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[東京 14日 ロイター] 尖閣、竹島、北方四島など離島にかかわる領土問題の顕在化によって、多くの日本人は、世界が善意のみを統治原理とするユートピアなどではなく、弱肉強食の競争社会なのだと改めて思い知らされたことだろう。それはあからさまな国益の主張がものを言う世界であるが、その傾向は経済においても顕著だ。
新貿易論構築の業績などで知られるノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏は、日本が圧倒的な産業競争力を誇っていた1980年代、古典的自由貿易や比較優位論が時代遅れであり、国家が通商産業政策に介入することの必要性を説いた。振り返れば、この頃から米国の通商圧力は増し、日本の産業競争力は大きく削がれていくこととなった。今日の国内半導体やエレクトロニクス産業の顕著な地盤沈下は、そうした圧力に深く影響されている。また、中国、韓国、台湾は凋落した日本を反面教師にして、重商主義的政策をいっそう強め、自国企業・産業をあからさまに支援している。
国益の主張は、為替の分野でも顕著となっている。一般的には変動相場制の成立以降、為替レートは市場の合理性によって決まると考えられている。為替は市場とファンダメンタルズによって決まり、政策は無力との意見である。
確かに一定のファンダメンタルズから乖離(かいり)した為替レートは持続しがたく、為替レートは短期でみればインフレ格差や金利格差によって決定されるとの見方にも一理ある。しかし、為替水準が国家の利害によって歪められていることも事実である。
たとえば、中国、ドイツ、韓国といった世界の三大貿易黒字増加国を見てほしい。中国人民元は公式には2005年7月よりドルペッグ制から通貨バスケット方式の管理変動相場制に移行したことになっているが、実態は依然としてドルペッグに近く、しかも中国当局は為替市場への介入を通じて人民元レートを人為的に操作し、輸出産業を保護している。
一方で、ドイツも、確信犯かどうかは別として、欧州周辺国を通貨同盟に招き入れることによってユーロ安を実現し、中国に匹敵する貿易黒字を計上している。また、韓国も表向きは変動相場制を採用しているが、ウォンの変動を小さくするために当局がたびたび市場に介入している。
米国も、2008年のリーマンショック以降は大幅な金融緩和によりドル安を実現し景気を支えている(9月13日には、米連邦準備理事会が量的緩和第3弾の実施を発表した)。ユーロ危機のさなか日本と同じく通貨投機にさらされてきたのはスイスだが、こちらも中央銀行の積極的な為替介入によって、スイスフランの騰勢は止まった。
そうした中で、純粋に市場原理に為替を委ねている主要国は、もはや日本だけと言っても過言ではない。このように通貨主権が失われた状況では、円高がさらに進む可能性がある。
<圧倒的不利な日本の産業>
とはいえ、昨年のような大規模な為替介入を繰り返せば、為替操作国の仲間入りであり、国際的な非難をいたずらに浴びるだけだ。では、どうすればよいのか。筆者は、徹底的な日銀の金融緩和、バランスシートの膨張によるベースマネーの増大しかないと考えている。
そもそも、日本は世界唯一のデフレ国だ。物価の下落は貨幣価値の上昇を意味するが、日本の場合、さらに中央銀行が為替水準に中立を装っているため、消去法的な通貨投機の対象となりやすい。
圧倒的な産業競争力を背景に、日本が世界の貿易黒字の大半を稼いでいた1980年代後半から2000年頃までならばいざしらず、これ以上円だけが突出して買われる状況は、2012年上半期に原発停止による燃料輸入の急増で2.9兆円という歴史的貿易赤字を計上したことを考えれば、異様と表現するほかない。
むろん、日本企業の活力が失われた理由は、世界水準では戦えない仲間主義の体質にもあるが、超円高とデフレが企業経営の足を引っ張っていることは明らかである。通貨高とデフレを許し続ければ、かつての大英帝国と同じ凋落の道を辿ることになるだろう。環太平洋連携協定(TPP)への参加などにより交易条件を向上させようと努力しても、為替動向次第ではその効果は簡単に吹き飛びかねない。
リフレ政策としての日銀の量的金融緩和は、需要不足に悩む世界各国にとっても歓迎すべき政策であるはずだ。上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れ規模をより大胆に拡充すればよい。
おそらくこう提案すると、倫理的な反論を受けるだろう。だが、金融政策はそもそも倫理を説くために存在するわけではないはずだ。こうしている間にも、円高デフレ下で、日本の産業・経済の疲弊は進み、日本人の困窮は深まる。一刻も早い日銀の覚醒と行動を期待したい。
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