断が求められる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)
http://diamond.jp/articles/-/24887
【第245回】 2012年9月18日 真壁昭夫 [信州大学教授]
韓国はまだしも中国との関係悪化は経済的な損失に!
振り上げた拳を下ろさせる「したたか外交」の要諦
韓国と中国はどちらが影響が大きいか
領土問題の波及を恐れる日本の経済界
わが国と中国、韓国との間で、領土問題をめぐる対立が鮮明化している。今のところ、解決に向けた道筋が見えていない。もともと外交が苦手と言われるわが国とって、厄介な問題が顕在化してしまったというのが本音だ。
しかも、何事にも頼りない現在の民主党政権では、難しい領土問題に有効に対処することは期待できない。
懸念されるのは、日中・日韓の関係悪化が、わが国の経済にマイナスの影響を及ぼしかねないことだ。足もとで世界的に経済活動が減速しており、わが国にもその影響はじわりと出始めている。
そうした状況下、日中、日韓との関係悪化が、わが国経済に悪影響を及ぼすことになると、緩やかに回復基調を歩んできたわが国の景気の腰を折ってしまうことも考えられる。産業界からは、早期の関係回復を要請する声が高まっている。
中国、韓国とわが国の経済関係について整理すると、それぞれの国との関係悪化の影響がわかりやすい。
まず、中国は世界第二位の経済大国であり、影響のマグにチュードはかなり大きい。わが国企業は、同国に多くの生産拠点を持っている。
また、最近所得水準の上昇に伴って、中国はわが国企業がつくる製品群の重要な消費地になりつつある。そのため、中国国民の対日感情が悪化することは、わが国の経済に大きなマイナスの影響を与える可能性がある。
一方、韓国は中国ほど大きな経済規模ではない。貿易収支はわが国の黒字、韓国の赤字という状況だ。わが国から韓国に対する主な輸出品は、機械などの資本財や部品などの中間品が多い。それらの品目は、基本的に国民感情などによって相対的に影響を受けにくいだろう。
また、わが国企業は、韓国にそれほど大きな生産拠点などを持っていない。むしろ、IT関連製品ではライバル関係にある。そうしたことを総合的に考えると、韓国との関係悪化が、すぐにわが国経済に重大な影響を与える可能性は低い。
中国も韓国も引きたいのに引けない?
領土問題の背景に横たわる政治問題
今回、中国・韓国との間で領土問題が顕在化した背景には、いずれも両国の政治的な要因があることを理解する必要がある。中国との尖閣諸島をめぐる紛争のきっかけは、同島周辺の潜在的な資源の開発に目を付けた中国が、領有を主張したためだ。
多くの人口を抱える中国にとって、尖閣諸島近辺の潜在的な資源は重要だ。そうした認識を背景に、中国国内の国民感情が盛り上がるにつれ、中国政府としても“引くに引けない”状況になった。
中国の友人にヒアリングすると、「今、中国政府が日本に対して弱腰と見られると、国民の不満の矛先は中国政府に向かう可能性が高い」との答えが返ってきた。
と言うことは、仮に中国政府が日本との関係悪化を望まないとしても、振り上げた拳をそのままにすることはできないだろう。どうしても、国民に対して、より一層強い姿勢をとっていることをアピールする必要がある。
それは、わが国企業にとって厄介な要素だ。中国政府が、わが国に対して強硬な姿勢を示せば示すほど国民感情が一段と悪化して、わが国企業に対するイメージが悪化する。わが国製品に対する購買意欲が低下することも考えられる。
最悪のケースでは、不買運動が起きるかもしれない。すでに自動車メーカーの一部からは、「新車のキャンペーンをやりにくい」などの声も出ている。
一方、韓国の方は、李明博大統領の周囲から、いくつかのスキャンダルが表面化していることがある。韓国政府としては、「国民の目をどこかに向けたい」という都合があるのだろう。
ニューヨーク在住のアジア担当のアナリストは、「韓国政府の強硬姿勢は、スキャンダル隠しが直接のきっかけ」と明言していた。ただし、事態がここまで悪化すると、韓国政府としても引き返すことが難しくなっている。
