http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/539.html
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写真は、日本国債の売り崩しを狙うヘイマン・キャピタルのカイル・バス
DOMOTO
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html
目次
■ ○ 外交・国防と日本国債の暴落(はじめに)
■ @ IMFスタッフ・レポート
■ A 邦銀は自己資本25%以上のダウン
■ 結:米大統領選挙後の米英ヘッジファンド
■ 外交・国防と日本国債の暴落
8月10日、韓国の李明博大統領は竹島へ上陸し、15日、香港の団体メンバー7名が尖閣諸島の魚釣島へ上陸した。日本ではいま、領土問題で動揺が起こっている。中国、韓国、そしてロシア。これらの国に対してどのような外交政策や国防政策で対処すればよいのかの議論が再び衆目を集めている。
この騒ぎの10日ほど前の8月1日、IMFはそのWebサイトで日本の金融システムと金融機関の安定性のリスクについての調査評価を公開した。そしてそのレポートに添えられた形で公開されたスタッフ・レポートでは、日本国債の利回りの急騰する時期についての警告がなされている。
「借金の累積が膨大なために低水準からの国債金利のわずかな上昇率でさえ、借金による影響が重大な悪化を招き、市場の信頼の土台を壊し、経済成長は低減し、デフレは悪化する」(同レポート)
日本国債の暴落を虎視眈々と狙っているのは何もヘッジファンドだけではない。
中国も、韓国も、ロシアも「その日」が近いと皆、待っている。国債暴落のあとの日本を餌食にしようと待っている。アメリカは「その日」が来るのをコントロールしようとさえしている。次期アメリカ大統領候補のロムニーは、日本は凋落した国家と放言している。
国防や外交の基礎を支える国家財政の崩落。
国の屋台骨が崩れ始めようとしているこのいま、国の安定期にしか機能しない外交・国防政策に留まるのではなく、非常事態おける政策を早急に考案すべきだ。そして、アメリカが世界の金融システムを約半世紀ぶりに変革しようとしているこの時期において、変革の必要性は国家の経済戦略においても全く同様である。
■ @ IMFスタッフレポート
8月1日、国際通貨基金(IMF)は金融セクター評価プログラム(FSAP)基づき行った、日本の金融システムと金融機関に関する最新のストレステストの評価の結果をそのWebサイトで公開した。
Japan: Financial Sector Stability Assessment Update (8月1日:PDF)
http://www.imf.org/external/pubs/cat/longres.aspx?sk=26137.0
IMFによるこのストレステストは今年1月6日付のウォール・ストリート・ジャーナル日本版で「日本国債が下落した場合に(日本国債を)大量保有している邦銀がどのような影響を受けるか試算するストレステスト(特別検査)」として伝えられ、IMF使節団が検査のため3月に来日すると報じられた。
「IMF、邦銀対象に特別検査実施へ―国債保有リスクを試算」(1月6日)
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/587.html
IMFの上記レポートでは、主な特別検査は2011年11月28日から12月16日と2012年3月12日から同月23日の2回にかけて行われたとされている。評価分析と作成作業を経て完成したレポートの前文は7月10日付。この特別検査につてのレポートは他にも数種類がある。ストレステスト実施の対象は以下の銀行と保険会社。
3メガバンク(みずほ、三菱東京UFJ、三井住友)、全主要銀行と地銀(合計111行)、大手生命保険会社4社、大手損害保険会社5社
(※ゆうちょ銀行、かんぽ生命、大手証券は対象外。「全主要銀行と地銀(合計111行)」については「トップダウン・ストレステストが日銀の金融システムレポート(FSR)に用いられる枠組みを利用して行われた」〔※注1〕。特別検査の日程や対象となる金融機関については、前出のWSJなどの記事とは一部違ったものになった。)
6月13日のWJはこのストレステストの結果について国際通貨基金(IMF)の使節団団長として来日したリプトン筆頭副専務理事の発言を伝えている。
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リプトン氏はまた、邦銀にとっての朗報も明らかにした。日本の国債に対する需要が低下し、利回りが上昇し始めた場合、国債を保有する銀行で大きな評価損が計上されるのではないかという懸念が生じているが、IMFが最近実施したストレステストでは、邦銀には予測しうるショックに耐えるだけの体力があることが示されたという。
「邦銀は堅調であり、米国と欧州の危機もうまく乗り越えてきただけでなく、(今後起こりうる)大きなショックにも十分耐えうるだろう」との見方をリプトン氏は示し、そのショックの一つとして超低水準にある金利の上昇を挙げた。
長期金利の代表的な指標である10年物国債の利回りは現在、わずか0.85%だ。邦銀は国債の最大保有者であり、発行済み国債の保有比率は41%に達している。
IMF,日本にデフレ対策の拡大を促す−WSJ日本版(6月13日)
http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_459722?mod=WSJWhatsNews519/amr12051907490000-n1.htm
IMF: Japan Must Do More About Deflation .
http://online.wsj.com/article/SB10001424052702303768104577461901108678324.html
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(※ 第2段落、「金利の上昇」は誤訳。正しくは「金利の一定の上昇」。邦銀が低水準にある金利への上昇ショックに対して、無制限に耐えることは不可能。原文は ”adding that potential shocks could include a rise in currently low domestic rates”)
このリプトンの発言では、日本国債に対して強い危機感を抱いてきた人達や経済評論家は首をかしげる人が多いはずだ。8月1日の、このIMFレポート公開直後のブルームバーグの記事では、日本国債の安全性がある程度このストレステストで確かめられたという主旨になっており、フィナンシャル・タイムズ紙も楽観的な見方をしていた。
ところがこれとは別に、同じ日に公開されたIMFのスタッフチームの討議をまとめたレポートでは、かなり内容の色彩が異なるものが囲み記事として掲載されていた。
Japan: Staff Report for the 2012 Article IV Consultation (8月1日:PDF)
http://www.imf.org/external/pubs/cat/longres.aspx?sk=26135.0
このレポート内での討議は日本の財務省の官僚も交えて行われたが、6月12日に討議は終了し(前出リプトン使節団)、その一部をまとめた「スタッフ・レポート」も7月10日を作成終了日としている。これは日本での消費増税法成立の1ヶ月前だ。この「スタッフ・レポート」に対し、最初に挙げたレポートはIMFのFSAP(金融セクター評価プログラム)のチームがまとめたものである。
重要であるのはこの「スタッフ・レポート」の見解が、IMF理事会の見解を必ずしも示したものではなく、このスタッフチームの見解であると断り書きがされ、発言の自由度を高めたものであるということだ。私はこのレポートの2つの囲み記事に注目した。2つの記事はレポートの途中に掲載されている囲み記事なのだが、目次のページでは比較的目につきやすい場所に掲載されている。
Box 2. Risks from a Sharp Increase in Government Bond Yields (10ページ)
(日本国債の利回り急騰の危険性)
Box 4. Potential Financial Spillovers from the European Debt Crisis (23ページ)
(欧州債務危機による、潜在的な日本の金融への波及効果)
両方ともIMFスタッフチームのラファエル・ラム氏による記事で、内容的に見た2つの記事の関係は、「Box」(=囲み記事)の2の後半で世界的恐慌における日本国債の利回り急騰の可能性に言及し、別のスタッフの記事を挟み、Box 4 で欧州発の世界的恐慌による日本の金融システムの危機を説明している。
Box 2 の記事ではまず―
「財政強化プランの導入や執行が失敗したり不履行になったりした場合は、日本国債の格下げがされ国内の金融機関への同様な格下げの引き金となる(これは消費税法案を含んでいた)。そしてその後、国債市場における信頼は腐食(徐々に破壊)されていくだろう。」
記事後半では国債利回りの急激な上昇のシナリオとして―
「邦銀による日本国債の保有は大幅に増加しており、リーマンショック以前と比べ(わずか3年で)2倍以上の保有額に増加している。国債利回りの急激な上昇が世界的な恐慌と同時に起こった場合、金融の安定性は難しい局面に置かれる。」
(※ 「世界的恐慌」と訳を当てているが、原文では、global financial crisis, a broader growth shock, global growth shock 。記事内容から判断。)
Box 4 の記事ではまず最初に「日本とアジアの経済をより広範に下落させる重要なリスクは、欧州債務危機のエスカレーションである」と述べた後、以下抜粋―
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日本の金融機関の海外エクスポージャーでの損害は、欧州債務危機が周縁欧州諸国への危機の広まりを食い止めている状態であるならば限定的である。邦銀は対外与信として資産の約12%を保有している。その内の約4分の1は欧州での与信である。その欧州での邦銀の与信の大部分は欧州の中核諸国の非金融部門(約60%)のものだ。日本の保険会社は資産の約15%〜20%を海外の有価証券に係わる投資に当てているが、周縁欧州諸国への直接的なエクスポージャーは毀損されておらずその総計額は2011年の終りの時点ではごくわずかである。