重要なポイントは、中国・韓国との領土問題の背景には、それぞれの国内の政治事情が絡んでいることだ。国内の政治が複雑に絡んでいると、そう簡単に引き下がることができず、問題が長期化する可能性が高い。わが国にとって、対応が一段と難しくなる。
経済へのダメージで国際的地位の低下も
日本に求められる国際・経済関係の観点
わが国の政策当局が、対中国・韓国の関係について考えるべき要素がいくつかある。まず1つは、海外諸国との領土問題の対応によって、わが国の国際的な発言力が低下する懸念があることだ。
もともと外交が苦手なわが国は、経済の力で国際社会に認められる地位を築いてきた。ところが近年、その経済力に陰りが見えており、国際社会での相対的な地位は低下しつつある。「G8から最初に脱落するのは日本」などという嘲笑が、現実味を帯びることも考えられる。
特に中国は、米国の次に覇権国になる可能性も指摘されるほど重要な国だ。リーマンショック以降、4兆元の経済対策の効果もあり、米国に代わって世界経済を牽引してきた。それに伴い、天然資源や穀物などの輸入量も飛躍的に増加しており、世界経済の中でそのプレゼンスは顕著に高まっている。
その中国との領土問題について、わが国政府が拙劣な対応をしてしまうと、他の国からも甘く見られる可能性は高い。他国から軽視されることは、わが国の産業界にとっても大きなマイナス要因になる。
実際問題として、わが国企業は中国に多くの生産拠点を持っている。中国の対日感情が一段と悪化すると、わが国の中国生産拠点の運営が難しくなるだろう。
さらに懸念されるのは、国民感情が悪化することによって、日本製品に対する購買意欲が低下する可能性だ。すでに、韓国におけるわが国自動車の販売台数は落ちているが、もともと販売総数はそれほど大きくはないため、深刻な影響はないだろう。
しかし、中国に関してはそうはいかない。今後、中国の所得水準の上昇に伴い、わが国企業のミドルからハイエンドまでの製品に対する需要の増加が見込まれる。それは、わが国企業にとって大きなビジネスチャンスだ。そのビジネスチャンスが、領土問題の余波でマイナスの影響を受けるようだと、その機会損失はかなり大きい。
「ウソも方便」ができない日本人
損をしないための“したたかな外交”
今のところ、領土問題が日中・日韓の経済に大きな影響を与えるまでには至っていない。ただ、今後の展開次第では、わが国経済に大きな影響が出る可能性もある。特に、中国に関しては心配だ。商社の中国担当にヒアリングしてみると、「もうすでに影響が出始めている」という答えだった。
彼は、「中国との領土問題がねじれることはかなり大きな懸念材料」と表現していた。おそらく、その理由は2つあるだろう。
1つは、中国企業が国民感情の悪化を材料として使うケースが増えることだ。もともと中国企業との商取引に関しては、売掛金の回収などに関して日本では考えにくいほどビジネスが煩雑な部分がある。そうした、日本企業にとってビジネスの不利な面が増幅される可能性がある。
もう1つは、日本企業や日本人の安全を確保することが難しくなる可能性だ。製品の販売実績が下落することも重要なファクターではあるが、それ以前に、企業や企業で働く日本人従業員の安全を守ることはさらに重要だ。そこに不安が出ると、事業展開ができなくなる懸念がある。それは重大な問題だ。
そうした状況を防ぐためには、何と言っても、わが国の外交能力を向上させることだ。日本人はバカが付くほど正直で、「ウソも方便」「人を騙すことが主な機能」と言われる外交が大の苦手と言われてきた。それをどこかで解消することが必要だ。
領土紛争は、国家の存亡にかかる重要な問題だ。領土を確保することが第一だが、かと言って戦争をするわけにはいかない。わが国は、日米安全保障条約の傘の下にいるのだが、米国とて簡単に中国と対峙することは避けたいだろう。特に、現在、中東などの地域で問題を抱えている米国は、戦略的にアジア地域に多くの労力を割ける状態ではない。