しかし、もし欧州の危機がアメリカとイギリスの銀行へ大きな影響を与えたり、もしくは中核欧州諸国の非金融部門の与信を襲ったりした場合は、日本の金融システムのリスクはより深刻なものになるであろう。FSAPによるネットワーク分析の最新版に基づけば、ボーダーレスな銀行業務の与信において、貸付けや資金調達に大規模な混乱・ショックが起きたり(債務不履行による100%の損失や50%の債務カット)、国家当局の効果的な政策対応がない場合、日本の銀行は自己資本(※注2)を大幅に損なう。日本とアメリカと欧州の間では、市場が欧州危機の高まる波及効果を受けた相互の間の政策を苦しめる。
(中略)
FSAPによるストレステストは、欧州危機の拡大が引き金となる世界的な景気後退のシナリオの影響も算定している。この特別検査では日本の銀行と保険会社は、深刻なグローバル・ショックと海外のエクスポージャーからの損失に耐えうる能力を、今後短期間で持つべきだとする提言をしている。銀行業務部門の支払能力の検査では、大きなエクスポージャーや中小企業への多様な支援策の対応への影響のリスクの責任を負えなかった。さらに加えて言うなら、ストレステストはその性質上部分的な分析であり、よりシビアーなテイル・リスク・シナリオでは、このテストで示された以上に金融の安定性を大きく損なうことになるだろう。
(※注2:”the tier 1 capital” 詳しくは終りの注釈を参照)
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IMFスタッフチームのラファエル・ラム氏の2つの記事の重要点をまとめれば―
『日本国債の金利急騰のシナリオとしては、財政強化政策の導入や執行が失敗したり不履行になったりした場合は、日本国債の格下げがされ国内の金融機関への同様な格下げの引き金となり金利の急騰が始まる。
またFSAPのネットワーク分析では、欧州危機がアメリカとイギリスの銀行へ大きな影響を与えたり、欧州危機の拡大を引き金とした世界的な景気後退に陥った場合、国際業務での銀行の与信において、貸付けや資金調達に大規模な混乱・ショックが起き、日本の銀行は自己資本を大幅に損なう。またこのような事態に陥った場合、現在の邦銀は支払能力においてリスクの責任を負うことができない。』
「野田首相への問責決議、日本の格付けにネガティブ=ムーディーズ」(9月3日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE88201120120903
次に来る強度のグローバル・ショックでは中国を初めとした新興国の経済牽引は望めない。ラム氏が指摘するように、邦銀の国債保有がリーマンショック以前と比べわずか3年で2倍以上の保有額に増加したのだから、次に来る強度グローバル・ショックでも国債発行額は幾何級数的な増加を必要とするだろう。
つまり仮に日本が財政立て直しの道を政治的に着実に歩んだとしても、現在の日本の金融機関の財務状態では、強度のグローバル・ショックと同時に日本国債の利回りは急激な上昇を始める。
ラム氏は Box 2 の記事で仮定した、強度グローバル・ショックと同時に起こる日本国債の利回り急騰を、 Box 4 の記事で論証した形にしている。
そして国際業務での銀行の与信において、大規模な金融ショックが起きた場合、「日本の銀行は自己資本を大幅に損なう」という予測は、S&Pなど格付け機関による日本国債と多くの邦銀の格下げを決定的にするだろう。(しかも、もう一つのFASPのレポートの全体評価でIMFは、銀行に対しての自己資本規制であるバーゼルVの要件がさらに厳しく引き上げられる可能性について言及している。)
■ A 邦銀は自己資本25%以上のダウン
― 誤解を招くFSAPレポート ―
IMFが日本へ行ったストレステストは、甘い(低い)シナリオ設定で行われた。
一般にIMFの公式見解として取り上げられる日本の金融システムへのストレステストの評価は、FSAP(金融セクター評価プログラム)チームがまとめたものである。ムーデーズアナリテクスが8月14日に、このIMFレポートのサマリー版(26ページ)を出しているが、これもまた一部の記述を除きその基調は楽観的なものになっている。
「IMFによる日本の金融セクター評価プログラム改訂(日本の金融セクターへのストレステスト)【サマリー版】」
http://www.moodysanalytics.com/Regional/~/media/Insight/Regulatory/Stress-Testing/2012/2012-20-08-%20IMF.ashx
この中から、ストレステストでシナリオ設定として使用した3種類のストレスシナリオを引用してみよう。
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【3種類の悲観シナリオ】
@中国経済の大幅な減速を含む、世界経済の二番底への下落(マイルド・ケースは、実質成長率に1標準偏差のショック、シビア・ケースは2標準偏差のショック)
A中長期にわたっての長引く経済成長の低迷とさらなるデフレ圧力
B世界経済の二番底(マイルド・シナリオ)とイールドカーブの100bpパラレルシフト(日本の過去15年間の経験に沿った中程度の利回りショック)の組み合わせ
上記とは別に、大きな市場利回りショック(シングルファクター)のセンシティビティ分析が、銀行のトップダウン・テストの一環として行われた。保険のストレス・テストではいくつかの保険固有のショックのインパクトを検証した。(P13:原文ではP12)
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「悲観シナリオ」となっているが、原文では ”adverse scenarios”。
さて問題なのはまず最初に、@のシビア・ケースとBの組み合わせが排除されていること。つまり「中国経済の大幅な減速を含む、世界経済の二番底のシビア・ケースとイールドカーブの100bp(金利1%)パラレルシフトの組み合わせ」というシナリオを設定していない。
次にこの中のシナリオ設定で非常に甘い条件であるのは、Bのシナリオでイールドカーブのパラレルシフトを100bp(1%)と設定していることだ。2011年11月のIMFによる日本の財政・経済についてのレポートでは「突然の国債利回りの上昇」を警告していた。ところがその4ヵ月後の検査のシナリオでは「突然の利回りの上昇」といった現象を想定した様子はなく、増1%で収まるというシナリオでテストをしている。手元に日経ヴェリタスの1978年以降の長期金利の推移を示すグラフがあるが、バブル期1987年のタテホショック時8%超の長期金利は、その後下降し続け1997年以降ほぼ2%以下で推移している。
つまりBのシナリオの条件の「イールドカーブの100bpパラレルシフト(日本の過去15年間の経験に沿った中程度の利回りショック)」とは、国債が歴史的低金利であり安定運用できていた1997年〜2011年の間の15年間での中程度の利回りショック」ということで、それを増1%に設定したということだ。
この条件設定はデタラメで意味がない。
(※「2012年2月23日の衆院予算委員会で日銀の白川総裁は「金利が上昇したら日本の金融機関はどのくらいの損失を被るか」という質問に、ごく一部の損失額を答えただけで済ませている。長期金利が上昇すれば、当然、短期金利も反応する。財務省と日銀の資料からSMBC日興証券が試算した結果によると、すべての期間(3ヶ月物国債〜40年物国債)の金利が1%上昇すると生保だけで15兆円、全体では45兆円もの損失が出る。わずか1%の金利上昇で1年分の税収が吹き飛ぶ。」〔『2013年、株式投資に答えがある』 朝倉慶著の一部を要約 2012.6.9刊 〕)
3番目として問題なのは「スタッフ・レポート」でラム氏が、日本の金融にとって重要な下降リスクになると警告している「欧州債務危機」という言葉がこの3つのシナリオにはなく、「世界経済の二番底」という表現で曖昧化されていることだ(この重大な問題についてはこのあと述べたい)。
総括して、3種類のストレスシナリオは甘くて低い条件のシナリオ設定になっている。
また「上記とは別に、大きな市場利回りショック(シングルファクター)のセンシティビティ分析が、銀行のトップダウン・テストの一環として行われた」とあるが、FSAPチームのレポート原文にはそのストレステストの結果の記述はない。
あるブログでこの記事について、「もし万が一テストの結果が散々だったら、一体日本国債はどうなるのか?」というコメントがあった。前出の1月6日のウォールストリート・ジャーナルの記事では「日本政府とIMFは昨年終盤以降、特別検査に当たって前提となる経済条件などに関する話し合いを行っている」とある。このストレステストは、財務省とIMFが公開される事になる「結果」の程度をあらかじめ定めておき、それに合わせて「悲観シナリオ」を決めるという、順序が逆の仕方で作られたものと思われる。
ところでFSAPチームはこれら公開された「3種類のストレスシナリオ」とは別に、ほかにもさらにシビアな条件で幾つかのストレステストをしたようだ。それらはFSAPのレポートに、「ストレステスト」とは呼ばずに「ネットワーク・シュミレーション」「ネットワーク分析」という語とともに記されている。
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現在のところは平穏に見えているが、海外からの日本金融への波及効果の潜在的な震源はアメリカと中核欧州諸国の銀行システムである。貸付けと資金調達のショックを想定したすべてのネットワーク・シュミレーションでは、邦銀にとって最大の損失を生じさせるエクスポージャーはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国である事が示された。それらは全対外与信の約60%を占める。