政府は領土に関して決して他国に安易に譲歩することなく、一貫した態度をとるべきだ。尖閣諸島での中国漁船衝突事件時の菅内閣が採ったような、ワケのわからないスタンスを取ってしまうと、海外諸国から軽視されるばかりだ。
また、もっと国際社会の中でシンパをつくるべきだ。今にして思うと、わが国経済が好調だった時期に、もっと色々な手法でシンパをつくっておくことが必要だった。今からでも、“したたか”にそれをすべきだ。
http://diamond.jp/articles/print/24860
今回の反日デモがこれまでと違うこと
北京発、日本大使館のすぐ近くで考えた日中関係の行方
2012年9月17日(月) 坂田 亮太郎(北京支局長)
日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したことに対する反発が中国全土に広がっている。9月16日の日曜日には80都市以上でデモが行われた模様だ。
私が住んでいるエリアは北京の日本大使館のすぐ近くなので朝から騒がしい。15日の土曜日と16日の日曜日は朝8時過ぎから怒声が鳴り響き、頭上をひっきりなしにヘリコプターが飛び回った。大使館前の大通りは車両の通行が禁止され、事実上デモ隊と野次馬に開放されている。路上で中国国旗を売りつける輩が出現するところが、いかにも中国らしい。
北京の日本大使館前の大通り「亮馬河路」は15日土曜日から車両の進入が禁止された。デモ隊の拡大を阻止するために測道には公安がバリゲードを設置している。
西安のデモで首謀者と目される男性の素顔や略歴がネット上で公開されている。初めて指摘した微博(中国版ツイッター)のアカウントは削除され、大手ニュースサイトでも次々と情報が削除されている。だが、それ以上のスピードで情報が転載され続けている点は注目に値する。
「釣魚島是中国的(釣魚島=尖閣諸島の中国名、は中国のもの)」と赤い段幕を掲げて行進する様は勇ましいが、どこか既視感がある。「小日本」(日本に対する差別用語)や「排除日貨(日本製品をボイコットせよ)」と言ったかけ声は反日デモの常套句であり、今更何の驚きもない。
本来はデモを禁止している中国において、反日デモだけは公安が容認しているのもいつもの通りだ。「愛国無罪」の名の下に、日系企業の店舗で略奪が起きても、日系企業の工場が放火されようとも黙認している。実は、官製デモではないかとの懸念の声もある。たとえば、西安(陝西省の省都)ではデモの首謀者と目される男性が、実は公安関係者であるのではないかとネット上で指摘されている。
実力組織同士が衝突する可能性も
ここまでは想定の範囲内と言えるだろう。それでは今回のデモがこれまでと違う点は何か。
まず発端となっているのが領土問題だけに、日中双方で落としどころが見いだし難いことだ。
2005年から2006年にかけて反日デモが盛り上がった主な原因は、当時の小泉純一郎首相が靖国神社を公式参拝し続けたことに対する抗議だった。小泉政権時代は日中関係が凍りついたが、政権が代われば事態が変わることは日中双方で予想できた。実際、後を継いだ安倍晋三首相は最初の外遊先に中国を選び、日中関係は一気に改善した。
ところが、今回の焦点は東シナ海に浮かぶ無人島で、当然のことながら問題解決につながるような時間的な期限はない。地権者から土地を購入した日本政府は、これ以上中国側を刺激することを控えるだろうが、これまで通り粛々と実効支配を続ける。だが、中国側としては何か日本側にダメージを与えなければ世論を抑えきれないだろう。
温家宝首相は日本政府が国有化を決定した11日、直ちに「(日本の行為は)不法で無効」と強く抗議している。既に中国の監視船が度々日本の領海に侵入しているが、これから不確定要素が増すのは避けられない。
中国農業省は東シナ海での休漁期間を16日に終えたと発表した。これを受け、既に多数の漁船が尖閣諸島周辺に向かったと伝えられている。もしそうなれば、海上保安庁の巡視船との小競り合いは避けられないだろう。中国船籍の安全を守るという名目で中国の監視船が帯同すれば、公的な組織同士が衝突するリスクも高まる。