以下の3つのケースを除けば、邦銀はこれら4カ国に影響を与える一定程度のショックに耐えることができるように思われる。
@アメリカ全体の経済もしくはイギリスの銀行部門が非常に悪化した場合。
Aドイツかフランスの銀行が、その両国での企業部門か国家部門とともに非常に悪化した場合。
Bグローバルな資金調達市場で広範囲に及ぶ金融ショックがあった場合。それは海外の多くの銀行倒産を招き、結果として邦銀にとり大きな信用損失につながる。
この4カ国以外に、邦銀に自己資本(※注2)の25%以上の損失を起こさせる国はない。日本にとり、アジアで最大のリスクを持つエクスポージャーは中国、オーストラリア、シンガポールである。
(第U章>”D. Financial Spillover Analysis” 「金融の波及効果の分析」)
※注2:”the tier 1 capital” 詳しくは終りの注釈を参照。
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これは第1節で紹介したラム氏による Box 4 の記事と非常に内容が共通している。
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しかし、もし欧州の危機がアメリカとイギリスの銀行へ大きな影響を与えたり、もしくは中核欧州諸国の非金融部門の与信を襲ったりした場合は、日本の金融システムのリスクはより深刻なものになるであろう。FSAPによるネットワーク分析の最新版に基づけば、ボーダーレスな銀行業務の与信において、貸付けや資金調達に大規模な混乱・ショックが起きたり(債務不履行による100%の損失や50%の債務カット)、国家当局の効果的な政策対応がない場合、日本の銀行は自己資本を大幅に損なう。日本とアメリカと欧州の間では、市場が欧州危機の高まる波及効果を受けた相互の間の政策を苦しめる。
(中略)
FSAPによるストレステストは、欧州危機の拡大が引き金となる世界的な景気後退のシナリオの影響も算定している。この特別検査では日本の銀行と保険会社は、深刻なグローバル・ショックと海外のエクスポージャーからの損失に耐えうる能力を、今後短期間で持つべきだとする提言をしている。銀行業務部門の支払能力の検査では、大きなエクスポージャーや中小企業への多様な支援策の対応への影響のリスクの責任を負えなかった。さらに加えて言うなら、ストレステストはその性質上部分的な分析であり、よりシビアーなテイル・リスク・シナリオでは、このテストで示された以上に金融の安定性を大きく損なうことになるだろう。
(Box 4. Potential Financial Spillovers from the European Debt Crisis )
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しかし、このシビアーなシュミレーション分析の結果は、公式用のFSAPレポートではわずかな紙面を割いた扱いになっており(グラフ入りではあるが)、次の「全体評価」へと続く。
ストレステストの全体評価の部分では、現実的には予測不可能な部分があるとしながらも、「日本の銀行と保険会社は、短期的には一定のストレスに耐える能力があると思われる」とし、そのあと地方銀行が日本の金融システムの中で最も脆弱な部分であることなどを述べ、終りは「概して安心が得られたが、ストレステストの結果はその中でされた警告や、分析の上での制限を含めて解釈される必要がある」という表現で終わっている。
FSAPチームによる(IMFの公式見解)ストレステストの結果の記述は、単純に通読した場合、誤解される印象を与える。6月12日にこれを踏まえたIMFのリプトン筆頭副専務理事が、「邦銀は(今後起こりうる金利の)大きなショックにも十分耐えうるだろう」と記者会見でコメントしたその背景は、ここまで述べてきたような説明になる。
IMFのこのような記述の仕方も表現上の操作であり、IMFが実際に最も懸念し最重要視したシナリオは、ラファエル・ラム氏が「スタッフ・レポート」で述べているような幾つかのシビア・シナリオのはずだ。ラム氏の「よりシビアーなテイル・リスク・シナリオ」とは、具体的には日本でも騒がれた今年6月17日のギリシャ再選挙の結果による、欧州危機を引き金とした世界経済の混乱などを指していると思われる。日本人がもつ欧州危機への危機感よりも、IMFやアメリカが抱く欧州危機への危機感は、はるかに強い。「テイル・リスク・シナリオ」(※確率は低いが、発生すると非常に巨大な損失をもたらすシナリオ)とラム氏は言うが、IMFや欧州、米国が2010年から最重要課題として取りくんでいるのは、まさにそのシナリオを回避するためのものだ。
■ 結:米大統領選挙後の米英ヘッジファンド
日本国債の利回り急騰は欧州債務危機だけが引き金となるのではなく、「スタッフ・レポート」でもこのほかにジャパンリスクとして中国のハードランディング、国内でのエネルギーコストの増加と電力不足、経済成長の長期低迷とデフレ圧力を挙げている(Appendix I. Japan: Risk Assessment Matrix 34ページ)。8月21日のロイターは、日銀の西村副総裁が「中国は『危険領域』に入りつつある」と警鐘を鳴らしたことを伝えた。
(※ 上記のマトリックスでは(7月10日時点)今後3年以内に起きる中国のハードランディングの可能性は「低」とされている。このマトリックスはリスクの可能性がそれぞれ単体で評価されており、今後3年以内に起きる可能性が「高または中」である欧州債務危機の金融混乱が起きた場合、中国のハードランディングが3年以内に起きる可能性は「高または中」と判断できる。)
「中国経済にハードランディングの兆し?」(8月20日 フィナンシャル・タイムズ)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35927
さらにイスラエルによるイランの核施設攻撃という、中東での戦争が国債金利へ与えるリスクもある。
「ペルシャ湾での海上テロ戦争で、世界中の金利と日本国債の金利が急騰する」 (2012年1月19日 拙稿)
http://www.asyura2.com/11/hasan74/msg/684.html
そしてこのIMFの7月の日本レポートの作成終了後に、アメリカで懸念が高まり始めた2012年12月〜13年1月にかけての「財政の崖」・米株価暴落という、新たな大きいリスクも浮上して来ている。
「『財政の崖』回避失敗なら想定以上の深刻な影響=CBO」(8月23日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE87L00U20120823
「米議会予算局(CBO)は22日、減税失効(※「ブッシュ減税」-9年間の時限立法)や歳出の自動削減開始が重なる来年1月の「財政の崖」について、当局が解決策を講じられない場合、経済への影響は当初の想定以上に深刻なものになるとの認識を示した。エルメンドルフ局長は、議会が「財政の崖」回避に向けた策を講じられない場合、米国は「著しいリセッション(景気後退)」に陥り、約200万人の雇用が失われると述べた。米大統領選までに議会とホワイトハウスが歳出削減や減税措置の延長をめぐる意見の相違を解決できる公算は小さい(上記ロイター要約)。」
7月の時点でワシントンでの日高義樹氏によれば、11月6日の大統領選挙から新しい大統領が就任する1月20日までの間に、「在任中のオバマ大統領と民主党議員達が、無責任な赤字財政政策や減税失効による増税を行うことは、確実だと見られている」(※注3)。
8月31日、FRBのバーナンキ議長は追加緩和策に前向きな姿勢を強調したが、それに先立ちジム・ロジャーズは「フィスカル・タイムズ」や「マネー・モーニング」のインタビューで次のように述べている。
「アメリカ経済は大統領選後、クラッシュするかもしれない。米国の累積債務は大きな破局へ向かっている。歴史学や経済学を研究した者は、長期的に続ける紙幣の印刷はやがて機能しなくなる事を知っている。」
Jim Rogers on the Coming Fiscal ‘Catastrophe’(8月16日 The Fiscal Times)
http://www.thefiscaltimes.com/Articles/2012/08/16/Jim-Rogers-on-the-Coming-Fiscal-Catastrophe.aspx#page1
そして本稿で日本国債暴落の引き金として取り上げている欧州債務問題は、9月から情勢はさらに厳しくなり、英エコノミスト誌8月4日号では次のように述べている。
「この秋は恐らく荒れ模様になる。そして、2012年の最後の数カ月は、歴史に記録されるだろう―ユーロ圏が一致団結した時として、あるいは瓦解した時として。」
「ユーロの運命を決する秋」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35827
「英金融監督当局、国内銀行にユーロ崩壊へのリスクに備えるよう指示」 (9月6日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE88601J20120907
米大統領選挙の後、アメリカの銀行と財政・経済に危機が生じ、この秋以降、ドイツやフランス、イギリスの銀行とそれら3カ国の財政・経済にまで欧州債務問題が深刻化すれば、FSAPやラファエル・ラム氏のシビア・シナリオが当てはまる。そしてその時、日本国債の金利は急騰を始める(米英独仏の4カ国が邦銀の自己資本を25%以上下げる)。