2つ目の相違点は、日本と中国の経済的な立場の変化だ。
人口13億人超を抱え、2009年に世界第2位の経済大国にのし上がった中国と経済低迷が続く日本とでは、世界の眼差しは異なる。米国も欧州も中国に国債を購入して貰わなければならない立場にある。領土問題と経済問題は切り離して論じるべき話ではあるが、現実的には不可分であることは否めない。
自国経済に対する自信は民間レベルでも垣間見える。中国の経済ニュース「天下財経」は16日、複数の通販サイトが日系企業の商品を一時的に販売中止にしたと報じた。「淘宝網」や「京東商城」など大手は今のところ追随していないが、天下財経はこうした措置を民間版の「経済制裁」だと断じている。
ブランド衣料品を多く扱う「聚尚網」は9月11日からサイトのトップで日本に抗議する意思を表明し、日本企業の商品を選べないようにしている。
記事に登場する、黄志龍と言う経済学者の解説は振るっている。
「中国は日本にとって既に最大の貿易相手国であるが、中国にとって最大の輸出先は欧州であり、第2位が米国であり、日本は3位に過ぎない。だから、日本が中国市場に依存する割合は中国以上に大きい。(中略)仮に中国と日本が全面的な貿易戦争、あるいは全面的な日本製品のボイコットが起きれば、中国経済に大きな影響を与えるが、日本側にはさらに大きな影響を与えることになる。これは一部の学者の推定だが、去年の大地震で日本経済が被ったのよりもはるかに大きな影響を与えるだろう」
影響の度合いについては後の判断を待つとしても、こうした過激で、分かりやすい論理は、理性を欠いた人間ほど浸透しやすい。実際、中国メーカーなどはライバルである日系企業の商品を「日貨(日本商品)」と明示したネガティブキャンペーンを始めている。
サイレントマジョリティーの選択こそが痛手
3つ目は、2つ目に関連するが、一般の中国人も腹を立てているということだ。
中国側は釣魚島(日本名の尖閣諸島)が中国固有の領土だと繰り返し主張しており、その点は広く人民の間にも浸透している。だから、デモ隊が日本料理店などを襲撃した不法行為に対しては心ある中国人からも批判の声は上がっているが、尖閣諸島の国有化に対する日本への反発は根深い。
中国の駐在歴が10年を超す日系企業の幹部に聞いた話だが、今週末のデモには身なりの良い、親子連れの参加も目立ったということだ。反日デモには若者や低所得者層が日頃の不満を晴らすために集まるとの解説がこれまで多かったが、今回は中間層にまで広がっているとしたら非常に厄介だ。
感情の赴くままに暴徒と化す中国人は少数に過ぎない。その他大多数の中国人は、これまでと変わらない日常生活を送っている。しかし、毎日の消費行動の中で日系企業の商品を選ぶ確率は確実に減っていくだろう。こうしたサイレントマジョリティーの選択こそが実はボディーブローのように効いてくる。
折しも日本側は、与党民主党も野党自由民主党も次のトップを決めるため選挙戦を繰り広げている。誰がトップになろうとも、毅然とした態度とともに現実的な解決先を示してほしい。
坂田 亮太郎(さかた・りょうたろう)
日経BP社北京支局長。入社してから6年間はバイオテクノロジーの専門誌「日経バイオテク」で記者として修行、2004年に「日経ビジネス」に異動、以来、主に製造業を中心に取材活動を続けた。2009年から北京支局に赴任し現在に至る。趣味は上手とは言い難いがバドミントン。あと酒税の安い中国はビール好きには天国です。
坂田亮太郎のチャイナ★スナップ
2009年に北京に赴任したばかりの中国“新米”記者が中国を駆けずり回り、見て、聞いて、感じたことをスナップ写真と共にコラムとして掲載していきます。1本の記事は「点」に過ぎないかもしれませんが、回数を重ねていくことで中国の今の「実像」を日本の読者に伝えられたら幸いです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120917/236888/?ST=print
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