「ドイツ経済:欧州の弱ったエンジン」 (英エコノミスト誌 8月18日号)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35918
そして、アメリカが世界の金融システムを約半世紀ぶりに変革しようとし始めたこの時期に、IMFとアメリカがヘッジファンドに、日本の金融特別検査でのより重要で詳細な「情報」を渡さないという保証はどこにもない。というより、いずれこれらの「情報」はヘッジファンドへ流れるだろう。
「ユーロ危機を演出するヘッジファンドの正体」 (5月30日 日経)
http://blogs.yahoo.co.jp/material735/9661271.html
「米共和党、金本位制導入へ動く」 (8月29日 日経)
http://www.nikkei.com/money/gold/toshimagold.aspx?g=DGXNMSFK2900E_29082012000000
米英ヘッジファンドとアメリカ政府・政界や大手金融機関との関係は、上記リンク記事のほかにも稿をまた改めて話を取り上げてみたい。また米国の金本位制導入の動きについては、昨年夏から私が阿修羅サイトで数回投稿したものを集め、本稿終りにそのリンクを掲げた。
WSJの記事にもあるがリプトンは元アメリカ財務省の高官だ。ワシントンにあるIMF本部とアメリカ政府は密接な関係にあり情報を共有している。報道でのIMF筆頭副専務理事のリプトンは、「邦銀は堅調であり、米国と欧州の危機もうまく乗り越えてきただけでなく、(今後起こりうる)大きなショックにも十分耐えうるだろう」と言ったとされた。
しかし実際は、IMFもアメリカもこの特別検査で日本の崩落が間近であることを再確認し、日本国債が暴落することによって生じる、世界経済と米国債への甚大な影響に対する経済戦略プランを強化しているはずだ。
ある日突然日本国債が暴落する、または急落し始める。「大変なことになった」などと驚き、後手後手の対応策に追われるホワイトハウスやアメリカ国防総省ではない。暴落の恐れがあるのなら、その時期を把握するために情報収集し、その事態をコントロールしようと考えるのが、米中ロなどの行動形式である。ラファエル・ラム氏の「テイル・リスク・シナリオ」という言葉は公開向けの情報操作で、世界債務問題の権威であるケネス・ロゴフ教授などの目から見れば「メイン・シナリオ」そのものだ。
ラム氏が想定した「欧州債務危機の拡大が引き金となった世界的な景気後退シナリオ」を示すニュースが、次々と日々伝えられている。更なる景気減速は中国、インドなどのアジアにも、ドイツ、フランスにも波及した。
「世界の製造業が軒並み縮小、ユーロ圏債務危機の影響広がる」(9月3日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPTYE88300020120904
スタッフ・レポートでは「金利のわずかな上昇率でさえ、借金による影響が重大な悪化を招く」としているが、前出の朝倉慶氏の著書では、1000兆円の国家債務では国債の金利は「2%までが限界」だと警告している(※注4)。
■ 注 釈
注1:以下より引用
「IMFによる日本の金融セクター評価プログラム改訂(日本の金融セクターへのストレステスト)
【サマリー版】」(ムーデーズアナリテクス 2012.8.14)
http://www.moodysanalytics.com/Regional/~/media/Insight/Regulatory/Stress-Testing/2012/2012-20-08-%20IMF.ashx
注2:原文では ”the tier 1 capital”。普通株式や帳簿上の準備金といった、基本となる自己資本項目を指す。
これに対しtier 2 はBIS自己資本比率の自己資本に加えられる補完項目を指し、有価証券含み益、貸倒引当金、
永久劣後債、期限付劣後債などが認められている。
注3:『ロムニー大統領で日米新時代へ』 (日高義樹著 2012.8.31刊)
注4:『2013年、株式投資に答えがある』(朝倉慶著 2012.6.9刊)
■ 関連リンク
焦点:中国経済、2009年のような復活劇はありうるか (9月4日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYE88402Q20120905?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
修正金本位制(拙稿集)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/folder/1205504.html
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